2004年05月

空中ブランコ(奥田英朗) 白い巨塔 第3巻(山崎豊子)
天才パイレーツ(戸梶圭太) 臨場(横山秀夫)
白い巨塔 第4巻(山崎豊子) あやまち(沢村凛)
いつか、ふたりは二匹(西澤保彦) 白い巨塔 第5巻(山崎豊子)
図書館の水脈(竹内真) Ave Maria(篠田真由美)
綺羅の柩(篠田真由美) 海辺のカフカ(村上春樹)
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空中ブランコ

著者奥田英朗 空中ブランコ
出版(判型)文藝春秋
出版年月2004.4
ISBN(価格)4-16-322870-5(\1238)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

イン・ザ・プール』の続編。型破りの精神科医・伊良部のもとへ来てしまった、悩める患者たち。しかし・・・

良いですね!やっぱりこのシリーズ(シリーズになっちゃった!)。マジで爆笑モノ。私がフガフガ笑いながら読んでいるのを見た相方は「気持ち悪い」と言ってたくせに、自分が読み始めたら、「やばい、電車の中で笑っちまった」と言ってました。今年最大の爆笑シリーズ。精神的な病気って、ほんとちょっとしたボタンの掛け違いだったり、考えなくてもいいことを考え過ぎちゃったりして起きるものも多いですから、こんな風にさらに上を行く変な医者だったりするのは、究極の対症療法なのかも?単なるおバカだけじゃなくて、ちょっと癒し系も入った本作。前作を読んでない人は是非是非前作から、前作を読んだ人はもちろん、超おすすめです。抱腹絶倒間違いなし!

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白い巨塔 第3巻

著者山崎豊子 白い巨塔 第3巻
出版(判型)講談社
出版年月2002.11
ISBN(価格)4-10-110435-2(\552)【amazon】【bk1
評価

外遊から帰ってきた財前の目の前に突きつけられたのは、一通の告訴状だった。財前が手術をし、外遊中に死亡した患者の遺族が、術前術後の不誠実な対応を不服とし、告訴に踏み切ったのだ。無理矢理に手に入れた今の地位を、こんなことで脅かされたくない・・・。財前は持ち前の政治力と義父の財力とで医療裁判を有利にすすめようとする。

ここまでが所謂『白い巨塔』という作品だったんですよね。この3作だけでは、国立大学病院の内実を暴いたドキュメンタリーとしては評価できても、エンターテイメントとしては確かに消化不良といった雰囲気。私は私大出身なのでこの雰囲気ってよく分かってないかもしれないのですが、今でもこんな感じなのですか?まあ確かに教授という人種は、ちょっと偉そうな人が多かったりしますけどね。一方で本当に学者バカっていうか、ひたすらこの学問が好きなんだなーという先生もいますよ。教育熱心な先生もいますし。医学部だからこそなのか?しかし、医学部っていうのは他の学部と違って、通常入学する時点で医者になるっていう意志を持って入るわけですよね。稼ぎたいなら、医学部じゃないほうが良いんじゃないかと思うし、政治家になりたいなら、別のルートのほうが楽な気がします。医学部に入れる頭があるなら、どの学部でも選びたい放題なのでは。前に菊川怜が、慶應医学部と東大と両方受かってて、結局東大を選んだのは、「医学部だと医者にしかなれないから」って言ってたのが記憶に残ってるのですが、その通りだと思うんですよ。大学に入るまでには健康診断もあるだろうし、医者に一度もかかってない人はそうそう無いでしょうから、医者がどういう仕事かも表面的にはわかってるはず。なのに、患者を助けることよりも、自分の地位を選ぼうとする、その気持ちがよくわからない。医学部の雰囲気がそうさせてしまうのでしょうか。

という疑問を持ちつつ、次に進みます。

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天才パイレーツ

著者戸梶圭太 天才パイレーツ
出版(判型)朝日新聞社
出版年月2004.4
ISBN(価格)4-02-257914-5(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★☆

