updated Sept.27 1998
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

3136. 未消化の年次有給休暇を行使するためにだけ契約期間を延長できますか?
 年次有給休暇の「消化」と「買い上げ」について質問させて頂きます。
 主人が転勤に伴う転居をするために、派遣先での就業が出来なくなってしまいました。契約期間を1ヵ月間残す形で退職することになります。
 派遣会社も派遣先も、とくに問題はなく退職を認めてくれました。
 派遣会社からは、良く働いてくれたと、転居先に近い支店に登録してほしいとまで言ってもらいました。
 しかし、良い仕事があったら紹介してほしいと思いますが、退職後1ヵ月以内に、同じ派遣会社から紹介されて就業できるという確証はありませんので、残っている有給休暇(10日間)を、今の支店で消化させてほしいと頼みました。
 最初、支店では、有給休暇は権利だから仕方ない、と言ってもらえたので、退職日を有給休暇消化最終日に設定することにしました。
 ところが、その後になって、「契約の最後の10日間が年次有給休暇で処理するというパターンは年次有給休暇の『消化』ではなく、『買い取り』にあたるので、法律で禁止されている」として、会社としては認められないという話に変わってしまいました。
 派遣会社が言うには、「今回の退職は、派遣社員の個人的理由によるもので、会社側の理由ではない」
「実際に就業していないのに、有給休暇を与えることはあり得ない」「有給は本来、休養やリフレッシュという目的で取得するもの。今回のような理由では有給を消化することは法律上できない。」というものです。
 少しニュアンスは違いますが、「10日間全部ではなく、せめて5日くらいまでだったら認めてもよい」という話もありました。
 今回のようなことは果たして「有給の買い取り」となるのでしょうか?


 
 ご相談の事例は、年次有給休暇の時季指定の問題です。退職間際に、未消化の年次
有給休暇を取得することができるか、使用者としてそれを拒否することができるか、
という問題です。
 基本的には、年次有給休暇の「買上げ」という問題ではありません。

 まず、退職前に未消化の年次有給休暇を消化したい、という要請は、労働者として
当然の労働基準法に定めた年次有給休暇の請求です。
 法的には、何ら問題はありません。

 退職前に未消化の年次有給休暇分を設定すること、あるいは最初の契約期間は、派
遣先で就労するとして、年次有給休暇分の日数を延長することは、きわめて合理的な
ものです。何ら問題はないと思います。

 「有給の買い取り」というのは、たしかに禁止されていますが、ご相談の場合には、労働契約を延長することになりますので、買い取りではなく、年次有給休暇の消化になると考えられますので、法的にはまったく問題がありません。

 というよりも、短期契約労働者の場合には、実際にはこのような処理が多いのです。
 例えば、私の手元にあります、社会保険労務士の方が企業向けに書かれた実務書〔真島伸一郎『労働法便利事典』(こう書房、1998年7月)〕にも、次のように記載されています。
‖ 72頁
‖ Q27 退職時の有休消化申し出は拒否できるか?
‖ 法律的には無条件に認めざるを得ない。
‖ 〔未消化年次有給休暇30日を残している労働者が退職前にそれを消化した
‖と申入れた事例への回答となっています。〕

 そこでは「結局、労働者から有休消化の申し出があったときは、使用者は無条件に認めざるを得ないとの結論になります。」
 「ただしこれはあくまでも法律の話であって、労務管理上はもっと柔軟な対応をしてもよいでしょう。法律は拒否を禁じていますが、依頼することまでは禁じていません。本人を説得して、30日のうち、10日くらいは出てきてもらうようにしたらどうでしょうか。本人が納得すれば問題はありません。その際、未消化に終わる10日分の有給休暇については、買い上げても構いません(もちろん、会社にその旨の規定があればです)」と指摘しています。  また、「* 有給休暇の買い上げは基本的には禁じられていますが、右記の場合と、法定の日数を上回る分については、認められます」とも指摘しています。
 この著者は、例外としての「買い上げ」が認められることも指摘しています。これは、実は、労働基準監督署の考え方なのです。

 年次有給休暇は、労働基準法による最低基準です。労働者からの請求があれば、付与するのが法的義務ですので、付与しなかった場合には、派遣会社の責任者(支店長等)は、「使用者」として、罰則(刑事罰)適用を受ける可能性もあります。
 会社としても、大きなミスです。派遣労働者が、労働基準監督署などに相談すればミスが明らかになり、注意を受けますので、大きな信用問題にもなります。

 年次有給休暇については、基本的に理由を問題にすることはできません。
 退職は派遣労働者の個人的理由によるかもしれませんが、それと年次有給休暇を結びつけることはできません。年次有給休暇というのは、過去6ヵ月以上、継続して勤務したことによる「功労報償」という意味もあるからです。

 派遣先との就労が終わっていても、派遣元との労働契約は継続していますので、年次有給休暇を派遣元に請求することで、法的には何らの問題もありません。

 年次有給休暇10日分は、使用者として当然に負担すべき最低基準です。
 短期契約満了前や退職前の労働者が未消化の年次有給休暇を消化することは、たしかに、休養やリフレッシュに当らないように思いますが、それは、会社の発想です。
 本人にとっては、退職後また働く訳ですから、休養やリフレッシュになります。
 年次有給休暇は、会社のものではなく、労働者個人の権利であることを忘れているのだと思います。

 年次有給休暇の買い上げにはなりませんし、真島さんの指摘する措置では、例外として「買い上げ」も認められています。この点でも、会社の言うことは誤りです。
 この110番の相談結果であるということで十分でなければ、東京都の労政事務所の担当者がまとめた、

 金子雅臣・小川浩一著『パート・アルバイトのトラブル対処術』(緑風出版、1997年4月)にも、

‖ Q25 年休を退職前にまとめて取ることはできるでしょうか。
‖ 使用者は、退職前の年休請求を拒否できません

 という趣旨で、詳しい回答があります。

 こうした書物を示して、派遣会社に、ご相談者の要請が何ら法的に問題がないものであることを説明していただければと思います。


 年次有給休暇に関連したQ&Aとしては、次のものをご覧ください。
  qa1060.派遣か正社員か? 派遣で働くときの注意は?
  qa2005.派遣労働ってどういうものですか?
  qa3088.派遣労働者の有給休暇の取り扱いは?
  qa3090.有給休暇はだれに請求したらよいのでしょうか?
  qa3100.有給休暇(常用型の場合) 
  qa3110.登録型派遣労働者も年次有給休暇があるのですか。
  qa3115.登録型の場合、年次有給休暇の要件の8割の出勤とは?
  qa3120.年休の要件である8割出勤とはどう計算するのですか。
  qa3132.年休は月3日が上限だとされ、賃金から減額されたが?
  qa3133.契約満了前に残っていた年次有給休暇を行使したい
  qa3134.年次有給休暇の按分付与は認められるのでしょうか?
  qa3135.1ヵ月と1日以上の空白があれば年次有給休暇が消える
  qa3136.未消化の年次有給休暇を行使するためにだけ契約期間を延長することができますか?

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