荻原 浩作品のページ No.4



31.ギブ・ミー・ア・チャンス

32.海の見える理髪店

33.ストロベリーライフ

34.海馬の尻尾

35.極小農園日記

36.逢魔が時に会いましょう

37.それでも空は青い

38.楽園の真下

【作家歴】、オロロ畑でつかまえて、なかよし小鳩組、噂、誘拐ラプソディー、母恋旅烏、コールドゲーム、神様からひと言、メリーゴーランド、僕たちの戦争、明日の記憶

 → 荻原浩作品のページ No.1


さよならバースディ、あの日にドライブ、ママの狙撃銃、押入れのちよ、四度目の氷河期、サニーサイドエッグ、さよならそしてこんにちは、愛しの座敷わらし、ちょいな人々、オイアウエ漂流記

 → 荻原浩作品のページ No.2


ひまわり事件、砂の王国、月の上の観覧車、誰にも書ける一冊の本、幸せになる百通りの方法、花のさくら通り、家族写真、二千七百の夏と冬、冷蔵庫を抱きしめて、金魚姫

 → 荻原浩作品のページ No.3

 


           

31.

「ギブ・ミー・ア・チャンス Give Me A Chance! ★★


ギブ・ミー・ア・チャンス

2015年10月
文芸春秋刊

(1400円+税)

2018年10月
新潮文庫化



2015/11/21



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人生はままならぬもの。努力し続けたからといって望む成果が得られるとは限らない。
でも、だからと言って不幸という訳でもない。まして、絶望する必要なんてない。諦めずに頑張っていれば何か見えてくるものもある筈。

様々に奮闘するドラマには、それなりのペーソスと笑いがあります。そして本書に関して言えば、ペーソスより笑いが勝っているという感じ。
そこが荻原作品らしいところであり、人生そして仕事における悲喜劇と笑いを様々に描いてきた荻原浩さんの魅力です。
本書を読んでいると、元気がない時でも不思議と元気が出てくる気がします。そんな特効薬の様な短篇集。

「探偵には向かない職業」:元相撲取り、尾行調査はさすがに無理ですよね〜。主人公のことがとても愛おしくなる一篇。
「冬燕ひとり旅」:演歌歌手となりひとりドサ廻りをしていても、負けん気を失っていない主人公に拍手。
「夜明けはスクリーントーンの彼方」:マンガアシスタント、厳しい職業ですよねー。
「アテンションプリーズ・ミー」:元国際線CAからやむを得ずローカル鉄道の観光列車アテンドに転職した主人公。何もかもままならぬことばかり・・・。
「タケぴよインサイドストーリー」:不人気のゆるキャラ着ぐるみを被ることになった市役所観光課の職員。思わぬことに可能性が開けてきて・・・。もっとも愉快な篇。
「押入れの国の王女様」:タレント事務所に所属して女優を目指す元高校柔道部の姫美花でしたが、現実は厳しく・・・。
「リリーベル殺人事件」:夫殺し?と思いきや、ミステリ新人賞応募を目指す元大学ミステリ研究会の専業主婦。
「ギブ・ミー・ア・チャンス」:お笑いタレントを目指すものの、漫才の相方となる相手が中々見つからず・・・。

探偵には向かない職業/冬燕ひとり旅/夜明けはスクリーントーンの彼方/アテンションプリーズ・ミー/タケぴよインサイドストーリー/押入れの国の王女様/リリーベル殺人事件/ギブ・ミー・ア・チャンス

    

32.
「海の見える理髪店 ★★         直木賞


海の見える理髪店

2016年03月
集英社刊
(1400円+税)

2019年05月
集英社文庫



2016/04/14



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家族との別れ、それでも切れない家族の繋がり、失った家族への思い・・・・・・、本書はそんな家族の姿を描いた6篇。

上手いよなぁ。
どれも小ストーリィだというのに、主人公らが抱える想いが胸に沁み込んでくるようです。
切ないけれど、どこかカラッとした明るさもあって、救いと希望がある気がします。

