「脚本の書き方入門」
   B.  構想からスト−リ−まで

                  ・・・・・・・・ 「脚本創作イーハトーブの会」二年目より

○一年目のまとめと反省から   完結
         ・昨年の講習を振り返って
         ・二年目の方向
         ・二年目のスタート

○素材を決めて話し合う      完結
         ・分析からスタート
         ・脚本ができるまでの流れ
         ・素材を決めて話し合う
         ・視点を考える
         ・素材を背景にした題材さがし
         ・舞台には制約がある

○登場人物の設定とストーリー  完結
         ・対立構造を考えよう
      ・人物配置は役割を考えて
      ・粗筋を考える
      ・ストーリーの展開
      ・一回目のまとめと次回へむけ   

○ストーリーの膨らませ方     v完結
         ・前回の宿題から
         ・Kさんの原案

 「脚本の書き方入門」表紙へ

     一年目のまとめから
                
○昨年の講習を振り返って
                         ○二年目の方向
                         ○二年目のスタート


         昨年の講習を振り返って

 
昨年の「脚本創作イーハトーブの会」を振り返ってみると、全くの初心者3名を含めて五本の創作脚本ができたとはいうものの、ずいぶん乱暴な進め方だったなと反省しています。でも、初年度の目標である「とにかく一本書いててみよう」ということは、まあ達成できたと言っていいでしょう。
 そのなかのひとりは、自分の書いた脚本を生徒に提出したなら、(運良く?)上演してもらえることになり、とても喜んでいました。劇を作るなかで生徒の意見もとりいれ、何度も書き直しながら、部員と楽しく劇作りをし、「とっても楽しいよ」と言いながら県大会で上演していた姿が印象的でした。
 そのようなことが私の励みになり、二年目も講習会を開催しようということになりました。

               二年目の方向

 一年目で不足していたことは沢山あるのですが、ストーリーとなる柱の作り方がお粗末だったなあと感じています。全体の流れの膨らませ方や、それらを構成する各場面の構想をどのようにして作るかということに対するつっこみが不足していたと思ったのです。そこで、二年目は、昨年と内容を変えて「全員でひとつの劇の構想を考える」ことにしました。みんなでアイデアを出しながら、一本の脚本のストーリー作りに挑戦するのです。
 そうはいっても、私自身はじめてのことなので、うまくリードできるかどうか不安でしたが、とにかくその方向でスタートすることにしました。
 二回までは全員でひとつのストーリーに挑戦し、それを参考にしながら各自の構想を考え、三回目は「個々に作ろうとしている構想を検討する」ということにしました。
 セリフの書き方や脚本を書き直すときの留意点については、あまり時間がとれそうもないのですが、一部を実際に書くという作業は取り入れようと思っていました。

 また、構想を作るときや内容を深めるための方法のひとつとして「劇作ノートの作り方」を紹介することにしました。
 頭の中で考えたり調べてわかったことなどを、どのように整理しながらメモしていくか。また、そのメモを参考にしながらどのようにして脚本という形に仕上げていくかということを、参考までに示すことにしたのです。
 書き慣れている人は、そのひとそのひとなりの方法があると思うのですが、初めて脚本創作に挑戦するひとのために、紹介することにしました。
 そうはいっても、「あなたは、どのような手順で脚本を書いていますか」と他人に聞いたこともないし、手の内を明かしてもらったこともないので、どのような方法がベストかわかりません。私の少ない経験を元にしたものを、独断と偏見で提示することにしししました。

               
二年目のスタート

 二年目は、開催の時期が悪かったためか、三回の集まりを通して(私を含めて)七名の参加でした。昨年、初心者ながら初めての創作に挑戦し、脚本を完成させたFさんは、沿岸地区の演劇部のない学校へと転勤した関係で出席してもらえませんでした。(本当に残念!)

