先進事例にみる中心市街地の居住支援の教訓
中小都市における中心市街地居住支援シンポジウム報告をベースに加筆修正(2000.7.15)

はじめに

 中心市街地の問題が大きくクローズアップされている。建築学会東海支部都市計画委員会住宅部会では、この問題を居住支援という視点からとらえ、研究を行っているが、その一貫として、平成11年12月に先進事例調査を行った。調査対象としたところは以下の6つである。
  ・町家倶楽部(京都市)
  ・西新道錦会商店街(京都市)
  ・下宿屋バンク(横浜市)
  ・早稲田商店会(東京都新宿区)
  ・谷中学校(東京都台東区)
  ・高浜市の宅老所(愛知県)
 ここでは、これら先進事例の共通点から中心市街地の居住支援に関する教訓というものを整理してみたい。

1. 中心市街地のストックの有効活用

 まず、第一に「中心市街地のストックの有効活用」という点があげられる。
 京都の西陣を舞台に町家の仲介を行っている「町家倶楽部」は、中心市街地に増えている空家の有効活用をめざした取り組みである。空家活用というのは多くの人が思いつくアイデアであるが、現実には借家権が生じることを大家さんがきらってなかなかすすまない。それを借り手と貸し手の顔が見える関係づくりを行うことによって実現させたのが「町家倶楽部」だといえる。退去の条件を決めることが最も重要だということであった。
 同様に、大家である下宿屋のオーナーと住み手である高齢者を結ぶ「下宿屋バンク」のとりくみも、空き部屋を利用するという点でストック活用の1つといえる。ここでも、その関係づくりに留意が払われていおり、共同生活者としてのオーナーに対する研修や入居者の人間関係づくりに時間がかけられている。
 また、西新道錦会商店街の空き店舗活用による高齢者向け食事サービスもストック活用の1つである。商店街の空き店舗活用は、早稲田商店会のエコステーション、高浜市の宅老所「じい&ばあ」でも行われており、全国的に大きな流れとなっている。
 さらに、やや視点は異なるが、町家の保存・再生やまちを舞台とした芸工展に取り組んでいる谷中学校の取り組みも地域の資源を活かしていくという点でストックの有効活用といえるのではないだろうか。

2.地域のコミュニティの場としての商店街の重要性

 第二に「地域のコミュニティの場としての商店街の重要性」である。
 西の商店街活性化の事例として有名な西新道錦会商店街は「ものを売るだけの商店街」から「地域の暮らしを支える情報の発信基地」をめざしている。ファックスにより注文を受付、宅配するというファックスネットの取り組みは、宅配時に高齢者の体調を尋ねるなど、地域の護民官としての役割も担っている。
 学生が帰省する夏休み期間の対策としてはじめられた早稲田商店会の取り組みも、環境をテーマとして取り組む中でエコサマー・フェスティバスからごみゼロ平常実験などへと地域の人々を巻き込んだまちづくりに展開している。
 商店街がまちづくりに取り組むとこんなおもしろいことができるのかと感じさせる好例であり、楽しくて儲かるまちづくりというのがこれからのキーワードの1つになると感じた。

3.高齢者支援

 第三に「高齢者支援」という点である。
 下宿屋バンクは、「集まって住めばぼけ防止になる」という理念ですすめられており、地域の中で高齢者が住み続けることができることを目指している。
 高齢者福祉で有名な高浜市の宅老所の取り組みも、自宅に閉じこもりがちな高齢者に外出の機会を促し、要介護状態になるのを防止する機能を持っている。
 西新道錦会商店街のファクスネットや食事サービスも高齢者の生活を支援する取り組みである。
 これらの事例は、中心市街地に多く居住する高齢者の生活を支援することの重要性を示していると考える。

4.外部からの関わりによるまちの活性化

 第四に、「外部からの関わりによるまちの活性化」という点である。
 谷中学校では、その地域に魅力を見いだした住まいやまちづくりの専門家が外から移り住むことによって、刺激が生まれ、まちに活気が生まれている。当初は、外からやってきた人間が勝手にやっているという見方もされたということだが、マンション見直し運動をきっかけに地域の人々と一緒に運動を進めるということで活動が広がっている。
 町家倶楽部は地元の人が作ったのではなく、町家に住んだ人がネットワークをつくっている。町家にはアーティストが居住しているところが多く、町家の空間をアーティストがうまく使いこなしている。町家に住みたいという人がまちに関わることによってまちに活気が生まれている。
 早稲田商店会では、早稲田大の乙武氏との出会いが活動の幅を広げている。最近では小学校の修学旅行のコースとして訪れるところもでており、さらに全国リサイクル商店街サミットなどの取り組みを通じて全国の小さな商店街とのつながりも生まれている。
 また、やや視点は異なるが、1人のアイデアが発端となって生まれた下宿屋バンクの取り組みも外部からの関わりによるまちの活性化の1つといえそうだ。
 いかに、外からの刺激を柔軟に受け止め、まちづくりに活かして行くかが重要であると感じた。

5.まちづくりにおけるインターネット活用

 第五に「まちづくりにおけるインターネット活用」という点である。
 早稲田商店会や町家倶楽部ではホームページが作成されており、全国に情報発信することで活動の幅を広げている。さらに、町家倶楽部ではメールによる情報発信も行われている。名刺交換をしたおかげで、今でも時々メールが送られており、その活発な活動を知ることができる。最近では町家に宿泊体験できる「エコハウス町家プロジェクト」という取り組みも紹介されている。
 また、早稲田商店会ではメーリングリストでの議論が様々な活動につながっており、空間と時間の障害を超えたとりくみとして注目できると感じた。
 西新道錦会商店街ではファックスネットの次の展開としてインターネットによる情報提供が計画されている。
 昔ながらのコミュニティを大切にしながらも最新の技術によってネットワークを広げていく、これもこれからのまちづくりのキーワードになりそうだ。

おわりに

 最後に付け加えると、活動している人々の人間的魅力ということも大きな要因であると感じた。もしかしたら、これが最も重要で、しかも最もマネの難しいところかもしれない。

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