妙盤アベニュー

このページでは、もとは名曲と呼ばれてるようなものに、おかしなアレンジを施したものや、クラシック音楽をねたにしたパロディ、ギャグ盤を紹介します。
本人はおかしなアレンジのつもりじゃ(多分)ないようなのもあります。
ものによっては元ねたを知ってたほうが面白いものとか、知らないとどこが面白いのかわかんないのもあります。
その節はごめんなさい。

一覧

Christmas in BALI〜 リンディックによるクリスマスIt's new
TCHAIKOVSKY'S GREATEST HIT〜 究極の胡桃割り人形It's new
トルヴェールの≪惑星≫〜 冥王星や地球まであるIt's new
エレクトーンによるブルックナー〜 交響曲第8番と第9番It's new
琴・セバスチャン・バッハ 2000〜 琴ルネサンスと癒しIt's new
山本直純フォエヴァー 〜歴史的パロディコンサート〜〜 大きい事はいい事だ
聴くな。Bravissimo I〜 「朝ごは〜ん」
究極ののこぎり音楽〜 練習用伴奏つき
だんご3兄弟〜 ピアノカラオケつき
JiNGLE CATS MEOWY CHRISTMAS〜 にゃーごろごろ
CHUNG KING CHRISTMAS〜 ほーら紅鼻子鹿〜
フックト・オン・テクノ・クラシックス〜 さぁて皆様お立ち台
FANTASY〜 現代オルゴール
Switched-On Bach 2000〜 昔ワルター今ウェンディ
The Glory(????) of the Human Voice〜 アメリカジャイアン
玉木宏樹の大冗談音楽会〜 ただいま留守にしております
スペインのラ・フォリア〜 腸詰型風船、白色
新 動物の謝肉祭〜 人生楽ありゃ
元祖!冗談音楽大傑作大会 〜クラシック編〜 うがいガラガラガラ
P.D.Q.バッハ:1712年〜 J.S.バッハの末のお子さん
ホフナング音楽祭関係〜 クラシック・パロディの名作
ホフナング音楽祭・ライブ(LD)〜 映像つきレーザーディスク版


Christmas in BALI
演奏者とか:リンディック *"Gargita Buraya" Group, *"Pariwisata Budaya" Group
      ***鼻笛 I Wayan Pater
収録年:1996年
会社とか:GEMA NADA PERTIWI
番号:CMNP-223
価格:税抜1,900円
収録曲
01. JINGLE BELLS *
02. SILENT NIGHT *
03. HARK THE HERALD ANGEL SING **
04. JOY TO THE WORLD **
05. GO TELL IT ON THE MOUNTAIN **
06. I'LL BE HOME FOR CHRISTMAS **
07. WE WISH YOU A MERRY CHRISTMAS *
08. HERE COMES SANTA CLAUS **
09. FROSTY THE SNOWMAN **
10. THE FIRST NOEL **
11. ADESTE FIDELES **
12. SANTA CLAUS IS COMING TO TOWN **
13. AULD LANG SYNE ***
 下の方でも二枚ほどクリスマスものを紹介してますけど、これはバリ島の民族楽器「リンディック」の合奏によるクリスマスソングです。
 リンディックと言うのは竹で作った木琴のようなものですね。なんというかぽこぽこと素朴な響きです。その他にも笛や太鼓やゴングなんかを集めたグループで合奏してます。

 編曲のスタイルとしては、リンディックによる前奏から等間隔のリズムで和音を刻む伴奏に入って、そこにメロディが乗ってくるパターンですね。ガムラン音楽と同様に、一つのメロディを緩急つけながら何度も何度も何度も繰り返すやつが多くて、いつ終わるともしれない感じで催眠効果が。
 メロディ・ラインはだいたい笛の類が持ってるようです。これが音域があまり広くない(特に低音が出ない)ので、2曲目のサイレント・ナイトなんか出ない音にかかると突然オクターブ上がったり戻ったりするは、そもそも調律が西洋の音楽と違うはでなんかもう独特の響きになります。独自の旋律を間奏的に加えたりもしてますね。

 最後の13曲目は日本では「蛍の光」で知られるアレで、クリスマスとは特に関係ないと思うんですけど、I Wayan Paterさんが特別出演で鼻に二本の竹の笛をつっこんで演奏してます。もしかしてこの芸を披露するための選曲?




TCHAIKOVSKY'S GREATEST HIT
THE ULTIMATE NUTCRACKER
演奏者とか:オーマンディ指揮:フィラデルフィアO. 他
発売年:2004年
会社とか:BMG
番号:82876-62821-2
価格:失念
収録曲
1-8 Suite from "The Nutcracker"
    Philadelphia Orchestra/Eugene Ormandy

9-16 The Nutcracker Suite (Tchaikovsky; arr, Binkley/Imholz)
     Modern Mandolin Quartet

17-22 Nutcracker Suite (Tchaikovsky;/Washburne/Caling)
      Part One・The Little Girl's Dream (Miniature Overture; March)
      Part Two・Land of the Sugar Plum Fairy (Lemon Drop Waltz; Dance of the Sugar Plum Fairy)
      Part Three・The Chinese Dolls/The Faiiry Ball (Chinese Dance; Dance of flutes)
      Part Four・The Mysterious Room (The forbidden Room; Arab Dance)
      Part Five・Back to the Fairy Ball (They Dance on the Seat of their Pants; Russian Dnace; Waltz of the Flowers)
      Part six・End of the Little Girl's Dream (Granny Speaks; Goodnight, sleep Tight)
      Spike Jones and his City Slickers, with Susan Scott & Chorus

23-24 The Nutcracker: Dance of the Reed Flutes, Waltz of the flowers
      First Piano Quartet
 究極の「くるみ割り人形」! 言わずと知れたチャイコフスキーの三大バレエの一角です。ここではその中から作曲者自身が選んだ組曲版をベースに、いろんな演奏で聴かせてくれます。

 まず最初の8曲はユージン・オーマンディとフィラデルフィア・オーケストラによる定盤的な演奏。名人芸を聴かせます。これだけでも一枚のアルバムとして成立しちゃいますね。

 続く8曲はマンドリンとギターによる演奏です。四人だけの編成ながら、構成は原曲そのままでよく雰囲気を出してますね。13曲目の「アラビアの踊り」ではトロンボーンがやってる「とととととん」てのを、楽器の胴を叩くかなんかして再現してます。「花のワルツ」の初めの方にあるハープのアドリブのところなんかは技巧的にも難しそう。

 その次はスパイク・ジョーンズです。下で紹介してるやつはこっちから抜粋したのが収録されてますね。変ちくりんな効果音も健在ですけど、昔のディズニー映画に乗せてもおかしくないようなコーラスが素晴らしくて、モノラルなのが惜しい。
 歌詞は概ね元のバレエの筋に準じてるんですけど、ネズミの王様をやっつけるところまでをPart Oneの小序曲で片付けちゃってたりして、後は妖精の国の舞踏会ってことでやりたい放題。そして締めは子守歌の"Goodnight, sleep Tight"です。

 最後のは四台のピアノによる「葦笛の踊り」と「花のワルツ」。同じ四人でもさすがにマンドリンより派手ですね。これもモノラルなのが惜しいです。ステレオなら四台並べた音の広がりが出せるんじゃないかな。

 バレエ自体はクリスマスのお話なので、このCDも広い意味ではクリスマスものなのかも。
 それにしてもチャイコフスキーは華があってよいですにゃー。大好きですにゃ。




トルヴェールの≪惑星≫
演奏者とか:トルヴェール・クルテット
  須川信也/彦坂眞一郎/新井靖志/田中靖人 ピアノ:小柳美奈子
発売年:2004年
会社とか:concert imagine
番号:IMGN-3001
価格:税込2,500円
収録曲
トルヴェールの≪惑星≫ G.ホルスト/長生 淳
01.火星 Mars 5:17
02.金星 Venus 6:01
03.水星 Mercury 3:10
04.木星 Jupiter 7:34
05.土星 Saturn 4:47
06.天王星 Uranus 4:27
07.海王星 Neptune 5:25
08.彗星 Comets 5:40
09.冥王星 Pluto 3:57
10.地球 The Earth 6:42
11.Special Bonus 
   トルヴェールの≪木星≫ 8:05
 「惑星」の変なアレンジてことだと、「木星」の真ん中の三拍子のとこを四拍子で読経みたいに歌う「ジュピター」がありますけど、あれはなぜかバカ売れしてちっとも珍じゃなくなったので取り上げません。

