@脚本の書き方の留意点 完 結 ・ 脚本は劇作りの設計図 ・ 作り手を制約しないこと ・舞台の動きを考えた脚本 Aセリフについて 完 結 ・セリフは観客に対する説明 ・ セリフは舞台語化されたことぱ Bセリフの書き方 完 結 ・ セリフは相手とのキャッチボール ・ ひとつのセリフにはひとつのものを ・セリフは簡潔明瞭に ・ セリフのずらしと飛躍 ・ 先が読めるセリフはつまらない ・テンポとズム ・ セリフは湧いてくる状態で書く ・場面の時間と原稿用紙の枚数 ○エチュードによるセリフ 完 結 ・ エチュードとは ・ エチュード1 ・エチュード2 ○ト書き 完 結 ・ ト書きとは ・ ト番きは観客に伝わらない ・ト書きでの心理描写は伝わらない ・ ト書きは具体的にわかるように ・作り手にはっきりわかるように ○脚本の見直し 完 結 ・ 構造(大きな流れ〉の見直し ・ 変化と伏線 ・ 場面毎の見直しとシカケ ・セリフの刈り込み ・ セリフは個人で異なるはず ・ ストーリーとドラマは別なもの ・仲間から感想を聞く |
あ と が き完 結 |
三 セリフの書き方 ○セリフは相手とのキャッチボール ○ひとつのセリフにはひとつのものを ○セリフは簡潔明瞭に ○セリフのずらしと飛躍 ○先が読めるセリフはつまらない ○テンポとリズム ○セリフは湧いてくる状態で書く ○場面の時間と原稿用紙の枚数 |
セリフは相手とのキャッチボール 高校のある国語の教料書の「表現V」の中に、会話について考える内容が載っていましたので、紹介します。 「日常会話」 親しい人との何気ない「会話」というものは、大変楽しいものですが、では「会話」をスムーズに進めるために、最低限必要なものは何でしょうか。次の〈会話例〉で、どの点に注意したらよいかを考えてください。 [会話T] A 昨日、映画を観てきたのよ。 B 私は一日中忙しかったわ。いろいろやらなけれぱならないことがあったのに、不意の来客まであったのよ。 A そう、それは大変だったわね。 B そうなのよ。父を訪ねてきたお客様だったのだけれど、おかげですっかり予定が狂ってしまったわ。 A それは残念だったわね。 B ほんとに最近は、どうしてこんなに忙しいのかしら。峡画なんて、もう何年も観ていないわ。 A ……・ [会話I]では、会話がうまく進んでいないが、その原因はなにか。だれが、どのように話し方を変えれぱよいと思うか。 教科書にこのように載っていましたが、みなさんはどのように感じましたか。 「セリフは相手とのキャッチボール」といわれていますが、この例では会話がまったく成立していません。AはBのボールを受け止めようとしているのですが、BはAの話しを無視して自分の言いたいことだけを話しています。これでは、Aが「観てきた映画についてのなにを話そうと思っていたのか」ということがどこかへ消えてしまっています。 舞台のふたりが、お互い「自分の言いたいこと」を話していたのでは、いわゆる「はなしが噛み合わない」状態になります。その場面の話しの中心はなにかということをはっきり決めて、それに相手の考えや気持ちをこめて会話をさせてください。 ひとつのセリフにはひとつのものを 書き慣れた場合は別として、初めて脚本を書く場合は「ひとつのセリフにはひとつのものを」ということを原則こして書くといいでしょう。 ある人が「自分の言いたいこと」を次から次と長々はなしていたのでは、「会話」ではなく「演説」になってしまいます。日常生活でも「相手に構わず自分の言いたいことをどんどん話す人」がいますが、よほど面白い話でもないかぎり、それこそ「迷惑な話」です。 相手の反応を確かめながら、内容によって話をいったん区切り、相手からの返球を受けて、また続けるという書き方をしてください。聞き手がしっかり受け止めると、はなす方も話にはずみがつきます。 次の会話の例も、同じ国語の教科書に載っていたものです。