updated Sept.2 1998
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

3133. 契約満了前に残っていた年次有給休暇を行使したいのですが?
 雇用契約は6ヶ月ごとの契約です。11月に契約更新をして5月11日で今回の契約期間が終了します。そしてこの次の契約更新が難しいような状況なので派遣会社(派遣元)を辞めようと思っています。残っている有給休暇9日を使い退社したいと思って、「契約終了日の5月11日から9日間遡った日で退社したい」と会社に言ったら、「そういう有給休暇の使い方はできない」と言われました。
 派遣先では派遣先の組合員(正社員など)が手厚く保護されていて(月30時間以上の残業の禁止、休暇の完全消化促進等)生産が追いつかない状況では私たち派遣社員や、アルバイト等の非組合員で残業や休日出勤で対応すると言う方針でとても有給休暇を使いたい等と言い出せませんでした。
 かりに無理に有給休暇を使ったりすればあいつは使えない奴だと思われるような空気が職場には漂っていて 派遣社員はみなびくびくしていました。
 こんな状態だったのて゛有給休暇は辞めるときにまとめてとって辞めようと思っていたのに会社にそういう有給休暇の使い方は出来ないと言われどうしたものかと悩んでいます。
 会社の言うようにこういう有給休暇の使い方は本当に出来ないんでしょうか? 良きアドバイスをお願いいたします。
  年次有給休暇については、(1)労働契約、(2)就業規則、(3)労働協約、で決められることが通常です。(4)労働基準法第39条が、最低の基準として年次有給休暇の権利を保障しています。

 労働基準法は、第39条で次のように規定しています。

 労働基準法第39条(年次有給休暇)

  1 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
 2 使用者は、一年六箇月以上継続勤務した労働者に対しては、六箇月を超えて継続勤務する日から起算した継続勤務年数一年(当該労働者が全労働日の八割以上出勤した一年に限る。)ごとに、前項の日数に一労働日を加算した有給休暇を与えなければならない。ただし、総日数が二十日を超える場合においては、その超える日数については有給休暇を与えることを要しない。


 以上については、とくに問題ではないようです。

 ご相談の場合は、年次有給休暇を与える時季についての争いですので、次の第39条第4項に違反か、否かの問題と言えます。
 労働基準法第39条第4項(時季指定と時季変更)

 使用者は、前三項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。


 年次有給休暇は、「労働者の請求する時季に与えなければならない」わけですので、あくまでも労働者がその時季を指定する権利をもっています(時季指定権)。
 したがって、契約期間満了前であっても、労働者がその時季を指定した以上、使用者は、その時季に年次有給休暇を付与する義務があることになります。原則として、使用者は、それを拒否することはできません。

 契約期間満了前であれば、年次有給休暇の時季を指定できないという制約はどこにもありません。むしろ、契約期間を限定された労働者にとっては、期間満了前にしか、年次有給休暇をとれないというのが実情としてもよくあることです。何ら問題はありません。

 もし、労働者が指定した時季に年次有給休暇を付与しなければ、それは、労働基準法第39条第4項違反に当り、「六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金」といったかなり重い罰則(第119条)も予定されています。

 ご相談の場合は、労働者(ご相談者)が、時季を指定して年次有給休暇を請求されたのに対して、使用者がそれを拒否した訳ですので、明らかに労働基準法違反となります。

 問題となるのは、第39条第4項のただし書き「ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」です。

 労働者が、指定した時季が特別な繁忙期であるとか、他の労働者も一斉に同時季を指定する等の結果、「事業の正常な運営を妨げる場合」には、使用者は、他の時季に変更するという「時季変更権」をもつにすぎません。

 ご相談の場合、使用者は、年次有給休暇を拒否しているのであって、他の時季に与えるという「時季変更権」の行使をしている訳ではありませんので、明らかに、このただし書きにも該当しません。

 年次有給休暇は、労働者が請求しないと発生しない権利です。
 この使用者(派遣元)のねらいは、労働者が「請求を引っ込めて」泣き寝入りすることです。最後まで、年次有給休暇の請求を引っ込めないで請求を貫徹することが必要です。

 法の解釈は以上の通り明らかですので、後は、どこまで権利を追求するかです。

 A 内容証明郵便などによる年次有給休暇請求の明確な意思表示

 まず、年次有給休暇の請求を明確な意思として表示することが有効だと思います。これは、次のB以下にとっても重要な前提になるからです。年次有給休暇を明確に請求しなかったり、引っ込めたりすると、B以下の根拠がなくなってしまいます。

 B 労働基準監督署への申告

 労働基準法違反ですし、罰則もありますので、労働基準監督署へ申告することが次の方法として考えられます。
 最近の労働行政は、頼りないという声をよく聞きます。できれば、支援者など、複数で労働基準監督署へ申告に行ってください。
 申告の前に「相談」といった形で、「難しい」といって、労働者をあきらめさせ、動こうとしない態度も労働基準監督署にはありますので、毅然として権利を追求する姿勢を示してください。専門の労働基準監督官ではない、事務官が対応する例もありますので、監督官と会いたいとがんばって下さい。
 できれば、使用者の処罰を求めたいと考えていると言えば、ほとんどの場合申告に応ずると思います。