 平成十四年の二月二四日。
 昨年、出席しなかった(新顔の?)Kさんを迎えて自己紹介ナシで開会しました。
 昨年の反省やら感想を雑談的に話し合った後、今年の方向について話しました。会議ではないのですが、「異議なし」ということでさっそく本題に入りました。
 しかし、演劇の仲間と話していると、気楽で楽しくていいもんですね。

                                                       
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          素材を決話し合う
                      ○分析からスタート
                      ○脚本ができるまでの流れ
                      ○素材を決めて話し合う
                      ○視点を考える
                      ○素材を背景にした題材さがし
                      ○舞台には制約がある

               分析からスタート

 脚本の書き方に入る前に、「脚本の分析」からスタートすることにしました。
 他の人は、どのように苦労しながら脚本の構想を作っているか。また、すばらしい舞台は脚本の構成でどこが大切なのか。そのようなことを客観的に理解するために、作者の了解をもらって、二本の作品について分析することにしました。
 脚本を読みながら細部について分析すると、それだけで一日がつぶれてしまうので、ポイントを絞って実施することにしましたが、それでも、午前二時間かけて、いろいろな角度から脚本を眺める作業をしたのです。
 
 自分で初めて脚本を書いてみようとするとき、誰かの作品を分析することから始めると勉強になります。
 観客の気持ちになって、開幕の雰囲気を味わってみます。そして、登場する人物が作り出す葛藤や心情を感じながらストーリーの展開の中に入っていきます。
 中心となる人物が悩み、迷い、次々に登場する人物との係わりの中でどんどんストーリーが展開していきます。新しい発見や思いがけないことが起こり、その場のかけあいがうまくできていれば、ラストを気にするどころではありません。
 そのうちに意外な展開になり、予想もしない方向へと話が進み、幕が下ります。
 脚本を読みながら、舞台が見えたでしょうか。登場する人物の声や動きが感じられたでしょうか。話の柱や作者のねらいが心のどこかに見えてきたでしょうか。
 その上でもう一度詳しく分析して見ましょう。開幕から順に、人物の出入りを読み取りながら、どんな展開になっているかを、場面ごとに分解していきます。ある人物が登場する必然性とストーリーとの係わりや役割も考えてみましょう。
 中心となる話の出し方や、展開の仕方、意外性についても分析してみよう。山場の作り方や幕の下ろし方についても勉強してください。
 すばらしい脚本は、二度三度と目的を変えて読むことでいろいろなことが見えてきます。できれば、数人の仲間で「脚本分析の勉強会」をすることをお勧めします。
 そして、良いところを自分の作品に取り入れ、形を変えて真似をすることから始めよう。

       脚本ができるまでの流れ

 脚本を書くためには、どのような手順で書けばいいのでしょうか。もちろん、「このような手順で進めなければ脚本は書けない」という決まったものはありません。
 脚本を何本か書いている人には、その人なりの書き方があるわけですから、手順も千差万別でいいわけですが、初めて脚本を書こうとする人にとってはどこからどのように手をつけたらいいのか検討がつかないということもあるわけです。
 そこで「脚本が完成するまでの流れ」のひとつの例として、昨年の講習会後の手紙を元にまとめ、参加者に提示しました。

 「脚本の完成するまでの流れ」の例

a. 素材さがし
     脚本にしたいものをさがす
     舞台になるかどうか吟味する
     部員数も参考にしよう 
b. 題材決定
     選んだ素材の状況を考える
     主人公の心情を考える
     展開する場面のアウトラインを決める
     全体像が見えてきたなら題材とする
c. 視点(テーマ)
     視点(テーマ)を決める
     柱が弱いと家が建たない
d. 大きな流れ(粗筋)
     最小限の相手を決める
     相手との絡みを考える
     大きな流れを考える
e. 人物を考える
     必要な人物を考える
     名前をつける
     人物の絡みを考える
     全体的な流れを考える
f. 切り口
     全体的な流れのどこから始めるか決める
     開幕を決める
     ラストを決める
g. ストーリー(詳細な流れ)
     開幕からラストまでの流れを考える
     場所や人物の出入りを考える
     各場面の内容を考える
h. 順序と場割り
     順序を考えながら場割りをする
     各場面のポイントを決める
     絵本や紙芝居を参考にする
     7〜12くらいにまとめる
i. スタイル
     舞台のスタイルを考える
j. 各場面の流れ
     各場面ごとの細部について考える
     登場する人物の心情をイメージする
     人物の声が聞こえてきたならペンを持つ
k. 脚本を書く