どれと言って同じストーリィがないのは、ごく平凡なありふれた家族といっても家族それぞれの姿は一つずつ異なる、ということをそのまま反映しているかのようです。

「海の見える理髪店」:海近くの町に移った理髪店を訪ねて調髪してもらう主人公に、店主が自分の来し方を語ります。意外な結末にちょっとした驚きが合って、秀逸。
「いつか来た道」:母親と諍いして家を出たままだった主人公が、弟の言葉で16年ぶりに実家、母親を訪ねるストーリィ。
「遠くから来た手紙」:家族を顧みない夫に怒って、主人公は幼い娘を連れて実家に戻る話。どこにでも転がっているような話なのに、荻原さんのストーリィ運びが実に上手い!
「空は今日もスカイ」:親に従うしかない子供は我慢するしかないのか。こらえきれず家出した少女と少年の話。
「時のない時計」:意味深なお話。
「成人式」:私としては好むタイプではないのですが、切なくて、共感できて、単純なのに忘れ難い一篇。

どの篇も味わい良く、優しい気持ちが胸に入り込んでくるような気がする辺り、荻原作品の中でも佳作と言って良い短篇集だと思います。


海の見える理髪店/いつか来た道/遠くから来た手紙/空は今日もスカイ/時のない時計/成人式

           

33.
「ストロベリーライフ Strawberry life ★★


ストロベリーライフ

2016年09月
毎日新聞社刊
(1600円+税)

2019年11月
毎日文庫



2016/10/18



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農家を嫌い、東京に出てグラフィックデザイナーとして働いている望月恵介36歳が主人公。
ところが突然、静岡で農業を営んでいる父親が倒れたとの知らせが入り、急遽実家へ。
幸い父親は命を取り留めたものの当面は入院。そこで難題となったのが、苺作り。年老いた母親だけに苺作りさせておく訳にいかず、きちんとした考えもないままに恵介は苺作りを手伝い始めます。しかし、次から次へと問題がのしかかり、それらに一つ一つ対応している内、生活はすっかり実家での農家暮らしに。
そんな恵介を容認できないのが、都会育ちの妻=
美月。家計の支えにと復帰したパーツモデルの仕事が忙しくなり、それぞれの暮らし方、別居が定着していきます。
3人の姉たちも騒がしい中、望月家はどうなることやら。

最初こそ、仕方なく手伝い始めた恵介の心境を反映してストーリィも盛り上がりませんでしたけれど、折角の苺を美味しく消費者に食べてもらいたいと恵介があれこれプランニングする内に、すっかり恵介と一緒に苺作りにはまってしまう風。
ちょうど読んだばかりの
垣谷美雨「農ガール、農ライフがさしづめ自立型“農業ガール”ストーリィであるなら、本作はUターン型“農業ボーイ”ストーリィというところ。

恵介と美月、どちらが正しいとか、どちらを応援すべきとか、安易に言うことはできませんが、楽しいのは2人の息子=
銀河の様子がすっかり変わっていくこと。
食物アレルギーもあって大人しい、虫に触るのも怖かった男の子が、短い間の農家暮らしで生き生きとした表情を見せ始めます。親にとって一番嬉しいことでしょう。
恵介が素人からスタートしているだけに、読み手もリアルな農業体験が味わえる農業ストーリィ。中々に楽しいです。

        

34.

「海馬の尻尾 ★★


海馬の尻尾

2018年01月
光文社刊

(1600円+税)

2020年08月
光文社文庫



2018/02/08



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恐怖心、他人への共感、そうした人間の心はどこから生まれるのか、その仕組みを問い掛けた長編ストーリィ。

主人公は暴力団構成員の
及川頼也(らいや)、32歳
幼い頃から実母、義父となった男に虐待され続けて育ってきた所為か、酒も入るとその狂暴さに歯止めが利かなくなる人間。
さすがに持て余した若頭から医療機関での診察を受けるよう命じられた及川、そこで
“反社会性パーソナリティ障害”、だから恐怖心も良心もないのだと診断されます。
折しも敵対する暴力団との抗争でやり過ぎてしまった及川、身を隠す先として、治療プログラムを受けるための入院を選びます。
その医療センターで及川は、障害を持つ故にやたら人懐っこい少女(
梨帆)、暴力団である及川に怯えない中年男性(堂上)、2度目の原発事故を引き起こした航空機による自爆テロから生き残った男性(辻野)等に出会います。

彼らの障害はどういう仕組みから生じたものなのか、治療プログラムによりそれは改善するのか。また、「良心がない」と言われた及川に良心が芽生えることはあるのか?

