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 映画 日記              池田 博明 


これまでの映画日記で扱った作品データベース  映画日記 前月の分  


2012年4月1日以降、9月30日までに見た 外 国 映 画 (洋画)

見た日と場所 作  品              感    想 ・ 梗  概   (池田博明)
2012年9月8日



DVD
バベットの晩餐会



MGM
デンマーク
1987年
104分
 カレン・ブリクセン(イサク・ディーネセン)原作、ガブリエル・アクセル脚本・監督作品。紀伊國屋書店販売。
 デンマークの辺境の地ユトランドに住む美人姉妹がいた。スゥエーデンの軍人ローレンスは軍隊生活に身が入らず、辺境の地の伯母のもとへ追放される。そこで、ローレンスは姉のマーチーネに一目惚れするが、姉妹の父親の牧師は娘たちを嫁がせるつもりはなかった。身を引いたローレンスはやがて軍人として大成し、結婚もするが、割りきれない虚しさを覚え始めていた。
 原作では姉妹の名前はルター派のマルティン・ルターとその友人フィリップにちなむもので、父親の宗派は「この世の快楽を悪とみなして断っていた、地上とそれが与える一切の快楽は幻想にすぎず、本当の世界は彼らが深い郷愁の念を抱いてひかれている新たなるエルサレムであった」。青年将校は原作では「享楽三昧の暮らしをして借金で首が回らなくなり。父親になきつく羽目になった」と書かれているが、映画の方はやや曖昧な異なる描かれ方をしている。
 一方、フランスの歌手アシール・パパン(贋作ではアシーユ)は妹フィリパの声に惚れ、個人教授を申し出る。
 パパンは舞台ではモーツアルトの歌劇『ドン・ジョヴァンニ』のセレナーデを歌っているし、村ではシャンペン・アリアを口ずさんでいる。フィリパと声を合わせてツェルリーナを誘惑する二重唱を歌う。女たらしのヒーローの歌ばかりを選んでいるのが、なんだか可笑しい。フィリパは自分の心の危うさに戸惑って歌の訓練を辞めることにする。失意ののパパンは帰国する。
 原作では「大きな世界からやってきたこの客人のことを、姉妹はほとんど話題にしなかった。ふたりには、彼について語り合う言葉がなかったのだ」と書かれている。
 やがて父親の牧師が亡くなる、革命がおき、パリ・コンミューンも起こる。パリからバベットが姉妹の家を訪ねてくる。家族を殺されたバベットはパパンの薦めで姉妹のもとへ身を寄せたのだった。賃金なしで匿ってもらうかたちのバベットはやがて村になじみ、姉妹二人の善行に欠かせない料理人となる。
 こうして十四年がたった。
 ある日、パリからバベット宛ての手紙が来る。毎年買っていた宝くじが当たったのだ。賞金は1万フラン。姉妹はこれを機会にバベットはパリへ帰国するだろうと覚悟する。バベットは「これまで頼みごとをしたことのなかった自分の初めての頼み」といい、姉妹の父の誕生日を祝う夜のフランス料理の晩餐会を提案する。費用も自分持ちで行わせて欲しいと云う。
 姉妹は承知したものの、到着した準備された食材(ウミガメ、ウズラ、ウシ、酒)を見て、不安になる。魔女の饗宴という連想が働く。マーチーネの不安を聞いた招待される近所の人々は相談して料理の批評をしないことにする。晩餐会には急きょ、ローレンス将軍も伯母とともに来ることになあった。
 バベットの晩餐会が始まる。落語の「長屋の花見」みたいな可笑しい晩餐会がくり広げられる。料理は超一級品だった(ウミガメのスープ、アモンティラード、ブリニのデミドフ風、レモネード、ウズラの石棺風パイづめ、赤ワイン、ケーキ、サラダ、水、コーヒー、水。おいしい料理が人々の気持ちをほっこりさせ、気難しくなり、仲違いをしかけていた人々は柔和になり、和解する。将軍は料理のコメントを口にし、カフェ・アングレの女性料理長の料理は官能的なものだったと愛でる。
 将軍は感激して立ち上がり、人生で自分たちが恐る恐る選択したことも、神の御心にかなっているのだ、逃してしまったことさえ取り戻せるものだと演説する。食事を終えて去り際に将軍はマーチーネに「離れていてもずっと心はあなたとともにいる」と告白する。マーチーネも分かっていた。
 「すばらしい晩餐だった」とバベットに感謝し、パリへ去るのだろうと言うと、バベットは戻るところはないし、お金もないと答える。「あの1万フランは?」「カフェ・アングレの12人分の料理は1万フランでした」。バベットはカフェ・アングレの天才料理長だったのだ。「芸術家は最善の努力をするもの」というバベットに、フィリパはこれで最後ではない、天国での仕事がきっとある、天使も驚くだろうと答える。

【参考文献】イサク・ディーネセン『バベットの晩餐会』(ちくま文庫、1992)。原作ではカフェ・アングレのお客様としてバベットがその名前をあげた人々はみな死んでしまったが、その裕福な人々はコミューン支持派だった彼女の夫や息子たちを殺した残酷な人々だった。しかし、彼女が芸術家として最高の能力を発揮する機会を与えてくれた客でもあったのだ。映画はこの当りの事情には触れていない。
2012年8月21日


DVD
マンディンゴ


U.SA
1975年
123分
 リチャード・フライシャー監督の評価が分かれる異色作。公開時のアメリカの評価は最低。白人が見たくなかった奴隷差別の実態を描いたからだった。製作はディノ・デ・ラウレンティス。1972年『バラキ』、1973年『セルピコ』、1976年『キング・コング』(リメイク)など話題作を製作していた。再評価されたのは1997年以降。
 奴隷牧場を運営するファルコンハースト農園の老当主のマクスウェル(ジェームズ・メイスン)は息子ハモンド(ペリー・キング)に運営を任せるが、息子は嫁を娶らなければならなかった。マクスウェルは自分の目が黒いうちに孫が見たいという。ハモンドは見合いをして没落しかけて困窮している少佐の娘ブランチ(スーザン・ジョージ)との結婚を承諾する。しかし、ブランチとの初夜で処女でないことが分かる。ブランチは否定するがかえってハモンドの怒りを大きくする。ハモンドはブランチを遠ざける。ブランチは一度、兄に犯されたことがあったのだ。ハモンドは黒人娘エレン(ブレンダ・サイクス)との浮気に溺れ、その結果エレンは妊娠してしまう。怒った妻のブランチはエレンをムチ叩きにし、逃げようとしたエレンは階段を転落、流産してしまう。
 一方でハモンドがニューオリンズの奴隷市場で偶然にも、黒人の中でもサラブレットとされるマンディンゴをせり落とした。ガニメデまたの名をミードと名づけられた黒人男(ケン・ノートン)だった。ミードは奴隷同士の死闘でも勝者となる。
 ブランチはハモンドの留守に、ミードを誘惑し、脅迫して腹いせの情事をしてしまう。妊娠したブランチ、やがて子供が生まれるが黒人だった。ハモンドはブランチを毒殺しようと考える。嫉妬に狂うハモンドは、ミードを釜茹でにしようとする。抵抗するミードだったが、釜に落ちてしまう。止めに入る下男と揉めあった挙句、下男はマクスウェルを撃ってしまった。

【参考文献】町山智浩『トラウマ映画館』(集英社,2011) 
2012年8月20日


NHK
SHERLOCK2



BBC
各90分
 現代にホームズとワトソンがいたらという仮定のもとにコナン・ドイルのホームズものを蘇らせた英国のシリーズもの。グラナダTVのマープルものも時代設定を変更していたが、この作品は完全に現代に設定している。ワトソン(マーティン・フリーマン)はコンピュータ持参でブログにホームズの事件記録をしているし、ホームズ(ベネディクト・カンバーバッチ)は携帯電話を駆使する。モリアーティは犯罪コンサルタント。ホームズには兄マイクロフトがいて政府の秘密組織の高官。若きホームズの性格はかなりエキセントリックに描かれている。
 シーズン2の第1話「ベルグレービアの醜聞」(脚色スティーヴ・モファット、演出ポール・マクギガン)では、国家機密を握った女アイリーン・アドラーが登場し、ホームズを翻弄する。第2話「バスカヴィルの犬」(脚色マーク・ゲイティス、演出ポール・マクギガン)では、バスカヴィルの動物実験施設を中心に事件が起こる。第3話「ライヘンバッハ・ヒーロー」(脚色トビー・ヘインズ、演出スティーヴ・トンプソン)では、モリアーティがホームズに正面から挑戦する。巧妙で周到なワナにかかるホームズ危うし。自殺するしか友人たちを救う道がなくなったホームズの取った行動はいったい何か。 

【参考文献】別冊映画秘宝『シャーロック・ホームズ映像読本』(洋泉社,2012年)
2012年8月1日


DVD
マドモアゼル



英国
1966年
103分
 トニー・リチャードソン監督の異色作。白黒作品。オリジナル脚本を泥棒作家ジャン・ジュネが書いた。トニー・リチャードソンの自伝によると、ジュネの仕事ぶりはきちんとしていて、そつがなかったそうである。リチャードソンが「こんなに信頼できる脚本家は初めてです」と褒めると、翌朝ジュネは黙ってロンドンを去って行ったという。助監督は「ジュネさんに仕事をさせたいのなら、「あんたは怠け者で全然信用できない」と言わなきゃダメですよ」と言ったという。孤児だったジュネは養父母に愛されてはいたが、自分の未来が閉ざされていると知ったときから反抗を始めていた。進んでならず者になろうとしたのだった。
 映画の中のフランスの片田舎ではパリから来た美人教師(ジャンヌ・モロー)が「マドモアゼル」と呼ばれて敬意を払われる一方、イタリア系移民はよそものとして遠ざけられている。そんな状況のなか、女は骨身を惜しまず働くイタリア系の男性マヌーに惚れる。男は女房を亡くし、息子ブルーノと二人暮しだった。女はまず息子を学校へ来るように誘い、家庭教師として接触、男の関心を惹くように試みる。いざ学校へ通うようになった息子を教室で特別にいたぶる。
 冒頭、水門をひとりで開く女が描かれ、川の水が村に流れ込んで大騒動になる。必死で牛や馬を助ける男を見つめる女。この構図が全体の構図でもある。村には放火事件が相次ぐ。この犯人も女教師だった。息子はあるとき、点火につかった紙きれの筆跡で真犯人に気づくが、黙っている。よそものへの違和感から村人は男が犯人ではないかと疑い始める。女が水場に入れた毒で家畜が全滅し、村人の疑惑が頂点に達したとき、森に入った男と女は雷雨のなか、激しく愛し合う。しかし、男が村を離れると知ったとき、女は急に男のもとを去って村へ帰る。男の獣性に屈服した女のプライドが傷ついたのだった。破れ汚れた衣裳の様子に村人はマドモアゼルが男にレイプされたと早合点する、「やったのは彼ですね?」。女もそれを肯定する、「そうよ!」。男は村人たちに撲殺され、死体は隠される。息子は突然姿を消した父親を不審に思う。父の友人アントニオと村を出る息子はパリで車で戻るマドモアゼルを見送るかたちになる。息子は唾を吐く。マドモアゼルはそれを無視して去っていく。