 この順序で進めば、かならず脚本が書ける・・・・・かもしれません。
 この手順は、双六のように「ある段階ができたなら次へ進む」というようなものではなく、実際には「素材・題材・テーマ」か混じっていたり、テーマが先に決まる場合もあるのです。
 しかし、初めて脚本を書こうという人に、いろいろな場合について提示すると混乱すると思いますので、今回はこの手順について説明し、各段階でのポイントや留意点について一緒に考えることにしました。
 さあ、いよいよ「脚本の書き方」の実践です。あなたも脚本家を目指してスタートです。というわけで、午後からは、参加者全員で「素材さがし」から実習の形で体験することにしました。

           
素材を決めて話合う

 「よし、脚本を書いてみよう」と決意を新たに原稿用紙を購入して机に向かってみたものの、あるいはワープロに向かってみたものの、書くための内容が決まっていないのであれば、何から手をつけていいかわかりません。絵であれば、書くための対象が決まっていないと画用紙を目の前にただ置いているだけの状況と同じです。
 風景であれば、実際に外に出て歩いて、描きたいと思う景色をさがす。ある通りの町並みを描くことにした場合、なにを中心にしながらどの角度からどの部分を表現するかという、構図が決まって初めて書くという作業に入ることになります。
 脚本を書く場合も同じことが言えるわけです。まず「何を書くのか」決めましょう。

 二年目の第一回「脚本創作イーハトーブの会」では午前に「脚本分析」を行ったあと、午後から実際にどういう手順で脚本を書くか全員で体験することとし、素材として「引越し」を取り上げることにししました。
 参加者各自が引越しのいいろいろな場面を想像し、箇条書きでまとめて発表することにしました。その主なものをまとめると、次のようになります。
 
    転校のため
    父親の転勤のため
    大学に入るため
    いじめられていたため
    家を建てたため
    都会で暮らすことになったので
    北海道の牧場で働くため
    結婚することになったので
    良いアパートが見つかったから
    友人と一緒に暮らすことになった

 また、引越しの状況として次のようなものも出されました。

    家から家に
    部室の引越し
    学校から学校へ
    部屋から部屋へ
    寮の中での引越し
    図書館の引越し
    新しい校舎へ 

              
視点を考える

 「引越し」について、いろいろ出してもらったのですが、「引越し」は素材であって、その「引越し」から何が見えてくるかが大切になるのです。
 例えば、「父親の転勤による引越し」なら社会性が見えてくる。「大学に入るための引越し」や「部室の引越し」であれば、過去の自分との決別や未来への希望というものが感じられる。
  引越しを誰の目線で見るか、どのような視点で見るか(喜怒哀楽)、その視点をどこに置くかで素材の生かし方が違ってくるのです。
 具体的な話をそのまま舞台にしても劇になるけれども、そこに自分が表現したいと思うものとのドッキングを考えたり、人間関係の複雑な心理や社会のある部分を鋭く掘り起こすような視点がほしいのです。
 「部屋から部屋への引越し」の場合、大好きなお婆さんが亡くなったので、空いたその部屋に自分が入ることになったという設定にすれば、何かが見えてきます。また「父親か゜リストラで職を失ったための引越し」の場合、単に暗く表現せずに、家族全員がその引越しを楽しんでいるように描けないかと考えることで、現実とは別のなにかが見えてくることもあるのです。

 今回は「引越し」という素材を最初に考えたのですが、自分に描きたいものがある場合「
 それを表現するための素材はなにが適当かさがす」場合が普通です。
 例えば「いじめ」を描きたいと考えているのであれば、「部活動」や「学校行事」と結びつけるとどうなるか。「引越し」と結びつけた表現はできないか。家族との関係で考えた場合、「リストラや交通事故」あるいは「お婆さんの死」と「いじめ」を結びつけた展開は考えられないか。いろいろ模索するのです。
 つまり、「引越し」そのものが劇になるのではなく、そこに登場する人物 が引越しによってどのように変化するかということが重要になるのです。