 で、それよりはるかに楽しいのが「トルヴェールの≪惑星≫」。サクソフォン四重奏のトルヴェール・クルテットにピアノを加えての、ホルストの「惑星」です。
 アレンジはとても大胆で、金星に「牧神の午後」や「指輪」が隠れてたり、木星はモーツァルトの「ジュピター」で始まるし、天王星では「魔法使いの弟子」が「愉快ないたずら」をはたらいて、海王星はやっぱし「海」の王さまですわな。もう数え切れないくらいいろいろ織り込まれてます。
 「冥王星」と「地球」はホルストの「セント・ポール組曲」からのアレンジだそうです。「彗星」や「地球」には他の惑星のテーマも次々に現れてきますね。
 最近は普通の管弦楽のやつでも冥王星付きの「惑星」なんてのを見かけますけど、あちらはゲンダイオンガクなので……。
 Special Bonusの11曲目は4曲目「木星」の別テイクですけど、例のメロディを「らららーららるーら」と朗々と歌い上げ……ようとしてます。




Beyond Orchestra オーケストラを超えて
〜電子オーケストラによるブルックナー交響曲第8、9番
演奏者とか:野口剛夫指揮 ジャパン・エレクトロニック・オーケストラ(JEO)
  エレクトーン:橋 光一、西山 淑子、宮原 佐智、本橋 麻衣子(第8番)、森田 沙織(第9番)
  電子パーカッション:沖 雄一
録音年:1999年9月24日(9番) 2000年7月22日(8番)
会社とか:Seelenklang
番号:SK-2001/02
価格:2,500円
収録曲
disk-1disk-2
アントン・ブルックナー:交響曲第9番ニ短調
1.第1楽章/Feierlich (misterioso) (24:05)
2.第2楽章/Scherzo: Bewegt,lebhaft (11:03)
3.第3楽章/Adagio: Sehr langsam (Feierlich) (24:39)

アントン・ブルックナー:交響曲第8番ハ短調
4.第1楽章/Allegro moderato (15:28)
1.第2楽章/Scherzo: Allegro moderato-Trio: Langsam (15:54)
2.第3楽章/Adagio: Feierlich langsam, doch nicht schleppend (26:20)
3.第4楽章/Finale:Feierlich, nicht schnell (24:55)




 エレクトーンによるブルックナーです。この団体は他にも「惑星」とか「運命」とかの演奏もやっていて、同人誌みたいにCD-Rで頒布してたりするようです。それにしてもブルックナーとは大作を、それもまた渋いところを突いてきましたね。

 電子楽器による古典作品の演奏てのは今に始まった事じゃなくて、別に珍しくもないんですけど、ここでは「エレクトーン」で実際に舞台で演奏するってところに意義があるんですね。ジャケットにある指揮者の解説によると「私が強調したいのは、電子オーケストラが経済面と音楽面の両方にメリットがあるということだ」そうです。
 音楽面というのは、過去の楽曲は作曲当時に存在した楽器による制限を受けているので、もしも作曲者が現代の楽器を与えられたら、みたいなよく言われる話。
 経済面は単純に人数が少なくて済むってことで、たとえとして多くの奴隷が櫂で漕いで進む船とエンジンでスクリュー回して走る船を対比して、「電子オーケストラは、オーケストラの伝統を引き継ぐべき『進化したオーケストラ』として考えられても良いのではないか」と主張してます。

 まあ、御託はおいといて、実際の演奏を聴いてみましょう。
 まず録音が良くないです。ライブ録音なんですけど、全体的にレベルが低めで弱音がよく聞こえません。逆に9番の第1楽章ラストのfffなんかは低音がうなってるし。通常ライン録りされることが多いエレクトーンを、ライブ会場のマイクで収録したことで「暖かく、自然な空間的広がりが感じられ」るんだそうですけど。
 まあ、それはおいといて、演奏自体はいい感じです。ブルックナーの雄大なところをよく表現できてます。でも音楽面のメリットとか言う割にヴァイオリンのパートはヴァイオリンの音色でやってるし、普通の演奏で耳につくところはだいたい元の楽器の音色を使ってますね。
 ただ、9番の第3楽章の最後でヴァイオリンが奏でる鐘の音はもうベタに鐘の音にしてます。当時の楽器の制限とか言うなら、半世紀以上前にベルリオーズが幻想交響曲で鐘(またはピアノ)を使用楽器に指定した例があるわけで、なぜブルックナーがそうしなかったかを考えるべきじゃないのかな。
 まあ、それもおいといて、さりげなく凄いのは8番第3楽章。これは「ブルックナー研究家の川崎高伸氏が1999年にヴィーンのオーストリア国立図書館音楽部門から持ち帰った未発表の草稿(Mus.Hs.34.614/b)が用いられている」そうで、実演としては世界初! だとか。
 ああ、最後に誉めることができて良かった。




琴・セバスチャン・バッハ 2000
演奏者とか:みやざきみえこ(琴) エジソン(アレンジ/キーボード) 坂田梁山(笛)
発売年月:2000年7月
会社とか:M&I
番号:MYCJ-30051
価格:税込2,800円
収録曲
1. 平均律クラヴィーアより プレリュード第2番ハ短調 7:13
2. トッカータとフーガ ニ短調 6:09
3. 無伴奏チェロ組曲第1番ト長調より プレリュード 6:19
4. 目覚めよ、と呼ぶ声あり 3:51
5. マタイ受難曲より コーラス 4:32
6. G線上のアリア 5:48
7. こどものバッハより メヌエット2番3番のコラボレート 4:39
8. リュート組曲第4番ホ長調より プレリュード 4:51
9. 主よ、人の望みの喜びを 4:13
10. ゴールドベルグ変奏曲より アリア 2:35
 なにかのTV番組でBGMに「目覚めよ、と呼ぶ声あり」の琴バージョンが使われているのを聴いて「おや?」と思って気にとめていたら、レコード屋さんでそれらしいのを見つけてしまって買ったCDです。あたり、でした。

 TVではBGMと言うこともあって琴の音しか聞こえなかったんですけど、実際はキーボードと笛が結構活躍してます。1曲目の出だしなんかは「癒し系」でよくあるようなキーボードの前奏が一分間くらい続いてて、なかなか琴が出てこないので、初めて聴いたときはなにかの間違いかと思ったくらい。3曲目に至っては二分間前奏がありますね。
 件の「目覚めよ……」は「でゅっ、でゅっ、でゅーでゅっ」って人の声(サンプリング?)で始まるので、ああ、これがその「呼ぶ声」なのかと。でもダイソーの起きろ族ほどのインパクトはないかな。って、そーゆーものじゃないだろ>自分

「癒し」とうたわれるとなんとなく反感があったりしますけど、これは一種のセールス・トークとして、とにかく全体に良くできたアルバムですね。選曲も有名どころをそつなく集めた感じ(一曲目は2番より1番のが明るくていいんじゃないかと思った程度)ですし。演奏やアレンジも結構自由に展開してて、いろいろ工夫があって面白いです。




山本直純フォエヴァー 〜歴史的パロディコンサート〜
演奏者とか:山本直純指揮 日本フィルハーモニー交響楽団 他
録音年:1967〜69年
会社とか:コロムビアミュージックエンタテイメント
番号:COCQ-83645→46
価格:税込3,000円
収録曲
DISC-1DISC-2
ベートーヴェン/山本直純 変曲
交響曲大45番「宿命」
 1. 序奏部                3:52
 2. 旅路                 1:34
 3. 田園の風景              8:13
 4. ロマンス               8:31
 5. フォークソング/ウェスタン、デキシー  6:31
 6. フィナーレ              4:55

プロコフィエフ:ピーターと狼
 7. 前口上                8:40
 8. キャラクターと楽器紹介        6:27
 9. 本編                 30:10



ベートーヴェン/山本直純 変曲
 1. ピアノ狂騒曲「ヘンペラー」         20:14
 2. アンコール I                2:37
 3. アンコール II
  皇帝ピアノ協奏曲の初めと終わり       0:55
 4. アンコール III
  J.シュトラウス:トリッチ・トラッチ・ポルカ 3:03

メンデルスゾーン/山本直純 変曲
ヴァイオリン狂騒曲「迷混」
 5. 第1楽章                  18:37
 6. 第2楽章                  7:37
 7. 第3楽章                  12:09

アンコール
 8. スーザ:星条旗よ永遠なれ          3:22
 ええと、一言で言うと和製ホフナング音楽祭です。
 で済ませるのはあんまりなので、もすこしマジメに紹介しますと、クラシックでおなじみの名曲を指揮者の山本直純さんが「変曲」して、違う曲が割り込んだりすり替わったりしながらおもしろおかしく進行するって趣向です。そう言うわけでホフナングとは同工異曲ですね。
 こちらの場合は和製だけあって日本人にわかりやすい(日本人にしかわかんない?)選曲が多いです。ブックレットには[現れる曲名]がずらーと書いてあって、とても写しきれないんですけど、西洋クラシックに混じって「鉄道唱歌」だの「木曾節」だの「五木の子守歌」、はてはラーメン屋のチャルメラまでが乱入してます。レオノーレのトランペットが東京オリンピックのファンファーレになってるのはさすがに時代ですにゃあ。
惜しむらくは曲の繋がりが唐突だったり強引だったりするとこがある点ですけど、年中行事の如く巡業して回ってるホフナングに比べるたら、今ひとつこなれてないのはしかたないとこでしょうか。てゆーか、こなれるまで何度もやって欲しかった。

 ピーターと狼は、狸が出没するのを除いて普通です。ただ、前口上、と言うよりマクラが長いですねー。解説と語りを古今亭志ん朝がやってます。まるっきり落語のノリです。




聴くな。 Bravissimo I
演奏者とか:上海太郎舞踏公司B
発売年月:2003年9月21日
会社とか:UNIVERSAL
番号:UCCS-1028
価格:税込2,000円
収録曲
交響曲第5番[朝ごはん]
Hitomi's Adventure in Wonderland
 〜不思議の国のヒトミ〜
愛と麻雀のボレロ
高い声のタコ焼き屋のおばちゃん
雪子
風呂屋で
 これは以前に「朝ごはん」と「風呂屋で」の2曲がマキシシングル(?)として先行発売されてたものに、他の曲を加えてアルバムにしたものですね。
 上海太郎舞踏公司Bってのは、大阪のダンス・グループから派生したアカペラユニットってことらしいです。Bってのは本家があるからなんでしょうか。そもそもBでいいのかな。ジャケットではハ音記号風なので、もしかしてC?

