名古屋市住宅見学会
(1998.12.4)

 名古屋市の仕事の関係で市営住宅を中心に市内の住宅・まちづくりを見学する機会に恵まれた。

1.城北荘

 利便性の高い市営住宅で高齢単身層の人気が高い。住戸は40u弱で、風呂が狭く、洗濯機置き場がないなど居住性は低いが、ずっとそのような生活に慣れている高齢者にとっては苦にならないというところか。
 南北に細長い敷地であるが、これに平行する形で柳原商店街が形成されている。バス内からの感想なので詳しいことはわからないが、空き店舗も少なく、比較的元気なように感じた。高齢者が多く居住しているところの商店街はまだまだ元気というところだろうか。

2.OZモール

 東側のアーケードが取り払われ、すっかり様変わり。駅前広場の地下駐車場の工事も進んでいるが、再開発の方はまだまだ。道路だけは整備されそうだが、上物整備がすすまないことにはOZモールもどうなることやら。大曽根事務所にいるT氏の話では、OZモールでも空き家が増加しているとか。
 店のおばさんに「どちらから」と声をかけられたが、これを視察慣れというのだろうか。見学していくだけで買い物をしない者たち。ここもできてもうすぐ10年。S先生には、「名古屋の見学会というと必ずここが入っている」と言われた。OZモールに続く全国区のものが出てきていないということが、名古屋の問題点ともいえそうだ。

3.上飯田南荘

 工場跡地を利用した大規模市営住宅。建設当時のはやりのツインであるが、人気がなく、東西向き住戸は常時募集の対象。特に西向きの人気がない。
 中庭から見上げると、その無機質な空間に圧迫されるが、O先生は「このツインはまだまし」と言っていた。Kさんは「東京の団地に比べると、余裕があるように思う」とも。今では非常に問題のある住宅となってしまったが、これでも当時は名古屋の特性も加味しながら建設されたというところだろうか。
 M先生は「まず西向きから2戸1改造だな」と言っていた。日照の悪さは規模の面でカバーするしかないと。

4.志段味(車中見学)

 ガイドウェイバスの橋脚の工事がかなり進んでおり、吉根の特定区画整理もかなり進んでいた。ガイドウェイバスについては、高架部分を走行する時に、何故レールで押さえるのかがわからなかった(N先生も同じ疑問を口にしていた)が、高速性、定時性、安全性の確保ができるというのが理由としてあげられていた。普通のバスとして走行するよりも軌道の幅員が狭くてよく、運転手の負担も少なくてすむという側面もあるような気がする。
 区画整理によってかなりの宅地が供給されることになるが、この供給によって既成市街地からの転出が一層進むのではという危惧もいだいた。
 先日、新聞に名古屋市の公社による土地の先行買収で1200億円の赤字がでているとあったが、この志段味のプロジェクトも聞くところによると、かなりの先行買収がされているとか。住宅需要が減少している中で保留地処分がスムーズに進むのかということも気になる。

5.本地荘

 郊外の大規模市営住宅。尾張旭市に囲まれた特殊な位置にあるところであり、地図の上ではかなり不便なところという印象をもっていたが、それほどでもなかった。
 5階建住宅でエレベーター設置が行われていた。設置に併せてスロープも設けられていたが、実際の車いすの利用を想定したものとは思えない状況であった。EVも車いす対応ではなく、廊下も狭くて車いすでの利用は困難だろう。
 住戸は1部屋増築されており、規模は改善されているが、使い勝手は悪い。3畳の多用室というものが設けられているが、物置としか使いようがない感じ。S先生は「1部屋増築するだけでなく、既存部分も含めてリフォームすれば、使いやすいものにすることができた。単に増築だけで終わってしまったところが問題」と指摘されていた。
 団地内に保育園が2カ所あったが、一部の部屋は利用していないようであった。当初は若い世代が多く、保育園の需要が高かったが、団地の成熟化とともにニーズが変化している。1カ所を高齢者のための施設に転用する必要があろう。

