阪神大震災と住宅復興
未発表

はじめに

 阪神・淡路大震災から4年が経過しようとしている。3年が復興のめどといわれ、8割は復興したといわれている状況であるが、依然として仮設住宅に住んでいる世帯も多く、住宅復興については課題も多い。一方で、この間の復興をめぐる住宅市場の動きや住宅施策としての取り組みは様々な教訓を与えてくれている。ここでは、このあたりに焦点をあてて整理してみたい。

1.住宅の被害状況

 1995(H7)年1月17日未明に阪神・淡路地域を襲った「兵庫県南部地震」は、日本で初めての近代的な大都市における直下型地震であり、大きな被害をもたらした。44万世帯が住宅に被害を受け、6,400人もの死者が発生した。死者の多くは倒壊した家屋の下敷きになったものであり、地震時における住宅の耐久性の重要性が改めて浮き彫りとなった。

 被害は老朽住宅が密集していたいわゆるインナーエリアに集中しており、これまでの住宅対策の取り組みが遅れていた地域を直撃した。また、この地域に多く居住していた高齢者が犠牲となっており、被害の階層性が顕著であった。阪神大震災によって、密集市街地整備の必要性が改めて認識され、特にそこに居住する高齢者対策の重要性が明らかになったといえる。

 被害の実態については、都市計画学会と建築学会による被災調査やゼネコンによる調査など各種の調査が行われたが、被害の実態をトータルで把握できるデータが存在していない。被災戸数すら正確な把握ができておらず、ましてや住宅の所有関係や建築年次といった基礎データに至ってはほとんど不明である。行政では税務関係の資料をもとにした住宅被害の実態把握が可能であるが、これらのデータは公表されていない*1。このことが住宅復興についての議論の正確性を制約する要因となったといえる。

*1:神戸市では最近になってようやく滅失住宅に関するデータ(1995年1月に存在した住宅のうち、1996年1月に存在しない住宅の戸数)を公表した。

2.復興計画

 震災復興にあたってはいち早い取り組みが行われた。兵庫県の住宅復興計画「ひょうご住宅復興3カ年計画」が策定されたのは、1995(H7)年8月であるが、策定のための検討作業は震災直後から開始されており、3月には計画案が公表された。住宅復興計画は震災後の混乱の中で2カ月後には、ほぼ計画案がまとめられていたといえる。

 これは、復興に関わる各種の事業をいち早く推進する上できわめて重要なことであったが、一方で被害の実態が明らかになる前に策定せざるを得ないという制約があったことから、計画戸数の妥当性が問題としてあげられている。被災住宅戸数をもとに再建必要戸数を検討した大阪教育大学の岸本教授は、計画戸数の2.4〜2.7倍にもなると指摘*2している。

 また、当初の復興計画では被害の階層性が考慮されていなかったという問題もあり、1996(H8)年2〜3月に実施された「応急仮設住宅入居者調査」の結果を踏まえ、公営住宅を大幅にふやすよう計画が見直され、「恒久住宅への移行のための総合プログラム」が1996(H8)年7月に策定された。

 達成状況については、民間が計画戸数を大幅に上回っているのに対して、公的住宅の完成は5割に達していない状況にある。住宅市場との連携が不十分であり、民間の活力を住宅復興に活かしきれなかったといえる。神戸市では民間の借り上げによる災害復興特定目的借上公共賃貸住宅制度が創設(後に災害復興神戸市民間借上賃貸住宅制度に移行)され、民間住宅を公営住宅として活用するしくみが確立されたが、この制度を大いに活用し、大量供給された民間住宅を有効に活用すべきであったと考えられる。

●兵庫県の住宅復興計画の達成状況        (1998(H10)年2月末現在)

区分

合計

公的住宅

うち災害復興公営住宅等

民間住宅

計画戸数

125,000戸

80,500戸

38,600戸

44,500戸

発注戸数

 

156,000戸

(125%)

69,736戸

(86.6%)

37,917戸

(98.2%)

86,000戸

(193%)

完成戸数

117,000戸

(94%)

36,644戸

(45.5%)

19,626戸

(50.8%)

80,000戸

(180%)

