「脚本の書き方入門」
      C.  劇作ノートを作ろう

                  ・・・・・・・・ 「イーハトーブの会(二年目の記録から)」

@劇作ノートを作ろう        完結
       ・二年目第二回の集まり
       ・劇作ノートの目的
       ・ノートの項目
A劇作ノートの内容         完結
       ・題名
       ・あらすじ
       ・構想、ねらい、おもい
       ・場所の設定と装置
       ・人物の関係
       ・各々の人物について
       ・劇のスタイル
B各場面の構想           完結 
       ・場面一
       ・場面二
       ・ストーリー案
       ・場面の作り方
       ・縦糸と横糸
       ・次回に向けて
CKさんの劇作ノートから        完結
       ・Kさんの劇作ノートから
DKさんの脚本               完結
       ・Kさんの脚本
       ・私の感想

 「脚本の書き方入門」表紙へ

       劇作ノートを作ろう

                         ○二年目第二回の集まり
                         ○劇作ノートの目的
                         ○ノートの項目

            二年目第二回の集まり

 「劇作研究イーハトーブの会」の第二回の集まりで、ストーリーについての話しをしたあと、劇作ノートについて紹介しようとしたなら、「エーッ、まだセリフの段階に入らないの」という声が出ましたが、まだなのです。
 例えば、太郎・次郎という二人の人物が会話をする場面を想定した場合、互いに相手を呼ぶとき「どんな呼び方」をするでしょうか。いつも「太郎君」「次郎君」と呼びあっているとは限らないのです。互いの力関係やおもいいれによって、その呼び方もちがうはずです。
 太郎は普段「おい、次郎」と呼んでいるが、その時の気持ちによっては「次郎ちゃん」となるかもしれないのです。「太郎君」「次郎君」と呼びあっているようなセリフの書き方だけでは、味が出てきません。「お互いの関係をはっきりさせないと、セリフは出てこない」のです。

                  
劇作ノートの目的

 さて、初めて脚本を書く場合「粗筋や人物が見えてきた」次の段階にはなにをすればいいのでしょうか。
 私のお勧めは、「劇作ノート」を作ることです。「劇作ノート」とは言葉どおり「劇を作るためのノート」です。
 作家の司馬遼太郎さんが、「街道をゆく」というシリーズでいろいろな土地を訪問しながら、その場所の様々なことについて話す仕事をするとき、ノートを作っていたということをNHKの放送で紹介していました。
 ある土地へ出かける時、その土地の「歴史や風土はもちろん、産業や地形、その土地出身の人物」まで、ありとあらゆることを調べてノートに書くというのです。時には、図わ描いてたり、矢印を引いたりといろいろな工夫をしながら、事前の勉強をするということでした。

 脚本を書く場合も、これから表現しようとしている世界をよりはっきりさせるために「劇作ノート」を作ることをお勧めします。
 もちろん、「劇作ノート」がなければ脚本が書けないというものてもありません。何本か書いているうちに、そのまとめ方や書き方がわかってくれば、「ノート」という形にしなくても、頭の中で整理しながら脚本は書けるのです。
         
                     
ノートの項目
 ノートの準備をしたなら、通しナンバーをつけましょう。そして、次の内容でタイトルをつけます。

「題名」に一ページを使います
「あらすじ」として、見開き四ページ
「構想、めらい、おもい」に四ページ
「場所の設定と装置」に二ーホジ
「人物の関係」に二ページ
「各々の人物について」それぞれ二ページ
「劇のスタイル」にニぺージ
「各場面の構想」として各四ページ

 各々の内容に、どのくらいのページが必要になるか、実際に書いてみなければわかりません。今述べたページ数は一応は目安と考えてください。

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            劇作ノートの内容

                            @題名
                            Aあらすじ
                            B構想、ねらい、おもい
                            C場所の設定と装置
                            D人物の関係
                            E各々の人物について
                            F劇のスタイル

                劇作ノートの内容

 それでは「劇作ノート」の内容に入りましょう。「ノート」はノートの完成が目的ではなく、ノートを書きながら、表現したい世界の姿をはきつりさせる作業です。したがって、他人に見せるものではないので、特に丁寧に書く必要もありません。自分のイメージをどんどん膨らませることができればしめたものです。
 ここでは「引越」についての原案を中心に劇作ノートの内容を考えてみることにします。

