ただいま熱愛中 ★☆☆
(Do Not Disturb)

1965 US
監督:ラルフ・レヴィ
出演:ドリス・デイ、ロッド・テイラー、セルジオ・ファントーニ、ハーミオン・バドレイ

左:ドリス・デイ、右:ロッド・テイラー

残暑の中、先々週は「小さな巨人」(1970)、先週は「ブレードランナー」(1972)と、かなりヘビーで長いレビューを続けて書いてしまいカラータイマーが点滅してガス欠状態なので、今週はサラッと手短に済ませたいと思います。ということで取り上げたのは、1960年代に製作されたドリス・デイものの他愛ないロマコメ「ただいま熱愛中」です。この作品は、良くも悪しくも1960年代ロマコメの特徴が表に現れている作品であり、従って60年代ロマコメを見るような視線を投げかけて見ればなかなか楽しめるけれども、そうでないと相当下らない作品であるように見え兼ねないところがあります。ます第一に、軽いコメディにしては、全体的に1つのシーンにかける時間が総じて長すぎる印象があり、たとえば冒頭近くのドリス・デイの運転する車が、なかなか駅につけずに結局我が家へ舞い戻ってくるシーンや、彼女お得意の酔っ払いシーンなど必要以上に長びくような気がします。現在のオーディエンスであればイライラしてくるかもしれません。まあ、1960年代のそれも前半から中盤にかけてのロマコメは、概してプロット的には至って単純である為かこのような全く先を急がないペース配分の作品が多いことも確かであり、その意味においてもこの作品は典型的な60年代ロマコメに分類できます。ところが、60年代のコメディでは、ラスト近くで急にラストスパートエンジンがかかってここを先途とスラップスティック気味の展開になり、ほとんどストーリーが崩壊気味になってジ・エンドを迎えんとしているのに、結局何故か全てが丸く収まっているというような、オーディエンスからすれば摩訶不思議な光景が繰り広げられることがしばしばあります。この作品もその例外ではなく、ラストはこれまた1960年代のコメディにしばしば見られるホテルの中でのハチャメチャな追いかけっこになり、それまで誤解の上に誤解を重ねて状況はどうしようもなくもつれているはずなのに、ロッド・テイラー演ずる旦那と、ドリス・デイ演ずる奥さんが、最後はベッドで笑いながら抱き合って目出度し目出度しで終わります。ほとんど強引にと言ってもよいでしょう。あまりこの手の作品の各登場人物に厳密な動機を求めても仕方がないことは確かですが、ラストに限らず、各登場人物の心変わりがあまりにも唐突すぎるところがあり、いくらロマコメでも全体的に展開があまりにもカジュアル過ぎるという印象を持たれても文句は言えないでしょう。このようなストーリー展開上のあからさまな問題点があるとはいえ、1960年代のロマコメの良さは、そもそもこれらの作品は予算のかかる大作の間を縫って製作され、製作者からすればエコノミカルであることを第一とした比較的低予算な作品であるはずにも関わらず、エンターテインメント性が決して失われていないことです。たとえば、この作品を含め1960年代のコメディ系統の作品では、冒頭のタイトルバックによくアニメーションが流されていて、これが見ていて実に楽しいですね。またドリス・デイの歌う主題歌もチャーミングです。現在の映画では、このような観客サービスはほとんど見られず(スピルバーグの「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」(2002)の素敵に洗練されたタイトルバックアニメーションなどの例外はありますが)、多分そんなものは無駄であると考えられているのかもしれません。観客サービスと述べましたが、単にそれのみでなく、これから展開されるストーリーの色合いを決定付ける重要な機能をこれらのアニメーションが担っていたことは、かの「ピンクパンサー」シリーズを思い起こしてみればよく分かるのではないでしょうか。それから、上掲画像のドリス・デイの衣装を見ても分かる通り、ゴージャスな衣装やインテリアなどによって色彩感が強調されているのが1960年代のロマコメの大きな特色であり、それは、この作品のように、少なくとも当時は動きよりも構図が強調される傾向のあったワイドスクリーン画面の場合には、余計に引立って見えます。そのようなこともあり、特にこの作品などは、ストーリー展開を楽しむよりは、ゴージャスな画面を目で見て楽しむタイプの作品のようにすら見えます。いずれにせよ、「ただいま熱愛中」は1960年代的香りが漂ってくる作品ですが、その香りが芳ばしいかかび臭いかは見る人によって大きく異なることでしょう。ということで、今回は冒頭で宣言した通りこのくらいにしておきます。


2008/09/19 by Hirosh Iruma
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