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 映画 日記              池田 博明 


これまでの映画日記で扱った作品データベース  映画日記 前月の分  


2011年11月1日以降、3月31日までに見た 外 国 映 画 (洋画)

見た日と場所 作  品              感    想 ・ 梗  概   (池田博明)
2012年3月31日 ミス・マープル  英国グラナダテレビ製作のミス・マープル第4第5シリーズの吹き替え版がNHKプレミアムで3月に放映。見逃したがNHKオンデマンドで見逃し番組を見ることができました。英語版を見たときのミスを修正しました。⇒ミス・マープルの映画
2012年3月13日



DVD
奇跡の人



USA
1962年
102分
 アーサー・ペン監督の第一作。NHKの「歴史秘話ヒストリア」でヘレン・ケラーを扱った番組が3月。戦前に日本の岩橋武夫の求めに応じて来日したヘレンは大の親日家となり、日本の障害児福祉の一歩を築いた。ヘレンの反戦思想は特高の監視にあったが、ヘレンは戦後も二度、来日している。他人の喜びを自分の喜びとするヘレンの生き方は多くの人々の感動をさそった。
 『奇跡の人』はもとはウイリアム・ギブソンの戯曲。舞台も二度見たことがある。1992年、大竹しのぶのサリヴァンと中嶋朋子のヘレンという贅沢な顔合わせだった(青少年センターにて)。足柄高等学校の演劇教室の下見で見た舞台も良かった。言葉の意味を求めて苦闘する二人の姿は心を撃つ。アン・バンクロフトとパティ・デュークはアカデミー主演女優賞と助演女優賞。1982年時の私の評価は下記。いまも変わらない。

 嬉々として水に触れ、大地に触れるヘレンを見て、サリバンは「意味がわかるのよ She knows」と言う。
 「知る Know」ということは単に知識として知っていることではなく、「意味がわかる」ことなのだ。そして、「意味がわかる」とは、自己の経験と言葉が一致することなのだ。
 そのとき、ひとは自分の心を発見したのである。心のなかの自分の言葉を見出したのである。そうやって言葉は自分のものになる。自分の言葉で話ができるようになる。
 訓練の途中でサリバンは「まだ、まねをしているだけです」と言う。まねをしているだけでは機械である。人間とはいえないのだ。ヘレンがいくぶん落ち着いたようにみえるので、両親は安心するが、サリバンは油断していない。どうしたらヘレンの人間性を目覚めさせることができるのだろうか。
 サリバンは断言する、「はじめから終わりまで、言葉です」と。「ものにはすべて名前がある Everything has name」こと、それを理解させるのだ。
 ヘレンが実体をつかんだ言葉・・・・「人形」「水」「刺繍」「指ぬき」「いい顔」「悪い顔」。映画はそこで終ってしまう。すべて人間性は、言葉で始まるのだから。
 美しく、力強い映画である。原作の戯曲も力強い。
 (1982年2月 ミニコミ「幻の天使」未刊)
2012年2月29日


DVD
箪笥


韓国
2003年
115分
 キム・ジウン脚本・監督作品。ホラー映画ではなく、精神分析ものでした。箪笥から妖怪が登場するわけではありません。90分くらいに短縮できそうですが、このまったり感が味わいかもしれません。
 冒頭、精神病院の医師が患者に話を聞こうとしている。患者は少女のようだが顔が分からない。回想場面になって、湖畔の一軒家に車で父親ムヒョン(キム・ガプス)と娘二人(姉スミ役はイム・スジョン、妹スヨン役はムン・グニョン)が到着する。後妻ウンジュ(ヨム・ジョンア)が出迎えるが娘二人は最初から喧嘩腰である。後妻と娘たちの確執は次第にエスカレートしていく。という物語のように見えるが、実際は父親が誰かの精神的な病気を心配して戸外の誰かに相談していたり、義理の弟夫妻が訪問して来ると、その妻が発作を起こして死んだはずの少女を目撃したりと不思議な現象がインサートされる。
 最後に種明かしがされて、妄想の質が明らかになるものの、少女の死に責任がある人物の心理で納得のいかないところがあります。

       映画川柳「高慢な 看護婦と見える 痛々しさ」 飛蜘
2012年2月27日


DVD
狼は天使の匂い


仏伊合作
1972年
135分
 不思議な映画である。公開当時も見たあとで不可解な感じがした。日本題名も雰囲気を表すだけで意味不明である。日本公開版より長いという完全版をDVDで見ても、不可解な感じは変わらなかった。昔は、ストーリー自体がよく理解できなかったに違いない。いったいどんな話なのかと、問われても、説明ができなかったからだ。ルイス・キャロルのアリスのチェシャ猫が象徴的に登場して来て・・・という程度だった。犯罪一味の首領ロバート・ライアンが亡くなる前の映画で、なんとも魅力があって・・・。私たちは「眠る前にむずかる子供にすぎない」。
 再見して、辻褄はすっかり合った。けれども、不可解な印象は変わらない。主人公(ルイ・トランティニヤン)を狙うロマ族(ジプシー)の男たちは隠れ家のある島にいるのに、なぜ男を襲撃して来なかったのだろうか。彼が1万5千もの札束をどう隠し通せたのかも不思議だ。一味は車や銃を準備してくれた男を殺して埋めてしまったが、男は一人で商売しているはずはない。行方不明になって、何も起こらないのは変だ。一味はふだんはなんの仕事をしているのかが、まったく分からない。生活感が無いのだ。
 クレマンの編集は不思議なもの。要所にインサートされるサブリミナル映像。短かすぎて意味が取れない。クレジット・タイトルに登場するバトン・ガール(ナディーヌ・ナボコフ)からは、マットーネ(アルド・レイ)がちょっかいを出したために、後で重要な証言を引き出すことになる。このバトン・ガールはシュガー(レア・マッサリ)に「一緒に遊んで欲しかったのに、仲間にいつも入れてもらえない」という謎の言葉を吐く。
 あらすじはこんな風だ。
 ロマ族の子供たちを軽飛行機事故に巻き込んでしまったアントワーヌ、通称トニー(トランティニヤン)は、裁判では過失事故と判定されたものの、子供たちの仇をとろうと狙う男たちに、私刑にされようとしていた。必死に逃げるトニーは、無人の万博会場で、ひとりの男の殺人を目撃。死にかけた男レオンから金を渡される。リッツィオ(ジャン・ガヴァン)とポール(ダニエル・ブルトン)に拉致されるが、途中でポールを車から突き落とす。その傷がもとで、隠れ家に着いて数日後に、ポールは死んでしまう。カナダのフランス語地域にあるらしい隠れ家では、首領のチャーリー(ライアン)ほか、妻かどうかはっきりしないシュガー(レア・マッサリ)、ボクサ-上がりの太ったマットーネ、孤児院出のポールの妹のミルナ、愛称はペッパー(ティサ・ファロー)らが暮らしていた。銀行強盗で警察に追われているとウソをつき、仲間に加えてもらったトニーだったが、腹の傷が銃創ではないことなどから次第にウソがばれてしまう。島の反対側では、ロマ族の男たちが見張っていた。チャーリー一味は暴力団の親分の犯罪の証人である少女のトボガンを特別警護のビルの病室から奪還するという計画を立てていた。成功してトボガンを暴力団に渡せば、大金が手に入る。万博会場で撃たれたレオンは、仲間に引き込まれた警備員だったが、裏切りで消されたのだ。しかし、トニーは死に際にレオンから聞いていた、「トボガンは死んだ」と。それでも計画は実行されるのだろうか。チャーリーは隣のビルの音楽会の客を装い、消防車のハシゴを利用して隣りから侵入するという計画を立てていた。トボガンが自殺したことは内密だった。部屋からトボガンの衣装と愛用のぬいぐるみを奪い、ペッパーをニセのトボガンに仕立てる。奪還の際にリッツィオが捕縛され、音楽会のボックスにいたシュガーがバトン・ガールの証言から捕縛された。暁方、落ちあい場所で、大金と引換にチャーリーはギャングたちを撃ち殺すが、反撃でマットーネが撃たれ、自分も腹に致命傷を負った。
 隠れ家でチャーリーは金の半分をトニーに渡し、ペッパーと逃げろと諭す。しかし、途中でペッパーは怪しい気配を感ずる。探りに出たトニーは投げナイフを背中に受ける。傷を隠してトニーはペッパーだけを空港へ行かせ、自分の航空券を取り、後で追いかけると約束して、チャーリーの許へ戻る。良い医者を準備するという甘言に乗せられて隠れ家の場所を教えたシュガー。警官隊に包囲されつつある隠れ家。二人はビー玉を賭けて看板を狙う。「閉館」の板の下からチェシャ猫の絵が出てくる。ある少年が異国でビー玉をきっかけに、いっとき友人になった大人びた少年がいたことが想起される。アイスクリームをなめているソバカスの少女はエマニュエル・ベアールだそうだ。
 あらすじが分かっても、この映画の魅力はちっとも明らかにならない。映画や俳優に対する憧憬が映像化されているといっても過言ではないだろう。そんな場面の後でチャーリーはいつもトニーに言う、「また1点取ったな」と。アウトローを肯定的に描くのが映画の真髄だ。『太陽がいっぱい』の頃から、それがルネ・クレマンの映画作りの本懐だったんではないだろうか。

       映画川柳「切り裂かれ 階段に散る ガラス玉」 飛蜘
2012年2月26日


DVD
スルース


英国
2007年
89分
 オリヴィエとマイケル・ケインが共演した『探偵スルース』(1972)のリメイク作品。脚色をハロルド・ピンター、監督をケネス・ブラナーが務める。小説家ワイクをマイケル・ケイン、役者マイロを製作も兼ねているジュード・ロウが演ずる。オリヴィエ版は見ているが、こまかいところを忘れてしまったので、リメイク版を面白く見ることが出来た。ロウの若さが老練なケインと比べて未熟に見えてしまい、分が悪い。対等のゲームというよりケイン側が優勢と見えてしまうのである。言っていることがどこまで本当なのかが最後まで分からないケインに対して,ロウのほうは真っ正直さが現れてしまう。それが演技や演出の意図なのだろうが、頭脳ゲームを期待して見ている観客からすると不満が残るのである。

