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1.猫背の王子 2.天使の骨 3.熱帯感傷紀行 5.感情教育 6.深爪 7.白い薔薇の淵まで 8.花伽藍 9.マラケシュ心中 10.ジゴロ |
弱法師、ケッヘル、サイゴン・タンゴ・カフェ、悲歌、小説を書く猫、愛の国、男役、娘役、ゼロ・アワー、銀橋 |
ダンシング玉入れ |
●「猫背の王子」● ★★ |
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2000年11月
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中山可穂さんのデビュー作。同時に、朝日新人賞を受賞した「天使の骨」の前篇にあたる作品です。
主人公は、「天使の骨」と同じ、王寺ミチル。20代、少年と見間違えられるような小柄な容姿でありながら、脚本家・演出家・主演俳優として劇団を主宰。そして、日毎夜を共にする女性を変えるという奔放な生活を送り、芝居に全力を注ぎ込んでいる、という主人公。ミチルには、自己破壊的なエネルギーを、強く感じさせられます。 中山可穂という作家に興味をもったら、あるいは「天使の骨」に魅力を感じたのなら、本作品は見逃せない一冊です。 |
●「天使の骨」● ★★ 朝日新人文学賞 |
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2001年08月
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かつて自ら劇団を主宰していた王寺ミチルが主人公。今はすべてに絶望し、成り行き任せに生きているような日々。 そんなミチルに、羽根がボロボロになった天使の姿が見えるようになります。そして、その数は次第に増していき、ボロボロの羽根をつけた大勢の天使が連なるようになる。 ミチルの絶望状態、心が死につつある状況を表わす心象風景でしょうが、それが凄い。 絶望の果てにミチルは日本を脱出し、イスタンブールからパリへと、異国の地を彷徨します。しかし、ミチルの心は果てしない虚無感につつまれ、ボロボロの天使の姿がどこまでも付きまとってきます。それに対し、外国の地でミチルが出会う人々は、ミチルを包み込むような温かさで迎えてくれます。 そして、多くの人々の心に触れることを経て、ミチルは再び演劇への情熱を取り戻す、というストーリィ。 ストーリィをそう語ってしまうと、ありきたりの話と思われるでしょうが、これでもかこれでもかと叩き付けるような展開、小気味良いテンポに、どんどん引きずり込まれます。ストーリィ云々より、そんな中山さんの文章に魅せられてしまう、と言って過言ではありません。 全体としては粗いところも感じますが、魅力ある作品。 |
●「熱帯感傷紀行−アジア・センチメンタル・ロード−」● ★☆ |
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2002年09月
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下準備も殆どせず、出発の前日は徹夜に近い状況で荷物作り。旅の最初の土地に辿り着いた時には、睡眠不足と疲れでヘトヘト。それなのに街の喧騒、人々のずるさに一遍でこの街が嫌いになった、という出だし。あれっこの出だし、どこかで読んだ覚えがあるなと思ったら、田口ランディ「忘れないよ!ヴェトナム」。女性作家の貧乏旅行は、どこか似るものなのか?(まぁ、たまたまと思うべきなのでしょう) 本書アジアへの旅は、「天使の骨」による新人文学賞受賞後、受賞後第一作も書けず、恋人とも別れて失恋の痛手に苦しんでいた、という時期のこと。 タイ(バンコク、ホア・ヒン、ハジャイ)/マレーシア(ペナン島、クアラルンプール、マラッカ)/インドネシア・スマトラ島(ドマイ、メダン)/インドネシア・ジャワ島(ジャカルタ〜スラバヤ、マラン、ジョグジャカルタ)/シンガポール |
●「サグラダ・ファミリア[聖家族]」● ★★☆ |
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2001年12月
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自作の中で常に同性愛を登場させている中山さんが、新たな“家族”のかたちを描いた作品。
孤独なピアニスト・石狩響子にとって、ライターの透子は最愛の恋人だった。しかし、透子の望みは子供を持つことであり、やがて響子の元から去っていった。
比較的薄い一冊ですが、充実感はとても大きい。 ※なお、ストーリィ的には、本書より後に書かれた「白い薔薇の淵まで」の、その後の話であると言いことができます。 |
●「感情教育」● ★★★ |
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2002年05月 2022年11月
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那智と理緒、2人の女性の胸が焦がれるような恋愛小説。究極の恋愛小説と言いたい程の熱さ、切なさが本作品にはあります。 ストーリィは3部構成。 第1章は、那智の生い立ちから結婚、家庭生活まで。 第2章は、理緒の生い立ちから、ライターとして自立するまで。 そして、第3章にて、2人の出会いと波瀾が描かれます。 いつもながら、中山さんの描く主人公は際立って個性的です。那智・理緒の2人も例外ではありません。そして、テンポの良さ・速さ。それ為、ぐいぐいとストーリィの中に引きずり込まれ、没頭する内あっという間に読み終わってしまう、と言って誇張ではありません。