目上の人との会話ですが、[会話I]との違いを考えてみよう。 相手の反応をみながら会話を区切り、その内容に乗ってくる相手の様子によっては話しが盛り上がってくる様子がよく出ています。 [会話U] A 咋日、久しぶりに映画を観てきたんだよ。 B そうですか。僕はあまり観ないほうですが、今どんなものがおもしろいんですか。 A うん、私もよくは知らないのだがね、昨日、娘に連れて行かれた映画は、調査中に行方不明になった考古学者を息子が捜しに行って、秘宝を手にいれるという話だったな。 B へえ、おもしろそうですね。 A なんでも主役をやっていたのは、今一番人気のあるアクションスターらしいよ。 B そうなんですか。ときどき映画を観るのも楽しそうですね。 [会話U]の場合は、同じキャッチボールでも、AがピッチャーでBがキャッチャーという関係になるのでしょうか。しっかり受けると投げやすくなるものですね。 セリフは簡潔明瞭に 「もってまわった言い方」とか「まわりくどい言い方」という表現がありますが、セリフは観客に聞かせるものです。できるだけわかるように簡潔明瞭にしよう。次の例をみてください。 A あいつがおれのところに来ていたときに、お前はあいつの家に行ったということだが、その時あいつのおふくろさんが、お前におれのことなにか言ってなかったか? ゆっくり読んでみるとわかりますが、セリフとして耳で聞くとわかりにくい内容です。「あいつ」という代名詞を固有名詞(健)にし、相手の話しを間に入れることでふたつに分けて見ます。 A 咋日、健がおれのところに来ていたときに、お前、健の家に行ったということだけど、そうか? B うん、健のところへ行ったらいなくてさ、お前のところへ行ったところだって、おふくろさん言ってた。 A その時、おふくろさん、お前におれのことなにか言ってなかったか? これでだいぶわかりやすくなりましたが、Bのセリフのなかに「ところ」という言葉が3回もでてきます。内容はわかりやすくなったのですが、実際に耳にして気になるセリフは吟味して書き直します。 A 咋日、健がおれのところに来ていたときに、お前、健の家に行ったということだけど、そうか? B うん、行ったらいなくてさ、お前のところへ遊ぴに行ったって、おふくろさん言ってた。 A その時、おふくろさん、お前におれのことなにか言ってなかったか? セリフのずらしと飛躍 セリフは「お互いの会話」だとしても、相手の質問には「かならず答えなけれぱならないわけではない」のです。目的から遠いところでうろうろしているのも困るのですが、直線的に真っ直ぐ進むのも考えものです。話しを切り変えたり、タイミングよく飛躍させたり、観客の予想を外しながらはなしを展開させ、しだいに目的に近づいていく手法も取り入れてください。ここでは、前にも載せたKさんの作品の開幕の部分について考えてみます。 のぞみ 失礼しまあす。 成田 おじゃまいたします。 のぞみ 誰もいませんよ。……あ−あ。(ソファ−に座る) 成田 そうねえ。・・・…のぞみ先生、だれもいないからいいようなものの、こういうところに通される時は、私の方が先ですよ。 のぞみ はあ。 成田 そして、そう勝手に座らない。 のぞみ あっ、すいません。(立ち上がる)誰もいなくてホッとして、気が抜けて。 成田 腰が抜けだんじゃないの? のぞみ ハッ? 成田 殺風景ねえ。 のぞみ ええ、主任室と言っても、あんまり、ですね。 成田 スーパーだからね。 のぞみ はい、ス‐パーって、何がスーパーなんでしょうね。 成田 そうねえ。あんた、余裕ね。 のぞみ 何がですか? 成田 こんなところに来て・……。 のぞみ 別にイ。先生は? 成田 だって、あやまりに来てるのよ、私達…… 読んでみると情景が浮かぴます。また、ふたりの性格や関係が感じられます。 ここ(スーパー)に来た目的は、最後のセリフでわかりますが、そこに至る過程がうまく味付けされています。