これまでの荻原作品と一線を画した、医療科学的なストーリィと思いきや、最後にサスペンス的な展開が待っていたとは、思いも寄りませんでした。
人間の心の出所を解明しようとするストーリィに興味津々で読み進みましたが、読み終わってみれば
帚木蓬生「臓器農場を思い出すようなところがありました。
何かと荒々しい展開でしたが、及川と7歳の少女=梨帆との繋がりに、救われる気がします。


※「海馬」とは、大脳辺縁系の一部で、脳の記憶や空間学習能力に関わる脳の器官のこと。

       

35.

「極小農園日記 ★☆


極小農園日記

2018年03月
毎日新聞出版

(1500円+税)



2018/04/01



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荻原さんの初エッセイ集。
という訳で、収録されたエッセイの期間はかなり広い。

荻原さん、マスオさんなのだそうです。
その家の庭を使って、好きだった野菜作りに励んでいるとの由。それが本エッセイ集の題名という訳。
そこは素人、いろいろ失敗も奮闘もあるそうです。人気作家なのに野菜作りなんて何と余裕があることか、と思う処ですが、人気作家だって気分転換は必要なもの、ささやかな楽しみですよね。

荻原さん、私と同年代ということもあり、同年代仲間と酒の席で語り合うような話の楽しさ、居心地よさを感じます。

私に家庭菜園の趣味はないので、JR東日本の車内誌
「トランヴェール」に連載されたという「極狭旅ノート」の方が私には楽しかった次第です。
旅の仕方は私と必ずしも一致するものではありませんが、私自身の旅の思い出を回想しながら読むという風になり、楽しかったです。


1.極小農園日記 Part1<秋冬編>(毎日新聞連載:2008年10月〜09年03月)/
2.極狭旅ノート(トランヴェール(JR東日本車内誌)連載:2013年04月〜15年03月)/
3.極私的日常スケッチ/
4.極小農園日記 Part2<春夏編>(書下ろし)

            

36.

「逢魔が時に会いましょう ★☆


逢魔が時に会いましょう

2018年04月
集英社文庫

(540円+税)



2018/05/19



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座敷わらし、河童、天狗は実在するのか?
変わり者の民俗学准教授=
布目悟と就活しそこなった女子大生=高橋真矢(まや)コンビによる、珍妙な調査旅を描いた3篇。

「座敷わらし」「河童沼」の2篇は、作家デビューして間もない2000年に執筆した連作短編だったそうです。
ところが一応連作である故に短篇集に入れづらく、一冊にするタイミングを失っていたとのこと。数年前に刊行の話が出て、ようやく
「天狗の来た道」を新たに書き下ろして、計3篇として文庫刊行に至ったとのことです。

大学4年間映研活動に熱中、学生映画祭で準グランプリ獲得の実績があるものの、就活にはまるで利点なし。就活に出遅れ大学院への進学を決めるものの、親からは仕送りを絶たれ、生活費にも苦労。そのため、布目准教授の調査行の撮影バイトに飛びついたという次第。

座敷わらし、河童、天狗それぞれの伝承話の成り立ちについて布目教授の解説があるかと思えば、調査行の旅にトラブルに見舞われる真矢。でも、その真矢は特異体質の持ち主らしい。偶然にしろ何にしろ、座敷わらしや河童、天狗に出会ってしまうのですから。

愛しの座敷わらしを思い出させられる、和風ファンタジーな短篇集。
実在するとはとても思いませんが、そんな不思議な存在が我が国にはいたのかもしれないと思うだけで、何やら楽しくなってくる気がします。


座敷わらしの右手/河童沼の水底から/天狗の来た道/メーキング

         

37.