*2:「被災住宅戸数と再建必要戸数の再考」(「大震災三年半・住宅復興の検証と課題」 1998.9 日本建築学会 建築経済委員会 住宅の地方性小委員会)

3.住宅市場

 住宅復興に対して住宅市場はきわめて機敏な反応を示した。日本の経済が低迷する中で、景気対策の方向として住宅建設が注目され、震災復興という確実な需要をねらってディベロッパー等が多数参入したことが阪神地域の旺盛な住宅着工につながったと考えられる。

住宅着工統計からみた復興状況

 住宅着工統計によって、住宅復興の状況をみてみると、復興は5月頃より本格化し、1996(H8)年にかけて大量の住宅着工が行われた。復興はまず、持家からはじまり、ピークは95.7〜9で、震災前の6倍の着工があった。1995(H7)年11月頃からは、貸家、分譲住宅の着工が活発となり、分譲住宅は消費税前の駆け込み需要のあった96.7にピークとなった。1998(H10)年以降は、ほぼ震災前の水準にもどっており、震災3年で住宅市場における住宅復興も沈静化したといえる。

住宅復興の地域偏在

 この住宅着工の状況を住宅の被災に対する復興状況としてみてみると、地域による復興状況の違いが顕著であることがわかる。西宮市、尼崎市等については需要を上回る供給が行われているのに対して、被害の大きかった長田区、兵庫区の復興率がきわめて低い。被害に応じて供給されるのではなく、供給のしやすい地域で供給された結果であり、震災がまとまった土地の取得を可能にし、これまで供給がされなかった地域(芦屋市など)でも供給が行われた。一方、基盤が未整備で復興後の基盤整備の進捗が遅い地域では、供給ができず、地域によって需要と供給の乖離が発生した。神戸市の西部(長田区、須磨区)では復興がすすまず、依然として人口転出が続いている。 

住宅市場の混乱

 賃貸住宅は、震災直後は住宅不足から、小規模住宅が供給され、住宅の家賃が上昇したが、供給量が増加するとともに、住宅の家賃、販売価格の下落が発生している。地域によっては空家も増加している。震災後の賃貸住宅需要は、木造家屋の大量倒壊による避難場所としての一時需要であり、仮住まい需要として規模が小さい住宅に需要が集まったが、持家の建て替えが竣工しはじめるとともに空室化が目立つようになった。一時的な需要への対応が問題を発生させたといえる。

 分譲住宅は、震災後の困窮した住宅需要に対応するため、当初は、規模が小さく、価格の安い住宅が供給された。その後、市場が沈静化するにつれ、規模は回復してきたが、全国的なマンション不況を反映し、1997(H9)年の4月以降は初月成約率が低迷している。グラフに示されている初月契約率は、供給者の発表しているもので、かなりの水増しがあるものと言われており、近年の成約率はきわめて悪い状況にある。

大量供給による影響

 震災直後に建設された住宅は、賃貸・分譲住宅とも規模の小さいものが多く、これが将来の不良ストックになる可能性を抱えている。

 一方で、大量の住宅建設によって、震災直後の売り手市場から買い手市場に変わったことにより、質の悪い住宅の淘汰が進んでいる。良好な住宅のストック形成という点ではプラスであるとみることもできる。従来から、西宮から東灘にかけての地域は住宅・住環境が良好で人気が高かった。この地域に大量に住宅が建設されたことによって、震災前は横這いから減少傾向にあった人口が増加傾向にあり、他地域からこの地域への転入が増加している。震災を契機として、この地域が良好な住宅地として脚光をあびてきたといえよう。

 しかし、この震災をきっかけとして、自宅の復興とあわせて賃貸住宅市場に乗り出したにわか経営者にとっては、きわめて厳しい状況も生まれている。住宅の大量供給が明らかになった後でも、西宮市をはじめとして大量供給が続いていたわけであるが、これらの地域では供給を抑制するような警鐘を与えるべきであったと考えられる。