題名    (1ページ)

 題名はいつ決まるかわかりません。最初に決まっていたとしても、セリフを書いているうちにすてきな言葉に出会って変更するかもしれないのです。
 「いいなあ」という言葉がみつかったときに、その言葉を忘れないうちに書いておき、後で吟味して選択しよう。
 題名には。作者の「いろいろなおもい」が込められていることがあります。登場人物の、ある場面での心情から紡ぎだされた「ことば」であったり、舞台全体のイメージから湧き出た「単語」であったりするのです。
 また、題名は観客にある種のイメージを与えます。私の作品の一部を載せてみますが、どんな印象を持つてでしょうか。

「歌集」
「異端者同好会」
「CHENGING MAIND」
「海に旅立つ鮭の子ら」
「秋祭り」
「私の海は黄金色」
「キューイさま」
「だるまさんがころんだ」

 いかがでしょうか。「歌集」や「秋祭り」は単純でインパクトが感じられませんね。

あらすじ   (4ページ)

 「あらすじ」は、Kさんの「生徒指導に関する内容の脚本」の原案でいえば、場面@からFまでのような書き方になります。 
 ここまでの段階で考えたストーリーは、まだまだ深まっていないので、これからの作業が進むにつれて、もっと書き足すことが考えられますので、ノートを開いた左のページに書いておくとよいでしょう。そして、後から付け加えたいことが出た内容は右のページにどんどん書いていくようにすればいいと思います。
[あらすじ]

場面1


場面2


場面3
(あとで付け加える内容を書く欄)

 しかし、この方法にこだわることもありません。やってみて自分なりに工夫して下さい。
 別の書いて貼り付けたり、挟みこんでもいいわけです。
 ここに書いたことは、参考と受け止めて下さい。

構想、ねらい、おもい    (4ページ)

 この場面では、今書いてみようと思っている脚本の世界について、考えていることや感じていることなど、様々なことを記録するページです。例えば「いじめ」を中心とした世界を描こうとしている場合、普段の高校生の姿を通して感じている「いじめ」の実態を表現することで、「いじめ」に対する自分の考えや怒りをぷつけ、脚本を書くエネルギーを確認するのです。
 あるいは、既製脚本を上演する場合の「演出ノート」に例えるなら、作者の「思想やねらい、おもい」というものを取り出して表現するページにも内容が似ているかもしれません。
 以前、宮沢賢治の「貝の火」を上演したとき、主人公の兎だけに名前がついていたのです。その名前が「ホモイ」というのですが、なぜ「ホモイ」なのかその意味をズーッと考えていたとき、宮沢賢治は造語の天才であることや、脚本の世界における主人公の行動からホモサピエンスの「ホモ」ではないかと気づき、メモをしたことがありました。
 また、谷川俊太郎の「おばけりんご」という劇を見たとき、なぜ「りんご」でなければならないのかと考えたり、別な劇の舞台でシャボン玉が使われているとき、なぜ「シャボン玉」なのかその意味を追求することがありました。
 このように、自分が表現しようとしている世界に対する「こだわり」のようなものを書くことで、自分の内面にある「なにか」を確認するページに使ってください。

場所の設定と装置   (2ページ)