 まあ名前はおいといて、内容はクラシックのおなじみの旋律で、およそ似つかわしくない日本の日常の些事をアカペラで歌い上げるものです。上から順に、
   定食屋の朝定食の御飯を白飯にするか松茸御飯にするかで苦悩するベートーヴェンの交響曲第5番第1楽章
   登校途中にいろいろ災難にあった挙げ句牧場で乳搾りするモーツァルトのアイネ・クライネ・ナハトムジーク
   麻雀やりたさにメンツを揃えていくラヴェルのボレロ
   コロラトゥーラ・ソプラノでタコ焼き屋のおばちゃんが愚痴をこぼすモーツァルトの魔笛から夜の女王のアリア
   鈴木雪子さん25歳がお見合に臨む情景を描くモーツァルトのディベルティメント第17番第3楽章
   大阪弁をドイツ語に見立ててひげそりに失敗したり風呂上がりにビール呑みたがるベートーヴェンの交響曲第9番第4楽章
ってとこですね。大阪演芸テイスト満載のアルバムです。

 特に最初の朝ごはんは1楽章全部に渡って、原曲で耳に付くパートは全て歌われてて、なかなか聴き応えがあります。
 ないものねだりをすると、ボレロは二つあって使ってない方のメロディでも歌って欲しかった(低音が出るかな〜)とか、風呂屋はユニゾンで2コーラス歌うだけじゃなくてもっと先の方もやって欲しかったとか。

 あとこのCD、EnhancedCDになってて、パソコン用のデータも収録されてます。定食屋のテーブルを囲んで、店員も交えて歌い踊る朝ごはんのムービーが入ってます。

 それで……「II」は出るんですか?




究極ののこぎり音楽
演奏者とか:ミュージカルソウ:都家歌六 伴奏:コロムビア・オーケストラ他
発売年月:1996年10月
会社とか:日本コロムビア
番号:COCF-13850
価格:税込3,000円
収録曲
 1. 魔王
 2. 鱒
 3. アヴェマリア
 4. ハンガリー舞曲 第5番
 5. カルメン〜ハバネラ〜
 6. ラ・クンパルシータ
 7. ベサメ・ムーチョ
 8. スワニー河
 9. フニクリ フニクラ
10. 禁じられた遊び
11. 憧れのハワイ航路
12. 影を慕いて
13. 赤城の子守歌
14. 雨のブルース
15. 月がとっても青いから
16. アヴェマリア(練習用伴奏)
17. スワニー河(練習用伴奏)
18. 禁じられた遊び(練習用伴奏)
 名曲の珍楽器による演奏です。楽器はミュージカルソウ。西洋式鋸の取っ手部分を股の間にはさみ、左手で鋸の先端を持って刃を曲げ、右手にバイオリンの弓を持って刃の縁を擦って音を出します。音階は左手で刃の曲げ具合を調節してとります。幽霊の効果音のような独特のビブラートと音階のなめらかな移動が特徴です。
 まあ鋸と言ってもこれ用に作ったやつで、ギザギザの刃は付けてない……んじゃないのかな。
 演奏は『日本のこぎり音楽協会』の創立者で初代会長の都家歌六師匠で、寄席とかで演奏活動を行っています。

 収録されてるのはクラシックと歌謡曲です。クラシックはともかくとして、何となく時代を感じる選曲になってますね。
 演奏のスタイルは、伴奏に乗ってメロディをミュージカルソウで奏でていて、歌詞のあるものはヴォーカル・パートを鋸でやってます。さすが日本の第一人者だけあって見事な演奏です。ハンガリー舞曲なんかだと、ときどき伴奏に置いてかれそうになってたりしますが。
 伴奏陣はピアノやらギターやら大勢いて、なかでもフニクリ・フニクラはゴンチチのチチ松村が歌ってます。ただしサビだけで、いきなり歌が入るのでちょっとびっくり。

 最後の3トラックは伴奏だけ収録してあります。歌六師匠の演奏を聴いて「ぼくものこぎり音楽やるぞ!」と志した人が、心置きなく練習するためのトラックですね。宴会の隠し芸にいいかも。下のリチャードはだんごが一曲だけなのにこっちは三曲。豪儀でげすな。
 最後の『禁じられた遊び』なんかはもう、ギターのジョアン杉田が完全に普通のギター曲としてソロ演奏してます。なんだかこっちのノコ抜きの方が……いえ、なんでもないです。




だんご3兄弟
演奏者とか:リチャード・クレイダーマン *競演:シェーネベルク少年合唱団
発売年月:1999年5月
会社とか:ビクターエンタテインメント
番号:VICP-60729
価格:税込1,995円
収録曲
 1. だんご3兄弟(内野真澄、堀江由朗)   2:04
 2. 黒猫のタンゴ(A.Sorichillo et al.)  2:15
 3. 愛のオルゴール(Frank Milles)     3:09
 4. 子供のためのロンド(P.de Senneville) 1:32
 5. 綿の国星のテーマ(R.Stolz)      1:48
 6. 恋はピンポン(O.Toussaint)      3:14
 7. メモリー(A.L.Webber et al.)     3:03
 8. そよ風の少女(P.de Senneville)    2:35
 9. 風の子供たち(Koos du Plessis)    2:26
10. 泉のほとりに*(Wilhelm)        3:11
11. だんご3兄弟(ピアノカラオケ)     2:07
 あの『だんご3兄弟』をあのリチャード・クレイダーマンがピアノで演奏してます。いや、まあそれだけです。彼特有の気取りは少し聴き取れますが、基本的にだんごなので……。
 ちなみに、最後に入っているピアノカラオケ・ヴァージョンは、付録のピアノ譜を見ながら自分で弾くためのものです。これであなたもリチャード・クレイダーマン……ですか? だんごで。
 最初見たときは、カラオケがあるってことは最初のはリチャードが歌ってるのか、と思いました。もちろんそんなことはありません。ピアノだけ。

 せっかくなのでその他の曲も。
 まず6曲目の『恋はピンポン』。リチャード・クレイダーマンのために作曲されたそうです。これはわりにいろんなとこでBGMとして聴く曲ですが、シンセサイザーを使ったポップなメロディ(と言うか音色自体がポンポンした音)なので、リチャードの曲とは思いもよりませんでした。
 次に10曲め『泉のほとりで』。これは原題が"AM BRUNNEN VOR DEM TORE"で、つまりシューベルトの歌曲集『冬の旅』の中の『菩提樹』をアレンジしたものなんですが、解説には「世界的に有名で、その質の高さには定評があるドイツの合唱指揮者であったカール・ウィルヘルム(1815〜1873)が作った曲です。」とあるだけで、シューベルトのシュの字もありません。手抜きですね。イケませんね。
 しかし、解説のおかげで判明した衝撃の事実。『そよ風の少女』は「日本の代表的なキャラクター・グッズのリカちゃんの父親とリチャードは、良き友人同士…そんな設定のもとに1998年にレコーディングした」曲で、”リカちゃんに捧ぐ”の副題つきだとか。
 ヘイ、リチャード、そうだったのかい。それじゃあリカちゃんに会ったらよろしく言っといてくれよ。




