高校演劇実践記録
                  脚本の書き方入門                              著 横澤信夫

下記の項目より、お読みになるところを、クリック してください

  はじめに           
とにかく一本書いてみよう  
○演劇顧問のための脚本創作講習会のスタート
○講習会(一年目の一回目)のスタート
○実施した脚本創作講習会
○素材をさがす
○脚本の構想の作り方
○一年目のその後
○とにかく一本仕上げよう

構想からストーリーまで    
○一年目のまとめと反省から
○素材を決めて話し合う
○登場人物の設定とストーリー
○ストーリーの膨らませ方

創作ノートを作ろう
○劇作ノートを作ろう
○劇作ノートの内容
○各場面の構想
○Kさんの「劇作ノート」
○Kさんの脚本
生徒対象の脚本創作講習会   
○脚本を書く前に
○脚本ができるまでの流れと素材さがし
○二つの話をからませ、対立構造を作る
○素材の選び方
○中心人物と場所について
○テーマとラスト
○資料集めとノート
○人物と背景を考える
○開幕のポイント
○結末を決める
○粗筋を考える
○大きな流れ
○小道具の有効な使い方
○生徒対象の講習会のまとめ
セリフとト書き・脚本の見直し  
○脚本の書き方の留意点
○セリフについて
○セリフの書きかた
○エチュードによるセリフ
○ト書き
○脚本の見直し
  あとがき            

 「脚本図書館」表紙へもどるときは  こちら

は  じ  め  に

 

 「脚本を書く」という作業は、部員全員でひとつの舞台を作り上げることとは別の個人的な作業ですが、それもまた演劇の大事な活動のひとつだと思います。高校演劇部員や顧問の先生にとって、大いに挑戦する価値のある活動なのです。
 「書く」事は「見る」ことから始まり、そして「考え、表現する」ことへと発展する、自己の発見や自己の変革に大いに係わる作業と私は思っています。 しかし、脚本を書いてみたいと思っても、なかなか書けるものでもないし、教えてくれるところもない。相談しても、「まず、書いてみたら」とか「やめた方がいいと思うよ」と、なんだか突き放されたような言い方をされてしまうことが多い。
 脚本を書いている人にとっては、「自分なりの書き方」を見つけるまでの苦労を味わっているし、その書き方はそんなに簡単に見つかるものでもないことを知っている。また、その方法が、誰にでも通用するものでもないこともよくわかっているので、安易に奨めることもできないのです。
 それでも脚本を書いてみたい、と思っている人のための入門書のようなものがあればいいなあと、書店に行って捜してもこれがなかなか見つからない。
 数年前、あるキッカケで始めることになった「高校演劇顧問対象の脚本創作の会」の経過を記録することで、入門書のようなものができないかと考え平成十二年度から十四年度までの三年間の内容をまとめてみることにしました。
 高校演劇実践記録という副題で「脚本の書き方入門」というタイトルにしましたが、脚本を書いている人からは、「こんなんで書けるわけないよ」とか「書いたとしても、いい作品にならないね」と言われそうですが、一歩踏み出すキッカケになってくれればと思っています。
 内容は、A〜Cの「演劇部顧問対象の講習会」と、Dの「演劇部生徒対象の講習会」を中心にしましたが、両方に共通する内容が多く、一部重複しているものもあります。また、Eの「セリフとト書き・脚本の見直し」は、出来上がった脚本を見直す時の留意点についてまとめようと思ったのですが、内容がどんどん膨らみ、「初めて脚本を書く」という範囲からはみ出す内容が多く、原稿を大幅にカットせざるをえませんでした。そのためか、内容としてまとまりのないものになってしまったように思います。
 いろいろ不備な部分がありますが、「構想の立て方や人物の設定」・「ストーリーの膨らませ方」・「劇作ノート」など、初めて脚本を書くことに挑戦しようと思っている人にとって、なにか参考になることがあれば嬉しく思います。
 脚本はステージに上げることで「光を放つ」のですが、「どのような光」を「どのように放つ」要素をもっているのか、脚本が出来上がったなら仲間や先輩に読んでもらい、感想を聞くことをお奨めします。練習しながら書き直すこともできますが、第三者の感想や意見も参考にして、よりよい作品へと高めてください。           
                 書き方入門表紙

A.とにかく一本書いてみよう         
      ・・・「脚本創作イーハトーブの会」のスタート

@ 演劇部顧問のための脚本創作講習会のスタート   
A 講習会(一年目の一回目)のスタート 
B 実施した脚本創作講習会 
C 素材をさがす
D 脚本の構想の作り方
E 一年目のその後
F とにかく一本仕上げよう・脚本を書くまでの流れ
○脚本を書く場合に注意すること・これからの作業について