社会に適応できない天才児9人と、彼らをもてあます普通の親たち。そんな親たちの元に朗報が届いた。破格の値段で社会に適応させるための約1ヶ月の船上セミナーがあるというのだ。ワラにもすがる思いの親たちは、その船上セミナーへ参加することになったのだが・・・。

破格の天才児たちを少しでもまともな人間に近づけることができるのか?というよりも、またしても途中からそんな筋はどこかへ飛んでしまって、むちゃむちゃなストーリー展開。もう少し天才児たちがこのはちゃめちゃな展開に絡んでくると面白かったかなあ。ある意味現実的な絡み方ではありましたが、せっかく専門的な天才児なんだから、思っても見ない解決を生み出してめでたしめでたし・・・じゃ戸梶じゃない?さあまたしても戸梶ワールド爆発の本作、あなたはついていけるのか?私の中では許容範囲くらいでした。結構紙一重天才児たちが面白かったし、そもそも下品なの好きだし。

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臨場

著者横山秀夫 臨場
出版(判型)光文社
出版年月2004.4
ISBN(価格)4-334-92429-8(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★☆

非常に鋭い観察眼を持ち、終身検死官と言われる倉石。慕われるその人柄と、仕事に対する姿勢に、倉石シンパの刑事も多い。実際に多くの事件で、彼の初動調査が解決の糸口になることがあった。

連作短編集。毎回あまり目立たない職に目を付け、目新しい切り口で物語を作っていくところはさすがだと思いますが、前も言ったように思うのですが「おーすごい!これはオススメ!」という抜けた面白さというのではないんですよね。堅実、ですがひとつ押しが足らない、というところでしょうか。十分読めるし、だからこそ続けて買ってしまうのですが、これはすごい!と言えるかというと微妙。作家としては勧められても、特にこれが傑作だよね、という作品が無いといった雰囲気(ある意味プロってことか)。連作という作品形態のせいもあると思うんですけどね。是非また長編書いてもらいたいです。

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白い巨塔 第4巻

著者山崎豊子 白い巨塔 第4巻
出版(判型)新潮文庫
出版年月2002.11
ISBN(価格)4-10-110436-0(\705)【amazon】【bk1
評価

医療ミスで訴えられた財前だったが、第一審は完勝。その勢いのまま学術会議選挙出馬を薦められ、選挙活動を開始する。一方、一審で退けられてしまった原告側はただちに控訴。人情派の弁護士は、新たな争点を探り出そうと、里見や東の力を借りながら奔走する。

前半では教授戦の攻防がなかなかでしたが、ここにきて財前を追いつめるにはどうしたらいいか、という原告側の苦悩、奔走が面白く読めます。快進撃を続けてきた財前君も、ここにきて八方ふさがりの様相なのも、物語を面白くしているところかもしれません。いよいよ最終巻で第2審、そして怒濤の結末へ向かうわけですけど、意外とここまで長かった割に、ここから1巻分しかないのか・・・と少し驚いてるところです。来週頭には読み終わるかな。

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あやまち

著者沢村凛 あやまち
出版(判型)講談社
出版年月2004.4
ISBN(価格)4-06-212343-6(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★★

階段で出会った男。ひょんなことから互いに惹かれ合った二人。しかしその男には、ある秘密があった。

短い作品ですが、描写の仕方とか良いですね。ファンタジーノベル大賞を取った作品も不思議な描写が魅力的でしたが、それを恋愛小説にしたところで成功してる感じ。ちょっと引きこもり気味の女性と、ある謎を持つ男性。出会いも、それぞれの人物像も、いかにもな恋愛小説で、現実味が無いところが逆にこの人の描写と合ってる感じでした。現実味のない作品があまり得意でない私も、すんなりこの世界に入っていくことができましたし。ファンタジーっぽい恋愛小説が好きなかたにおすすめ。

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いつか、ふたりは二匹

著者西澤保彦 いつか、ふたりは二匹
出版(判型)講談社
出版年月2004.4
ISBN(価格)4-06-270571-0(\2000)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