        映画川柳「拳銃で 脅迫されれば 苦笑して」 飛蜘
2012年2月25日



DVD
8人の女たち


フランス
2002年
106分
 フランソワ・オゾン脚本・監督のミュージカル風ミステリー映画。1950年代のハリウッド映画のテクニカラー作品にオマージュを捧げつつ、大女優競演を成し遂げた作品。ロベール・トマの舞台劇をもとに作った。雪深い一軒家に休みで久しぶりに帰宅した大学生のシュゾン(ヴィルジニー・ルドワイヤン)を母親のギャビー(カトリーヌ・ドヌーヴ)、祖母(ダニエル・ダリュー)、皮肉屋の叔母オーギュスティーヌ(イザベル・ユペール)、養母でメイドのシャネル(フィルミーヌ・リシャール)が迎える。二ヶ月前から雇われているメイドのルイーズ(エマニュエル・ベアール)は妖艶すぎる。高校生のカトリーヌ(リュディヴィーヌ・サニエ)は元気いっぱいだ。中二階の寝室に朝食を届けにいったルイーズの悲鳴が響く。父親のマルセルがベッドで背中を刺されて死んでいる。電話線も切断されている。雪に閉ざされてしまった一軒家。外部から犯人が侵入した形跡が無い。だとすると犯人は家族のなかにいるはずだ。いったい誰が犯人か。疑心暗鬼が渦巻くなか、女たちのそれぞれの事情が次第にあぶり出されて来る。ギャビーの妹で近くに越してきたピエレット(ファニー・アルダン)が「兄が殺されたと電話があった」と来訪。もとダンサーだったというこの叔母はギャビーから嫌われているし、破産寸前のマルセルに金を無心に来ていたので、女たちの間に波風が立つ。事件の真相を探るはずがそれぞれの私生活の真相を暴くことになり、事件の背景は二転三転の展開を示す。動機が無いように見えたものも怪しくなる。重大な真相を告白しようとしたシャネルが銃撃で脅迫されて無言になったが、やがて急転直下、真相が明らかになる。

       映画川柳「現場保存 鍵の行方が 謎となる」 飛蜘
2011年11月29日



DVD
バットマン



ワーナー
1989年
127分
 ティム・バートン監督の『バットマン』第1作。公開当時見たのですが、すっかり忘れていました。アメリカン・コミックの感覚を取り入れた演出だと思います。特にジャック・ニコルソン演ずるジョーカーの開発した死体を微笑させる毒物という設定がギミック感覚です。市制200周年記念にとジョーカーが準備する風船もコミック感覚です。
 続編は計画されていなくて、最後にキム・ベイシンガー演ずる女性カメラマン、ヴィッキーがブルース・ウェインの恋人におさまってしまいます。バットマンにより酸の池に落とされたものの、生き返ったジャックは神経を繋ぎ、手術をくり返してジョーカーとして再生、自分を裏切ったボス(ジャック・パランス)ややくざ刑事エックハート(ウィリアム・ホットキンス)、情婦アリシア(ジュリー・ホール)、そして自分を見下した重役や大衆に復讐します。バットマンの装甲車の情報を伝えなかったからと右腕のボブ(トレイシー・ウォルター)を射殺し、ケタケタ笑いを続けるジョーカーというキャラクターはかなり強烈。
 ウェインの両親はウェインと一緒に劇場を出たところで、泥棒に襲撃されて射殺されていて、それがウェインの心の傷になっていると設定されています。そのときの強盗の一味の一人がジャックでした。バットマンは悪人なのか、善人なのか、分からないという設定で始まりますが、最後の場面ではゴッサム・シティを護る守護神と目されます。

      映画川柳「合言葉 月夜の晩に 踊る悪魔」 飛蜘
2011年11月28日


ビデオ
長距離走者の孤独



英国
1962年
108分
 製作・監督はトニー・リチャードソン、原作・脚色はアラン・シリトー、音楽はジョン・アディソン。中古セル・ビデオで入手。
 1970年代に大阪の中之島ホールで見たことがあります。素晴らしい映画でした。原作も読んで感動しました。
 感化院に送られる少年たちのなかにコリン・スミス(トム・コートネイ)がいた。スミスは足の速さを見込まれ、名門校との競技会の長距離走の選手に選ばれる。それまで感化院の代表候補で寮長だったスティシーは負けた屈辱から脱走する。彼の不満が鬱屈した少年たちの不満に火を点け、食堂では大きな騒動が起こる。しかし、院長は暴動に理解を示し、少年たちとの信頼関係を築き直そうと演説、予定通り音楽会(鳥の鳴き真似、女声と男声の二重唱、讃美歌)を開催した。競技会も開催する計画に変更はなかった。院長に信頼されて練習で感化院の外を走るコリン。仲間からはやっかみの声が聞こえてくる。
 コリンの生活を振り返ってみると、病気の父親と母親(アピィス・パンネージ)はしょっちゅう喧嘩をしていた。入院を拒否してがんで死んだ父親の死亡保険金でいっとき一家は潤う。コリンも小遣いをもらうが、友人マイク(ジェームス・ポーラム)とガールフレンドとの小旅行でつかってしまう。マイクはグラディスと、コリンはオードリーと親密になる(もともと盗んだ車でロンドンへ遊びに行く途中でナンパした女の子たち)。遊んですっからかんになって戻って来たコリンに、母親とその新しい男は冷たかった。コリンとマイクは隣町で空き室へ盗みに入り、持ち帰った手持ち金庫から70ポンド余りの金を見つける。雨樋に金を隠したものの、すぐに警察(デービス・ワード)が調べに来た。冷たい雨の降る日に紙幣が流れ出て来て、コリンは逮捕されたのだった。
 さて、競技会の当日、コリンは予想通り第一位でゴールに戻ってくるが、ゴール手前で立ち止まり、後から来た名門校の選手に抜かれる。院長のいいなりにはならない、院長の思い通りに行動しない人間もいるのだ。
 競技会が終わった後日の作業場。名前も呼ばれずに「端のやつ」と言われて床のものを拾わされているのは、コリンだった。

      映画川柳「(名門校は) 寮生の 学費の払い 親がする」 飛蜘

 テレビが批判的に扱われて登場する。保険金が入ると母はテレビを買う。コリンの弟や妹は「BBCはつまらないよ」と言う。コリンとマイクはテレビで演説する識者の音声を消してその真面目ぶった表情を大笑いする。母の男が音声を出そうとすると、コリンたちは音声は消したままでいいと主張して争いになる。テレビは自分たちを擁護するものになっていないと若者は感じているのだ。『土曜の夜と日曜の朝』でもテレビは憧れの電化機器として登場していた。
2011年11月26日


ビデオ
裸足のイサドラ



英国
1968年
153分
 ヴァネッサ・レッドグレーブが天才的なモダン・バレエ・ダンサー、イサドラ・ダンカンの生涯に挑戦、開いた口がふさがらないほどのスキャンダルを描いた映画だが、いまや輸入版のビデオしか入手できない。しかも、そのビデオはテレシネ画面を撮影したものらしくフィルムの傷まで写っていた。製作者はロバート・ハキムとレイモンド・ハキム、イサドラの「My Life」やストークスの『裸足のイサドラ』を脚色したのはメルヴィン・ブラッグとクライブ・エクストン、音楽はモーリス・ジャール、監督はカレル・ライス。ヴァネッサは1969年度カンヌ映画祭の最優秀女優賞。
 1927年、秘書のロジャー(ジョン・フレーザー)相手に過去の栄光をふり返る日々の失意のイサドラ。マネージャーのメアリー(シンシア・ハリス)が親身になって世話を焼いていた。
 彼女の記憶は遠く12歳のころに戻る。彼女は美と芸術のために一生を捧げ、その目的のために結婚や社会の因習を否定する誓いをたてて、両親の結婚許可証を焼き捨てた。
 1896年にシカゴの場末のボードビルで初舞台を踏んだイサドラは、その異様な迫力と熱っぽさで客席を圧倒した。それは「ダンスを波に習い、音楽をそよ風に習った」という彼女の言葉そのままの、野性的な舞踊であった。
 イサドラは、母(ベッシー・ラブ)、妹エリザベス(リビー・グレン)、弟レイモンド(トニー・ボーゲル)と共にロンドンに渡り、大英博物館でギリシャ彫刻の簡素で古典的な美しさに魅せられたイサドラは、粉飾のない素朴なガウンと生まれながらの四肢の魅力を生かして、ベートーベンやブラームスの交響曲に乗って何の飾りもない舞台で風のように踊った。
 やがてイサドラの名はヨーロッパ中に知れ渡った。ベルリンで詩人で舞台装飾家ゴードン・クレイグ(ジェームズ・フォックス)と熱烈な恋に落ち入り、娘デアドリー(ルシンダ・チェンバース)を産んだが、クレイグは、イサドラのもとを去った。その後、1910年に彼女はプレイボーイで億万長者のバリス・シンガー(ジェイソン・ロバーズ)と恋をした。シンガー・ミシンの後継者のパリスは、パリ郊外に豪邸を建て、念願のダンス学校を設立した。貧しい子供たちを集めて「美と簡素」を標語にダンスを教えるうちに、パリスの息子パトリックを産む。パリスの結婚の要望には応じようとしなかった。そしてパリスへの面当てのように、ピアノ伴奏者きのアルマン(クリスチャン・デュバレー)と恋をした。パリスは激怒したが、イサドラは取り合わなかった。 
 パリ旅行のとき、自動車がセーヌ河に落ち、子供二人は溺死してしまう。この悲劇のショックでパリスはイサドラを棄て、イサドラも悲嘆にくれた。 
 1921年、革命直後のロシアでイサドラは大評判となる。ロシア民謡と一体の舞台で劇場全体は興奮のるつぼと化す。若き詩人エセーニン(イヴァン・チェンコ)と激しい恋に落ちる。エセーニンはイサドラの思い出の写真を打ち壊す。イサドラが大切にしていた事故死した愛児の写真をも。
 イサドラは、過去をすべて棄ててエセーニンと結婚し、共にアメリカに帰国し、公演するも、そのスラブ行進曲をバックにしたロシア礼賛の踊りは観客の激しい非難にさらされ、上半身裸をさらす演出は拒否反応を引き起こす。エセーニンもアメリカの反共主義者に暴行を受けた。そして、イサドラはすべてを失う。
 親しい人々とのパーティの席に参加したイサドラは若き士官ブガティ(ウラジミール・レスコバ)にエセーニンの面影を見たのか一緒に踊り、彼の運転する車に乗って走り去る。しかし長いスカーフの端が車輪に巻き込まれ、イサドラの首は締められて一瞬にして彼女は死んでしまった。何も知らない人々はゆったりと踊り続けていた。

