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21.東京會舘とわたし(上)−旧館 23.クローバーナイト 24.かがみの孤城 25.青空と逃げる 27.傲慢と善良 28.ツナグ 想い人の心得 29.琥珀の夏 30.闇祓 |
【作家歴】、冷たい校舎の時は止まる、ロードムービー、太陽の坐る場所、ふちなしのかがみ、ゼロハチゼロナナ、光待つ場所へ、ツナグ、本日は大安なり、オーダーメイド殺人クラブ、水底フェスタ |
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レジェンドアニメ!、嘘つきジェンガ、Another side of 辻村深月、この夏の星を見る |
「東京會舘とわたし(上)−旧館−」 ★★☆ | |
2019年09月
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皇居を前にしたお堀端に面して建築され、大正11年に創業した東京會舘を舞台に、それぞれの時代を連作風に描いた長編ストーリィ。 東京會舘は、上流階級専用ではなく広く庶民に開放した宴会および食事の場所としてオープンしたものの、僅か10ヶ月で関東大震災により被災。再建なった後も大政翼賛会の本部として徴用され、戦後はGHQによって接収されるという歴史の変動を直接受けた記録を持つ建物。 本書はその東京會舘の歴史を語るとともに、東京會舘を支えた従業員や職人たちの歴史を描くストーリィでもあります。つまり、場所の歴史は、そこに足跡を残した人々の歴史でもあるということを本書は読み手に伝えてくれています。 物言わぬ<場所>を主役とする歴史変遷ドラマと、そこで生きた<人々>の人間ドラマが重なり合う複層的なストーリィ。本書の魅力はそれに尽きます。 本書では、東京會舘の信用と歴史を作ってきた様々な従業員、協力者たちが登場します。 「黒服」の佐山健、理容館の店主である三代目遠藤波津子(「最後のお客様」)、バーで働く今井清と枡野宏尚(「グッドモーニング、フィズ」)、菓子職人の勝目清鷹と事業部長の田中康二(「しあわせな味の記憶」)。 それら人々を描く“現在”ドラマからは、仕事に対する姿勢、考え方について学ぶところ大です。 語りの美味さと歴史の面白さを存分に堪能させてくれる佳作。お薦めです。 ※なお、GHQの接収解除後、「東京會館」から「東京會舘」へと「舘」の字が変更されたとのこと。 プロローグ/1.クライスラーの演奏会−大正12年(1923年)5月4日/2.最後のお客様−昭和15年(1940年)11月30日/3.灯火管制の下で−昭和19年(1944年)5月20日/4.グッドモーニング、フィズ−昭和24年(1949年)4月17日/5.しあわせな味の記憶−昭和39年(1964年)12月20日 |
「東京會舘とわたし(下)−新館−」 ★★☆ | |
2019年09月
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昭和46年に東京會舘の新館が竣工。 下巻は、それ以降の東京會舘を舞台に、東京會舘と深い関わりをもった人々の人間ドラマを描いた連作風ストーリィ。 東京會舘の従業員が篇を跨って登場してくるのも、親しい人にまた再会するような嬉しさがあります。 冒頭は昭和51年。私が大学を卒業して会社に就職したのが昭和52年ですから、本書に描かれる時代は私の会社員人生とほぼダブっていて、その点でも感銘深いものがあります。 私にとっては名前を知っているだけで、足を踏み入れる場所ではなかったなぁ(今思えば、勝手にそう思い込んでいただけのことですが)。 第7章は、東京會舘の恒例だったという越路吹雪のクリスマスディナーショー、当時彼女のマネージャーを務めていた岩谷時子も登場し、新米ボーイとの邂逅を描く感慨深く描いた篇。 第8章は、東日本大震災が発生した当日の、東京會舘での出来事を描いた篇。ここでは“東京會舘クッキングスクール”のことがさりげなく自然に描かれます。 そして第9章は、辻村さんが直木賞を受賞した年。上巻の冒頭に登場した小説家=小椋護が4回目の候補でついに直木賞を受賞するという顛末が描かれます。この篇については、候補となった作家や実際に受賞した作家たちの本音がリアルに盛り込まれているという印象を強く持ちます。小説好きの人ならきっと、他の章とは異なる親近感を抱くことだろうと思います。 最後の第10章は大団円的。そして思いは、2018年の新新館竣工後へと繋がっていきます。 これだけ温かく、気持の良い歴史&人間ドラマを存分に楽しめることなどそうあるものではありません。辻村さんに感謝です。 6.金環のお祝い−昭和51年(1976年)1月18日/7.星と虎の夕べ−昭和52年(1977年)12月24日/8.あの夜の一夜に寄せて−平成23年(2011年)3月11日/9.煉瓦の壁を背に−平成24年(2012年)7月27日/10.また会う春まで−平成27年(2015年)1月31日 |