 高校生を中心にした脚本を考えた場合、「引越しやリストラ」は「背景」であり、「状況」になると思うのです。たとえば、「父親が職を失ったための引越し」で家族が困っているのに、いじめられていた高校生にとっては転校できそうな状況にひとり喜んでいる。あるいは、転校によってレギュラーになれるはずの野球部をやめなければならない。というように高校生自身がぶつかっている壁をしっかり作ることが大切です


        素材を背景にした題材さがし

 さて、話を「脚本創作イーハトーブの会」に戻します。
 高校生と「引越し」をどのように結びつけようかということになりました。
 最初、「父親の転勤により高校生も転校することになる。その高校生はいじめられていたので、転勤を心では喜んでいる。そこへいじめていた高校生が登場して、なにかをまき上げようとする」という案が出ました。
 それに対して「転校する高校生がいじめていたという逆の話が面白いのではないか」ということが出されました。「いじめられていた立場の高校生の引越しの場面に、いじめられていた高校生が手伝いに現れる」というのです。面白い発想です。

 劇には、意外性や興味の持てる発想、面白みが見つかるかどうかが大切です。しかし、そこに内容的な発展性やストーリーの展開が見えてこなければ、材料として採用できないということになるのです。いくら面白いアイデアでも、それが見つからなければ、残念ですが捨てることになります。
 脚本を書く場合、このようなアイデアをどんどん集め、それを発展させるためのアイデアをまた集めるという作業の積み重ねだと思います。そして、行き詰まったときは捨てて別の道を探る。100のアイデアの中から、使えるものがいくつか見つかれば上々と思ってください。脚本を書く「苦しみと楽しみ」はこの辺にあるのだと思います。

 さて、話を戻しますが、「いじめられていた高校生が引越しの手伝いに現れる」ということについて、「普通にいじめられていたのであれば。心の中で喜んでいたり、さ゜まーみろと思っているはず。手伝いには絶対来るはずがない。また、「いじめられていた高校生が、復習や対決するために登場するという設定にも無理がある」という意見が出されました。
 「いじめられているのに、引越しの手伝いに現れる」ということは、「いじめられていても、もともと何らかの感謝の気持ちを持っているということであり、その設定ができなければ劇は成立しない」ということを話したところ、小説「えびす君」の話が出されました。その話は「いじめられている子が、ある願かけをしている」という内容だというのです。
 詳しい話は聞きませんでしたが、そのアイデアは「いただき」と全員で一致しました。このように、納得のいく道筋が見つかるまで悪戦苦闘しながらアイデアをさがすのです。
 単なる意外性や、道筋がはっきり見えないうちに「面白いから」というだけで書き出すと、後が続かなかったり、安易な展開になってしまうことが多いのです。アイデアが面白くても手展開の見通しが立たなければ捨ててください。捨てる勇気も大切です。

 ここまで来れば、土台ともいうべき「なにか」が見えて来ました。「引越し」を背景にしたなかで「いじめ」という「素材」を展開し、その中で起こる心の交流(まだ、なにになるか見えていないけれども)にした舞台が描けそうだという見通しが立ちました。つまり「劇になる」という感じがするのです。
 本格的に書いている人から見れば、「まだまだ甘い」と言われそうですが、劇として立ち上がるための「なにか」は感じてもらえたと思います。

           舞台には制約がある

 脚本を書く場合「場所の設定と人物の設定がうまくいけば、舞台が動き出す」と言われています。
 ある特徴(条件)を持った人物が、その特徴を十分発揮できる時間と場所に立てば、想像を越えた進展をしたり予想外な行動を起こし、意外な結末へとストーリーを展開できるということです。
 「屋上」を例に考えると、青空のもとでの屋上は未来に向かって飛んでいけそうな予感を与えてくれます。また、屋上のフェンスの外に立って下を見たときは、死との境目を感じさせます。
 今、自分が考えている話の中心となる人物が、どのような場所に立ったとき、その内容がより膨らんだものになるかということを十分考えて、時間や場所の設定をしてください。
 また、舞台はテレビや映画と違っていろいろな制約があります。その制約を意識しながらストーリーを考えることが大切です。
 家の中・学校・病院・海岸と次々と場所を変えながら話を進める場合は、観客に違和感を与えないようなそれなりの装置をイメージした脚本を書くことが必要になります。例えば、箱をいくつか置き換えることでそれなりの場所をイメージしてもらうような手立てを考えたり、全体として抽象的な雰囲気の装置をイメージしたりするなかでの展開を考えることになるでしょう。
 このように時間や場所が飛ぶような脚本は、それなりの力量を必要とする場合が多いので、初めて脚本に挑戦するときは、リアルな装置を中心にして、しかもあまり時間が飛ばないような同時進行形のものをかんがえることをお勧めしします。

