パーマーの危機脱出 ★★☆
(Funeral in Berlin)

1966 UK
監督:ガイ・ハミルトン
出演:マイケル・ケイン、オスカー・ホモルカ、エバ・レンツィ

左:エバ・レンツィ、右:マイケル・ケイン

製作ハリー・サルツマン、監督ガイ・ハミルトンといえば、007シリーズで知られていますが、そのコンビがそっくりそのまま「パーマーの危機脱出」にシフトしています。のみならず、007のゴージャスなセットで有名なプロダクションデザイナーであったケン・アダムズもスタッフとして加わっているようであり、007ファミリー総出で製作された作品であると見なせるかもしれません。ところが、「パーマーの危機脱出」は、エンターテインメント性を最大限に得ることが至上命題であった007シリーズとは全く異なり、東西ベルリンを舞台としたひなびたムード満点のいわば純イギリス的な色彩の濃い作品に仕上がっています。考えてみれば、007シリーズは、確かに英国産とはいえ内容は極めてアメリカ(ハリウッド)的であり、実をいえば現在のハリウッド映画におけるアクション作品の隆盛は、ルーツをたどると意外なことに007シリーズや「ナバロンの要塞」(1961)などのイギリス映画にたどれると個人的には考えています。しかし、007シリーズのようなエンターテインメント性に主眼が置かれた作品を一方で撮ってはいても、餅屋は餅屋ということか、同じスタッフによってシンプルでストーリー性を重視した作品が製作されているところが興味深いところです。それにしても、007シリーズを除く英国産のスパイ映画はひなびて沈鬱なものが多いですね。たとえば、マーティン・リットが監督しリチャード・バートン、クレア・ブルームが主演する「寒い国から帰ったスパイ」はその典型です。実は、監督のマーティン・リットはアメリカ人ですが、彼の作品には抑制された雰囲気が濃厚に漂うものが多く、むしろイギリス的な気質を持っていた人でした。従って、自らの気質にあったイギリス映画「寒い国から帰ったスパイ」で、そのような傾向が最も強く現れたと考えられます。他にも「さらばベルリンの灯」(1966)などが思い出されますが、「パーマーの危機脱出」にも同様な傾向が見て取れます。これらの作品の共通点は、作品全般に渡って哀愁が漂っていることで、躁病的な007シリーズに比べると鬱病的ともいえる雰囲気で充たされていることです。ハリー・パーマーシリーズは、現在でも精力的に、というより見境なく映画出演し続けるマイケル・ケインが主演しており、「国際諜報局」(1965)、「10億ドルの頭脳」(1967)と合わせて合計3作製作されています。油ギトギトで消化不良を起こしそうなジェームズ・ボンドシリーズに食傷した時には、シンプルな味付けのハリー・パーマーシリーズはお薦めです。但し、この作品に限っていえば、東ドイツの将軍(ホスカー・ホモルカ)の亡命に関するストーリーが、いつのまにかイスラエル諜報部員(エバ・レンツィ)と元ナチ関連のストーリーに変わり、必ずしもシンプルであるとは言えないかもしれません。


2005/05/14 by 雷小僧
(2008/11/03 revised by Hiroshi Iruma)
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