 @ 演劇部顧問のための脚本創作講習会のスタート

                   ○東北大会の会場で
           ○岩手県南地区の脚本創作の講習会
       ○演劇部顧問のための脚本講習会の発足

            東北大会の会場で
                
 平成12年の12月、秋田県の大曲市で、高校演劇の東北大会が開催されました。
 例のごとく、すてきな舞台に身も心も吸い取られて、現実を忘れた状態になっていたのですが、岩手県のある顧問から、「やっぱり創作がいいですよね。どうして岩手からは創作が出ないんでしょうね。」と声をかけられたのです。        
「創作、創作といったって、その創作の舞台より既成脚本の舞台の方がよかったから、今回の岩手の代表は既成脚本になったんじゃないの!」と心の中ではつぶやきながら、「そうだね・・岩手は創作の基盤が弱いからね。」と口にしていました。 
 その年(平成12年)の高校演劇の岩手県大会と福島県大会の審査を担当していた関係で、創作脚本の状況を頭の中で比較していました。
 岩手県大会では、13校の上演のうち創作脚本の舞台は5校(生徒創作3校、顧問創作2校)でしたが、福島県大会では、14校の上演のうち創作脚本の舞台は9校(生徒3校、顧問6校)だったのです。この違いはどこから来ているのでしようか。しかも福島県では、ある学校の顧問が以前に創作して上演していたために創作脚本と判断されなかった高校が2校あったので、それも顧問創作に加えると、14校中創作脚本の舞台が11校となるのです。
 長年、創作が多く出ている福島県と比べて、毎年創作に挑戦している顧問が数人という岩手県では、比較のしようがないのは当たり前なのですが、不甲斐ないといえば不甲斐ない、情けないといえば情けない状況だったのです。
 話しかけてきた岩手の仲間に「今年の春に引き続いて、来年も県南地区で脚本創作の講習会をやることになっているよ。」と話したところ、「今年はどのようにやったの?」と質問されました。


       
岩手県南地区の脚本創作の講習会  
             
 平成12年6月。「演技演出」「メイクアップ」「脚本創作」の分科会で生徒対象の講習会を開催した次の日に、希望する顧問を対象にした「顧問のための脚本創作講習会」と銘打って、5名が集まったのです。
 「ボランティアの体験を内容としたものをまとめてみたい」という話を中心に、それをみんなで検討してアイデアを出し合いながら、人物やストーリーを作っていったのです。
 その後、その原案を示した顧問が脚本の形にまとめて演劇部の生徒に提示したところ、生徒たちもやってみようということになり、形あるものへと進んでいったというわけでした。
 多分、初稿の脚本だと思うのですが、私のところへ送られてきたので感想を伝えました。その後、何度書き直したのかわかりませんが、地区発表会を通過して県大会の舞台に登場してきたのです。
 その顧問にとっては、多分初めて脚本と名の付くものを書いたと思うのですが「キッカケ」と「やる気」と「アドバイス」があれば、一本まとまるんですよね。
 別の顧問からもあるテーマが出され、それについてみんなで話し合ったのですが、地区発表会では既成脚本で上演したということなので、脚本の形にまとまらなかったのか、あるいは脚本の形にはなったけれども生徒に受け入れてもらえなかったのかな、などと想像していました。

     演劇部顧問のための脚本講習会の発足 
 
 東北大会の席上でそのようなことを話したところ、「それでは、演劇部顧問のための講習会を県全体に呼びかけよう」ということになったのです。電光石火というか、なりふりかまわずというか、「とにかくやってみよう」ということで意見が一致しました。
 対象は、「これを機会に脚本を書いてみよう」と思う演劇部の顧問であればどなたでも可。未経験者大歓迎ということで案内を出してもらいました。
 研究会は三回を予定する。とにかく、脚本の形にすることを目標にしよう。最初からすばらしいものを期待しないで、「どのようにすれば脚本という形になるのか、その手順を勉強する会にしよう」ということにしたのですが、「最初からすばらしいものを期待しないで・・・」という部分は、私の胸にそっとしまっておきました。
 絵を描くときも、一枚目からすばらしいものを描こうと思うから、絵に手が出ないと思うのです。例えば、油絵に挑戦しようと思って画材を購入しようとした場合、だれかのアドバイスがなければ、絵の具の種類の多いのにもびっくりしてしまいますし、筆一本の購入についても不安です。
 材料をそろえて描いてみても、絵の具の性質や油の使い方がわからず四苦八苦したうえで、思い通りのできばえにならないと、二枚目に挑戦しようという気にならなくなってしまいます。
 最初の一枚は、アドバイスを受けながらでも、材料の性質や注意すべきことなどを教わりながら、とにかく一枚の絵としての形にまとめる方法を学べば、「この絵は自分の絵ではない」と思いながらも、次に挑戦できると思うのです。

 さあ、いよいよ、脚本の書き方のスタートです。

          TOP

A 講習会(一年目の一回目)のスタート

自己紹介 
脚本創作イーハトーブの会

        自 己 紹 介 

  雪が降り、道路が凍った平成13113日、会場となる花巻南高校に集まったのは私を含めて9名(うち1名は、都合で午後からの参加)でした。 自己紹介をしながら、今回の集まりに参加した心境を中心に話してもらいました。

Aさん―
 いままで五本書きましたが、いつも柱がないと言われています。一本目は、マンガのセリフをもとに書いて横澤先生に送ったら、十ページくらい感想を書いて送ってもらったように記憶しています。私は、書きながら見つけていくやり方をしてきたのですが、最初から柱を作っていくことが苦手なので、勉強したいと思っています。

Bさん―
 生徒にとっては、既成脚本でも新鮮に感じるのはあたりまえなんだと思うけれども、自分が前に一度見ている舞台は、やはりそれにとらわれるし、かといってそれを越える舞台を作るのも難しい。
 そういう時創作ができればいいなとは思うけれども、なかなかうまくいかない。
 あるシーンがあったらいいなとか、こういうセリフを舞台に乗せたいなとは思うけれども、
23ページ書いては挫折するという繰り返しでしたので、今回のチヤンスをものにしたいと思っています。

C―さん
 生徒の書いてきたものを直したことがあるけれども、生徒の感性とのずれが大きくてものにならなかったことがありました。
 今度は自分が勉強して、採用されるかどうかは別にして生徒に渡してみたい。うまくいけば、転勤するまえのいい置土産になるかななどと思っています。