JiNGLE CATS MEOWY CHRISTMAS
演奏者とか:Mike Spalla
録音年:1993年
会社とか:COMING RECORDS
番号:CMCD-1
価格:税込2,000円
収録曲
 1. Silent Night           (3:10)
 2. What Child is This?        (2:42)
 3. Dance of the Reed Flutes     (2:14)
 4. Up on the House Top        (2:01)
 5. God Rest Ye Merry Gentlemen    (2:44)
 6. Oh Come All Ye Faithful      (1:40)
 7. Dance of the Sugarplum Fairies  (2:23)
 8. Jingle Cats Medley        (2:43)
 9. Angels We Have Heard on High   (2:23)
10. Jesu, Joy of Man's Desiring    (2:56)
11. Oh Little Town of Bethlehem   (2:58)
12. Carol of the Bells       (1:30)
13. Go Tell It on the Mountain   (2:17)
14. Oh Christmas Tree        (1:38)
15. Ode to Joy           (1:49)
16. Deck the Halls         (2:04)
17. Good King Wenceslas       (2:09)
18. We Three Kings of Orient Are  (3:10)
19. Waltz of the Flowers      (5:24)
20. Auld Lang Syne         (2:15)
 ソニー・ファミリー・クラブのCDの頒布会『CDクラブ』に入ってたときに、そのルートで入手しました。タイトルは全部英語ですが、日本盤です。解説も日本語です。(帯にある邦題は『ジングルキャッツのミャリークリスマス』になってます)

 珍盤というものの、これはとてもできが良いです。要するに猫の鳴き声をたくさんサンプリングして音階に割り当て、クリスマス・ソングを中心とするメロディを歌わせたものです。出演は作者のスパラの九匹の猫と近所のノラ達、バス担当の犬一匹で、スパラ自身によるギターその他の伴奏が付きます。鳴き声の収録には約一年かかったらしいです。
 注意書きとして「ジングルキャッツの歌声を聴いて、お宅のネコちゃんが、一緒にスピーカーの前で歌いだすことがあります。それだけならともかく、スピーカーのカバーをズタズタに引き裂く場合もありますので、ご注意下さい。」との文章が赤枠で囲んであります。
 実際にうちで飼ってた黒猫のステラに聴かせてみたら、座ってたのがびくっと立ち上がってスピーカーに向かってったので、あわてて止めたことがあります。本物の猫の声なんで、猫にとってはなにか意味をなしてるんでしょうね。
 猫耳のみゃーみゃとしても、ちょっとうずうずしたりして。

 猫好きのための一枚。猫嫌いは買っちゃだめ。ていうか買わないか。




CHUNG KING CHRISTMAS
演奏者とか:東方迴響 (Oriental Echo Ensemble)
      呉國光 二胡、陳鴻燕 笛子、陳國輝 揚琴 他
録音年:1991年
会社とか:BMG RCA VICTOR
番号:09026-61328-2
価格:失念
収録曲
 1. 普世歡騰     1:52   Joy to the World
 2. 看!又到聖誕   2:16   Santa Claus is Coming to Town
 3. 平安夜      2:26   Silent Night
 4. 天使報佳音    2:31   Hark! The Herald Angels Sing
 5. 聖誕快樂     2:34   We Wish You a Merry Christmas
 6. 聖誕佳音     2:37   The First Noel
 7. 紅鼻子鹿     2:36   Rudolph the Red Nosed Reindeer
 8. 媽口米與天父   3:00   I Saw Mommy Kissing Santa Claus
 9. 白色聖誕     3:33   White Cristmas
10. 聖誕鈴聲     2:13   Jingle Bells
11. 點綴廰堂     2:37   Deck the Halls
12. 齊來崇拝     2:50   O Come, All Ye Faithful
 ではクリスマスつながりでもう一枚。HMV横浜VIVRE店で見つけた中国伝統楽器によるクリスマス・ソング集です。ただしボーカルなしのインスト版です。
 中国と言っても漢字が繁体字なので台湾の中華民国ですね。台湾ならまだなんとかなります。でも8曲目の「口米」ってほんとは口偏に米の日本語フォントにない字です。原題からするとおそらくキスの事でしょう。

 使用楽器の二胡はいわゆる胡弓、揚琴は手にしたばちで弦を叩く琴で、分類上はダルシマーになるのかな。『東方迴響』が楽団名で、演奏者欄の三人はソリスト。その他に太鼓などの打楽器と笙や琵琶、ラッパにギター、キーボードなどの伴奏が付いて、総勢十九人です。

 つまるところクリスマス・ソングを中華な楽器で演奏してるだけです。そう言われると大したことないと思うでしょう。ところがいざ聴いてみるとこれが凄い。「どんどこどこどこどんどこどんどん」と太鼓で始まる最初の『もろびとこぞりて』からして、もう圧倒されちゃいます。
 節回しとか装飾音もそこはかとなく中華風で、クリスマスって言うより中国の春節みたいです。ジャケットに写ってる茶色の布みたいなのはおみくじクッキーらしいし。どこからか爆竹とともに獅子舞が現れそう。




フックト・オン・テクノ・クラシックス
演奏者とか:省略
発売年月:1992年12月
会社とか:NIPPON CROWN
番号:CRCP 28072
価格:税込2,600円
収録曲
省略 (メドレー形式)
  クラシックの名曲のサビの部分をつないでメドレーにしたものです。原曲は全部で三十曲ありますが、キセルして書くとリヒャルト・シュトラウスの『ツァラトゥストラはかく語りき』で始まり、ベートーヴェンの『交響曲第9番』で終わります。
 この種のレコードでは、名曲の数々をロックのリズムに乗せておくる『フックト・オン・クラシックス』と言う有名なシリーズが、私は持ってませんがアナログLPの時代から出ています。このCDも名前からしてそれにあやかったものでしょう。
 と、ここまでが一般的なレビューです。

 このCDの妙な部分は、なんと言ってもアレンジがダンス・ミュージック風になってるとこでしょう。私はそのたぐいのジャンルに疎いので、クラブかハウスかサンドイッチか知りませんが、帯には「テクノハウスにリメイク」と書いてありますね。なにしろ制作協力があの"avex trax"で、発売時期もジュリアナ・トーキョーなんかが華やかなりし1992年12月。推して知るべしです。ちなみにジュリアナはATOKによって受理穴と変換されました。

 それにしてもこのCD、訴求したいターゲットが不明です。確か石丸電気のクラシックのフロアで見つけたんですが、買うのはよほどの物好き(私だよ悪かったわね)くらいじゃないですか。純粋なクラシック・ファンなんかは下手すると怒るかも。
 それじゃあ、ジュリアナあたりに通い詰めてた若いもんが買うかと言えば、そっちはクラシックと聞いただけで拒否反応を示しそうです。偏見かな。
 だいたいこれが本当にディスコでかかったとして、踊れるもんなんですかね。途中『キラキラ星変奏曲』のとこにかかるとみんな一斉にコケて、お立ち台から転げ落ちるんじゃないかと心配です。ほんとに何のヒネリもなくきらきら星ですから。

 あと、メドレーの半ばでしばらく曲が途切れるところがあって、いつのまにかガヤ(群衆のざわめき)が入ってるんですね。そこへおもむろにチャイコフスキーの『交響曲(ママ)第1番』(正しくはピアノ協奏曲)が始まると、待ってましたとばかりに聴衆がワーッと盛り上がる、なんてクサい演出には思わず苦笑を誘われます。
 しかも同じガヤ盛り上がりの手口がこの次の『ウィリアム・テル序曲』にも使われてて、なんかもうトホホ感全開バリバリです。

 とはいえ、これはこれでよくできてます。とにかくよく作ったなぁという一枚でした。(フォロー)




FANTASY
編曲者とか:ジャパンジャズクラブ
発売年月:??
会社とか:CD★ワールド
番号:Z 197
価格:税抜1,000円
収録曲
 1. トロイメライ/シューマン           [3:35]
 2. G線上のアリア/J.S.バッハ          [3:52]
 3. パッヘルベルのカノン/パッヘルベル      [3:03]
 4. 飛び跳ね踊り/グリーグ            [1:59]
 5. 民謡/グリーグ                [2:20]
 6. 亜麻色の髪の乙女/ドビュッシー        [2:31]
 7. 子犬のワルツ/ショパン            [3:33]
 8. 前奏曲/ショパン               [1:44]
 9. 舟歌/チャイコフスキー            [5:43]
10. セレナーデ/シューベルト           [3:40]
11. 夜想曲/ショパン               [3:26]
12. 二つのアラベスクより・第一番/ドビュッシー  [6:29]
13. 小さなロマンス/シューマン          [2:16]
 CDのサブタイトルは『幻想のシンセ・オルゴール』となってます。
 どういうことかと言うと、「ヒーリング効果のあるといわれているオルゴールの音色を、最新のシンセサイザーによって再現した」もので、本物のオルゴールにある機械音や金属的すぎる響きがないので、多くの皆様に楽しんでいただける、って趣向です。
 編曲とか演奏してる人の名前は明記されてないのでよくわかりません。ジャパンジャズクラブってのはCDのレーベル面に書いてありました。
 音の感じとしては、リードをはじくオルゴールとビブラフォンの中間みたいな音です。基本的には原曲通りでインテンポで演奏されてますが、パッヘルベルのカノンなんかは途中からオリジナルの変奏になってて新鮮です。
 でもあえて言うなら、オルゴールはやっぱりぜんまいが尽きてだんだんテンポが落ちて、やがて止まるのがいいんですけどね。

