2002年08月
・パレード(吉田修一) | ・ツール&ストール(大倉崇裕) |
・月蝕の窓(篠田真由美) | ・飛行少女(伊島りすと) |
・DIVE!! 4 -コンクリートドラゴン-(森絵都) | ・人形幻戯(西澤保彦) |
・滅びのモノクローム(三浦明博) | ・クビツリハイスクール(西尾維新) |
・おいしい水(盛田隆二) | ・MOMENT(本多孝好) |
<<前の月へ | 次の月へ>> |
パレード
著者 | 吉田修一 |
出版(判型) | 幻冬舎 |
出版年月 | 2002.2 |
ISBN(価格) | 4-344-001559(\1600)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
2LDKの部屋に、何故か一緒に住むことになった4人。それぞれのバックグラウンドはあまり知らず、一緒に住んでいるからといって干渉したりするわけでもなく。チャットのような生活をしている4人のところに、1人の少年が加わる。
最近、ルームシェアリングの相手を広告なんかで募る人がいるそうですが、きっと雰囲気は同じなのでは。同じ家に住んでいても、下宿のおばちゃんのいない下宿のようなもので、隣とは干渉せず、たまに会えばなんとなく一緒にごはんを食べたり。それもなかったり・・・。ただよく考えるとうちの実家も、妹が大学に入ってからは、それぞれの時間が全く合わなくて、そんな感じでしたけどね。
そんな4人(途中から5人)の視点から、この不思議な共同生活を見るお話。家族というのはわずらわしいけど、ルームシェアで他人と暮らすのは結構面白い、という現代人らしい感覚が面白い作品でした。ちょっとラストが甘い気がするのですが、全体としては良いんでは。
ツール&ストール
著者 | 大倉崇裕 |
出版(判型) | 双葉社 |
出版年月 | 2002.8 |
ISBN(価格) | 4-575-23446X(\1800)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
お人よしで、困っている人がいるとつい手を差し伸べてしまう白戸修。それほど親しくもない友人に突然訪ねられ。「殺人犯にさせられそうになっている」という言葉に、友人の頼みをきいてやる白戸だったが・・・。
お人よし白戸が巻き込まれる事件の数々。新人賞受賞作でデビュー作の「ツール&ストール」は少々粗が目立ちましたが、徐々にうまくなってるなーという感じ。個人的には、銀行に行ってちょっと問題が起こり足止めをくったら、なんと強盗の人質になってしまった「セイフティゾーン」がお気に入りです。(単行本刊行的には)前作の『三人目の幽霊』は、去年のいちおしの1冊でしたので、今後の活躍が楽しみです。
月蝕の窓
著者 | 篠田真由美 |
出版(判型) | 講談社ノベルス |
出版年月 | 2001.8 |
ISBN(価格) | 4-06-182194-6(\1050)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
東京を離れたいがために、那須にある月映荘で調査兼住み込みの番人のバイトをすることになった京介。しかし、その別荘には様々な因縁がからみついていた。
うーん、回りくどい・・・。やはり名探偵が皆を集めて真相を解き明かす山場は面白いのですが、そこまでが長いような。しかも京介の「過去」ってここまで隠されると、余程のことじゃないと「なんだーそんなこと?」って思われてしまうような。最近は誰もが「話せない過去」を持っているようですからねぇ。あまりに隠してしまったがために、もうその秘密に意味がなくなって来つつある一番の例が「新宿鮫」だったりすると思うのですが、一体何をそれほどまでに隠してるんでしょうね。多分いつか解き明かされるとは思うのですが、楽しみなような、怖いような。蒼ファンの私としては、蒼がもっと出てくるのがいいなあ(笑)。しかし!京介大ピンチの本作、シリーズで読んでる方は必見。
飛行少女
著者 | 伊島りすと |
出版(判型) | 角川書店 |
出版年月 | 2002.8 |
ISBN(価格) | (上)4-04-873380-X(\1600)【amazon】【bk1】 (下)4-04-873381-8(\1600)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
