縮刷版96年9月下旬号


【9月30日】 インターネットプロバイダーのドリーム・トレイン・インターネット(DTI)が、木村太郎さんの経営する湘南ビーチFMといっしょに、インターネットでFM番組を放送するって話を聞きに、日比谷のプレスセンタービルへと出かける。9階の会見場に入るとどこかで見たような人。あれれっ、もしかして木村太郎さん、でもテレビで見るよりずいぶんスリムですらーっとしているなー、ちがう人かなあーって思ってやり過ごした。席について会見が始まると、そのすらーっとした人が「木村太郎」と書かれた名札が置いてある席に座った。正面から見据えるとまさしく木村の太郎ちゃん。テレビってやっぱり太って映るんだなー。

 発表の内容は、1つはDTIが制作・提供する深夜FM番組を、放送と同時にインターネットでも生中継しちゃおうってもの。「リアル・オーディオ3・0」だけじゃなく「ストリームワークス」とか「シーユーシーミー」とかを使って、スタジオの光景とか視聴者どうしのチャットとかを提供することになっている。個人ホームページのオーナーへのインタビューも放送するとか。DTI提供ってことは、DTIにホームページを持っている人だけってことになるんだろーか。

 もう1つがなんと湘南ビーチFMを、11月1日から全日インターネットでも放送することになったって話。最初の頃のイメージで、えらく雑な音だったってことが頭に焼き付いていた「リアル・オーディオ」が、「3・0」ではホントきれいで迫力のある音を伝えられるようになっていて驚いた。インターネット放送はこの「リアル・オーディオ3・0」を使うことになる予定。14400bpsのモデムでは聴けなくなるって聞いて、14400ユーザーとして怒りがふつふつと沸いてきたけど、これも時代の趨勢、貧乏人は新しいサービスから置いていかれるのかと、肩を落として帰途につく。

 オリンパスの発表会。本来の担当ではないが、なんでも印刷技術が絡む発表とかで、面白そうなので会見場にもぐりこむ。なにか手にペン状の器機を持ったお姉さんが、紙の上にかかれた帯状の文様をなぞるとあら不思議、10秒とか20秒とかの結構長めの音声が、滔々とスピーカーから流れ出した。文様に秘密有り。実に60ミクロンという細かなドットのカタマリが、圧縮された音声データだったり、静止画や文字情報だったりして、これをデコードすることで、スピーカーからは音声を、パソコンのモニターには静止画や文字を出すことができる。「紙をマルチメディアに」ってかけ声も、あながち誇張ではないと驚く。

 結構バーコードならぬ新しいコードの印刷面が大きくて、たとえ横一線に並べなくても右から読んでも下から読んでもちゃんとデータを再現できると解っていても、普通の雑誌なんかにコードを印刷するのは難しそう。やっぱりカードに単語や短文を印刷して、下に音声データのコードを印刷して、お勉強に使ってもらうってのがいちばんみたい。あと子供むけの簡単マルチメディア百科事典とか。あるいはもっともっと印刷技術が発達して、もっとぎゅーっとコードを圧縮できるよーになれば、米粒に念仏じゃないけれど、米粒に広辞苑くらいなら書けてしまう時代が・・・・来るかなー。

 イアン・バンクスの「共鳴」(ハヤカワ文庫ミステリアス・プレス、780円)を読了。次から次へと発生する猟奇事件もさることながら、主人公が使ってるパソコンが386SXマシンってのがすごかった。メモリーは2メガバイト、ハードディスクの余りがあと8メガバイト。これって小説が書かれた93年時点で普通だったんだろーか。今だったら差詰めペンティアム搭載(とん・つちゃちゃん「インテル・インサイド」)でメモリーは16メガバイト、ハードディスクは余裕しゃくしゃくあと500メガバイトって感じ。おまけに値段は今の方が安い。

 ムーアの法則じゃないが、価格性能比は加速度的に改善していく。パソコンを小説に出すなら、よくよく気をつけないと陳腐化を免れない。もしかして今どき「14400bpsのモデムでデータをダウンロードした」って書くと、やっぱり「ど古い」って言われるんだろーか。言われるんだろーな。太郎ちゃんには。やっぱり。


【9月29日】 昨日の二の舞は踏むまいと、ちゃんと朝8時に起きて出かける支度をする。といっても先週と同じく神保町あたりをフラフラとして新刊を漁るだけだけど。地下鉄を竹橋駅で降りて博報堂の横を通って三省堂書店前の交差点へ抜ける。途中ドトールで珈琲をアンパンをかじって朝食の替わりにする。15分ほどで抜けてまずは三省堂書店。2階のミステリーやSF関連図書では目当たらしところはなし。コミックのコーナーに佐々木規子さんの「おたんこナース 第3巻」が出ていたのを見つけたが、後で買おうと思ってそのまま忘れてしまった。自宅そばの本屋で夕方になってから探したがまだ入っていない。神保町侮り難し。