Dさん―
 昨年、書きたいという生徒がいたので任せたが、形になっていなかったので、私が手を入れたことがあったのですが、うまくいかなかった。
 高校生の舞台は沢山見ているので、こうすればいいだろうとか、ああすればいいのかなと感じるけれども、アドバイスがうまくいかない。
 二十年前に一度書いたことはあったが、もう忘れてしまったので、これを機会に挑戦してみようと思っています。

Eさん―
 家が近いので参加しました。できれば今度の転勤では、この学校に来れればいいなと思っています。

Fさん―
 昨年の三月に演劇部の顧問になったばかりです。それまでは全く演劇の経験がなかったのですが、この世界でどのくらいやれるかわかりませんが、どうせやるなら、脚本を書いていろいろな学校で使ってもらえるようになりたいなと思っています。夢かもしれませんがそんなことを考えています。

Gさん―
 正顧問がそろそろ転勤するかもしれないので、これはヤバイぞと感じています。いろいろな方にはめられて、脚本を書く前に演劇のホームページを作ったりしています。
 このままでいけば、来年も再来年も係わることになりそうですので、よろしくお願いします。

―私(横澤)―
 三回の講習会で、とにかく一本書いてみよう。乱暴かもしれないけれども、書くことでいろいろなことが見えてくると思いますよ。(というようなことを話しました)

       脚本創作イーハトーブの会
 
 今回の集まりでは、あまり肩肘張らずに、遊びの気持ちを大切にしながらやることにしました。
 「最初からいいものが書けるはずがない」ということは口にしませんでしたが「まあ、五本目くらいには自分なりの書き方がわかると思うよ。」と言うと、みんなは「エーッ
!」という声を上げていましたが、「一本目がないと五本目もないから、まあ、今回はその一本目を形あるものにしよう」と話しました。
 遊びの精神の第一歩として、会場の花巻にあやかって「脚本創作イーハトーブの会」とネーミングしました。そして、今回の参加者が、どんなものでもいいから脚本として形あるものに仕上げたならば、「脚本創作イーハトーブの会の一期生」として認定することにしました。
 脚本を書いている人から見れば「甘い、甘い」ということにらなりそうですが、今回この会に参加したというチャンスを生かさない手はないでしょう。そして、「やる気」さえあればなんとか形になるかもしれないと思うのですが、あとは適切なアドバイスかできるかどうかが大問題、というわけで、いよいよスタートしました。

TOP

   B 実施した脚本創作講習会

               
ここ三年間の講習会から
         ○生徒対象の講習会

      ここ三年間の講習会から

 脚本創作イーハトーブの会がスタートしてから、これまで三年間、毎年三回開催してきました。
 都合により三回のうち一回しか出席できなかった人もいて、参加者の顔ぶれもその時その時で異なりましたが、毎回楽しい雰囲気で開催できました。
 提出されるアイデアについてお互い遠慮することなく言いたい放題話し合うので、交通整理に戸惑う場面もありましたが、問題点や形が見えてくることによって「脚本になるための条件」のなにかを感じてもらえたようです。
 岡目八目というように、ひとりでは展開が行き詰まることが多いのですが、複数の目で見るといろいろな見えてくるものです。

 これまで開催された脚本イーハトーブの会の経過を紹介します。

〔平成12年度〕  
一回目
   2001年1月13日(土)参加者 9名  
二回目 
2001年2月21日(水)参加者 7名  
三回目 
2001年3月31日(土)参加者 7名  
          脚本を完成させた人  5名

〔平成13年度〕  
一回目
   2002年2月24日(日)参加者 5名
二回目  2002年4月20日(土)参加者 5名
三回目  2002年5月11日(土)参加者 4名
         脚本を完成させた人  3名

〔平成14年度〕  
一回目
   2003年2月22日(土)参加者 8名
二回目  2003年3月15日(土)参加者 8名
三回目  2003年4月12日(土)参加者 7名
         脚本を完成させた人  4名

                生徒対象の講習会

 演劇部顧問による「脚本創作イーハトーブの会」の他に、演劇部員を対象にした「脚本創作講習会」も何度か担当しました。
 その講習会でも数多くの提案があり、私にとって沢山の資料を得ることができました。

[岩手県高校演劇協議会主催]
 高校演劇講習会の「脚本創作」分科会
2001.1.13 (土)

[岩手県南地区高校演劇協議会主催]
 高校演劇講習会の「脚本創作」分科会
2001.6.23 (土)

[岩手県南地区高校演劇協議会主催]
 高校演劇講習会の「脚本創作」分科会2002.6.8 (土)

[北盛岡・県北地区高校演劇協議会主催]
 高校演劇講習会の「脚本創作」分科会
2003.2.1(土)

[福島県南地区高校演劇協議会主催]
 地区発表後の「脚本創作」講習会 
2003.6.22 (日)

[岩手県高校演劇協議会主催]
 カルチャーキャンプ事業の高校演劇講習会の「脚本創作」分科会 
                                                                      2003.6.27 (土)  

 TOP

    C 素材をさがす 

            ○素材を高校生に  
            ○テーマになりそうなこと二十 
            ○切羽詰まった状況
  

                             素材を高校生に

 自己紹介の後に、イーハトーブの会の講習会の初日は「素材さがし」から始めることにしました。
 本来は、自分の書きたい世界を選ぶのが本当と思うのですが、各自の選んだ内容をみんなで話し合うとき、その世界が理解できないと話し合いになりません。
 