 自分がこれから描こうとしている世界をイメージするとき、場所を決めることで話が動き出すことがあります。
 例えば「いじめ」について考えるとき、「公園」と結びつけたとするならどのようなことがイメージできるか。「図書館」ならどうなるか。「家の中」ではどのようなことが起こるのか。
 もちろん、自分がイメージしている内容を表現するために「もっともふさわしい場所」というものがあるわけですが、それを発見するためにもいろいろな場所をイメージして、その場所での展開を考えるのです。
 また、話を展開するためには、「時間や場所」を自由に飛んだ方が楽かもしれませんが、初めて脚本を書く場合は「ある一つの場所」に固定して書くことをお勧めします。
 その「ある場所」を固定することで、「生活」を取り入れた舞台を作ることができるのです。例えば「高校の図書館」をある場所としてイメージしたとき、普段の図書館の風景を想像してみます。
  本を読んでいる
  勉強している
  面接指導が行われている
  おしゃべりしている
  学園祭の展示について調べている
  図書や新聞の整理をしている
  うたたねしている
 話の本筋だけでなく、このような風景を生かすことで「生活感」のある舞台をつくることができるのです。
 テレビや映画のように、場所が変わったり過去に戻ったりすると、書く立場ではいろいろなことが表現できるわけですが、いわゆる「舞台処理」ということをきちんと理解していないと、観客がついてこれないということが起きます。
 どうしても複数の立場を設定しなければならないとき、その全てをリアルな装置で表現すると、無理がきます。
 「公園」から家の中の「ある部屋」に転換しようとする場合、ベンチや植え込みを片付けてベットや本棚や机を準備したのでは、そうとうな時間を使うことになります。このようなとき、舞台をある程度抽象化した装置をイメージする力量を要求されるのです。
 「箱ものセット」といわれるように、何個かの箱を用意して、置き換えることで、ベンチになったり机になったり塀になったりといろいろな使い方をする方法を取り入れたりすることになります。また、舞台に登場している人物が、道具の出し入れをするという手法もあります。
 しかし、このようなことをイメージした脚本というものは、何本か書き慣れた後に取り入れないと、破綻が起こる場合が多いので、初めて脚本に挑戦する場合にはお勧めできません。「ある場所」を固定して世界をイメージしていきましょう。

人物の関係    (2ページ)

 「人物の関係」については、「登場人物の設定と粗筋」である程度述べていますが、それを確認するための「まとめ」として書いておきます。また、図表の形で表すとよりはっきりイメージできることもあるので、それを参考にしながら「人物の関係」を書いていきます。

                                    

 

 

 「引越し」に登場する人物を図で表すと、上のようになるのでしょうか。
 図式化することで、関係が見えてくることがあります。
 また、各々の人物について書く場合、結論的なことをまとめる書き方よりは、最初「疑問」を箇条書きにしてもいいでしょう。いじめられているTについて、思いつくまま述べると次のようなことが浮かびます。
 ○いつからいじめられているか
 ○いじめを受けるきかっけはなにだったのか
 ○どんないじめか
 ○それに対してTはどのように感じているか
 ○いじめをだれかに相談しているか
 ○Tは、AやBをどのように思っているか
 ○担任の先生にどのような気持ちを持っているか
 ○100発殴られると願いがかなうという思い込みの深さは
 これらの答えがはきっりしなければ、舞台に登場したときのTの態度が決まりません。自分の描く世界をイメージしながらその答えをさがすのです。そして、見つかったものを次のページの「各々の人物について」に書き込むことで、人物のお互いの関係やその人物の姿をはっきりさせていくのです。

各々の人物について   (各2ページ)

 この段階まで進めば、登場する人物に名前をつける作業に入りましょう。「T」や「A」では可愛そうです。また、お互いに相手を呼ぶとき「A」君や「おいT」では生きた言葉にならないのです。
 名前をつけることで、その人物を生きた姿としてとらえ、イメージし、表現できると思うのです。
 名前はフルネームで「山田太郎」というようにつけるか、「太郎」だけにするか。考え方によってはどちらでもよいと思います。ただ、今回の脚本の世界では、T・A・Bの三人だけであれば、「太郎」方式でも良いのかもしれませんが、担任の先生はクラスの生徒をどのように呼ぶのか、Aの母親は遊びに来たAの友人を「山田さん」と呼ぶのか「太郎さん」と呼ぶのか。それらを考慮しながらフルネームにするかどうかを決めよう。
 今回は、話を進めるためにとりあえず次のような名前にして説明しました。もっと劇の世界の内容にふさわしい名前をつけてあげたかったのですが、その場の思いつきでしたので、ごめんなさい。
   Tは「佐藤康夫」
   Aは「瀬川勇司」
   Bは「鈴木昭二」
 さあ、いよいよ各々の人物についてそのイメージを作る作業に入ります。
 ここでは、「佐藤康夫」についてのアウトラインを参考までに示します。「各場面の構想」の段階でもっと深くなると思うのですが、その時は出てきて段階でどんどん書き加えることになります。
  「佐藤康夫」
 普通高校二年生。やや小柄でほっそりしている。瀬川勇司や鈴木昭二とは一年の時から同じクラスで仲良し三人組だったが、二年の夏頃ちょっとしたミスがもとで上下関係ができた。それ以来からかい相手にされ、いじめへとしだいにエスカレートしてきた。
 以前は、要求されるままにふたりに小銭を渡していたが、願いごとを持つようになってからは、金銭は渡していない。
 学習成績は中の上で、ふたりよりは良い。部活動は生物部で、昆虫博士としてクラスに認められている。
 家庭は、両親と祖母と妹の五人家族で、父親がサラリーマンというごく普通の生活をしているが、妹が入院しており、近いうちに手術をすることになっている。(何の病気にするか)
                                                  等々

