成熟都市の時代に人はどこに住むのか
東海地域の中心市街地をめぐる実験と活動の記録(2000.6)

 高度成長期、人は夢を求めて大都市に集まり、住宅をその郊外に求めた。都市がどんどん拡散し、都市化が周辺の農村まで広がった。
それが今は大きく様変わりした。バブルの崩壊は我々の生活を見直す良い機会となり、都市は成熟の時代を迎えた。都心の地価が下落し、最近の住宅供給のキーワードは「都心回帰」だという。郊外の不便な住宅が売れなくなって、利便性の高い都心が見直されている。事実、名古屋市の中区の人口は1997年から人口増加に転じており、その要因として若年層の転入が増えていることがわかっている。

都心居住が時代のトレンドか?

 家族形態が多様化し、様々なライフスタイルの人々が増えている。新たに増えつつある家族形態は都心居住を志向するものが多い。
急増が著しい単身世帯。若年単身は、エンターメントの魅力にあふれた都心を好む。住戸が少しぐらい狭くても、都心にはその狭さを肩代わりしてくれる空間に満ちている。コンビニ、ファーストフード、レンタルビデオ、コインランドリー等々。
中年単身。中区はこの比率が極めて高い。単身赴任や結婚をしない独身層にとっても都心は住みやすい空間なのだろう。
高齢単身は必ずしも都心に多いとはいえない。それまでに住宅を取得し、住んでいるまちがあるからである。しかし、居住地選択として都心を志向するものは確かに存在している。文化的刺激にあふれた都心の魅力は高学歴の高齢者が第二の人生を享受する場として見直されている。
母子・父子世帯も離婚数の増加とともに確実に増えているが、都心にはこれら世帯の比率も高い。子育てと就業の両方を満たせる空間ということだろうか。同じ理由からかDEWKS(共稼ぎ子育て世帯)も都心に多いという傾向がある。

中小都市の中心市街地は?

 しかし、ここで述べてきたことは名古屋の都心部の話である。単純に考えれば、大都市名古屋の中心部に起こっていることは、中小都市の中心部に起こっても不思議ではない。ところが現実は違う。「中心市街地に関するアンケート」では商店街の売り上げが落ちているという自治体が9割弱もあり、人口も7割以上の自治体で減少している。中心市街地の魅力で人が増加しているというのは、ほんの限られたところでしかないのが実態だ。
 何故、中心市街地の衰退が起こっているのか。先のアンケートによると「郊外に大規模店舗が立地し、顧客が流れた」という回答が最も多い。確かにその要因は大きいだろう。しかし、そのことよりも定住人口の減少が大きな要因であり、そのことが商業の衰退を招き、居住地としての魅力を減退させ、人口を減少させるという悪循環を発生させていると考えた方がわかりやすい。なぜなら、わずかとはいえ、元気な中心市街地もあるからだ。すべての中心市街地が衰退しているわけではない。

成熟都市の時代、人は都心を志向する

 全国で中心市街地の衰退が問題となっているが、どうも商業面が強調されすぎているところがある。中心市街地の活性化が商業活性化として捉えられ、観光商業に再生をかけているところもある。しかし、商業が活性化しさえすれば中心市街地は蘇るのだろうか。利便性の高い郊外店がなくなることはありえない。限られたパイの取り合いの中ですべての商店街が活性化することは不可能だ。
 しかし、一方で中心市街地の活性化において商店が重要な意味を持っていることも事実である。それは「地域コミュニティ」の拠点としての商店街である。商店街が積極的にまちづくりに関わっている地区は元気だ。なぜなら商店街の活性化だけを視野に入れているのではなく、まちづくりをめざしているからだ。今、大都市の都心が居住の場として見直されはじめているが、中小都市の中心市街地は、大都市の都心とはまた違う魅力を持っている。それは、高度成長期の中で失われてしまった、人と人とのふれあいであり、地域の歴史や伝統である。
 成熟都市の時代、人は都心(中心市街地)を志向する。大都市の都心は都市のハード面の魅力から、中小都市の中心市街地は人を含めた都市のソフト面の魅力から…。この仮説は大胆すぎるだろうか。

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