荻原 浩作品のページ No.1


1956年埼玉県生、成城大学卒。広告制作会社勤務を経て作家。97年「オロロ畑でつかまえて」にて第10回小説すばる新人賞、2005年「明日の記憶」にて第18回山本周五郎賞、14年「二千七百の夏と冬」にて第5回山田風太郎賞、16年「海の見える理髪店」にて 第155回直木賞を受賞。


1.
オロロ畑でつかまえて

2.なかよし小鳩組

3.

4.誘拐ラプソディー

5.母恋旅烏

6.コールドゲーム

7.神様からひと言

8.メリーゴーランド

9.僕たちの戦争

10.明日の記憶


さよならバースディ、あの日にドライブ、ママの狙撃銃、押入れのちよ、四度目の氷河期、サニーサイドエッグ、さよならそしてこんにちは、愛しの座敷わらし、ちょいな人々、オイアウエ漂流記

 → 荻原浩作品のページNo.2


ひまわり事件、砂の王国、月の上の観覧車、誰にも書ける一冊の本、幸せになる百通りの方法、花のさくら通り、家族写真、二千七百の夏と冬、冷蔵庫を抱きしめて、金魚姫、ギブ・ミー・ア・チャンス

 → 荻原浩作品のページNo.3


ギブ・ミー・ア・チャンス、海の見える理髪店、ストロベリーライフ、海馬の尻尾、極小農園日記、逢魔が時に会いましょう、それでも空は青い、楽園の真下

 → 荻原浩作品のページNo.4

 


    

1.

●「オロロ畑でつまかえて」● ★★    小説すばる新人賞


オロロ畑でつかまえて画像

1998年01月
集英社刊

(1400円+税)

2001年10月
集英社文庫化

2002/12/20

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荻原さんのデビュー作。題名はサリンジャー「ライ麦畑でつかまえてのもじりでしょうけれど、真に楽しい本。まさに快作!

舞台は、東京から辿り着くまで丸一日はかかる、という東北地方のド田舎、牛穴村
その牛穴村の、人数少なく若くもない青年会が、村おこしを計画したのが発端。その企画を東京の広告代理店に依頼しようとしたのは良いけれど、依頼した相手は今にも潰れそうな零細代理店・ユニバーサル広告社。そんな牛穴村の連中と、広告代理店の3人によって展開されるストーリィ。

典型的なド田舎の揶揄+広告業界のパロディ、という可笑しさでストーリィは展開していくのですが、理屈なしに楽しい。
牛穴村・住民たちの造形の魅力と、牛穴村の居心地の良さが溢れているからです。つい、田舎の生活も捨てたものじゃないなァ、と思ってしまう位。実際、後半そんな牛穴村の魅力に取り付かれる、TVニュース番組の人気女性キャスターも登場。

結局、取り残されたような牛穴村が、一転活力溢れる農村に変貌してしまうのですから、楽しく、快い。
気分転換にはお薦めの一冊です。

  

2.

●「なかよし小鳩組」● ★☆


なかよし小鳩組画像

1998年10月
集英社刊

2003年03月
集英社文庫

(667円+税)


2003/04/29


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オロロ畑でつかまえてに続く、倒産寸前の広告会社・ユニバーサル広告社もの。

倒産寸前に追い込まれた石井社長が取ってきた仕事とは、なんと暴力団=小鳩組のCI(企業イメージ戦略)計画というもの。
中心社員の杉山はじめ、皆ヤクザと知って怖気づき、受注から撤退しようとするものの、相手が相手だけにそうはいきません。がんじがらめにされて、シンボルマーク選定、小鳩組PRの為のイベント、TV画面を通じての小鳩組PRと、難問を突きつけられます。
ヤクザ絡みのストーリィとのため小林信彦
唐獅子株式会社のようなユーモア小説を予想したのですが、それは予想違い。
多少滑稽な部分はあるにしろ、相手はれっきとした暴力団であって、それに翻弄されるのは杉山たちユニバーサル広告社の面々なのです。