5.住宅需要の動向

 住宅需要の長期的需要動向については、人口減少社会を迎えるにあたり、新規需要が減少していくことは確実である。我が国の人口は2007年をピークに減少するものと見込まれておいる。世帯数については世帯規模が拡大することから、人口がピークを迎えた後もしばらくは増加するがそれでも2014年をピークに減少するものと見込まれている。日本全体で見れば、2014年以降は新規需要は発生しなくなり、住宅需要は滅失住宅の補充のみとなる。

 また、我が国の住宅需要は、特殊な人口構造の影響を受けて特異な現象を及ぼしている。すなわち、戦後のベビーブーム層とその後の世代の間に大きな差があり、この差が「負の需要」として現れるという。1975〜85年に公団の借家に大量の空き家が発生したのは、ベビーブーム層が借家から持家に移行し、その後に続く借家需要が急減したためである。今後の住宅需要を牽引していくのは第2次ベビーブーム層を中心とする世代であり、この世代の動向が住宅需要に大きな影響を及ぼすものと考えられている。

 バブル崩壊後の経済を支えるものとして、住宅産業に注目が集まり、マンションブームと呼べる状況が続いていたが、この時期は我が国の人口構造からみれば、マンションの需要は減退する時期であった。それが逆に旺盛な需要を示していたのは、強引な需要の掘り起こしが行われ、これまでなら賃貸層であった若年層をターゲットに価格の安い(しかし、住宅の規模は小さい)マンションの供給が行われたためである。このことは、今後の住宅需要にも大きな影響を与えるものと見られている。現在、景気の低迷から住宅需要が低迷しており、これに対して景気対策の点から金利を安くしたり、税制改正によって住宅建設をなんとか130万戸までもっていきたいとされているが、需要の先食いという現象に対しては有効な手段はなく、マンションについてはしばらく大きな需要は期待できない状況にある。

 今後の住宅需要は、地域間競争がますます激しくなり、住宅についてみれば、住宅そのものの質に加え、地域の環境が重視されるようになる。この地域における住宅の大量供給によって、住宅及び住宅地として質の悪いものはどんどん淘汰されていくものと考えられる。これまで以上に住環境を含めた良好な住宅供給が重要であるといえる。

6.住宅政策上の教訓

 住宅復興におけるとりくみは様々な教訓を与えてくれた。ここでは、今後の住宅施策を考える上で参考となりうるものについて整理してみたい。

公営住宅

 まず、短期間に膨大な戸数の公営住宅を供給するため、直接建設型のみならず、借上型など多種多様な制度、手法が活用されたことがあげられる。平成8年の公営住宅法の改正により、公営住宅の借上制度が確立されたが、その先鞭をつけたが平成7年11月に創設された「災害復興特定目的借上公共賃貸住宅制度」である

 第二に、被災者に高齢者が多かったことから、様々な高齢者への配慮が行われた点である。公営住宅では、高齢単身、高齢夫婦世帯向けに小規模住戸にシフトした供給(単身世帯向:約20%、小家族世帯向:約40%)が行われた。また、「神戸の住宅設計基準(略称:コーデス)」を作成し、災害公営住宅では、段差解消や手すり設置のみならず、緊急自動通報装置の設置等も行っている。シルバーハウジングの供給を積極的に行うとともに、一般の公営住宅においても高齢者等が多く入居することから、これらの人の安否確認、閉じこもり防止等を行うため、コミュニティが育つまでの一定の間、高齢世帯支援員を配置することも行っている。さらに、良好なコミュニティの中で生活できるような仕掛けの1つとして、コレクティブハウジングにも取り組んでいる。(神戸市営住宅1団地29戸、県営住宅7団地232戸)

 第三に、ペット住宅の取り組みがあげられる。被災者の中にはペットとともに震災の苦難を乗り越えてきた人も少なくなく、仮設住宅においても、ペットが被災者の精神的な支えとなっている事例があることから、平成9年2年に、学識経験者、専門家、自治会代表者等による「ペット問題研究会」を設置し、方策を検討し、郊外地の2団地(69戸)においてペット飼育可能なモデル団地として取り組んでいる。

