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1960年生、上智大学文学部英米文学科卒。洋酒メーカー勤務を経て翻訳家。2007年「ねにもつタイプ」にて第23回講談社エッセイ賞を受賞。 |
1.ねにもつタイプ |
●「ねにもつタイプ」●(挿画:クラフト・エヴィング商會)
★☆ 講談社エッセイ賞 |
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2010年01月 2007/02/27 |
翻訳家のエッセイというから知的な感じのものを予想したのですが、読むそばから???の連続。 これエッセイ、いやいや妄想?? という具合。
ちょっとしたひっかかりから次々と妄想は膨らみ、どこまでが事実なのか想像なのかその境界はまるで判らないまま、本書エッセイは繰り広げられていきます。
各篇の中にクラフト&エヴィング商會の絵が挿入されているところに、怪しい妄想ではなく健全な妄想(?)といいたくなる味わいがあります。 |
●「変愛小説集」●(岸本佐知子編訳)
★★ |
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2014年10月
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この本の題名、「"恋"愛小説集」と思い込んだ人が多いのではないでしょうか。かく言う私がそう。 どこかで書評を読み気づくまで、"恋"ではなく"変"であることに全く気づいていませんでした。 初めてそうと知ったときには、変な本だなぁ、という印象がその延長で出来上がってしまいました。 でもその通り、これは“変”な小説集なのです。 その中には純粋一途な愛情物語もちゃんとあります。でも、 その一方、ストーリィそのものがヘン!という作品もあります。 ドストエフスキーの初期ユーモア作品「鰐」は、呑み込まれた人間だけの滑稽さでしたけれど、この作品は呑み込まれた男性と呑み込んだ女性の双方に滑稽味があって、故に滑稽さは2倍。 まさにヘンテコなストーリィばかりを集めた短篇集。 アリ・スミス・・・・・・「五月」 |
●「変愛小説集2」●(岸本佐知子編訳)
★★ |
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「愛にまつわる物語でありながら、普通の恋愛小説の基準からはみ出した、グロテスクだったり極端だったり変てこだったりする小説」アンソロジー、第2集。
ただ変わっているというに留まらず、偏愛だったり、偏執、さらには奇妙な習性というにまで及びます。 ・まず冒頭の「彼氏島」、桐野夏生「東京島」を思い出します。それに比べれば穏当というべきか。 読了後、「その変さゆえにかえって純愛小説に近づいている」という岸本さんのあとがきに、納得するところあり。 ステイシー・リクター・・「彼氏島」 |
4. | |
「変愛小説集−日本作家編−」(岸本佐知子編) ★★ |
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2018年05月
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“変愛小説”アンソロジー、第3弾。 変愛小説は海外専売かと思い始めていたところでの日本作家編。考えてみれば当然のこと、海外に対抗すべく“日本編”も欲しいですよね。 第1巻、第2巻と変愛のレベルは増すばかりと感じていたところでの「日本作家編」、最初の川上弘美「形見」の冒頭こそ純粋で微笑ましい恋愛と思えたのですが、そこはやはり川上弘美さん、川上さんらしいとんでもない展開へ。 続く多和田葉子「韋駄天どこまでも」は、もはや変愛を突き抜けて独自の世界、漢字遊びの世界に迷い込んだ当惑と面白さに思わず興奮。 その後の篇は皆、変愛以前に、ストーリィ自体の設定が奇矯、ヘンテコという他なし。そんなストーリィ設定を背景にしているのですから、恋愛はそのまま“変愛”にならない訳がない、という印象です。 ストーリィの妙という点では多和田葉子「韋駄天どこまでも」が格別、深堀骨「逆毛のトメ」はジョン・コリアを彷彿させるブラック・ユーモアあり。 なお、カラスが重要な存在として登場する作品が2篇あるとは思いませんでした。どちらもユニークさ、衝撃という点では格別(吉田知子「ほくろ毛」、星野智幸「クエルボ」)。 最後を締める津島祐子「ニューヨーク、ニューヨーク」は、今は亡き少々風変りな女性をかつての夫と息子が偲ぶストーリィで、慈しみに満ちた篇。 ※なお、多和田葉子「韋駄天どこまでも」は「献灯使」に、村田沙耶香「トリプル」は「殺人出産」に収録済。 川上弘美・・・「形見」 多和田葉子・・「韋駄天どこまでも」 本谷有希子・・「藁の夫」 村田沙耶香・・「トリプル」 吉田知子・・・「ほくろ毛」 深堀 骨・・・「逆毛のトメ」 木下古栗・・・「天使たちの野合」 安藤桃子・・・「カウンターイルミネーション」 吉田篤弘・・・「梯子の上から世界は何度だって生まれ変わる」 小池昌代・・・「男鹿」 星野智幸・・・「クエルボ」 津島佑子・・・「ニューヨーク、ニューヨーク」 |
「コドモノセカイ」(岸本佐知子編訳) ★★ | |
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岸本さんによる子供を主人公にした作品集。 どんな作品が集められているかというと、子供らしい妄想に満ちたストーリィばかり、と言って過言ではありません。 子供らしい妄想・・・健やかで明るい、なんてものは一切ありません。むしろ奇妙、陰鬱なものの方が多いくらい。 そう言えば私自身、幼い頃、怖くて喚きたくなるような夢ばかり見たり、ヘンテコな想像を巡らせたりしていたものです。 すっかり記憶の彼方に去っていましたが、それらが飛び去った筈の彼方から一挙襲来した、という気分です。 収録12篇の内、惹きつけられたのはごく短い篇の方が多い。ストーリィが長くなると判り難くなるのに対し、ショートストーリィの方がインパクト大だからでしょうか。 アリ・スミス「子供」は衝撃的、エトガル・ケレット「ブタを割る」は限りなく愛おしくなるような篇。ステイシー・レヴィーン「弟」は奇想極まりなく、短いからこそ鮮烈。 そして最後のエレン・クレイジャズ「七人の司書の館」は、古い図書館に置き捨てられた赤ん坊が、7人の司書に囲まれ、図書館の中で育っていくファンタジー要素たっぷりの短編なのですが、本好き、図書館好きの方ならきっと気に入るだろう一篇です。 リッキー・デューコーネイ・「まじない」 カレン・ジョイ・ファウラー「王様ネズミ」 アリ・スミス・・・・・・・「子供」 エトガル・ケレット・・・・「ブタを割る」 ピーター・マインキー・・・「ポノたち」 スティシー・レヴィーン・・「弟」 レイ・ヴクサヴィッチ・・・「最終果実」 ベン・ルーリー・・・・・・「トンネル」 ジョイス・キャロル・オーツ「追跡」 エトガル・ケレット・・・・「靴」 ジョー・メノ・・・・・・・「薬の用法」 エレン・クレイジャズ・・・「七人の司書の館」 |