本筋である「あやまりに来た」ということを最初から話し始めたなら、わかるけれどもおもしろ味のないものになってしまいます。 また、四つ目のセリフで、「のぞみ」という名前であることや「先生」であることを観客に知らせています。 会話から上下関係もわかります。手のボールをしっかり受けながらも、直球のみの全力投球でないことも感じます。 「気が抜けて、腰が抜けて」にこだわらず、話しを「殺風景」に切り変え「スーパー」につなげている。そして「何がスーパーなんでしょうね」に対して「そうねえ」と受けているが、それを深く追求しないで「あんた、余裕ね」と方同転換させ、本題である「あやまりに来ている」ことへと結ぴつけている。 最後のセリフも「私達、あやまりに来てるのよ」と言わずに「あやまりに来てるのよ、私達……」と言わせているところも光ります。 先が読めるセリフはつまらない 観客は舞台を見ながら、舞台と一緒にその時間を共有したいと思っているのです。別な言い方をすれぱ、その時間をいろいろな意味で楽しもうとしているのです。 「次はどうなるのだろう」とか「相手はどのように反応するのだろう」と、その一瞬々々に興味を持ちながらステージを見ているのです。 自分の予想と違った展開や意外性に驚き、どんどん舞台に引き込まれ「次はどうなるのだろう」という気持ちになります。 その意味では、ストーリーの展開にしても、セリフの受け答えにしても、すべて予想通りに進んだのでは「おもしろくない」のです。観客の予想や期待を裏切りながら、ハラハラドキドキさせる展開を考えよう。 セリフにしても、「先が読めるセリフはつまらない」のです。予想外のセリフは新鮮な感じがします。「ずらし」や「飛ぱし」をほどよく加えながら、目的に向かって展開するようにしよう。 テンポとリズム 日常の会話には「雰囲気」があります。 明るい話題のときには、相手がはなし終わらないうちにどんどん次の言葉が飛ぴ出しポンポンという感じでテンポ良く会話が弾みます。 [ある日の朝、ふたりの女子生徒の会話から] 生徒1 おはよう。見た! 生徒2 見たo 生徒1 どうだった? 生徒2 良かった。ラスト! 生徒1 うん、ラスト! 生徒2 感動したなあ。 生徒1 でしょう。 これを聞いていても、周囲の人にはなんのことかわかりませんが、ふたりに共通する話題であれぱ、どんどん省略して気持ちを相手にぷつけていくことで成立します。もちろんこのままセリフとして使えるわけではないのですが、テンポの良さやリズムは感じます。 これに対して、困ったことを相談しているような場面では、重く暗い感じになり、ことぱに詰まってなかなか次の言葉が出てきません。 このように、会話には雰囲気があるのです。その雰囲気をつくるのが「テンボやリズム感」です。ある場面のもつ雰囲気をイメージして、それから会話(セリフ)をさせると、味のある場面ができるようです。 セリフは湧いてくる状態で書く 一語一語じっくり吟味しながら「ことばを紡ぎだす」ようにセリフを書く人もいるのですが、初めて脚本を書く場合は、何を言わせようかと「考えて書いたセリフ」には、味(テンポやリズム感)が乗っていないことが多いように感じます。 その場の登場人物の心理や状況をしっかり押さえて、なにをどの方同に進めるかという大枠を決め、その場の雰囲気を設定したなら、その雰囲気を感じながら一気に書くようにしよう。 言葉に詰まるとすれば、状況設定や心理状況が決まっていなかったり、その場の方向があいまいだからなのです。セリフ(言葉)は本来「気持ちや感情の表現」なので、「セリフが湧いてくる」状態で書くことが大切です。 セリフの吟味は、書き終わったあとでゆっくりしてください。書きながら、ひとつひとつのセリフを気にすると言葉の勢いやテンポ・リズムというものが壊れてしまいます。 ある程度まとまったところで振り返り、セリフを吟味します。