【参考文献】町山智浩『トラウマ映画館』(集英社,2011) この本の表紙の映画は『マドモアゼル』
2012年7月12日


DVD
悪いことしましょ


USA
2000年
94分
 スタンリー・ドーネン作品(1967)のリメイク。エンド・クレジットでドーネンにスペシャル・サンクスが捧げられている。悪魔役を女性に替えて演出、悪魔役のエリザベス・ハーレィが話題になった。『ゴースト・バスターズ』のハロルド・ライミス監督作品。同じコンピュータ会社の社員の美人社員アリソン(フランシス・オコーナー)にひとめ惚れしたのがきっかけで、7つの願いをかなえてくれる悪魔に魂を売る契約をした青年エリオット(ブレンダン・フレイザー)。7つの願いは原作では7つの大罪に対応していたようだが、リメイク作品ではその手の対応は無い。大金持ちになったはいいが麻薬王だったり、知的な作家になったがゲイだったり、繊細な人間になったが恋人にあきられたり、巨体のバスケットボール選手になったが決まり文句しかいえない極小ペニスの持ち主だったり、大統領(リンカーン)になったが暗殺される予定だったりと、予想もしないトラブルにみまわれるのが、人生だ。最後に残った願いが無欲な「彼女に幸福な人生を」だったため、契約の条項により、魂の取引は失効する。
 私の予想としては、最後の願いは「悪魔と結婚する」だったんだが・・・。
2015年1月30日


NHK
14:10
死の国の旋律




NHK
2004年
45分
 戦後70年『人間の闇 アウシュビッツ』特集アーカイブで、2004年放映作品「死の国の旋律 アウシュビッツと音楽家たち」。
 ポーランド生まれのゾフィア・チコビアクさん(80歳)は、脳梗塞になり、死を自覚して重い口を開き始めた。バイオリンが弾けた彼女はアウシュビッツ収容所で1943年5月に組織されたオーケストラに入った。オーケストラの任務は<死の選別>によりガス室送りになる人たちの行進を伴奏する役目だった。「陽気な音楽、勇壮なマーチを」というナチスの要請だった(BGMで付けられていた音楽はラデッキー行進曲)。40名の団員も安全ではなかった。オーケストラは他の収容所でも組織されていた。脱走を図った囚人を絞首刑にするまでの間にモーツアルトの協奏曲を弾かされたりした例もあった。
 指揮者は「上手に弾けなければ私たちもガス室なのよ。感情を殺しなさい」と言っていた。マンドリン奏者のマーシャの兄は特別作業班で自分の父母をガス室に送る係りになってしまった。兄の手紙でそのことを知ったマーシャはわれを無くし、電流鉄線に身を投げて自殺しようとした。ゾフィアは彼女を殴って止めた。「私たちだって同じことをしているのよ」と叫んだ。
 ヘスラー所長にオーケストラを辞めたいと申し出ると、所長は代わりに何がやりたいんだと聞く。「なんでもいいです」「オーケストラか懲罰作業かを選べ」結局、オーケストラに残った。自分はそのとき負けたのだ。
 1945年5月にナチスが敗れ、解放された。戦後、事務員として雇われたが軍服を見ると貧血を起こし叫び声をあげる始末で数時間で辞めた。音楽もまともに聞けなかったし、再びバイオリンを弾くこともできなかった。10年後にコンサートに行ってみたが、「ある晴れた日に」を聞いたら気を失って救急車で病院に搬送されてしまった。「ある晴れた日に」は収容所で演奏していた曲だったからだ。
 戦後13年後の1958年、35歳のとき、アウシュビッツを訪れた。見学に来ていた囚人たちを見た。そのときをきっかけに少しずつ音楽を聞けるようになった。
 再び訪れた収容所跡。厳しい状況下でも人間の良心を失わなかったひとのことを思い出す。助産婦のマリアは生まれたばかりの赤ん坊を殺せと言われたにも関わらずそれに抵抗していた。ひとりで長い道を歩いて赤ん坊に湯をつかわせる水を運んでいた。年金生活のゾフィーはポーランドのクラクフでひとり生活している。オーケストラ団員だった後輩のヘレナ・ニビンスカ(78歳)とときどき会って話をする。ヘレナは収容所の記憶を思い出したくないようだ。ナチスに荷担したことが団員の口を重くしている。

 2015年の再放送時のゲストは大石芳野。戦後もポルポトやコソボ、スーダンなどで民族浄化の名のもとに虐殺は繰り返されている。司会は桜井洋子アナウンサー。
2012年6月4日


DVD
戦場のピアニスト


ポーランド・フランス合作
2002年
149分
 ポランスキー監督作品。ポーランドのユダヤ人迫害の歴史をピアニスト、ウワディク・シュピルマンを主人公に描く。1939年の9月、ナチスがポーランドに侵攻した日のワルシャワから始まり、戦後まで。ゲットーへの移住を命じられたユダヤ人たちはやがて1942年8月、列車に乗せられて移動を始める。ドイツ人警察に身売りしたヘラーが突然ウワディク(エィドリアン・ブロディ)の腕を取って列から引き離した。「すぐに逃げろ。歩け。走るな」と言うヘラー。
 シュピルマンはゲットーの労働者に加わる。ユダヤ人たちは密かに武装蜂起の準備を進めていた。シュピルマンは歌手ヤニナをたよってゲットーを脱出する。ヤニナと夫はシュピルマンを隠れ家に隠し、ラジオ局の技術者だったシュワルツに世話を頼む。シュピルマンはゲットーでのユダヤ人の抵抗運動やワルシャワ蜂起を窓から目撃する。シュワルツはシュピルマンの名を利用して募金したようだが、シュピルマンには食料を運ばず、飢えでシュピルマンは瀕死となる。新人に気づかれ、隠れ家から脱出したシュイルマンは緊急時にたずねよと渡されたメモを頼っていくと、そこはドロタ(エミリア・フォックス)が夫と住む家だった。彼らはドイツ軍の目と鼻の先に隠れ家を置いていた。しかし、連合軍やソ連軍の攻勢が強まり、ドイツ軍は建物の砲撃を開始。からくも逃げたシュピルマンは崩壊した街の建物の屋根裏に隠れる。ドイツ人将校に発見されるが、その将校はピアノ演奏を聞くと屋根裏部屋に食物を持ってきてくれた。最後にコートを置いて撤退していった。ドイツ軍のコートのせいで危うくソ連軍にドイツ兵と思われて撃ち殺されそうになったが、命拾いするシュピルマン。戦後、ソ連軍の捕虜のなかに「シュピルマンを助けた」という将校がいたが・・・。
 圧倒的なリアリズムと窓からの目撃という視点で戦争の残酷を描く。短い場面でもモブシーンなどの密度の高さは驚異的。
2012年6月2日


BSプレミアム
22:00
ザ・プロデューサー


BBC
NHK
60分
 「ビートルズ・サウンドを支えた男 ジョージ・マーティン」。デイレクターはフランシス・ハンリー、日本のディレクターは三浦正宏。
 50年前の4月21日、ブライアン・エプスタインがビートルズ」を売り込みに来たとき、ジョージ・マーティンは音楽的な興味は持てなかったが、彼らにはカリスマ性があると思ったと証言。マーティンはビートルズを知らなかったが、ビートルズのメンバーはマーティンをコメディのレコードを作るひととして知っていた。マーティンは、曲は絵のようなものだという。作者の意図を伝えることで絵は写真より深みが出る。1926年ロンドン生まれのマーティンは除隊後に音楽学校へ入った。ラフマニノフになりたかったという。アビー・ロードのEMIスタジオで働き出したマーティンはビートルズのアレンジで曲を生かし、五人目のビートルズと言われた。妻のジュディもメンバーとは仲が良かった。マーティンはポールは音楽に、ジョンは言葉に関心があったと証言。8年間の共同制作はレット・イット・ビーで解散した。マーティンはエアースタジオ・モントセラトで画期的な仕事を続けたが、1989年のハリケーンでスタジオは壊滅。「私たちは無から想像するが、すべては無に返る」とは彼の言葉だ。
2012年6月10日



