俺は直美さんに連れられてこの町のもうひとつの海水浴場、三本松海水浴場へ来た。
天乃白浜海岸ほどではないけど、昼間は家族連れで賑わっているこの海岸。
でも、夜になるとほとんど人がいなくなる。
海はただ静寂の中にあり、月明かりだけを頼りに海岸を歩いて行く。
俺たちは草が少し生えた部分に腰を下ろして、直美さんは持ってきた天体望遠鏡の三脚を立てた。
「ほら、まこと君、月のクレーターがよくみえるでしょ?」
直美さんは望遠鏡を調整して俺に覗かせてくれる。
「見える見える」
「残念ね。今日は月が少し明る過ぎたね」
星空を見上げながら直美さんはつぶやく。
俺は望遠鏡から目を離して直美さんを見た。
「でもすごいぜ。こんなに空に星があるなんて初めて知った」
「ほら、あの雲みたいになってるでしょ? あれが天の川」
「おお!! あれが…」
「水平線の近く、下の方、あれがさそり座。その横、あれが乙女座」
直美さんは手に持った星座図と照らし合わせて星を教えてくれた。
「で、ちょっと松林で見にくいけど後ろを向いて。あれが大熊座でそのなかのあれが北斗七星。わかる? その先にあるあれが小熊座でその端っこのが北極星」
次々と指を指す直美さん。俺も地学の時間に習った覚えはあるのだけど、実際に肉眼で見たのは初めてだ。
「すごいや。なんだかめまいしてくるなぁ。こんなに星があるなんて」
「不思議よね…手を伸ばせば届きそうなのに、あの光の星までは気が遠くなるくらい離れてるのよね」
「実際は地球の何百倍も大きな星だったり星雲だったりするんだからなぁ」
「うん。でもね、見えるほとんど星が恒星なのよ。その周りに見えない惑星、さらにその衛星があるの。そうすると、とんでもない数よね」
「昔の人ってそんなこと知らないで、どんな気持ちで夜空をみあげてたんだろうね」
「昔の人も未来の人も同じように星を見るのでしょうね。今の私たちと同じようにさ…」
直美さんは膝を抱えて夜の水平線のあたりを見やった。
その横顔にドキリとする。
雰囲気のせいか、俺は自然と直美さんの肩に手を回してしまっていた。
「え? …ちょっと、駄目よ」
直美さんに手をたたかれる俺。
あちゃあ、ちょっと調子に乗っちゃったかなぁ。
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