 第四に、募集上の配慮があげられる。仮設住宅からの移転を促進するため、一定割合を仮設住宅入居者用の枠として設定したり、社会的弱者の優先枠を設けたりしている。また、被災高齢者等が仮設住宅で形成されたコミュニティをそのまま維持して公営住宅等へ入居できるよう、グループ単位で応募可能な住宅も設定している。一方、大規模な住宅団地では、入居する世帯の年代層のバランスを図り、良好なコミュニティを育成するため、中学生以下の学童、幼児のいる世帯を優先する住宅の設定も行っている。

民間住宅

 まず、資金面の支援があげらえる。「神戸市災害復興住宅特別融資制度」を創設するとともに、高齢のために融資等が受けられない高齢者のために、高齢者住宅再建支援事業によって、復興基金から補助を行っている。さらに、「高齢者向け不動産処分型特別融資制度」創設(リバース・モーゲージ)を創設し、戸建住宅の場合は土地を、共同住宅の場合は区分所有建物を担保に最高1,500万円までの住宅再建資金を融資している。

 民間賃貸住宅に入居した被災者に対しても、家賃の初期負担の軽減を図り、生活再建の促進を図るため、復興基金を活用した家賃補助制度を創設した

 さらに、これまでの融資制度等では再建が困難な土地所有者の土地を神戸市住宅供給公社が買い取り、住宅を建設して分譲するとともに、購入者(元の土地所有者)の資金計画上必要な場合は建物のみを分譲し、土地は公社が所有したまま定期借地権により賃貸することも行っている。また、土地を貸したい人、借りたい人を「神戸市定借バンク」に登録し、その仲介も行っている。

 第二に、情報提供・人的支援があげられる。神戸・復興住宅メッセは、「防災すまいづくり」と「共同・協調の計画的すまいづくり」をテーマに地元工務店、ハウスメーカーや建設会社の協力を得て運営している民間住宅再建の総合住宅情報拠点であり、建設計画、資金計画、法律等の相談業務。共同化等のコンサルティング業務、専門家派遣 等を行っている。また、こうべ・すまい・まちづくり人材センターでは、共同化・協調化、マンション建替、まちづくり等について、コンサルタントや学識経験者を登録し、市民の要請を受けて派遣することを行っている。また、住宅復興にかかる融資、利子補給、税、法律関係、建築技術等に関する各種相談や情報提供を行うため、兵庫県と協力し、住宅相談所も設置している。

 第三に、規制緩和による支援があげられる。インナー長屋制度(神戸市インナーシティ長屋街区改善誘導制度)は、建坪率や道路斜線制限等の一般の建築規制が適用されると、震災前の建物に比べてその規模が小さくなってしまう場合に有利な制度である。地域の住民の合意により、建替のルールを定めた区域では、建築規制の合理化を図り、街区としての良好な建替を建築基準法の運用により支援する。また、再建する既存不適格建築物で、従前より市街地環境が改善される場合には、敷地面積や前面道路等の要件の緩和や、容積率割増しを拡充する被災復興総合設計制度、従来の市街地住宅総合設計制度の要件緩和、容積ボーナスの増等を行うインナー型市街地住宅総合設計制度、街区単位等で容積率の最低限度、敷地面積の最低限度、壁面の位置等を定めることにより、住宅に使う部分の容積率をアップさせることが可能なインナーボーナス制度(用途別容積地区計画制度)も設けている。

 第四に、NPOや市民によるまちづくりの推進である。阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワークは、震災直後から、コンサルタント、プランナー、建築家、大学関係者等が復興に向けた市民のまちづくりを支援していくために、形成されたものであり、活動としては、@連絡会議の開催、A支援ニュース「きんもくせい」の発行、B「阪神大震災復興市民まちづくり」の発行、CHAR基金(地元と専門家への資金的な支援)、D神戸市すまい・まちづくり人材センターへの協力、を行っている。震災以前から、その地域に関わりをもっていた専門家が地区に入り込んで復興の支援を各地で行っており、専門家による精力的な取り組みが復興の大きな力となっている。これらの支援もあり、重点復興地域に指定され、各地域にできた「まちづくり協議会」のうちの33地域の協議会が情報交換と親睦を目的として結成されている。