声に出して読み、言いにくい表現や聞いて紛らわしい部分をさがしたり、あまりストレート過ぎる表現や、逆にくどいと思われるところを書き直すようにしよう。 場面の時間と原稿用紙の枚数 ある場面を書く場合、「その場面の原稿用紙の枚数を決めてから書く」ということも忘れないで下さい。 紙芝居に例えるなら、ひとつの場面に割り当てる時間があるように、全体のバランスからみたその場面の時間を考えるのです。 セリフを書き始めるとどんどん湧いてきて止まらなくなり、その場面の時間が大きくなってしまうことがあるからです。 その場面は、だいたい何分の場面にするかイメージするのです。雰囲気にもよりますが、5分の場面であれぱ、原稿用紙五〜七校位を目安にしてください。その範囲内で雰囲気を盛り上げながら「その場の目的が達成できるように納める」のです。 戻 る |
五 ト書き ○ト書きとは ○ト書きは観客に伝わらない ○ト書きでの心理描写は伝わらない ○ト書きは具体的にわかるように ○作り手にはっきりわかるように |
ト書きとは 脚本に書かれているのは「セリフとト書き」と言いますが、なぜ「ト書き」と言うのでしょうか。 もともと歌舞伎の台本からきた言葉ということですが、セリフの間に動きを説明するために、「ト言いながらたち上がる」というように、「ト」で始まる文草なので「ト書き」と言うようになったということです。 現在の脚本では、「ト」で始まる書き方はしませんか、セリフ意外の説明的な部分を「ト書き」と言っています。 その「ト書き」の役割を確認して、どのように書いたらいいのか考えてみよう。 脚本の中で使われている「ト書き」を、大きく分類すると、次のようになるのでしょうか。 ○ 場面の説明 場所、季節、時間、登場人物、雰囲気、等 ○ 動きの説明 登場、退場、動作(立つ、座る、等) ○ 心理的な状況 怒り、悲しみ、喜ぴ、等 ト書きは観客に伝わらない 最初に、「ト書きは観客に伝わらない」ということを確認しよう。 セリフは、その人物になったキャストが言葉として口で言うことで観客に届ぎますが、ト書きそのものは直接観客につたえることはできません。 開幕のト書きに ここは、ある高校の演劇部の部室。 夏も終わりに近づいだ放課後。 二年生の美希と加奈が、それぞれ上演用台本を読んでいる。 と書いてあったとします。 その脚本を読んだ人は、このト書の状況をイメージすることができますが、それを舞台に表現しないかぎり、観客には届かないのです。舞台が展開するなかで、観客にわかってもらうようにするには、どのようにすれぱいいのでしょうか。 「ここは、ある高校の演劇部の部室」というト書きの部分をどのように表現するのでしょうか。演劇部らしい装置を作り、セリフ(ふたりの会話)で演劇の話しをすることで、観客は「この場所は、演劇部の部室」ということをしだいに受け入れることになります。 脚本を読んだ人は「読んだ段階でわかる」のですが、観客は「開幕してすぐわかるわけではない」のです。 装置や照明・放課後のざわめきの音響などで雰囲気を作り、その中で行われる会話を参考にしながらト書きの内容を理解していくのです。 「夏の終わりに近づいた季節」や「二年生」ということを観客に知らせる必要がある場合、「いつ」「どのような方法」で知らせるか、作者は考えなけれぱならないことになります。 開幕直後の会話の中で 「もう、夏も終わりか。十一月の演劇の発表会まで、あと三ケ月。二年生の私だちも頑張らないとね」と言わせれぱ観客ほ理解しますが、登場しているふたりには、そんなことはわかっていることなので、わざわざ言うはずがないのです。それをセリフで直接伝えることは「不自然」で「説明的」ということになります。 舞台が進行する中で、説明的にならないように自然に「感じる」ように、観客に届ける工夫をしてください。 