『ノワール』 #26 の感想


粗筋
ミレイユの両親を殺した。クロエを殺した。たくさんの人達を殺した ── でも私は、ノワールでなく、夕叢霧香として、その罪を受け入れる。
概観
けっこう面白い重ね技かけてんだけど ... こー、根本的なとこで竜骨が欠けてる。 ともかくアルテナの描写不足がなんともかんとも。

せっかく #24 で物語の可能性についていろんな準備しておいて、 アルテナ殺して二人はノワール止めて去って行きました ... な予定調和の基本線だけじゃ、クロエが草葉の蔭で泣いてるぞお。

ノワール vs アルテナ派の方々
力入った絵なんだけど、そんなことより物語を終結させるほうに力を注いでおくれ ...
「憎しみで人を救えもするだろう ──」
愛で人が殺せる(保護を大義名分として紛争が起こせる)のなら、憎しみで人を救える ... というか本人のつもりではアルテナが救ったことになる兵士てのがあって、 さらに現在までの紛争を見続けて来たアルテナの精神構造は分かる。

ソルダの圧力をうけながらも、それなりに幸福だったと思われる(少なくとも彼女が苦難の道を歩んだことは 『ノワール』で描かれてない)オデットが、アルテナに何か言える立場ではないのも分かる。

それでもやはりアルテナの主張が弱いと思うのは、 霧香やミレイユの反論が自分達の生き方についてしか論じる必要がないからだ。 アルテナがアルテナの生き方として「憎しみで人を救えもする」のを信奉するだけでなく、 それに基づいて霧香やクロエの在り方を定めようとした。 立証責任はアルテナのほうにある。

これがたとえば、霧香の生き方についてのアルテナ、オデットの対立なら双方譲らず ... と対称的に描いてすむ話なのに。

ミレイユ
「あんたなんか殺す価値もないわ」

... まあ、やるんじゃないかなとは思ったが。 でも、ここでやるとまずいんじゃないの?
ミレイユは霧香を殺そうとして殺さなかったので、 見た目では「霧香も殺す価値もなかった」ことになっちゃうんだけど。 メタファーの絡みの多い造りでこーゆーのはノイズになっていかんと思う ...

殺されるつもりでいる奴を殺すのは殉教者ひとりつくるだけで、殺す側としては割に合わないのは分かるが、 戦闘能力くらいは奪っておくべきだと思うってあたりの甘さがやっぱりミレイユ?

また霧香の足ひっぱってるし。つーか、内臓(脾臓?)撃たれて長時間手当て無しって それって霧香死んじゃってません ...?

「多くの命を、いまさら無駄にするというのですか?」
ノワールの試練とは、戦って勝つことではなく、殺人という罪を重ねることか ... その重みに押し潰されるのでなく一体化していくこと。

とすると、もともとアルテナの言葉はアルテナへの憎しみでノワールを ... のたぐいですか。 自分が殺されてようやく試練が完結する。どっかで見たような、というか 邪神教系のではよくありそうな話。

霧香
「私を撃って真のノワールとして生きるのです ...」
ってとこで引鉄を引いてしまうとシンジ@エヴァになるのですね :-)
こっちのシンジ君もとい霧香は「死んでもいいや」でなくて積極的に自殺しようとしたので、 シンジよりは根性が ... ええと、あるの? ないの?
ミサト^H^H^Hミレイユはこちらのほうが親切でしたが ...

このシーン、かつて霧香は #6 で老人さん撃ち殺してしまってるので どこまでも殺す気のなかったシンジよりこの手の葛藤が浅いはず、 まあ撃っちゃうのもありかな、などとのんびり思っていたりした。

人形
幼いアルテナが「救助」されて、その直後くらいに兵士をたぶん撃ち殺してしまうところ。 人形が踏みつけられたところで「救助」の内容が分かる ... ということが書きたいのではなくて(つーか、上に書いた)、 ソルダの村でのお人形さんと重ねてあるのでしょうね ... 実は一見でアルテナに見えなかったんだけど、アルテナでないと動機の描写が弱いからアルテナなんだろうが。

ソルダの村で、ミレイユに似た子供が居た。村はソルダ反主流派に襲われて、人形もボロボロ。 これはアルテナ(と同じ境遇の者)が誕生した ── ということを意味するのだろう。 なんかいつでも全滅させられそうな村がよく今まで 1000 年ももったなぁ、 などと前は思ったが、そうではなくて、 適当に圧迫を受けながらそのたびに再建してきたんだろう、ってことまで分かってしまう。 まるで自分の腿に刀を突き刺して痛みを忘れないようにしてるかのようだ。 そら確かに聖地かもしれん。

ソルダ 1000 年の歴史の中で、グラン・ルトゥールを志した者がアルテナしか居なかったはずはない。 アルテナよりも前に居て、アルテナが居て、そしてアルテナの次代も居る。 世界そのものと自己認識するソルダと、その内部において全ての罪を背負った(と自分で思っている)人達。

んだけどね、前回も失敗した(んだろう)し、今回も失敗した。アルテナ側の正義が見えなかっただけに、 次回も失敗すんだろう ... と思ってしまって余韻もへったくれもない。

繰り広げられる抗争ってのは、両側にそれなりの正義(か道理とか)があって、 「しょうがねぇなあ、どっちにも加担するわけいかんし、... 双方納得いくまでやんなさい」 という感情が生まれてようやく 「次も付き合わざるをえないだろ(これで諦めるような相手でもなかろ)」という余韻が残る。 自分たちの側にのみ正義があったら、 「まだやるのか? いいかげんにしろよ」となって、こーゆーのは余韻とは言わん。

アルテナ vs 霧香
ああ、もちろんアルテナにとって、自分達の正しさはわざわざ語る必要のないことではあった。 それは自明なこと ... というのではなく、自分達の正しいか否かにかかわらず、 語って聞かせる必要がなかった。 話を聞く聞かないに関係なく、罪を存分に重ねていってくれれば、 それはアルテナ側の予定通りの展開になるのだから。

だから、長いこと語りながら、内容に説得力がない ... 説得するつもりがなくて話が通じてないのは 正しいのだろうけど、ここでアルテナの正義が表に出せないのなら、事前にもちっと ちゃんと描写しておく必要があったのではないかと思う。

業火
霧香もアルテナも落っこちて、そして霧香は業火の中から生まれ変わる ... 不死鳥、ねぇ。 メタファー側はこれでいいんだけど、事実としての霧香のブレークスルーは何時の時点になるわけだろう?

