小野不由美作品のページ


1960年大分県中津市生、大谷大学文学部仏教学科卒。在学中、京都大学推理小説研究会に所属。1988年講談社X文庫ディーンズハートで作家デビュー。同ホワイトハートに執筆した「月の影 影の海」にて始まる壮大なファンタジー“十二国記”シリーズがベストセラーとなる。2013年「残穢」にて第26回山本周五郎賞を受賞。


1.東亰異聞

2.屍鬼

3.くらのかみ

4.残穢

5.営繕かるかや怪異譚

6.営繕かるかや怪異譚 その弐

  


 

1.

●「東亰異聞」● 


東京異聞画像

1994年4月
新潮社刊

1999年5月
新潮文庫化

1998/11/08

明治末期の帝都・東京。そこは、夜となれば未だ魑魅魍魎が跋扈する闇の世界だった。 やがてその闇に現れたものは、闇御前、火炎魔人等。それらが徘徊するたび、犠牲者は増えていく。

物の怪の仕業なのか、はたまた誰か人間の仕業なのか。事件の謎を追うのは、新聞記者の平河新太郎と便利屋の万造の二人。
「乱歩を凌ぐか!? 異界の官能美漂う伝奇ミステリの怪作」というのが本書の宣伝文句です。

正直言って、ああ私はこんなストーリィが好きではなかったんだなあ、とつくづく感じた作品でした。早くこの世界から逃れたく、急いで読み飛ばしてしまったというのが、本音のところ。
結局、本作品はミステリだったのですが、終わってみるとやはり伝奇部分もあったりして...。

図書館で借り出したとき、本書は開架書庫になく、図書館の人が奥から取り出してきてくれました。 その理由が納得できた気分。

 

2.

●「屍 鬼」● ★★☆


屍鬼1画像

屍鬼2画像

1998年9月
新潮社刊
上下2巻
(2200円+税)
(2500円+税)

 2002年2-3月
新潮文庫化
全5冊



1999/04/25



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上下巻合わせて1200頁余。読み出すだけでもかなり勇気を要する作品です。持ち歩くにも重すぎますし。
ストーリィの舞台は、三方を山で囲まれた外場村。周囲から隔てられたような感じのこの人口1300人余の村を襲った屍鬼の恐怖。
上巻では、この村の住民ひとりひとりを読者に紹介でもするように、丁寧に語られ続けます。閉鎖的な村かと思いきや、意外と住民の気質が明るいのが印象的。でも、その一方で謎の死を遂げる住民が増え続けるという悲劇が少しずつ始まっていくのです。
主役となる人物は、医師・尾崎敏夫と寺の若御院・室井静信の二人。
明るさとその悲劇の乖離に、呆けたような感じで読み続けました。
上巻はそんな村を襲った悲劇の、未だプロローグに過ぎません。

下巻にはいると、物語は一気にホラー・ストーリィに転じます。
屍鬼の正体が、敏夫、あるいは結城夏野田中かおり・昭という3人の少年たちの推測から徐々に明らかになっていきます。正直言って、この辺りではあまりにありきたりの正体に、力が抜けました。
でも、かえってストーリィから目が離せなくなったのはこの直後から。
屍鬼とは何なのか。屍鬼の生活にも入り込んでいくところが、単なるホラー・ストーリィと一緒にできないところでしょう。その結果として「表の村」対「裏の村」といった構図が露わになってきます。そして最後は全面戦争というような必然的結果に至ります。この辺りの迫力はなかなかのもので、もう目が離せません。

この物語の主軸はどこに在ったのか。
ひとつには、外部を隔てた存在(村)はいつまでも存続することはできず、いつしか瓦解の時を迎えざるを得ない。表の村、裏の村、そのいずれにも当てはまるものだと思います。
そして、神に許されない存在の行く末、という問題。このことには、静信の執筆する小説そのものが深く絡んでいるようです。しかし、この精神的な部分はちょっと七面倒くさいような理屈っぽさがあって、私はあまり興味を惹かれませんでした。
むしろ、私が興味をもって読んだのは、ホラー・ストーリィの結末、そして社会対社会というような対立の構図です。

長大な作品だけに、読者の興味の置き所によってこの作品の感想は変わるように思います。だからといって、この作品が小野さんの力作であることに変わりはありません。
勇気(?)をもって読み出せば、相応の充実感が得られる作品だと思います。

    

3.