小鳩組に揉まれながらも土壇場で杉山たちが踏ん張りをみせるのと並行して、杉山と一人娘・早苗とのストーリィがあります。
杉山と離婚した元妻は、小学生になる一人娘早苗を連れて再婚。しかし乳癌の手術を受けることとなり、早苗が家出した時と併せて再び一時的に同居して面倒をみることになります。
この早苗の人物造詣が秀逸。女の子のくせしてJリーガーになることを夢み、TVドラマを真似して時折ドキッとしたセリフを吐く、という女の子。

今回の試練、そして早苗の健気な姿に影響され、はじめて杉山は自立した大人としての自覚を持つに至ります。
本書は、そんなユーモア+再生のストーリィ。

         

3.

●「 噂 」● ★☆


噂画像

2001年02月
講談社刊

(1700円+税)

2006年03月
新潮文庫化


2003/04/13

広告会社が企画した新化粧品・ミリエルの販売戦略は、口コミによる宣伝。
「ミリエルをつけていると3ヵ月以内に恋がかなう」。そしてもうひとつ、「女の子をさらって足首を切り落とすレインマンがやってくる。しかし、ミリエルをつけている女の子は狙われない」というフィクション。

しかし、その虚報がそのまま現実化したように、足首を切り落とされた女の子の連続殺人事件が起きる、というミステリ。
主役となるのは、寡のベテラン部長刑事・小暮と、本庁から捜査に加わった子供っぽさの割りに幼い子を抱えた女性警部補・名島の2人。

本作品の楽しさは、ミステリより、小暮と名島のコンビ、結果的に生まれたチームワークの良さにあります。お互いの捜査経験を補って余りあるような2人の活躍が魅力的。
また、被害者が若い女の子であることを反映するかのように、渋谷にたむろする若い娘たち、携帯メールの氾濫という現代性を取り入れたストーリィ展開も魅力的です。
そして驚愕させられるのは最後の3頁。この幕切れからして、荻原浩さん、一筋縄ではいかない作家のようです。

      

4.

●「誘拐ラプソディー」● ★☆


誘拐ラプソディー画像

2001年10月
双葉社刊

(2000円+税)

2004年10月
双葉文庫化



2003/01/19

街金融に追い詰められ自殺しようとするが、なかなか実行できない軟弱男、伊達秀吉が主人公。たまたま其処へ裕福らしい子供が現れたことから、ムショ仲間の経験談を思い出しつつ、衝動的に誘拐を決行してしまう。
ところが、その子供・伝助は、何と暴力団組長の息子。それと知らず身代金の受け渡しに暴力団を引っ張りまわす秀吉と、誘拐犯の巧妙な手口に憶測をめぐらしつつ翻弄される組員たち。
そのチグハグさが、ドタバタ的な面白さを味わわせてくれます。

ヤクザを戯画化している点は小林信彦唐獅子株式会社、ドタバタがエスカレートしていく辺りは戸梶圭太溺れる魚を思い出しますが、本作品には常にホンワカした雰囲気が漂っているのがそれらと異なるところ。荻原さんらしい特徴と言えるでしょう。それ故、誘拐事件といっても、ユーモア小説のように楽しく笑ってしまう部分が幾つもあります。
後半はさらに香港マフィア、警察まで巻き込む騒動となっていきますが、秀吉・伝吉の逃走コンビを中心に、家族ストーリィへと変化していくところが巧妙。

暴力団組長の父親、その母親、組の若頭、さらに事件に関わる警部補という、周囲の登場人物の造形も魅力的ですが、何と言っても楽しいのは主役の2人。お人好しでどこか抜けている秀吉と、人を疑うことを知らない伝助のコンビ。
本書は、秀吉・伝助のコンビが周囲の人間たちを振り回す、珍道中譚、として受け取るべきでしょう。
楽しさと、ほのぼのした気分が読後に残る佳作。

       

5.

