肉体のすきま風 ★★☆
(Summer and Smoke)

1961 US
監督:ピーター・グレンビル
出演:ジェラルディン・ペイジ、ローレンス・ハーベイ、ウナ・マーケル、リタ・モレノ

左:ジェラルディン・ペイジ、右:ローレンス・ハーベイ

なんと素晴らしい日本語のタイトルでしょう!心身相関問題に関わるテーマが敷衍されるこの作品のポイントが、見事に要約されています。カタカナ書きの日本語タイトルしかつけようとしない(それともそれしかできない?)最近の日本の映画配給会社のスタッフはこのタイトルを見習うべきでしょう。英語のままならばまだしも、それを単なるカタカナ書きに変えてしまうと、それを見ただけで一山なんぼの作品ではないかと疑いたくなるのは小生だけでしょうか?カタカナ邦題全盛の今日にあってはとんと見かけなくなった素晴らしい邦題を持つ「肉体のすきま風」は、テネシー・ウイリアムズの戯曲に基いた作品です。テネシー・ウイリアムズと聞いただけで重たいシリアスドラマではないかと想像する向きもあるかもしれませんが、同じテネシー・ウイリアムズの映画化でも、たとえば「熱いトタン屋根の猫」(1958)や「去年の夏突然に」(1959)のように会話のパワーで押しまくる会話主体のドラマとは若干異なり、「肉体のすきま風」は、どちらかというとジェラルディン・ペイジの持つ体全体を通じた表現力に依存する作品なのです。というのも、「肉体のすきま風」は、体で感じていることと、頭で考えていることのギャップがどうしても埋められないオールドミスが主人公であり、主人公の口をついて出る会話内容そのものの重要性よりも、むしろ会話内容を裏切る体全体の所作/表現が更に重要だからです。そのような困難な要求を完璧に全うする演技力を持つ役者さんはそう多くはいないはずですが、ジェラルディン・ペイジは間違いなくその数少ない役者さんの中の一人です。殊に、彼女の目の表現は時折信じがたい程のリアルさがあります。また、どうしても自分が思っていることをストレートに表現できない主人公が内心好意を抱く相手が、ローレンス・ハーベイ演ずる医師であり、彼のパフォーマンスがやはり素晴らしい。「肉体のすきま風」では若干異なるところがあるとはいえ、ローレンス・ハーベイという俳優さんは、恐ろしくコールドでどこか引き篭もったところがあるように見えます。しかながら、彼は、そのようなコールドで引き篭もった印象を逆利用して微細な感情の動きを100倍に拡大する逆転超ウルトラCを繰り出すことができる稀有な役者さんでした。従って、ジェラルディン・ペイジ同様彼も、微妙な感情の動きをあからさまには見せないようにしながら無意識的な言動や所作の中に託してそれを表現する超ウルトラCパフォーマンスが要求される「肉体のすきま風」のような作品にはパーフェクトにマッチします。尚、ローレンス・ハーベイの持つ彼独特の特徴については、「影なき狙撃者」(1962)のレビューもご参考下さい。ということで、「肉体のすきま風」は、冒頭述べたように、いわば心身相関問題がテーマとして扱われている作品であり、その意味において必ずしも万人向けではないとはいえ、ジェラルディン・ペイジがどのような女優さんであったかを知るためには最も適切な作品です。


2001/04/30 by 雷小僧
(2008/10/16 revised by Hiroshi Iruma)
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