●「くらのかみ」● ★★☆


くらのかみ画像

2003年7月
講談社刊

(2000円+税)



2003/10/12



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“かつて子どもだったあなたと少年少女のための−ミステリーランド”シリーズ(講談社)の第1回配本作品。

上記の謳い文句は、本当に伊達ではありません。子供の頃楽しんだ「十五少年漂流記」等の数々の物語。それらを思い出させてくれる、物語の面白さがあります。
本があまり好きではない子供も、本書を読めばきっと物語の面白さに目覚めてくれる、まさにそんな作品です。

耕介梨花ら子供たちが集まったのは、各々の親たちに連れてこられた、山奥にある“本家”でのこと。
蔵座敷で遊ぼうとした子供たちが数えてみると、4人の筈が何故か5人いる。座敷童子(ざしきわらし)が現れたのか? ストーリィはそのまま子供向け妖怪ホラー話に進むかと思いきや、一転して現代的ミステリへ。

大人たちが集まった理由は、本家の相続問題にあるらしい。そして、ドクゼリ中毒事件を皮切りに、次々と不可思議な事件が起こります。さしづめ、6人の子供たちは、すっかり少年少女探偵団になったという風。
真相は、子供たちの見事な推理により解き明かされますが、最後に再び座敷童子が登場。やっぱりいたのか、ということと、そもそも座敷童子とはどんな存在か?ということまで、小野さんのストーリィ展開は、なかなかしたたか、かつ鮮やかです。
まさに、大人も子供も楽しめる、冒険風ミステリ。

        

4.

●「残 穢(ざんえ)」● ★★       山本周五郎賞


残穢画像

2012年07月
新潮社刊

(1600円+税)

2015年08月
新潮文庫化



2012/09/06



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小野さん9年ぶりの長篇ホラー作品とのこと。
ホラーと言えば忘れられないのは
屍鬼
てっきり似たようなホラーと思い込んだのでしたが、予想と実物は大違い。
本作品もホラーでしょうけれど、一般的なホラーとはまるで異なる、新趣向のミステリアスなホラーという印象です。

主人公の「」は小野さんらしき作家。
その主人公のもとに30代の女性ライター=
久保さんから、引っ越した先の賃貸マンションで体験した奇妙な出来事を語る手紙が届きます。
時々畳の表面をこするような音が聞こえる、誰もいない筈なのに誰かいるような気配がする、という内容。
主人公と久保さんの間で手紙のやり取りが繰り返されるうちに、同じマンションの他の住人においても赤ん坊の泣き声が聞こえるとか、似た体験をしているという事実が明らかになります。
以前に何かあったに違いない。久保さんは主人公と手紙のやり取りを続けながら、近所のママさん仲間を通じてこのマンションの過去、さらにはこの周辺についての聞き込みを広げていきます。その結果明らかになったことは、この周辺では住人の入れ替わりが早いということ。
久保さんの聞き取りから徐々に明らかになったことは・・・。

怖いかというと、「屍鬼」あるいは一般的なホラーのような怖さはないのです。それより不気味というか、こういう恐さがあるのか、という思い。そういう意味では、新鮮な怖さ(?)。
あまり気にしなかった
「残穢」という題名、その秘めた底深さが実感できるようになるのは、終盤に至ってからです。
ミステリアスな面白さもありますから、ホラー苦手な方にもお薦めできる一冊です。

端緒/今世紀/前世紀/高度成長期/戦後期1/戦後期2/戦前/明治大正期/残渣

  

5.

