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第2回
「紅白歌合戦」に出ない人々

 「紅白歌合戦」への出場を拒否するベテラン歌手たちがいる。まったく、信じられないことです。歌手としての自覚が足りないんじゃないでしょうか(追記・この文章、こういう書き出しのため、ときどき激しい抗議をもらいます。紅白フリークの僕としては、自分の好きな「紅白」に出てくれない大歌手の人々に対して〈負け犬の遠ぼえ〉的にわざと激しいことばを使っているわけ。どうか、以下の文章を一種の同情をもって読んでください)。

 第1回にも書いたように、「紅白」は、国民レベルで「この1年を惜しみ、祝福する」というほとんど唯一の祭典です。近年の視聴率は五十数パーセントですから、国民レベルというのは決して大げさではありません。参加する層が厚ければ厚いほど、同時代を生きた人々の共通記憶としてその年の「紅白」が銘記されることになります。そこに出場したがらないのは、もしや自分たちの歌が同時代に存在しなかったことにしたいのでしょうか。

 「出場辞退」する人のコメントを新聞などで読むと、「予定が合わなかった」「大晦日は家族と過ごしたい」「恥ずかしい」などという、理由にもならない理由を挙げています。しかしまた、「紅白に出ても売り上げに結びつかない」というのが真の理由だと指摘する向きもあります。

 何という浅ましい考えでしょうか。ディスクが100万枚売れたところで、その歌が後世に残るかどうかは保証されません。ある歌が後々までひろく人々に愛唱されるためには、どの時点かで、限られたグループだけに支持されるという状態から抜け出て、「大衆化」(popularization)というプロセスを経る必要があります。そのプロセスを経なければ、100万枚売れても「マイナー」なのです。そして、そのプロセスとしてもっとも重要視すべきは「紅白」にほかならないのです。「レコード大賞」や「ゴールドディスク大賞」ではありません。

 大衆化とは何でしょうか。いわゆる「ファン」だけに受けるような表現から徐々に脱皮し、自分と異なった価値観をもつ人々にも影響を与え、考え方を変えさせるようになることです。大衆化した表現は、マイナーだったころのある種の過激さはなくなっているかもしれませんが、そのかわり、これまでより多くの人々の心を打ち、慰め、励ますことができる可能性があります。

 「紅白」の観衆および視聴者は、老若男女多岐にわたります。これは、他のステージでは考えられないことです。そうした場で歌い、他世代の反感・共感の洗礼をうけてこそ、その歌手の歌が真の意味で人々に共有され、愛唱歌として残ることにもなります。それを、「もうからないから」「NHKはダサいから」というようなつまらない理由で出場拒否するのは、自分たちが日本の文化を担っているという責任感に欠けているとしか考えられません。

 「自分たちだけで受けていればいいんだ」というのは浅はかな考え方であり、そんな歌手は大手レコード会社から曲を出す必要はないのです。そのへんの駅前ででも歌っていればよろしい。

 「紅白」に出ない理由の中で、まあまあ理解できる発言として、「『紅白』の舞台では最高の状態で歌を聴いてもらえない」というのがあります。たしかに、大物アーティストのライブでは、専属のPAも付いているでしょうし、音響効果を好みの状態にすることができるでしょう。しかし、そういう歌手にかぎって、民放の番組ではいくらでも歌っていたりするので、やはりそれも言い訳のひとつにしかすぎないのだと思います。

 サ*ンオールス*ーズや松*谷由*といったレベルの歌手になると、もはや紅白よりもメジャーになっているため、出場する必要がないという説があります。しかし、それは間違っています。たとえライブで何万人動員したとしても、「自分のファンしか聴いていない」ステージで歌っているかぎりは、価値観の違う人々との軋轢を経ていないという意味で、マイナーの水準にとどまっているのです。

 サ*ンオールス*ーズは過去には3回出場しているわけですが、1984年以降は拒否組です。1985年にアルバム「kamakura」を出して新しい段階に達したといわれているこのグループは、それ以降「紅白」によって他世代の評価を受けていないのです。悪くすると、100年ぐらい後、このグループの代表曲として歌い継がれるのは「勝手にシンドバット」「いとしのエリー」「チャコの海岸物語」といった時期の歌に留まるかもしれないのです。

 NHK側の責任もあります。毎年の出演交渉の時、大御所の辞退組については、初めから許諾を得ることを諦めていはしないでしょうか。電話1本をおざなりにかけて、「はあ、だめですか、ではまた来年……」というようなことで済ませていなければ幸いです。拒否組の人には誠意を持って、〈あなたが「紅白」に出場しなければ日本国民全員が悲しむ〉こと、〈あなたは「紅白」に出るべく運命づけられているのだ〉ということを、相手に理解してもらえるまで繰り返し説いて、快諾を得るべきだと思います。

(1998.10.18)


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