中山さんの他の作品に比べると、肉感的な要素は少なく、精神的な部分が勝っている作品。ですから、あまりレズビアンを気にすることなく読めることと思います。 サマータイム/夜と群がる星の波動/ブルーライト・ヨコハマ |
●「深 爪」● ★ |
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2003年06月 2008年12月
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連作短篇形式による3部構成の作品。 第1部は、人妻相手のビアンのストーリィ、主人公は人妻を愛した方のビアンの女性です。 本作品は、結論がはっきり出ているという作品ではなく、今まで中山さんが書いてきたビアン小説の延長として、不倫、家庭崩壊も当然ありうることなのだ、というその姿を描いた作品であると言えます。ただし、満足度としては今一歩。 深爪/落花/魔王 |
●「白い薔薇の淵まで」● ★★★ 山本周五郎賞 |
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2003年10月 2021年09月 2002/01/08 |
30歳間近の主人公と24歳の小説家という女性同士の性愛を描いた、本格的レズビアン小説。とにかく圧倒されます。 「天使の骨」と同様、畳み掛けてくるような展開、スピーディとさえ言えるテンポの良さは相変わらずですが、同作品のような粗さがなく、ずっと洗練されています。それだけに、「天使の骨」以上に引きずり込まれ、まさに逃れようがありません。 全体で 200頁位。通勤電車の往復で十分読み終わる程度の頁量です。しかし、頁数以上の深みがあり、読み出したら最後止まらなくなってしまう作品であることに間違いなし。お薦めです。 |
●「花伽藍」● ★★ |
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2004年10月
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中山さん初の短篇集。 本短篇集では、ビアンの別れの切なさが、ストーリィの軸として描かれていますが、決してそれだけではありません。 「鶴」では、残影となる鶴のイメージが実に奇麗。 鶴/七夕/花伽藍/偽アマント/燦雨 |
●「マラケシュ心中」● ★★☆ |
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2005年05月
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中山可穂さんならではの濃厚なラブ・ストーリィ。一気読みした後の充足感は久々のものです。 本長篇もまた女性同士の恋愛を描いたもの。ただし、安易に同性愛ストーリィと言うなかれ。異性とか同性とかを越えて、狂おしい程恋焦がれる気持ち、それ故の焦燥、葛藤、歓喜がそこに描かれているからです。 敢えて言うならば、(これまでの中山さんの主張どおり)女性間の同性愛だからこそ普通の男女愛をはるかに越える恋愛模様がそこに描かれます。誰しも2人の恋情に引き込まれざるを得ないでしょう。 主人公は新進歌人の緒川絢彦(寺西絢子)、35歳。「猫背の王子」の王寺ミチルのように女性の恋情を惹きつけて止まないタイプの女性です。 その絢彦が、小川泉、30歳と初めて出会ったその時から、狂おしい恋情に燃え上がります。しかし、泉は絢彦の恩師、かつ歌壇の重鎮である人物の後妻。 これまでの中山作品がやはり同性愛を描いていたといっても、そこにはやむなく、といった設定がありました。それに対して本書は、激情を根底においた恋愛(=同性愛)。それだけに、一気呵成に読まされてしまいます。 そして、絢彦、泉の深い愛は2人を外国への旅へと追いたて、2人はスペインからアフリカへ渡り、更にマラケシュへと行き着きます。 熱烈な恋愛小説というにふさわしい、読み応えある一冊です。 |
●「ジゴロ」● ★★ |
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2006年05月 2003/03/08 |
「たったひとりの女を愛し続けるために、百人の女と寝ることもある」 そんなストリート・ミュージシャン、カイ(もちろんビアン)を一貫した登場人物とする連作短篇集。 5篇の主人公は、カイ自身だったり、カイの相手だったりと、いろいろ。それだけに、連作といっても夫々独立した短篇として楽しめます。 短篇ということもありますが、カイ自身の真の恋人は別にいて、各篇で描かれるのはいずれも一時的な恋愛関係に過ぎない、という設定の故でしょう。カイが単なる傍観者に過ぎない、という一篇さえあります。 たまにはこんな軽いスケッチ風のビアン小説も良い。中山可穂作品の広がりを感じる一冊です。今後もまだまだ期待大。 ラタトゥイユ/ジゴロ/ダブツ/恋路すすむ/上海動物園にて |
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