劇のスタイル    (2ページ)

 劇にはいろいろな種類の劇がありります。いわゆる普通の形の劇の他にミュージカルや音楽劇、古典劇や時代劇、喜劇に悲劇などと、私もどのように分類されているのかわかりませんが、沢山あるようです。
 高校演劇の舞台を見ても、その雰囲気で分類すれば、いろいろなスタイルがあるようです。
   リアルな雰囲気の舞台
   コミカルなタッチの舞台
   抽象的な雰囲気の舞台
   音楽や踊りを取り入れた舞台
   童話的なあつかいの舞台
   人物がやや戯画化された舞台  
                        など
 脚本や演出の意図によって、雰囲気が異なる舞台になります。自分がこれから描こうとしている世界を、むどのようなスタイルで表現しようとしているのか、ある程度意識しておいた方がいいと考え「劇のスタイル」というページを置くことにしたのです。
 以前見たいろいろな舞台の中で、今回の脚本はどのような雰囲気の舞台なら合うのかさがすのもひとつの方法です。そして、そのような雰囲気を作り出すのは、どのようなところにポイントがあるのか分析してみるといいと思います。

 今回「脚本創作イーハトーブの会」で取り上げている内容で考えてみます。
 いじめている立場の勇司の家に、いじめられている康夫が訪ねて来ます。康夫は、なんとかしてあと二回殴られようという、ある意味で必死な気持ちで登場します。勇司は、予想もしない康夫の突然の訪問に驚き、不安な心境です。
 このふたりの関係を、どのような雰囲気の舞台に乗せるか。まさか、音楽や踊りを加えた表現は考えないとしても、リアルなそのままの姿で表現するかある程度コミカルな雰囲気を持たせるかで、違った舞台になります。
 作者の得意分野もあるでしょうが、自分の目指す形をイメージすることで、登場する人物の性格も違ったものになってきます。
 今回は、初めて脚本を書く場合を想定していますので、「リアルな人物として描きながらも、暗くならないように心がける」という程度にします。
 康夫と勇司の緊張感をなんとか表現しながら、その緊張を和らげる立場として、勇司の母親を考え、舞台の緊張を大きな意味で解きほぐす役目として、担任の先生の登場を位置づける。したがって、先生は三人を仲のよい関係と誤解し、冗談や駄洒落を言いながら全体を笑わせるような雰囲気で表現する。
 康夫は、先に登場しているふたりに、別な意味での緊張感を高める役割りを持たせた方がいいということになります。
 このように、劇のスタイルを考えながら、各人物の登場による、舞台全体の雰囲気の波をある程度作っていくことも考えることになります。

 次に「各場面の構想」になるわけですが、このことについては、次に項を起こして詳しく説明したいと思います。
 「劇作ノート」の大体の内容について、ある程度理解していただいたでしょうか。「劇作ノート」がなければ脚本が書けないというものではありません。まとめ方や書き方がわかってくれば、頭の中で整理しながら「ノート」という形にしなくても脚本は書けるのです。また、内容や項目の作り方にも、これという決まったものがありません。その人その人にりの方法や考え方で作ればいいのですが、今回はひとつの例として、その作業を紹介しました。
  

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              各場面の構想
                  
○場面一
                        ○場面二
                        ○ストーリー案
                        ○場面の作り方
                        ○縦糸と横糸
                        ○次回に向けて