 これに対して、「書かれた脚本を舞台に乗せるのは演出の役目だから、時間や場所がどんどん変化しても、それは演出にまかせよう」という意見があるかもしれません。しかし、話としては面白くても、それを舞台に乗せるイメージがつかめないと、上演台本として採用されないことになります。そのような意味から、演出を考えた脚本の書き方というものがあり、それなりの力量を必要とすると私は思っています。
 また、テレビや映画で普通行われている、アップやナレーションのような手法は舞台では行えないということも考えに入れてください。字幕で「そして二ヵ月後」というように説明することも基本的にはできません。
 そういう意味では「制約が多い」と思うかもしれませんが、その制約の中で登場人物を生きた形で動かし、日常の中ではなかなか見えにくい「なにか」を表現して観客に示し作業が、「くるしい」けれども「楽しい」のです。

 今回の「脚本創作イーハトーブの会」で取り上げた内容の場合、舞台の中心は「転校することになった、いじめていた立場の高校生男子の部屋」とすることにしました。具体的な家で想像すると「一階の六畳間ほどのフロアーの部屋」という設定になることが予想されます。部屋には、ベッドがあり、壁には様々なポスターが貼ってあり、コンポかラジカセが置いてある。今は携帯電話の時代なので、電話機はたぶんないだろう。そうそう、一応机があって脇に本やカセットやCDなどを入れてある本棚のようなものもあるといい。その他、彼の好きないろいろなものが雑然と目につく。
 そんな部屋の、今まさに引越しをしなければならない状況での展開を考えることにしました。

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      登場人物の設定とストーリー
             

                                ○対立構造を考えよう
                                
○人物配置は役割を考えて
              ○粗筋を考える
              ○ストーリーの展開
              ○一回目のまとめと次回へむけ                  

          対立構造を考えよう

 世の中には「ひとり芝居」というものもありますが、「ひとりでは芝居にならない」と考えてください。また、ふたりの人間が登場したとしても、同じ考えで同じ行動をするのであれば、ひとりと同じことになります。
 舞台に風を起こすためには、ある意味での対立関係を作り出すことが必要になるのです。感情は、自分と異なる意見や感覚を持っている人物とぶつかり合うことで生まれます。そのぶつかり合いの中から「生き方や考え」が見えてきたり、「人間」そのものの姿が浮かび上がってくるのです。
 「対立関係」といっても、プラスとマイナスの関係だけとは限りません。二つのプラスでも、質がちがったりレベルの違いからくる関係というものもあるわけなので、それも含んだ意味で考えてください。
 今回の脚本で考えると、「高校二年の男子Aが同級生のTをふだんからいじめていた。そのAが、父親の転勤で転校することになった」という設定です。そのAが引っ越しの準備をしているところへ、手伝いするためということでTが登場する。Aにとっては、なぜTが家にやってきたのかわからない。「しかえしをするために来たのではないか」と感じているATは荷物をまとめる手伝いをしながら奇妙な行動をる。

 60分のドラマの中で、しだいに明らかになってくる舞台を観客にみてもらうストーリーを作り出すためには、どうすればいいのでしょうか。このへんで登場人物について考えてみることにします。