ト書きでの心理描写は伝わらない 初めて脚本を書く場合、自分がイメージしたことを「表現する」ことに重点を置くため、それを上演する場合や観客の立場を忘れてしまうことがあります。 ト書きを書く時、「小説とは別のもの」ということもしっかり把握しておいてください。 「男は、怒りを押さえこぷしをギュッと握りしめた」と書いた場合、その小説を読んだ読者は、心情や状況をイメージできますが、舞台を見ている観客には、男がだだ棒のように立っている状態にしか見えません。 また、この「男」の人物になっだキャストにしても、「こぶしを握る」ことはできても「怒りを押さえている」ことを伝えるのは難しいのです。 「怒りを押さえこぶしをギュッと握りしめた」と書くことよりも、その後のセリフで「怒りを爆発させたセリプ」をどのように表現するかということの方が大切です。また「こぷしを握りしめた」という表現は、具体的なように見えますが、それはキャストが理解できる範囲であって、観客には届かないのです。 ト書きは具体的にわかるように ト書きでは次のような表現をしないように注意しよう。 ○なにかをしている ○数人が集まって ○なんとなく ○話し合う ○不気味な募囲気を感じ など 「なにかをしている」とト書きに書かれても、どのように演じていいのか分かりません。「本を読んでいる」とか、「机の上を整理している」と具体的に書くことです。 また、「数人が集まって」という表現も、舞台の上に登場しているだれとだれが集まったならいいのかわかりません。同じように「なんとなく」とか、だだ「話し合う」という表現ではなく、具体的にセリフや動作で書いてください。 「不気味な雰囲気を感じて」というト書きも、その表現に困ることになります。建物の設計図に「かなり大きな窓」とか「幅の広いテラス」と書かれても、作る方が困るのです。文学的な表現や抽象的な表現をできるだけ避けながら、作り手が困ることのないように表規しよう。 作り手にはっきりわかるように 「ト善き」は、「観客に対する説明」というよりは、「作り手に対する説明」といった要素が大きいと思います。その意味では「具体的に」、しかも「書き過ぎないように」することが大切です。作り手が、その場面をイメージし、その場の雰囲気や心理状態が理解できれぱ、どのように表現するべきかという方向が決まるのです。前にも載せた次の脚本のト書きについて考えてみます。 彼 ふ−っ(と、大きくため息をひとつついだ後、不気味な雰囲気を感じ)おれはなんであんなことをしたんだ。 三秒後。両手をテーブルにつき体重をその両手にかけてゆっくりと椅子から立ち上がる。それをキッカケに、アンバー色の単サスが彼にあたり、チゴイネルワイゼンの曲の最初の部分が約十秒入る。 最初は、セリフの中に出てくる「不気味な雰囲気を感じ」という部分ですが、何によって不気味な雰囲気を感じだのかということがはっきりしません。彼が感じだものを観客も感じるならぱ、不気味な雰囲気を感じてもらえるはずです。たとえぱ、「隣の部屋で突然音がした」とか「床がきしむ音が聞こえた」というように音で表現するとか、稲妻や閃光という照明で表現することもできるでしょう。 また、セリフの後のト書きは「書き過ぎ」です。「ゆっくりと椅子から立ちあがる」とだけ書いておいて、あとは演じる人にイメージしてもらうようにしよう。 戻 る |
六 脚本の見直し ○構造(大ぎな流れ)の見直し ○変化と伏線 ○場面毎の見直しとシカケ ○セリフの刈り込み ○セリフは個人で異なるはず ○ストーリーとドラマは別なもの ○仲間から感想を聞く |