      映画川柳「繰り返す 私のからだは 美しい」 飛蜘

 【参考文献】ストークス『裸足のイサドラ』角川文庫(絶版)。
 公開時の映画のパンフレット。
2011年11月25日


ビデオ
土曜の夜と日曜の朝



英国
1960年
88分
 英国の怒れる若者たちの映画、フリーシネマの傑作のひとつ。製作がトニー・リチャードソンとハリー・サルツマン、脚本が原作者のアラン・シリトー、監督はカレル・ライス。DVDは出ていなくて、中古セル・ビデオしかない。
 主人公のアーサー(アルバート・フィニー)は工場に務める労働者階級の青年。工場の上司ジャック(ブライアン・プリングル)の妻ブレンダ(レイチェル・ロバーツ)と肉体関係を持っている。酒場で飲み比べをしたり、上流階級を気取る婦人にビールをこぼしたり、店のショー・ウィンドウを割った浮浪者に肩入れしたり、現状を受け入れ覇気のない生活を送る両親や仲間に対する不満をぶつける毎日だった。ある日、酒場で目を止めた娘ドーリン(シャーリー・アン・フィールド)とデートするようになったものの、生活態度は特に変わらなかった。そんなある日、ブレンダが妊娠を告白、夫とはずっと関係を持っていないと言うブレンダに、戸惑うアーサー。子供を堕ろすしかないだろうと悩むブレンダにアーサーは14人も産んだという叔母を紹介する。
 叔母は熱いお風呂とジンによる堕胎を助言したが、効果が無いらしい。ブレンダはうすうすドーリンの存在に気づき始めている。遊園地で従兄弟のパート(ノーマン・ロッシントン)とダブル・デート中に、アーサーは夫と息子と一緒に来ていたブレンダと会ってしまう。工場の同僚だと言い訳するアーサー、怒るブレンダと旋回する車に乗るが、ジャックの連れの兵士たちに見つかってしまう。追いかけられ、いったんは逃げたものの、見つかって兵士たちにしたたかに殴られるアーサー。
 ケガをしたアーサーを見舞ったドーリン。アーサーの話を聞いてもドーリンの気持ちは変わらなかった。上司ジャックは二度とブレンダには会うなと忠告する。工場を見下ろす丘、アーサーは何かわからないものへの戦いを止めないと宣言するのだった。

      映画川柳「責任を 取ると言っても 躊躇する」 飛蜘
2011年11月日



ビデオ
ヘザース
ベロニカの熱い日



パラマウント
1989年
103分
 タイトル・バックの主題歌は「ケ・セラ・セラ」。ウィノナ・ライダーは『ビートル・ジュース』の次作だった。また、クリスチャン・スレーターは『薔薇の名前』の次に本作に出演した。カルト・ムービーの1本。DVDは出ていない。ネット上のあらすじやキャスティング表も間違っている。
 ある高校の女子四人組チャンドラー、マクナマラ、デューク、ベロニカは、名前にヘザーが付く女同士として、弱いものいじめや同輩を嘲る活動を続けていた。小学校で高校への進学を薦められたというかつての天才少女ベロニカはいやいやながらヘザーズに付き合っていた。他人の筆跡を真似るベロニカの特技は、食堂でデブのマーサ(キャリー・リン)にフットボールのリーダー、カート(ランス・フェントン)からの偽のラブレターを渡すのに利用されたりしていた。そんななか、転校生のJD(クリスチャン・スレーター)を脅したカートとラム(パトリック・ラビオルテックス)は逆に銃で撃たれる。銃は空砲だったが、ベロニカはJDに関心をもち、とうとう忍び込んできたJDと結ばれる。
 大学生相手のパーティに参加したベロニカとチャンドラー(キム・ウォーカー)。実は乱交パーティだった。お調子ものの男に誘われてベロニカは気分が悪くなり、吐いてしまい、チャンドラーに罵られる。チャンドラーへの憎しみを聞いたJD、二人は二日酔いで寝ているチャンドラーのキッチンに浸入、カップにトイレの洗浄剤を入れ、二日酔いの薬だと渡す。チャンドラーは自分へのあてつけだと薬を一気飲み。アッという間に死んでしまう。さあ大変。JDは自殺に偽装することを提案。ベロニカは筆跡を真似て遺書を書く。
 チャンドラーの死は自殺で処理された。みんなが大嫌いだったヘザースなのに葬式では死者は祭り上げられる。死んだチャンドラーは学校一番の人気ものになった。
 ベロニカはマクナマラ(リザンネ・フォーク)と共に、アメフト部員のお調子者ラムとカートとデートする羽目になる。誘惑を断ったベロニカは翌日、自分が二人と寝たと噂されているのを聞いて愕然となる。噂を流した二人に復讐することを決意したベロニカはJDの計画に従う。計画は二人を誘って着物を脱がせホモ友達の自殺に見せかけようというもの。銃は空砲だと思っていたベロニカだったが、実際にJDが使った銃に入っていたのは実弾だった。JDはラムを撃ち、ベロニカはカートを撃つ。撃ちそこねたベロニカ。JDはカートを追い、射殺する。ラムが死んでいるのに気づき、驚愕するベロニカ。しかし、この事件も心中として処理された。相次ぐ自殺に学校全体が騒然となる。影響されたマクナマラは自殺しようとするが、ベロニカに止められる。JDに恐怖を覚えたベロニカ。JDは残ったヘザー、デューク(シャネン・ドハーティ)に接近し、自殺撲滅キャンペーンの署名活動に引き込む。その背後で、JDの活動に不信感を持ったベロニカを自殺に偽装して抹殺する計画、そしてもっと恐ろしい計画が進んでいた。ベロニカは危機を切り抜けることができるのか。

       映画川柳「全生徒 校舎もろとも 吹き飛ばす」 飛蜘 
2011年11月4日



ビデオ
迷探偵シャーロックホームズ
最後の冒険



英国
1988年
107分
 シャーロック・ホームズのパロディでマイケル・ケインとベン・キングズレー主演ときたら面白くないわけがない。日本ではあまり話題にならなかったが、抱腹絶倒の映画である。特に前半が好調。原題はWithout a clue(手がかりなし). 監督はトム・エバーハート、脚本はラリー・ストロウザーとゲーリー・マーフィ、音楽はヘンリー・マンシーニ。ホームズもののパロディとしては、『ヤング・シャーロック ピラミッドの謎』と並ぶわかりやすさ。
 美術館に浸入した窃盗犯を逮捕したお手柄で取材を受けている名探偵ホームズ(マイケル・ケイン)だったが、この事件の裏には何かあると睨むワトソン(ベン・キングズレ-)はホームズが事件解決と断言したのが気に入らなかった。もともとホームズは場末の無名の役者だったのをワトソンが拾って来て、探偵に仕立てたのだった。しかし、ホームズはいまやすっかり有名になってしまい、自分勝手な行動も見られるようになってきた。とうとう衝突した二人。ワトソンはホームズを無一文でたたき出した。ところがその直後にレストレイド警視(ジェフリー・ジョーンズ)と大臣(ナイジェル・ダヴェンポート)がワトソン博士を訪問、造幣局から紙幣の型が盗難にあった事件の捜査をホームズに依頼してきた。ワトソンは既に目星を付けて捜査をしていたにもかかわらず、ホームズでないと人々は協力しない現実に遭遇する。仕方なく飲み屋で客にからんでいるホームズを連れ帰り、二人で捜査を始めた。
 造幣局の印刷主任(ジョン・ワーナー)が拉致され、その行方を追う二人は、主任の娘レスリー(リセット・アンソニー)に接近。ワトソンは、ニセ札印刷計画の黒幕にはモリアーティ教授(ポール・フリーマン)がいると睨む。
 港で紙幣用のインクが一味に取引される情報を得た二人は張り込む。案の定、モリアーティが出現したものの、撃ち合いの結果、ワトソン博士は海で行方不明。すっかり気落ちしたホームズだったが、川から、見つかった同じ番号の偽の紙幣に注目、番号には印刷主任のメッセージが隠されていると睨む。いったいどのような謎だろうか。ホームスは主任が愛読していた聖書に目を付ける。聖書の話の番号に違いない。
 ちょうど劇場で上演されている劇に秘密はあったと見当を付けたホームズはハドソン夫人(パット・キーン)を伴って夜の劇場に乗り込む。
 ホームズの予想通り、劇場の地下に偽札印刷工場があった。さて、モリアーティ一味はどうなるのか。そしてワトソン博士はどうなったのか? 主任の娘レスリーはどうなるのか? 数々の疑問が一挙に解決する大団円に向かう。