 1階の新刊書コーナーで井辻朱美さんの「遥かよりくる飛行船」(理論社、1500円)を見つける。トム・リーミーだとかの翻訳は記憶に残っているのに、創作の方は読んだことがあるのにどんな話だったか記憶にあまり残っておらず、この際はっきりすべーと思って買って帰る。あとはジョン・クロウリーの「ナイチンゲールは夜に歌う」(早川書房、2000円)とか。難解そーなので後回しにしているうちに、読まずに地層の彼方へと笈やられてしまうに違いないのだが・・・・。いつのことになるか見当もつかないが、「エヂプト」が出たらまとめて読むことを考えよー。

 東京堂書店でポスターをみかけて、地下鉄都営新宿線に乗って菊川へ。そこから徒歩で15分くらいいくと、東京都現代美術館がある。なんでも野外彫刻の展覧会が開かれていて、結構な出品数なのにも関わらず「無料(タダ)」で見られるとゆーことで、曇り空で時折日が照るなかを、てくてくと美術館まで歩いていく。到着すると石造りの前庭に何やら巨大なモニュメントがぐにょぐにょ。おー、これはフェルナン・レジェではないか、あっちはなんとホアン・ミロ、ロダンだマイヨールだ、ブールデルだって有名どころを過ぎて、いよいよ現代の彫刻家のところへと進んでいく。

 主に東京都現代美術館の周囲の庭を使って開かれていた展覧会だったけど、途中館内に入ってカフェテリアを抜ける部分があって、珈琲飲んでたりヤキソバ喰ってたりする人たちの横を、パンフレット持ってウロウロするのってちょっと恥ずかしいと思った。喰ってる方がもっと恥ずかしいのかもしれないけど。展覧会は最後をニキ・ド・サン=ファンで締めくくり。ど派手ーな色使いの原始女性は太陽であった的なまんまるい女の人の像がでいーんと置かれていて、若い人たちがその前で記念写真を撮っていた。おいおいニキ・ド・サン=ファンの彫刻だったら多摩センターのベネッセの前に行けばゴロゴロしているよって、教えたところであんな地の果てまで誰が行くだろー。

  それにしてもヒロミックスの影響なのか最近の若い人たち、一様に首から1眼レフのカメラ、手首にコンパクトカメラを下げて彫刻やら彫刻と並んだ男の子女の子やらをバチバチ撮ってる。カップルの男が安物のペンタックス、女がコンタックスのS2を持っていて、世の中いったいどーなってるんだろーと訝る。まだ中学生くらいの女の子が、ニコンFを首から下げてたのも驚きだったけど、これは親のお古って線が考えられるからまーいーか。靴はNIKE、カメラはCONTAXなんてことにでもなった日にゃあ、安心してCONTAX持って渋谷の街を歩けねー。引きずり込まれてドテボキグシャっとやられて、かっぱらわれちまうからなー。

 昨日の使い残しのパスタ・リングィーネに今日はカルボナーラ・ソースを混ぜてノン・アルコールビールといっしょに食べる。ベーコンが多すぎてちょっと辛い。卵を買ったので今晩はゆで卵を作ってバーボンを飲みながらぽくぽくと食べよー。むしゃむしゃではなくぽくぽく。指の臭いを嗅ぐときはふぐふぐ。ちょっと人の本を読むと、すぐに影響されるのが悪い癖だけど、人に迷惑かけてる訳でもなし、せいぜい家のなかで1人カッコつけさせて下さい。


【9月28日】 起きると午後1時。早起きしたら行きたいところがあったのに、時計を見て面倒になって、近所の本屋やデパートの地下食品売場に行くだけにする。スタンドで新聞を買って衆院解散の記事を読み比べたり、そろそろ自販機に入り始めた暖かい罐珈琲を買って飲んだりしながら、デパートの7階のベンチで時間を潰す。総選挙は10月20日が投票日か。自分の選挙区っていったい誰が立候補するんだろーって思って産経新聞を見ると、そこはもう紹介済みらしく、仕方がないので昔住んでた名古屋の選挙区で誰が立候補するのか調べる。三沢淳ってのは元中日ドラゴンズのあの三沢のことか。うーん、星野だったら受かってたかもしれんなー。監督やってなきゃって話だけど。選挙区で落ちても比例代表で当選出来るってのは何となく理不尽とゆーか不思議。だったら最初から選挙区で立たずに、新進気鋭の候補でも立てればいいのに。