そこで、今回はみんなで勉強するという視点から、全員が理解できる世界として「高校生活」を素材に選ぶことにしました。
 自分の書きたい素材については、今回の研究会の方法を参考にしながら、後日自分で考えてみるということにしたのです。そうはいっても、この方法で良いのかどうか私にもわかりませんでしたが、とにかくやってみようということで実施しました。

     テーマになりそうなこと二十

 まず、高校生の生活を想像しながら、劇の素材になりそうなことを見つけ出す作業から始めました。
 日常的に高校生に接しているとはいえ、何が劇の材料になるかすぐ見つけることはできません。そこで、「高校生自身が疑問に感じたり」、あるいは「教師という立場から見て題材になりそうなこと」を、項目という形で各自二十個書いてもらうことにしたのです。短い時間でしたが、沢山出てきました。書いて発表してもらったものの一部を、順不同で並べてみます。
 

  進路      予餞会     部活動      仲間外れ
  友情
        携帯電話    恋愛      ダイエット
  電話代金    けんか
       卒業式     授業
  入学式     自立      生徒総会
      生死
  運動会  アイデンティティ  文化祭     勉強に対する疑問

  昼休み     ファッション  同窓会     試験   
  廃校
        職員室     存在意義    朝起き
  家族や家庭   異性関係
      自由     対教師関係 
  校則     親子関係   理想と現実
    オーディション  
     アルバイト   宝物      バイクや車    マンガ
  ひとり旅    インターネット 先輩後輩     放課後 
  孤立
        酒、タバコ   成績    音楽やバンド 
  ボランティ   保健室
       アイドル    生徒会室 
  コンサート   バス停     引きこもり
     休日  
  生徒会予算       等々

 教師を仕事としているとはいっても、それぞれ見る視点が随分違うものですね。
 
他の人から「酒、タバコ」と出されて、そうだそれもあったと気づいたり、「バス停」と言われて、それがどうして劇の材料になるのか想像できなかったりするのです。

  この段階では、劇の材料としてイメージされた世界を描いて出されたものや、なんとなく思いつくままに提示したものもあるのでしょうが、「ある単語」から触発されて「ある世界やある場面」がイメージされたなら、この段階としては良しとします。
 

        
切羽詰まった状況

 演劇のなかには、日常生活を切り取って舞台にしたものもある訳ですが、今回は「わかりやすい話」で「展開の仕方を考える」という意味で、ある高校生の「切羽詰まった状況」を取り上げて、それをどのように展開させるかみんなで考えてみようということにしました。  
 例えば、「部活動」という単語から、レギュラーになれない悩みを持っているある高校生の姿を想像したり、一緒に入った友人がクラブを止めるということで揺れ動く姿を舞台にできないかと考えたり、演劇部であれば、期日が迫っているのに脚本が書けずに焦っている状況を取り上げるということもいいと思うのです。
 

 また、「校則」という単語から、「校則に疑問を感じている生徒が、あることをキッカケにその疑問を教師にぶつける。そこからいろいろ波紋が広がる」というように、劇の世界のイメージが想像できればいいわけです。
 
 さっそく「ひとりの高校生があることで、切羽詰まった状況になった」ことを、各自二十考えて書くひとにしました。
 
 短い時間では、二十書くのは大変だったようですが、その一部を紹介します。  

・彼氏をとるか、クラブを取るか  
・生徒と教師の板ばさみ

・お弁当を一緒に食べる相手がいない
・第一志望か安全校か
・携帯電話を没収された
・家族の暴力に悩む
・経済的困難
・本番前なのに意見が分裂する
・どうしても言えない真実
・友人の出産
・学校の統廃合
・無断アルバイトで損失
・コース分けが近いのに、進路が決まらない
・好きな人がいたが、ふられた
・勉強しても、これがなにになるのかわからない
・親がすすめる進路への疑問
・やりたいことが見つからない
・大会が近いのに、練習がうまくいかない
・つきたい仕事はあるが、実力がともなわない
・妊娠させてしまった彼女は、学校を止めるという
・担任の先生が嫌い
・先輩に脅される
・カンニングが見つかり、停学になる
・学校に行けない
・退学したが、やることがない
・借金を返せない
・自分の病気が治らないことを知ってしまった
・友人(親、祖父)の死
・いたずら電話
・駅にあらわれるストーカー
・オーディションに合格してしまった私
・宝物にしていた写真を破られた
・卒業式のボイコット
・生徒会役員をやめさせようという運動が起こる
・ふらりと旅に出る
・先生(母親)にひどくおこられた
・サッカーのレギュラーをはずされた
・自分の大切にしていたものが捨てられていた
・ケータイの電話代が高額
・タバコの現場を見つかった
・自分の好きな人が同性である
・文化祭の出し物が決まらない
・授業が崩壊しているクラス
・校舎が取り壊されるというので、集まった同級生たち
・弱小卓球部の練習場所が、またまた追い出されそうになる
・野球部のアイドル的マネージャーが、急にやめると言い出す
・弁当かがない
・走れなくなった陸上のエース
・推薦枠1名に、親友も志望している
・バイクで怪我をして、入院した
                  等々

 このように沢山の状況が出てくると、今の高校生にとっては、本当にたくさんの切羽詰まった状況があるのだなあと驚きます。もちろんひとりの高校生がこんなにたくさんのことを一度に背負っているわけではないだろうとは思いますが、ふたつやみっつを一度に背負っているのではないだろうかと思えてきます。

TOP

 