「クローバーナイト Clover knight」 ★★ |
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2019年11月
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保活、お受験、子供の誕生会と、現代の母親たちが抱えた絶句する子育ての状況をリアルに描いた連作ストーリィ。 いやァー、それにしても凄まじいなァ。絶句する他ありません。 しかし、都内で五本指に入る有名幼稚園とか、それだけの高収入があって、都内の高級住宅地にでも住んでいないとまるで縁のない話だなーと思います。 それと共に、これだけ苦しい思いばかりして、家族の幸せとか、子育ての喜びなどは何処にあるのだろう、と思わぬでもありません。でも一方で、全て子供のためという一途な思いがあることを否定することもできません。子育てとは悩ましいものですよね。 鶴峰裕と志保というかつて大学サークル仲間であり、現在は2人の幼児をもつ共稼ぎ夫婦、それぞれの視点から描いていることにより、ストーリィが立体的に浮かび上がってくる処が、本書の秀逸な処。 また、各篇にちょっぴりミステリ要素が入りこんでいるところが絶妙のスパイスになっていて、辻村さんらしい処。 さすがに辻村深月さん、上手い! ・「イケダン、見つけた?」:保育園のママ友に不倫疑惑? 誤解が生じたその背景にあるものは・・・。 ・「ホカツの国」:就活、婚活という言葉は認識していましたが、今や保育園入園のためという「保活」という言葉が生まれるような状況があるとは! ・「お受験の城」:中学校や小学校ではありません。有名幼稚園に入るための「お受験」であるとは。前篇以上に絶句。 ・「お誕生会の島」:有名幼稚園に入ればそれで安心かと思ったらとんでもない。お誕生日会がこんなにも母親を苦しめているとは・・・・。 ・「秘密のない夫婦」:前4篇での騒動は他人事でしたが、ついに本篇では鶴峯夫婦に危機が勃発。さて・・・。 ※なお、「クローバーナイト」とは、4人家族をクローバーに喩え、その家族を守らんとする鶴峯裕を騎士に見立てた題名。 イケダン、見つけた?/ホカツの国/お受験の城/お誕生会の島/秘密のない夫婦 |
「かがみの孤城 The Solitary Castle」 ★★☆ 本屋大賞 |
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2021年03月
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自分の居場所を失ったり、生き辛さを感じるようになった少年少女たちへ、エールを贈る物語、と言って良いでしょう。 中学入学早々イジメに遭い、登校どころか家からも出られなくなってしまった安西こころ。 ふと部屋の鏡が光を放ちだし、手を伸ばしたこころは、驚いたことに鏡の向こう側の世界に。そこにいたのは狼面の少女。 鏡の世界の城に集められたのは7人の中学生だち。 狼少女が説明するには、鏡の城が開くのは毎日朝9時から夕方5時まで。 3月30日までに隠された鍵をみつければ、願いごとが叶うと。 毎日ではないけれど、入れ替わりこの城にやって来る彼らが、学校にきちんと通っていないことは明らか。 お互いに助け合う訳でも、励まし合う訳でもありませんが、同年代の中学生たちと会話ができる、という場にはなってくる。 その一方、現実世界では、こころに寄り添おうとするフリースクールの喜多嶋先生と母親がいる一方で、担任教師は自分の目に映ったものが正しいと思い定め、こころの気持ちをきちんと聞こうともしない。 7人は、何故この鏡の中の城に集められたのか。 この城で、1年後にこころ達を何が待っているのか。 そして、そもそもこの城は何のために存在しているのか。 途中、謎の一つはこんな真相ではないかと気づき、実際にそのとおりでしたが、もうひとつ、こんな真相が隠されていたとは! 全く驚かされました。デビュー作「冷たい校舎の時は止まる」を思い出させられる、真に辻村深月さんらしいストーリィ。 こころたちのような少年少女にきちんと寄り添うことの大切さを感じさせられて胸熱くなると同時に、ファンタジーなミステリを読む楽しさをたっぷり味わわせてくれる一冊。 550頁と大部な一冊ですが、読み始めるとアッという間です。お薦め! 第一部 様子見の一学期:五月/六月/七月/八月 第二部 気づきの二学期:九月/十月/十一月/十二月 第三部 おわかれの三学期:一月/二月/三月/開城/エピローグ |