 家に帰って午後は本ばかり読んで過ごす。SF的な要素を持ったミステリーだとばかり思っていた宮部みゆきさんの「蒲生邸事件」(毎日新聞社、1700円)は、ミステリー的な雰囲気を持たせた真正のSF作品であった。タイムトラベラーが歴史改変の可能性について悩む場面なんかが出てきて、昔好きだったジュブナイル作品を読んだような読後感に襲われた。宮部さんらしくいろいろな情報を織り込んであって、読んでいるうちにいっぱしの2・26事件通になれる、かな。これをミステリーなどと言われてしまっては、SF物の名折れなので、大森望さんが「パワー・オフ」をSFと言い切ってレビューしたように、僕は「蒲生邸事件」を良質で好感の持てるSFだとここに宣言し、年末の「日本SF大賞」とか来年の「星雲賞」とかにノミネートされるよー、SFの神様に向かってお祈りしていくことにする。「直木賞」は・・・無理だろーな。SFだもんな。

 平井和正さんの「月光魔術團 第4巻 噛み癖あり、性悪子犬」(アスペクト、780円)は一段とエッチ度を増しながら爆走中。学園を襲う陰謀とか謎の登場人物とかは山ほど出て来ているのに、核とゆーにはまだ弱く、これまでの登場人物たちがお互いに知り合ったり、じゃれ合ったり、どつき合ったりしながらプロローグにも似たエピソードを1つ1つこなしていってるって感じがする。どこに向かって進んでいるのか相変わらず見えない。あとがきを読んでいて、「火宵の月」(白泉社)の作者、平井摩利さんが平井和正さんの娘だとゆーことによーやく気がついた。たびたび出てきた少女漫画家とゆー平井さんの娘と、陰陽師が主人公になっていたので面白そーだと思って買った「火宵の月」の平井摩利さんとがなかなか結びつかなかった。想像力や記憶力がとことん衰え始めている。

 ブイトーニのリングィーネにボロネーズ・ソースをかけて食べる。この日初めてにして唯一の食事。リングィーネってのはスパゲッティーが平べったくなったって感じのパスタで、簡単にいってしまえばうどんに対するきしめんってとこか。きしめんほど平べったくも太くもないけどね。それにしても藤原伊織さんじゃーないが、最近の土日は1日1食ってパターンが定着して来ている。痩せるんだろー、それとも逆に太るんだろーかと考えるが、平日に昼夜無茶苦茶喰ってるから、あんまり実験にはならない。夜は夜でバーボンをロックで2杯ばかりゴブゴブと飲んでるし、それもチーズを喰いながら。腹はそれほど出ていないにしても、何だか背中やモモがブヨブヨして来たし、走ると苦しい。やっぱり確実に体が衰えて来ているのだろー。


【9月27日】 買った本を読もうとカバンに詰めて家を出て、途中に寄った本屋でまた新刊を買っている。カバンが重くなって手に豆が出来るのもかまわず、面白そうな新刊と見ると放っておけないのが「積ん読家」の悲しい性。とにかくカバンに入り切らなくなるまで、どんどんどんどん本を買ってしまう。重いカバンを毎日のように下げて歩いているから、手のひらにはカバンダコが出来てしまったが、鉄亜鈴とかダンベルとかを毎日上げている人のよーな、ぶっとい腕にならないのが悲しい。いつまでたっての手首は細いままで、なぜか腹の周りだけがどんどんどんどんと太くなっていく。不思議だなー(ただの喰いすぎだってーの)。

 まずは吉野朔実さんの新刊「恋愛的瞬間」(集英社、400円)。マーガレットコミックスでは吉野さん、今は確か「僕だけが知っている」を刊行中だったはずなのに、もしかして4巻で終わっちゃったのかなーと思って、表紙の折り返し部分のコミックスリストを見ると、まだ続刊になっていた。あっちはあっちでしばらく楽しめるとゆーことらしー。「恋愛的瞬間」は月刊誌の「ぶーけ」に掲載されたマンガだから、1話分がそれぞれに結構長く、そのため1巻にもたった4話しか入っていない。とくに第4話の「適材適所の男」は、「新世紀エヴァンゲリオン」の最終回じゃないけれど、舞台の上で椅子を並べて女の子たちが会話劇をするよーな話になっていて、とっても斬新さが感じられる。でもオチはイマイチよく解らない。熟読必要。

 あとは宮部みゆきさんの「蒲生邸事件」(毎日新聞社、1700円)をゲット。時間旅行者が出て来るってことはもしかしてSF、なんて期待はあんまりしておらず、やっぱりSF的な要素を取り入れたミステリーなんだろーなと考えている。今晩から読み始めるつもりだから、きっと明日の朝には読み終えているだろー。せっかく100ページまで来ていたのに、イアン・バンクスの「共鳴」(早川書房、780円)はちょっとお預け。デビュー作の「蜂工場」は読んだことがあるけど、すっげー作品だったよなー。今は入手困難か。高く・・・・はなっていないよな、こないだどこかの古本屋でみかけたし。