●「母恋旅烏」● ★☆


母恋旅烏画像

2002年04月
小学館文庫刊

2004年12月
双葉文庫

(705円+税)



2006/09/02



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大衆演劇の役者一家を描いた長篇小説。
自分の一座旗揚げに失敗した花菱清太郎は、家族6人総出による“レンタル家族”派遣業で糊口を凌いでいる。雇われるより自分で直接客をとった方がマシと独立したものの、またしても失敗。借金を抱えて夜逃げし、キャンピングカーで家族全員暮らしながら細々とレンタル稼業を続ける始末となります。

嫌気がさした長男・太一は出奔、乳飲み子の珠実を抱えた19歳の長女・桃代は芸能プロにスカウトされ、ついに家族はチリヂリ、今や夫婦と知恵遅れの次男・寛二のみ。
呆れるくらいにいい加減で、ますます家族を窮地に陥れながらも少しも懲りない清太郎。読み手ながらいい加減愛想が尽きた、と言いたくなる程です。
それが一転して面白くなるのは、後半になって清太郎が再び旅回り役者の一座に復帰してから。

大衆演劇一座の芝居の面白さを存分に描く終盤の展開が、本作品の魅力です。それまでの3分の2くらいはこの圧巻部分を描くためのプロローグに過ぎなかったのか。
元の芝居の世界に戻るや否や、清太郎がまるで水を得た魚の如く輝き出します。あぁ、大衆演劇の世界って演じる方も見る方もこんな手応え・一体感があるのかと、楽しさ半分・感激半分。
そもそも本作品、大衆演劇の面白さを描いた作品なのかと、納得した次第です。

実際の家族風景と、芝居の中で演じる家族、舞台を演じるため力を合わせる家族の姿、それぞれの家族の姿が時には対照的に、時には重なり合って描かれる展開が秀逸。とても嫌々やっているレンタル家族の姿とは比べ物になりません。
家族各々が自分で自分の道を切り開き、自分らしく振舞う。だからこそ一所懸命にもなれるし、充実感もあるというのが本作品の大団円。家族の一人が最後にドロップアウトしますが、それだってその一環に過ぎない筈です。

※なお、以前にもう一作、大衆演劇を題材にした作品を読んだことがあります。井上ひさし戯曲「雪やこんこん」。これも面白くて好い作品です。興味をもたれましたら是非。

      

6.

●「コールドゲーム」● ★☆


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2002年09月
講談社刊

2005年11月
新潮文庫

(667円+税)



2005/11/12

慄然とするストーリィ。
高3の夏休み、主人公・光也に中学時代のワルダチ・亮太から呼出しがかかります。北中2年当時の同級生たちが次々と事件の被害に見舞われているという。
北中2時代の彼らには、トロ吉(廣吉)という同級生を皆が寄ってたかって酷いイジメを加えていたという過去があった。亮太はイジメを加えた筆頭、光也は直接手を下さないまでも見てみない振りをしていたという点で同罪。
度重なる事件の犯人はトロ吉に違いないと亮太は断定。光也に協力を求め、数人で「北中防衛隊」を立上げてトロ吉に対抗しようとする。それにもかかわらず、事件はさらに続き次第にエスカレートしていく。

本書には、現実感があり過ぎるくらいにあるからこそ慄然とせざる得ない。それだけにぐいぐいと引込まれてしまいます。
イジメが悪いのは当たり前。でも、そんなことを今更言っても仕方がない。そして、それだけで済まないものがあるから考えてしまうのです。

イジメとまではいかないまでも、私の中学時代にいつもからかいの的になっている同級生がやはりいました。何故かといえば、彼がからかわれ易いオーラを発していたとしか言いようがないのです。仲間内では皆でからかっていたけれど、仲間という意識はあったし、仲間外から彼が何かされたらきっと皆でかばっていたでしょう。いわばペットを可愛がっているようなところがあった。
でも、彼が本当はどう思っていたのか判りませんし、当時はそんなこと考えようともしなかった。それだけに、自分自身の過去とも重ね合せて読んでしまうのです。また、イジメに合っていたトロ吉という少年の惨めな気気持ちも、今なら察することができるのです。だからこそ、本書から目をそむけることができない。

中2時代トロ吉は被害者で、多くの同級生たちが加害者だった。そして今は、トロ吉が加害者で、かつての同級生達が被害者となっている。善い側か悪い側かを別にして、トロ吉は常に孤独であり、他の同級生たちは仲間としてまとまっている。その違いがとても切ない。
トロ吉の出現により、中2の同級生たちが仲間としての繋がりを復活させていく、トロ吉にとっては皮肉にも青春小説という味わいの快さが本書にはあるのです。

最後は予想外であると同時に、半ば予想された結末。
多面的な味わいをもった青春サスペンスとして、忘れ難い一冊。

    

7.