「青空と逃げる」 ★★☆ | |
2021年07月
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38歳の母親と10歳=小五の息子の逃避行、そして胸熱くなる母子共々の成長物語。 父親が起こした交通事故によって、力(ちから)の日常生活は壊されます。 病院から夫であり父親である本条拳は姿をくらまし、その結果として母子の元に姿を見せるようになった、父親の居場所を突き止めようとする黒服姿の男たち。 彼らに恐れを抱いた母親の早苗は、息子の力を連れて自分たちの家から脱出します。 向かった先は、早苗の友人である聖子が呼んでくれた、四国の四万十市。 ちょうど夏休み。聖子の嫁ぎ先が営むドライブインの土産物屋兼食堂で早苗は働き、力は川漁師である遼兄ちゃんに懐き、それなりに充実した夏休みのような日々。 しかし、どうやって嗅ぎつけたのか黒服姿の男が現れ、母子は逃避行の途につきます。夏休みは終わるものの、もう少しこのまま逃げ続けよう、と。 四万十市から瀬戸内海の家島へ、さらに別府。そして仙台へ。 いつも2人の前には、2人を温かく見守り支えてくれる人たちが姿を現します。しかし、守られてばかりではいけない、自分もまた強くなり、そして子どもだからといって守られるばかりではなく母親を支えなければならない、と。 逃避行の中で早苗、力が強く、そして成長していく姿がまぶしく感じられます。 彼らにそう決意させたのは、苦しみを抱えているのは自分たち母子だけでは決してない、ということ。 そうした広がりのある展開、そして力と思わぬ登場人物との邂逅という深みのある展開、この辺り、本当に辻村深月さんは巧いですねー。 ネタバレになってしまいますが、最後は再び家族が結びつきを取り戻すというストーリィ。それぞれに困難を経験して、どれだけ家族の絆が強くなっているのだろうかと思います。 「青空と逃げる」という題名が、最後になって快い響きとなって胸に届きます。 お薦め! 1.川漁の夏休み/2.坂道と路地の島/3.湯の上に浮かぶ街/4.あしたの写真館/最終章.はじまりの春 |
「噛みあわない会話と、ある過去について」 ★★ | |
2021年10月
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中編作品4篇を収録した一冊。 何の気なしに読み始めても、冒頭の篇、その中盤に差し掛かった処で、やはり巧いよなぁ〜!と唸らされます。 4篇とも、ずっと以前に関わりを持った人物との再会、といったストーリィ。 相手は、学生時代の仲間だったり、あるいは教えたことのある生徒、見下げていた同級生だったりと様々。 展開としては当然、こうなるのだろうなぁとつい予想してしまうところ、全く意表を突く展開へ。 そうした展開への持って行き方が、実に巧い! 交わされる会話の妙に加え、隠し味のようにちょっと添えられたミステリ風味が絶妙のスパイスになっています。 ・「ナベちゃんのヨメ」:大学のサークル仲間で女子たちとも仲の良かったナベちゃんが結婚予定。そのナベちゃんが皆に紹介した婚約者は、いったい・・・・。これまでの友人関係が壊れるのも構わず、何故ナベちゃんは彼女を大事するのか? ・「パッとしない子」:かつて小学生の頃に美穂が教えたこともある高輪佑は、今やトップアイドル。TV番組で母校を訪れた佑は、美穂を眼に留めると20分だけと願い、2人だけで会議室に。いったい佑は、美穂にどんな言葉を掛けてくれるのか・・・。 ・「ママ・はは」:引っ越しの手伝いを頼まれ、友人の住吉亜美の部屋に出向いた主人公は、彼女から成人式に絡む不思議な出来事を聞かされます。それはホラーなのか、ファンタジーと言うべきなのか。それとも・・・・。 ・「早穂とゆかり」:県内情報誌のライターである湯本早穂は心ならずも、かつて小学校の同級生で見下げていた相手、今は個人塾経営者としてカリスマ的人気を誇る日比野ゆかりにインタビューすることになります。 早穂を迎え入れたゆかりは、その場で早々と・・・・。 中編作品の魅力とは、こうした語りの面白さにあるのではないかと、改めて感じた次第です。 お薦め。 ※なお本作には、友人同士、親子関係、学校でのイジメと、強者側が無意識に行っていること、その相手がどう傷ついているのか気づかないといった問題への深い洞察、掘り下げが織り込まれています。 読了後、何度も繰り返して考えて見ずにはいられません。 ナベちゃんのヨメ/パッとしない子/ママ・はは/早穂とゆかり |