 日活の記者発表会。「えっ、にっかつじゃないの?」って思う人もいるだろーけど、かのナムコのもとで再建を目指すことが正式に決まった今日、社名もかつての栄光を引きずった「日活」へと戻すことにしたんだそーな。新生日活の社長に就任して、映画製作の指揮を取るナムコの中村会長、記者会見で制作する映画の方向性として、アメリカの銃社会や弁護士の氾濫と訴訟費用の高騰や、セクハラなんかへの行き過ぎた反発なんかを問題視して、こーした社会的な問題点を喚起するよーなイメージを映画に反映させたいよーなことを話していた。すっげー意味深じゃない、この言葉って。

 帰りがけにさらに1冊本を購入。吉村明美さんの「薔薇のために 第12巻」(小学館、400円)で、これでもうカバンには何もはいらない。平井和正さんの「月光魔術團」も第4巻が出ていたけど、これ以上カバンが重くなると手だけじゃなくって背中や腰にくるから、明日の土曜日に買うことにしてあきらめる。「出生率0」(大石圭、河出書房新社、1600円)はさっさと読了。小松左京の短篇に似たよーなのがあったなーと思い、そっちの短篇の方がラストが衝撃的だったなーと思ったけど、「出生率0」にもそれなりに面白い描写があって、まあ楽しめた。純文系やミステリー系のSF風小説が巷に溢れているのに、プロパーの方はシミュレーション小説とヤングアダルトくらいしか元気がない。寂しいけど、これが現実、なのよね。


【9月26日】 ホームページ絡みの記事を何本か書いて、週末を控えて倦怠感に襲われる魔の木曜日をやり過ごす。1本は大日本印刷から届いたインターネット私書箱サービス「ウェブ・メール」の話。ユーザーがあらかじめアンケートに答えて趣味とか嗜好とかを登録しておくと、大日本印刷に登録した企業などから趣味や嗜好に合った情報がピックアップされて、提供されるようになるとゆーもの。メールを使った同種のサービスは幾つかあったように記憶しているが、大日本印刷の場合は企業が発信する情報をメールでは送らず、ユーザーごとに用意した私書箱ホームページに、それぞれの情報の一口コメントと、情報に飛ぶためのリンクを掲載して、ユーザーに提供する形を取る。これだと無駄メールとかダイレクト電子メールでメールボックスがパンクする心配がない。もっともリンク先に有効な情報があるかどうかは保証の限りではないが。

 もう1本は富士通が始めたファッションページの話。来月からパリで始まる「97年春夏パリコレクション」の模様を、デザイナーやモデルへのインタビュー、パリ近辺のカフェーやレストラン情報などの形で提供するのだとか。テレビ東京の「ファッション通信・パリコレ速報」が待てない人にはお勧めのサイト。日本語版もあるから英語の読めない人もフランス語に対応していないパソコンの人も安心ね。希望としては着替え中のモデルの写真なんかアップしてもらえると有り難いんだけど、これやったら来年から情報を提供してもらえなくなるだろーから無理はいわない。

 読書の秋を意識してか書店は新刊の山。給料日が過ぎて気が大きくなっていることもあって、目についた面白そーな本をどんどんと買い込んでしまい、カバンがズンズンと重くなる。栗本薫さんのグインサーガ53巻「ガルムの標的」(早川文庫JA、480円)は予定どおりのお買い物。大石圭さんとゆー純文系の人が書いた「出生率0」は、近未来と扱っているとゆーことに惹かれて買ってしまった。面白いのかどうかは不明だけど、タイトルと表紙のセンスははっきりいってイマイチ。表紙に「河出書房新社創業110周年記念書下ろし小説」とあり、新社なのに110年とはこれいかにと首をかしげる。

 ほかには「僕を殺した女」で衝撃のデビューを飾った北川歩実さんの新刊「模造人格」(1800円)を購入。今までの2作は新潮社から出ていたのに、今度はあの幻冬舎から発売とは、さすがに敏腕社長や凄腕編集者のいる会社と感心することしきり。「僕を殺した女」は読み進むのに結構難儀した記憶があるが、今度の「模造人格」はシーンが切り替わったり語り手が切り替わったりしても割とすんなりストーリーが頭に入って、読みやすかった。メタにならずアンチにもならず、割とストレートな結末でひと安心。

 今月はほかに宮部みゆきさんの新刊も出る予定で、ミステリーファンはきっと狂喜乱舞していることだろー。SF系ではジョン・クロウリーの「ナイチンゲールは夜に歌う」に期待だけど、かの大森望訳「エンジン・サマー」(エンジン様)も積ん読のままとなっているだけに、「エヂプト」が発売される前に一気に片づけるべーと虚しい誓いをする。しかしいつ出るんだろー「エヂプト」。早川書房さんよ、まさか「夢の文学館」まで未完のままで終わらせやしめーな。