DVD
あのアーミン毛皮の貴婦人


USA
20世紀FOX
1948年
89分
 1861年、架空の国ベルガモ国で伯爵アンジェリーナ(ベティ・グレイブル)の結婚式が行われた。そこへ砲弾が落ち、ハンガリーの騎兵隊が攻め込んで来る。夫のマリオ(シーザー・ロメロ)は軍の指揮に出立。騎兵隊の大佐(ダグラス・フェアバンクス・ジュニア)は城を占拠し、威張っているが、300年前も暴君の包囲から国を救ったという肖像画のフランチェスカ(アーミン毛皮の貴婦人。ベティ二役)が画から抜け出て、「とっちめてやるわ」と決意を新たにする。肖像画中のほかの先祖たちも彼女に期待を寄せる。
 ロマ人に化けて戻って来たマリオは大佐にバイオリンを気に入られて雇われるが、手相見で正体がバレてしまう。夫の命乞いをするアンジェリーナに大佐は晩餐への招待を承諾するように言う。招待を承知したものの、その晩、アンジェリーナは刻限になっても現れなかった。居間のソファで眠った大佐の前に現れたのはフランチェスカだった。彼女は時刻を戻し、大佐と踊る。素晴らしい一夜をすごした大佐が朝、起床すると伯爵が訪ねて来て、将軍に止められて部屋へ来れなかったと訴える。大佐はあれは夢だったのかと仰天する。ホヴァース(ウォルター・エイベル)がロマ人の正体は敵の将校だと主張するが、大佐は解放せよと宣言、部下たちにすぐに城を離れると命令して、去っていく。見送るアンジェリーナ。釈放されたマリオが事情を彼女に聞くが奇妙な話に納得がいかない様子。
 一方、大佐はホヴァースとのチェス勝負でも上の空。ホヴァースは大佐が部下をどなり散らしていた昔を懐かしがる。恋をしてしまった大佐は反省する。ソファで休む大佐のもとにアンジェリーナが馬車でやって来た。そして・・・。
 音楽はアルフレッド・ニューマン。3曲ほど歌入り。 
2012年5月25日


DVD
メリィ・ウィドウ


USA
MGM
1934年
98分
 レハールのオペレッタを作詞リチャード・ロジャースとロレンツ・ハート、補作ガス・カーンでミュージカルに仕立てたルビッチ監督作。元のオペレッタとは、かなり異なる。1885年、黒海近くの架空のマーショヴィア王国。王室の将校で女性にモテモテのダニロ中尉(モーリス・シュヴァリエ)。ダニロはある日、見かけたマスクをかぶった未亡人ソニア(ジャネット・マクドナルド)の許へ塀を越えて侵入し、口説くが失敗する。未亡人はマスクをかぶっているのでダニロにはソニアの顔はわからない。実はソニアは国の株を半分(52%)も持っている大富豪。ソニアがパリに出かけ、パリの伊達男に口説かれでもしたら大変だ。そこで、人気の男性を接することを考慮するキング(ジョージ・バルビエ)は、自分の留守に警護のダニロを部屋に招き入れるクィーン(ウナ・マーケル)の意見で、ダニロを口説き相手に選ぶ。
 特命を受けたダニロはパリでマキシムへ行き、カンカンを楽しみ、踊り子たちと旧交を温める。ルル(ルース・チャニング)を同伴で連れていた大使(エドワード・エヴァレット・ホートン)に会って、翌日の未亡人口説き計画を打ちあわせる。ダニロを見かけたソニアがダニロに関心を持ってフィフィという偽名でマキシムへ来る。ダニロは踊り子マルセル(ミンナ・ゴンベル)とも挨拶を交わすためソニアは嫉妬する。ダニロはフィフィを口説き、レストランから用意したホテルの部屋に通すが、ソニアは求愛を断って去る。
 翌日は大使官邸の舞踏会。エキストラ五百人の大舞踏会。大使はダニロをソニアに紹介する。ダニロは昨日の女性フィフィが命令にあった未亡人と知って仰天する。しかし、王国の計略を見抜かれてソニアは怒る。特命を受けていたダニロは国家に対する罪で逮捕されてしまう。ダニロの裁判になり、急に証人として参加した未亡人はダニロの無罪を証言するが、ダニロは自分の行為は本当のものだと有罪を主張。監獄のダニロのもとへ面会に来たソニアは監獄周辺で国の人々の期待するなか、ダニロとキスを交わす。「メリー・ウィドウのワルツ」や「ビリアの歌」など名曲が挿入されている。クレジットに監督補助でジョージ・キューカーの名前があるが、最初はキューカー監督で撮影が始まったが、キューカーの演出に業を煮やしたルビッチが監督して仕上げたものだという。
 シュヴァリエとジャネット・マクドナルドという当時の黄金コンビの作品。かなり脳天気な仕上がりである。他のキャストはオーダーリング(スターリング・ホロウェイ)、ヴァレット(ドナルド・ミーク)、大使の使用人ジジポップ(ハーマン・ビング)。
2012年5月24日


DVD
君とひととき


USA
パラマウント
1932年
80分
 『結婚哲学』のリメイクでミュージカル版。原題の「One hour with you」はパーティでのダンスのときの歌。舞台はパリ。警察署長が署員に公園でのカップルの取り締まりを命ずる。ベタベタと仲のいい夫婦が警官に見つかるが、結婚3年めの内科医アンドレ(モーリス・シュヴァリエ)とコレット(ジャネット・マクドナルド)のベルティエ夫妻である。妻コレットの学生時代の親友で、アンドレを誘惑するのがミッツィ(ジュヌヴィエーヴ・トビン)。ミッツィの夫は古代史の教授オリヴィエ(ローランド・ヤング)。オリヴィエは男遍歴でウソつきの妻と離婚しようとしている。
 雨の日にアンドレとミッツィがタクシーに一緒に乗り込んだところで物語は回転し始める。シュヴァリエがときどき観客に向って説明をする趣向がある。ベルティエ夫妻主催のパーティで誤解が広がる。夫はネクタイを結べないため、ミッツィが解いたタイをマダム・マルテル(ジョセフィン・ダン)に結んでもらう。コレットに横恋慕するアドルフ(チャーリー・ラッグルズ)が無理やりコレットにキスをする。
 ミッツィと夫の一夜の経緯は描かれず、探偵報告書が届けられ、オリヴィエが妻を追い出す場面が描かれる。ミッツィのメイド(バーバラ・レオナルド)も医師の隣りでミッツィを見送る。ミッツィは嘆いた様子もなく、車に乗って去る。実家のスイスに戻ったのだ。教授はベルティエ宅を訪問し、離婚訴訟に証人として出廷して欲しいと依頼。
 依頼状が届いた日に、夫は真実を告白。ミッツィの男性問題の原因は自分だ、けれども何もなかったんだ、信じてくれと。嘆く妻。しかしアドルフが訪ねて来て、妻は自分も夫を裏切った行為をした、アドルフを問い詰めて、おあいこよと宣言する。二人は観客に告げる。愛していれば問題はないと。
2012年5月23日


DVD
モンテカルロ


USA
パラマウント
1930年
90分
 結婚行進曲とともにオットー公爵(クロード・アリスター)とヘレナ・マーラ伯爵の結婚式。人々が祝いの合唱をするなか豪雨となる。公爵が歩いて式場へ、召使が後を追う。邸宅へ戻る公爵は脱ぎ捨てられたウェデイング・ドレスを見る。花嫁は逃げたのだ。ヘレナ(ジャネット・マクドナルド)は侍女のバーサ(ザ・サ・ピッツ)を連れて下着のまま列車に飛び乗り、行く先を車掌に問われてモンテカルロと答える。富豪との結婚から逃げて自由を得るのだ。1万フランを元手にカジノでルーレットに賭ける。同じ16の目に賭け続け、最初はよかったが、最後に負けて一文なしになる。
 ヘレナに一目ぼれしたルドルフ・ファリエール伯爵(ジャック・ブキャナン)は賭けで負けた彼女にアタック、ルドルフの友人アーマンド(タイラー・ブルーク)に相談したり、マーラの専用美容師ポール(ジョン・ロシェ)の代わりに美容師と偽って彼女に接近する。実は金がないヘレナは運転手も給仕も解雇、ルドルフ一人で間に合わせるが、給料も払えない。オットー公爵に見つかり、ホテル代金もとりあえず支払えそうになったが、カジノにルドルフと一緒に行くことになる。しかし、カジノに公爵がいるので止める。しばらく夜風に吹かれた後、ルドルフだけはカジノに戻る約束をした。ルドルフは金庫から財産の20万フランを持ちだす。
 ルドルフに感謝のヘレナだったが、一晩があけると身分違いが気になり、ルドルフにお金を返す。怒ったルドルフは別れを告げる。いざ別れてみるとルドルフが恋しくてならないヘレナ。必死で美容師のルドルフを探すものの、もともと美容師はウソだから見つかるはずがない。そうこうしているうちにルドルフ本人が電話を取る。オペラの観劇に公爵と同伴したものの、オペラ自体が美容師と王女の恋物語だった。複雑な想いで見ていると二階席にルドルフがいる。オペラは非劇に終わるが、二人はハッピーエンドで終わろうと列車で始めの希望の唄を歌う。
2012年5月22日