●「神様からひと言」● ★★


神様からひと言画像

2002年10月
光文社刊

(1900円+税)

2005年03月
光文社文庫化



2002/11/10



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久し振りのサラリーマン小説。
主人公・佐倉涼平は、喧嘩っ早い、27歳。有名広告代理店を辞めて珠川食品に中途入社したが、早速会議で喧嘩を始めてしまい、総務部お客様相談室へ異動させられます。

しかしこの相談室、生半可な部署ではない。辞めさせようという人間ばかりを押し込んだ、別名“ゴキブリハウス”。そこで涼平が経験するのは、「お客様の声は、神様のひと言」という社訓を疑いたくなるような、この成り上がり企業の信じ難い実態。
それなのに何故辞めないのかと言われれば、それはひとえに給料を稼がざるを得ないから。会社に人質に捕られているようなものという実感は、正鵠を射ています。

仕事は、顧客からの苦情、無理難題を一手に引き受けること。その辺りはコミカルに描かれ、ユーモア小説と言っても間違いではありません。とくに先輩・篠崎の達者な対応振りは、すこぶる面白く、楽しい。(※ヤクザとの交渉部分はことに圧巻)
また、良し悪しに拘らず、登場人物が各々人間臭いところも、本作品の大いなる魅力。
その一方、会社の為にひたすら謝り続けなくてはならないこの部署は、サラリーマンの本質を象徴しているとも言えます。阿呆らしく、切なく、それでいて際限がない。

喧嘩っ早い涼平が、試練、紆余曲折を経て、会社という虚像から抜け出し、自身の恋愛も含めて一歩成長を遂げるストーリィ。束縛から解放へ、そんな爽快感ある作品です。

※それにしても、昔のサラリーマン小説には夢がありました。しかし、今や会社にそんな夢はなく、夢を実現するならまず自立、というのが本書にも共通する認識。現代のサラリーマン社会の低調をいみじくも語っているようです。

    

8.

●「メリーゴーランド」● ★★


メリーゴーランド画像

2004年06月
新潮社刊

(1700円+税)

2006年12月
新潮文庫化



2004/07/19



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究極のサラリーマン小説、宮仕え小説!と言うべき一冊。

サラリーマン小説といえば、かつては源氏鶏太、喜怒哀楽。それでもどこかに明るい希望がありましたけれど、現代のサラリーマンに残されているのは哀感ばかりかもしれない。
それでも、宮仕え故、命じられれば奮闘せざるを得ません。そんなサラリーマンを可笑しく、切なく描いてピカ一なのは、現在では荻原浩さんを置いて他にいないでしょう。

主人公・遠野啓一は、都会でのサラリーマン生活に心身をすり減らして故郷へ戻り、今はマイペースの市役所勤め。
そんな啓一が突如異動を命じられ先は、超赤字状態の市営テーマパーク・駒谷アテネ村「リニューアル推進室」
おかげで、一人難問を抱え込み、残業続きの毎日。2人の子供への家庭サービスもままならぬ。
それでも、知恵を振り絞って奮闘する様子はオロロ畑でつかまえての村おこしを連想させます。その努力の果てに手に入れた成果も、上層部が変わってしまえば元の木阿弥。あぁ、サラリーマンとは、かくも哀れで無力な存在であることか。

アテネ村の理事たちは、事勿れ主義、前例重視の市役所OBばかり。誇張かもしれませんが、一般のお役所仕事のイメージはその通りかもしれない。でも、お役所のみならず、大会社とて同じようなところはあるもの。
周囲に翻弄される主人公の孤軍奮闘に共感するのは、サラリーマンなら当然のことでしょう。そんな楽しさある作品です。

   

9.

