トコリの橋 ★☆☆
(The Bridges at Toko-ri)

1955 US
監督:マーク・ロブソン
出演:ウイリアム・ホールデン、グレース・ケリー、フレデリック・マーチ、ミッキー・ルーニー

左:グレース・ケリー、右:ウイリアム・ホールデン

戦争の無益さを訴える映画はあまた存在し、その方法としてひたすら悲惨な戦闘シーンを描くようなアプローチを採る作品がある一方で、「トコリの橋」のように日常生活と戦闘シーンを交互に描くアプローチを採る作品もあります。このようなアプローチを採用した最も典型的な作品がベトナム戦争を扱った「ディア・ハンター」(1978)であり、この作品では、前半はロバート・デ・ニーロ演ずる主人公達が鹿狩りに出掛ける平和でのどかなシーンが続くのと対照的に、後半はロシアンルーレットシーンをクライマックスとするおぞましい戦闘シーンが繰り広げられます。「トコリの橋」も、前半は主人公夫妻(ウイリアム・ホールデン、グレース・ケリー)が日本の保養地で休暇を楽しむシーンが描かれるのに対して、後半は朝鮮半島にあるトコリの5つの橋を破壊する激烈な戦闘シーンが繰り広げられます。実は、この作品を見ていると、1955年製作にしては随分新しく見える部分と、やはり古い映画であるように見える部分の両面があります。新しく見える部分は、無益な或は無意味な様相がテーマとして映画の中で扱われるケースは1950年代当時はまだそう多くなかったように思われる点にあります。「トコリの橋」では、戦闘機パイロットの主人公(ウイリアム・ホールデン)は、地上に不時着した後、コミュニストの部隊に包囲され、彼を救助する為にヘリで飛来した友軍(ミッキー・ルーニー、アール・ホリマン)ともども最後に戦死しますが、難航不落のトコリの5つの橋を破壊する過程で華々しく英雄的に戦死したというのではなく、トコリの橋を破壊する当初のミッションを達成した後、第2ターゲットを攻撃している際に被弾して地上に不時着し、地上戦にもつれ込んで最後は泥だらけの溝の中で戦死するのです。勿論、現実世界ではそのようなシチュエーションは少なからずあったかもしれないとはいえ、実際にそれが映画などでまさにその通りに描写されるか否かはまた別の問題なのです。何故ならば、難攻不落の要塞を攻撃している際に主人公が華々しく戦死するのであれば、それは英雄物語になりますが、困難な任務を達成した後で、それとは全く関係のないところで主人公が戦死したとなれば、彼は一体何の為に戦死したのかという疑問がムクムクと湧いてくるはずだからです。国に帰れば家族が待っているはずなのに、どうしてわざわざ主人公をそんなところで死なせなければならなかったのかという疑問が生じるのは避けられないところです。現実世界は常に不条理であったとしても、物語としては不条理であって欲しくはないというのが、一般的な物語読者の反応ではないかと考えられますが、そのような定型的な観念を破っている点に現代的な趣きが存するように思われるのです。それでは、何が古く見えるかと云うと、「無益な戦争」というテーマを敷衍する後半とは対照的な、前半部分にそのような印象があります。明らかに、前半では主人公一家の家庭生活がポジティブで有意味なものとして、無益な戦争と対置して描かれているわけですが、現代の映画では最早この作品のように家庭生活を絶対的に有意味なものとしては描かれないのが普通であり、70年代から既にそのような傾向がありました。確かに前述の「ディア・ハンター」などでは、家族生活=有意味という単純な図式がまだ積極的に否定されたわけではないとしても、家族よりも友達との交友関係が前半の焦点であったことを考慮してみれば、家族を絶対的に有意味であるとする伝統的な考え方が既に崩れかけていたとも見なせます。80年代に入って「普通の人々」(1980)が現れ、最近では「アメリカン・ビューティ」(1999)や「トラフィック」(2000)あたりに至るまで、最早1950年代に製作された「トコリの橋」のような肯定的な仕方で家族生活を取り上げる作品はほとんど見当たらないと云っても過言ではありません。「トコリの橋」中のあるシーンで、主人公一家が混浴風呂に入っているところへ日本人の家族が入ってきて「happy family」などと言い合っているシーンがありますが、現在のオーディエンスの感覚からすれば、このようなシーンを見ていると背中がムズ痒くなるのが普通でしょう。というわけで、新旧両傾向を併せ持つ戦争映画ということで悪くはない作品です。但し、内容故に何度も見たくなるたぐいの映画ではないようにも思われます。


2002/02/17 by 雷小僧
(2008/10/08 revised by Hiroshi Iruma)
ホーム:http://www.asahi-net.or.jp/~hj7h-tkhs/jap_actress.htm
メール::hj7h-tkhs@asahi-net.or.jp