       映画川柳「考えて 数字の謎に 手がかりが」 飛蜘
2011年11月3日



WOWOW
録画 2011年
3月30日
スラムドッグ$ミリオネア



英国
2008年
120分
 ダニー・ボイル監督作品。インドのムンバイのスラム街に育った兄弟、サリームとジャマールの苛酷な人生を、無声映画もかくやと思われるほどのエネルギーで描ききる。感傷に浸る暇がないほどのスピード感で物語が展開する。例えば野外便所の便壺に落ちて脱出、その直後にスターにもらったサインを兄が売り飛ばしてしまい、わずかなお金に変える、それに抗議するジャマール。しかし、兄は意に介さないといったシークエンス。
 ジャマールが警察署で拷問される場面で始まる。「クイズ$ミリオネア」に出演し、最後の問題を前にした晩のこと、無学のスラム出身者が正答を連発するにはなんらかの不正があるに違いないと疑われて連行されたのだ。拷問は電気ショックによるものまで行われる。
 問題に正答できたのはジャマールの悲惨な経験から得た知識だった。そして答えがわからない問題に対しては動物的な勘。
 少年のころのジャマールは、兄サリームにも何度か助けられている。特に物乞いの効果を上げるためにママン(母親ではなく少年狩りの首謀者)に目をつぶされそうになったときと、ラティカを探し当ててママンに再会したとき。サリームは暗黒街のボスの部下として働くようになる。
 少女ラティカに対するジャマールの一途な想いが映画に一本の筋を通している。

       映画川柳「何があれ 君を救うぞ その一事」 飛蜘

 クイズの問題やインド社会の背景などは「さくらの映画スイッチ」を参照。ページが削除されたときのためにテキストのみワードにて





2011年11月1日以降、3月31日までに見た 日 本 映 画 (邦画)

見た日と場所 作  品        感    想   及び  梗  概  (池田博明)
2012年3月27日


DVD
不連続殺人事件


1977
ATG
 ATGのミステリー映画には、高林陽一監督の『本陣殺人事件』があった。『不連続殺人事件』は坂口安吾の長編本格推理小説。監督は『嗚呼!!花の応援団』でヒットを飛ばしていた曽根中生。曽根監督は鈴木清順監督に脚本を提供した具流八郎の一人。日活ロマンポルノでも『らしゃめんお万』『色情姉妹』など変な作品を撮った。当時『嗚呼!!花の応援団』は面白く見たが、曽根監督作品のロマンポルノで面白いと思った作品はなかった。
 『不連続殺人事件』も当時、期待して見たが、その理由は夏純子主演だったからで、演出には感心しなかった。ATG作品がDVDでまとめてリリースされ、そのうちの1本に入ったので再見したものの、出来損ないの作品という印象は変わらなかった。二十人以上の人間が一堂に会して食卓につくものの、群像劇のおもしろさなどはまったくなく、セリフのある役者だけがセリフをはき、動き、演技をして他の人々はデクノボーのように見守ったり、座ったりしているだけなのだ。不自然である。舞台劇だったらこんな役者の動かし方はしないだろう。客席から見ていると舞台全体が観えてしまうのだから、端っこにいるヒトも演技に参加して世界を作らなければならないからだ。アクション場面も妙にそらぞらしい。効果音が動作とズレたりしている。夏純子は熱演だが、彼女がいいのはむしろセリフのないときなのだ。オーバー・アクションは似合わないのである。そういう意味でいうと、松橋登の演技もオーバー過ぎる。舞台で彼が演じて好評だったドストエフスキーの『白痴』を下手になぞっているような具合である。内田裕也の演技もオーバーである。
 演技者としていちばん良いのは田村高廣だが、彼は単なる目撃者の役目しかしていなくて、主人の親友ということで招待されたものの、妻ともども傍観者としてしか関係していないし、極端な話、いなくてもよい登場人物なのだった。巨勢博士役の小坂一也がまた途方もない大根役者だった。事件の焦点を把握していながら、結局、殺人事件を阻止しないのだから、呆れてものがいえない。最後に延々と謎解きを述べるのだが、それほどきちんと分かっていたのなら、もっと警察に協力すべきである。真犯人の自殺を予想しないのも変である。

           映画川柳「出る役者 映画自体が 不連続」 飛蜘
2012年3月19日


DVD
染色体に書かれたネズミの歴史

シネ・サイエンス
1975年
34分
 「生物」の授業で生徒によく見せていた短編映画がDVDになった。学校のものは、教育テレビで放映(白黒)した作品をビデオにダビングしたものだったが、元がオープンリール型のビデオテープだったので、やがてカセットビデオの時代になり、再生できなくなった。今回のDVDはアイカム社で35mmフィルムをリマスターしたもので画質は鮮明。カラー作品。脚本・演出は武田純一郎。撮影は長谷川高久。
 当時、国立遺伝学研究所細胞遺伝部長・吉田俊秀博士のクマネズミの研究が追跡されている。核型の研究を通してクマネズミの進化に迫る過程が簡略に、かつ興味深く描かれた科学映画の傑作。日本のクマネズミの核型、東南アジアの核型、世界の核型と話が順に展開していく構成もみごとなものである。染色体突然変異の実態を通して進化の歴史に迫るという手法自体は、DNAの塩基配列を直接研究できる現代の研究技術からすると時代遅れになってしまったのだが、染色体のもつ意義を理解するにはとても良い一篇である。
 シネ・サイエンス作品には1970年代に数々の生物映画の傑作があった。それらも順次、復刻して欲しいものである。
2012年3月17日


DVD
昨日消えた男


大映
1964年
83分
 森一生監督、小国英雄脚本の時代劇ミステリー。撮影本多省三、美術太田誠一の森組スタッフ。
 龍神丸の船員消失という謎で映画が始まる。雷蔵が演じるのは将軍・吉宗。江戸城でお伽のものたちに謎かけや小話をしてもらっていたものの、退屈した吉宗は、大岡越前守(三島雅夫)に頼んで実際の事件を1件だけ手がけるという約束で同心となる。越前や与力(成田純一郎)が解決ずみの事件をあてがって狂言ですまそうと画策しているのを聞いてしまった越前は自ら町民のなかに飛び込み、あわてた役人たちに追われる身となってしまう。上様行方不明で一大事というわけである。そんななか、一膳めし屋で大橋兼四郎(宇津井健)と名乗る浪人と会う。ニセ同心で追われていると身分をごまかし、彼の長屋に居候することになった吉宗は殺人事件に会うことになる。殺されたのは龍神丸4事件をめし屋で話していた船乗りだった。そして次に彼を斬った浪人が殺される。幽霊船の噂にもかかわらず、龍神丸は入港し、船員たちは船主の美濃屋(沢村宗之助)の屋敷で飲めや歌えノどんちゃん騒ぎ。裏になにか秘密が隠されているようだ。別の船主の娘・お園(高田美和)、兄が龍神丸の船子のめし屋の女・お浪(藤村志保)が吉宗らに協力して謎を探っていく。
 ミステリー作家の北村薫が絶賛した佳作。
2012年3月12日


DVD
濡れ髪牡丹


大映
1961年
 八尋不二脚本、田中徳三監督、市川雷蔵・京マチ子主演の<濡れ髪>シリーズ第五作。
 プッチーニのオペラ『トゥーランドット』を下敷きにしている。三千人の子分を引き連れた女親分・清見潟(きよみがた)のおもん(京マチ子)の婿選びが行われていた。噂を聞きつけた男たちが全国からやってくる。次々と出される難題に退散する者ばかり。そのなかに、算術・歌よみ・剣術、なんでもござれの口八丁手八丁、自称八八(はちはち)の瓢太郎(雷蔵)が出現。おもんとの手合わせの行方や如何に。
 二日目のおもんとの勝負に瓢太郎は負ける。代貸の伊三郎(安倍徹)は瓢太郎を裸にして相撲取りにむち打ちさせる。20回余分に打たせたという。忍術を使ったからとちっとも痛がっていない瓢太郎だった。実は瓢太郎、映画の最後のほうでわざと手加減して負けていることを明かすのだが、相手をしたおもんがそれに気づかないはずはなかった。おもんは子分のにょろ松(大辻司郎)に命じて瓢太郎の随行をさせ、一年後にまた来るようにと伝える。ただし、弟・岩吉(小林勝彦)の頼みだと伝えるのだ。岩吉は茶屋の娘おたき(小桜純子)を恋人にしていて遊び人風情。とてもヤクザの器ではない。
 さて、一年後、おもんが呼んだ市川團十郎一座の花形役者として瓢太郎が戻って来た。おもんは役者風情に怒るが、瓢太郎は歌舞伎の歴史をとうとうと弁じる。再び剣の試合をするが瓢太郎は再び負ける。鞭打ちの刑で今度はすっかり体を痛めてしまう瓢太郎だった。
 流れ者の殺し屋三人組(須賀不二男、伊達三郎など)が街道荒らしをしていた。無一文でたたき出された瓢太郎に今度は無一文のにょろ松が追随する。ひとやまあてようと博打に手を出す二人だったが、万能の瓢太郎もからっきし博打には弱い。たちまち身ぐるみはがれてしまう。そこへおもんが出現、さしの勝負で勝って、取られた着物や刀を返してくれた。一方、伊三郎はおもんを手ごめにして跡目をつごうとする。おもんは拒否して伊三郎は暇を出された。仕返しの機会を狙う伊三郎は三人組に接近、瓢太郎をおとりにしておもんを亡きものにしようとする。おもんは堂々と乗り込み、伊三郎らと戦う。三人組も捕り方の鉄砲隊で囲んで捕縛する。しかし、牢番をだまして脱獄した三人組は入浴中で無防備のおもんを襲撃、あやうく捕らえれそうになったとき、瓢太郎が登場。悪者は成敗されて、すっかり瓢太郎に惚れたおもんだった。
 数年後、子供をあやしながら、女たちに魚のさばき方を指南する瓢太郎の姿があった。そして、おもんも眉を落とし、お歯黒をして、その料理教室を手伝っていた。町娘お勝(井上明子)とおかん(山本弘子)。京マチ子の色っぽさが光る一篇。
2012年3月9日



