誉田
哲也作品のページ No.2



12.インビジブルレイン−姫川玲子シリーズNo.4−

13歌舞伎町セブン−歌舞伎町セブンNo.1−

14.感染遊戯−姫川玲子シリーズNo.5・番外編−

15.レイジ

16.ドルチェ−恋愛捜査(魚住久江)シリーズNo.1−

17.あなたの本

18.あなたが愛した記憶

19.幸せの条件

20.ブルーマーダー−姫川玲子シリーズNo.6−


【作家歴】、妖の華、吉原暗黒譚、ジウT、ジウU、ジウV、ストロベリーナイト、ソウルケイジ、シンメトリー、武士道シックスティーン、武士道セブンティーン、武士道エイティーン

 誉田哲也作品のページ No.1


ドンナビアンカ、増山超能力師事務所、Qrosの女、ケモノの城、歌舞伎町ダムド 、インデックス、武士道ジェネレーション、硝子の太陽N、硝子の太陽R、増山超能力師大戦争

 誉田哲也作品のページ No.3


ノーマンズランド、あの夏二人のルカ、ボーダレス、歌舞伎町ゲノム、背中の蜘蛛、妖の掟、もう聞こえない、オムニバス、フェイクフィクション、アクトレス

 誉田哲也作品のページ No.4


妖の絆、ジウX、マリスアングル 

 誉田哲也作品のページ No.5

  


      

12.

●「インビジブルレイン Invisible Rain」● ★☆


インジブルレイン画像

2009
年11月
光文社刊

(1700円+税)

2012年07月
光文社文庫化


2009/12/12


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姫川玲子”シリーズ、第4弾、長篇。

ちょうどこのシリーズと柴田よしき“RIKO”シリーズを並行するように読んだので、同じ強行犯担当の女性警部補としてつい比較してしまわざる得ません。まして今回は、月神の浅き夢の直後に本書を読んだものですから。

まず雰囲気からして違います。それは村上緑子姫川玲子というキャラクターの違いからくるものでもあります。
緑子は生々しく女くさい。それに対して玲子は、小娘的な茶目っ気があり、時にユーモラス。
共通するのは捜査能力の高さ、割と美人系(主人公ですから当然ですが)、単独行動に走るところ。
本書はそれだけでなく、事件に暴力団が絡み、玲子自身もまるで緑子の後を追うかのように暴力団の実力者と個人的な繋がりを持ってしまう点。

本ストーリィの鍵は、捜査陣に上部から制限、圧力がかけられること。何故に捜査に制限がかけられるのか。飛躍的発想と行動が持ち味である姫川玲子の面目躍如、というべき舞台設定です。
終わってみれば事件の真相自体はそれ程大したものではなく、本書の面白さはやはり玲子のキャラクター依存。
気になるのは結末。このシリーズ、この後も続くのか、ということ。期待感をもって、これからも続くと信じたいところです。

            

13.

●「歌舞伎町セブン」● ★☆


歌舞伎町セブン画像

2010年11月
中央公論新社刊

2013年09月
中公文庫
(686円+税)



2014/01/02



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ジウの歌舞伎町封鎖事件から6年後の歌舞伎町が舞台。
平常を取り戻した歌舞伎町で再び不穏な動きが置きます。

歌舞伎町を可視化する再開発計画
“歌舞伎町リヴァイヴ”。その推進委員会の後、歌舞伎町一丁目会長である高山和義が何者かに襲われ、翌日遺体となって発見されます。警察の検死により死因は心不全。死亡は単なる事故として処理されます。
しかし、その死をきっかけに動き出した者が幾人か。四代目関根組組長の
市村光雄はしがないバーの店主=陣内陽一を脅し、何かの裏事情を聞き出そうとします。その一方、フリーライターの上岡、そして新宿署地域課所属の警官=小川幸彦が、何かの事件が隠されているのではないか探ろうと勝手に動き始めます。
やがて事件は、町の活性化のため熱心にボランティア活動する若い女性=
杏奈とその祖父である歌舞伎町商店街振興協力会会長の斉藤吉郎の身にまで及びます。
正体不明の一味が口にする
“歌舞伎町セブン”とは何か、そして彼らが探そうとしている“欠伸のリュウ”とは何者なのか。

「ジウ」の内容が余りに凄絶だったためか、本書ストーリィにそれ程の衝撃はもう受けませんが、“歌舞伎町セブン”の正体についてはそう来たか、と少々驚き。
なお、「ジウ」にも登場した
東警部補が本書でも顔を見せますが、わざわざ登場する意味があったのかとイマイチ不明。それはまだ本物語が終結していない、これから本格的な事件が幕を開ける、ということでしょうか。

          

14.