 もともとこのCDは、画家、詩人、絵本作家の葉祥明によるジャケットの猫の絵に惹かれて買ったようなもんだったので、いやしのなんのと怪しげな謳い文句はあてにしてませんでした。ところがこれが意外に良かったりして、嬉しいような悔しいような。珍盤探偵としての屈折した感情が、ううう。
 これを買ったのは、小田急線は新百合ヶ丘駅のロビーに出てた「CD★ワールド」さんの出店で、その場で持ってたCDウォークマンに入れて電車で聴いたんですね。車窓から秋の多摩丘陵に沈みゆく夕日を眺めつつ。そんな環境で最初に聴いたせいで、やけに評価が高くなってるのかも知れません。ううう、夕日のばかー。




Switched-On Bach 2000
作曲者、編曲演奏者:J.S.バッハ ウェンディ・カーロス
発売年月:1992年
会社とか:TELARC
番号:CD-80323
価格:税込3,000円
収録曲
 1. ハッピー25周年、S-OB                    0:40
 2. シンフォニア ニ長調 (カンタータ第29番 BWV29より)      3:35
 3. G線上のアリア (管弦楽組曲第3番 BWV1068より)       3:15
   2声のインヴェンションより
 4.  第8番 ヘ長調    BWV779               0:47
 5.  第14番 変ロ長調    BWV785              1:23
 6.  第4番 ニ短調    BWV775               0:59
 7. 主よ、人の望みの喜びよ (カンタータ第147番 BWV147より)   3:33
   平均律クラヴィーア曲集第1巻より
 8.  前奏曲第7番 変ホ長調    BWV852           5:42
 9.  フーガ第7番 変ホ長調    BWV852           1:48
10.  前奏曲第2番 ハ短調    BWV847            1:32
11.  フーガ第2番 ハ短調    BWV847            1:32
12. 目覚めよと呼ぶ声が聞こえ (カンタータ第140番 BWV140より)  4:44
   ブランデンブルク協奏曲第3番 ト長調 BWV1048
13.   I. アレグロ                      6:49
14.   II. アダージョ                     2:36
15.  III. アレグロ                      5:48
16. トッカータとフーガ ニ短調 BWV565              9:01
 この盤は、実はそれほど珍ではなかったりします。
 タイトルに2000と付いてますが1991年の作品です。このタイトルと最初のトラックが25周年記念なのとで想像できるかもしれませんが、昔のLP時代に"Switched-On Bach"として出ていたレコードのリメイクです。機材の進歩によって旧盤ではできなかったことも可能になったので、新たにアレンジし直したのですね。

 珍なのはむしろ演奏者で、旧盤のときはウォルター・カーロスが演奏していました。それが同一人物なのになぜかウェンディになってます。そう、男性から女性に転換しちゃったのですね。あっ、てことは珍じゃなくなったのか。
 この人はスタンリー・キューブリックの『時計仕掛けのオレンジ』とか、世界初のCG映画『トロン』の音楽を担当したりもしてて、まあ結構有名な話ではあります。

 あと細かいことですが、よくCDの制作過程でデジタルとアナログを区別するのに[DDD]とか[ADD]と書いてありますね。それがこのCDでは[DDDD]の4-Dデジタルサウンドと書いてあります。つまりシンセサイザーの出力から一度も音にしないままでCDのマスターまで作ったってことみたいです。
 この表記はテラークの標準ですかね。このCDだけ?




The Glory(????) of the Human Voice
演奏者とか:Florence Foster Jenkins (S) 1-8,    J.Williams (S) & T.Burns (Br) 9-12
録音年代:1944年頃
会社とか:BMG
番号:09026-61175-2
価格:失念
作曲者/収録曲
 1. Mozart / Die Zauberflote (Queen of the Night Aria)  3:37
 2. Liadoff / The Musical Snuff-Box           2:25
 3. McMoon / Like a Bird                 1:19
 4. Delibes / Lakme (Bell Song)             4:39
 5. McMoon / Serenata mexicana              2:10
 6. David / La Perle du Bresil: Charmant oiseau     6:02
 7. Bach-Pavlovich Biassy                3:35
 8. Johann Strauss, Jr./ Die Fledermause:
              Adele's Laughing Song  3:49
    Gounod / A Faust Travesty:
 9. Valentine's Aria                   3:15
10. Jewel Song                      6:00
11. Salut, demeure                    4:45
12. Final Trio                     10:40
 これは古い録音です。オリジナルは78rpmのレコードだそうで、デジタル化に際してノイズを低減させたと書いてありますが、やはりざらざらした音なのは仕方ないでしょう。
 歌い手のフローレンス・フォスター・ジェンキンスは1864年にアメリカのペンシルヴェニアで生まれました。そして父親の遺産が入って経済的な余裕ができたのを期に、四十歳にして歌手デビューしました。そして1944年の十月二十六日、彼女は六千ドルを投じてカーネギー・ホールを借り切って、満場の聴衆の前で引退公演を行いました。ただこのCDの録音がその時のものかどうかはわかりません。

 こう書くと普通の歌手の紹介みたいですが、普通の歌手と大きく違うところがあります。彼女は音痴だったのです。
 文春文庫で出ている『おかしなおかしな大記録』(スティーヴン・パイル著、中村保男訳)という本によると、「ジェンキンズ女史の歌声のひどさは決して最低のものではなく、言うなれば栄光に包まれたこわいもの知らずの域に達していたのである。女史の以前にも以後にも、楽譜というものの束縛から己をこれほど徹底的に解放した人間は皆無で」あったってことです。実際、本の記述は嘘でも誇張でもありません。
 上に書いた彼女の生年とデビュー年代はこの本によります。引退公演の日付は本が二十六日、CDのライナー・ノートは二十五日になってます。そしてライナー・ノートには七十六歳で死んだとあります。なんだか勘定が合わないのは私のせいじゃないです。
 最初この本を読んだときは、面白いこともあったもんだなぁ、くらいにしか思いませんでした。他にもいろいろ愉快な話が載ってますから、そのうちの一つに過ぎなかったわけです。ところがその後、このCDを見つけて衝撃を受けました。まさか録音が残ってるとは!
 ここで紹介してるのは輸入盤ですが、国内盤もBMGファンハウスから出ています。邦題は『迷唱!絶唱!人間の声の栄光???』(BVCF-5008)で、多分まだ売ってます。それにしても、これがRCAのゴールド・シールだってのには恐れ入りますわ。

 ジェンキンス女史は歌ばかりか衣装にも一家言あって、一回の公演に三度は衣装を替えたそうです。ジャケットにあるのは翼の付いたドレスですね。天使でしょうか。それからお気に入りの『Clavelitos』と言う歌(惜しいことに録音が残されてない)を歌うときは、スペイン風のショールをまとって宝石で飾られた櫛を付け、カルメンのように赤い花を髪に挿して現れました。そして手にした籠に入れた花を歌いながら客席に投げ、一度は籠まで投げたとか。さらにアンコールに応えるときには、可哀想な伴奏者を客席にやって花を回収させました。また投げるために。
 ちなみにピアノ伴奏はCosme McMoon です。3曲めと5曲めの作曲者でもあるみたいで、"Words by Mme. Jenkins"とあるので、二人のオリジナル・ナンバーですね。

 あと、このCDの最後の4曲は全然ちがう人たちの歌です。やっぱり素人ががなってる歌ですが、ジェンキンス女史の前では見劣りと言うか聴き劣りと言うか。いや、そもそもどっちのなにがどう劣ってるんだか。

 しかしそんな音痴でよくカーネギー・ホールが埋まったなと思いますよね。ところがこのジェンキンス女史、意外にも人気があってチケットは入手難だった(女史が自ら売っていたとか)らしいです。いわゆる怖いもの見たさってやつでしょうか。
 ていうか、1944年なんて言ったら、日本では泥水すすり草を食み、欲しがりません勝つまでは、な頃じゃないですか。ヨーロッパや太平洋がえらいことになってるときに、アメリカじゃ音痴のリサイタルに人が集まってたんですね。こりゃ戦争負けるわ。
 と、変な結論で締めます。




玉木宏樹の大冗談音楽会
演奏者とか:玉木宏樹◆ヴァイオリン 土岐雄一郎の留守番電話
発売年月:1995年9月
会社とか:日本コロムビア
番号:COCO-78584
価格:税込2,500円
収録曲/作曲者
1. 大地の夜明け/玉木宏樹                5:21
2. ウクレレ・ヴァイオリン                2:21
3. サラリーマン組曲”3時の天使”            8:48
4. 超舌技巧による”熊蜂の飛行”/リムスキー=コルサコフ 2:39
5. ヴァイオリンのための”大江戸捜査網”/玉木宏樹    3:05
6. なかなかいかないチゴイネルワイゼン          4:54
7. 本気演奏による”チャルダッシュ”/モンティ      5:48
8. ”まりと殿様”の主題による大変奏曲          7:18
 ●テーマ〜沖縄風〜中国風〜ロシア風〜ヨーロッパ風〜アメリカ風
 ジャケット裏面の曲名リストでは、各トラックの間に電話のマークが入ってます。そこにはこのCDの一部でピアノを弾いている土岐雄一郎が留守番電話に吹き込んだ声(普通なら「はい○○です。ただいま留守にしております……」というあれ)が収録されているのです。
 それが例えば、おばあさんが出て「どちらさまですか」と言うので名乗っても耳が遠くてなかなか通じない、と思わせておいて実は留守番電話だったとか、あるいは多重録音で一人合唱してみたりとか、はっきり言って本編より面白いです。