         人物配置は役割を考えて

 この二人だけでも舞台は成立するのですが、二人の存在をより浮き上がらせるため、そしてさらなる味付けをするために、ふたり以外の登場人物も設定することにしました。

 二月末のある日、Aの家では母親が別な部屋で引っ越しの準備をしている。この母親が登場しAとの話し合いのなかから、引越しの理由や期日がわかる。また、Aと一緒にTをいじめていたBを登場させることで、Aの戸惑いを表現したり、これまでのいじめの実態や関係を観客に示す。
 さらにはひょうきんなキャラクターをもった担任を登場させることで、教師の立場を見せたり転校の理由や内容を示したり、三人の別な姿を見せることができるのではないかということも考えました。
 最初、まずこの五人の人物を設定し、必要性が出てきたときに他の人物を考えることにしたのです。今回の内容からすれば、A・BとTの三人で話を進めることができるのですが、そこに
Aの母親や担任を登場させることで、舞台の風を変えたり、観客に対して「説明らしい形をとらない説明」をすることができると考えたのです。
 「舞台の風を変える」というのは、三人だけで話を進めると、強弱はあるにしても同じ雰囲気の空気で進むことになります。そこへ別な人物が登場することでホッと一息つきながら深呼吸し、それまでのことを振り返りながらこれからのことを予想する余裕をもってもらうという効果もあるわけです。
 この場合、重要なのは「登場する意味」をしっかり作るということです。その人物が登場しても当然と思われるような納得できる理由をもって登場させることです。

 このように、登場する人物にはそれぞれの役割を持たせながら、だれがだれに対してどのような感情を持っているのか、「理解、協力、同情、援助、支え」というようなプラスの関係なのか、「反発、悪意、敵対、嫌悪、いやがらせ」のようなマイナスの関係なのかを考えておくことが必要です。
 もちろん、そのような一面的な関係だけではないにしても、ある瞬間瞬間の心理を明確にしながら、その底に流れている基本的な関係を確認しておいてください。そのうえで、各々の人物の特徴や性格や立場を決めるといいと思います。

                      
粗筋を考える

 人物の設定がだいたい決まったので、粗筋について話し合うことにしました。粗筋といっても、言葉通り「粗い筋」という意味で、場面を決める前の段階のことです。
 「脚本創作イーハトーブの会」のみんなで話し合ったことをまとめてみます。

○高校二年の男子
AはTをいじめていたが、父親の転勤で転校することになった。
   この男子に何かが起こらなければ単なる引越しの話になる。
○いじめられていた高校2年生の男子Tが訪ねてくる。
   このふたりの関係を、なんらかの方法で観客に示す必要がある。
   (例)いじめの場面を出すなど
   TはAに感謝の気持ちを伝えるために来るが、Aはしかえしに来たのではないかと思う。
同級生Bが登場する。
   BはTがいることに驚くが、Aが呼んだと勘違いしている。やがて、Tが自分の意思で来   たことを知る。
Aの母親の登場
   母親は
AとBは友人関係であることは知っているが、Tは初めて見る顔。
○先生の登場でなんらかの味付けをする。
○ラストは、AがTの気持ちを理解して終わる。

 このような内容を確認した後、話の柱となる「TがAの家に来る理由をはっきりさせよう」ということになりました。
 「いじめられていたことを感謝するため」というより、「100発殴られれば、あることがかなうという願かけをしていたが、あと二発足りない状態という方が
Tの切羽詰った心理を表現できるのではないかということになりました。
 そして、なにかのはずみで一発殴られるが、そのまま家に帰されそうになるので、思い切って自分の願いを打ち明け、「あと一発殴ってくれ」と頼む。殴られていた理由がわかると、AはTを殴れない。
 Aはいままでのことを謝り、「自分のことを殴れ、そうしたなら自分も殴る」と言う。そしてお互い一発ずつ殴る。
 次に「100発殴られれば願いがかなう」という願いはどうするか。
 Tの妹が病気で入院している。それをどうにもできないTは、あるときふと「100発殴られれば妹の手術が成功する」と思い込み、それ以来「いじめに合う度に殴られた回数を数えていた」という設定はどうかということになりました。。
 
 ここまでいろいみんなで考えてきたのですが、Tの願いが「納得できるもの」として見つかるまでさがすのです。「それが見つからない場合は、この脚本の案は没にする」と言ったところ、みんなからは「もったいない!」という声があがりました。
 しかし、より良い作品にするためには、「舞台の上での必然性」が大切なのです。例え作った話でも、「そんなことはありえない」と観客が感じる舞台は、観客の心を捕らえるどころか、「嘘」を感じさせ、いわゆる「しらける」ことに繋がりかねないのです。
 脚本を書く場合、このような下地作りに時間をかけることになり、「構想を考えるのに最低一ヶ月かける」ということも理解してもらえたようです。

