村山由佳作品のページ


1964年東京都生、立教大学文学部日本文学科卒。不動産会社勤務、塾講師等を経て作家。90年「いのちのうた」にて環境童話コンクールの大賞を受賞、91年集英社少年ジャンプ主催第1回小説・ノンフィクション大賞にて「もう一度デジャ・ヴ」が佳作入選し、単行本化。93年「天使の卵」にて第6回小説すばる新人賞、2003年「星々の舟」にて 第129回直木賞、09年「ダブル・ファンタジー」にて第4回中央公論文芸賞・第22回柴田錬三郎賞・第16回島清恋愛文学賞、21年「風よ嵐よ」にて第55回吉川英治文学賞を受賞。


1.天使の卵

2.すべての雲は銀の...

3.星々の舟

4.ダブル・ファンタジー

5.天翔る

 

 


   

1.

●「天使の卵 エンジェルス・エッグ 」● ★★    小説すばる新人賞


天使の卵画像

1994年01月
集英社刊

1996年06月
集英社文庫化


2000/12/31

 

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電車の中で初めてその女性を見たときから、19歳の予備校生「僕」は恋に落ちます。相手は8歳年上の精神科医、入院している「僕」の父親の担当医でした。
これまで、青春期における年上の女性への憧れ・恋愛といったストーリィを、どれだけ多く読んできたことでしょう。精神的な片想いに終わったものもあれば、肉体関係に至ったものもあります。ツルゲーネフ「初恋」、ラディゲ「肉体の悪魔」、フルニエ「グラン・モーヌ」、三島由紀夫「春の雪」、ヘッセ片岡義男等々。しかし、私自身が年を経るに連れ、いつしかそれらは過去の読書録の中にしまいこまれていました。

本書を読み始め、暫くして感じたことは、ああ、随分久し振りだなあ、ということ。次に思ったことは、これまでの作品が殆ど男性作家によるものであったのに対し、本作品は女性作家によるもの、その為か新鮮な印象を覚えたということ。
女性作家故の甘ったるさもあります。しかし、それはすっきりとした控え目な甘さであって、かえって本作品を爽やかな後味のものにしているようです。
憧れから、身近な存在となり、純愛が膨らみ、そして最後は忘れら得ない面影として残る。そんな青春+純愛ストーリィですけれど、読んで照れ臭いということもなく、気持ちの良い爽快感が残りました。
読んで素直に楽しめたことを、嬉しく思う一冊です。

   

2.

●「すべての雲は銀の...」● ★☆


すべての雲は銀の・・・・画像

2001年11月
講談社刊

(1800円+税)

2004年04月
講談社文庫化
(上下)


2002/04/11

恋人の裏切りに大きく傷ついた主人公が、親友の勧めで信州菅平のリゾート宿にバイトにやってくる。そこで、幾人もの心優しい人たちに出会い、その人たちも各々に傷ついた過去を抱いていることを知り、徐々に心を癒されていくというストーリィ。
リゾート宿の様子や、フラワーアレンジメントのこと等、あまり知らないリゾート地の裏側の暮らしが、順々に紹介されていきますので、興味を惹かれるまま、ストーリィの中へ素直にはまり込んでいきます。

しかし、正直言って、きれいごと過ぎるなァという印象あり。
そうした思いは、主人公の女々しさにうんざりする裏返しでもあります。最早どうにもならない元恋人に対して、女々しさをいつまでも引きずっている。それに対比するかのように、彼の見本となるような人々の羅列、という厳しい見方をせざる得ません。
バイト先の宿に集うのは、各々個性ある人たち。それなのに、折角の登場人物がまるで彼のために描かれているような感じで、勿体無い、というのが正直な気持ちです。
恋人との不本意な別れに傷つくのは、ラブ・ストーリィとしては当然のことでしょう。しかし、その点、直前に読んだパイロットフィッシュの方が、いつまでも消えない、鮮やかな余韻を残しています。
とはいえ、一度読み始めたら止まらず、一気に読み上げてしまうだけの魅力を備えているのも事実です。

      

3.

