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第12回
やはり、のど自慢ではいけない

 2002年の「紅白歌合戦」出場歌手は11月26日に発表されました。驚いたのは、中島みゆきさんが出場する――出てくださる――ことです。インターネットのニュースでこの記事を見た僕は、思わず「えーっ」と大声を上げてしまいました。「うれしい悲鳴」です。
 第2回で、サ*ンオールス*ーズなどの大御所が出場しないことについての不満を書きましたが、今回はNHKの交渉力に心から敬意を表します。
 「NHKニュース10」(2002.11.26)では、中島みゆきさんについて「デビュー27年で初出場」という字幕をつけていました。なんだか「苦節27年でやっと『紅白』に出場がかなった」というような書き方ではあります。

 翌日の夕刊フジのサイト「ZAKZAK」は、今回の「紅白」について「脱演歌」、「童謡・民謡・クラシックと幅広く」と伝えています。演歌勢の出場歌手は「約3分の1の19組に激減。特に紅組は、昨年の15人から9人へという顕著ぶり」と「大英断をふるった」のだそうで、これは僕の主張「演歌の出場枠は減らせ」とも一致しています。演歌枠の縮小は「『紅白検証プロジェクト』を設置し、各所でアンケートを行った結果による」(「ZAKZAK」)ということです。NHKがひそかにリストラの努力をしていたことが分かります。
 出場歌手全体を見渡しても、期待の持てる人が多く、今年の「紅白」はいつもに増して楽しめそうです。

 今年の「紅白」を楽しめるかどうか、ずいぶん心配していました。何しろ、昨年の「紅白」が「のど自慢」と見まがうばかりの、問題の多いものだったからです。
 最近の「紅白」では、歌にあまり重きを置いていないのではないかと思われることがしばしばありまた。とりわけ、中島みゆきさんのような「大御所」に辞退され、また、大きなヒット曲もなかった年には、「紅白」の演出に担当者はたいへん苦労しているように見えました。
 こういうとき、頼りにされるのは「バラエティ枠」の人々、つまり、歌手以外のタレントやコメディアンといった人たちです。たとえば、最近では、「とんねるず」とそのスタッフからなる「野猿」なるグループが、1999年、2000年と続けて出場しました。人目は引きますが、「紅白」を本当に盛り上げることになったかどうかは別問題です。

 2001年の「紅白」では、歌手を本職にしていない人がいつもにも増して多く出場しました。えなりかずき(「おいらに惚れちゃ怪我するぜ!」)、Re:Japan(「明日があるさ新世紀スペシャル」)、ザ・ドリフターズ(「ドリフのほんとにほんとにご苦労さんスペシャル」)、そして森昌子(「森昌子メモリアルスペシャル」)。スペシャルづくしです。
 森昌子さんは、若いぽっと出の歌手よりはよほど歌のうまい人ですが、今や本職ではありません。もし、引退せずに歌い続けていれば、今ごろは鬼気迫るほどのすばらしい歌を歌っていたに違いないけれど、2001年の「紅白」では、昔のヒット曲を(当時よりもわずかに色あせた声で)再現するにとどまりました。いわば「驚くほど歌のうまい一般人」であっても、「歌手枠」で出場したとはいえないのです。
 森さんはともかく、ほかに「バラエティ枠」の人が3人も出たのは、いかにもまずかった。歌を仕事にしていない人がたくさん出るのでは、「紅白」ではなく「のど自慢大会」になってしまいます。

 室井滋さんの主演する「のど自慢」という映画は面白かったけれど、僕は、日曜午後にやっている「のど自慢」はあまり見ません。素人の歌声を、ことさらテレビで聴きたくはないからです。あまり、いい気分にはなれません。まして、大晦日に「大のど自慢大会」を見る気にはなりません。
 あくまで「紅白」は、(理念としては)その年の最高の歌手が集まるべきです。なのに、のっけから「歌も歌える天才俳優」のえなりかずき君が出てきては、「これは『のど自慢』か、『かくし芸大会』か?」と、戸惑ってしまいます。

 そりゃ、楽しめることは楽しめますよ。僕も「ザ・ドリフターズ」の大ファンであり、いかりや長介さんたちが浴衣にたすき掛けで出てくるのを待ちに待っていました。かつての人気テレビ番組の一場面さえ再現してしまうのが「紅白」の魅力であることは間違いありません(「シュールさが「紅白歌合戦」の身上」参照)。
 でも、そういった人を驚かすような演出が、肝心の歌をないがしろにする結果になってはいけない。「歌手枠」ではない人が4組も出場しては、これは「歌合戦」として十分な内容にはならないでしょう。

 2001年の最大のヒットは、けっして、浜崎あゆみ「Dearest」(レコード大賞受賞)などの歌ではなく、歌手ではない吉本興業の人々が歌う「明日があるさ」だったのは間違いありません。
 ヒットというのは、レコード売り上げではなく、多くの人々に広く歌われ、親しまれ、しかもその年の気分を代表しているということです。ですから、歌手であろうがなかろうが、多くの人に支持されたリバイバル曲「明日があるさ」でRe:Japanが「紅白」に出たことはまったく当然です。
 とはいえ、彼らのすばらしく下手な歌が一番の目玉商品になってしまうのは、歌を聴かせるべき「紅白」としてはあまり幸せなことではありません。僕が演出するなら、この歌はもっぱらウルフルズに歌わせて、Re:Japanはバックコーラス、というふうにしたと思います。

 僕は「歌が「下手」ではいけないのか」と題して、声量で欧米の歌手に劣る日本の歌手に味方する文章を書いたことがあります。ただ、それはあくまで歌手の話。歌手ではない素人が、本式の「下手な歌」をひっさげて「紅白」に出場してはいけません。
 結局、2001年の「紅白」は、僕にとっては山田花子さんのとんきょうな歌声が印象に残る、いわば「のど自慢紅白」になってしまいました。

 僕はため息をつきました。小室哲哉のファミリーが良くも悪くも音楽シーンを賑わせた時代が終わり、本式の歌手によるめぼしいヒットもなく、ふたたび「紅白」は「冬の時代」を迎えるのだろうか(「愛唱歌の登場を望む」参照)と思いました。

 しかし、2002年はまた様相がちょっと変わっています。同じようにリバイバルヒットとはいえ、島谷ひとみ「亜麻色の髪の乙女」、平井堅「大きな古時計」といった聴かせる名曲が現れました(よくよく、リバイバルのはやる時代ですね)。
 これらの歌が無事「紅白」で歌われることが決まり、中島みゆきさんも出場するということですから、どうやら「紅白」の「のど自慢」化は避けられそうです。それどころか、相当充実した、観ごたえのある「紅白」になるのではないかと思います。

 「紅白」は、「のど自慢」でも「歌謡コンサート」でも「思い出のメロディー」でもいけません。「紅白」は「紅白」であってほしいのです。

(2002.11.27)


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