DVD
ウィンダミア夫人の扇


USA
1925年
115分
 原作はオスカー・ワイルド。主要人物は四人。若さと美貌を誇るウィンダミア夫人マーガレット(メイ・マカヴォイ)、その夫ウィンダミア卿(バート・ライテル)、夫の友人ダーリントン卿(ロナルド・コールマン)、中年の謎の女アーリン(アイリーン・リッチ)。
 ウィンダミア卿がパーティの席順に悩んでいるとき、ダーリントン卿が訪れて来る。夫はアーリンからの手紙を受け取っていた。不快な真実を伝えるという内容だった。ダーリントン卿は隙をみて夫人に「あなたを愛しています」と誘惑する。一方、ウィンダミア卿はアーリンから自分は過去の社交界の花形だった、実はあなたの妻の母親だと告げられる。妻は母親は死んだものと思っていて、いまさら真実を知れば耐えられないだろうと夫。アーリンには大金を小切手(1500ポンド)で渡して秘密を守ってもらうことにする。
 その金でアーリンは社交界に登場、話題になる。例えば競馬場で羽根飾りを付けた帽子で現れて、口さがない婦人たちの好奇の目標となる。鬢の白髪が多いわ、お金はどうしているのかしら等など。知らない人を噂するのは止めましょう、「いい人かもしれませんよ」と卿が味方をすると、かえって卿自身が夫人たちに不審がられるのであった。
 アーリンはロートン卿(エドワード・マーティンデル)と親密な関係になった。
 ウィンダミア夫人の誕生日の日。夫のプレゼントは腕時計やネックレス、扇だった。夫が自分の車でなくタクシーでどこかへ向かったのを不審に思った夫人は、偶々訪れていたダーリントン卿の「小切手帳にアーリン夫人の名があるでしょう」という言葉が気になる。一方、アーリンはパーティに招待されないことを不満に思い、ウィンダミア卿に訴えていた。帰宅した夫は夫人が小切手を見たことに気付いた。「気の毒な人だから援助しただけ」と言い訳する夫を信じられない妻は「この扇で叩いてやる」と息巻く。
 パーティが始まり、次々と到着する招待客。アーリンも来る。招待客名簿に載っていないため、戸惑う執事。アーリンが招待状と思って持って来た手紙は「家内が承知しないため招待できなくなった」という通知だった。そこへ、ロートン卿が現れ、その知人としてアーリンは宴に入る。
 アーリンを不審がる客たち。いちばん驚いたのはウィンダミア卿夫人だろう。夫との間を疑う。それは他の女性客たちも同様だった。男たちは逆にアーリンの許に群がる。噂を流す中心人物にもアーリンは近づき、ベストドレッサーと褒める。そのためすっかり女性客たちとも打ち解けてしまう。ポーチで嘆く夫人に声をかけたのはダーリントン卿だった。庭で、卿は明日英国を離れると告げる。アーリンは夫人を見かけて声をかけるが、誤解している夫人の応答は冷たい。悩んだアーリンは、夫人がタクシーで出かけるのを目撃、卿への置手紙を見ると「アーリン夫人とお幸せに。私はダーリントン卿の愛をお受けします」とあった。アーリンは卿には夫人は頭痛で寝ていると話し、急いでホテルのダーリントン卿の部屋へ駆けつける。マーガレットを必死で説得するアーリン。「昔、私も同じことをした。名誉を失う」と忠告。扇を部屋に忘れたことを思い出すマーガレット。鍵穴から見ると、折り悪しく男性客がダーリントン卿のもとへ集まって来たところだった。来た男たちのうち、既にロートン卿が扇に気付いていた。ウィンダミア卿はダーリントンを責める。そこへアーリンが扇を持ってきたのは自分だと言って登場。ロートン卿も含め、男たちは去る。
 翌朝、夫は「アーリン夫人はやはり悪女だった」と話す。フランスへ去ると言うアーリンが訪ねてくる。アーリンはマーガレットに「夫に打ち明けてはいけない。私の一度の善行も無駄になりますから」と忠告する。玄関を出るアーリンは、ロートン卿と出会う。アーリンは「昨晩、あなたは私に恥をかかせましたね。結婚はできません」と求婚を拒否。ロートン卿はやや困惑するが同じタクシーに乗り込む。
 淀川さんはルビッチのタッチはビリー・ワイルダーがすべてを吸収したと評する。
2012年5月18日


DVD
結婚哲学


USA
1924年
86分
 エルンスト・ルビッチ監督の名篇。ルビッチ監督の映画は『生きるべきか死ぬべきか』だけを見たことがあった。
 見たくてもビデオも発売されていなくて、見られない状況がずっと続いていたのである。しかしIVCで代表作が発売されたほか(2012年1月)、「巨匠たちのハリウッド」シリーズで今までに紹介されていなかった古典的名作がDVDで見られるようになった。ありがたいことである。映画は草創期に完成した芸術で、さほど進化していないというのが、私見である。サイレント時代の名作も「いま」の視点でじゅうぶん鑑賞できるはずなのだ。
 『結婚哲学』(Marriage Circle)の舞台はウィーンである。シュトック教授(アドルフ・マンジュー)の妻ミッツィ(マリー・プレヴォ)は、もはや夫のことを気にかけない生活。夫には穴のあいた靴下しかない。夫の身支度の準備もしなければ、髭そりの鏡さえ自分の居住まいをただすのに使ってしまう状況。ある日、妻が友人のシャーロット(フローレンス・ヴィドア)に会いに行くのに、タクシーに男と乗り合わせたのを目撃した教授は、探偵(ハリー・マイスター)に妻の行動を見張らせ、離婚に持ち込もうと考える。一方、ミッツィが偶然出会った男性は、シャーロットの夫ブラウン医師(モンテ・ブルー)だった。ブラウン氏が妻のために買った花束をタクシーに忘れたので、自分からの花束にしてしまうほど強気で妖艶なミッツィに戸惑うブラウン氏。果してこの恋のかけひきや如何に。[ちなみに、右の写真のような場面はない]
 ミッツィはめまいを起こしたと、ブラウン医師の往診を依頼する。医師に診療を断られても、診療所に押し掛けて誘惑する。神経科診療所の同僚ミュラー医師(クレイトン・ヘイル)はシャーロットに横恋慕。ミュラー医師は窓辺で彼女が落としたバラ一輪を大事に部屋に飾っていることから、シャーロットはバラを忘れてしまった夫と比べる。
 ブラウン家のパーティ。妻が自分の席の隣りにミッツィのカードを置いたので夫は取り替えたが、相手が美人のホーファー嬢だったので、かえって妻の誤解を買ってしまう。パーティの最中も友人のミッツィに何かと夫の行状を話し協力を依頼する妻。ミッツィは煙草入れを投げ捨てて、庭にブラウン氏を誘い出し、誘惑するが、あとひと息のところで捜しに来たシャーロットとミュラーに気付かれそうになって誤魔化す。ホーファー嬢のことで喧嘩した二人。ブラウンはミッツィを家に送って、誘惑に負けずに帰るが、部屋に行ったことが露見したミッツィは離婚されてしまう。ホテルの部屋でブラウンを待つミッツィを慰めに訪れたのは、シャーロットだった。行き違いから真相を知ったシャ-ロットは、自分も間違いでグスタフ・ミュラーにキスを許したと告白する。煙草入れ、ミッツィのショール、F・Bと頭文字入りの帽子など小物がうまく使われています。 
2012年4月25日


DVD
哀しき獣


韓国
2011年

 『チェイサー』のナ・ホンジン監督と主演の二人が再共演したホンジン監督の第2作目。原題は「黄海」で、主人公のグナムが暮らす中国吉林省にある延辺朝鮮族自治州と、韓国を隔てている海である。
 日本語題の「哀しき獣」は、鉄砲玉となるタクシー・ドライバーの物語の先を分からせてしまう題名である。
 「鉄砲玉」はハ・ジョンウ演ずるタクシー運転手グナム。グナムを追跡する「ターミネーター」は、キム・ヨンソク演ずる殺しのブローカー、ミョン。表向きはバス会社を構える社長(チョ・ソンハ)や標的となる教授も悪党ばかり。この構図は日本の深作欣二監督の『博徒外人部隊』や『北陸代理戦争』を彷彿とさせる。
 凶器が拳銃でなく、手斧や鉄パイプなのが凄惨である。借金と逃げた妻への想いから殺人を請負うことになってしまった運転手と、いつのまにか見る方は一体化してしまい、なんとか逃げ伸びてくれと祈ってしまう。チェイス(追跡)場面のスピード感は『チェイサー』で証明ずみ。主人公の職業が運転手という設定なので、車を使う迫力のあるカー・アクションがスケール・アップしている。非現実的なほどに徒手空拳の単身者が逃げおおせてしまう逃走場面が続く。アクション場面だけで、製作費が膨大にかかっただろうなという心配をしてしまった。
 韓国でも辺境地域の朝鮮人に対する差別意識を描きだしている設定が生かされている。最後の最後になって、依頼殺人の動機がバス会社の社長の愛人が寝取られたことによるというちっぽけな動機だったことが分かるという皮肉な落ちがついている。『バットマン』第一作でも愛人を寝取ったことが、ネピア(ジャック・ニコルソン)が幹部の怒りを買う原因だった。『哀しき獣』の主人公の虚しい気持ちに見る方も同化してしまう。
2012年5月28日



BS2録画
2008年
オリヴァ・ツイスト



仏・英・チェコ
2005年
130分
 ポランスキー監督のカラー映画。見応えのある作品となっていた。カラー作品とはいえ、色調を抑制し、白黒作品のような落ち着いた画面を作っていた。冒頭は救貧院に連れて来られる9歳のオリヴァ(バーニー・クラーク)。煙突掃除へ売られることは避けられて、葬儀社が買うことになる。ロンドンまで歩く途中で一度飢えと疲労で倒れるものの、老婆に救われる。フェイギン(ベン・キングズレー)はリーン作品に似たメイキャップ。リーン作品ではオリヴァの母親がブラウンロー(エドワード・ハードウィック)の親友の娘という設定だったが、本作にはそのような設定はない。
 サイクス(ジェイミー・フォアマン)とその仲間トビー(マーク・ストロング)はオリヴァを連れてブラウンロー宅に強盗に入る。サイクスとブラウンローが一発ずつ撃ち、オリヴァは腕に銃弾を受け、負傷する。この傷をフェイギンは秘薬で治療する。フェイギンはオリヴァの裏切りを恐れて世の中でもっとも悪い罪は「忘恩」だと説教する。サイクスの情婦ナンシー(リアン・ロウ)はブラウンロー氏にロンドン橋でオリヴァの居所を伝えるが、ドジャー(ハリー・イーデン)に見張られていた。サイクスがオリヴァを人質にとって屋根伝いに逃走しようとするが、体に巻きつけたロープで首を吊ってしまう。
 オリヴァは牢獄のフェイギンとの面会を希望する。刑務所の外では、フェイギン用の絞首台が作られている。オリヴァはフェイギンに感謝の言葉を述べる。フェイギンは監獄では幻覚を見るような状態だったが、オリヴァのことはわかったらしく、自分のお宝をオリヴァにやると言い、そして絞首台のほうをみないで真っ直ぐ前へ、速く歩けと伝える。帰りの馬車でブラウンロー氏はオリヴァを抱く。
 ポランスキー監督は『戦場のピアニスト』を作った後、子供に見せる映画を作ろうとして、ディケンズを選んだという。
2012年4月8日