●「感染遊戯 Infection Game」● ★☆


感染遊戯画像

2011
03月
光文社刊
(1600円+税)

2013年11月
光文社文庫化



2011/04/17



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“姫川玲子”シリーズ・番外編となる連作短篇集。
シリーズお馴染みの人物が、代わる代わる主役となって登場します。ただし、連作短篇とは言っても、単に繋がりをもった短篇という関係にとどまらず、それらが連なることによってある一つの物語をあぶり出す、という仕掛けになっています。

「感染遊戯」には、姫川玲子に対しやたら攻撃的な警部補=ガンテツこと勝俣健作が登場。勝俣が、姫川に15年前に起きた殺人事件を語って聞かせます。
「連鎖誘導」の主人公は、シンメトリ−「過ぎた正義」に登場した倉田修二。倉田が加わった殺人事件の捜査が描かれますが、その一方で「過ぎた正義」とも重なるストーリィになっています。
「沈黙怨嗟」の主人公は、姫川班最若手だった葉山則之。現在は所轄署勤務で、その所轄署で関わった老人同士の小さな事件を取り扱ったストーリィ。
「推定有罪」は冒頭の「感染遊戯」から直接続くストーリィであると同時に、前3篇の集約、各事件の深層に潜んでいた事件の究極的な真相に迫るストーリィとなっています。

各事件にはある共通する要素があります。そこから本作品が伝えるメッセージ、警告の意味は、冒頭の篇にて勝俣が姫川に語るという形で明らかにされています。
ただ、判るなぁという一方、短絡的過ぎる、とも感じます。
それでも、本書が伝える警告には重たいものがあります。

作品としては、上記メッセージに重きが置かれているためか、本シリーズの魅力であるサスペンスとしての緊迫感は欠けていて、ちと物足りず。
一方、本書中で、
姫川玲子が警視庁捜査一課に復帰していることが明らかにされていて、今後への期待が膨らみます。本シリーズの次回作品は、姫川が所轄署から捜査一課に復帰する経緯を描くストーリィとなるようです。

感染遊戯−インフェクションゲイム/連鎖誘導−チェイントラップ/沈黙怨嗟−サイレントマーダー/推定有罪−プロバブリィギルティ

    

15.

●「レイジ RAGE」● ★★☆


レイジ画像

2011年07月
文芸春秋刊

(1476円+税)

2014年03月
文春文庫化



2011/08/04



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武士道シリーズが剣道女子を主人公にしたスポーツ系青春小説であったところから一転、本書「レイジ」は音楽バンドに情熱を傾けた音楽男子系青春小説。

中学最後の文化祭、春日航(ワタル)はドラマの川嶋均、ギターの谷垣友哉、ヴォーカルの三田村礼二と組んでハードロックのコピーバンドを結成、文化祭で好評を勝ち取ります。ところが、ワタルがさぁこれからと思っていたところ、唐突に礼二がバンドを脱退してしまう。
礼二に裏切られたという思いを抱いたワタルと、一方の礼二。同じく音楽を志しながら、それからの2人はまるで線路のように交ることなく違った道を歩んでいきます。
交互に第一人称で語らせ、
松下梨央という美少女を2人の間に挟みながら、ワタルと礼二2人の軌跡を描いた青春小説。

同じ青春小説と言っても、“武士道シリーズ”と趣向は大きく異なります。何より時間軸が違う。
“武士道”の場合は高校1学年ずつ1冊という進行だったのに対し、本書は主人公たちが出会った中学3年から始まり、20年間を一気に描いた物語なのですから。
それ故にストーリィ展開がとても早い。みるみる内に時間は経過し、その都度主人公たちの状況は大きく変化します。
まさに時代を駆け抜ける疾走感、それが堪らない本書の魅力。

そのうえ、登場人物たちが音楽、バンドについて語る部分が実に熱い。
作者の誉田さん、元々小説家になる前はミュージシャン志望だったという。だからこその熱さ、リアル感が迸っている、という感じです。
まさにお薦め!の一冊。

          

16.