構造(大きな流れ)の見直し 脚本を書き上げると、なにはともあれホッとします。自分の作品が形としてまとまり、最後まで書き上げたという充実感と満足感が得られるでしょう。 出来上がった脚本は、舞台に乗せてこそ光を放つのですから、上演してもらえるように、もう一度見直しをしよう。 たいていの人は、二度三度と書き直すことが普通です。送られてくる脚本の中には、タイトルのそばに「第五稿」と印刷してあることも珍しくありません。何度か書き直して練習しているうちに、また書き直し、上演した舞台を見た観客からの感想を参考に、また書き直す。そのような過程を経てより良いものへと変化していくのです。 では、脚本の見直しをするとき、何をポイントとすれぱいいのでしょうか。いろいろありますが、まず「構造(大きな流れ)」について考えてみましょう。 ○この脚本は「だれ(主人公)」の話なのか ○その人物が、どういう状況から始まるのか ○最後は、どうなるのか ○なぜそうなるのか この四つの項目が、はっきりわかるように書かれているでしょうか。もちろん、主人公が複数の場合もあるのですが、初めて脚本を書く場合「だれが、なにをする話」か、明確であった方がいいのです。そして、何をキッカケにして変化するのかわかるようになっているかどうか見直しをします。 例えぱ、「自分の進路を決定できないでいる高校三年生の女子生徒が主人公の話」を脚本にしたとします。最後に「自分の進路の方向をみつけた」とするなら、その「みつけるまでの六○分間」がドラマになるのです。そして、その変化のキッカケがはっきり理解できるように流れができているかどうか見直しをしてください。 変化と伏線 次にもう少し細部について検討しましょう。前の進路の例で話しを進めると、開幕の羊入公の状態として「自分の進路を決定できない」という設定でしたが、それはなぜなのか。周囲の友人が次々と自分の進路を決めているのに、なぜ決めることができないでいるのか。 自分の中にある問題はなにか。家族や友人との間になにかがあるのか。社会の状況はどのようになっているのか。それらのなにが原因で「自分の進路を決定できない」でいるのかがはっきり観客に伝わる作りになっているか吟味してみます。 そして、「自分自身のあまさ」に気づいたその主人公が変化するとすれぱ、それを気づかせてくれる人物がしっかり描けていなけれぱならないのです。 その人物との出会い、そして葛藤を経て主人公は新しい何かを発見するのですが、その出会いが自然であり、葛藤が起こるべくして起こるように前もって伏線を作ってあるでしょうか。 現実には偶然の出会いというものがありますが、舞台で「偶然」を使うと、観客はあまりに都合よい展開と受け止めてしまいます。出会うための必然性、つまり「場所、時、タイミング」が納得できるように設定されているかどうか見直ししよう。 場面毎の見直しとシカケ 小説やドラマの流れを考えるとき、「起承転結」や「序破急」という言葉がありますが、自分の書いた脚本の流れを、主人公の変化によって大きく場面を分けて分析してみます。 開幕 → 出会い → 葛藤 → 理解 → 終局 と分類できた場合でも、「葛藤」の内容によっては紆余曲折があり、全体が七〜十二くらいに分けられると思います。 その各場面を、全体から見たバランスを考えて構成を見直して下さい。 まず、時間のバランス。紙芝居なら、一枚一枚の説明文書の長さです。同じ長さでなけれぱならないというわけではありませんが、その場面が必要だとするなら、その必要な要素が観客にしっかり届くように作られているかどうか検討してください。 また、周囲からいろいろ言われても、なかなか進路が決められなかった生徒が、だれかの一言で理解できたとすれぱ、それも不自然です。 このように全体の流れの中で、ひとつひとつの場面の持つ意味が、観客にとって納得できる作りになっているかどうか見直しをするのです。 また、重要な場面で使われる「ことぱ」や「小道具」は「前もってシカケておく」ということも知っておくとよいでしょう。 「葛藤の後、あることがキッカケで理解する」というストーリーで、理解するための重要な小道具として履歴書を使う場合、その履歴書がその場面で急に登場したのでは不自然です。 舞台の上では、相手の履歴書を偶然見てしまうような設定でも、観客に偶然性を感じさせないようにするのです。 