6.希望ヶ丘シルバー住宅(千種台)

 名古屋市第1号のシルバーハウジング。特別養護老人ホームと隣接しており、LSAの勤務時間以外は、特養の職員が緊急通報に対応する。特養を中心に全部で4カ所、80〜90戸のジルバーハウジングを設置する予定。当住宅は一般募集で従前居住者も一般募集の中で応募。
 城北荘、本地荘を見た後なのでその違いが歴然となる。ただし、風呂桶の幅が狭く座れない、浴室やバルコニー部分の段差、という問題あり。非常階段に避難用滑り台が設けられていたのは驚き。特養との併設だからだろうとM先生。
 建て替えもかなり進んでおり、更地が広がっていた。ところどころに木があるのを、できるだけ既存の木を保全するようにしている、と説明していたが、これに対し、これ程度ではというのが参加者の印象であった。
 部分的には建て替え前の住戸も残っており、スターの住棟の屋上には展望台があるということをS先生に教えられて気がついた。ある意味ではこれも歴史か。今からでは保存も無理なので、せめてしっかり写真に残しておかねば。

7.一つ山荘

 O先生が計画に関わった市営住宅。1種低層の規制のため、3・4階のタウンハウスで構成されている。質の高い住宅で人気も高いが、市の内部では金がかかりすぎたという批判もあり、これに続くものがないのが現状。
 地形の変化を生かし、変化に富む景観が形成されている。一部、O先生の関わる前に計画されていた部分は単純な形態で面白みにかけるが、敷地的にはこちらの方がゆとりがあり贅沢だ。
 中庭の花壇の質も高いが、造成のための斜面緑地も丁寧に手入れされており、居住者の管理意識の高さが伺えた。ただし、ここも路上駐車が。ここは73%確保されているのが、それでも不足しているというところか。
 定住促進住宅ではベランダがカーブしているところをG先生が評価していた。
 市営住宅では通り抜け通路が設けられており、コミュニティ形成に配慮している。また、ここから台所に通風できる。2階部分をデッキでつなぐ試みも興味深い。ただし、そのために、3階からの階段がまっすぐのびており、高齢者には恐怖心を与えるのではと市の課長が指摘していた。

9.シティハイツ水広公園(戸建分譲住宅)

 住宅供給公社による建物付分譲。太陽熱発電が設けられているのが特徴。今年度中に、明け渡すと購入者に設置費用の1/3の補助がでるということで、先行して建築が進められている。5000〜6000万円程度するが、補助がもらえればこれよりも100万円程度安く買えることとなる。滝の水で同じような住宅を売り出したところ人気が高かったので、ここもということになったようだが、まだ売れ行きの方は芳しくないようだ。
 太陽熱発電では使用電力の6割程度をまかなえる見込み。耐用年数は20〜30年。余剰電力は買電もするという。

10.稲永・汐止地区

 市営住宅第1号の超高層が来年完成予定。V字型としており、どの部屋からも海が見える。平坦な地形の中にあって、シンボルとしての意味はあり、デザイン的にも鳥が羽を広げたイメージなど配慮されている。風あたりが強いのが心配のようだ。
 計画当時はバブル期で、市営住宅で様々な問題が発生し、そのイメージを変えるためにも、また中部新空港の目印としてなど意味はあったようだが、市ではコストの高さを問題とし、研究者等からは公営住宅としての居住性から問題視されている。そんなこともあって、当初は6棟ぐらい建設する計画であったが、2棟で打ち止めとされた。ただし、それでも14階のものが建設されており、またデザインは無機質で超高層のデザインと比べると格段と落ちる。超高層をやめたことは評価できるが、その代わりがこの住宅では…。高層棟を作ると、居住者のローテーションがやりやすいという点があるようだが、もう少し配慮がほしいところだ。

(1998.12.6)

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