「営繕かるかや怪異譚 ★★


営繕かるかや怪異譚画像

2014年12月
角川書店刊

(1500円+税)

2018年06月
角川文庫化



2015/01/04



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主人公たちが移り住んだ古い家、そこに現れる怪異な出来事を連作風に描く6篇。

そう怖い話ではない筈と思っていても、その瞬間、思わずゾクゾクッとしてしまうところはさすが小野不由美さんならでは。
各篇、徐々に明らかになるその怪異な出来事の仔細、その結果主人公が味わうおぞましい恐怖の様子がまず語られます。
そして工務店の棟梁等の紹介によって
「営繕 かるかや」と名乗る若い男性=尾端が現れ、主人公が抱え込んだ難事の解決を手助けしてくれる、という展開。
その辺りの構成が何とも小気味よい。

「かるかや」は、怪異現象に通じている専門家でもないし、主人公たちのために幽霊や怪異なものを退治してくれる訳でもありません。また、名探偵のように颯爽と登場する訳でもなく、むしろ最後にそっと登場する、といった風です。
その「かるかや」が提示する解決策は、それまでの状況を踏まえつつ、怪異な出来事と折り合う、といったもの。
そこに怪異なものたちへの優しさ(怪異なものたちにもそれなりの事情があるのだから)が感じられることが、何とも嬉しい。

恐ろしさ+優しさ+小気味良さ、何とも魅力的な怪異短篇集が生まれたものです。
本作品は、怪談専門誌「幽」に連載中とのこと。シリーズ化がとても楽しみです。

「奥庭より」:部屋を塞ぐように廊下に置かれている箪笥。その奥にある部屋の襖は何度閉めても開いてしまう・・・。
「屋根裏に」:老いた母親が、屋根裏に誰かいる、足音が聞こえると言い出し・・・・。
「雨の鈴」:雨の日に現れる黒い和服姿の女。彼女が訪れた家では必ず・・・。
「異形の人」:いつの間にか家に忍び込んでいる貧相な老人。でもその姿は主人公にしか見えず・・・。
・「潮満ちの井戸」:祠を壊し修復した井戸から、びたん、びたんという音が・・・。
「檻の外」:ガレージの車の中に男の子の白い顔が・・・。

奥庭より/屋根裏に/雨の鈴/異形のひと/潮満ちの井戸/檻の外

              

6.
「営繕かるかや怪異譚 その弐 ★★


営繕かるかや怪異譚 その弐

2019年07月
角川書店

(1600円+税)



2019/08/25



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主人公たちが移り住んだ古い家、そこに現れる怪異な出来事を連作風に描く“営繕屋かるかや怪異譚”シリーズ第2弾。
今回も6篇を収録。

怪異譚・・・確かに薄気味悪かったり、怖く感じたりすることがない訳ではありません。でも、決して悪いことばかりではない。
それら怪異な出来事には哀切感や優しさが籠っています。
各篇の主人公たちに、それを穏やかに教え示してくれるのが、そうした出来事に多く関わっているという若者=<営繕かるかや>の
尾端(おばな)
本作にもさりげなく登場してきて、懐かしさと親しみを感じさせてくれます。それは素直に嬉しいこと。

尾端は解決者ではありません。怪異な出来事の理由を探り、それを伝えてくれる仲介者といった風です。
それ故、本作に怖さを覚えず、楽しく読めるのでしょう。
次巻も今から楽しみです。

「芙蓉忌」:古い実家に戻ってきた貴樹、部屋の隙間から見えたのは着物姿の女・・・。
「関守」佐代は<通りゃんせ>の唄が怖い。子供の頃、鬼に肩を掴まれた記憶があり・・・。
「まつとし聞かば」:飼い猫の小春の死を俊弘は息子のに隠してしまった。すると夜中、航の寝床に何か異臭のするものが潜り込むようになり・・・。
「魂やどりて」:古い長屋を好きにリフォームしながら暮らしている。夜、誰かを責める声が聞こえるようになり・・・。
「水の声」遥奈の恋人である弘也、子供の頃溺れた友達を見殺しにした所為で自分は呪われていると語り・・・。
「まさくに」祖母の住む家には、屋根裏に秘密の部屋があった。部屋を見つけたは喜びますが、ある日、片眼・片脚、お腹も血だらけの人影が姿を現し・・・。

芙蓉忌/関守/まつとし聞かば/魂やどりて/水の声/まさくに

    


 

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