市民参加の新しい方向−パソコン通信の活用
日本都市計画学会中部支部設立5周年記念出版記念事業応募(95.5)

1.はじめに

 「都市計画」が「まちづくり」という形で市民に浸透し、自分たちの住まいやまちに対する関心が高まるとともに、様々な形で市民運動、市民参加が行われている。しかし、都市計画については専門的な知識を必要とするものが多く、それが市民参加を不十分なものにしているといえる。難しい都市計画をわかりやすく市民に伝えることによって、いかに市民参加のまちづくりを進めていけばよいか。ここでは、情報入手と市民参加の手段としてのパソコン通信の活用について考えてみたい。

2.情報入手手段としてのパソコン通信の活用

 都市計画の用語は難しいものが多く、通常の辞書を調べても詳しいことがわかないことが多い。関連する法律も多いが、条文を読んだだけではよくわからず、政令、規則、通達まで見ないことには実態がわからない。専門家ですら都市計画のすべての分野について理解している者はいないのではないだろうか。現在の縦割り行政とわかりづらい法体系そのものを改めることが根本的には必要であると感じるが、都市計画に係わるデータベースを構築し、市民がパソコン通信によって自由に利用できるうにすれば、かなりの手助けになるものと考えられる。

 キーワード検索によって、関連する法律や計画を知ることができれば、市民に考える材料を与えることができる。現状では、まずどうしたらその情報が入手できるかがわからないし、調べようとすると情報が多すぎてわかないというケースが多い。これらのデータは今では文字情報として、どこかにあるはずである。それを一元化し、誰もが自由に利用できるようにする必要がある。法律は知らないからといって適用の対象外になるものではないにもかかわらず、法律の内容を知るためには相当の労力が必要とされている。少なくとも法律のデータベース化はすぐにでも行うべき課題である。

3.市民参加手段としてのパソコン通信の活用

 これまでの市民参加の手段としてはアンケート調査や説明会等が行われているが、そこには議論を通じて計画が深められるというような仕組みがない。行政は詳しいことを説明してもわかってもらえないというあきらめがあるし、市民も直接自分の利害に結びつかない問題については関心が低い。

 この要因としては、1つは情報が市民に行き渡っていないことがあげられるが、この点については、データベースの構築によって改善されると考えられる。問題なのは、参加のしくみであり、現状では時間に余裕のある限られたものが、それも一方通行の要望を述べる程度に終わっている。その打開策として考えられるのがパソコン通信の活用である。

 パソコン通信では、テーマに応じた会議室というものが設定されており、そこでは各自が自由に意見を述べ、誰もが自由にそれを読むことができる。時間に制約されることもない。1つの意見が大きな賛同を得ることもあり、様々な意見で議論が深められていく。このようなしくみをまちづくりに活用するのである。活用のイメージは以下のとおりである。

  1. 地方自治体が専用のネットを作る。市町村では無理なところがあるので、県単位で設立し、その中で自治体の数だけのフォーラムを設けることが現実的かもしれない。利用料金は無料とする。

  2. 自治体が抱える課題に応じた会議室を設定し、まず現状と課題に関するレポートを掲載する。

  3. 市民には、広報等でこれらの利用方法を周知させるとともに、会議室での話題を掲載する。

  4. 市民は広報で、どのような会議室があり、何が議論されているのかを知り、関心のあるものについては、パソコン通信によってアクセスし、会議室に書かれた意見を読み、自分の意見を述べる。

  5. 市民の議論によって、よりよいまちづくりが進められていく。

4.パソコン通信がまちづくりをかえる

 まちづくりにパソコンを活用するためには、パソコンが日常的に利用されるような社会となることが前提となるが、これまでの技術の進歩とパソコンの普及状況からみれば、不可能ではないだろう。現状ではパソコンを使いこなすことに知識を必要とするが、もっと簡単な方法で利用できるに違いない。パソコン通信がこれまでのまちづくりをかえてくれるのではないだろうか。 

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