DVD
濡れ髪喧嘩旅


大映
1960年
99分
 八尋不二企画・脚本、森一生監督、市川雷蔵・川崎敬三主演の<濡れ髪>シリーズ第四作。撮影は武田千吉郎ではなく、本多省三に、美術も太田誠一に、照明も古谷賢次に、音楽も小川寛興にと変わっている。森組か?
 勘定方の遠山金八郎(川崎敬三)は江戸から七日旅の美濃大田の金山の産出量が減った不振の原因を探索する奉行命令を受ける。あまり有名な者を派遣しては警戒されるという理由でうだつのあがらないサラリーマン侍に白羽の矢が立ったのだ。仲間はもうこれで永遠の別れになるような見送りをする。せめて旅の道中だけでも羽目を外そうと決意したはよいが、女に色目をつかわれて、のぼせあがっていると、背後にやくざがいたりして、そううまくはいかない。危ないところを前金を渡すことで助けてくれたのが、おさらば伝次(雷蔵)だった。わらじを脱いだ組でも、出入りになると逃げてしまうことから付いたあだ名だったが、喧嘩には滅法強い。博打も強く、ついいい気になった金八郎は、いかさま賽を使うお艶(真城千都世)に身ぐるみはがされてしまった。
 伝次を狙う死神・厄病神・貧乏神のやくざたち。旅芸人の一座(女座長役が山田五十鈴、投げ刃のお鈴役が浦路洋子)と一緒に旅をする両人。お鈴に身売りを強要する地元のやくざとも喧嘩になる。自分がモテルと思いこみ、女にだまされてばかりの金八郎。目的地に到着すると、悪奉行の接待攻勢にちっともなびく様子がない。一方、伝次は幼時に別れた妹を尋ねる。妹が売られた芸者屋で妹お妙の形見の印籠を所持している女(浜田ゆう子)はニセモノだった。三百両をためたという伝次におさよはお妙が少し前に兄を想いながら死んだことを告げる。
 さて、接待攻勢に陥落せず、帳簿のごまかしを追求しようとしていた金八郎だったが、素人っぽい生娘おさよに一目惚れしてしまう。酒の相手をさせながら抱きつこうとしたとき、伝次が現れ、おさよを救おうとする。芸者屋の欲張り婆に三百両を投げつけて、おさよを救出。伝次は金八郎ともよりを戻す。奉行はむささびのおせん(仁木多鶴子)を抱き込み、金八郎を蔵に導き、火をつけて始末してしまおうと諮る。伝次が助けに来たうえに、おせんも金八郎の真情に感動して二人の味方になる。勘定方の査察の結果、悪事は露見した。
 江戸へ戻る二人を追うおせん。伝次はおせんの同行を認める代わりに金子を要求するのだった。
 スリー・キャッツの「お伊勢参り」の唄や「黄色いサクランボ」が挿入されている。
 かなりテンポよく話が進む。川崎敬三も女に目のない弱気な侍を軽く演じている。官官接待を皮肉る結構になっている。美人女優の区別がつかないのが残念だ。

       映画川柳「サラリーマン 出張ついでに 羽目はずし」 飛蜘
2012年3月8日



DVD
浮かれ三度笠


大映
1959年
98分
 松村正温脚本、田中徳三監督、市川雷蔵・本郷功次郎・中村玉緒主演の<濡れ髪>シリーズ第三作。助監督は池広一夫。予告編では雷蔵・本郷功次郎の「三度笠コンビ」と宣伝している。美術が西岡善信で、場面が変わる時のつなぎに色鮮やかな暖簾を使ったりと色彩効果も一興。
 明朗時代劇というふれこみで、かなり面白い作品。濡れ髪シリーズのベスト。
 将軍吉宗は尾張藩・宗春の謀反の動きを警戒して、甥の松平与一郎を宗春の娘・菊姫(中村珠緒)と結婚させようとする。与一郎は道楽者でうすら馬鹿という噂があった。尾張藩江戸屋敷の菊姫は見合いを嫌がったが、説得しようと試みた爺やが尾州藩家老に斬られてしまい、爺やから手渡された連判状を手にして、腰元のなぎさ(宇治みさ子)と出奔。父親を説得しようと名古屋を目指す。松平家の与一郎も菊姫に馬鹿にされた怒りか出奔したという。
 尾州藩は菊姫を連れ戻せと兵馬(本郷功次郎)に命ずる。連判状を奪還しようとする敵味方入り乱れての争い。兵馬は粋な旅鴉の与三郎(市川雷蔵)と出会い、共に菊姫を探すことになる。なぎさと共に虚無僧に変装したり、江戸の上総屋の娘に変装したりと、お転婆の菊姫は、いつしか与三郎とすっかり意気投合する。与三郎の男っぷりに惚れたお吉(左幸子)もからんで、てんやわんや。与三郎の正体は最後の最後に明かされる。
 やっとのことで尾張藩に着いた菊姫だったが家老の計略で座敷牢に閉じ込められ、父親・宗春には会わせてもらえずに江戸屋敷へ返されそうになる。道中の途中で一行を襲撃する銃声が響く。お供のものたちが銃声に気を取られているすきに菊姫は籠を脱出、兵馬の用意した馬に乗って狩場の父と会う。姫の説得に父は難色を示す。連判状を預かったとの矢文には与三郎の名が記されていた。玉緒さん大活躍で代表作の一篇。
2012年3月7日



DVD
濡れ髪三度笠


大映
1959年
98分
 八尋不二脚本、田中徳三監督、市川雷蔵・本郷功次郎・淡路恵子主演の<濡れ髪>シリーズ第二作のカラー作品。助監督に池広一夫。
 三州は岡崎の部屋住い長之助(本郷功次郎)は将軍・家斉(前作の畝目役の役者)の40番目の妾の子。甲州の藩主が急死したため、急に藩主の口が回って来た。家斉がくじ引きで決めたものだった。育ての親の爺やは喜ぶが、ことの成り行きが面白くないのは、老中の堀田備前守。自分の息子を藩主にしようと長之助に刺客を送る。
 濡れ髪の半次郎(市川雷蔵)は偶々長之助を敵から助ける羽目になってしまう。旅の途中、刺客の目をごまかすために渡世人姿になった長之助は島田宿に身売りされるべく父親と旅するおさき(中村玉緒)と出会った。半次郎を鉄火肌のお蔦(淡路恵子)が追っかけて来る。ドン・ジョヴァンニを追うエルヴィラの役どころ。箱根の関所をお蔦と夫婦ものと擬装して通ろうとした若様だったが、代官に疑われたところを、半次郎の機転で助かる。謝礼を惜しむ老中方から若様方に寝返る敵もあって、なんとか修羅場を斬り抜ける二人+二人だった。
 江戸で将軍に対面した長之助は老中堀田備前守に対してケツをまくる。五万石の藩主の地位を放り出してやくざになってしまうのは、あまりにも非現実的だ。放り出してしまったら立場の弱い農民や身売りせざるを得ない不幸な娘たち、食い詰めてしまった旗本たちを助けることが出来ないのだから。
 和田弘とマヒナスターズの「好きだった」が挿入歌。淡路恵子は表情豊かで、素晴らしい。アメ売り唄を歌うアメ売り屋のおとし(楠トシエ)は特別出演待遇。
 やくざものの半次郎が喧嘩慣れしていて、強いのはいいとしても、部屋住みの若殿様である長之助も滅法強いのが変だ。切っ先をかわすというアクションではあるのだが、女を護りながら何十人もの侍と斬り合っても、善人たちは誰ひとりケガひとつしないところが、ご愛嬌ではある。
2012年3月6日


DVD
濡れ髪剣法


大映
1958年
88分
 松村正温脚本、加戸敏監督、市川雷蔵・八千草薫(東宝)主演の白黒作品。<濡れ髪>シリーズ第一作。
 遠州松平藩の若殿・源之助(雷蔵)は許婚の鶴姫(八千草)の前で剣法の腕を披露したが、鶴姫は家来の追従負けに気づかない源之助を咎める。鶴姫のお付の主水に負けて自分の未熟さを知った源之助は城を出て社会勉強をする決心をする。城代家老・芝田は若殿は疱瘡で重態と噂を流し失踪を隠す。初めて庶民に身を投じた源之助は始めはトンチンカンな言動や行為をくり返したが、次第に生活に馴染んでいく。源之助を見込んだ親方の弥平は身内に加える。この弥平の娘・おみねが中村玉緒。武芸者うちではさほど強くなかった源之助だが、素人よりは強い。たちまち腕っぷしの強さが目立つ。家老・松永弾正の行列に因縁をつけた浪人たちを追い払ったことで家老に見込まれ、若頭となる。家老は平源平と名乗る人物を若殿に似ているとは思うものの、家来が病気の若殿に会ったと報告していることから、別人と思っている。源平は仲間の与平次(潮万太郎)から城内では家老が実権を握り、さらにその実権を拡張しつつあると聞く。
 家老は江戸城下の松平藩主に薬と称して毒を飲ませ、息子の畝目を鶴姫と結婚させて家督を乗っ取ろうと策謀していた。源平はおみねや、源平の正体を見破った鶴姫、城代家老の息子・敬四郎(島田竜二)と協力して、松永の裏をかく作戦を立てる。
 明朗時代劇。八千草薫がきっぷのいい鶴姫を演じている。かなり面白い作品。
 
2012年3月5日


DVD
かげろう侍



大映
1961年
89分
 伊藤大輔原作、松村正温脚本、池広一夫監督、市川雷蔵・中村玉緒主演の時代劇ミステリー。音楽は鏑木創。沼津藩江戸屋敷に賊が侵入し、人別帳の一部が破り取られて盗まれた。正室に子が無く、藩主が端女に産ました男児を後継者にしたくないと企む正室の一味の仕業らしい。人別帳には子供の父親が前科者だと記されているらしい。賊が逃げ、家来が追う。走る男たちをカメラが追って走る。翌日、目明しが人(弥十郎)を探して八百八町を走る。スピード感のある演出が小気味良い。
 逃亡中の賊の捜査と人別帳奪還の命を受けて、遊び人の弥十郎(雷蔵)が土砂崩れで足止めをくらった小田原藩の旅館に逗留する。第一夜に宿屋では、密かに探索に来た沼津藩の侍(伊達三郎)が投げ小塚で殺されて、大騒ぎ。捜査主任の小窪(堺駿二)には皆目見当がつかない。弥十郎の許婚者のお珠(玉緒)が女中になりすまして、探偵役を勤める。二人の探偵は果たして真犯人を捕えることが出来るのか。怪しい人物は女たちだ。中風の父親を介護する子連れ女・お恵(近藤美恵子)か、お千(浦路洋子)か、お光(藤原礼子)か。ミス・ディレクションが多すぎて、解決を後ろへ後ろへと引っ張り過ぎているため、推理劇の面白さはあまり無くなってしまっている。題名の意味が不明。伊藤大輔戦前の作品のリメイクだろうか。
       映画川柳「」 飛蜘
2012年2月1日