 「劇作ノート」は、劇を作るための設計図のようなものと説明しましたが、その意味が少しは理解してもらえたでしょうか。
 家を建てるときに、家具の置き場所をかんがえたり、人の出入りや窓を考えたりしながら間取りを決めると思うのですが、完成してから変更するというのは大変なことです。いろいろ考えたり参考意見を聴いたり、他の家を見学したりしながら、自分にとって本当に住みやすいものをと検討したつもりでも、実際に住んでみると、気がつかなかったところが出てくるものです。
 脚本の場合でも、同じことが言えます。いざ書き上げてみると、良くても悪くても自分の作り上げた世界というものに愛着が湧いてきて、なかなか修正がきないものです。まして、どこがどのようにまずいのかが見えないと、書き直すのが難しいことになります。
 仮に、ある程度の作品のレベルを十とした場合、最初にできた作品のレベルが五以上でないと、舞台に乗せるのが恥かしくて、没にしてしまうことが多いようです。
 そのためにも「劇作ノート」を作って、内容を吟味し、レベル五以上のものになるようにイメージを膨らませてください。

 さて、「各場面の構想」ですが、ここではひとつひとつの場面について、「目的」をはきっりさせながらその「場面内でのストーリー」を考えます。
 ではさっそく、その内容に入りましょう。

                 
場 面 一

(一)登場人物 3名 (3名とも同じクラス)

  「佐藤康夫」 高校二年生
  「瀬川勇司」 高校二年生
  「鈴木昭二」 高校二年生

(二)状況

 夏頃から始まったいじめが、次第にエスカレートし、最初の頃は小銭を持ってきた康夫が、一月頃から持ってこなくなり、それ以来、勇司と昭二の暴力行為が激しさを増してきた。
 今日も、人目につかない場所に康夫を呼び出した勇司と昭二が康夫が待っている。
 二月のある日

(三)目的

 この場面で観客にしっかり知っておいてほしいことを確認する。
 ・3名の名前
 ・勇司がいじめの中心で、昭二はその手下
 ・康夫は以前は小銭を持ってきたが、最近はもってきていない
 ・いじめの程度は、からかいと暴力
 ・康夫は、いじめにじっと耐えている様子
 ゛意思の堅い康夫

(四)ストーリー

 ・幕が上がると、勇司と昭二の二人が康夫を待っている
 ・なかなか来ない康夫を、ケイタイで催促するよう勇司は昭二に促す
 ・電源を切っているため連絡がとれない
 ・イライラして康夫の悪口を言うふたり
 ・そこへ康夫が登場する
 ・小銭を要求する昭二
 ・持っていないと言う康夫
 ・「以前は持って来たのに、なぜ持ってこない」
 ・康夫は無言
 ・暴力を振るうふたり
 ・耐えている康夫
 ・勇司と昭二、退場
 ・舞台に残る康夫にサス

 このように、その場面の目的をある程度はっきりさせると、人物が動き出してくれます。また、観客にしっかり伝えておくべきことも確認しておくと、後で訂正するときの参考になります。
 この「場面一」では、この時点では「いつ、どこで」ということはあまり重要ではありません。「いじめの中身」に焦点を絞って、「だれがだれを」そして「どのように」いじめているかということをしっかり印象づけておくことが大事です。
 観客には、いつ、なにを、どのように提示し、興味や関心を持たせながら舞台の世界に引き込み、どの場面でなにを知らせるのが効果的かを考えます。
 例えば「康夫がいじめられるようになったキッカケ」について考えると、次のようなことがポイントになります。
 ・それを観客に知らせるかどうか
 ・どの程度に知らせるか
 ・だれの口から知らせるか
 ・どの場面で知らせるか
 開幕直後にいじめの場面を見た観客の心理としては、「なぜ、どうして、いつから」ということが胸の中に起こります。それを六十分の中で効果的に知らせることで、観客は舞台についてきてくれるのです。最初から「いじめがはじまった理由」を説明してしまうと、観客の興味の半分がなくなってしまいます。
 このような意味では、「場面一」は「問題提起の場面」といえると思います。

              場 面 二

 続いて、次の場面について考えます。この場面から、本当の意味での康夫と勇司のぶつかり合いが始まるのです。
 観客にとてっは、「場面一」での二人の関係とは別な形での出会いになることで、興味をもって舞台の世界へと入ってくれるでしょう。