「大冗談」を大上段に解説するほど野暮なことはないので、本編はほっぽっててもいいようなもんですが、それじゃレビューにならないので少々。あんまり気が向きませんが。
 まず注釈です。1曲目と7曲目以外は玉木宏樹編曲と書かれてます。注釈終わり。
 3曲目はサラリーマンの一日をいろんな名曲のメロディに合わせて歌い込んでます。途中をムソルグスキーの『展覧会の絵』の『プロムナード』に付けた歌でつないで、つまり全体として展覧会の絵のパロディな構成をとってます。名曲と言っても西洋クラシックとは限りません。『昼の憩い』とか。
 その次のは口三味線(ドレミの階名で歌う)による『熊蜂の飛行』です。終わると湧き起こる拍手。
 6曲目はチゴイネルワイゼンで始まったのが五木の子守歌にすり替わったり、気を取り直してやり直したのが今度は……やっぱり解説やめます。留守番電話だけでも面白いから探して買って聴いて。あ〜あ、やんなっちゃった(2曲目)




スペインのラ・フォリア
演奏者とか:グレゴリオ・パニアグワ指揮 アトリウム・ムジケー
録音年:1980年
会社とか:キングインターナショナル
番号:KKCC-40
価格:税込2,800円
収録曲
1. 生命の泉
  天使的早発性痴呆の
  ソファミレドによる       6'01
2. 途方もなき
  微小なる栄光の
  ガラスの            2'07
3. フォリアに寄せる祈り
  名声は飛んで行く
  レモン風・南欧風        2'27
4. 肝要なる・根元的の
  正調インド風
  逆流的             8'10
5. 貴族的倹約の          3'09
6. 繊細なる
  深き淵より/壁の外に      1'23
7. 通俗的なる/人々に知られざる
  そこはかとなく やわらかき    1'38

 8. 北欧的にして 荒涼たる
  平凡にして 金色なる      5'04
 9. いとも 高貴なる
  退嬰的かつ退廃的なる      2'22
10. 牧人らの
  数学的:怒りの日
  黄昏の
  無名の
  わが霊魂は悲し
  武装せる強き騎馬兵の
  大胆の:運勢は助く
  包皮なき
  協会風の            5'13
11. 劇場風かつ偽善的の
  田園の
  いまひとつの完全にインド風な  1'56
12. 天界的忍耐の
  偽装的逃亡および凱旋の車    4'32
 帯に書いてある煽り文句によると、「繊細さとグロテスクさの奇妙な調和。現代社会の昏迷に拍車をかける鬼才パニアグワ、反逆のアルバム! 鮮烈な録音は超A級!!」なんだそうです。
 フォリアというのはスペイン起源の舞曲ってことで、パニアグワ自身による丁寧な解説が付いてます。それぞれの曲の出典も詳しく書いてあります。一つのトラックに何曲も入ってるのが不親切かも知れませんが。
 ジャケットも地味そのもので、一見するとなにか資料的な意味でスペインの古い舞曲を集めたCDのようです。実際最初の数曲くらいはそんな感じです。演奏もあくまでもまじめです。

 しかし、すぐになんだかおかしな具合になってきて、ダマされたことに気付くわけですね。曲が進むにつれてどんどん暴走して、変な楽器は出るは、およそ古楽らしからぬメロディ(トラック8の『平凡……』なんて『藁の中の七面鳥』だし)は出るは、しまいにはもうなんだかわけがわからなくなります。わけわかんなくなっても、演奏はどこまでもまじめです。

 そもそも曲名からして少しおかしいですね。出典は良く読むともっとおかしいです。だいたいはそれらしいことが書いてあるんですが、なかには『名声は飛んで行く』の出典で「インディアナポリス。当然石油より精製されたる源泉」なんてのがあるし、『逆流的』は「ささやかなる非音楽的憂慮と心配。酸素とオゾン。セルカディーヤ、1980年」、『包皮なき』は「ジャズの主題による即興:《羅針盤と風見》」。意味わかりません。
 楽器もおかしいです。一応リコーダーやハープシコードやヴァイオリンといった普通の古楽器を中心に使ってるんですが、しかしトラック4の『肝要……』では、まじめに進行してた途中で突然なんかが爆発します。使用楽器を見ると「コニャック瓶の破裂音」……。
 でもこれはまだ良くて、トラック5では抑えた音量で遠くのハープシコードが演奏してて、聞こえにくいからって音量を上げようものなら、いきなりエンジン芝刈機が轟音を上げます。『数学的:怒りの日』は有名なグレゴリオ聖歌の怒りの日を、電卓のぴぽぴぽでやってます。他にも曲によって鳥寄せ笛だのおもちゃのピストル、呼子、睾丸状ギター(?)、マゴノテ(??)なんてのが書いてあります。風船を使うときはいちいち色を明記してあるのがなんとも。
 そして最後はランドローヴァーに乗って走り去ったかと思うと戻ってきて、現代音楽も真っ青の混沌のうちに終わるのでした。

 手が込んでてタチが悪くて人を喰った冗談がお好きな人に。




新 動物の謝肉祭
演奏者とか:ピアニスターHIROSHI
発売年月:1998年11月
会社とか:キングレコード
番号:KICC 270
価格:税込2,500円
収録曲
    プロローグ
 1. 熊ん蜂の曲芸飛行            (2:10)

    ペット館
 2. 牧神の子犬への熊ん蜂          (2:16)
 3. さそり座のアマデウス          (1:29)
 4. まいごのまいごの子猫ちゃん踏んじゃった (0:33)

    空飛ぶ動物館
 5. 森の熊ん蜂               (0:16)
 6. 蛍の第九                (1:26)
 7. ある晴れた日に〜歌劇「蝶々夫人」より  (2:53)
 8. 黄金虫の湖               (2:32)
 9. 白鳥〜「動物の謝肉祭」より       (2:32)

    化石館
10. 人生、楽ありゃ熊ん蜂          (0:17)
11. 音楽モノドラマ「水戸黄門珍遊記」    (8:14)
12. メリーさんの黄門            (0:21)
    ディズニー館
13. 超絶技巧!ディズニー組曲   (7:29)

    サンタ館
14. 赤恥のトナカイ        (2:15)
15. きよしこのボレロ       (4:06)
16. ひとりぼっちのジングルベル  (1:23)
17. オリエンタル・ジングルベル  (1:32)
18. 熊ん蜂の奇行         (0:28)

    HIROSHI館
19. シネマ・コンチェルト     (6:32)
20. ワルツ・ノワール       (2:42)
21. 見上げてショパン、夜の星を  (2:14)

    エピローグ
22. BUMBLE BEE IS FALLING DOWN  (0:58)

 ピアノを使って面白いことをやるピアニスターHIROSHIのアルバム。
 ここでは『新 動物の謝肉祭』てことで、半分くらいが動物に関係する曲になってます。でも後半はあんまり動物と関係ありません。熊ん蜂がやたら出てくるのは、案内役が"BUMBLE HIROSHI"と言うことになってるからみたいです。

 内容の傾向としては三種類ほどにわかれます。一つは複数の曲を入れ替わり立ち替わり、あるいは対位法的に同時に演奏してしまうもの。もう一つはピアノ曲じゃないものをピアノで弾いてしまうもの。あとはオリジナルです。
 最初と2番目のカテゴリーは、実際には同時進行のが多くて、代表として例えば2曲目、ドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』を基調に『熊ん蜂の飛行』と『子犬のワルツ』がまぜこぜに出現します。トラック3はモーツァルトの交響曲第40番と『さそり座の女』を一緒に、トラック4では『犬のおまわりさん』と『ねこふんじゃった』を同時に弾いてます。組み合わせの妙ですね。
 15曲目の『きよしこのボレロ』はオーケストラ曲であるラヴェルの『ボレロ』をピアノで弾いて、その中に『きよしこの夜』『もろびとこぞりて』『もみの木』を潜り込ませてます。ボレロは見事です。でも山下洋輔の肘打ちボレロを聴いちゃうと……いやまあ、比較しちゃいけませんが。
 単純にピアノ曲以外をピアノ化したのはトラック7と9ですね。13のディズニーのメドレーもそうかも。オリジナル作品(ていうか編曲?)は16、19、20あたり。

 あんまり褒めてない気がしてきたので褒めます。
 このアルバムの白眉はなんと言っても化石館。水戸黄門のテーマである『ああ人生に涙あり』(って言うんだ)をメインに据えた3曲です。特にトラック11の音楽モノドラマは、語りも入って愉快痛快、世界中をめぐる黄門様御一行の活躍が楽しめます。中国、ロシア、アラビア、ドイツ、スペインとそれぞれ御当地風のアレンジで「じーんせいらくありゃ」が展開されていきます。オレ!