●「ドルチェ DOLCE」● ★★


ドルチェ画像

2011年10月
新潮社刊
(1400円+税)

2014年06月
新潮文庫

2020年05月
光文社文庫



2011/11/04



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誉田さんの刑事もの新シリーズの主人公は、所轄署勤務の女性刑事=魚住久江、42歳独身、喫煙者。
警視庁捜査一課の勤務歴があり、復帰を再三打診されているものの断り続けているという設定。拒否の理由はというと、人が殺されて始まる捜査より生きている人に関わる方が楽しいから、ということらしい。

姫川玲子”シリーズは驚愕すべき凶悪な事件がミソでしたが、本シリーズは主人公が所轄署勤務ということもあって、地味な事件が主体。譬えて言うなら、時代もの捕り物帳で市井もの、というところでしょうか。北原亞以子“慶次郎縁側日記が思い浮かびます。
秦建日子さんの“雪平夏見”シリーズの終わり頃(?)にダーティ・ママ刑事が登場し、誉田さんでは姫川シリーズに並行して42歳の女性刑事が登場してきた訳で、若手女性刑事から主流は中年女性刑事に移ったのか?と思うのですが、いやいや単なる偶然と思うべきなのでしょう。
残虐な事件ばかり書いていると、その逆も書いてみたい、そんな気持ちではないかと思う次第です。

表面的な事件説明を聞く度、魚住久江は嫌な予感を覚える。そこから思いがけなかった人間ドラマが明らかになっていく、という展開。
本庁捜査一課で同僚だった
金本が魚住をしつこく本庁に誘う、交番勤務から魚住を慕って刑事に異動してきた峰岸と、魚住久江にはそれだけの力量ありと、事件の度に思わせるところが本シリーズの魅力です。

読み始めた当初はそれ程面白みは感じなかったのですが、読み進むにつれてこの女性刑事の、中々捨て難い味が感じ取れるようになります。
たまにはこうした刑事捜査ものも、肩の力を抜いて楽しめるというものです。

袋の金魚/ドルチェ/バスストップ/誰かのために/ブルードパラサイト/愛したのが百年目

         

17.

●「あなたの本」● ★☆


あなたの本画像

2012年02月
中央公論新社

(1400円+税)

2022年08月
中公文庫



2012/03/28



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予想外の結末、しかも驚くべき。でもどこかコミカル。本書はそんな短篇集です。
ハードサスペンスの作品が多い誉田さんですが、本書に収録されている短篇はどれも肩の凝らない、軽い感じで楽しめる作品ばかり。作者の誉田さん自身、いかにも楽しんで書いたのだろうと想像させられます。

あえて言うならば、星新一さんのショートショート、そのひねりに誉田さんらしいコーティングを加え、きちんとした短篇に仕立て上げた。そんな印象を抱きます。

最初の3篇はかなりブラック要素を含んだストーリィ。でも私は冒頭の「帰省」、好きですねぇ。
表題作である
「あなたの本」、この題名から本書は本にまつわる出来事を描いたストーリィかと誤解したのですが、本篇に限っては当たらずとも遠からず。
主人公が父親の部屋にあった“あなたの本”という題名の一冊を開けると、そこには主人公自身の過去履歴に加え、近未来の出来事まで記されていた。最終、どんな結末を迎えるのか?を是非楽しみにしてください。単なる一読者であっても、絶句せざるを得ない筈。

「見守ることしかできなくて」は、よくあるパターンのファンタジー。でも私は好きです。
最後の2篇はSFファンタジー風。とくに
「交番勤務の宇宙人」は、テレビCMを思い出すより、TV「ウルトラセブン」のオマージュ、と感じます。

7篇のいずれもバラエティに富んだ趣向のストーリィばかり。気分転換、あるいは息を抜きたい時に読むのに格好の一冊です。

帰省/贖罪の地/天使のレシート/あなたの本/見守ることしかできなくて/最後の街/交番勤務の宇宙人

       

18.

●「あなたが愛した記憶」● ★☆


あなたが愛した記憶画像

2012年06月
集英社刊

(1500円+税)

2015年12月
集英社文庫化



2012/07/02



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幼児を絞殺して勾留されている主人公、曽根崎栄治。彼を知る誰もが信じられないという中、彼にいったい何があったのか。
一方、若い女性を監禁して両手親指を切断し、そのうえ強姦を重ね、最後には絞殺するという残虐な行為を繰り返す犯罪者。その正体はいったい何者なのか?

