不思議な世界の物語 ★★☆
(The Wonderful World of the Brothers Grimm)

1962 US
監督:ヘンリー・レビン、ジョージ・パル
出演:ローレンス・ハーベイ、カール・ベーム、クレア・ブルームイベット・ミミュー

左:イベット・ミミュー、右:ラス・タンブリン

グリム兄弟の生涯に材を取ったマクロストーリーの中に、彼らが収拾したグリム童話の中から取り上げられたいくつかの個別エピソードが埋め込まれたいわゆる枠構造を持つ作品で、マクロストーリー部分をヘンリー・レビンが、各エピソード部分をジョージ・パルが監督しています。個人的に、このような個別エピソードとそれを纏め上げるマクロストーリーから構成される作品に目が無く、そもそも「不思議な世界の物語」のようなファンタジー映画は、ホラー映画とともに枠構造が極めて有効に機能するジャンルなのです。そのようなストーリー構成は勿論のこと、グリム童話から採取された各エピソードでは実にファンタスティックな映像が見られ、さすがはジョージ・パルと賞賛したくなります。近頃、同じくグリム兄弟を主人公としたテリー・ギリアムの「ブラザーズ・グリム」(2005)という作品が公開されていましたが、アクションに気を取られすぎたそちらには、コンピュータグラフィックが恐らく駆使されていると思われる鬼面人を驚かす特殊効果にも関わらず、ほとんどファンタジーらしさが感じられなかったのに比べると、「不思議な世界の物語」では、ファンタジーの要所が見事に押さえられていることが実感できます。個人的なお気に入りは3話目の欲の皮のつっぱった主人(テリー・トーマス)と純朴な家来(バディ・ハケット)が、体中に宝石が散りばめられたドラゴンを退治するエピソードで、特殊効果による撮影もさることながら、意気地がないくせに主人面をしてから威張りするテリー・トーマスキャラクターが、いかにもこの人らしく傑作です。グリム兄弟自身に関するマクロストーリーでは、ローレンス・ハーベイとカール・(ハインツ)・ベームがグリム兄弟を演じています。珍しくも、ローレンス・ハーベイは、いつもの陰鬱でコールドなキャラクターではなく、自分の兄弟をいつも心配する陽気で且つヒューマンなキャラクターをここでは演じているのが新鮮です。カール・ベームはドイツの俳優さんであり(何せOの上にウムラウトがある)、名前から連想される通り20世紀の大指揮者カール・ベームの息子さんです。また、脇役陣に曲者が揃っていて、前出のテリー・トーマス、バディ・ハケットの他にもウォルター・スレザク、オスカー・ホモルカ、ラス・タンブリン、ジム・バッカス、更に奇麗どころとしてクレア・ブルーム、バーバラ・イーデン、イベット・ミミューが次々に登場します。一応、子供向けということかもしれませんが、子供だけに見せておくのは勿体ない作品です。尚、グリム童話が持っていたドイツナショナリズム的なバイアスについては、「四つの願い」(1959)のレビューを、また枠構造ストーリー構成の持つ効果については「残酷の沼」(1967)のレビューをご参照下さい。


2001/05/26 by 雷小僧
(2008/10/21 revised by Hiroshi Iruma)
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