救急担当医・立花麗火の元に運ばれてきた少女は、パラコート自殺を図ったようだった。大量の緑色の液体を吐き出し、危篤状態にある少女をあらゆる手を使ってなんとか救った麗火は、奇妙なことを思い出す。少女の体にあった痣をどこかで見たことがある気がするのだ。しかも、検査の結果、少女が吐き出していたのは、腐った血液であることが判明する。身元不明患者として「羊の7子」と名づけられた少女は一体誰なのか、そして何故彼女は危篤状態になったのか。麗火は少女のことを調べ始める。
雰囲気は最近新刊のない貴志祐介。微妙に医療をからめたホラーです。広島・長崎に続く第3の被爆都市「桜市」という架空の都市を舞台とすることで、現代医療で解くことのできない奇妙な現象を説明するという辺りは面白いですね。ホラーとしてみるとかなり物足りないという方も多いかもしれませんが、こういう現象って、実は起こってるかもしれないと思えるだけに、結構ぞっとしたりするところもあったりして。変な子供だった私は、「もし、私が見てないうちに、お父さんお母さんが、お父さんお母さんの皮を被った別のモノになってたらどうしよう」と真剣に心配したことがあったのでした。だから、この本を読んだとき(ちょっと現象的には違いますけど)、なんだか同じようなことを考える人がいるんだなあ、と妙な共感を覚えました。ちょっと長いかなあとは思うのですが、次の作品も楽しみな作家さんです。
DIVE!! 4 -コンクリートドラゴン-
著者 | 森絵都 |
出版(判型) | 講談社 |
出版年月 | 2002.8 |
ISBN(価格) | 4-06-211414-3(\950)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
DIVE!! 3から続く
とうとうオリンピック代表を決める選考会の日がやってきた。自分で夢をつかみたいためにオリンピック代表内定を蹴った要一、このところめざましい成長を見せる知季、腰に爆弾を抱える飛沫、そして彼らのライバルたち。一体誰がオリンピックへの切符をつかむのか。
この本の主人公たちが目指してるオリンピックってシドニーオリンピックなんですよねぇ。第1巻が刊行されたのはオリンピックの前でしたが、気づいたらもう2年も経ってしまいました。シドニーのときは私もダイビングの中継を見ていました。中国の選手の演技がものすごくて、私は俄かファンになってたのですが・・・確か日本の寺内も活躍したんでしたよね。というわけで、ちょっと時期外れになってしまったことで、-0.5。そして、今回で終わらせようという雰囲気が見えてしまったのが残念で★3つですね。アテネオリンピックまであと2年。ダイビング、楽しみにしてますけど。
人形幻戯
著者 | 西澤保彦 |
出版(判型) | 講談社ノベルス |
出版年月 | 2002.8 |
ISBN(価格) | 4-06-182264-0(\880)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
超能力による犯罪を専門に解明する超能力者問題秘密対策委員会(略してチョーモンイン)シリーズ第6弾。ほとんどがメフィストに掲載されたもので、相方は不満だったようですが、それらを読んでない私にもまあまあだったかな。いくつか結末が曖昧なものがあったのがちょっとなあ。いくつか雰囲気も「負の西澤」的なものも突然出てきたりして、連載として読んでいれば多少は目をつぶれるものも、こうして短編集にしてしまうと妙に目立ってしまいますね。著者によると、すでに思い描いている結末に向けて、あちこちに伏線が張られているようですが、どうなるのでしょう。またこのシリーズの長編が読みたいな。
滅びのモノクローム
著者 | 三浦明博 |
出版(判型) | 講談社 |
出版年月 | 2002.8 |
ISBN(価格) | 4-06-211458-5(\1600)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
骨董市で掘り出し物の釣用リールと、柳行李を手に入れた日下。柳行李に入っていた古いフィルムを見ると、昔の釣風景が写っているらしい。ちょうど入ってきたCM製作依頼に、そのフィルムを使うことになった日下だったが、そのフィルムの意味するものは非常に重要なことだった。
古いフィルムに隠されてた秘密っていうと、なんだか結末が見えてくるような気がしてましたが、ストーリーテリングの巧さもあって、面白く読めました。この作品を通して、この著者が日本の行く末を憂いていることが非常に強く読めるのですが、これがまた本当にありそうで、妙に怖くなりましたよ。風景の描写がとっても綺麗で、中禅寺湖に行きたくなりました。最近そんなんばっかし。
クビツリハイスクール
著者 | 西尾維新 |
出版(判型) | 講談社ノベルス |
出版年月 | 2002.8 |