 てことで面白いですよ。ジャケットでイラストになってる動物は一つも出てこないけど。




元祖!冗談音楽大傑作大会 〜クラシック編
演奏者とか:スパイク・ジョーンズとシティ・スリッカーズ *シティ・スニッカーズ
録音年:1944〜1950年
会社とか:BMGビクター
番号:BVCP-2325
価格:税込2,300円
収録曲
 1.ウィリアム・テル序曲      3:17
 2.ハンガリー狂詩曲        3:15
 3.道化師             3:21
 4.愛の夢             3:12
 5.美しく青きドナウ        2:54
 6.熊蜂は飛ぶ*           2:43
 7.くるみ割り人形         7:05
 ロシアの踊り〜あし笛の踊り〜アラビアの踊り〜
 中国の踊り〜小序曲〜マーチ
 8.時の踊り            3:33
 9.ただあこがれを知る者だけが   3:16
10.オルフェ            2:46
11.くちづけ            3:27
12.カルメン           12:53
13.グロウ・ウォーム        3:10
14.フィドル・ファドル       3:20
 いきなり火事場のような騒ぎとともに始まりましたスパイク・ジョーンズ。吠える犬、うなるサイレン、そうそうウィリアム・テルってこうだよね。と思うと今度は「うがい」による朝の情景。朝はやっぱりうがいでしょう。「あ゛〜あ゛〜あ゛〜あ゛〜あ゛〜あ゛〜……ごっくん」ごっくん?
 結局ウィリアム・テルは途中から競馬の実況に化け、ビートルバウムが一着で終わるのでした。

 とこんな感じで古今の名曲をけちょんけちょんに(?)してしまうのがスパイク・ジョーンズとシティ・スリッカーズです。このCDはクラシック編ですが、ポピュラー編も二枚出てます。(CDコードはBVCP-2326と2327)私は持ってませんが。
 彼がシティ・スリッカーズを結成してこの活動を開始したのは1941年末。当然録音はモノラルで音も悪いです。しかしハワイが日本軍に襲われてトラトラトラな頃、本土ではこんな脳天気な事やってたんですね。
 うがいで歌うのはこの人の十八番らしいです。そればかりか鍋やフライパン叩いて演奏してみたり、おもちゃの笛やピストルやクラクション、くしゃみにげっぷに至るまで、とにかく音の出るものは何でも使ってます。まともな楽器ももちろんありますが、トランペットなんかはたいがい変なミュートが付いてたりします。
 楽器が楽器なら歌詞も歌詞で、『美しく青きドナウ』はいかにドナウ川が青くなくて緑かを原曲と無関係なメロディで歌い上げてます。『時の踊り』は途中からカーレースになるし(優勝はまたビートルバウムだし)、『ただあこがれを知る者だけが』では男女の会話がなにやら複雑怪奇で何角関係だかわからない人間関係を語り始めるし。

 大作にして傑作なのは『カルメン』ですね。はちゃめちゃなビゼーのカルメンにのって、体重300パウンドのカルメンと、片目が青、もう片方が緑、真ん中が黄の闘牛師エスカピーロの恋物語が進行します。カルメンはエスカピーロとライバルのドン・シュモーゼのどちらを選ぶべきか、ジプシーの手相見に占ってもらいます。ところがくすぐったがり屋のカルメンは手のひらをいじられて笑い出してしまい、仕返しにジプシーをくすぐって二人して笑い声の合唱になる始末。聴いてる方も爆笑ものです。
 最後はドン・シュモーゼとエスカピーロの決闘となり、エスカピーロを倒そうとあせるシュモーゼは、闘牛と間違って乳牛をけしかけます。エスカピーロは牛乳で溺れ死に、結局シュモーゼがカルメンを手に入れるのでした。

 ライナー・ノートによると「天才スパイクの音楽は、後のスタン・フリバーグをはじめ、珍クラシック音楽祭を開催した漫画家ホフナング、あるいはP.D.Q.バッハそのほか多くの人々に影響を及ぼした」んだそうです。そう言えば昔あったタモリの『音楽は世界だ』ってTV番組で、モダンチョキチョキズがスパイク・ジョーンズの再現をやってましたっけ。
 てことで、お次はそのP.D.Q.バッハをどうぞ。ぱちぱちぱち。




P.D.Q.バッハ:1712年
演奏者とか:ピーター・シックリー教授 ナレーター、ピアニスト、怪楽器演奏および知的案内役
      ザ・グレーター・フープル・エリア・4Hクラブ管弦楽団  指揮:ウォルター・ブルーノ
発売年:1989年
会社とか:日本フォノグラム TELARC
番号:TCD-12 CD-80210
価格:税込3,008円
収録曲曲目に続くカッコ内の数字はシックリー番号
 1. イントロダクション                  1:35
 2. 1712年序曲(S.1712)                 11:33
 3. イントロダクション                  1:12
 4. バッハの肖像                    14:32
 5. イントロダクション                  2:53
 6. カプリッチョ「ラ・プッセル・ド・ニューオルリンズ」
  (ニューオルリンズの娘)(S.under18)           3:25
 7. イントロダクション                  1:14
 8. メヌエット・ミリテール(S.1A)             3:41
 9. イントロダクション                  1:33
10.「フリッツのアインシュタイン」への前奏曲(S.e=mt2)   6:37
11. イントロダクション                  1:47
「クリメテウスの伝道師」(無私も殺さぬ1幕バレエ)(S.988)
12. 1.プロローグ(底なしの悲しみ、天井知らずの喜び)    3:18
13. 2.ジェリー・マハの嘆き                3:06
14. 3.フィナーレ(テーマと変奏)―特別実演         5:57
 正式のタイトルは『P.D.Q.バッハ:1712年ならびにその他の音楽的驚愕』ですね。曲目には『イントロダクション』がたくさんありますが、これはそれに続く曲の解説が吹き込まれています。解説担当はピーター・シックリー教授です。ライナーノートの解説も含めて、とてもまじめで真摯で充実した内容です。それなのに解説中に蜂に襲われるは、いきなり床が抜けるは、ギャングの銃撃戦に巻き込まれて火事になるは、果てはだじゃれを飛ばしてあきれた楽団員に帰られるは、実にえらい目に遭ってます。ああ可哀想なシックリー教授。

 なので私もまじめに解説しましょう。P.D.Q.バッハというのはJ.S.バッハの末っ子で、シックリー教授が彼の数々の音楽作品を発掘したのです。
 単にバッハと言うと、普通は大バッハである"Johann Sebastian Bach"を指します。この大バッハは子沢山で有名で、一族には多くの音楽家がいます。大バッハの次あたりによく知られているのは中バッハと言うわけではなく、C.P.E.バッハ(Carl Philipp Emanuel Bach)あたりでしょうか。さらにその次は小バッハではなく(しつこい)J.C.バッハ(Johann Christian Bach)とか、W.F.バッハ(Wilhelm Friedemann Bach)、J.C.F.バッハ(Johann Christoph Friedrich Bach)なんてのが居ますね。
 でも、私も含めてちょっとクラシックをかじったくらいだと「たくさん居る」のは知ってても、何人居るかとか名前までは普通知りません。上のは改めて調べました。だから末っ子がP.D.Q.だと言われると信じますよね。ところがこれは"Pretty Down Quick"の略で、「即席」とか「でっちあげ」の事なんですとさ。

 さてジャケットの左下を見てください。なんか黄色い歪んだ楕円が見えますね。これは風船です。中には"CAUTION! DIGITAL SOUND EFFECTS See Booklet, Page 2"と書いてあります。そのブックレットの2ページには大きな音が出るのでスピーカーの破損に注意、って事が書いてあります。
 これは表題作『1712年序曲』の元ねたであるチャイコフスキーの『大序曲1812年』では、初演の時に大太鼓の替わりに大砲ぶっ放したって話があって、同じテラークから出てるその曲のCD(カンゼル指揮シンシナティSO)には、実際に大砲の音が収録されてます。そのジャケットにやっぱり黄色いマークが付いてて、スピーカー破損注意と書いてあるのになぞらえてるわけです。
 ちなみにこのカンゼルとシンシナティSOがコンサートでこの曲やるときは、ステージの裏でやっぱりぶっ放すんだそうで、TVでその様子をうつしてました。大砲と言っても打ち上げ花火の筒みたいなやつで、それに火薬詰めて並べといて、演奏に合わせて電気着火でドカンとやるわけです。
 なんか話がこのCDから逸れましたが、この1712年の方では大太鼓の替わりの大砲の替わりに風船が破裂します。ジャケットの写真に大砲と風船が写ってるのはそう言うことです。大序曲の大砲が風船になっても中序曲や小序曲と言うわけではありません(しつこいってば)。