DVD
オリヴァ・ツイスト


英国
1948年
116分

 監督ディヴィッド・リーン。ディケンズ原作の映画化。以前にTV放映で見たことがある。しかし、すっかり内容を忘れていた。
 嵐の夜に家出して私生児を出産した若い女性シャルロット(ダイアナ・ドーズ)は出産の翌朝、死んでしまった。出自を示す証拠のロケットを老婆がくすねてしまったことから、身元不明となった少年は救貧院で育てられる。田舎でも「神は善なり God is good」の看板を裏切る劣悪な救貧院の環境、無責任な監督(フランシス・L・サリヴァン)と欲張りな監督の妻、救貧院出身者を見下す労働者の少年。葬儀屋で母親を侮辱されたことで兄弟子をなぐって折檻された九歳のオリヴァ(ジョン・ハワード・ディヴィス。マーク・レスターに似ている)は家出をして歩き続け、ロンドンに到着。大都市ロンドンでは浮浪少年が泥棒をして日々の暮らしを立てていた。少年ドジャー(アンソニー・ニューリィ)から泥棒仲間に誘われる。少年たちをたばねる老親分がフェィギン(アレック・ギネス。初版のGeorge Cruikshankのイラストに似せてメイキャップしている)、品物をさばくのがサイクス(ロバート・ニュートン)。
 スリのしかたを教えられて、街へ出たが、ドジャーらが裕福な紳士ブラウンロー(ヘンリー・スティフェンソン)からハンカチをスリ取り、ついでに財布も盗ろうとしたところで気づかれる。逃げたのが仇となり、追われたオリヴァは警察に捕まってしまう。しかし、目撃者がオリヴァの犯行ではないと証言、不憫に思った紳士はオリヴァを家へ連れ帰る。いっぽうオリヴァの口から悪事が露見するのを恐れたフェイギンたちは、サイクスの情婦ナンシー(ケイ・ウォルシュ)を警察に行かせて、様子を探らせていた。
 書物の返却を頼まれたオリヴァはサイクスらに拉致され、ふたたび泥棒小屋へ逆戻り。オリヴァを探す別の男モンクス(ラルフ・トルーマン)はオリヴァに悪いことをさせて相続権を失わせようと画策していた。オリヴァはある富豪の娘の落とし子だったのだ。そしてその富豪とは・・・。オリヴァを助けようとナンシーは老紳士に情報を与えるが、ナンシーの様子に不審を抱いたフェィギンがドジャーに金をやって見張りにつけていた(小説では見張りはノアの役割)。他のキャストはノア(マイケル・ディア)、グリムウィッグ(フレデリック・ロイド)、コーニィ夫人(メアリー・クレア)、歌手(ハッティ・ジャックェ)。リーンの映画のフル・バージョン版は初のDVD化。廉価DVDだが画質は申し分ない。





2011年11月1日以降、9月30日までに見た 日 本 映 画 (邦画)

見た日と場所 作  品        感    想   及び  梗  概  (池田博明)
2012年8月31日


DVD
非常線の女


松竹
1933年
100分
 小津安次郎監督の無声映画。製作は蒲田映画,原作ゼームス槇(=小津)、脚色池田忠雄、撮影茂原英朗、編集石川和雄・栗林実、美術監督脇田青根一。WBKという会社のタイピスト時子(田中絹代)は社長の息子(南條康雄)からルビーの指環を贈られているものの、夜はダンスホールの用心棒・襄二(岡譲二)の情婦である。襄二はボクサーくずれ。TOA BOXING CLUBの大学生ボクサー宏(三井秀夫=三井弘次)は襄二に憧れ、大学の勉学をおろそかにして与太者志願。ビクター・レコード店に勤める宏の姉・和子(水久保澄子)は弟を心配して襄二に悪い仲間と手を切るよう依頼する。襄二が和子に惚れたと感じたホールの踊り子みさ子(逢初夢子)は時子にご注進。時子は和子を脅そうと思ったが会ってみると、かえって和子の堅気ぶりに影響されてしまい、襄二にお互い足を洗おうと持ちかける羽目になってしまう。最後の仕事と決意して、時子の勤める会社の金を強盗で取り、宏の不始末の返金に当てる二人。警官の手が回ったとき、時子は襄二に捕まってやり直そうと提案するのだった。
 背景に英語の看板や壁の張り紙などが写し込まれている他、ボクシング・ジム、ビリヤード場など、アメリカのギャング映画の雰囲気を出そうと試みた作品。田中絹代が日本的な心変わりをする情婦を演ずる。岡譲二は眼鼻立ちのくっきりしたメィキャップで洋風の二枚目で終始する。
 DVDは廉価の韓国製。挿入字幕は日本語だが、さらに同じ内容の字幕を付けている。
2012年8月22日

NHK
オンデマンド
奇跡の湿原・尾瀬

NHK
2012年
49分
 NHKスペシャルの8月19日(日)21:00からの放送。尾瀬の霧の明け方にほんの一瞬出現する「白い虹」や、雪解けの数日間見られるアカシボ(赤渋)の正体を探る。白い虹は雨粒の百分の1しかない霧の粒に太陽光が当って出来る。アカシボは酸化鉄でそれをミジンコやガガンボ幼虫が食べている。一方、アカシボの中には数十種類のバクテリアが生息していた。なかでも注目されるのはジオバクテリアという鉄細菌。酸素の代わりに鉄を酸化してエネルギーを得る化学合成細菌の一種だった。国立環境研究所の野村精一教授や北海道大学低温研究所の福井学教授が雪を掘って正体を突き止めた。ミズバショウは氷河期の生き残り植物である。
 制作統括は牧野聖・吉川徳人・伊藤純、ディレクターは藤原真史・榊央、撮影は佐々木徹之。
2012年7月13日



DVD
眠狂四郎悪女狩り



大映
1969年
81分



 
2012年7月12日


DVD
眠狂四郎人肌蜘蛛



大映
1968年
80分
 安田公義監督の異色作。母の墓参りに甲州の村を訪れた狂四郎は、二年前に乱行で切腹したはずの将軍の妾腹の子・土門家武(川津祐介)と紫(緑魔子)の兄妹が鬼館に隠れ住み、村の若人を遊興に殺戮していることを知った。墓守をしてくれている七蔵(寺島勇作)が育てた黒ミサで産まれた子供・兵吾(寺田農)にも呼び出しがかかっているという。
 翌日、兵吾を召喚に来た侍たち(五味龍太郎ら)に、狂四郎は兵吾の代理に自分が行くと言い、土門家へ乗り込んでいく。紫から誘惑されるが動じない狂四郎。紫はなんとしてでも狂四郎を征服しようと意を決する。
 土門兄妹の悪業は将軍の耳にも入っており、公義目付役・都田一閑(渡辺文雄)が兄妹を諌めに来るが効果がない。一閑は狂四郎に兄妹の成敗を依頼するがもとよりそれに耳を貸す狂四郎ではなかった。
 ボルジア家の兄妹を換骨奪胎したシナリオは星川清司。音楽は渡辺宙明、助監督は太田昭和。狂四郎に近づき、暗殺しようとする女たちに、らい病の女(三木本賀代)や門つけの須磨(三条魔子)がからむ。兵吾を慕う村娘は、はる(小林直美)。クレジットによると川崎あかねも出演しているが・・・どこに出演していたのか。
 毒矢を受けていったんは死にかける狂四郎だったが、一閑の解毒剤で助かる。
2012年5月日


DVD
眠狂四郎女地獄



大映
1968年
81分
 田中徳三監督、高岩肇脚本、森田富士郎撮影。狂四郎の円月殺法にからむ用心棒が二人登場する。佐伯藩の城主が病気で先が危ぶまれるなか、跡目をねらう家老どうしが争う。堀采女正(小沢栄太郎)と稲田外記(安部徹)である。堀采女正派についた浪人が野々宮甚内(伊藤雄之助)、稲田外記派についた浪人が成瀬辰馬(田村高廣)だった。戦わずして竹光しか持っていないのに手当をつりあげていく甚内のキャラクターは、伊藤雄之助らしい奇妙なもの。
 佐伯藩の城主の娘・小夜姫(高田美和)が男装で藩に向かう。権力の奪取にかかせないキー・パーソンとなる姫を争う二人の家老。狂四郎は密使殺害現場を目撃したことから「姫、出立す」の密書を奪ったと誤解され、外記派からつけねらわれる。一方、采女派からは外記派と誤解される。盲目の女(しめぎ・しがこ)、杉江(三木本賀代)、しのぶ(渚まゆみ)、お園(水谷良重)と狂四郎をねらう女たちも多彩。
 ラスト・シーンは突然雪の降る町内。銀世界のなか、堀家老の行列がいく。辰馬が現れ、駕籠のなかの堀采女正をねらうが、なかから現れたのは狂四郎だった。狂四郎は密書が仕込まれた手絡(てがら)を不用意に渡したために殺された角兵衛獅子のおちか(織田利枝子)から「兄の復讐をとめて」と頼まれていたのだ。堀家老は辰馬の父なのである。妾腹に産ませた兄妹を捨てた非道の父であった。
 狂四郎の思いを顧みず、辰馬を短銃で撃つ采女正。斬りかかる采女正の一党。狂四郎は次々と采女正一派を斬り倒していった。采女正が倒され、仕官の夢もなくなった浪人・甚内が竹光で斬りかかったが、狂四郎は死ぬつもりで来る者は斬らぬと宣言。甚内は雪のなかに取り残された。小夜姫の行列が通りかかる。小夜姫は狂四郎に礼を言うが、狂四郎にはもはや関心のないことだった。  
2012年5月日