 C 労政事務所などへの相談

 D 労働組合への加入・結成による団体交渉

 労働者が年次有給休暇を請求できないように、ギリギリの人員体制をとるのが、日本の労務管理の特徴です。

 ご相談の事例では、派遣先の従業員には年次有給休暇が保障され、ギリギリの体制での問題点を派遣労働者にしわ寄せしている、ということですね。

 正社員は、労働組合に加入して高い労働条件を守れるのに、派遣社員やアルバイトは、労働組合に加入できず、残業、休日出勤、年休未消化というのでは、何のための労働組合か、判りませんね。

 憲法第28条は、労働者の団結権を保障しています。
 団結権は、恵まれた正社員だけの特権ではありません。派遣先の正社員労働組合は、派遣社員やアルバイトを組合に加入させる義務があると私は思いますし、少なくとも、派遣社員やアルバイトの労働条件改善に取り組む必要があると思います。
 いずれにしても、労働基準法は最低の労働基準を定めています。現実は、どうであれ、派遣元は、労働基準法を守る義務があり、労働者は、派遣社員であっても、アルバイトであっても、労働基準法上の権利を求めることができるのです。
 派遣社員の弱い立場にワルノリした、派遣元、派遣先の対応だと思います。
 派遣社員が、年次有給休暇を取らないことで、派遣元、さらに派遣元に派遣料金を支払う派遣先は、人件費を大幅に削減し、大きな利益を稼げるのです。

 年次有給休暇が10日ある派遣社員が30人もいれば、日給1万円として300万円を使用者(派遣元)は負担しなければなりません。しかし、年次有給休暇を請求しにくい雰囲気を作って、実際に使わせなければ、それは直接に、使用者の利益になります。使用者は、300万円を利益に算入することができるのです。

 これは、「窃盗」などと同じく、労働者の権利を奪う、レッキとした「犯罪」なのです。

 とにかく、年次有給休暇を請求して下さい。
 あなたが行った時季指定も、やむを得ないもので、とくに問題はありません。
 派遣元は、別の労働者を派遣すれば、派遣先に対しては、契約違反の責任を追及されることはありません。労働者が年次有給休暇を請求することを、使用者としては当然に予定した人員をとることが労働基準法によって求められているのですから、人員が足りないことを理由に、年次有給休暇を拒否すること自体が許されないことです。

 年次有給休暇を請求することがいかにも「異常なこと」だと思わせて、権利を請求しにくくしているとすれば、それ自体が、社会的に法的に制裁を受けるべきことだと考えます。

 刑事処分を求めるといった強い態度で、交渉したり、労働基準監督署への申告によって、道は開けると思います。申告によって不利益な取扱をすることも、労働基準法によって禁止されています。
 労働基準法第104条(監督機関に対する申告)

  1 事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。
 2 使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。

 相手方の不当な措置(解雇など)が考えられますが、一方的に通告して、年次有給休暇を取得してしまうことが考えられます。その休暇中の賃金を支払わなかったときには、未払い賃金+同額の附加金を裁判で請求することが可能です。
 労働基準法第114条(付加金の支払)

 裁判所は、第二十条、第二十六条若しくは第三十七条の規定に違反した使用者又は第三十九条第六項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から二年以内にしなければならない。


 もし、派遣元があくまでも年次有給休暇を認めないまま、契約期間満了まで労働してしまったときには、事後的にも、年次有給休暇についての権利を侵害されたことについて、年次有給休暇期間の賃金相当分を「損害賠償」として請求することが可能です。

 年次有給休暇に関連したQ&Aとしては、次のものをご覧ください。
  qa1060.派遣か正社員か? 派遣で働くときの注意は?
  qa2005.派遣労働ってどういうものですか?
  qa3088.派遣労働者の有給休暇の取り扱いは?
  qa3090.有給休暇はだれに請求したらよいのでしょうか?
  qa3100.有給休暇(常用型の場合) 
  qa3110.登録型派遣労働者も年次有給休暇があるのですか。
  qa3115.登録型の場合、年次有給休暇の要件の8割の出勤とは?
  qa3120.年休の要件である8割出勤とはどう計算するのですか。
  qa3132.年休は月3日が上限だとされ、賃金から減額されたが?
  qa3133.契約満了前に残っていた年次有給休暇を行使したい
  qa3134.年次有給休暇の按分付与は認められるのでしょうか?
  qa3135.1ヵ月と1日以上の空白があれば年次有給休暇が消える
  qa3136.未消化の年次有給休暇を行使するためにだけ契約期間を延長することができますか?

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