熱いトタン屋根の猫 ★☆☆
(Cat on a Hot Tin Roof)

1958 US
監督:リチャード・ブルックス
出演:ポール・ニューマン、エリザベス・テイラー、バール・アイブス、マデリン・シャーウッド

左:ポール・ニューマン、右:バール・アイブス

正直言えば、★1個という評価が示すように、好みという点では私めはこのポピュラーな作品があまり好きではないのですね。そもそも、同じブルックス仲間のメル・ブルックス同様リチャード・ブルックスの作品そのものがあまり馴染まないところがあって、どうも彼のスタイルは苦手です。何が苦手かというと全体的に特異体質的(idiosyncratic)な雰囲気があるところがです。これは必ずしも特異体質的な作品は全て自分の好みではないと言っているわけではありません。そうではなく、特異体質的な作品(これは何も映画に限った話ではありませんが)は、自分の気に入るか気に入らないかがはっきりしてしまうということです。「熱いトタン屋根の猫」の場合は、たとえばバール・アイブス演ずるキャラクターとブルックス御用達女優のマデリン・シャーウッド演ずるキャラクターは非常に特異な印象を与えます。ある意味で不自然なのですね。まあテネシー・ウイリアムズが原作なので当然と言えば当然かもしれませんが、やはり馴染まないところがあります。またエリザベス・テイラーの南部訛りもひっかります。彼女は勿論、南部が舞台の「ジャイアンツ」(1956)にも出演していましたが、こちらはあくまでもロック・ハドソン演ずる南部の大牧場主に東部から嫁いだという設定になっているわけであり、「ジャイアンツ」の1つの分割線はエリザベス・テイラーが代表する東部とロック・ハドソンが代表する南部にあったわけです。イギリス出身の彼女としてはやや印象が違いますね。それから、前半映画史上これ以上ないと思われる程態度の悪いガキンチョが走り廻るのにも閉口させられ、マデリン・シャーウッド演ずる母親の指揮に合わせてプカプカドンドンやらかすガキンチョの楽隊など特異体質の局地を突っ走っていてこのシーンを見る(聞く?)度に耳を塞ぎたくなったりします。ただこの辺は個人的な趣味の範疇であり、各人様々印象は当然異なるのでしょう。かくして好みに合わないところはありますが、しかいながらこの作品がパワフルな映画であることには違いありません。もともと聴覚派を自認する私めはこのタイプの会話劇自体は非常に好きなのですね。ちょっと、味付けが口に合わないというのは確かですが、それでも素材は一級品であることに疑問の余地はありません。この映画の主題は何かというと、タイトルが示唆するようにフラストレーションが溜まった人妻の性であるとか、ポール・ニューマン演ずる息子とバール・アイブス演ずる親父(画像右)の父子関係であるとかしばしば言われますが、しかし私めはこの映画のキーワードは、映画中でも不自然な程使用される「Mendacity」すなわち「虚偽」であると考えています。そもそも日常会話では使用頻度の少ない「Mendaicity」というような一種のビッグワードが何度も語られること自体がこの語がこの作品の「キーワード」であることを示していると言えるでしょう。つまりこの「Mendacity」がいかにして最後に克服されるかが1つの大きなテーマではないかと個人的には考えていて、そこに死という要素が紛れ込むのはやはり予想通りかというようなところかもしれません。1つのQuestionは、この映画は、バール・アイブス演ずるビッグダディが、癌に侵されてまもなく死ぬという設定がなくとも成立し得るのだろうかどうだろうかということです。すなわち結局最後に「Medacity」を打ち破るには死という実存的重みが不可欠であったのか否かという疑問がムクムク湧いてきて、その回答がYESであるとすると随分と悲観的な気分になってしまいます。もしかするとそのような点も、好くなくとも個人的にはこの作品が傑作であるようには思えない一因となっているのかもしれません。


2006/07/17 by Hiroshi Iruma
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