録画
眠狂四郎無頼控 魔性の肌



大映
1967年
87分
 池広一夫監督、高岩肇脚本。音楽は渡辺岳夫である。空の青、竹林の緑、鳥居の赤などが鮮やかな場面に彩られる傑作。
 黒ミサで全裸の生贄の女が横たわる。バテレンの宣教師が呪文を唱えながら女に重なる。赤ん坊のそばで女が胸を突く。赤ん坊が泣き出す。
 ふと狂四郎の想念が止まる。外を歩く女の背負う赤ん坊の泣き声だった。狂四郎は自らの出生の秘密を思う。射的屋の女おえん(久保菜穂子)が狂四郎のなじみだった。しかし、おえんが狂四郎に異国人の面影があるとつぶやくと、狂四郎は急に不機嫌になった。いちばん触れられたくないところに女が触れてきたからだ。
 狂四郎に襲いかかる武士たち。数人を斬り捨てた先にひとりの武家の女が待っていた。知沙(鰐淵晴子)である。
 知沙は父親・朝比奈修理亮(金子信雄)の任務を助けて欲しいと依頼する。任務とは禁制のマリアの黄金像を京都へ運ぶ仕事だという。任務を受けてから、父親は人が変わったように粗暴になったという。狂四郎はキリスト教には遺恨があって引き受けられないと断る。
 女どうしの争いから門付け女・千代(三本木賀代)を助けた狂四郎は、京都にいる自分の姉が死に際に狂四郎に会いたがっているとの伝言を聞く。姉がいるとは初耳だった。さらに狂四郎は黄金像奪取を図る邪教集団・黒指党に狙われるようになった。黒指党の党首は混血の三枝右近(成田三樹夫)。お千代は黒指党の生贄にされた。
 狂四郎は朝比奈の依頼を受け、任務遂行の暁には知沙の操を貰うという約束で、京都へ像を運ぶ任務を帯びた知沙の護衛を引き受ける。知沙の母お園(木村俊恵)は朝比奈に抱かれた朝、狂四郎宛に知沙を護ってくれと書付を残して自害していた。お園の自害の背後には、知沙の出生の秘密があったのだが、それは最後に明らかになる。
 京都へのみちみち、女刺客や黒指党に狙われる狂四郎だった。江戸からおえんが狂四郎を追ってついてきていた。また、男装の知沙はしだいに狂四郎を慕うようになっていた。狂四郎は知沙を護りきろうと決意していた。
 黄金像を京都の染物屋の巴屋(稲葉義男)に渡した知沙は、そこで驚くべき真実を聞く。
2011年5月日


DVD
眠狂四郎無頼剣



大映
1966年
79分
 脚本が伊藤大輔。伊藤大輔脚本の特徴はセリフで状況説明がきっちりされることである。今回も、民衆や農民の救民という隠れテーマが垣間見える。状況説明とは、言い換えると、セリフの量が多いということである。そして叙情的な仕掛け。この作品でも斬られた天知茂が油問屋の少女と約束したという竹細工が手からハラハラとこぼれ、瓦屋根をすべり落ちて、下にいる藤村志保の手に入り、入りきらずにあふれる場面に象徴される。撮影は名匠・牧浦地志。監督は三隅研次、音楽は前作に続き伊福部昭である。
 油問屋・弥彦屋へ賊が入った。夫婦・娘を縛り上げて去ったという。同心は賊を追ったがその姿はすでに無い。末娘お鶴は土蔵の前で遊んでいた。実は賊は土蔵に隠れていたのである。お鶴に歌を教えて隠れんぼする賊は、大塩平八郎の残党・愛染(天知茂)であった。
 土蔵には延命酒を盗もうと小鉄(工藤堅太郎)が入っていて一部始終を目撃していた。愛染は図を探しだして去ったという。小鉄に話を聞いた狂四郎は小鉄が盗んだ酒を見る。酒にしては奇妙な匂いがしてとても飲めたものではない。小鉄が居酒屋の土間へぶちまけた酒に狂四郎はタバコの吸殻を飛ばした。すると酒は燃え上がった。客は大騒ぎ。そこへ雨宿りをしていた女(藤村志保)が羽織っていた糸ダテをかぶせて火を消した。角兵衛獅子だという。
 女は狂四郎を格之助様と呼んだ。格之助は大塩平八郎の乱で大阪で処刑された大塩の息子である。事件に興味を持った狂四郎は書庫で大塩の乱を調べる。謎の女・勝美太夫は格之助の救民事業に賛同、越後の臭水(くそうず)をランプ用の油ペトローレに精製する研究を手伝っていた。研究に協力を申し出た弥彦屋や一文字屋の巳之吉(上野山功一)の甘言に乗ってしまい、格之助の原油精製法の図を盗み出して弥彦屋に渡したのは勝美だった。しかし、弥彦屋らは格之助を裏切り、遂に格之助らは処刑されてしまった。勝美は巳之吉らに復讐しようと匕首を懐に忍ばせ、機会を狙っているのだった。
 狂四郎は女の細腕では復讐はかなわない、時期を待てと諌める。一方、愛染一党も弥彦屋への復讐を企てていたが、その計略は老中・水野忠邦を短銃で暗殺、油問屋に火を放ち、江戸市中を火事に巻き込むものであった。狂四郎は大塩平八郎の遺志を組むものが市民を焼き討ちにする計画は間違っていると断固阻止を宣言する。愛染は円月殺法をきわめ、対決のときは近づいた。
2012年5月17日


DVD
眠狂四郎多情剣



大映
1966年
84分
 井上昭監督作品。撮影は前作に続き竹村康和。井上監督は若い森田富士郎カメラマンと組んで「カメラは主観だ」と意気込んで数作品を作っていた。本作の竹村カメラマンは井上監督より年長だったので、監督はときどきアリフレックスを借りて自ら手持ちで撮ったり、雷蔵自身に雷蔵の足を撮ったりさせたと証言している。カメラマンは普通重いミッチェルで撮影している。そのカメラでロングに引いた画面や斜めに傾けた風景をはさみながら、監督は不安定さを演出しようと努めていた。
 狂四郎は菊という女からの召喚状を受け取り、女郎部屋へやってきたが、そこで出会わされたのは、父を殺されて侍を憎む15歳の生娘はる(田村寿子)だった。<菊>は菊姫(毛利郁子)で狂四郎憎しの思いから配下の疾風組を使い、狂四郎を殺そうとしていた。菊姫の繰り出す刺客は疾風組にかぎらず、狂女(香山恵子)だったり、剣の使い手・典馬(中谷一郎)だったりする。道場主の赤松勘兵衛(五味龍太郎)の妻が斬られて「眠狂四郎 これを犯す」との立て札を付けられて捨てられたが、狂四郎には覚えのないこと。置屋のひさ(水谷良重)は狂四郎に真の下手人は勘兵衛自身と告げる。おひさは金で動く女、それは先刻狂四郎も承知の上だった。仇を探す旅だと言って狂氏四郎に助太刀を申し出る典馬が後半、疾風組十七番の使い手だったことが判明し、前半の態度が嘘のように逆転してしまうのが、不自然だ。
 人質に取られたはるに対する菊姫の仕打ちも徹底を欠いていて、結局のところ、狂四郎が難なく救出してしまう。菊姫一党は疾風組一人が殺されるたびに、はるの体にひとつ傷を付けると言っていたのに、ひとつも傷を負わされていないのだ。幕府のお目付け役は御乱行の菊姫一党を狂四郎が始末してくれればこれほど都合の良いことはないと情報を狂四郎に与える。
 はるを救った狂四郎を待つお目付け役が突然斬りつけてきた。・・・
2012年5月16日


DVD
眠狂四郎魔性剣



1965年
75分
 前作でポスターにまで刷り込まれていながら出演がキャンセルされた嵯峨三智子が出演。監督は『円月斬り』に続いて安田公義監督。
 嵯峨三智子は『円月斬り』で狂四郎に殺されたむささびの半蔵の妹おりんの役。伴蔵同様、手裏剣のように花札を使う。
 冒頭、雨が降り始め、居酒屋で傘を借りた狂四郎は橋のたもとで傘で顔を隠した女に呼び止められた。聞けば「私を買ってくれ」というその女、言葉使いから武家のものと知った狂四郎は「買おう」と答える。誘われた先は朽ち果てた家だった。顔を面で隠す女・佐絵(穂高のり子)に狂四郎は面を取らせ身の上話を聞く。零落し病身の女を抱く気にもならず一両を見の上話を聞く代金だと置いて帰った狂四郎だった。翌日、喉を突いて自害した女の葬列に狂四郎は出会った。誇りを踏みにじられたことが原因だったのか。狂四郎のもとを女(明星雅子)と少年が訪ねてくる。狂四郎が投げ与えた一両と遺書には狂四郎の名前だけが書かれていたという。こうして鶴松を預かることになったが、実は鶴松は妾腹の子ながら正嫡のいない岩代藩の跡継ぎだった。佐絵は鶴松の乳母だったのだ。しかし、鶴松は養父の後を次いで大工になると言っている。岩代藩が取り潰しになっては、藩の侍たちは飢えてしまう。鶴松奪還が図られた。
 
2012年5月15日



DVD
レンタル
八つ墓村




松竹
1977年
151分
 野村芳太郎監督作品。脚本は橋本忍、撮影は川又昴、美術は森田郷平。『砂の器』のスタッフが再び組んだ巨編。当時、映画館で見たときには、渥美清の金田一役に気を取られたり、山崎努の要蔵の津山三十ニ人殺しや小川真由美の変化(へんげ)などの激情的な描写に気を取られてしまい、大作という印象を受けなかったのですが、見なおしてみると徹底したロケによる美しい日本の風景場面が満載、時代劇の部分の描写もち密に描かれていて、やはり大作だったんだと思いました。
 また、推理物としては原作を読んでから見た場合には、場面の意味や流れが把握できるのですが、物語の筋がわからないままに、映画を見た場合には、人間関係にしろ展開にしろ、かなり説明不足の感があります。金田一が提案して行わせたという司法解剖の結果も、直後に結果が説明されず、後になって会話のなかで分かるという具合に、わざと手がかりのプレゼンテーションを弱くしています。犯人の動機も伏線がまったく描かれておらず、突然最後になって金田一から説明されるだけ。しかも、それ以前に金田一はいろいろな場所に証拠調べに行っているのですが、訪問の理由は説明がなく、次々に点々と場所を変えるだけなので、論理的なつながりは感じられません。この辺は脚本の弱点だと思います。市川崑監督作品のほうがていねいに説明されています。
 さらに、鍾乳洞内では生死をかけた闘いが行われているのに、金田一は洞の入口で懇懇と真相を説明しているだけなので、金田一の無力さがいっそうきわ立ってしまいます。橋本忍の脚本では、犯人も辰也も尼子一族の末裔ということが分かる設定になっており、因果応報の面が強く出ています。
 ちなみに、美弥子の妹役で夏純子も出演しますが、美弥子の仕事中に喫茶店で会うという一場面だけです。 
2012年5月15日