【9月25日】 是非取材に来てくれと何度も電話があったので、東十条にあるムービットという会社を訪ねる。ソフト業界が集まる青山とか原宿とか富ヶ谷だとかとは大きくかけ離れたロケーションで、もしかしたらアブナイ会社かもしれないと思い、夕方になっても戻らなかったら葬儀屋に連絡して下さいとデスクに言い残してはこなかったけど、いきなり撃たれたらやだなーと思ってビクビクとしながらドアをあけると、そこは明るいオフィスにパソコンやワークステーションが何台が並んでいる、ごくごく普通のソフト開発会社だった。よかった。

 説明したいと言っていたのは、FAXボックスを使ってチラシなんかを配信するサービスを、インターネットのホームページと連携できるようにしたって内容の目新しいサービス。契約している情報提供者が、FAXで情報をサーバーの方に入力というか送信すると、FAXボックスに収まると同時に、画像データのままWWWサーバーにも格納されて、情報の利用者がFAXボックスならぬ「インターネットFAXボックス」、ようするにムービットのホームページにアクセスすると、画像データのチラシが貼り付けられたホームページを、ネスケなんかのブラウザーで見ることができるようになる。

 チラシ3枚分までって制限はあるけれど、情報提供者は自宅にデータ送信用のFAXさえあれば、手軽に一種のホームページを持ててしまうって寸法。個人ホームページへの広告斡旋とか、今回のサービスとか、インターネット時代には頭をめぐらせて手足を動かせば、いろんなビジネスが出来てしまう。ナマグサな僕には関係ないハナシだけどね。

 富士通が誇るCD−ROMタイトル「世界の車窓から」の最新版「イギリス編」と、昔出た「スイス編」のセガ・サターン版が出るとゆー発表会をのぞく。1タイトルあたり5万枚は出るとゆー、パソコン向け非ゲームCD−ROMとしては異例とも言える売れ行きを見せているタイトルだそーだけど、実は1枚も見たことがない。

 テレビ版のダイジェスト・データ集的な使い方もできるし、テレビとは違った映像や画像を見て楽しむってこともできるそーだけど、元の番組を見ていないから比べられないし、90分になんなんとする映像が収録されていると聞いただけで、終了までの時間を思ってついつい手を出しそびれてしまう。2枚組み「イギリス編」のサンプルとして、パート1の方を1枚だけ配っていたけれど、非道なことにウィンドウズ版だったので、ウィンドウズユーザーの人にあげる。富士通のウィンドウズ贔屓ここに極まれり。当然だけに文句もいえない。しくしく。

 電通から送られて来た10月1日付け人事を見て吃驚。かの芥川賞作家の新井満さんと、かの直木賞作家の藤原伊織さんこと藤原利一さんが、同じ部署の同じ専任部長として着任することになっていた。会社をピーアールするために、作家を同じ1部屋に集めて外部の雑音を遮断して、黙々と創作に励ませる電通の親心(鬼心)なのかいな。

 新しい作品を読んでいないしあまり読みたいとも思わない新井満さんは置いといて、江戸川乱歩賞の授賞長編第1作がなかなか出ない藤原伊織さんの場合は、本当に会社の中にでもカンヅメにして、作品をかかせた方がいーと思う。でないと35万部とゆー「テロリストのパラソル」の読者が、「早く次を読ませろー」ってな具合に、電通に押し掛けてぱにっくになること必定だから。まあこれは大袈裟としても、電通の人の話によれば、最近会社に姿が見えず、どこかに篭って作品を書いていたとゆーことで、早ければ年内に、新作を読むことが出来そー。だったらいいけど。でもどうだろう。


【9月24日】 新聞休刊日で一般紙の朝刊は出ていないけど、オリックスの優勝を受けてか、昔は輪番で休刊日対策をしていたスポーツ新聞も全紙が発行されていて、そのなかから日刊スポーツとスポーツニッポンを購入する。目当てはもちろんオリックスではなく藤子・F・不二雄さんの訃報の記事。スポーツニッポンは終面から4ページ目に半分くらいのスペースで掲載されていただけだったけど、日刊スポーツは終面をめくった見開きにデーンと特集を掲載。右面には近況や弔問客の哀しみの声、左面にはたぶん藤子不二雄Aさんの方の作品になる「まんが道」から、二人の決意や手塚治虫さんとの出会い、トキワ荘での生活といった場面を抜粋して掲載していた。西田ひかるのカラー写真が小さくなってしまったのがちょっと残念だけど、大事の前には些事だと心を納得させる。ちなみにスポニチの方の西田ひかるは角度は最高だけどモノクロなのがとても残念。

