updated Aug. 24 1998
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

3134. 次のような有給休暇の按分付与の表が派遣元から配付されました。これだと半年勤務で10日と考えていた年次有給休暇がもらえないと思うのですが?
 年次有給休暇についての年度は4月1日から3月末日です。初年度は権利取得後の3月までとなっています。

              派遣スタッフ年次有給休暇表

 

1ヵ月

2ヵ月

3ヵ月

4ヵ月

5ヵ月

6ヵ月

7ヵ月

8ヵ月

9ヵ月

10ヵ月

11ヵ月

12ヵ月

 初年

 1

 2

 2

 2

 3

 4

 5

 6

 7

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 10

 2年

 1

 2

 2

 3

 4

 5

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 10

 11

 3年

 1

 2

 3

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 5

 6

 7

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 10

 11

 12

 4年

 1

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 5

 6

 7

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 11

 12

 13

 5年

 1

 2

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 13

 14

 6年

 1

 2

 3

 5

 6

 7

 9

 10

 11

 13

 14

 15

 7年

 2

 3

 4

 5

 7

 8

 10

 11

 12

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 15

 16

 8年

 2

 3

 4

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 8

 10

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 12

 15

 16

 17

 9年

 2

 3

 4

 6

 7

 8

 11

 12

 13

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 17

 18

10年

 2

 3

 4

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 9

 12

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 17

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 19

11年

 3

 4

 5

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 9

 10

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 14

 15

 18

 19

 20


 労働基準法の法定年次有給休暇を「按分」付与することはできない、というのが、判例や労働省の確立した考え方です。
 6ヵ月の勤務で、10日の年次有給休暇が発生したら、その発生日からすぐにまとめて10日の年次有給休暇を請求することができるのです。

 年度の中途で退職する労働者には、年次有給休暇を按分して少なく付与することにした会社の事件が裁判で争われたことがあります。

 例えば、6ヵ月で10日の年次有給休暇が発生しているのですが、これを按分比例して支給しようとするのが会社の考え方と思います。6ヵ月から1年6ヵ月の間にいつでも10日を行使できるとすれば、発生から2ヵ月目中途退職する者も10日、11ヵ月目で退職する者も10日というのは公平でない、ということが理由だと推測できます。
 しかし、裁判所や労働省は、こうした按分比例による付与を否定しています。2ヵ月目であろうが、11ヵ月目であろうが、発生日より10日間の年次有給休暇を行使できるとする、労働基準法第39条の解釈を明確にしています。

 労働省の解説書等でも、「年休は、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養をはかることを目的として、6ヵ月経過した時点で労働者に権利として発生するものですから、年中途で退職するからといって勝手に削減することはできないわけで、発生日において全日数を付与することになります」と、この判決の考え方に従って、按分付与を否定しています。
 裁判例では、労働基準法の定める年次有給休暇の按分付与ではなく、労働基準法をはるかに上回る20日の年次有給休暇を定める米軍基地従業員の基本労務契約をめぐる全駐労事件での判決があります。つまり、米軍基地で働く日本人労働者は、労働基準法が定める当時の1年継続勤務(全労働日8割以上勤務)で6日の年次有給休暇ではなく、最初から年20日の年次有給休暇を付与されていたのです。この20日の年次有給休暇について、年度の途中で退職する者と最後まで働く者が同じ日数というのは公平ではないと考えて、年度途中退職者に限って按分付与が定められていた訳です。
 那覇地裁・昭和52年12月19日判決は、退職時まで12分の20の割合で年次有給休暇を付与するべきだとしました。しかし、福岡高裁那覇支部・昭和53年12月19日判決や東京地裁・昭和52年4月28日判決は、この那覇地裁の考え方とは逆に按分付与を否定し、1年に20日という休暇は確定しているから、それを削減することできない、と判決したのです。
 注意する必要があるのは、この事例は、ご相談の事例とはまったく違って、労働基準法の日数を大きく上回る1年に20日という年次有給休暇であったことです。
 今年は、1998年ですから、この20年前の判決や労働省の解釈で確立した考え方を、この派遣会社は知らないで、大昔にはっきりと否定されてた奇妙な考え方をどこからか、しかも、きわめて不正確に引っ張りだしたとしか思えません。

 6ヵ月後には10日間の年次有給休暇が発生します。例えば、夏休みにイタリアへ旅行する計画をたてて、10日間の年次有給休暇を請求することなど一括取得が可能ですし、むしろ、労働基準法ではそれを望ましいと考えているのです。
 労働者にとって一番よい時季にまとめて、10日から勤務年数によって20日の年次有給休暇を取得することができるのです。

 労働基準監督署(労働省)もこの按分付与を否定しています。
 要するに、労働基準法の趣旨を理解していないと思います。法違反です。
 会社を管轄する労働基準監督署に相談して下さい。労働基準監督署に、この奇妙な按分表を改める(撤回する)ように、行政指導を求めることができます。

 労働者は、労働基準法通りの年次有給休暇の権利を失いません。
 会社の就業規則や会社との労働契約よりも、労働基準法のほうが優越するからです。
 もし、労働基準法通りの年次有給休暇を請求したとき、会社が、それを拒否したときには、労働基準法違反となります。罰則もありますので、その適用を求めて、労働基準監督署に刑事告発することが可能です。

 民事的にも、年次有給休暇を請求して行使できなかったときには、年次有給休暇分の賃金を遡って請求することができますし、裁判での請求であれば、同額の付加金も請求することができます。これまでの裁判でも、年次有給休暇を与えなかったことでこの付加金を含めての支払を命じた例がかなりあります。

 できれば、同じ按分表を渡された派遣スタッフで話合って、集団的に交渉するなど複数で問題にして下さい。労働基準監督署も個人の申告よりも複数の訴えで動いてくれやすくなります。


 年次有給休暇に関連したQ&Aとしては、次のものをご覧ください。
  qa1060.派遣か正社員か? 派遣で働くときの注意は?
  qa2005.派遣労働ってどういうものですか?
  qa3088.派遣労働者の有給休暇の取り扱いは?
  qa3090.有給休暇はだれに請求したらよいのでしょうか?
  qa3100.有給休暇(常用型の場合) 
  qa3110.登録型派遣労働者も年次有給休暇があるのですか。
  qa3115.登録型の場合、年次有給休暇の要件の8割の出勤とは?
  qa3120.年休の要件である8割出勤とはどう計算するのですか。
  qa3132.年休は月3日が上限だとされ、賃金から減額されたが?
  qa3133.契約満了前に残っていた年次有給休暇を行使したい
  qa3134.年次有給休暇の按分付与は認められるのでしょうか?
  qa3135.1ヵ月と1日以上の空白があれば年次有給休暇が消える
  qa3136.未消化の年次有給休暇を行使するためにだけ契約期間を延長することができますか?

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