「傲慢と善良」 ★★☆ | |
2022年09月
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上手い! なんて上手いんだろう。これはもう傑作!という他ありません。 婚活小説にして結婚小説、そして恋愛小説と言えるでしょう。 本書の主人公は、西澤架(かける):39歳と、坂庭真実:35歳。 2人ともそれぞれの理由で中々結婚に至らず、アプリを使っての婚活で出会い、2年近く付き合って婚約に至った間柄。 その真実が、突然姿を消します。 そういえば真実、実家のある前橋で知り合った男からストーカーを受けていると語っていた。 架は真実の行方を知るため、ストーカーの正体を突き止めようと動き始めますが、その過程で気付いていったことは・・・・。 「傲慢と偏見」という題名がオースティンの名作「高慢と偏見」を元にしているのは明瞭なこと。 思えばオースティンの時代は、恋愛=結婚であり、その分単純だったと言えるでしょう。 それに対して現代社会は、恋愛と結婚が切り離されてしまった、その分結婚するために駆け引きが必要になり、面倒臭くなったのではないでしょうか。 架が真実の行方を捜すため最初に会いに行った人物は、地元で真実に相手を2人紹介したことのある、結婚相談所を営む小野里という年配女性。 この小野里というベテラン女性による婚活をめぐるコメントが秀逸。婚活にいそしむ男女たちの本音を遠慮なく抉り出した、という観があります。 そもそも結婚できない人たちは皆傲慢であるし、その一方で「いい子」と言われる人たちの善良さも厄介、という。本書の題名はそこから。 小野里の、甘えを剥ぎ取るような意見は、私にも耳に痛い。 小野里の言う“傲慢さ”を象徴するのが架であり、“善良さ”を象徴するのが真実であることは明らかです。 一体、真実に何があったのか。それ以前に真実が抱えていたものは何だったのか。そして架に非はなかったのか。 現代社会における<婚活>の重さを鋭く追及すると同時に、架と真実に心情に寄り添うストーリィ。 そして同時に、ミステリ要素を含んでこれ以上ないくらいの読み応えを味わわせてくれると共に、いろいろ考えさせてくれるストーリィとなっています。 なお、第一部は架を主人公にし、そして第二部では真実の側から描くという構成。 また、「青空と逃げる」とストーリィが交錯するところがファンとしては嬉しい。 読めば満足間違いなし! 是非お薦めです。 |
「ツナグ 想い人の心得」 ★★ | |
2022年07月
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前作「ツナグ」から9年、主人公=渋谷歩美の7年後の物語を描いた続編。 まったく予期していなかった続編、またこの物語に出会えたのは幸せなことだと思うばかりです。 本作での歩美は大学(美術とデザインを学ぶ)卒業後、木材を使ったおもちゃを扱うメーカー<つみきの森>に入社して2年目、企画担当。その仕事の傍ら、亡き祖母から受け継いだ「使者」を務めているという状況。 生者と死者の再会を取り持つ使者の役割、でもそれは同時に歩美の人間としての成長にも繋がっていることのように感じます。 その意味でこの続編は、歩美の成長物語という側面を持っています。 しかし、冒頭「プロポーズの心得」で驚かされたのは、使者として依頼人の前に現れたのが歩美ではなく、「杏奈」と名乗る8歳の少女であったこと。えっ???と、思わず呆然。 なお、その仔細は、読んでもらえれば判ります。 主人公の歩美が大人しい印象ですから、それと対照的な杏奈の登場が、本作にワクワクする面白さを加えています。 大伯父と祖母のコンビが代替わりというところでしょう。 それと歩美が仕事上で関係する、軽井沢にある家族経営の工房<鶏野工房>と歩美の関わりも楽しい。インテリアデザイナーであった歩美の亡き父親と親しかったという鶏野工房、「大将」とその娘=奈緒との交流には家族的な温かみが感じられます。 さてこの「ツナグ」、辻村さんには自分のライフワークにしようかという思いがあるようで、次作が何年後になるか分かりませんが、その時歩美がどんな状況になるのか、今から楽しみです。 プロポーズの心得/歴史研究の心得/母の心得/一人娘の心得/想い人の心得 |