録画
キューポラのある街


日活
1962年
100分
 浦山桐郎監督の傑作。これまでに何度か見た記憶があります。今回は衛星映画劇場で2年前に『母べえ』記念で放映されたときに録画しておいたものを見ました。吉永小百合が圧倒的に素晴らしい。これ一作で日本映画史に残ります。北朝鮮を賞賛していると批判されることもあるが、原作者の早船ちよは共産党員だったので原作はそうかもしれないが、映画は決して礼賛しているようには見えない。かといって批判しているわけでもない。朝鮮、朝鮮と頭から差別するのはいけないと、しごく真っ当な主張をしている。登場人物にいろいろな意見を言わせているので、映画が教訓的にならない。いちばんまっすぐな人物はもちろん吉永小百合演ずるところのジュンだが、彼女にも挫折があり、へこたれそうになるほどのつらい試練がある。ジュンの母親役は杉山とく子,父親役は東野英治郎。中学の担任教師は加藤武。
 ストーリーを振り返るだけではなく、こまかいところにも目がいった。松永鋳物工場の親方は殿山泰司だが、工場の奥の和室に親方は妾を囲っており、その妾の姿がちょっとだけ映るのだが、これが高山千草さんなんですね。落ち目の日活のロマンポルノを脇役で支えた高山さんです。
 朝鮮に帰るという三ちゃんの好きな女の子がカオル(岡田可愛)ちゃんで、いつもはスカートめくりなどいたずらをしかけているのだが、帰る前に思いを告げたいと三ちゃんは言っていた。そして学芸会で三ちゃんが主役で演じている劇がなんと『にんじん』! 三ちゃんはカオルちゃんがにんじんの家を訪ねて来たときに話し相手をするのだが、赤い髪のにんじんというセリフが観客の子供たちの「朝鮮ニンジン」というヤジを誘ってしまう。ジュンの弟はヤジを飛ばした男の子を追いかけて殴る。しかし、ヤジが飛ばないにしても、小学生の学芸会で『にんじん』の上演とは酷すぎる。そういうことが普通の時代だったのだろう。小田原城内高校の歴史を振り返ったときの資料にも戦後に生徒が『にんじん』を上演したという記録があった。
 「所得倍増」という言葉が子供の口から飛ぶ時代であった。 

       映画川柳「不正義に 怒る子供を 正面に」 飛蜘
2011年12月22日


DVD
宮本武蔵・金剛院の決闘(「二刀流開眼」改修版)

大映
1952年
92分
 伊藤大輔脚本・監督,共同監督に田坂勝彦,撮影は松井鴻,原作は吉川英治。台湾製のDVDでスーパーで販売されているもの。1943年の最初の題名は「二刀流開眼」。戦後1953年に再上映の際に改題された。白黒作品。
 音楽:佐藤顕雄/撮影:松井鴻/照明:加藤庄之丞/録音:池戸正享。
 扉がギィーッと閉じる。縛られた竹蔵(片岡千恵蔵)は姫路城の一室に監禁された。城主と澤庵和尚(香川良介)の暴れ者の竹蔵に反省させるためのはからいだった。3年後,幽閉を解かれた武蔵は剣の道一筋に生きると決意し,旅立つ決心を和尚に話す。和尚は剣先を天に向けさせ,その形が剣をきわめたものの形だと言う。和尚は諭す,剣の道は遠く険しい,さびしい道だ,道連れは要らぬか,城下外れの橋で待っているぞと。待っていたのはお通(相馬千恵子)だった。形見の笛。再会の約束を信じてお通は待っていたのだ。彼女は修行の妨げにならぬようにすると言う。お通が旅じたくの準備に家に戻っている間に武蔵は去った。橋に「ゆるしてたもれ」と書置きを残して。
 浜辺を歩く竹蔵。彼は「道中紀要」に恋慕を断たんと記している。修行の結果,剣の神髄を究めたように思った竹蔵は,金剛院の先にある山伏の道場で腕を試すことにする。あじろやという老人と子供の宿屋に止まる。一方,村のよもぎ宿の朱美(市川春代)を鉄砲鍛冶の修行中の又八(原健作)が訪ねていた。朱美はたよりない又八よりも竹蔵に魅かれていた。
 竹蔵は道場にて木刀で次々と槍の山伏を倒していた。道場に客分として来た月の輪御坊の僧たちも打ち負かされ,僧たちは頭領を呼びによもぎ屋へ走った。 
 竹蔵は打たれた左の肘が痛んでいた。しかし,決闘の結果,頭領も竹蔵に敗れた。その頭領は宍戸梅軒(月形龍之介)の弟だった。梅軒は弟の仇を取ると誓う。朱美は竹蔵が無事脱出できたことを喜んでいた。
 竹蔵は子供の城太郎(澤勝彦)に怪我が左腕でよかったねと言われ,ハッとする。旅先で出会った猿回しの太鼓打ちは両手が使えることを自慢していた。城太郎は弟子志願でついてきてしまう。地面に線を引いて,この線からこちらへ来るなとあきらめるように城太郎に話す竹蔵。しかし,泣く子には勝てぬ。とうとう線を消してしまう。ところで,城太郎の風で飛ばされた笠を拾ったのはお通だった。お通は竹蔵の後を追っているのである。
 機織り娘の見事な手さばきに感心して両手で絵を描く竹蔵。絵ばかり書いていて剣を教えてくれないじゃないかと抗議する城太郎に竹蔵は地面に刺した木を飛ぶ訓練を言い付ける。最終的には真剣を刺してこれを飛べと命ずる。気遅れして飛ぶことのできない城太郎。竹蔵は左右同時に同じ円を描くことができるようになる。障子の外へ月の輪御坊の嘉門(金子春吉)が忍び寄っていた。竹蔵は気配を感じて斬りつけつる。嘉門ら三人の山伏と決闘する竹蔵。三人を倒したようで川で剣を洗っている。
 竹蔵は日観和尚(藤川三之祐)を訪ね,柳生真影流の柳生石舟斎(高山徳右衛門)への紹介状を求める。石舟斎は80歳近くなり,隠居同然で,会わないかもしれないと和尚は言う。案の定,石舟斎は竹蔵に会おうとしない。家来たちは石舟斎のもとに身を寄せていたお通へ紹介状の取り次を願う。石舟斎の返書はやはり面会を断るものだったが,家来たちには戯言の返書と写った。竹蔵は添えられた梅の枝の切っ先を見てその腕に驚く。さらに枝を切り落とした竹蔵の気合は同宿のものたちを驚かせた。城太郎はなにかと高さを測り,跳び越えていたため隠密の疑いで召し捕えられる。
 城太郎の無実の訴えに耳を貸そうとしない石舟斎の家来に竹蔵は説得をあきらめ,城太郎を投げ飛ばして救い,自らをおとりとして家来たちと切り合う。階段ですべった拍子に二刀になり,二刀流のコツを会得する。探照灯で相手を目くらまして城壁から飛び降り逃げる竹蔵。
 二刀流に開眼した竹蔵は宮本武蔵と名乗る。石舟斎へ手合わせをと願って部屋の外まで侵入するが,ちょうど室内では石舟斎を尋ねて来た澤庵と話しているところだった。石舟斎は梅の切り口の一件で武蔵の剣を評価していた,ただし激しすぎるとも。そこへお通が入ってくる。お通は夜中じゅう機を織り,武蔵の着物を完成させたようだ。そしてひまをもらいたいというのである。澤庵はお通に武蔵の邪魔にはならぬか,武蔵に断わられたらどうすると問い質す。お通はあの方も一筋,わたしも一筋でございますと答える。石舟斎は武蔵に断られたらここへ帰って来い,決して死ぬなよと言葉を添える。外で聞いていた武蔵は黙って姿を消す。
 翌日,城を出発するお通と武蔵を探しつつ同行する城太郎がいた。武蔵は先にいずこへか旅立っていた。
 他のキャスト木村勘九郎(光岡龍三郎),庄田喜佐衛門(大国一公),安宅(原聖四郎),出関平兵衛(春日清),六峰(横山文彦),坊阿(浮田勝三郎),甲兵衛(葉山富之輔),志田(津島慶一郎),一雲(岬弦太郎),金剛優婆塞(多岐征二),えんじゅ円(藤川準),別宮(瀬戸一司),ガン鬼(市川左正),李十(興津光),岩テコ(駒井耀),天劫(中根正治),村田興三(浪花五郎),徳平(大倉多一郎),八公(ツネ公),小茶(上田玲子),求女(田中千代子)。
 お通の相馬千恵子や朱美の市川春代は表情豊かで美しい。物語の展開はブツ切りで進むときがあり,唐突な編集も見られる。『鞍馬天狗・黄金地獄』よりはましである。戦争中の1942年の作品にしては両作品とも戦争賛美のような影響が無い。しかし,撮影はじゅうぶんには行われなかったらしく,新東宝の『下郎の首』と比較すると,荒っぽいツギハギになっている。
2011年12月21日


