◆7月23日<夕方>◆
『美鈴の婚約者』
あ〜あ。遊ぶ暇無くなってやんの。
ホテルから帰って来たときには中途半端な時間だったし、思わず昼寝をしてしまったぞ。
でも、夕食まで時間があるし、何処かで時間を潰そう。
散歩がてら俺は海を見渡せる臨海公園に来た。
この暑いのにジョギングをするおじさんや、犬の散歩に来ている主婦。夕日を見に来ているカップルなど、案外人が多い。
なんとなく一人でこんな場所にきてしまったけど…夕日でも見て黄昏るか?
「さあ、美鈴。帰りましょう」
「あ、ええ友憲さん」
あれ? なにか最近よく聞く声が……。
げ! 美鈴の奴じゃないか。
しかも、なんかやたらと気取った優男と歩いてるぞ。俺達より少し年上、高そうな背広着て、いかにも金持ちの御曹司って感じだ。
「あ…宇佐美」
思わず目があって、決まりが悪そうに俯く美鈴。
「よ、よう。美鈴、デートか?」
「この地味な男は誰だね、美鈴?」
地味とはなんだ地味とは…。お前が派手すぎるだけじゃないのか?
なんかヤな奴。
まぁ、外観からしていかにもって感じだけど。
「私のクラスメイトよ…」
「ほほう。まぁそのような感じだな。ただの友達って訳だ。浮気でもしてたのかと思ったよ。まぁ美鈴はこんな冴えない男とは釣り合わないだろうがね…はっはっはっ!」
俺は呆れて言葉が出ない。
「おい美鈴…この力一杯失礼な男は誰だ?」
「私は大野宮財閥の大野宮家長男の大野宮友憲だ。凡人君」
美鈴が説明する前に髪をかき上げながら答える大野宮。見事なまでに典型的なイヤな奴。
「行きましょう友憲さん」
「私が美鈴の婚約者だよ。覚えておいてくれたまえ。それでは失礼」
婚約者〜?
美鈴たちはそそくさと公園を出て行った。さすがの美鈴も婚約者の前ではしおらしくしてたよな…なんか悔しい…って妬いてるのか?俺。
「馬鹿男!」
「わ!びっくりした。なんだよ、戻って来たりして」
立ち去ったとばかり思っていた美鈴に声をかけられ俺は本気で驚いた。
「こ、婚約者なんて嘘だからね! 本気にしないでよ!」
なぜが小声で俺に耳打ちする美鈴。
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