細目な霧香ならともかく、「夕叢霧香として」罪を受け入れるとなると、 かつてミレイユに告げたように本人は罰として死ななければならなくなる。実際、自殺しようとしたんだから、 霧香として一貫性がある。

ミレイユに手をさしのべられて、生きることにした ── んだとすると、 この時点で心を変えないといけないんだけど、ミレイユの「お願い ...」で心変りしたんだろうか。 オデットには「ミレイユをよろしくね」と言われてはいるし、なんだかオデットに心酔した様子もあるけど、 それとミレイユの涙だけで?

まあ、「よろしくしといてくれ」と頼まれて、その相手から「生きていてね」と言われたら 「生きていかなきゃ」となるのが論理的には正しく、また、それが霧香の出発点だとは思うけど、 ... この時点でそれ以上の変化がおきるべきなにかがあったという気はしないんだがなぁ。 それだけで良いといえなくもない?

ところで、結果的にアルテナは殺されて霧香は助かったので、アルテナの予定ではあるな。この流れ。

銃弾
いくつかの解釈が思い浮かぶ ... が、どういう解釈もしてやんない。

ふつーにみて、二人が刺客にがんばってるっつう描写なら音は 3 発要る (スタイルとして霧香は 1 発撃ち、ミレイユは 2 発撃ち) し、 二人が撃たれたという描写なら直後に倒れた音が要るだろ。 物語のシャープネスさをちょっと損なった感がした。

第 1 話
で、霧香って誰? 日本に居た訳は? 両親は? かつての学校生活は?

2 話から始めてれば話は繋がってるのに、1 話だけ浮いてる。 円環閉じるつもりなら日本を訪れた描写があるとよかったなぁって それはフィルム ノワールではナイかもしんないが ...

全体を通して: 音と演出
巧い演出、巧い BGM というのならこれまでもあった。 だからそういう意味では最初のころは「ほぇ〜上手いですね〜」ですむ話ではあった。

#8 冒頭の、これまでとは異質の BGM を投入して、 なおきっちり合わせてきたのがすこし驚いた。 センスに対する自信とか自負みたいなもんを感じた ... すげぇ度胸だと思ったんだが、 ... 後半に入ってからはあんまり冒険なかったかも :-) 情景の意味付けに従って BGM 固定してしまってて。

逆に戦闘シーンは後半になるに従ってノリが良くなったなあ。 #1 を例外すれば、#25 の「麗しい」としか表現しようのないゲームは最高。

全体を通して: ミレイユのへっぽこぶり
本筋のアルテナとオデットの対立軸において、 アルテナ側はクロエ登場以後、 オデット側は初回の回想から次第に姿を現して ... ってことで 本来はクロエ登場以後がヤマになるはずなんだけど、 足場崩されたミレイユがどーも物語の一方の主役たりえてなくて、片肺飛行強いられたのがなんとも。

たとえばカウボーイビバップ (べつにルパンIII 世でもいいけど) の 3 人 ── スパイク、ジェット、フェイの 3 人の力量は同格ではないわけだ。 差、というものがある。霧香、クロエ、ミレイユの 3 人の力関係において、 そういう差 ... 3 人とも一流以上だけど、でも絶対的な差、というものがある、となっていれば、 ミレイユの言葉にも迫力が出てきて話が締まったんではなかろうか。 恰好良いセリフはミレイユが担う機会が多い。霧香は迷うセリフ、クロエは断言するものだ。 桁違いに強い霧香が迷うのは意味がある。一本調子のクロエが断言するのは当然だ。 ... が、ミレイユに恰好良いセリフを言わせるつもりなら、それなりの裏打ちが必要じゃないのか?

とっつかまってスパイク達の足をひっぱるところでなお「あら〜助けに来てくれるの?」などと のたまうだけの力と裏付けがフェイにはある。せめてその程度の力がミレイユに欲しかった。

お気に入りの話、ベスト 4
  1. #6 迷い猫
  2. #13 地獄の季節
  3. #1 黒き手の処女たち
  4. #25 業火の淵
ベスト 3 でも 5 でもないのは、5 位に入れたい話が見当たらないのと、 3 つに絞って「業火の淵」のアクションシーンがリストから落ちるのがなんとなく惜しかったから。

全体にクロエ(やアルテナ)登場以後は、やっぱりアルテナやミレイユの描き方が足ひっぱってると思う。

今回、この一言
「我々の生きる世界は、しょせん闇の中だ」
「だから ... 灯を求めるのよ」

オデット様のお言葉も聞いてない(それとも、しょっちゅう聞かされてたかな?)ミレイユが いまごろそういうの語っても、という気はしないでもないが。
決意の御言葉ではあるんだが、そーゆーのは霧香に守られてるようにしかみえん立場の人間が言うことやない。 せめて霧香をかっさらいに出かける時点で宣いたまへ。

ところで:

我々(ソルダの = この世界そのものの)の生きる世界は、しょせん闇(一寸先は闇)の中だ ──
まったくだ。
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