2021.11.04
大分前に図書館に予約しておいた『三体』劉慈欣(早川書房)の順番が来たので読み始めた。語り手はナノマテリアル研究者の汪森である。「三体」は小説の中で登場するゲームの名前でもある。ゲームにログインする度に3つの太陽を持つ惑星上で生起する幾多の文明が入れ替る。予測不能な三体の運動により惑星の気候が替わり、文明が何回も生成滅亡する、というゲームである。他方では、現実世界において、三体運動を予測しようとする科学者が自殺したり、命を狙われたりする。ゲーム「三体」の最後では、三体星人が予測された惑星の最後を知り、他の惑星探査に出発する。そして、ゲーム参加者を「地球三体協会」に誘うのである。
・・・第三部は「人類の落日」。ここに来て、「地球三体協会」の総帥が今まで登場していた葉文潔であることが判る。彼女は文化大革命で父親を亡くしている。太陽活動研究の専門家である。実は文化大革命の最中でも継続していた国家・国際プロジェクトがあって、それは「地球外生命体の探索」であった。彼女はそこに招かれた。太陽活動による宇宙からの電波受信へのノイズの研究がその目的であった。しかし、太陽表面に何の異常も無いのに、突発的にノイズが発生するメカニズムが判らなかった。彼女が発見したのは、それが外来の強い電波が太陽表面で何億倍にも増幅反射されるからだ、ということだった。そして、これは地球から宇宙へと強力な電波を飛ばすのに応用できると気づいたのである。つまり、地球外生命体への情報発信である。これまで試みられてきた地球紹介の電波を彼女は自分の責任において一度だけ発出した。それから8年後、三重星系ケンタウルス座アルファ星系からの電波が届いた。「応答するな!応答すると位置が特定されて危険である。」という善意の警告であった。しかし、彼女は返事を返した。「地球文明を救う為に介入してくれ。」と。実は、三体星人からの信号は上司に見られていたが、それに対する彼女の返事は見られていなかった。彼女は、事故に見せかけて上司を殺すのだが、結婚したばかりの夫も巻添えにしてしまう。
・・・文化大革命の嵐も収まり、彼女は大学に復帰する。子供の楊冬も天文学者になる。父親を殺した紅衛兵4人の内、1人は死んだ。残りの3人も農村での学習を経て北京に帰っていたが、無職だった。彼女等にも葉文潔にも救いは無い。ただ、葉文潔は宇宙人に復讐を託したのである。
・・・3年後、電波望遠鏡の適地を探していて、彼女はマイク・エヴァンスと出会う。生物種平等主義者で石油産業を遺産として譲り受けている。人類に絶望していた。そこで彼女の託す宇宙人の襲来に共鳴した。3年後、エヴァンズは特製のタンカー「ジャッジメント・デイ」に搭載したアンテナによって三体世界からの電波を受信した。既に「地球三体協会(ETO)」を組織していた。
・・・ETO は知識階級の間に広まり、各国政府も無視できなくなってきた。内部的には大きく二つの流派がある。一つはマイク・エヴァンス直系の「降臨派」であり、罪深き人類の絶滅を願う。もう一つは「三体文明」を主と観て、主による人類の救済を求める一種の宗教であり、「救済派」と呼ばれる。ゲーム「三体」は一般大衆を引き込む為に作られたのだが、実際には知識階級が入ってきて、多くは「救済派」となった。三体運動問題を解くことが謂わば「儀式」となった。降臨派は三体運動問題を解こうとする数学者を暗殺している。各国政府が地球三体運動を知るのも救済派の一部の人を通じてであった。更に近年第3の「生存派」が生まれている。一般大衆が三体文明を知れば彼等の従僕となってでも生き残ろうと考えるからである。4光年の彼方の星であるから、地球に派遣された軍が到来するのは450年先である。
・・・各国連携の国際組織は「ジャッジメント・デイ」がパナマ運河を通過するという機会を利用して、船体と乗務員を全て破壊し、マイク・エヴァンスが隠していた三体世界からのメッセージを入手した。作戦司令官を史強という。今後重要な役割となるだろう。この作戦に汪森が開発したナノワイアーが使われた。マイク・エヴァンスは死亡し、「降臨派」は殲滅させられた。
・・・他方三体文明では、エヴァンスからの情報を受け取り、地球上での ETO の動きを察知していた。重要な戦略としては、艦隊が地球に到達する450年の間に人類の科学レベルがこれ以上進歩しないように操作することである。
・・・「智子」(ソフォン)プロジェクトは、現代物理学の知識からの SF である。素粒子世界の数学的記述の為に通常の4次元時空のそれぞれに展開する極微小の内部空間がある。全空間は11次元 ということになっているらしい。そこで、三体星人の科学者達は宇宙空間に巨大な加速器を建設し、陽子を加速して2次元に展開し、その面に回路を描き、陽子1個を AI として動作させることに成功した。それを6次元に戻すとサイズが手ごろになり通常の電磁波で制御可能となる。これを4つ作成し、お互いに同期(量子干渉)させる。これらを元の11次元に戻してから、その内の2個を地球に送った。1個は地球上の高エネルギー加速器に侵入し、加速されて意図的に検出され、物理学者の頭を混乱させる。壊れた陽子は自らの修復ソフトによって回復される。この企みは地球文明の物理学が内部空間を制御できるまでに発達しない限り気づかれることはない。智子陽子は、様々な「奇跡」を地球人に見せることができるので、人類を間違った科学に誘導することができる。また、ETO と交信し、三体星人の意図を伝えることもできる。それは人類が子孫を残さないようにして、絶滅させることである。
・・・このような情報を得た対策本部の様子は「智子」を介して三体星人にも伝わり、本部には最後の通信が来た。「おまえたちは虫けらだ。」
・・・続きは『黒暗森林』、『死神永生』と続き、全部で三部作になっている。

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