                   
ストーリーの展開

 さて、いよいよストーリーの展開です。これまで考えてきた人物設定をもとに、各場面の内容と全体の流れを考えました。


AとBTをいじめている場面〕
 三人の高校生の関係を観客に知ってもらうために、
AとBTをいじめている場面から始める それが次の引越しの準備をしているAの家にTがやってきたとき、Aが不審に感じると同時に観客も不審に感じることへとつながる。
 観客は最初゜いじめ」の劇と感じるかもしれないが、次の場面になれば意外な展開になり、逆に意味をもって見てもらえるかもしれない。
A母親とA、の場面〕
 早く引越しの準備をするよう説得されるが、なかなか取りかからないA
Tの登場
 Tが登場することで驚くA。AはTがしかえしに来たと感違いしている。Tは引越しの手伝いを始める。
 母親がリンゴとナイフを持ってくる。ナイフを手にしたTを見て、Aはたじろぐ。
 自分の思っていることをなかなか言えない
T。

Bの登場
 
BはTがいることに最初戸惑うが、Aが呼んだと勘違いし、Tを乱暴にあつかう。それをAにたしなめられて、Tが自分から進んで来たことに驚くと同時に戸惑いを見せる。
 母親がお菓子などを持って登場してもよい。
〔担任の先生登場〕
 母親、お茶などを出す。
 三人の関係を知らない担任。転校手続きの書類を渡す。
 転校の理由や転校先が観客にはっきりわかる。激励の言葉を残して担任退場。
〔残された三人〕
 わざと失敗して殴られことを期待するT。
 弾みでBはTを殴る。止めるA。
 
Bが退場する。
AとTの場面〕
 AはTに「帰れ」と言う。
 帰れないTは、自分の気持ちを言い、「殴ってほしい」と言う。
 殴られる回数を数えていたことに驚くA。
〔いじめの場面〕
 殴られながら、それを数えている場面の再現。
〔AとTの場面〕
 願いを打ち明けTは「あと一発殴ってくれ」と頼む。
 殴られていた理由がわかると、AはTを殴れない。
 Aはいままでのことを謝り、「自分のことを殴れ、そうしたら自分も殴る」と言う。そして、お互い一発ずつ殴り合う。
 Tが退場して幕。

             
一回目のまとめと次回へむけて

 一応の粗筋ができた段階で、ここまでの過程を振り返ってみました。ひとりではなかなか出てこないアイデアや着想も、数人で話し合うことで沢山出てくるものです。
 わずか三時間のなかで、ここまでまとまったことに参加者は驚きながらも満足していました。「ここまて゜くれば劇になりそうな予感がする」と言ったところ。「では、次はセリフを書く段階ですか」という声が出たのですが、それは、まだまだ先のことなのです。
 登場人物の関係や性格がまだはっきりしていません。相手に対する「呼び方」にも、いろいろな表現があるのですか゜、それも決まっていません。ナイフのような使えそうな話をもっとさがすことによって、内容が膨らむことや場面が増えることもあるわけです。
 午前二時間の「脚本分析の勉強」と、午後三時間の「脚本の構想の実技」の内容を終えて、三月末の今回の「脚本創作イーハトーブの会」の第一回講習会はひとまずここで打ち切り、次回へとつなげることにしました。

ストーリーの膨らませ方

   ○前回の宿題から
 ○Kさんの原案

             前回の宿題から

 4月20日。
 「脚本創作イーハトーブの会」二年目の第二回目の講習会が開かれました。
 前回は、ひとつの話を全員で考えながらストーリーをまとめていったのですが、個人で書いてみたい話があれば、そのストーリーの原案を書いて今回の場に提出してほしいと連絡してありました。
 前回の話し合いの中で、「相手の様子を理解した上で男同士が殴りあうのは理解て゜きるが、私の学校の演劇部は女だけなので、この脚本は上演できない。」とか、「自分の学校で上演できる脚本について話し合いをしてほしい」というようなことが出ていたのです。なかには、「時間がもったいない。早く自分のアイデアをまとめたい」というような声まで漏らす人もいました。
 会が始まり前回のまとめを復習した後、自分なりのストーリーの原案を考えてきた人がいるかどうか聞いたところ、ふたりが手を挙げました。