●「僕たちの戦争」● ★★


僕たちの戦争画像

2004年08月
双葉社刊

(1900円+税)

2006年08月
双葉文庫化
2016年08月
(新装版)



2005/02/21



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2001年、サーフボードに乗っていたプータロー青年・尾島健太が大波に呑まれて気が付くと、そこは1944年 9月12日、太平洋戦争末期の日本だった。
一方の1944年、飛行訓練中の予科練生・石庭吾一が墜落の後に気が付くと、そこは2001年 9月12日の現代日本だった。
同じ19歳の姿かたちも瓜二つらしい2人の青年が、時代を超えて入れ替わってしまうというタイム・スリップもの。

前半は、何が起きたか理解できないまま2人の驚き続ける様子が楽しめます。
健太はドッキリ・カメラに違いないと思い込み、吾一は米軍の諜報戦略に巻き込まれたと思い込む。
吾一の眼から見た現代日本の風俗は、ケバケバしく騒音に満ちていて軽薄なうえに、物を粗末にして平然としている。
一方、石庭吾一として予科練に連れ戻された健太は、困惑しているどころではない状況に追い込まれます。

現代日本の軟弱な青年が、戦時中の時代に放り込まれたらどうなるのか、そこに本書の主テーマはあると思います。
国のため命を捧げるなんて馬鹿馬鹿しいと思うのか、それとも、その時代の青年たちと同様に命を賭けることができるのか。
本ストーリィで鍵を握っているのは、各々の時代の2人の女性。一人はつつましい女性である文子であり、もう一人は健太の恋人であったミナミです。

現代青年だって、大事に思う人のためなら勇を鼓して行動できる筈、というのが荻原さんの思いでしょう。でも、そんな七面倒なことは考えずとも、知らず知らずストーリィに惹きこまれてしまう面白さがあります。
何といっても、時代を超えて揺れ動く2人の青年の心情を描き上げたところが新鮮、かつ心憎い。

   

10.

●「明日の記憶」● ★★☆         山本周五郎賞


明日の記憶画像

2004年10月
光文社刊

(1500円+税)

2007年11月
光文社文庫化



2005/02/04



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50歳になったばかりの、広告会社に勤める部長職のサラリーマンが主人公。
最近物忘れがひどくなったと思っていたら、病院で診断された結果は“若年性アルツハイマー”

衝撃的な事実に主人公は愕然とし、その時から恐怖感、猜疑心、様々な感情が主人公を襲います。
本人にしてみれば、恐ろしく、寂しく、哀しい。そして読み手からみれば、限りなく切ない。
癌等の病気であれば、待ち構えているのは苦痛と死という恐ろしさでしょう。しかし、アルツハイマーの場合はまるで違う。恐ろしいのは、人間としての尊厳が壊れていくこと、これまでの人間関係(家族も含めて)が壊れていくことなのです。
第一人称で語られるこの小説を読むことにより、読み手は疑似体験をすることになります。そしてそれは、他人事でないのかもしれないのです。

本書は、タイムリーな問題をとりあげて切ないストーリィに仕立て上げた作品であるとともに、我々に心構えを迫ってくる作品のようにも感じられます。
主人公が自分の症状に恐れおののくことができたのは、まだ初期段階だったからこそ。症状が進んでしまうと、その感覚さえ次第に失われていく。
ダニエル・キイス「アルジャーノンに花束の後半で、主人公チャーリィは天才的な頭脳から元の知恵遅れの状況に戻っていきますが、その絶望感に似ているところがあります。でも、「アルジャーノン」には歯止めがありましたが、アルツハイマーにはそれがありません。

決して図抜けた感動的ストーリィというのではありません。しかし、現代社会において目を背けることのできない問題を取り上げたストーリィ。主人公と同年代の人には、是非読むべし、とお勧めしたい作品です。
※ちなみに、現在の私は主人公と1歳と変わらない年齢。

※映画化 → 「明日の記憶

 

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