DVD
鞍馬天狗・黄金地獄


大映
1942年
91分
 伊藤大輔脚本・監督,撮影は石本秀雄,音楽は西悟郎。スーパーで販売されている台湾製のDVD。物語は伊藤大輔のオリジナル。最初の公開題名は『鞍馬天狗横浜に現る』だったらしい。「黄金地獄」は戦後1953年に再上映されたときの副題。
 明治四年横浜。角兵衛獅子の兄妹,杉作(澤勝彦)とチャコ(上田玲子)がお力(琴糸路)の琴に合わせて大道芸を見せている。ひとまず見世物が終わったとき,空高く花火が上がる。西洋の曲馬団が来たのである。団員は風船で無料入場券を配布。人々は角兵衛獅子を忘れて我先にと券を求める。
 町の喧騒をよそに洋館内では理由は不明だが,拳銃で脅された小原正樹(原健作)が申し出を拒否して撃たれた。小原が窓から放り投げたドック通用門関の木札をチャコが拾う。一方,勘定方はヤコブ商会から納入された九千両の不良貨幣の取り扱いを問題にしていた。勘定方はヤコブ(上山草人)へ抗議したが日本の通貨に不良貨幣が混入しているのは日本の責任だとヤコブは言い張る。
 さて,曲芸団に居候している倉田典膳(嵐寛十郎)は居眠りばかりしていて,仲間からはぼんやりの倉田,ぼんくらと呼ばれている。曲芸師のドロシー(ガラー・コズロフ)から買い物の付き添いを依頼されると,いそいそと付いていく倉田を仲間たちは馬鹿にしていた。
 ヤコブ商会に従弟の造船技師・小原を尋ねて来た三浦勝比古(原健作の二役。細川俊之そっくり)は商会の用心棒から小原が行方不明になり,その原因は鞍馬天狗にあると聞く。盲目の姉お力の目の治療をヘボン博士(アレクサンダー・ペトロウィッチ)に診療してもらおうと横浜に来た杉作だった。商売にならないし,横浜から出ようというお力。チャコが飛ばした占いの下駄の足の木札に気づいた倉田は,姉弟に事情を聞き,お力をヘボン博士の病院へ連れていく。ヘボン博士は治療には時間がかかり,途中で眼帯を取ってはいけないことを諭す。手術で目が少しだけ見え始めたお力は倉田の胸に仕込んだ縫い針の輝きを心に留める。杉作は倉田をなんと呼ぶかを尋ねる。倉田は「親方」と呼べと答える。
 横浜の運上所ではヤコブの小判には金が1割3分しか含まれていないことを問題にしていた。しかし,ヤコブのドックで建造中の蒸気船は日本の大切な財産である。まるで蒸気船を人質に取られているような格好だった。所長は内内に偵察を始めている。不正を傍観してはいないのだと打ち明ける。
 調査に入っているのは鞍馬天狗だった。夜,建造中の船に侵入した鞍馬天狗。案内はヤコブ商会の使用人だ。しかし,発見されて撃ち合い,斬り合いになる。杉作は海に飛び込んで逃げる。
 杉作と倉田は濡れた着物を焚き火で乾かしながら,話をしている。倉田は経済を説く。昔は大名ごとに金の割合が違っていた。御一新で統一貨幣になったが,旧来の因習が残り金の割合はじゅうぶん統一されていない。それを良い事にヤコブ商会は悪貨を流通させて来た。このままでは国の経済は破綻する。
 郷里から小原の妹・小原由香(内田博子)が上京してきた。三浦は同宿の倉田を従弟の仇とにらむ。強い雨が降って来た。雨宿りをしていた倉田は杉作を使いに出した。三浦が来て,貴殿はなぜ小原のドック通用門関の木札を所持しているのかと問う。倉田は小原からもらったものを自分が手に入れただけというが,三浦は信じようとしない。対決になる二人。しかし,途中で通行人の邪魔が入り,倉田は勝負は自分の勝ちだ,休戦にしようと提案する。
 お力は大手術を受け,両眼とも眼帯をすることになった。商会の用心棒は曲芸団の大吾にニセ鞍馬天狗になり,三浦を呼び出して斬れと依頼する。団の仲間たちはくじ引きで応援者を選ぶ。もともと鞍馬天狗なんていない,そいつを退治に行くなんて笑い草だ,といまや誰も鞍馬天狗の存在を信じていない。
 三浦は鞍馬天狗からの呼び出し状を受け取る。呼び出された場所で大吾に斬りかかられたが,加勢に来ていた本物の鞍馬天狗に助けられた。一方,天狗の正体に気付いたヤコブはお力とチャコを眼病治療の新しい機械が着いたと騙して誘拐していた。
 倉田は通用門関に小原が「ヤコブに殺される」と書きとめていたことを明かす。普通の者には爪で引っ掻いたらしい木札の文字は読みとれない。しかし,盲人のお力には触れて読めたのだ。倉田は三浦へ西郷兵部郷閣下への手紙を託す。それには一連の事情が記してあり,援軍の要請が書かれていた。深夜,ヤコブ商会に乗り込む倉田。捕らわれた天狗を危ういところで助ける杉作。東京から駆けつける援軍は間にあうのだろうか。地下の鋳造工場ごとドックを爆破するぞと脅すヤコブ。軟禁されたお力は縫い針で遺書をしたためていた。結末や如何に。
 他のキャスト:王文年(山本冬郷)/カール(トニー・ミスチェンコ)/一ノ瀬(仁禮功太郎)/御座り松(水野浩)/中政(春日清)/劉(浮田勝三郎)/丈吉(石川秀道)/藤兵衛(葉山富之輔)/庄司(志茂山剛)/ナータン(岬弦太郎)/白部(福井松之助)/李(楠榮三郎)/半七三(市川佐生)/祗王(封島和雄)/宗方(嵐徳三郎)。

       映画川柳「維新後は 鞍馬天狗も 伝説に」 飛蜘
2014年11月28日 菅原文太さん命日  2014年11月28日、菅原文太さん、転移性肝がんによる肝不全のため東京都内の病院で死去、享年81歳。仙台市出身。東映が12月1日、発表。1972年、札幌で見た『現代やくざ・人斬り与太』に感動、映画ファン同士であだ名をYOTAと名乗ったほどでした。あれから42年、文太さんの映画を見続けてきました。高倉健さんが亡くなり、その後を追うように文太さんも亡くなりました。感無量です。
 『キネマ旬報』2015年2月上旬号No.1681は特集「菅原文太 一番星になった男」。『人斬り与太』における文太の暴れっぷりの凄さを高く評価しているのは坪内祐三。『狂犬三兄弟』までにミッチェル(撮影機)を改造してズームレンズが付いて同時録音ができるというドキュメンタリー・タッチを可能にした機材があった(『映画監督 深作欣二』)ことに注目している。
 『仁義なき戦い』以前の『人斬り与太』や『極悪坊主』などに注目しているひとにスタジオ・ジブリの鈴木敏夫プロデューサーもいた。『キネマ旬報』特集での上野昂志も『人斬り与太』を高く評価していた。渚まゆみの思い出話も興味深い。
 
2011年12月8日


DVD
現代やくざ・人斬り与太


1972年
88分
 深作欣二監督が仲沢半次郎撮影でノーレフ、ノーメイク、手持ちカメラで撮った傑作。『仁義なき戦い』の先駆的作品。暴力団と対抗してチンピラとして生き抜こうとする主人公を描いている。津島利章の音楽がチャラチャラした感じで素晴らしい。
 1970年代、負けいくさで退潮期にあったノンセクト・ラディカルに対する応援歌である。主人公の沖田勇(菅原文太)の語りとともに、その生き方に寄り添った作品で、勝ち目のない大組織に徹底して刃向かう主人公に対する共感にみちみちている。主人公以上にひとりで戦う姿が印象深いのは、田舎から東京へ出て来たばかりの時期に強姦された過去を持ち、暴力バーの売春婦となっている、きよみ(渚まゆみ)。最後に子分のためを思い、自分の指をつめて矢頭(安藤昇)組に恭順の意志を示そうと決心していた沖田勇に、あと先を考えさせずに怒りの炎を燃やさせたのは、たった一人で戦って殺されてしまったこの女だった。計算を超えた怒りの情念が燃えたのだ。映画情報誌「観覧車」に忘れられた名画 焼け跡の野良犬、奮戦すという紹介をしたことがあります。読者の理解を拒否する個人的な思いに偏した感想でした。