DVD
レンタル
女囚701号さそり



東映
1972年
87分
 NHKの火曜コンサートの映画の歌謡曲の「時代のうた」に梶芽衣子が「怨み節」で登場。「怨み節」が歌われた『女囚701号さそり』を再見することにした。伊藤俊也第1回監督作品。
 撮影は『現代やくざ・人斬り与太』の仲沢半次郎。篠原とおるの劇画を映画化したもの。
 再見して気づいたことは、松島ナミ(梶芽衣子)にはほとんどセリフが無いということ。眼と表情だけの演技だった。野田幸男監督『0課の女・赤い手錠』に続いていく劇画調バイオレンス映画であり、「三原葉子映画祭」があれば、この2本はぜひとも上映したい作品(両作品ともに室田日出男も出演している)。『さそり』では、三原葉子は看守サイドの女囚で、片桐(横山リエ)と一緒にナミをいたぶる役。いかさま賽を扇ひろ子に見破られ、喧嘩になったのを恨んで、シャワー時に針金を扇の囚人服に仕込むが、「ナミ」はそれを三原の服に移し変える。お陰で脱獄計画の汚名をきるのは三原だ。ナミのしわざと判断した三原はナミに斬りかかる。ドアのガラスで額を割った三原は夜叉面となり、ガラス片で所長(渡辺文雄)の目を突いてしまい、所長に絞め殺される。
 最後に殺し屋として登場する黒いコートをまとい、アコーハットをかぶったナミのファッションは、あきらかに『野良猫ロック・セックスハンター』のマコ(梶芽衣子)に対するリスペクト。 
2012年5月12日



DVD
眠狂四郎炎情剣



大映
1965年
83分
 シリーズ第5作。脚本・星川清司、撮影・森田富士郎、監督・三隅研次。展開に緩急のある作品。
 冬、狂四郎は、夫の仇討ちと称するぬい(中村玉緒)に手を貸した。斬られた浪人(伊達三郎)は“助太刀すればおぬしの恥"という謎の言葉を残した。仇討ちの報告にぬいは狂四郎と共に江戸家老跡目将監(安倍徹)を訪ねる。報酬として狂四郎はぬいの体を抱く。翌日、居酒屋に伝吉(守田学)と名乗る男が飛び込んでくる。伝吉は捕縛され、処刑される。
 狂四郎のもとに鳴海屋(西村晃)が訪ねてくる。小笹(小桜純子)という女に色の道を教えて欲しいというのだ。狂四郎は、小笹が生娘でない事を悟り、江戸家老への手土産にする。
 鳴海屋は藤堂家の江戸家老(安倍徹)に威かされ、幕府に献上すべき海賊の財宝を横領していた。そしてさらに将監は、財宝の秘密を握る海賊の末裔を一人残らず抹殺しようとしていた。その探索役がぬいであった。鳴海屋は、鳥羽水車の総帥の娘で、今は将藍にねらわれるおりょう(嵯峨三智子に代り、中原早苗)の身の上も話して聞かせた。将藍の魔手は海賊の末裔の一人で、今は守田菊弥(高倉一郎)と名乗る人気役者をも殺し、鳴海屋で働くその娘かよ(姿美千子)をも狙っていた。狂四郎は、まだ世間のきたなさも知らぬ清純な少女までも狙う将藍に激しい憎しみを感じた。狂四郎は将藍が参列する菩提寺の法要の席に乗りこんだ。鳴海屋が将藍の罪状をすっぱ抜いた。
 中原早苗さん、2012年5月15日心不全で逝去。76歳。深作欣二監督の妻。
2012年5月12日



録画
井上ひさしとてんぷくトリオのコント


NHK・BSプレミアム
2012年3月24日
23:00~
90分
2012年6月2日
21:00 再放送60分
 ハイビジョン特集で放映。三宅裕司演出、山口智充・中村獅童・田中直樹による「井上ひさしのてんぷくトリオのコント」を6本再現。
 もとてんぷくトリオ(1961~1973)のマネージャー、澤龍の企画。三波伸介を山口、伊東四朗を中村、戸塚睦夫を田中で演ずる試み。2012年3月8日に特設ライブで行われた公演の収録。
 演じられたコントは「記憶喪失」(男A山口、男B中村、警官田中)、「同級生」(伊東役中村、三波役山口、戸塚役田中)、「結婚式と葬式の間で」(先輩A山口、先輩B田中、後輩中村)、「職安にて」(失業者山口、事務員中村、父親田中)、「死刑(死刑台の男,1972年)」(執行人山口、死刑囚田中)、「勘(交番日記より)」(巡査A山口、巡査B田中、男中村)。
 ナレーターは渡邉あゆみ、ゲストは伊東四朗、萩本欽一、藤原竜也、井原高忠(バラエティー「九ちゃん!」1966-1968のプロデューサー)など。
 井上ひさし自身が書いているコント方法論が紹介された。(1)ギャクは逆(とりちがえの面白さ)、(2)人まねorなぞり、(3)チェンジング・パートナー法。
 三宅裕司は現在の笑いは個人芸を間にはさむことで笑いを取っているが、1970年代のコントは台本に重きがあると証言。そこが井上コントが現代にも通用するかどうかの難しさがあるという。

【参考資料】井上ひさし『井上ひさし笑劇全集』(上下。講談社文庫)。番組は中島晴子さんのご厚意により録画を見せていただきました。
2012年5月11日



DVD
眠狂四郎女妖剣


大映
1964年
81分
 池広一夫監督。本作で美術を担当した西岡善信は「リアルさよりも頽廃的な異世界の雰囲気を醸しだす」美術を目指したという。この4作目から冒頭の菊姫の全裸入浴場面、座敷牢での小鈴の全裸誘惑場面、狂四郎に色仕掛けで迫る女たちと、エロチシズムたっぷりの展開が用意された。興行的に上向き始めたという。
 浜町河岸に女性の裸の死体が上がった。残忍な菊姫(毛利郁子)に麻薬責めにされ殺された大奥女中であった。アヘンを大奥に流しているのは御殿医の医師(浜村純)、医師にアヘンを流すのは備前屋(稲葉義男)だった。狂四郎は隠れキリシタンの鳥蔵(小林勝彦)から、狂四郎と血縁関係にある志摩という女を助けて欲しいと依頼される。鳥蔵の妹・小鈴(藤村志保)は兄を助けたい一心で、切支丹屋敷の座敷牢に幽閉されたバテレンを転向させるために身を投げ出す。バテレンは信仰を捨て、小鈴を抱いた。誓詞に血判を押して仏教徒に鞍替えしたのだ。屋敷から放免されたバテレンを狂四郎は斬った。一方、鳥蔵は磔刑に処せられようとしていた。バテレンが転向すれば兄の生命は助けるという約束が実行されないばかりか、小鈴はならず者たちに輪姦される始末。狂四郎が鳥蔵を助けたものの、既に小鈴は舌をかみ切って自殺していた。処刑を目撃しようとしていた菊姫だったが、不品行のため、岡崎にところ払いになる。鳥蔵は刺殺されて息を引き取る直前に狂四郎に志摩を守ってくれと依頼し、さらに血のつながりを知っていると告げる。狂四郎は志摩が身を潜めているという浜松へ向かう。
 途中で花嫁行列に出会う。花嫁は婚礼の前の晩に他の男に抱かれるという夜這いの儀式があるという。儀式を司る巫女の青蛾(根岸明美)は花嫁が憑依したと狂四郎を誘惑する。青蛾を抱こうとすると天井から刺客(伊達三郎)が襲って来た。一瞬にして巫女と刺客を斬る。川止めの宿で「インフェルノ(地獄)」とつぶやき、狂四郎に体を売りこんできた女、お仙(春川ますみ)があった。酒に混ぜられた薬のせいで、いくぶん朦朧としながらも狂四郎はお仙のひもの男を斬った。
 びるぜん志摩(久保菜穂子)の隠れ場所で、狂四郎は志摩に問うが、すぐには答えが得られない。信徒が集まってくるが役人に捕えられてしまう。役人の手から脱出した志摩は別の男たちに拉致され、舟に乗せられた。追う狂四郎の前に菊姫の部下の侍(中谷一郎)が鎖鎌で立ちふさがる。侍を斬って舟を追った狂四郎。大きな船には備前屋が待ち伏せしていた。志摩を囮に使ったのだ。マストを支えるロープを斬り、備前屋とその子分を斬った狂四郎は陳孫(城健三朗)と対決。狂四郎の剣は陳孫に深傷をあたえた。海に逃げる陳孫。
 舟倉でびるぜん志摩に会った狂四郎は、志摩が備前屋のまわし者で切支丹になりすましては、信徒を売っていたこと、狂四郎を船におびき寄せるため配下にさらわれたことを知った。備前屋はキリシタンの情報を老中に与える代わりに密輸を黙認させていたのだ。志摩は狂四郎が転びバテレンが黒ミサの際に犯した武家の娘から産まれたことを話す。そして自害した母親に代わって狂四郎を育てた乳母が自分も育てたのだ、船に積まれた財宝も自分の体も狂四郎に与えると誘惑する。しかし、狂四郎は志摩を斬った。「誰でも自分と同じように考えると思ったら大間違いだ。俺はただの無頼の徒よ」と狂四郎はつぶやく。
 数日後、街道を江戸に戻る狂四郎の後ろ姿があった。
2012年5月9日