D 脚本の構想の作り方

                         ○脚本の構想の話し合い
                         ○一年目一回目のまとめ


           脚本の構想の話し合い

 参加者各自が、それぞれ題材になるようなことをひとつひとつ取り上げ、その展開を発表することにしました。
 その内容そのものが、劇になるかどうかは別として、「これから劇になりそうだ」とか、「これ舞台にのせてみたい」というように感じたものを発表し、それをみんなで話し合いました。
 参加者全員から発表してもらったのですが、ここではFさんとGさんの提案の内容と、「それに対して出された意見や感想」を載せたみました。

「バイク事故」  Fさんの案

提案−−−バイク事故を起こした男子生徒の見舞いに誰か行かないか、という担任に誰も 応じない。しかし、内心では行きたいと思っている女子生徒がいる。その生徒は、事故の日、実は一緒にバイクに乗せられていた。
  終わり方は、そのバイクは誰のものなのかを明らかにする、ということを考えています。 

[意見や感想の交換]

・だれが中心になるのかな。

・バイク事故を起こした男生徒は登場できないので、主人公にはなりえない。

・でも、出てこない男子生徒は話の中心である。

・登場しない生徒が主人公という劇は、成り立つのかな?

・作り方によってはあると思う。その生徒についてみんなで話すうちに、登場して いる人との関係や考えや感情が表に表れてくるという作り方にすることもできる。

・でも、それは
むずかしい・・・・

・担任が見舞いに行くことを話す前に誰か行っているはずだし、仮に誰も行っていないとすれば、そのような生徒についてみんながいろいろ話すだろうか。

・見舞いに行きたいと思っている女子生徒は、自分と事故を起こした生徒との関係を知られたくないという設定にすれば、なにかが表現できる。

・実は、別な女生徒も以前その男子生徒のバイクに乗せられていたとか・・・

・ラストの「そのバイクが誰のものなのか」ということが、そんなに問題になることなのか。

・柱にすることはできると思うけど、それよりも話の中心を何にするか、そしてどのような展開にするかが大切。

・その男の子をめぐる女子の葛藤とか?

・現実の話としてありそうですね。

・場所はクラスになるのかな。

・クラスでは、展開の面白みが出ないね。話を展開するためには、何かの部活動を背景にした方がいいのかもしれませんね。

・その部員がそれぞれ、事故を起こした男子生徒と付き合っていたという設定も面白い展開になると思う。

・なにかの部活動を背景として、その部員それぞれ仲が良いけれども、ひとりの男子に好意を感じているとか。

・面白い展開が期待できそうですね。

・舞台には出なくても、その男子の設定が問題になるかも。

  「男子高校と女子高校の合併」  Gさんの案

提案ーーー男子高校と女子高校が、生徒の減少で合併するという話が面白いかなと思ったのですが、一緒になってどうしようか迷っています。一緒になる話で盛り上げておいて、やっぱりその話はなかったことになるという展開にするか、それとも合併することになって、その後どうしようか・・・というところです。

〔意見や感想の交換〕

・現実の問題として高校の統廃合が起こっているので、題材としてはいい着眼点ですね。・期待とか不安とかいろいろあると思うので、それらが出せるとおもしろいものになるかも。

・大規模の男子校に女子が入ってくるとか、女子高に少数の男子が入ってくるという設定も面白いかもしれないですね。

・合併前に、ある期間施行授業をやったとかいう設定にして、そのなかでの混乱を表現しても面白いかなと思うけれども。

・実際に男子高校と女子高校が合併するとなれば、一番混乱するのは教職員でしょうね。

・そういう職員を話題にした場面で描いても面白いものになるかも。

・「男子と女子の棟を分けろ!」という意見が出たり・・・・・・

・規律正しい女子高校とバンカラ風の男子高校という組み合わせなら、パニックですよね。

・男子高校と女子高校をぶつけるだけでは、場面が見えてこないので、具体的にどのような場面の中で展開するかを考えないと、発展させることが難しい。

・例えば、部活動とか?

・女子だけの合唱部に男子がひとりだけ入部してくるとか・・・・・

・三人ぐらいだと、面白くなりそうですね。いろいろな葛藤が生まれそうで。

・過剰に反応するとかして、扱いに差が出てくるんだよね。

・男子高校と女子高校の演劇部が合同で劇を作る話しなら、現実にありそうですね。

・生徒レベルでの「合併反対委員会」という話を聞いたことがあるけれども・・・・・

・そのような委員会を話しの中心にもってきても面白くなりそうですね。男子高校と女子高校の「合併反対委員会」の合同会議を開くとか・・・・・

・反発している態度の生徒や、なんとなくペアになる生徒がいたり。

・「反対だよな」「反対だよね」と言いながら、仲良くなっていったりと。

・司会はだれがやるのかな。

・当然、先生はいないわけだから、それぞれの代表がひとりずつ出てやることになると思うけど。最初は離れて座っていたのが、しだいに近づいてみんなからひんしゅくをかったりして・・

・最初からの知り合いがいたり・・・・・。

・そのふたりの仲立ちで、この合同会議が設定できたとか。

・お互いに日常的に話し合いをしたことがない代表が集まって、最初はぎくしゃくしているけれども、しだいに打ち解けてきて、建前は「反対だ」と口にしながら、どっかで「一緒になるのもいいかもしれない」と感じるようになってくる。面白くなりそう。

・集まる場所は?