「それでも空は青い ....but the sky is beautifully blue ★☆


それでも空は青い

2018年11月
角川書店

(1500円+税)

2021年11月
角川文庫



2018/12/25



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様々な趣向に富んだストーリィを集めた短篇集。
バラエティに満ちたチョコレート、クッキーの詰め合わせを貰ったような楽しさがありますが、各篇の共通点はというと、いずれも我々読み手を元気づけてくれるストーリィになっている、というところにあります。

「スピードキング」:今は職と転々としている主人公、高校の野球部でチームメイト、プロで“スピードキング”と異名をとった藤嶋が死去したというニュースにショックを受ける。その藤嶋との思い出を回想・・・。
「妖精たちの時間」:商社に就職したが上司と折り合い悪く退職したが、今はハローワークで求職中。20周年という高校の同窓会に出席するが、当時の憧れだった女子が語ったのは・・・。
「あなたによく似た機械」:結婚して半年の夫、何故か態度が冷たい。もしかして今の夫はAIロボット?
「僕と彼女と牛男のレシピ」:実家を継いで調理師になる筈だったのに今はバイトのバーテンダー。7歳年上の恋人と一緒になりたいと願うが、障害は彼女が同居している牛男。
「君を守るために」:一人暮らしのOL。飼い始めた豆柴の様子を見ようとカメラを設置したところ、何故か男の足首が写っていて・・・。
「ダブルトラブルギャンブル」:母親でさえ見分けがつかない程そっくりの一卵性双生児。彼ら2人が双子を止めようと決意したきっかけは・・・。シェイクスピア「間違いの喜劇」を思い出させるところあり。
「人生はパイナップル」:野球で繋がった祖父と孫の、絆と愛情ストーリィ。

各篇の主人公たち、それなりに挫折や苦労を味わっていますが、もっと苦労した人がいる、という事実が彼らを元気づけてくれるのではないでしょうか。
そうであれば、まだまだ自分も頑張らなくては、と思える筈。

7篇中では、
「僕と彼女と牛男のレシピ」「君を守るために」「人生はパイナップル」の3篇が私好みです。

スピードキング/妖精たちの時間/あなたによく似た機械/僕と彼女と牛男のレシピ/君を守るために/ダブルトラブルギャンブル/人生はパイナップル

    

38.

「楽園の真下 ★★


楽園の真下

2019年09月
文芸春秋

(1750円+税)

2022年04月
文春文庫



2019/10/08



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交通手段は週1便の定期船のみ、乗船時間は19時間という南海の楽園とでも言うべき孤島=志手島
その志手島で、17センチの巨大カマキリが発見されます。その一方、過去2年間で12人もの自殺と思われる水死者が発見されているという、2つの事実に関心をもったフリーライターの
藤間達海は、単身で志手島に向かいます。

島で藤間は<志手島野生生物研究センター>を訪れ、唯一の研究員である
秋村准教授(女性)とともに巨大カマキリの実在を確認しようと“中の森”に足を踏み入れるのですが、そこから2人が掴んだ事実は・・・。

えっ、荻原さんってこんな作品書いたっけ? というのがまず思うこと。
これまでの荻原作品とはうって変わった、SFホラー的サスペンスです。むしろ上田早夕里さん辺りが書きそうなストーリィ。
でも、藤間と秋村准教授が真剣に危険を訴えても、ちっとも信じようとしない頭の固い人々の頑なさは、コミカルとさえ言えるほどで、その辺りは荻原さんらしい処かもしれません。

カマキリ、ハリガネムシ・・・それがどんな恐怖をもたらすのかは、本書を読んでもらわないととても理解してもらえないでしょう。
とんでもないスリル、というより恐怖!です。
終盤、藤間と秋村の2人が、襲われ、次第に追いつめられていく場面は、もう絶体絶命と言うべき恐怖しかありません。まさに臨場感たっぷり、サスペンス映画に引けを取りません。

しかし、もしかすると本作に描かれたような事態は、決して絵空事ではないのかもしれません。うー、本当に怖い!

       

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