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私とKは、とある鍾乳洞に来ていた。なぜここに来たのか。その前のやりとりをよく覚えていないのだが、たぶん、深い理由もなく軽い気持ちできたのだろう。少しのぼせていたかもしれない。
Kといったが、ただ、それが確かにKだという確信がない。その当時の私の交友関係を考えると、おそらくKであっただろうと結論づけられる、という程度だ。
鍾乳洞に明かりがあるのは全体の三分の一程度でそれより奥は暗
闇
である。奥に入る者は懐中電灯を持参しなければならない。
懐中電灯の光りはどうにも貧しく、足下の水面を漠然と照らしこそすれども、水の存在はかえってその冷たさによって感じられた。
平日の鍾乳洞に訪れる人もまばらで、
闇
の中の光輪は私たちのもの一つであった。私たちは完全に
闇
に取り囲まれていた。私たちにはわからなかったが、
闇
は私たちがいることを知っていた。私がKの腰に手を回したのはKの手が私の首筋を捉えたときだった。私はKの唇を吸いながら辺りを気にした。
そのあとカルスト台地の石灰岩の陰で私はKの
闇
をまさぐった。Kの
闇
は深く、私の中指は底に達しなかった。たぶん指ではなく何かちょうどいい形のものを挿入することが求められているのだ。そう言うとKは妊娠したらどうするのと言った。どうしていいかわからないと言うとKは体を動かして僕のズボンのジッパーをおろした。Kが私のペニスを口に含んで少し舌を動かしたときに射精した。肉体はもう満足してしまった。Kは言った。
「こうしたかったんでしょう。」
しかし、私は射精することを求めていたのだろうか。どうしてこんなことをしてしまったんだろう。
「ここがあなたのいる場所なのよ。」
私は尋ねた。
「ぼくが君を好きだってこと?」
「そうかどうかわからないけど、
あなたはまたここに戻ってきたの。」
あれは本当にKだったろうか。誰か全く別の人かもしれない。確かこんなふうに返事したんだと思う。
「君が好きだと言うことでなく、ここに戻ってきたということは、つまりね、君の言いたいことは、ぼくが母性とかあるいは女性でもいいんだけど、そういうところに回帰したいってことを言いたいんだろう。確かにね、男性には」
「いいの、そんなことじゃないの。ごめんなさい。もういいわ。」
Kは、Kじゃないかもしれないが、彼女はそう言うと自分の荷物を置いたまま、そばに小さな土産物屋のあるバスの折り返し地点へ降りていった。私は、
歌
をくちずさんだ。