・喫茶店やファーストフードではピンとこないし。

・だれかの家もなあ。

・表面は生徒会の規約について話し合う代表者会議ということにして、実際は合併反対の話をする集まりということにすれば、学校の会議室が使えるね。

・両校の代表が集まってワイワイやる一時間の同時進行型の舞台になる。

・そのなかでの、期待や不安や本音と建前のぶつかりあいを表現できたら面白くなりそう。

・それに部活動や個人的な感情を含めてね。

・幕が下りるときは、お互いに「反対だよな」といいながら、観客は来年の春には統合されるだろうということを感じて、この生徒たちはどうなるのかなと想像させる形になる。

・最後は全員「反対」という決議で終わるが、「では、四月に・・・・・」とつぶやく、とか。

             一年目一回目のまとめ

 このような話し合いを参考に、各自が自分の構想のイメージを膨らませていきました。ひとりではアイデアに悩むことが多いのですが、数人で話し合うと、いろいろな角度から見えてくるものがあるのです。
 なにから、どのように手をつけていいのかわからないままにスタートした集まりでしたが、脚本を書いてみようという意欲を感じました。
 「私にも脚本が書けるだろうか?」という不安を乗り越えるためには、良い一回目だったように思いました。今回の楽しい雰囲気を継続させながら、次回につなげようと約束して解散しました。

TOP   

E一年目のその後

・一年目第二回
・一年目第三回
         


             一年目第二回目

 第一回目から約一ヵ月後、七名が集まりました。前回参加したメンバーのうち、二名が都合により欠席しましたが、それぞれ自分の構想を印刷してみんなに配布していました。
 
 個々の内容について検討する前に、私から次のことについて話をしました。

[ストーリーの作り方]

 1 その題材を選んだ理由

 2 その題材を取り上げたいと思う、切実な思いや願い

 3 その題材をどのような人物にのせるか

 4 生きた姿を想像しよう

 5 なにを伝えるか、どう感じてほしいか

[ストーリーの展開]

 1 はなしのベースをどこに置くか

 2 切り口(だれが、どこで、なにをしているところから始めるか)を決める

 3 変化をつける、起伏をつける

 4 展開の意外性がほしい

 5 二つの話を合わせて味付けをする

 6 展開と場面設定(場割り)

 7 原稿用紙一枚一分の計算で、七十枚を目標に

[人物配置と役割]

 1 必要最低限の人物

 2 味付け的人物と役割

 3 その他の人物と役割

 4 各場面の登場人物と役割

 5 名前のつけ方

 その後、各自の構想について、ひとつひとつ意見交換しました。

 楽しい雰囲気でどんどん話が出てくるので、交通整理をするのは大変でしたが、ある方向が見えてくると提案した本人がだんだんその気になってくるのを感じました。全員の構想について話し合うのは大変でしたが、構想の膨らませ方についてのなにかは感じとってもらえたと思いました。
 他の人の話を聞いているうちに「そのアイディアで書いてみたい」という言葉も飛び出しましたが、最初に提案した人に拒否される一幕もありました。
 各自の構想がまとまったなら、題名や登場人物の名前を考え、全体の流れをまとめて私まで郵送してもらうことにしました。それについて私が感想を書き、それを参考にしながら、次回の集まりまでに構想をまとめ、できれば最初だけでいいので脚本の形にしてみようということにしたのです。

                一年目第三回目

 この頃になると、各自の構想もしっかりしたものになっていました。 そこで、この会では「各場面の構造」や「人物」を中心に意見交換しました。なかには、一場のセリフを書いてきた人もいましたが、今回はセリフにはあまり深入りせず゜、「その調子で続けてほしい」という激励の形にしました。
 初めて脚本を書く人に対して、「詳細な部分の心構え」とか「ここはこうするべき」ということを、あまり指摘しないようにしました。「まず、一本書いてみる」ことを中心にし、「書くことで見えてくるものがある」と考えたからです。
 しかし、あるレベルを持った「作品」にならなければ、舞台に乗せてもらえないのです。そのレベルになるようお互いアイデアを交換しながら高めていったのです。
 また、話し合いはとても楽しい雰囲気で、しかも充実していたように感じました。 「生徒とともに舞台を作って行くのも楽しいけれども、演劇について話し合うこの会は別な楽しさがある」と言っていた言葉が印象に残っています。

TOP


Fとにかく一本仕上げよう

                      ○4月の手紙から
                         ・脚本を書くまでの流れ
                         ・脚本を書く場合に注意すること
                         ・これからの作業について
                      ○一年目を振返って


 四月の手紙から

 
各自が考えた構想について、みんなで「アアデモナイ、コウデモナイ」と話し合ってもらうことで、どんどん深くなり面白くなっていくことを体験できたことは、大きな収穫だったようです。
 また、自分の構想についてはイメージが膨らむことがなくても、他人のものは見えるためか、自分のことは棚に上げていろいろ痛烈な言葉も飛び交いました。
 そして、五月の連休の頃までに各自が脚本の形にまとめ、お互い交換して感想を述べ合うことにしたのです。
 その間私は、一年目の講習会全体についてのまとめをしていたのですが、その「まとめ」や「脚本を書く上で参考になること」を、手紙の形で4月上旬に参加者に送りましたので、その一部を紹介します。

 [脚本創作イーハトーブの会 一期生のみなさまへ]
  
 4月になり、新しい気持ちでスタートされていることと思います。そんな中ではとても脚本創作どころではないと思いますが、5月の連休には何とかまとめようと心に期しているのではないでしょうか。
 先日、第三回の講習会(三月三十一日)の時のみなさんの資料をもう一度読み直してみました。その場では流れの中でみすごしていたこともあり、後で考えると、もっと深く考えてみる必要があると思われることもありましたので、これから実際にペンを手に書く時の(あるいはワープロのキーを打つ時の)参考になればいいと思い、感じたことを連絡します。