 Dさんは、生徒の希望やアイデアを元に生徒と話し合うなかでまとめたストーリー案を持ってきました。「星に願いを」というタイトルも決め、不登校の女子高校生の周囲に起こる出来事をとおして、その高校生が登校できるまでのストーリーを考えてきたのです。ベジータ、バジータというふたりの宇宙人も登場し、エネルギーの源である光る石を巡っての奪い合いもおきるという展開を含め、コピーを全員に配布しました。
 今回は、その原案についての話し合いの内容は省略しますが、その後、演劇部の生徒と話し合いながら脚本の形にまとめ、地区大会で楽しく発表できたそうです。


                      Kさんの原案

 ここでは、もうひとり手を挙げたKさんの原案について提示し、話を進めます。

Kさんの脚本原案・・・・生徒指導に関すること・・・・

【登場人物】
 若い女教師
 年配の女教師
 女生徒の母親
 スーパーマーケットの若い女事務員
 スーパーマーケットの女主任
 女生徒A
 女生徒B
【場 所】
 スーパーマーケットの事務室の隣の主任室。
 主任の机と椅子。簡単な応接セット、つまり、ソファーとテーブル。
【時】
 季節は、夏。
 夏休みが終わったあとの日曜日。
 午前11時。
【場 面】
@
 女教師が二人、部屋に通されたところ、しばらく二人の会話が続く。二人のきのうの女生徒の万引きについて、事情を確認しながらお詫びに来ている。女生徒と母親も来ることになっているが、まだこない。
A
 女性事務員が。お茶を持って入って来る。二人に何か言いたそうである。二人は気づかない。
B
 まもなく、主任が入ってくる。二人の教師は、お詫びと事情の確認のことを申し出る。主任は、売り場のことやも仕入れのトラブルのことで、出たり入ったり、電話の応対で忙しい。カリカリしている様子で、事務員にあれこれと注意する。
C
 最近は、万引きが多いことや、主婦や女生徒の態度などが、悪くなっていること、従業員もアルバイトの子もしっかりしていないで困っている事などが、話題になる。
 学校教育に問題がありそうだとか、社会に問題があるとか話される。
D
 そこに、母親がやってくる。娘といっしょではなかった。学校からいっしょに謝りに行くように言われていたので、来たくなかったのに、来たという感じであまり態度が良くない。服装や化粧も娘顔負けのフルコース。教師達は、ハラハラして、それとなくたしなめたり、主任との間をとりもったりする。「スーパーの売り方や管理が悪い」「家庭(親)が悪い」「学校の教育が悪い。教員がなっていない」「やっぱり、生徒本人が悪い」など、事務員も巻き込んでけんけんがくがく。やや険悪なムードになりそうなので、教師は娘と早く連絡をとって来させるように母親をうながす。
E
 娘とその友達が、やってきた。スカートが短い、ピアス゜をとってと教師の指導が入る。対抗する女子生徒。娘に応援する母親。服装や頭髪の指導を、学校で規制することについて応酬する母親。母と子は意外にも親子の絆を確認できた。教師達は、日頃の溝が明らかになった。
 主任に息子から電話が入ったところで、話が収まり、型通り謝罪して、親と生徒は帰っていく。
F
 教師達も帰ろうとすると、事務員が声をかける。先生の教え子だったというのだ。そして明きらかになる事実。教師の不十分な指導がその事務員の人生に影を落としていたのだ。やがて、三人は部屋を出て行った。後に一人残った主任と、息子の電話のやりとり。「えっ、万引きをしたっていうの ?・・・・」

 この原案をもとに、話が盛り上がりました。それぞれ勝手なことを口にしていましたが、「おもしろいアイデアだ」「劇になる」「すばらしい」ということでは一致していました。
 Kさんは「そうかな・・・」と言いながら、まんざらでもない様子で、脚本にしてみようという意欲が感じられました。
 

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