制服を脱いで先生の上着を着ることで、大人ヘと脱皮したい気持ちを表現するのであれぱ、その上着をどの場面でどのように登場させて、どこでどのように使うと効果的か考え「シカケ」るのです。 セリフの刈り込み 前にも書きましたが、脚本を書くときは、ある種の勢いに後押しされて書いています。したがって、ひとつひとつのセリフの吟味が必要です。 ○ その言い方で、相手に通じるか ○ もっと簡潔な言い方はないか ○ 言い過ぎていないか ○ 説明的になっていないか ○ その時の心情が表れているか ○ 相手とコミュニケーシュンがとれているか ○ 心理的やりとりが感じられるか ○ 言いにくい部分はないか ○ 聞きにくい表現はないか など 最初に書いたセリフは、どちらかといえぱ説明的な部分が多くなっていることがあります。動きを考えると、ことぱ(セリフ)でない方がいい場合が多くあります。その場面をイメージし、動作も含めて見直すと、セリフがどんどん短くなっていくので、「セリフの刈り込み」と表現するのです。 男 (相手の話しをさえぎって)お前がなんと言おうと、おれは納得できない。これ以上話しをつづけても無駄だ!おれは帰る! これでは説明的です。怒っているのであれぱ、その怒りをまず出すと思うのです。 男 (手にしていた書類の束を、机に叩きつけて)帰る!(カバンにその書類を詰め込み、帰ろうとする) 相手 (ウデを掴み)おい、待てよ!話、聞けよ。 と展開した方がドラマになります。 セリフは個人で異なるはず 日常の会話を聞いてもわかるように、ひとりひとりの話し方には特徴があります。女子高校生三人の会話の場面で、同じ話し方をさせたのでは区別がつきません。 ある登場人物ひとりのセリフを拾って読み、同じ特徴をもたせるように見直すこともやってみよう。 以前、「そうザーマス」と語尾につけたザーマスおぱさんの舞台を見たことがありますが、大きな特徴になっていました。そこまではしなくとも、ちょっと崩した言い方をするタイプとか、時々馬鹿丁寧な言い方をしてひんしゅくをかう性格など、考えるといろいろな特徴を持たせることができます。 相手に対する呼ぴ方でも、「あんたね」「君ね」「お前さ」「おい」などあるので、その人物の性格に合ったものを考えて特徴づけるといいでしょう。 ストーリーとドラマは別なもの 初稿の脚本について、全体の流れやセリフの吟味という見直しをした後、もう一度考えてほしいことがあります。 それは、「ストーリー」と「ドラマ」は別なものだということです。 もちろん、ストーリーがしっかりしていなければドラマは成り立ちませんが、ストーリーがわかったからといって、ドキドキワクワクしたり、ある一言にハッとするわけではないのです。 「ストーリー」はいわゆる「お話」なのです、そのうえにどのような「ドラマ」が乗っているかということを全体の流れや場面毎に確認しよう。 ひとつひとつの場面は「わかる作り」になっているか。そして、その内容は「ドラマ」になっているか。そして、舞台に乗せた時「面白い舞台」になりそうか。というようなことを、もう一度考えてみよう。 最初から、そんなに上手く書けるわけではないけれども、そのへんの感想を仲間に聞いてみるというのも、ひとつの方法です。 仲間から感想を聞く 初めて脚本を完成させた時、「完成脚本」と考えずに、より良いものへと成長させるために、多くの人に見てもらうようにしよう。 他人の意見は謙虚に聞き、直すときは自分の考えを大切にしながら、納得のいくものをしっかり受け取って生かすことが大切です。 そのためには、相手の言葉を鵜呑みにせず、相手はなにを言おうとしているのかしっかり受け止め、「なるほど」と感じた部分について見直しをするのです。 見直しが終わったなら印刷をして、多くの人に読んでもらおう。 さあ、あなたも脚本を書いてみませんか。 戻 る |