 記事を読みながら目がジンと熱くなり鼻がツンとなってくる。涙を流して号泣などはしないが、それでも目頭が湿ってきてしょうがない。映画の動員数一覧が掲載されていたが、毎回300万人をアベレージで動員していて改めてその人気に驚く。もしかしたら「寅さん」なんかより多いんじゃないのか。新聞を買ったついでに、キオスクのスタンドに挟んであった単行本の最新刊「のび太と銀河超特急」(小学館、400円)を購入。表紙を開けると見返しに藤子・F・不二雄さんがペンを持って笑っている写真が掲載されていて、もう次はないんだと思うと、目頭が一段と熱を帯びてくる。しずかちゃんはやっぱりお風呂に入っていた。

 午後から電子新聞の発表会。産経新聞を電波にのっけて配信して、専用の端末で見られるようにするサービスを10月1日から始めることは、すでに小島奈津子と露木茂の掛け合いCMなんかでお馴染み(だよね?)になっているけど、この端末で見られる電子本が、追加で発売されることになった。フロッピーディスクに入った30万字程度の電子文庫本を、ドライブのターミナルを経由して専用端末に読み込ませておくって仕組み。ニフティなんかで絶版文庫本とか名作文庫本とかを販売している「電子書店パピレス」から、売れている物をピックアップしてそのデータを移植したって作品が大半で、夏目漱石とか宮沢賢治とかいった定番のほかに、小松左京、眉村卓、矢野徹、川又千秋とかいったSF物が結構揃っている。確かにニフティとかのパソコン通信ユーザーだったらSF本を買おうって人が多いのも解るけど、電子新聞のユーザーがSFを果たして買ってくれるだろーか、ちょとt予想がつかない。団鬼六、赤松光夫ってところも揃ってるから、そっちは売れるかもしれない。

 夜はニフティの勉強会。会員数が200万人と越えたとか、いずれあインターネットからニフティに入ってこれるよーにするとかいった話が披露され、2時間くらい意見交換をして時間切れで終了する。ニフティマネージャを使ってる人が4割を越えたってのは驚き。自分では1度も使ったことがないので、本当に使いやすいのか、たまたまバンドルされてパソコンに乗っかってたから使ってる人が多いのか、ちょっと判断がつかない。11月にはマック版のバージョン2もリリースされるそーだけど、果たして使うかというと、たぶん使わないんじゃないかな。CD−Rに入ったウィンドウズ版のバージョン2を貰ったけど、これは全くの持ち腐れ。こうCD−ROM付き雑誌が増えてくると、付録のCD−ROMなんが邪魔で仕方がなくってバンバン捨てちゃってるけどけど、CD−Rはなぜか捨てるのがもったいないよーな気がする。使い回しが出来る訳じゃないのにねえ。やっぱケチなのかオレは。


【9月23日】 秋刀魚は目白か目黒だが、新刊はやっぱ神田神保町に限るってことで、台風一過の曇天のなかを地下鉄に乗って神保町へと向かう。東西線を竹橋で降りて博報堂の横を過ぎ、通りをテコテコと歩いていくと書泉ブックマートの前に出る。10時半の開店にはまだ少し時間があったため、シャッター前にズック靴を履きリュックサックを肩から下げた「ジンボ系」の青少年が列を作っていた。列に混じるととたんに溶け込んでしまうので近寄らないことにして、すぐ側の三省堂書店に入って連休中に出た新刊本をチェックする。

 話では9月に入ってもまだゲラのチェックをしていたとゆー講談社ブルーバックスの「マンガ パソコン通信入門」(760円)が店頭に並んでいて、編集者も印刷所も突貫工事だったに違いないと深い同情を覚える。筆者は原作が説明無用の荻窪圭さん、漫画が解説不要の永野のりこさんとゆーパワフルなコンビ。彼女に吊られてパソコン通信を始めた少年が、彼女とアレしてアレやってアレになるとゆー、どうにもアレな内容だが、これからウィンドウズ95の入ったマシンでパソコン通信を始めようって人には、とってもとっても勉強になる本。マックユーザーにもオマケ的なコマで気を使ってる。

 それにしてもこうした学習漫画やマニュアル漫画って、一体いつ頃からあるんだろーか。僕が小学生の頃はもうあって、人体の仕組みだとか月旅行の旅程だとか日本の歴史だとかはみんな漫画から教わった。大学生頃は「マンガ日本経済入門」なんてのがベストセラーになったし、今では少年マンガだって一種の学習漫画、マニュアル漫画で一杯になっている。先週のマガジンから連載が始まった釣りの漫画だって、一種の学習漫画、マニュアル漫画だし、ホイチョイの「気まぐれコンセプト」は現代人のマニュアル好きを逆手に取った"裏"マニュアル漫画といえなくもない。