       映画川柳「愚連隊 それが何より 勲章に」 飛蜘
2011年12月1日


ビデオ
木枯し紋次郎
関わりござんせん


東映
1972年
90分
 中島貞夫監督の第2作。製作は俊藤浩滋・日下部五朗、脚本・野上龍雄、撮影・わし尾元也、音楽・津島利章、照明・中山治雄、録音・野津×男、美術・吉村晨、編集・市田勇、監督補佐・牧口雄二、助監督・俵坂昭康、擬斗・上野隆三。ビスタサイズの中古ビデオしかない。
 木枯し紋次郎(菅原文太)は仁侠の事情で今市の藤三を斬った。藤三の舎弟・金蔵(山本麟一)は荒くれどもを雇って紋次郎の後を追う。
 川沿いのボロ家で生まれたばかりの赤子を殺そうとする母親(賀川雪絵)を止め、若干の金子を与えた紋次郎だったが、母親はその直後に赤子だけでなく、幼な子二人も道連れにして自殺してしまった。わずかな金子が希望を無くさせたんだろうと村人は話す。紋次郎は愕然とする。クレジット・タイトル。
 紋次郎は国定忠治の賭場でまったく目が出なかった。どしゃぶりの雨のなか、賭場で勝ったために渡世人に狙われてしまった常平(田中邦衛)を助ける。常平はこの恩はきっと返すと誓う。
 玉村宿で常平に再会した紋次郎は借りを返したいという常平の意向で一宿の恩を受ける。宿場の部屋に常平が差し向けた宿場女郎(市原悦子)が、ふと口ずさんだ子守歌。その一節から、紋次郎は彼女が自分の姉おみつだと気付く。翌朝、紋次郎は酔いつぶれたおみつを残し、発っていった。常平から紋次郎の名を聞いたおみつは初めて弟がいっぱしの渡世人になっていたことを知る。
 玉村宿を仕切る下瀧(大木実)一家は最近、はばをきかせて来た箱田の六兵衛(伊達三郎)と争っていた。下瀧はおみつの自慢話を聞き、おみつを利用して紋次郎を味方に抱き込もうとする。おみつの身請け証文を三十両で買い取って、さらに店まで出してやろうと言うのだ。姉に呼ばれた紋次郎は下瀧の条件を最後まで聞かずに断り、おみつの借金と聞いた百両をなんとか作ると約束して、去ってしまう。おみつは情のないやつと紋次郎を恨む。
 下瀧が紋次郎を悪く言うのに腹を立てた常平は、密かに箱田の六兵衛を斬り、わざと「紋次郎だ」と名乗る。噂はアッという間に広がり、おみつも自慢話を吹聴する。しかし、実際の犯人が常平であることは下瀧の代貸・巳之吉(汐路章)が目撃していた。いい気になっているおみつに下瀧は本当は紋次郎の仕業ではないと言う。金蔵は、箱田に肩入れしていたが、下瀧に紋次郎の首を条件に和解を申し入れる。下瀧にたかが流れ者ひとりを護る道理は無い。下瀧は条件を受け入れ、金蔵と手を結ぶ。
 一方、紋次郎は間引きから自分を救ってくれ、盗人といじめられた自分を守ってくれた姉の恩を決して忘れてはいなかった。賭場で少しづつ金を稼いでいた。そして大店の旦那(名和宏)と指しの勝負で百両を得る。賭場で勝負を見ていたという常平は自分が紋次郎の名を騙って六兵衛を斬ったと明かし、玉村宿には近づくなと助言する。そこで、紋次郎は常平に百両を託す。
 夜になって宿場に着いた常平がなじみのお駒(中村英子・新人)に様子を聞くと、おみつは下瀧のところに連れて行かれたと云う。下瀧はおみつに紋次郎宛の手紙を書かせる算段をしていた。そこへ金を持った常平が現れた。巳之吉は常平を刺し、斬り合いをどうにか切り抜けた常平はお駒に伝言を頼んで、こと切れる。国定の宿で代貸(待田京介)から姉の手紙を読んでもらった紋次郎、金のことを書いていないのを不審に思い、会いに行かずに、そのまま出立する。しかし、そこへお駒が駆けつけた。自分をお引き寄せる罠だと分かった紋次郎だったが、行かなければ用済みになった姉は殺されてしまうと、ひとりで玉村宿へ乗り込む。
 砂嵐がまう朝の玉村宿。待っていたおみつ。おみつが貰ったという店に入ると、裏には下瀧一家が、表には金蔵一門が待ち構えていた。おみつを人質にとって刀を捨てろと迫る下瀧。捨てた刀で油断した巳之吉の目を、紋次郎は楊枝で突き、おみつを救う。しかし、紋次郎が自分から離れるなと諭したおみつは、下瀧を頼った。おみつは下瀧に斬られてしまう。紋次郎は下瀧や金蔵を斬り捨てる。「俺が倒れても誰かが追う。楽はさせねえ」と言う金蔵の言葉が紋次郎の背中に響いた。

       映画川柳「思い出に 裏切られるが 紋次郎」 飛蜘
2011年11月30日


ビデオ
木枯し紋次郎


東映
1972年
91分
 テレビの中村敦夫主演の木枯し紋次郎ブームにあやかって製作された中島貞夫監督、菅原文太主演の東映映画。文太主演の東映映画は二作あるが共にDVDが出ておらず、シネマスコープ版のビデオも出ていない。中古ビデオを入手した。第一作の原作は「赦免花は散った」。
 十手持ちを斬ってしまったという左文次(小池朝雄)の身代わりとなって島送りになった紋次郎。瀕死の母親を看取った後に左文次は自首して紋次郎の無実をはらしてくれるという約束だった。
 島には二本のソテツがあり、流人たちはその赤い花が咲くとご赦免の通知が来ると信じていた。紋次郎が島へ送られるときに島送りの船を追う小舟から海へ身を投げた両替商の娘・お夕(江波杏子)と同じ名前の流人・お夕(江波二役)を、なにかと助けて気持ちの張りを保っていた紋次郎だったが、半年ぶりに送られて来た流人の一人(西田良)から「左文次の母は暮れに亡くなった」と聞いて、本土へ確かめに行こうと、島抜けの一味に加わる。
 赦免状が届かなかった絶望からお夕は断崖へ身を投げた。島抜けの計画中だったその年は天保六年、三宅島の雄山が噴火した。その騒ぎに乗じて島抜けを謀った者は五人だった。舟を出し、乗り込んだ五人のうち、船頭上がりだという仙蔵(山本麟一)は仲間割れをそそのかす言動をして、無鉄砲な若者(渡瀬恒彦)や女郎(賀川雪絵)を殺してしまう。
 嵐にあって奇跡的に浜に流れ着いた仙蔵や男(伊吹吾郎)、紋次郎。紋次郎は生命を狙われるが、仙蔵を斬って生き延びる。ケガをした男を手当し、賭場でもうけた金で身支度を整えた紋次郎。小屋に戻ったところを後をつけて来た博徒の一家に斬りかかられる。紋次郎が助けようとした男さえその刃を紋次郎に向けてくる。斬り抜けた紋次郎は、臨終の男の口から小天馬町の牢番から紋次郎殺しを条件に赦免するとの約束があったと聞かされる。
 すべては今は十手預りとなった左文次の陰謀だった。日野の宿場へ乗り込んだ紋次郎は左文次と対面する。俺を斬ればてめえの無実を証明してくれる人間はいなくなると取引を持ちかける左文次。そんな甘言にだまされる紋次郎ではない。死んだお夕さんにも申し訳がたたない。ところが、お夕は生きていた。しかも左文次との間の子供を抱いていた。始めから仕組んだ罠だったのだ。左文次をたたき斬った紋次郎に、お夕はもう「生きていくにも頼りがない。わたしを斬ってくれ」と頼む。紋次郎は「あっしには関わりあいのねえことでござんす」と去っていった。

       映画川柳「狂言を 信じたままで 島送り」 飛蜘
2011年11月12日



NHK総合TV
21:00〜
使命と魂のリミット 後編


NHK
2011年
60分
 土曜ドラマ。東野圭吾原作、石原さとみ演ずる研修医・夕紀が謎解きの中心になる。後篇はかなりの部分が手術場面のため、顔がほとんどマスクで隠れてしまう。目だけで演技をしなくてはならない。石原さとみや医師・西園役の館ひろしはじゅうぶん目で演技をしていた。
 物語自体は原作にほぼ忠実(脚本は吉田紀子)。夕紀の父(永島敏行)は西園教授による心臓手術中に死んだ。そんな西園が夕紀の母(高島礼子)が再婚しようとしている相手だった。「医療ミスを公表しなければ病院を破壊する」という脅迫状が病院に届く。父の死と医療ミスとは関係があるのだろうか。西園の息子が死んだ事故に父が関わっていたことを夕紀は知る。
 一方、看護師・望(倉科カナ)に近づくエンジニアの青年、譲治(速水もこみち)がいた。病院では自動車会社の島原社長(中尾彬)の心臓手術が西園教授の執刀で進められようとしていた。島原社長の社の車が欠陥を隠していた事故で複数の人が亡くなっていた。そのなかに譲治の婚約者もいたことが分かる。脅迫犯の捜査に当るハミ出し刑事(吹越満)は譲治の犯行と目星を付け、彼を追い詰めようとするが、犯行の方法も居場所も分からない。島原社長の手術中に病院の電源室が爆破される。緊急電源でなんとか手術は継続したものの、次の犯行が準備されている。急患も出る。手術中の患者の生命はいったいどうなるのか。ギリギリの交渉が始まる。

       映画川柳「悪い奴 もうけ主義者 でも 患者」 飛蜘
2011年11月5日


テレビ朝日
21:00〜23:08
火車


テレビ朝日
2011年
100分
 土曜ドラマ。宮部みゆき原作、森下直脚本、橋本一監督。主役の刑事に上川隆也、相棒に寺脇康文、幻の女に佐々木希、関根彰子に田畑智子。原作では謎の女がラストに出現する場面がヤマ場だが、映像化したときにはその謎の女は最初から写真で現れてしまう。すると、その分だけサスペンスが失われてしまう。うまくドラマ化されていたとは思うが、原作の謎めいた雰囲気が薄れてしまったところが残念だった。
 ひとつ疑問な点は、女の細腕で重機を使わないと出て来ないほど深く小学校の地下に死体を埋めることができたのかというところ。
 同じ時間帯にNHK総合TVでは東野圭吾原作の『使命と魂のリミット』前篇を放映。そちらも見たかったが、今週は『火車』を択びました。

       映画川柳「借金が 過去を消させる 人も消す」 飛蜘
2011年11月3日


ビデオ
帰って来た木枯し紋次郎



東宝
フジテレビ
1993年
95分
 市川崑脚本・監督作品。木枯し紋次郎は、1972年にフジテレビの第一シリーズ、1977年に東京12チャンネルテレビの第二シリーズが放映された。第一シリーズから20年もたって本作が製作された。もとはテレビのスペシャル番組として撮られたということで主題歌やタイトルバックは第一シリーズのフジテレビ版がそのまま使われている。テレビ放映での評判が良かったので劇場でも公開されることになったということだった。
 野尻峠で激しい雨のなか、十兵衛親分の仇と襲われた紋次郎は襲った八兵衛と共に谷底へ落ち、目撃者の茶屋の主人が死んだと信じて墓を作った。爾来5年の月日がたち、その名前も忘れられていた。
 しかし、紋次郎はは生きていた。尾張の木を切り出すソマ師(加藤武)に助けられ、堅気のソマ士として働いていたのだ。娘(鈴木京香)と所帯を持たせて落ち着かせたいと父親は考えていたが、家を出て渡世人となった息子の小平次が五郎蔵(岸部一徳)のもとで大きな仕事をすることになったと聞き、ちょうど怪我をした折に、紋次郎に息子の帰還を手助けしてもらうべく依頼する。
 五郎蔵は年老いた母親の看病をしていたが、百姓一揆をデッチ上げ、雲上金を取り消してもらうべく画策していた。十兵衛の恩を受けたお真知(坂口良子)は水を張った桶で未来を予知する能力、天眼通を持つ。紋次郎が来るのを予言する。お真知は恩人・十兵衛殺しは紋次郎の仕業と信じきっていた。

        映画川柳「死んだはず 墓も作られ  紋次郎」 飛蜘


シェイクスピア作品の映画化やその関連の映画は除く。
それらは別ファイルになっている。→ 『シェイクスピアの劇と映画


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