2022.03.31
前作『三体』の続きである。
・・・『三体II
暗森林(上)』第1部面壁者、第2部 呪文(上)。

・・・半分くらい読んだが、あまり面白くはない。地球には沢山の智子が送られていて、地球での出来事や話され書かれた情報は筒抜けであるが、三体人は考えていることが直接伝わってしまうので嘘をつくということが理解できない。そこが唯一の弱点なので、国連は4人の「面壁人」を任命した。彼らは理由もなしに軍事を動かすことが出来る。つまり自らの思考を誰にも伝えることなく作戦を指令することができるということである。なかなか奇抜なアイデアではある。前半はその4人のやり始めたことと宇宙軍の様子が入れ替わりながら記述されている。

・・・やっと展開が見られた。一人の面壁者が見破られて自殺。二人は将来技術が進展するまでの冬眠に入った。四人目は他の三人とは異なり、取り立てて能力のある人間ではなかった。羅輯(ルオ・ジー)という文学者である。しかし、彼は面壁者の使命に向き合うことなく、彼の理想郷のような場所を探してもらい、理想的な女性と暮らして、娘を授かっていた。しかし、5年後、国連はそのような彼を追い詰めるために、妻と娘を冬眠させてしまった。昔、彼は死ぬ間際の葉文潔に会っていて、宇宙社会学を勧められたのであるが、それは数学の公理体系のような明晰な理論で記述されるだろう、というものである。これが三体世界に警戒されて、彼は暗殺の対象となっていたので、国連から特別に面壁者に加えられたのである。幸福な生活を奪われた羅輯は本気で考え始めて、1つの方法を思いつく。夜空の星のパターンを使って宇宙生命体と交信する、という処は判ったが、その先は理解できない。彼はその「呪文」をテストとして50光年先の星に送る、という計画を立てて国連に提案したが、その時、彼は遺伝子を識別して攻撃する感染症に襲われた。地下500mに隔離された彼を狙った三体からの攻撃であった。命を取りとめたまま彼もテスト結果が出てくる100年の間の冬眠に入った。
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・・・『三体II黒暗森林(下)第2部 呪文(下)』。面壁者ハインズは人間の精神に信念を植え付ける方法(精神印章)を発明し、多くの軍人がそれに応じた。面壁者レイ・ディアスの計画は破綻した。水星に巨大な核爆発装置を設置して、三体人と取引する。核爆発を起こせば、水星が太陽に吸い込まれて、太陽は大量の物質を吐き出して地球型衛星は全て太陽に呑み込まれる。つまり、三体星人の目的が果たせなくなる。人類滅亡を取引条件としたこの計画が破壁者に知られていしまい、レイ・ディアスは追放され、故郷ベネズエラで民衆に殺された。
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・・・『第3部 黒暗森林』。
・・・羅輯が冬眠してからしばらくして、三体人の襲来への絶望から、世界中が自暴自棄になり、また軍備増強からも、環境問題が悪化し、大不況に陥った。これが「大峡谷時代」である。その後、人々は『文明に歳月を与えるより、歳月に文明を与えよ』と言い出した。つまり残り少ない未来を豊かにしよう、ということである。人類は啓蒙主義からの歴史を再現して以前よりも高度な文明を築いた。そこで再び三体船団への対策を始めたのである。

・・・人類が2/3を失った『大峡谷時代』を乗り越えた200年後、面壁者 羅輯(ルオ・ジー、ら・しゅう)が目覚めた。彼の「呪文」は何の効力もなかったことが明らかとなっていた。人類の科学技術は各段の進歩を遂げていて、三体船団は途中で遭遇した宇宙塵にかなりやられていた。殆どの都市は地下に作られていて、林立する木の枝の葉が住居である。交通手段は空中で、地表に住む人は新しい世界に適応できない人たちだけである。世界の言語は英語と中国語の折半のようなものになった。覇権国家は存在せず、3つの宇宙艦隊が国際社会を支配している。冬眠から冷めた羅輯とハインズは面壁者を免除されたが、その会議の折りに、ハインズの妻・山形恵子から告発があった。ハインズは密かに精神印章装置を複製していて、多くの宇宙軍兵士に「信念」を植え付けていた。その信念は表向きの計画とは逆の敗北主義であった。彼らの事を「刻印族」と呼んでいる。どれくらい残っているかは判らない。

・・・羅輯は少しだけ前に目覚めた史強と再会した。羅輯はロボットに6回命を狙われて、その度に史強に救われた。三体協会が1世紀前に作ったウイルス Killer5.2が起動していたのである。ウイルスは地上では働かない為に、羅輯は地上に出て生活することになった。地上にはオアシスが所々にあって、人々はそこで農業をしている。

・・・宇宙艦隊の一つ、アジア艦隊の恒星級戦艦『自然選択』は木星の周辺に居る。冬眠から醒めた章北海が艦長代行に就いた。三体船団の偵察艦を追尾している。その最中、章北海は艦長代行の職権を使って、『自然選択』を太陽系の彼方まで逃亡させた。人類は敗北するからその子孫を残すという『敗北主義』である。