(一)登場人物 3名

  「佐藤康夫」
  「瀬川勇司」
  「勇司の母親」

(二)状況

 ・二月も末に近いある日
 ・勇司の父親の転勤によって引越しすることになった勇司の家の勇司の部屋
 ・勇司も当然転校することになったが、転校に対する不満やいらだちのため、引越しの準備 にあまり乗り気でない。
 ・二日後に控えた引越しの準備のためか、部屋は乱雑である。
 ・手伝いに昭二を呼び出している。(または呼び出す)
 ・母親は、勇司にある程度手を焼いているが、転校をキツカケに立ち直ることを期待してい  る。少々甘いところもある。
 ・父親の転勤の理由をなににするか?

(三)目的

 ・三月末であることを観客に知らせる。
 ・勇司の家族が引越しすることを、母親との会話で観客にある程度伝える。
 ・勇司は、準備に乗り気でない様子。
 ・母親との会話でふたりの心理的関係を示す。
 ・康夫は、あと二回殴ってほしいため、意を決して勇司の家にやってくる。ただし、表面は  「引越しの手伝い」ということにしている。
 ・ 突然現れた康夫に、勇司は戸惑いながら驚きを隠せない。
 ・勇司は、勇司の気持ちを計りかね、想像する。 
   
 母親にいじめを告げるためか
    いやがらせに来たのか
    仕返しに来たのか
    転校する自分に対する同情か
    本当に友達だと思っていたのか     など
 
・母親は康夫とは初対面である。
 ・「手伝いに来た」という康夫に母親は好意的。
 ・康夫は、手伝いをしながらなんとか殴られようてする行動をとる。
 ・勇司は「しかえしをされるのではないか」と誤解をする行動をとる。

 次は「ストーリー」に入るわけですが、以前に述べた「脚本創作イーハトーブの会」で、参加した各自にこの「場面二」のストーリーを考えてもらいました。
 その中の二名の「ストーリー案」を参考として載せてみます。
  
                         ストーリー案

「ストーリー案1」

 ・勇司が文句を言いながらダンボール箱を組み立てている。
 ・ケイタイで昭二から手伝いに来るという連絡が入る。
 ・寝ころがってマンガを読む。
 ・母親が入ってきて準備をするように話すが、悪態をついてしない。
 ・玄関のチャイムが鳴り友達が来たという母の声。
 ・入ってくるように勇司は叫ぶ。
 ・入口に来たのが昭二と思い、マンガを読みながら話しかけるが、返事がない。
 ・振り向くと康夫なので勇司は驚く。
 ・すごんだ調子で、来た理由を康夫に尋ねるが、返事をししない。
 ・再度尋ねるが、康夫は返事をせずにそばにあったダンベルを持ち上げる。
 ・勇司しあとずさりすると、康夫は勇司に近づき、そばにあったダンボールにしまう。
 ・勇司はほっとする。
 ・康夫はそばにあったバットを取り上げ勇司に近づく。
 ・驚く勇司。
 ・康夫は軽く素振りをする。
 ・昭二が登場し、康夫とパットの取り合いになる。
 ・康夫は手伝いに来たと言う。
 ・昭二は驚く。
 ・康夫はその場に座り、手伝いに来た理由を話し始める。

「ストーリー案2」

 ・勇司の部屋で衣服や荷物をダンボールにつめている。
 ・バスケットのユニフォームが出てくる。
 ・部をやめたことなどを思い出し、捨てることができないでいる。
 ・母親が登場し、準備の状況を見ながら明日が引越しであることなどをいう。
 ・バスケットのユニフォームを見て、部を止めさせられたことなどを言う。
 ・実は、勇司は問題を起こして部をやめさせられたのだった。
 ・そのとき昭二も一緒に辞めていたが、康夫は続けていた。
 ・チャイムが鳴り、母が玄関に出て、友達が来たことを告げる。
 ・康夫が登場し、世話になったから手伝うつもりで来たという。
 ・餞別でも持ってきたかという勇司に、労働力で手伝うと言う康夫。
 ・見構える勇司に対して、殴られることを期待する康夫。
 ・そこへ母親が、果物とナイフ、缶ジュースなどを持って登場する。
 ・母親退場したあと、ぎこちなく仲良くしているふたり。