興信所を営む曽根崎栄治の元に現れた依頼人は、何と女子高生だった。しかも、栄治と別れた恋人との間に生まれた娘であると名乗ります。
その
民代が栄治に頼んだことは、2人の男性の行方を捜して欲しいというもの。その2人とは何者なのか。
折しも警視庁を騒然とさせている連続殺人・・・・というストーリィ。

ストロベリー・ナイトのような残虐事件を追うサスペンスかと思ったのですが、途中から全く異なった趣向の作品であることが明らかになります。
出版社紹介文によると、ホラーサスペンス。私としてはSF的サスペンスと感じます。
宮部みゆき「龍は眠るを久々に思い出しました。
そして鍵となる仕掛けについては、梶尾真治作品と共通するところがあります。
ストーリィ全体より、何故犯人は狂気のように強姦を繰り返したのか。そしてまた、曽根崎が事件に終止符を打つために取った行動とは。その2場面こそが真にスリリング。
誉田さんらしく、サスペンスの面白さ、に尽きる作品です。

          

19.

●「幸せの条件」● ★☆


幸せの条件画像

2012年08月
中央公論新社

(1600円+税)

2015年08月
中公文庫化



2012/10/02



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自分に存在価値が見い出せないでいる20代女子が、バイオエタノール燃料の原料となる米を栽培してもらうため農村へ。
手探り状態から始めた農作業を通じて、自分の求めるものに目覚めるという新生&農作業体験ストーリィ。

主人公は瀬野梢恵、三流私大理学部卒。何とか中小企業の片山製作所に就職したものの、正直言って会社のお荷物になっているも同然の状況。そんな梢恵に社長が突然に命じたのは、試験製作中のエタノール燃料製造装置、その原料となる米を作ってくれる栽培農家を見つけて来い、契約できるまで帰って来なくていいから、というもの。
呆然かつ悄然としつつ長野県穂高村にたった一人で向かったところ、紹介された農家は皆けんもほろろ。紆余曲折を経て梢恵、唯一話を聞いてくれた農業法人“あぐもぐ”社長一家の元に住み込んで農作業を手伝うことになります。さて、その結果は・・・。

サスペンス小説の多い誉田さんにしては珍しいストーリィ。
20代女性の成長物語あるいは新生物語というだけであれば興味は限定されるようなものですが、梢恵の目と手足を通じて読者も農業体験できるという点に見聞記としての面白みあり。
しかも、時節柄の問題も盛り込まれています。東日本大震災〜福島原発事故を基に、食料問題、エネルギー問題、元々の農業問題等々と。農業にも新たな視点・展開が必要ですし、エネルギー問題が深刻となれば自給自足かつ地産地消となるエタノール燃料は決して絵空事ではない、ということ。
農村を舞台にしたエンターテイメント=
黒野伸一「限界集落株式会社に面白さでは及びませんが、読み手と等身大の主人公=梢恵と一緒に農作業を一部なりとも体験できるという興味、面白さがあります。地道に楽しめる作品です。

※片山社長のバイオエタノール発想の源は、石川英輔「大江戸神仙伝」。

           

20.

●「ブルーマーダー Blue Murder」● ★★


ブルーマーダー画像

2012
11月
光文社刊
(1600円+税)

2015年06月
光文社文庫化



2012/12/31



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“姫川玲子”シリーズ、第6弾
池袋で、身体中の骨を粉々に叩き潰して殺害するという凶悪な連続殺人事件が発生。
インジブルレインの最後で警視庁捜査一課を追い出され池袋署に異動した姫川玲子、今回は所轄署の刑事として事件に絡みます。
被害者は出所したばかりの暴力団組長とあって、組織犯罪対策課がまず捜査本部の主導権を握りますが、被害者は更に元暴走族、中国人グループへと広がり、警察官まで被害を受ける始末。しかし、暴力団・元暴走族のいずれも何故か口をつぐんだ風。
そんな中、姫川が聞きこんだ
“ブルーマーダー”という怪物とは一体何者なのか?

久々の姫川玲子シリーズ長篇作とあって、胸がワクワクする気分になります。殺害方法の異様さも本シリーズの特徴ですが、本シリーズの魅力は、姫川玲子が関わるやピリピリするような緊迫したスリル感にストーリィが満ちることにあります。久々に本シリーズに触れて、改めてその魅力を感じた次第。
直接に姫川が捜査をリードする部分は限られますが、「インジブルレイン」で姫川と捜査を共にした中野署の
下井刑事が、事件の重要な鍵を握る人物として登場。また、姫川と犬猿の仲であるガンテツこと勝俣刑事も途中からしゃしゃり出てきます。
さらに、別事件の犯人を追っていた元姫川班の部下=
菊田和男も最終的に姫川の事件に絡んできます。

本書は、姫川が再び本庁に返り咲くまでの、経過的ストーリィと思われます。その分事件への関与は少なくても、姫川玲子の心の底にあるもの、そして捜査官としての真骨頂を描き出しているという面があって、姫川玲子ファンには見逃せない一冊です。

         

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