共同・協調住宅再建への支援

 平成10年8月の時点で神戸市では75地区 3,537戸の取り組みが行われている。被害の大きさからみるとわずかでしかないが、これまで共同・協調建替がなかなか進まなかった点から見れば大いなる前進である。市街地再開発事業、密集住宅市街地整備促進事業、住宅市街地総合整備事業、優良建築物等整備事業が中心であるが、震災により被災した住宅等において、敷地規模、接道要件等国の基準を満たさない小規模な共同建替等に復興基金から補助する神戸市独自の制度として「小規模共同建替等事業」も設けている。

 共同化の実現にあたっては、地域に対する愛着、コミュニティの存在、まちづくりの実績という、地元の人的条件や使命感に燃えた専門家という外の人的条件が大きな要因となっている。また、住宅・都市整備公団が積極的な役割を果たしたことも特筆される。

マンション再建

 分譲マンションの建て替えが課題として意識されはじめた時に震災が発生した。震災はマンション問題を10年早めたともいえる。兵庫県では被災マンション172件のうち167件が方針決定、108件が建替決議を行っている(平成9年12月時点)。

 マンション再建では住宅供給公社が果たした役割が大きく、41件(県公社支援35件、神戸市公社支援6件)で支援を行っている。公社では、再建に反対する人の住宅の権利を買い取り、再建後これを公社の分譲住宅として販売している。さらに、資金的に再建が困難なマンションの敷地を買い取り、これを再び定期借地権付き住宅として入居者に分譲(県公社、2事例)することも行っている。

 再建過程の教訓としては、まず、建て替えか改修かの判断の困難さがあげられる。解体費の公費負担の期限が限定されていため、充分な検討なしに解体したところも多く、全体に改修よりも建替にシフトしたといわれれている。主要な壁や柱・梁に大きな被害がなければ、改修も可能であり、建築技術から融資制度まで、すべての制度が新築に有利なようになっているが、改修の意義を見直すことも重要である。

 第二に、再建の手法があげられる。再建の手法はいろいろ検討されたが、@自主再建方式(a.再建組合による自力再建、b.民間ディベロッパーによる事業代行方式))A全部譲渡方式のが主な方式である。@が4割、Aが5割(金融公庫に借入申込のあった102件のうち)。採算性が低いことからディベロッパーの参画は難しいと考えられたが、社会的意義やノウハウ蓄積の点からの参画があり、再建が進んだ。

 @のaの場合、建替組合を結成して工事を発注するが、この組合は法人格を有していないため、建設会社との契約が難しい。再建事業参加者が出資をして株式会社を設立したところもある(ルネ門戸)。建替組合に法人格を持たせる必要性が指摘されている。また、@の場合、敷地が共有で敷地共有分には抵当権など第3者の権利設定があり、工事期間中の不測の事態(無断転売、無断権利設定、差し押さえなど)発生のリスクがあり、その回避策として土地信託方式を併用したものもある。

 Aの場合、着工前に抵当権を抹消することが前提となるため、ローンを抱えていた住民はそれを一括返済する必要あり、残債が大きく土地譲渡代金だけでは残債を返済できない者がいると実現は難しい。この問題を解決するため、金融公庫では抵当権の一時解除が行われたが、一時解除ではなく、建替後に抵当権が引き継がれるような方式の導入が指摘されている。

 第三に、既存不適格建築物の問題があげらえる。古いマンションでは容積率や日影規制について既存不適格である場合が多く、従前の規模を確保することが困難であった。そこで、震災復興型総合設計制度による容積率の特例許可などの規制緩和による救済が行われた。ただし、建替にあたって周辺住民が反対するケースもあり、住環境という点では問題の先送りしただけという指摘もある。居住者が既存不適格であることを知らないことも大きな問題である。様々な点でマンション問題をクローズアップしたといえる。

おわりに

 阪神大震災と住宅復興の経緯は、今後、他都市でも起こるであろう大震災に際して、どのような対応をとればよいかの教訓を示すとともに、今後、予想される様々な住宅問題に対する先鞭をつけたものとして、平常時における住宅施策においても参考とすべき点は多いと考えられる。今後の動向も含め、注目していく必要がある。

(1998.12.7)

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