「琥珀の夏」 ★★☆ | |
2023年09月
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前半は、少女たちの物語。 舞台は<ミライの学校>という団体の、静岡にある<学び舎>と呼ばれる施設。 そこでは<ミライの学校>の考え方を信奉する親から預けられた子供たちが、親から離れて共同生活を送っていた。 ミカはそこで暮らすことになった少女。そしてノリコは、同級生母娘から勧められて夏の<学び舎留学>で一週間、そこに滞在した少女。共に小四。 2人はそこで出会い、友情を結ぶのですが・・・。 それから約30年、既婚で3歳の幼い娘を持ちながら女性弁護士として働く近藤法子は、驚くべきニュースを目にします。それはかつて参加した学び舎の跡地で、女児の白骨遺体が発見されたというニュース。まさか、あのミカでは。 そんな法子に、娘と孫娘が<ミライの学校>に入っていたという老夫婦から、白骨遺体が孫娘でないことを確認したいという依頼が舞い込みます。 心ならずも法子は、<ミライの学校>、<学び舎>に関わる事件に巻き込まれることになります。そこで法子が向かい合うことになったのは・・・。 <学び舎>という特殊な状況下で暮らす少女の姿と、一時的にそこを訪れただけの少女、本ストーリィは常にその双方の視点から描かれます。前半はそこが抜群に面白い。 そして後半は、30年後に女児白骨遺体事件を巡るミステリ。上記の背景があるからこそ、いったい誰が? どうして?と、事件の真相を探っていくストーリィ展開に引きこまれずにはいられません。 全てが明らかになったその時、ちょっとした感動が・・・。 大局的に見ると本作は、親子に関わるストーリィとも言えます。 子どもを親の手から放して育てることは是か非か。 本作に描かれるような子どもたちだけの共同生活は、極端な姿ではあります。 しかし、幼い子供を保育園に預けてまで母親が働き続けるのは是か非か、と言ったらもっと身近な問題になります。 でも現代は男女均等社会。そうであれば女性に選択を迫るのではなく、子育て支援体制の確立こそ国が果たすべきことでしょう。 親の愛情は大切ですが、共同生活にもまた良い点はあると思いますから。 プロローグ/1.ミカ/2.ノリコ/3.法子/4.<ミカ>の思い出/5.夏の呼び声/6.砕ける琥珀/7.破片の行方/8.ミライを生きる子どもたち/最終章.美夏/エピローグ |
「闇 祓 Yamihara」 ★★ | |
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「闇を祓う」、何となくその意味は分かりますが、その前提として“闇ハラスメント”なるものがあったとは。 「闇ハラ」=「闇ハラスメント」の略。辻村さんが作った言葉だそうで、精神・心が闇の状態にあることから生ずる、自分の事情や思いなどを一方的に押し付け、不快にさせる言動・行為のこととの由。 高校2年である原野澪のクラスに転校してきた白石要、最初から澪に固執する風。白石要に恐怖を感じた澪は、陸上部の憧れの先輩である神原一太に助けを求めるのですがその結果は・・・。 こんなことになるなんて、と思う展開だからこそ恐ろしい。 「闇ハラ」、彼の正体はいったい・・・? そこから始まる連作ストーリィ。 「隣人」はある団地での出来事、「同僚」はある会社、「班長」はある小学校でのこと。 そこがどんな世界であっても、自分都合で他人を振り回し、勝手な価値観を押し付けてくる人がいる、ということはありうることだと思います。 本作はそれを「闇ハラ」、特異な人間集団という設定にパワーアップして現代ホラーに仕立てあげたもの、と感じます。 私としては「転校生」最も不気味で、「隣人」は“あるある”という印象。 そして、「同僚」「班長」を経て、最終章の「家族」に集約して全てを明らかにする、というストーリィ構成です。 その過程で読み手を「あっ」と言わせ、かつホッとさせるところは、辻村さんらしい心憎さ。 辻村さんの<楽しめる>ホラー&ミステリを是非味わってください。 1.転校生/2.隣人/3.同僚/4.班長/最終章.家族/エピローグ |
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