●「星々の舟」● ★★          直木賞


星々の舟画像

2003年03月
集英社刊
(1600円+税)

2006年01月
文春文庫化


2
003/09/03


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これまでの作品とちょっと異なり、人の重たい部分に初めて入り込んだ作品ではないか、と感じます。
父親である水島重之、前妻の息子たち、後妻の娘たちという5人+α。6つの章で、一人一人をその主人公として描きながら、所詮切り離せない家族の絆を浮き彫りにするストーリィ。

重之と前妻の間のは年の離れた兄弟。暁が幼い時に前妻が逝ったため、後妻にはいった志津子の連れ子・紗恵と暁は、兄妹として分け隔てなく志津子に可愛がられて育つ。その時、既に長兄・貢は家を出て下宿していた。そして、末っ子として生まれたのが美希、という水島家の家族構成。
暁と紗恵は、やがて兄妹という関係を超えて愛し合うようになりますが、それこそ水島家に生じた波乱。しかし、この部分にとらわれて本書を読むべきではないでしょう。むしろ、恋愛感情が破綻した後も兄妹としての絆が切れることはない、家族という繋がりの深さを象徴するものとして受け止めるべきであろうと思います。
それぞれに苦しみながら、最後には家族という繋がりの存在を感じざるを得ない主人公たち。家族の繋がりが軽視されがちな現代の風潮の中で、改めて家族の繋がりを描いた本書の意味は大きいと感じます。

雪虫/子供の神様/ひとりしずか/青葉闇/雲の澪/名の木散る

      

4.

●「ダブル・ファンタジー」● ★★  中央公論文芸賞・柴田錬三郎賞・島清恋愛文学賞


ダブル・ファンタジー画像

2009年01月
文芸春秋刊
(1695円+税)

2011年09月
文春文庫化
(上下)


2009/11/15


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パスする予定でしたが、3賞を受賞した話題作でもあるし、ちょうど目の前に在ったので、読むことにしようかと思った次第。

35歳の脚本家、高遠奈津が主人公。
仕事を辞めて主夫兼「高遠ナツメ」の脚本家ビジネス・マネージャー気取りでいる夫=省吾に、いつしか束縛されているような気分を感じ始めた奈津は、自らの作品の枠を広げたいと、年配の演出家=志澤一狼太に抱かれる。
そして、志澤にけしかけられた奈津は自宅を出る道を選び、自由を勝ち取るとともに、自らの強い性欲に身を委ね複数の男性との情事を重ねていく、というストーリィ。

「ほかの男と、した? 俺のかたちじゃなくなってる」という帯の宣伝文句は相当に刺激的ですが、それ程官能的な作品とは感じません。官能というのなら、私にとっては中山可穂作品の方がはるかに官能的。
官能、性の遍歴というより、要は脚本家という仕事、あるいはセックスを間に挟み、支配しようとする男に強く対峙して女としての自由を守ろうとする高遠奈津の性愛ストーリィ、という気がします。
その点では、男性読者より、女性読者向きの作品と思います。

時間をかけて読むのが相応しい作品とは思わなかったので、休日の今日一日で一気読み。

          

5.

「天翔る(あまかける) ★★☆


天翔る画像

2013年03月
講談社刊
(1600円+税)

2015年08月
講談社文庫化

  

2013/04/08

  

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父親を失い、学校でのイジメによって不登校になってしまった少女=岩舘まりもが、馬との出会いを通じて成長していく姿を描いた、清新な成長ストーリィ。
馬と人との関わりを描いた名作は幾つかあると思いますが、私がすぐ思い浮かべるのは
宮本輝「優駿。同作では人間ドラマを描きつつ最後に行き着く舞台として競馬が設定されていましたが、本書ではまりもを中心としつつ、まりもと同じく人間関係に傷ついた2人の大人の姿を描き、最後の舞台として“エンデュランス”という競技会が設定されています。
馬に全く縁のない私が知らないのは当然ですが、要は長距離耐久競技なのだとか。本場の米国では 160kmもの長距離を昼夜問わず踏破するという馬にとっても人にとっても過酷なレース。そしてその競技において最も問われるのは、馬の健康状態。如何に馬と共に進むか、如何に馬を愛し大事にするかが問われるのだそうです。

不登校という自分の状況に苦しむまりも。まりもと知り合って姉妹のように親しい仲となった看護師の大沢貴子も、過去の記憶から男性関係に苦しんでいる。また、貴子がまりもに馬と触れ合う機会を作った乗馬牧場の経営者=志渡銀二郎も、無二の親友に裏切られ家族をも失ったという苦しい経験を抱えています。

彼らが互いに労わり合い励まし合い、そして援助者を得て皆でエンデュランス挑戦に至るまでのストーリィ。その中でまりもの存在がひときわ輝きを放っていることは言うまでもありません。
風が吹き通るように爽やかで、若木が育つように真っ直ぐで、それでいて躍動感にも満ちている、すこぶる気持ちの好いストーリィ。お薦め!

1.突風/2.目覚め/3.訪問者/4.勝ち負け/5.傷痕/6.限界/エピローグ.空へ

    


 

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