 さあ無粋な解説はまだ続きます。
 このCDの構成はいわゆるクラシック音楽の研究家とか解説書を茶化したものになってます。曲目自体も1812年を始めとする有名曲のパロディです。1712年の場合はベースとなる1812年に、あるときは堂々と、ある時はこっそりと違う曲の旋律が紛れ込んでたりします。クラシックのみならずビートルズのデイ・トリッパーなんかも、それもパイプオルガンで。
 あと、演奏者のシックリー教授の担当に「怪楽器演奏」とありますが、これは主にトラック14の事です。これはベートーヴェンの交響曲第3番『英雄』のフィナーレが元ねたで、P.D.Q.バッハがベートーヴェンは耳が聞こえないのをいい事にテーマを盗んだ、と解説にあります。そしてここだけわざわざトラックの下にインデックスが付いてます。元の曲が変奏曲なので、変奏毎にインデックス付ける事があるのに倣ったものでしょう。ちなみにこんな感じです。カッコ内が怪楽器。

 14 Index[1] テーマ(windbreaker)       (0:35)
 14 Index[2] 変奏1(balloons)         (0:24)
 14 Index[3] 変奏2(Slide whistle)      (1:06)
 14 Index[4] 変奏3(Slide windbreaker)    (0:16)
 14 Index[5] 変奏4(lasso d'amore)      (2:31)
 14 Index[6] 変奏5(foghorn, bells, kazoo)  (1:05)
 P.D.Q.バッハは他にもシリーズで何枚か出てますが、いいかげん解説長いのでもうやめて次のホフナングに行きましょう。




元祖!ホフナング音楽祭のすべて
演奏者とか:省略
発売年月:1991年6月
会社とか:東芝EMI
番号:TOCE-6248・49(二枚組)
価格:税込4,120円
収録曲
CD 1
CD 2
第1回ホフナング音楽祭 1956年
第2回ホフナング音楽祭 1958年  69'55"
第2回ホフナング音楽祭(承前)
第3回ホフナング音楽祭 1961年  78'43"

ホフナング音楽祭 1988
演奏者とか:フィルハーモニア管弦楽団
      指揮:フランク・レントン、マイケル・マッセイ、トム・バーグマン、マーク・フィッツジェラルド、ジョセフ・ホロヴィッツ
発売年月:1989年7月
会社とか:ポリドール
番号:FOOL-20418/9 (二枚組)
価格:税込5,634円
収録曲
CD 1
CD 2
 1. チューニングと冒頭の挨拶           0:39
 2. ホフナング音楽祭ファンファーレ        0:51
 3. 大大序曲                   7:28
 4. 水道ホースと管弦楽のための協奏曲       3:12
 5. カウント・ダウン地方のバラード        6:24
 6. テイ川の鯨                  7:05
 7. オペラ「カジモドとジュリエッタ」よりアリア  7:35
 8. 咳をする人                  5:27
 9. 序曲「レオノーレ」第4番          11:24
10. ロッキンヴァー                7:09
11. 人気協奏曲                 12:55
1. コンサート・マスター             1:39
2. ヴァイオリンと管弦楽のための「恋の協奏曲」  13:45
3. 序曲「バグパイプはわめく」          9:40
4. 「びっくり」交響曲              8:09
5. ベッドタイムのテーマによる変容        12:34
6. オーケストラ・メドレー            8:41
7. ピアノと管弦楽のための不協奏曲        9:48




 さて妙盤の大トリはホフナング音楽祭です。ホフヌングと書かれることもあります。

 ジェラード・ホフナングはイギリスの漫画家で、音楽家、演奏家の様々な情景を実にユーモラスに描き出しました。とても面白いんですが、ジャケットだけじゃわかりにくくてごめんなさい。アカデミア・ミュージックと言う出版社から本が出てるようなので、興味のある人はどうぞ。
 イギリスというと、BBCがモンティ・パイソンをやってた国柄だけあって、酔狂な、あ、いや愉快な人が多いみたいですね。それでホフナングの漫画をそのまま実行に移してしまったのが、このホフナング音楽祭なのです。
 上の方のスパイク・ジョーンズやP.D.Q.バッハとの大きな違いは、まず音楽祭と言うだけあってすべてライブ録音な点が上げられます。あと雰囲気もだいぶ違ってます。上の二つがアメリカン・ジョークなら、こっちはイングリッシュ・ユーモアですか。どこまでも大真面目にやってるのになんか変、で笑いをとる路線です。

 基本的に舞台芸術なので、音だけ聞いてても何やってんだかわかんないところが多々あります。
 例えば1988年版の『咳をする人』。これは次の『レオノーレ第4番』を始めようとオーケストラが身構えると、客席最前列の人が盛大に咳き込むので始められないんですね。何度もそれを繰り返すので、業を煮やした指揮者が看護婦を呼んで手当をさせます。するとたちまち咳が止まったお客さんは、今度はオペラ歌手ばりの美声で看護婦と一緒に歌い始め、指揮者が頭を抱えるのを後目に、恋に落ちた二人は劇場の外に消えていくのでした。そしてやっと邪魔者の消えたところで、無事レオノーレに取りかかると。

 そのレオノーレ序曲、元はベートーヴェンがオペラ『フィデリオ』のための序曲として書いて、気に入らなくてさんざんいじくり回して、1〜3番の三つのバージョンをひねり出した挙げ句にボツにした曲(結局別にフィデリオ序曲を書いた)なんです。聞き所の一つはクライマックスで舞台裏の遠くから鳴り響くトランペットのファンファーレで、これは全バージョン共通です。
 それでレオノーレとしては最後の3番がよく演奏されるんですが、これはあるはずのない4番。始まってみると、しばらくはまあまあそれらしく進行します。が、名物のファンファーレが出を間違えて、やたら早いとこで鳴り出します。おまけにルンペンみたいなストリート・ミュージシャンがずっと先のサビのところをぶんちゃかやりながら舞台になだれ込んでくるし、それがようやく出てってやれ安心と演奏を続けると、今度は出るはずのところでファンファーレが出ない。その直前の一節をもう一度繰り返して誘ってもやっぱり出ない。その隙にさっき追い出した連中がまた出ようとしたりして。しょうがないのでファンファーレを諦めて先に進むと、とんでもないところに来て舞台裏どころか客席のあちこちに潜んでいたラッパ隊が一斉にぱーっぱらぱっぱっぱ〜とやり始めるのでした。

 他にもビニール・ホースの両端に漏斗とマウスピースを付けたものでレオポルト・モーツァルト(有名なW.A.モーツァルトの父)のアルペンホルン協奏曲をやるは、「びっくり」交響曲では例のとこでなんか爆発するは、いろんなくすぐりの大ねた小ねたが次々と繰り出されます。

 てことで、実際に見た方が間違いなく楽しいので、画像があるのは下のレーザー・ディスクです。

ホフナング音楽祭・ライブ (LASER DISC)
演奏者とか:トム・バーグマン、パヴェル・ヴォンドルーシュカ指揮 プラハ交響楽団、他
オーケストラのメイド:アネッタ・ホフナング
収録年月:1992年5月
会社とか:DENON 日本コロムビア
番号:COLO-3073
価格:税込5,800円
収録曲
SIDE 1
1. オープニング〜チューニング
2. 大々序曲
3. 水道ホースと管弦楽のための協奏曲
4. オペラ《カジモドとジュリエッタ》よりアリア
5. 愛の協奏曲
SIDE 2
1. 序曲《レオノーレ》第4番
2. オーケストラ・スウィッチ
3.「びっくり」シンフォニー
4. 人気協奏曲
5. アンコール
 実は一番上の『元祖!……』のCD、演目は省略してしまいましたが、公演三回ともばらばらのプログラムを組んでます。ホフナング本人も出演してたりして、とにかくいろんな思いつきをやってた様子がうかがえます。それが年代を追うに連れて徐々にウケるやつが淘汰されてきて、最後のLDのプログラムに落ち着いたみたいです。
 それからどーでもいいことですが、CD二種とLDと、メーカーが全部違うのもなんだかすごいです。

 このLD、オーケストラはプラハ交響楽団です。そう、この頃(1990年前後)になると指揮者や主要なソリストが世界中を回って、現地のオーケストラとの競演でホフナング音楽祭の巡回公演をやってたんです。もちろん日本にも二度ばかり来ました。プログラムはLDと一緒です。私は1992年4月22日に新日フィルとやった日本初演を聴きに(見に?)行きましたよ。ふふーん。

 最後に一つ。音楽祭冒頭にある恒例の主催者挨拶では「御来場の皆様に誠に残念なお知らせが御座います。本日のコンサートは、やむを得ない事情により予定通り開催されてしまう事になりました。御理解のほど御願い申し上げます」とやるんですが、日本初演での挨拶はごくフツーでアタリマエの挨拶でした。日本人てマジメだなあ。


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