 ちなみに僕にとって思い出深い学習漫画は、学研の科学に連載されていた「インセクトマン」。仮面のヒーロー「インセクトマン」が昆虫界を脅かす悪巧みを阻止しようと頑張るストーリーの中に、昆虫に関するいろいろな情報を折り込んだ漫画で、結構マジになって読んでいたような気がする。ある号には「インセクトマン」の主題歌を収録したソノシートが付いていて、すぐにすり切れてしまうのも構わずに、何度も繰り返しプレーヤーで聞いていた。たしかこんな歌詞だった。「かーめんにんげんインセクトマン、あなかがいなけりゃはじまりませぬ、わたしのむーねはどどきん、どどきん、しーてまっすうる」。また聞きたいなー。

 三省堂書店を出て古本屋にブラリ入ると、いきなり宮本昌孝さんの「もしかして時代劇」が目についた。速攻でゲット。刊行時に読んで感動したあの書き出しに再び接することができ、なんという僥倖かと涙する。ちなみにその書き出しは「うう、もれちゃいそう・・・・・」。かつてこれほどまでに乙女の切なる願いをストレートに表現した書き出しがあったであろーか。うんにゃ、なかった。中年オヤジに受けるストレートな時代劇もいーけれど、あとがきのすがやみつるさん(当時はまだ平仮名だった)が書いている「真田十勇士がタイムスリップで現代に現れて、プロ野球をするとう話」のよーな、時代劇テイストを持ったSF作品を書いて欲しーなー。

 そんなこんなで本の買い出しを終えて、地下鉄で戻る途中に葛西駅で降りて、河内屋酒販に立ち寄ってバーボンを仕込む。いやー安い安い、どっかのデパートより平均で1,000円くらい安い。「I.W.ハーパー」なんて2,000円切ってる。せっかく安いので、これまで口にしたことのなかった「エヴァン・ウィリアムズ」の8年物を1,980円で買って帰る。掘り出し物の棚には12年物だったかの「エヴァン・ウィリアムズ」が3,300円で並んでいたけど、給料日直前の最貧期なので今度に回す。待ってろよ。


【9月22日】 朝から強い雨と風。台風が近づいていると聞けば、昔は2階の窓から空模様なんぞをながめて黒くもがごうごうと音を立てて流れていく様に見入っていたものだが、周りを建物に囲まれたアパートの1階からは外など見えるはずもなく、飾りガラスの窓の外を伝わって滴り墜ちる雨の滴と、時折ゴオッと音を立てて家や庭の木々を揺らす風を壁越しに感じながら、台風が行き過ぎるのを待っている。

 といっても1日家にいては飢えて死んでしまうので、風がまだ弱い午前中を見計らって、近所のデパートへと買い出しにでかける。財布にろくすっぽ金がないので、新聞を買って駅で天麩羅うどんをかき込み、デパートの地下食品売場でスパゲティにかけるボロネーズのソースと、ソースに混ぜて使う牛豚の合い挽きミンチを200グラム買って帰る。1日の食事はそれだけ。全部で1000円もかかっていない。家にいる方がモノを喰わずに済む。どうしてだろう。本当は安売り酒屋に残り少なくなった「フォア・ローゼス」の替わりのバーボンを買いに生きたかったけど、歩いて10分ほどの場所に出かけるまでには風雨は弱まっていない。途中できっと吹き飛ばされるか、買ったばかりの新聞がびちょびちょになって読めなくなってしまうので、あきらめて明日買いに行くことにして家に戻る。雨はまだ小振りだったけど、雲はどんどんと厚くなり風もだんだんと強まって来ている。台風が近づいて来ている。

 こういう日は一日家にいて、本でも読むに限る。ってことで前に買った北野安騎夫さんの「電脳ルシファー」(廣済堂出版、850円)を読み進む。主人公の朝倉ケイが酒場で「フォア・ローゼス」を飲んでいる場面に行き当たってニンマリ。こうした登場人物の趣味って、作者の趣味とかを反映している部分が多いって知ってはいるけれど、美人の主人公と同じ酒を飲んでいるのってのは、なんとなく気持ちがいい。ああ、2次元にハマってる。吸っている煙草は「ハイライト」だろうか。「ジタン」が「ゴロワーズ」だろうか。書いてないんで解らない。

 ありきたりのガジェット、陳腐なストーリー。けれども面白い。一本気な主人公のすっきり筋の通った行動と、謎の多い僧形の男とか大企業に務めるバリバリのキャリアウーマンだとかいった脇役群のキャラの立ち方が読んでいて気持ちがいい。リイド社から出たという前作「ウイルス・ハンター」も読んでみたいのだが、どこの本屋を覗いても「リイド文庫」なんて置いてない。もしかして絶版か。明日晴れたら古本屋を探してみることにしよう。