                     
場面の作り方

 今回は、場面一と二について内容やストーリーを考えたのですが、その内容は「木に例えるなら幹にあたる部分になると思うのですが、「幹」だけでは木の形にならない場合が多いでしょう。     
  話しの中身をストレートに表現すれば、観客は話しはわかるかもしれませんが、真面目で幅のない堅いものに感じると思うのです。もっと「あそび心」を入れて、幅をもたせながら観客に届ける工夫をしませんか。
 そうはいっても、どのようにすればいいのかわからないと思うので、ここでは作者の了解をもらって、石原哲也さんの作品を例に紹介します。
 私の大好きな作品の中から、その一部を紹介しますが、このことは、脚本に書いてあることと演出の効果が,実際の舞台で表現されたものとして、見ていて「おもしろくて、うまいな」と感じたものです。私の文章ではうまく伝わるかどうかわかりませんが、味わってみてください。

 「ランナウェイ」

・夜の公園
・家でをしてきた二人の男子高校生がいる
・名前は「稔」と「元気」
・開幕後しばらくして、二人はそれぞれベンチに横になり、寝る支度をする
・稔はバックから毛布を取り出す
・元気と毛布の取り合いになる
・あきらめた元気はベンチに横になる
・稔は、カッターナイフで毛布を半分に破り、片方を元気に渡す
(毛布を破る行動は、観客からすれば予想外な行動であり、一瞬驚きました。そして、半分を元気に渡すことで、おもいやりや二人の仲の良い関係を感じたのです)
・その後、稔がベンチに横になるのですが、その時バックから大きなヌイグルミを出して枕にするのでする。
(観客の心理として「男の子がヌイグルミ?」と一瞬、意外な感じを受けながらも、会場の笑いとともにそのような稔が大好きになるのです。)

「停学の名人」

・夕方  学校のある部屋
・男子高校生「吉川」が椅子に座っている
・先生らしき人物が、吉川に「本当はバイクに乗ったんだろう?」と詰問している
・「乗ってません」と反論する吉川
・吉川を取り調べている雰囲気のところに、先生が登場する
・「俺の背広を着てなにしてるんだ?」という先生の言葉に、「小山」はあわてて背広を脱ぎ謝る
(状況を理解した観客は、小山の様子見ながら笑いに包まれる)
・小山が退場する
・改めて、先生は「バイクに乗ったこと」の取り調べを始める
(開幕後すぐ、先生の取り調べの場面になっていたのでは、堅い雰囲気の開幕になってしまう。それをほぐしながら、しかも、吉川が中心人物と感じさせる効果も合わせもった作りになっていました。また、小山が再び登場するとき、学生服にチョンマゲのカツラをかぶり、十手を持って登場するのです。取り調べという堅い場面になりがちな内容を、小山の登場で味付けをするつくりになっていました。「うまいなあ」と感じながら舞台に引き込まれていました)

「それぞれに如月」

・登場人物のひとりである「ゲン」は、ギターを手にしています。  
・ある場面での母親との会話で、このギターが効果的に使われていました。

母  じゃあ、行ってくるよ。
ゲン あんまり飲むなよ母さん。
母  わかってるよ。毎日同じことを言うんじゃないよ。
ゲン 母さん!
母  何?(行きかけて振り返る)
ゲン 男に騙されるなよ。
母  バカ、大丈夫だよ。それよりおまえ、ちゃんと風呂に入るんだよ!
ゲン ジャン!(ギターで答える)
母  ガスの元栓ちゃんと締めるんだよ!(下手から声のみ)
ゲン ジャン!
母  タバコ吸ったら承知しないよ!
ゲン ジャン!
母  あまり変なビデオ借りてくるんじゃないよ!
ゲン シ゜ャーン!
 
