バニー・レークは行方不明 ★☆☆
(Bunny Lake Is Missing)

1965 US
監督:オットー・プレミンジャー
出演:キャロル・リンレイ、ローレンス・オリビエ、ケア・デュリア、ノエル・カワード

左:ローレンス・オリビエ、右:キャロル・リンレイ

映画としては全く平凡なジョディー・フォスター主演の最近の映画「フライトプラン」(2005)を見ていて思い出したのが、この「バニー・レークは行方不明」です。そもそも、名匠プレミンジャーが監督したこの一作自体決定的に素晴らしい作品であるとは思っていませんが(ということで★1つです)、それ以上に「フライトプラン」をつまらなくしているのは、最初にサイコドラマ的な設定がなされ、オーディエンスはその展開に強く興味が惹かれるにも関わらず、あっさりと途中からギアがアクションに切り替えられ、その落差に途中でがっかりさせられることです。最近の映画のほとんどが同様な症候群に陥っており、それらの多くは、途中まではまずまず見られたとしても、決まって後半になるとアクションに重点が移動し、プロット展開は無きに等しい惨憺たる状態になります。さすがに「バニー・レークは行方不明」は60年代の作品であり、最初に設定されたサイコドラマ的な色彩が最後の最後まで失われることはありません。しかしながら、最近の映画とは全く逆に、こちらはそれがオーバーザトップに陥るきらいがあり、サイコドラマが必要以上に拡大誇張され、調子はずれともいえるほどキーが上がった状態で怒涛のごとくラストシーンに流れ込んでいるような印象を受けます。とはいえ、若い母親(キャロル・リンレイ)が、自分の幼い娘が失踪したと言い張るけれど、本当にそのような娘がいるのか、すなわちそれは彼女の単なる妄想ではないのかというミステリー的な設定が最初に与えられ、それが最後までオーディエンスの興味を持続させる点では「バニー・レークは行方不明」は「フライトプラン」に比べれば遥かに優れています。そもそも「フライトプラン」の場合は、ミステリーとしてすら機能しておらず、ジョディー・フォスター演ずる主人公がヒロイックなアクションにひた走り始める頃までには、幼い娘は本当に存在することが誰の目にも明らかになり、ミステリー的興味はもはやそれまでになって、後はアクションにひた走るしかなくなるわけです。ミステリー性という面では、「バニー・レークは行方不明」では、線の細いキャロル・リンレイが主演を務めているのは大きなプラスであり、ジョディー・フォスターのように男顔負けの意志力を感じさせないだけに、全ては彼女の妄想に由来するのではないかという疑いをオーディエンスは必ずや抱くはずです。そのような隠微なサイコドラマ+ミステリーに花を添えているのが、彼女の兄を演ずるケア・デュリア、エクセントリックな元校長を演ずるマーチタ・ハント、変態的なアパートの管理人を演ずるノエル・カワード達であり、彼らが演ずるキャラクターは誰が誘拐犯であったとしても全くおかしくはなく、オーディエンスのミステリー的な関心を高いレベルで維持することに寄与しています。そのような道具立てが巧妙に配置されている点では高く評価できますが、前述の通り後半は行き過ぎであるように思われます。詳しく述べるとミステリー的興味が削がれるのでこれ以上は述べませんが、主人公の行動が妄想に由来するか否かに焦点が置かれる作品として最も優れた作品の1つである「回転」(1961)などと比べてみると、終盤サイコドラマが無用と思われるほど強調され過ぎ、安易に見えざるを得ないのです。しかしながら、ヘンリー・ジェームズの原作「螺旋の回転」が元来そうであったように、「回転」の方は、ミステリーの解決よりも曖昧性そのものが主題である作品なので、このような単純な比較は「バニー・レークは行方不明」にとってはあまりにもアンフェアかもしれません。いずれにせよ、オットー・プレミンジャーがせせこましいサイコドラマやミステリーを手掛けることはあまりなく、その点だけでも見る価値はあるでしょう。面白いことに、同様にせせこましいサイコドラマやミステリーを手掛けることのあまりなかったウイリアム・ワイラーが隠微なサイコドラマ「コレクター」(1965)を同じ年に監督しており、この頃からかつての巨匠達の様子がややおかしくなってきたきらいがあるかもしれません。ワイラーはこの後も「おしゃれ泥棒」(1966)などの楽しい作品を監督していますが、これ以後のオットー・プレミンジャーの作品は、かつての巨匠の名に傷がつきそうなものばかりであり、「バニー・レークは行方不明」は彼の最後の「見られる」映画としても貴重です。


2006/04/15 by 雷小僧
(2008/10/29 revised by Hiroshi Iruma)
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