1 脚本を書くまでの流れ

 次のような順序で書かなければ脚本は書けない、というわけではないのですが、これまでの三回の講習会の内容をまとめてみると、次のようになると思います。

 
a 素材をさがす

 今回の講習会では、みんなで話し合いながら脚本創作の手順や方法を探るという目的から、高校生にその素材を求めることにしました。もちろん自分で書きたいものが他にある場合は、今回の素材とは別なものを書いても構わないわけですが、「話し合いの共通のベース」を高校生においた講習会としたのです。

 b 題材を決める

  劇の素材となりそうなものを、みんなで沢山考えてみました。その中から自分が書こうとしている世界をひとつ取り上げ、各自の題材を選ぶことにしました。
  ある高校生の「悩み、迷い、そして揺れ動く心情や状況」を具体的に取り上げ、その姿を生き生きとしたものに形作る作業を通して、脚本の書き方を勉強することにしたのです。

 
c テーマを決める

 その作業の中で、「テーマはなにか?」ということについて今回は特別言葉で表すことはしませんでしたが、それをもっとはきっりさせるべきだったと感じています。
 ある主人公が、60分という短い時間で行う行動を観客に提示することで、「なにを伝えのか」ということを明確に定めておくべきなのです。その目的に向かって主人公が行動するための「場所や時間を設定する」という方がよかったかなと反省しています。 (主人公が複数という場合もあります)

 
d 大きな流れを考える

 主人公が、どのような状況でどのような心理状態から舞台をスタートさせるか考えました。小説や連続ドラマと違って、60分という短い時間では、その事件の原因や前段の部分から始めるわけにはいきません。絵本の表紙をめくった段階ですぐその世界に観客を引き込むように、開幕を工夫するのです。

 そして、最終目的に行き着くまでのアウトラインを考えることにしたのですが、みんなからいろいろな意見や感想が沢山出たために、このへんがあいまいになったまま進めた人があったように思います。

 e 人物を考える

 主人公が目標とするラストに向けて行動していくための周囲の人物が必要となります。そしてその人物の存在理由を明確にすることで、主人公が行動しやすくなるのでする。
 主人公と対立する人、助ける人、ひつぱる人や押す人。いろいろな立場の人物を設定することで、主人公が動きだします。しかし、現在の部員の状況から人数を限定しなければならないということもあるわけです。
 それらを考慮しなか゜ら人物を考えてきました。

 f 流れを決める

 人物が決まれば、その人物たちと主人公との関係を考えた、アウトラインよりもっと詳細な流れを考えることになります。
 だれと、どんな幅所でなにが起こるのか。その時の主人公の対応や心情はどうなのかということも考えながら、60分という世界の起伏をイメージするわけです。
 今回の講習会全体を振り返ってみると、このへんのつっこみも弱かったように感じています。

 g 場割りを考える

 開幕から目的とする閉幕までの流れを、紙芝居に例えるなら、1枚1枚の場面で登場する人物にどのようなことを行わせるのか、それをはっきりさせ、それを5分から8分くらいのドラマとして観客に提示するための場割りを決めます。
 当然その場面での目的があるわけですし、次の場面との違いもあるわけです。 また、舞台という制約された場所で演じることも考えながら場割りをするわけですから、時間や場所が飛んだ場合の処理を考えると、小説やテレビドラマのようにはいきません。60分の舞台の場合、イッパイセット(装置の出し入れはしないで、一つの装置で考える舞台)を基本とした脚本を考えるようにしよう。
 このようにして、脚本を書くための設計図ともいえる場割りを決めるのです。

 h スタイルを決める

 三回目の講習会のとき、スタイルを説明するために2種類の例を提示しました。スタイルとしてはまたまだいろいろな形があるわけですが、今回の場合は、まずリアルなスタイルで表現することをお勧めします。
 「なんでもあり」の舞台は、それこそなにがあってもいいように思いがちですが、それなりの統一がなければ、観客は混乱を起こしていまいます。その意味ではリアルな表現にはない難しさがあるので、リアルなスタイルをまず経験してほしいと思うのです。

 
i 各場面の細部を考える

 全体のアウトラインが決まり、人物設定をして60分全体の流れが場割りで7〜12くらいの場面に分けられたなら、各場面でのドラマを詳細に考えることになります。
 紙芝居に例えるなら、1枚1枚の場面の中で誰が何をするか、それによってどんなことがわかり、観客はなにを感じなにを知ることになるのか。
 ある場面は、次の場面へのステップであると同時に、その場面での新しい発見や期待を感じさせるなにかがほしいのてです。そのための設計図として、その場面の細部をある程度考えておくことが大切なのです。

 
 
j 書く

 このような段階を踏んで、いよいよ書く作業に入るわけですが、脚本を書く場合かならずこのような手順で書くというわけではありません。初めて脚本を書く場合のひとつの例としてこのような手順を示したわけです。
 全体の流れがイメージされていないと、一つの場面ができたとしても、次の場面に進めなくなることか往々にしてあります。途中の場面が最初のイメージと別なものになる場合もありますが、主人公の行き着く先(目的)がはっきりしていれば、繋ぎを考えることで全体をまとめることができるのです。

TOP

  
     2. 脚本を書く場合に注意すること

 脚本を書くという作業は、自分の考えたり感じていることを表現するという意味では「自己表現」と考えることができます。しかし、それをもとに演劇部員が舞台化することを考えると、新しい舞台を作るための設計図でもあるわけです。
 どのような人物が登場してどんなことを行うのか、それによってどのようなことへと発展し、どのような結末になるのか。それはどんな背景でどんな状況の中で起こるのか。それらが作り手である演劇部員にわかる形で書かれいないと混乱を起こし、「わからない」脚本ということになります。
 また、そのようにして作られた舞台は「観客に見てもらう」ということを前提にしています。観客は、舞台を見ることによって「なにかを感じ」「なにかを受け取る」のです。
 書き手としては「なにかを受け取ってほしい」というような漠然としてものではなく、「これを受け取ってほしい」というもの(いわゆるメッツセージやテーマといわれるもの)をはっきりさせておいたほうが書きやすいと思います。
 そこで、「脚本を書く場合に注意すること」について考えていることを具体的に述べてみます。