ISBN(価格) | 4-06-182267-5(\780)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
相川潤から突如舞い込んできた依頼は、お嬢様学校として知られる私立澄百合学園に潜入し、依頼人を連れ出せというものだった。連れ出してくるだけ、と女装させられて潜入した学校は、しかしとんでもないところで。。。
恐怖の学校からのドタバタ脱出劇。学校という日常に非日常を求める少年少女が夢見そうなお話ですが、評価としてはいつもと変わらず。面白いと思えば面白いし、この世界に入っていけないとダメでしょう、といった感じ。見所(読みどころ?)は、知っていると死ぬという「いーちゃんの本名」がわかりそうな箇所(笑)。パズル形式になっていて、面倒でやってないのですが、ちゃんと考えればおそらく解はひとつなのでしょう。ネットを検索したらでてくるかなー。この独特の西尾世界に入るために、シリーズの最初から読むことをおすすめします。
おいしい水
著者 | 盛田隆二 |
出版(判型) | 光文社 |
出版年月 | 2002.7 |
ISBN(価格) | 4-334-92361-5(\1700)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
結婚をし、子供もできて、集合団地の主婦たちと和気藹々とやっていく・・・そんな日常にふと影が射す。
私は子供もいないし、専業主婦でもないので、この主婦たちの苛立ちというか焦燥感というのは、想像の域を超えないのですが、働いてても30歳くらいっていうのは、子供を生むにも、転職を考えるのにも、そろそろ経済的にも肉体的にも「岐路に立つ」といった感じになるっていうのはわかる気がします。ということは、既に子供を生んで育てて、夫の帰りを待ってるだけ、という人にすると「このまま一生終わるのかなあ」と思ったりもするのも頷けるかな。いずれにしろ、無いものねだりというか、贅沢な悩みというか。一番哀れなのは、「その状況にあること」ではなく、自分の意志で結婚したり、しなかったり、子供を生んだり生まなかったりしているのに、他人の所為にしたり、自分と違う他人の状況を羨んだりして過ごすっていうことなのではないかと思うのですね。なんだかこの本の主人公は非常に後ろ向き。夫の帰りが遅くても、子供が小さくて動けなくても、部屋でできる趣味はあるだろうし(パソコンとか正にそれ?(笑))。たまには実家に子供を預けて、美術館や映画館に行ってみたりしてもいいし。子供がいないからそんなこと言えるんだ、って言われるかもしれないですが、子供を持ちながら仕事をしている私の周りの人たちを見るにつけ、完全専業主婦で、子供が幼稚園に行ってる間に1時間も時間が無いなんていうことは無いのでは・・・と思ったりもするのです。ただ、ぱっと空いた時間に遊ぶには、一人で動くということを知らないと、友達と時間が合わないから遊ばない→引きこもりになってしまうのかも。もちろん家事そのものが大好きって言う人もいるだろうし、そんなのは人それぞれで、そういう人は、毎年海外に遊びに行けても、どうしても子供ができなくて悩む夫婦を「海外に遊びに行ける」ということで羨む必要はないはず。何にしろ、幸せなはずの結婚を後悔するっていうのは、寂しいことです。私がいつも思うのは「反省しても後悔はしない」というものなのです。まあ後悔することだってたまにはありますし、反省することなんてほとんど無いんですけどね(^^;、大抵忘れちゃいますから。どんな状況でも楽しいことはあるはず、と思うのは、あまりに楽天的すぎですか?
MOMENT
著者 | 本多孝好 |
出版(判型) | 集英社 |
出版年月 | 2002.8 |
ISBN(価格) | 4-08-774604-6(\1600)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
この病院には、末期患者の間で語り継がれている噂話があった。死ぬ間際、その患者の元に現れる人がいて、その人はひとつ願いを叶えてくれる。そして、その人は・・・。
「末期患者の願いを叶える」という設定が、ちょっとあざといかなという気はしましたが、やはり寂しい雰囲気ながらも良い連作短編集でした。私は、乳癌の再発で末期にある女性が、自分のことを少しでも思い出してくれる人がほしいという願いを叶えてもらう「FIREFLY」がお気に入り。自分は死ぬ間際に何を叶えてもらうのかなあと思ったのですが、そのとき叶えてもらうことなんて無いなと思うのが、一番幸せなのかも。
copyright(c) Hiroe KATAGIRI. All rights reserved.