日本映画専門チャンネル
八ツ墓村


東宝
1996年
120分
 豊川悦司が金田一耕助を演じて、市川崑監督が脚本・演出をした横溝正史原作もの。犯人当てよりも贅沢な背景や豪華な俳優陣、そして人工的な演出が見どころの作品。前半は特に好調です。石坂浩二金田一シリーズの常連だった加藤武警部が同じような役柄で登場してきます。 『八つ墓村』の映画化は、渥美清が金田一を演じた野村芳太郎の作品がありましたが(1977年)、東宝作品のほうが鍾乳洞などの再現はそれらしく仕上がっています。
 急に田治見家の相続人と判定される寺田辰弥(高橋和也)は事件に翻弄される青年を好演。辰弥の母・鶴子の父、井川丑松(織本順吉)は、弁護士(井川比佐志)と辰弥の前で毒殺される。辰弥を出迎えたのは田治見家の使用人・森美也子(浅野ゆう子)。浅野ゆう子はクールな姿勢で怪しい美女を好演しています。
 岡山県の田治見家の当主・久弥(岸辺一徳)は肺結核。実権を握る双生児の老婆・小竹と小梅(岸田今日子の二役)が辰弥を捜索させたのだった。辰弥の腹違いの姉・春代(萬田久子)や,要蔵の甥と姪にあたる里村慎太郎(宅間伸)と典子(喜多嶋舞)が辰弥を取り巻く人々となる。
 金田一が宿泊する郵便局の女将(吉田日出子)、濃茶の尼(白石加代子)、医師の久野(神山繁)、僧侶(石橋蓮司)、交番の巡査(うじきつよし)、尼子落ち武者の首領(今井雅之)なども賑やか。特に吉田日出子のコメディ演技が微笑ましい。容疑者が少ないため、金田一耕助は、もっと早く真犯人を推理して犯行を阻止してもよかったと思うのだが、「しまった!」と失敗を嘆くばかりで、あまり活躍していない。
2012年5月8日



日本映画専門チャンネル
浅草物語



大映
1953年
 川端康成の短篇『浅草紅団』『虹』を元に島耕二監督が映画化、脚本は成澤昌茂。 山本富士子が、グッド・バッド・ガールを見事に演じていて、それだけでも見所のある映画でした。
 終戦一年後の浅草。キャバレーで働く千代子(霧立のぼる)は戦争で両親をなくし、二人の妹、弓子(山本富士子)とみどり(木村三津子)を養っていた。千代子には赤木(森雅之)という恋人がいた。赤木は闇の砂糖の横流しといった詐欺師のようなことをしていて、千代子は彼の仕事の片棒を担ぎ、10万円の借財を負ってしまい、苦にした千代子は自殺してしまう。
 親代わりだった姉を死に追いやった赤木に対する復讐を誓う弓子。浅草の街娼をしながら赤木との再会を待つ弓子。姉の自殺の7年後、妹のみどりはレビューの歌手兼踊り子になっていた。弓子は大学生の浜村(片山明彦)に惚れられているが、自分に貢ぐ浜村を有難がっているだけで、愛する気持ちにはなれなかった。そんな浜村に妹のみどりは同情し、惚れ始めていた。ストリップ小屋同然のレビューの描写が、1953年当時を考えると、驚きの映像。
 仲間のサリーの不始末に相手の男に会いに行った弓子は、赤木と再会する。赤木は7年ぶりに九州から浅草に戻ってきたのだ。弓子は赤木に気づくが、赤木は弓子を知らない。次第に逢瀬をくり返すうちに弓子は赤木に惹かれていく。浜村を冷たくあしらった弓子は、赤木に依頼して浜村を騙し、暗い部屋で自分だと思わせて、みどりを抱かせる。この行為は浜村の怒りをかう。男を信じないと広言していた弓子が、裏切って男と付き合っていると不良仲間も弓子を責める。居酒屋の親父が浜村を諭す。
 最後に弓子は夜の船に赤木を誘い込み、キスさせ、千代子が飲んだのと同じ毒薬を口移しで飲ませる。そして、自分も同じ毒をあおぐ。
2012年5月6日



DVD
眠狂四郎円月斬り


大映
1964年
85分
 安田公義監督作品。撮影は牧浦地志。物語の求心性はないものの、悪役が明瞭で見せ場の連続、惚れ惚れするような画面が途切れずに続く。大映のスタッフの腕前に驚嘆すること請け合いである。
 橋の下にたむろする百姓衆や夜鷹たちを試し斬りする侍がいた。手に入れた名刀の斬れ味を試すのは将軍・家斉のご落胤のひとり、粗暴な若君、片桐高之(成田純一郎)だった。試し斬りで父親を殺された足の悪い百姓・太十(丸井太郎)は復讐を誓う。辻斬りの現場を目撃した狂四郎は、高之に呼び出され、名刀「無想正宗」を所望されるが、断る。高之はなんとしてでも剣を手に入れると宣言する。高之の母、松女(月宮於登女)は高之を将軍にすべく画策していた。
 一方、山崎屋(水原浩一)は娘の小波(東京子)を高之に嫁がせようとしていた。狂四郎は芸者屋のおきた(浜田ゆう子)を贔屓にしていた。おきたの元亭主の伴蔵(伊達三郎)は島送りになっていた。伴蔵は花札を手裏剣のように使う殺し屋であったが、高之は密かに伴蔵を島ぬけさせて使っていた。
 太汁は小波を誘拐しようとしたが果たせず、代りに小波の小さな妹つる(岩村百合子)を拐う。狂四郎は小娘つるを返してやるように薦める。夜鷹のお六(若杉曜子)は太汁の味方だ。しかし、子供は可愛い。狂四郎は山崎屋から礼金を貰う約束をして、つるを返させる。高之にも肌を許さなかった小波は邸に忍び込んだ狂四郎に犯され、狂四郎を憎み、剣客で浪人の寄居勘兵衛(植村謙二郎)に狂四郎を斬ってくれと依頼するものの、狂詩郎を想う気持ちも次第に強くなっていた。
 勘兵衛との一騎打ちで、狂四郎は円月殺法を見せる。おきたを抱いた狂四郎を床下から伴蔵が狙ったが一瞬早く狂四郎が剣を突き刺す。おきたが伴蔵のことをささやいたのだ。おきたは罪の意識から狂四郎のもとを去る。一方、小波は太汁らに誘拐された。小波を奪還しようと高之は橋下へ駆けつける。将軍との対面を控えて小波など捨てておけと松女に止められるが、高之は母親の諌めを聞かなかった。太汁らの命と引換にと狂四郎が高之に夢想正宗を差し出し、囚われの身となる。
 座敷牢に入れられた狂四郎。餓死を待たずに斬首しようとした松女のすきを見て狂四郎は小波が差し入れた花の中の正宗をふるい、牢を脱出した。小波は自害した。狂四郎の挑戦状を受けて高之は橋下へ来る。修羅場で高之を斬った狂四郎は老中・水野忠成(佐々木孝丸)の手のものに囲まれた。しかし、以外にも老中の間者は高之の家来を斬っていた。老中は高之の不品行を知り、小波の訴えもあって、高之を対面前に抹殺する処断に出たのだった。
2012年4月7日


DVD
眠狂四郎勝負




大映
1964年
83分
 三隅研次監督作品。寺の参拝客の尻押しをして小遣いを稼いでいる少年がいた。その子の父親は兜割りで著名な武士だったが、道場破りに会い、果てていた。狂四郎は偶然茶店で出会った老人(加藤嘉)に話を聞き、少年に「父の姿を見せてやる」と約束。道場に出向いて相手を倒す。少年は狂四郎に弟子入りを志願するが、狂四郎は剣は殺人のみちだと取り合わない。
 立会人となってもらった老人の正体は勘定奉行・朝比奈伊織だった。緊縮財政などの改革が反発を買い、暗殺されかねない奉行・伊織を、狂四郎は俺の酔狂だと勝手に守る役目をする。
 緊縮をこころよく思わない将軍家の娘、越後の高姫(久保菜穂子)は男を変えては遊び歩いていた。美貌の浪人・増子(成田純一郎)もその1人。高姫の配下に越後堀家の用人・白鳥主膳(須賀不二男)や殺し屋・赤座軍兵衛(浜田雅史)がいた。なぜか狂四郎をつけねらう女・采女(藤村志保)もいた。

 (途中)
2012年4月6日


DVD
眠狂四郎殺法帖




大映
1963年
82分
 市川雷蔵のシリーズ第一作。『眠狂四郎』は、1963年から1969年と、雷蔵の死の年まで続くヒット・シリーズだが、第一作から第三作までは、さほど評判にならず、さほどの入りではなかったという。脚本はほとんどの作品が星川清司。
 特に第一作は原作者の柴田錬三郎が原作の変更を禁止したため、狂四郎のキャラクターが中途半端なものになってしまったという。孤独者の姿では描けなかったのだ。第二作『勝負』で、脚本の星川清司はなし崩し的に原作を変更、柴田錬三郎が後追い的にこれを認め、以降、狂四郎を自由に動かすことが出来るようになった。
 シリーズを支えた女優陣で最も貢献したのは久保菜穂子(第ニ作「勝負」、第四作「女妖剣」、第九作「魔性の肌」、第十二作「悪女狩り」)、藤村志保(第ニ作「勝負」、第四作「女妖剣」、第八作「無頼剣」、第十ニ作「悪女狩り」)であった。
 撮影は牧浦地志が「殺法帖」「勝負」「円月斬り」「無頼剣」の4本、竹村康和が「女妖剣」「魔性剣」「多情剣」「魔性の肌」の4本、森田富士郎が「炎情剣」「女地獄」の2本、武田千吉郎が最後の「人肌蜘蛛」「悪女狩り」の2本である。
 第一作は田中徳三監督。加賀藩の藩主・前田宰相斉泰(沢村宗之助)の間者として狂四郎に接近する千佐(ちさ)役に中村玉緒。加賀の前田藩主は銭屋五兵衛(伊達三郎)と組んで密貿易で儲けたものの、発覚を恐れて銭屋一味を処断した。少林寺拳法の使い手で唐人・陳孫(若山富三郎)は銭屋の仲間で、前田藩主への復讐心を抱えていた。しかし、銭屋は死んではいなかった。碧玉の仏像に隠された密貿易の文書に隠し財宝の在り処が記されている。狂四郎は決着をつけるため、江戸から金沢へ向かった。
 狂四郎が身を寄せる常磐津の師匠・文字若に真城千都世。


シェイクスピア作品の映画化やその関連の映画は除く。
それらは別ファイルになっている。→ 『シェイクスピアの劇と映画


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