・単に言葉で返事をするだけでなく、ギターを鳴らすことで返事をするという使い方で心理をうまく表現していました。
・しかも、「じゃん!」と弾くたびに、音程が少しずつ高くなっていき、最後の「ジャーン!」は不協和音なのです。
・ゲンの心情がよく表現されていて、会場は爆笑に包まれました。

「俺たちの甲子園」

・下手に小さな稲荷神社の赤い鳥居がある。
・スポーヅバックとバットを持ったシゲルが登場する。
・神社に小さな物を供える。

シゲル  (拍手を打って拝んで)稲荷大明神様、こんばんわ。あのー、いつものスーパーが今日は閉まっていてしょうがないので、そこのコンビニに行ったら、油揚げがなくて、サツマ揚げしかなくて、それで今日はサツマ揚げにしました。玉葱入りと牛蒡入りがあったので牛蒡入りにしました。キツネとゴボウなんてね、ハハハ・・・・・失礼しました。えーと、いつも同じですが、今日も僕の二つのお願いを聞いてください。(周りを見回して)他人に聞かれるとます゜いので小さな声で言います。(なにかボソボソと言ってから、再び拍手を打って拝み、頭を下げる。帰ろうとして、再び戻り)あの、サツマ揚げは、賞味期限が今日までになってましたので、早めにお召し上がりください。

・ このセリフに含まれている部分的な面白さに、観客はクスクス笑っていましたが、最後の賞味期限のところでは、大爆笑でした。
・また、ここでお願いしている二つの内容が、観客にはわからないのですが、わからないだけに気になります。
・その二つの願いを観客は想像しながら、最後まで舞台に引きつけられていくのです。

(そして三者面談の場面)
・先生が何か話しているが、セミの声が大きすぎて声が聞こえない。
・観客もセミの声が大きいと感じていると、母親が立ち上がる。
・母親が手を叩くと、セミの声がピタッと止まる。
(観客は、思わず「やったー!」という心境になり、大爆笑になる)

               縦糸と横糸

 このような作品を取り上げながら、ストーリーを考える「縦糸と横糸」というものに例えて考えることを話したのです。
 最初は「縦糸と横糸?」という疑問の声が聞こえたのですが、私の考えていることが少しはわかってもらえたようでした。
 柱となるストーリーの展開を形作る「人物や話」を縦糸とするなら、それらをしっかりと結びつけながら丈夫に仕上げるために登場する人物や出来事が横糸になると話しました。

 参加者全員で考えてきた話しでいうなら、康夫と勇司が縦糸の中心人物です。いじめを受けていた康夫が勇司のところにやってくるところから、いわゆるドラマが始まります。その二本の糸が絡み合い、どのような展開になるかが中心になります。
 そこへ、勇司の友人昭二が登場します。この人物も康夫へ絡み合う形での縦糸になるわけです。母親は、中心となる話の展開に直接かかわりがないので、横糸と考えていいでしょう。
 先生の登場は、完全に横糸的存在です。三人の男子高校生の場面に登場することで、それまで見えていなかった三人の別な面を観客に示すことが出来る他に、60分の舞台のある時間を雰囲気を変えて締め直す役割を持たせることができるのです。
 また、三人は以前同じクラブ(仮にバスケット部とする)であったとすれば、その話を時々使うことで、流れを変えたり締め直したりすることができるのです。クラブの話を使うとすれば、それも横糸と考えることができます。
 その他に、紹介した石原哲也作品のように、場面場面に味付けをして、中心となる縦糸に横糸を絡ませて、全体を柔らかくそして深く見やすいものへと作りあげる工夫をしてください。

 「中心となる柱は大切」ですが、されだけでは単純な味になるので、「様々な横糸の工夫」をすることで、全体をまろやかな味になるようスパイスを効かせるのです。

               次回にむけて

 このようにして、「脚本創作イーハトーブの会」二年目の第二回の講習会を閉じました。
 各自が考えている構想を、今回学んだ「劇作ノート」という形にしてみることで、「脚本」という形あるものへと変化させることができるのです。
 前にも述べたように、「劇作ノート」を書かなければ脚本が書けないというものではないのですが、初めて脚本創作に挑戦するさいう人にとっては、この「劇作ノート」は有効な手段だと思います。
 三週間後の第三回の講習会までに、自分の構想を暖め、発展させ、ある形としてまとめるために、時間がある人は劇作ノート」を作ってみようと話し、解散しました。       
 
                      
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