・・・偵察艦は丁度水滴の形をしていて、表面は全反射である。旧世代の物理学者丁儀が最初の調査者として任命された。彼は何か予感がして、接触する戦艦「量子」が超高速で飛行できるように、隊員が深海状態にはいることを提案した。確かに、捕獲に失敗して逃げ出したときに追跡するためには必要である。「量子」と「青銅時代」が深海状態に入ることになった。(深海状態というのは、体液を濃くして超高速に耐えられるようにすることである。)ともあれ、「水滴」は「マンティス」という無人機に捕獲された。丁儀はそこに入ってその滑らかな表面を調べたが、原子レベルにおいても滑らかだった。「強い力」で結びついた表面は壊せない。そのメッセージとは『私がお前たちを滅ぼすとして、それがお前たちと何の関係がある?」丁儀は「逃げろ!」と叫んだが既に遅かった。「水滴」は強力なエネルギーを発して、マンティスを熔かした。水滴は加速して大艦隊の端にある「インフィニット・フロンティア」を破壊し、次々と高速で引き返しながら戦艦を貫いた。事態が把握されるまでに13分かかり、水滴が体当たり攻撃していることが判明した。レーザー光も電磁弾も効力が無かった。生き残った艦艇は、あらかじめ深海状態に入っていた「量子」と「青銅時代」だけだった。戦場からは小型艦艇で脱出した6万人程度が生き残った。他には「自然選択」とそれを追撃してきた4隻が生き残っている。

・・・「自然選択」と他の4艦は自らを「星艦地球」と名付けて、自治の為の政治体制を作った。最初の目的地は核融合炉の燃料を補給する衛星で、2000年先である。ただ、このままでは燃料が足りなくなる。そこで、避けられない決断。他の4隻の人間を殺して、それらの燃料を奪い取ることである。超低周波水爆で可能となる。しかし、他の艦「アルティメット・ロー」が同じ攻撃をした。この攻撃を免れたのはそれを予期して艦内を真空にしていた「藍色空間」だけだった。「藍色空間」は直ちに反撃して、生き残った。太陽系から見て逆方向に逃げていた「量子」と「青銅時代」でも同じことが起きて、「青銅時代」が生き残った。

・・・地球では「水滴」が4時間半後に地球に到達するということで、大混乱となっている。羅輯と史強は市長に会って上層部への面会を要請したが断られてから、一人だけになって離れた。彼は三体から狙われていると思ったからである。しかし、「水滴」は地球と太陽との間のラグランジュ点に静止した。太陽に向かって強力な電磁波を送り続けている。つまり、地球から太陽の増幅作用を使って宇宙に発信することを妨害している。

・・・地下空間から逃れてきた新人類は羅輯を神と崇めるようになった。呪文が効いて51年前に187J3X1星が破壊されたことが判ったのである。彼は再び面壁者に指名された。

・・・羅輯が史強に説明した。宇宙文明の二つの公理:1.生存は文明の第一要求である;2.文明はたえず成長し拡張するが、宇宙における物質の総量は一定である。生命は指数関数的に増大するから、ある閾値を超えると殺し合いが起きる。宇宙においては、他の文明を理解することが出来ないから、猜疑連鎖が起きる。もしも宇宙全体にある星の位置を知らせる情報を送ったとしたら、どこかに存在する生命はその星を調べるような手間をかけずにその星を攻撃するだろう。これが「呪文」のテストだった。「三体星団」の位置を知らせれば同じことになる。だから、「水滴」は情報を増幅できる太陽への地球からの情報発信を封じたのである。もはや、羅輯に出来ることはなかった。しかし、国連は、彼の権威を利用して市民の暴動を抑えるために、彼に使命を与えた。それは恒星型水爆を利用して木星から宇宙塵を作り出し、他の9個の「水滴」の軌跡を映し出すことであった。その言い訳のような使命に羅輯は従ったが、その意図は見破られ、一転して市民から見放された羅輯は住居を追い払われ、葉文潔と楊冬の墓まで出かけて、自分の墓穴を掘った。ここで、彼は銃口を自らに突き付けて智子を介して三体星人と取引を始めた。実は彼が行っていたのは、恒星型水爆を配置して、宇宙に三体星団の位置情報を発信することだった。この計画を停止状態にするには、彼の身に着けている生体情報システムが彼の生存を確認できている間だけである。取引は成功した。物理学の進歩を阻害していた智子の妨害活動は停止された。

・・・5年後、羅輯は妻と娘とで三体星人に助けられて作られた巨大な重力波アンテナの場所に来ている。三体星人と地球人は和解したようである。羅輯の、「宇宙の本質が暗森林であることの理解が遅れたのは地球人に「愛」があるからだ」という講演に対して、三体星人の一人が反論する。我々は「愛」が文明の生存にとって利益にならないから抑圧したのだが、個人の中で育ち始めている、と。それは、250年前、葉文潔が宇宙に地球の存在を知らせた時、地球に警告を送った監視員だった。

・・・結局、ハッピーエンドだったのだろうか?でもなかなかスリルがあって面白い SF になっている。。。ただ、第III編があるので、まだ判らない。図書館の順番が回ってくるのは大分先になる。

・・・解説を読むと、フェルミのパラドックスが紹介されている。簡単な推算によれば地球外生命が発見されても不思議ではないのに、何故見つからないのか?というものである。非常に多くの説明があるが、その最も簡単な仮説は各文明は見つかると攻撃されることが判っているから自らを隠している、というものである。暗森林の定理は文化大革命で肉親や知人を殺された葉文潔によって考えられたものである。ただ、地球上の文明同士はお互いに交流が可能なのだから、その定理が成り立つとは言えないことを指摘している。

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