 @本筋をしっかり作る

 よく「途中まで書いたけど挫折した」ということを耳にしますが、その場合「本筋ができていないまま書き出したため」ということが多いようです。書き出しはうまくできたが、「次の場面の構想ができていない」からストッブするのです。
 「アイデアが浮かばない」のではなく「道筋ができていなて」からなのです。 ラストまでの各場面の構想をある程度決めておかないと、全体の流れがわからないままスタートするから、行き詰るのです。
 書いているうちに、ストーリーがどんどん変わったり、思いもかけない方向に向かったりする場合がありますが、書き慣れている場合は別として、初心者の場合はたいてい行き詰ってしまうことが多いようです。ラストまでの道筋を決め、各場面の構想を考えてから書くようにしよう。

 A開幕

 開幕は、観客をこれから始まる舞台の世界へと誘導する大切な時間です。どのようにすれば、観客の気持ちを引き込むことができるのか、じっくりと考えてアイデアを引き出しましょう。
 「時代はいつか、場所はどこか、主人公はだれか、なにが問題となっているのか」というようなことを、劇的な雰囲気を作りながら、観客に伝えるのです。
 以前、ある高校の舞台で、開幕のときにバックテンをした舞台がありました。理由を聞いたところ「開幕に観客を引き込むため」という答えが返ってきました。しかし、バックテンはそれ一度だけで、劇の内容とはなにも関係ないものだったのです。
 舞台に表現される世界に関係のないものは、観客にとって混乱を起こすだけであり、マイナスになります。その世界で起こりうる、理由づけのある形のもので考えてください。
 このように、「本筋」をしっかり想定して、なにをどのように含ませたスタートにするか構想を立ててください。

 B大きな流れ

 劇の展開には、柱となる「本筋」の他に、その本筋を支えるもうひとつの流れを考えることがあります。
 Gさんの案の場合、学校の統廃合という本筋に「恋愛」や「演劇部」の話を加えることも考えられます。「統廃合」と言いながら、心の中には一緒に演劇をやりたいという気持ちがあるとか、話し合いをするメンバーで恋愛感情が芽生える、というようなことを絡ませると、話が膨らみます。

 Cギャグやアソビ(観客に迎合しない)

 三回目の会で気になることがありました。それは、観客に見てもらうことを意識するためか、奇抜なキャラクターを考えたり、ギャグやアソビを入れようとする傾向がみられる脚本(案)があったということです。
 幕を開けた時、高校生の会話の雰囲気は感じられても、なにが始まるのかわからないまま経過したり、劇の内容に関係がないパフォーマンスが始まったのでは混乱するだけです。また、個性の強いキャラクターは確かに観客の注目を集めるでしょうが、それによって「本筋」が見えなくなる場合もあるのです。
 観客に迎合する(観客の注目を集めようとする)行為より、「本筋」と「支える流れ」をしっかり提示することを考えてください。味付けはラストまで書き上げてからでも挿入できます。

 
Dラストを変更しない

 ラストに主人公が助かったというのと、死んでしまったというのでは全く別なお話になるように、ラストをほんの少し変更しただけで、その舞台の価値が大きく変わることがあります。観客の予想を越えた表現ですばらしくなる場合もありますが、逆に観客の期待を裏切る場合もあるわけです。「どのような状況で幕を降ろすのか」というラストが変われば、途中のストーリーも変わるはずです。したがってラストは変更しないでください。脚本を書くということは、「開幕と閉幕の間をつなぐ作業でもある」と言われています。どこに落としておさめるのか、ゆるぎない結末を設定し、それに向かって60分間観客を誘導してください。

          3. これからの作業

 五月の連休を利用して、脚本を書き始めることを期待していますが、今回の講習会では、「セリフ」について話す機会がありませんでした。でも、最初はセリフにこだわらずにどんどん書き進み、後で見直しをするようにした方がいいと思います。
 ラストまて書き上げたなら、1冊の脚本の形にして全員に送り、感想を集めることが大切です。もちろん、脚本を受け取った人は、感想を伝える義務があります。他の人の脚本をじっくり読むことが、書くときの栄養になるのです。
                    
                 (脚本創作イーハトーブ1期生への手紙より)

           一年目を振り返って

 一年目は「とにかく一本書いてみよう」ということを目標に、がむしゃらに進めてきたのですが、少々強引だったかなと反省しました。「書くことで、なにか見えてくるものがあるはず」というつもりでやってきたのですが、果たして見えたでしょうか。
 5月の連休明け頃から、脚本が送られてくるようになりました。それに対して感想を送ったところ、第二稿・第三稿と送ってきた人もいました。
 一年目の参加者は、私を除いて、三回出席した人六名、都合により一回のみ出席した人二名という状況でしたが、五本の作品が脚本という形になりました。
 その脚本を自分が所属する演劇部に提出したところ、残念ながら上演作品として採用されなかったものが三本ありましたが、残りの二本は舞台に乗り、県大会でも上演されました。
 今回、脚本という形に仕上げた人には、県大会の時、「脚本創作イーハトーブの会の一期生としての認定証」を渡しました。

 TOP    書き方入門表紙