母が再婚して、環境が変わった頃、菅野智己は眠りにつくと突然猫に乗り移れるという不思議な能力を手に入れた。近所のピーターという犬とは意思疎通もできて大の仲好し。猫にジェニイという名をつけた智己。彼が六年生になった春、クラスメイトを含めた3人が車で襲われるという事件が起きた。しかもその犯人は、前の年に起きた女児誘拐未遂事件の犯人とそっくりだというのだ。

お見事。途中でこの「乗り移れる」ことの意味がわかってきたのですが、ちゃんとそういうところで児童書的なオチもついてるし、全体のストーリーとしても十分大人が読める作品。西澤作品らしい巧なストーリー運びに、最後納得のいく伏線。読み終わったとき、ああ、細かいとこまで考えられてるなあと思える本に出会えたときは、本当に幸せですね。おすすめです。

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白い巨塔 第5巻

著者山崎豊子 白い巨塔 第5巻
出版(判型)新潮文庫
出版年月2002.11
ISBN(価格)4-10-110437-9(\590)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

いよいよ控訴審が始まった。しかし里見や東の協力もあって、被告側に決定的とも言える証人が何人も現れた。結果は・・・

後半の4巻、5巻は「白い巨塔」の続編として書かれたものだそうで、結局著者はこの財前という主人公が気に入ってたのでは。あるいはこれ以上裁判を続けても、続きが書けないと思ったか。そして出たのが、この結末だったのかと、邪推するわけです。ただ、やはりどこからどう見ても社会派と言えるテーマを持ちながら、人間関係やストーリーの起伏で、取材したことをそのまま主張として著しているような作品とは一線を画しているところがすばらしいと思います。それに、社会問題をテーマとする作品っていうのは大抵「現在の社会問題」を扱うものですから、しばらくすると色あせたり、古くささを感じさせたりするものですが、40年も前に書かれたこの作品を今読んでも(医学的な部分はともかく)、十分面白いと感じさせるところがすごいですね。リメイクされたドラマが大ヒットしたのも、それを証明してると思います。

ドラマで見た唐沢寿明の財前教授は、この財前教授より、スマートな感じでした。小説はもう少しギラギラ感がある雰囲気。その雰囲気がもっと出ていたらしい田宮版財前教授が、土曜日から一週間ヴァージンシネマズ六本木ヒルズで見られます。朝1回のリバイバル上映だそうです。相方が「財前君が見たい」とうるさいので、観に行ってきます。感想は椰子の実通信でそのうち書かれるでしょう。

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図書館の水脈

著者竹内真 図書館の水脈
出版(判型)メディアファクトリー
出版年月2004.4
ISBN(価格)4-8401-1068-9(\1000)【amazon】【bk1
評価★★★★

私は図書館で暮らしたことがある。そこで読んだ本によって、私は作家になった。一方村上春樹の本を介して親しくなったワタルとナズナは、『海辺のカフカ』に触発されて四国を訪れる。

図書館に住んでみたい、ってすごいよくわかる感覚なんです。実際それが高じて今は図書館に勤めちゃってますし。子供の頃から親も本が好きだったものですから、日曜日にどこに行く?というと、図書館に行くのが習慣でした。たまたま当時住んでいた水戸の市立図書館が立派だったこともあって、大分お世話になりましたよ。あのころのことを考えると、図書館の充実度は、そのまま近隣の読書率を引き上げてるんじゃないかと思うんですけどね。それに私も本の中に出てくる場所を訪れるのが大好きで、そのためにフランスやイタリアまで行ってしまった人間なので、『海辺のカフカ』の舞台を訪れたい、という気持ちも十二分に理解できます。きっと本好きな人々には、そういうところが少なからずあるのでは?

