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十歳前後の時の記憶というのは奇妙に曖昧で脈絡のない断片がフィルムのネガティヴのように並んでいるだけである。反転した風景を再生すると、そこにある洞窟が焼き上がる。小学生たちはここを基地だと思っていた。だからこの基地を自分たちが守らなくてはならない。非常食と蝋燭を持ち込み、いつでも籠もることができるようにしておいた。基地は大小二つの出口があり、大まかにいうとV字型の洞穴になっている。双方の入り口からの一番奥にさらに大人でも一人が入れそうなくらいの窪みがあり、そこだけは外部の光が入り込まない
闇
になっていた。その窪みが私にはちょうどよかった。
ある時、私は
誰
かわからない女の子と二人でその窪みに収まっていた。妹だったか、近所の子だったかわからない。近所の女の子であれば、Kかもしれない。ただ、今に思えばその女の子自体に違和感がある。何かがその子ではないような気がする。いったい誰なのだろう。ただ、そうやって二人で、この私にとってちょうどよい場所に収まっているのは違和感のないことだった。そのとき彼女は言った。
「ここがあなたのいるところ。」
いや彼女の声だろうか。妙にくぐもった低い声として記憶している。
「ここから出ていってもまたあなたはここに戻ってくるのよ。」
その後の記憶は、帰ってから夕食があまり食べられなかったことで、母親にしかられたことである。いやそれは、なんだか、体が火照っていて、下腹部が気持ち悪くて、と言い訳していた場面である。そこが記憶に残っている。