六番目の幸福 ★★☆
(The Inn of the Sixth Happiness)

1958 US
監督:マーク・ロブソン
出演:イングリッド・バーグマン、クルト・ユルゲンス、ロバート・ドナト、ロナルド・スクワイア

左:クルト・ユルゲンス、右:イングリッド・バーグマン

確かに、忍耐力が試される2時間半を越えるドラマ映画を見る機会はあまり多くはありませんが、「六番目の幸福」は、見終わった時の満足度がかなり高い作品であるように思われます。主人公のイギリス女性(イングリッド・バーグマン)がミッショナリーとして中国に渡りそこで活躍する様を描いた作品で、ハイライトは日本軍の侵攻から逃れる為に彼女が100人以上の子供達を率いて山越えをするシーンにあります。特筆すべき点は、西洋人が東洋へ、或いは東洋人が西洋へ赴いて何かを実行するタイプのストーリー展開には、必ずやカルチャーギャップにまつわるシリアスなテーマが伴いますが、この作品にはその点に対する執着がほとんど見られないことです。確かに、最初こそ主人公は地元の人々に疎遠な扱いを受けるとはいえ、直ぐに地元の主のような存在になります。その意味では、深みがないと評することが可能かもしれませんが、この作品はそのような面に対する執着がない為、むしろすっきりしている印象があります。また、この手のドラマ映画には不可欠な要素である主要登場人物の人物描写も満足できるものであり、演じる俳優さん達も堅実なパフォーマンスを見せています。特に中国人の官吏を演ずるロバート・ドナトが素晴らしい。ドナトはイギリス出身であり、イギリス人が中国人を演じているのかと思われるかもしれませんが、いずれにしてもスウェーデン出身のイングリッド・バーグマンがイギリス人を、またドイツ出身のクルト・ユルゲンスがオランダ人と中国人のハーフを演じており、その意味でも国籍や洋の東西に対する執着が見られないとすら言えるかもしれません。実を云うとドナトは、この作品の撮影時、既に重病の状態にあって、酸素ボンベを携えての撮影だったそうであり、この作品の一般公開を待たずに亡くなっています。いわば彼の白鳥の詩になりますが、Ephraim Katzの「The Film Encyclopedia」(HarperPerennial)にもあるように、彼がキリスト教に改宗した直後に主人公に向かって言う最後のセリフ「We shall not see each other again, I think. Farewell.(もう会うこともないであろう。さようなら。)」は極めて予兆的であったと言えるでしょう。ドナトの実人生と重ね合わせながら見ると、感動ボルテージが100倍になること請け合いです。また、この手のドラマ映画では、バックグラウンドに流れる音楽が大きくものを云いますが、その点に関しては「戦場にかける橋」(1957)の音楽を担当したマルコム・アーノルドの音楽が実に効果的です。70年代から本格的に映画を見始めた小生にはマーク・ロブソンというと、どうにもイコール「大地震」(1974)という印象が拭い切れませんが、50年代にはこの作品や「トコリの橋」(1955)及び「青春物語」(1957)のような見ごたえのあるドラマを撮っていました。


2001/06/17 by 雷小僧
(2008/10/12 revised by Hiroshi Iruma)
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