というわけで、非常に私の趣味と合う作品でした。すっかり啓蒙?されて、『海辺のカフカ』買っちゃいました(笑)。前に、同じ著者の『カレーライフ』を読んでカレー食べに行ったのですが(そう言えば、カレーライフとも少し関わりがありますよ、この作品)、次々と啓蒙されて「神様」状態ですね。この作品に出てくる讃岐うどんや浜松の鰻の描写(特に鰻!絶対食べたい)もすばらしくて、こちらも食べたくなりました。次は何を私に啓蒙してくれるのでしょうか、楽しみです。

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Ave Maria

著者篠田真由美 Ave Maria
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2004.5
ISBN(価格)4-06-182370-1(\880)【amazon】【bk1
評価★★★☆

あの薬師寺事件から14年。時効まであと半年になった。さすがに事件自体も風化し、事件の生き残りである蒼も、平穏な日々を過ごせるようになっていた。しかし時効を前にして、ネットなどでの風聞が再び聞かれるようになり、やがて蒼のもとにも・・・

原罪の庭』で明らかになった「蒼」という不思議な少年の過去と薬師寺事件。扉にも書いてありますが、この作品は『原罪の庭』のネタばらしになってるので、先に『原罪の庭』を読みましょう。とはいえ、全体的にシリーズファンに対するボーナストラック、といった印象です。「番外編」と書かれていた意味がよくわかりました。京介も深春もほとんど出てこないし。恐らくこの作品が今後のシリーズの何かに関わってくることはほとんど無いのでは?逆にシリーズで読んでる人は必読作品と言えるかもしれません。きっとこの「蒼のダチ」も今後も出てくるでしょうし。私はこの翳君、結構お気に入りかも。

ふと思ったのですが、この「仲間」が男性ばかりで女性が全く出てこないのが、作者の趣味を表してるようですね、って今頃気づくのは遅すぎ?

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綺羅の柩

著者篠田真由美 綺羅の柩
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2002.8
ISBN(価格)4-06-182270-5(\1050)【amazon】【bk1
評価★★★

イースターの休日に失踪したタイのシルク王、ジェフリー・トーマス。それから30年余りが経ち、彼の行方を捜して欲しいという老人が現れた。様々なしがらみから京介たちは老人の待つ軽井沢の別荘へと足を運ぶが。

結末は少し意外性があったかと思うのですが、全体としては可もなく不可も無しといった印象です。妙に「名探偵のあり方」(?)にこだわる京介とか、ちょっと回りくどいなという感じもしましたし。ただシリーズだけに、細かく出てくるエピソードとかが重要なのかも?

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海辺のカフカ

著者村上春樹 海辺のカフカ
出版(判型)新潮社
出版年月2002.9
ISBN(価格)4-10-353413-3(\1600)【amazon】【bk1
4-10-353414-1(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

僕は15歳になる日、僕の世界から逃げ出して西へと向かった。

村上春樹って、何度もおすすめされながらもまともに読んだのって初めてなのです。『図書館の水脈』での村上評(というか『海辺のカフカ』評)に惹かれて読んでみたのですが、最初に読む本としてこの本は正しかったのかどうか。どうでしょう(^^)。こういう作家だったんだ〜と少し誤解してたことを知りました。小説というより、人生訓のような作品だったのですね。ああ、これうまいなあと思えるのもありましたが、小説としてこの気取り方は好き嫌いあるだろうな。私は微妙なとこです。綺麗すぎるところがきざっぽいというか。。絶対この人には「風呂無し築40年の木造平屋建て」とか「ドロドロの家族愛」とか合わないだろうなあ(笑)みたいな。

また、「女性の感覚で納得できる」という作品があるように、これは「男性の感覚で納得できる」作品なのではないか、とも考えます。そう思ったのは、この15歳で取り巻く環境から逃げ出すことと、父を殺すというメタファー。それをこういう形で表現するのは面白いと思いましたが、そんなところも男性的感覚と言えるのでは。そういう意味で私にはちゃんと理解できてないかも。

この方、父と同年代なんですよね。もう少し若い頃の作品を読むと、また違った印象を受けるのかな。一方で、最近の若い男性にはこの作品って率直にどう読まれてるのか、聞いてみたいところです。いや、今も昔も根本のところは変わらないものなのかな。

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