 テレビでは秋晴れの中を「オリックス対日本ハム」の試合。マジックが1つ減るか2つ減って優勝かの瀬戸際になって放送が終了。仕方がないので次のニュースの時間に食い込んで、球場からの中継を続けていた。感動するのもいいがアナウンサー、優勝争いの勢いが台風を東に追いやったなんて叫ばないでくれい。その東の方じゃあ、外をごうごうと雨が降り風が吹いて、中には家を流され吹き飛ばされた人もいるってのに。絶叫することでしか現場の雰囲気の盛り上がり具合を伝えられないアナウンサーが多すぎる。先のアトランタオリンピックでも問題になった。

 観ているすべての人の心を思いやれないアナウンサーも。自分が盛り上がってさえすれば、場の感動が伝わると思っている。ニュースの台風中継もそうだ。マイクの拾う風の音に負けまいと、ことさらに大きな声と身ぶりで恐怖を伝えようとしている。冷静になれよ。森本レオの台風現場中継って観てみたいような気がする。「トップハムハット卿は云々」なんて具合のボソボソ淡々とした台風中継。後ろで車が転がり山が崩れ舟が転覆して沈没する。それはそれで怖いような気がする。なんだか愚痴オヤジっぽい。台風のせいだ。電車が動き始めている。寝よう。


【9月21日】 寝ても起きても1人なのは今日も昨日も変わりなく、家にいたって仕方がないので地下鉄に乗って日本橋方面へと向かう。目的もなく丸善から八重洲ブックセンターを散策。連休前で新刊本に新刊雑誌が山と積まれているのを横目でみながら、薄くなった財布とどう折り合いをつけようかと思案をめぐらせる。

 去年「ソフィーの世界」で大穴を当てたNHK出版が2匹目の泥鰌を狙って出したらしー「タナトノート」とゆー本があったが、今のところは買う気が起こらない。まずは「ソフィーの世界」上回る分厚さに圧倒され、中身をめくって断片的に世界各国の神話の言葉を抜き出していく手法に魅力と裏腹の嫌悪感を覚える。読めばきっと面白いことは間違いないのだが、去年、まだブームとなる前に買った初版の「ソフィーの世界」ですら、面白いと解っていても未だ読了に持ち込めないとゆー生来の流行物(ベストセラー)嫌いがムクムクと頭をもたげて来るのである。

 荒木経惟さんの全集の新刊も出ていたし、土門拳さんの大著「古寺巡礼全5巻」から選りすぐった写真を再構成した豪華本「土門拳古寺巡禮」も店頭に並び始めてたけど、荒木さんの方はちょっとお預け、土門さんの方は元となった5巻本の方を、ほるぷ出版の人のセールストークに乗せられて買って持っているのでいらない。とゆー訳で、丸善の4階の写真集売場で見つけた、ジョエル−ピーター・ウィトキンの簡易版写真集を買うだけにして、丸善を後にする。

 ジョエル−ピーター・ウィトキンは前に1万円くらいの豪華本が店頭に並んでいたのを見たけれど、高くてちょっと手が出なかった。今日手に入れたのは「PHOTO POCHE」とゆーシリーズに入ったハンディサイズの簡易版で、値段がたったの1710円。新書サイズにしては高いけど、前に1万円のを見ていると、安く感じてしまうから不思議なものだね。雑誌「リテレール」が写真集特集をした時に、小谷真理さんが好きな3冊の1冊としてジョエル−ピーター・ウィトキンの写真集を入れていて、「サイバーパンク世代にふさわしいテクノゴシックな美学」と評した。その言葉どおり、頽廃的で耽美的でグロテスクな世界が展開されていて、ながめていると戦慄と同時にわき上がるような快感を覚える。

 八重洲ブックセンターではとくに買い物はなし。京橋へ向かって東京国立近代美術館フィルムセンター展示室で今日まで開催されていた「亀倉雄策のポスター」を覗く。81歳のじーさんが今なおグラフィックデザインの分野で活躍してるってのは驚きだけど、その活躍の仕方が決して人間国宝による伝統芸能的なものではないところに凄みを覚える。館内にいる人の数はまばらで、なぜか若い美大生っぽい女性が多い。人のデザインを見て勉強することに女性が貪欲なのか、アート系の学校に進む人に女性が多いのか。ギンザ・グラフィック・デザイナーで開かれるグラフィックデザイナーの集りなんかを覗くと、今はまだ大半が男だけど、やがて女性が半分を占め、いずれは男の数を凌駕していくのだろー。


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