2002年09月

じーさん武勇伝(竹内真) ふたりのシンデレラ(鯨統一郎)
十八の夏(光原百合) 触身仏(北森鴻)
最後の記憶(綾辻行人) めぐりの蝶の宝珠姫(上領アヤ)
水の恋(池永陽) 熱氷(五條瑛)
好きよ(柴田よしき) 今ふたたびの海(ロバート・ゴダード)
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じーさん武勇伝

著者竹内真
出版(判型)講談社
出版年月2002.8
ISBN(価格)4-06-211422-4(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★☆

僕にはすごいじーさんがいる。畳職人のじーさんにかなう人間は、周りにはいない。そんなじーさんが突然思い立って戦時中に聞いた沈没船の宝探しに出かけるという。

戦時中の食うか食われるか、生きるか死ぬか、というような修羅場を抜けてきた私たちの祖父母世代というのは、本当に「生きる力」が違うと思うんですよね。ここに出てくるじーさんもすごいですが、私のじーさんも「それって本当の話?」っていうような武勇伝をいくつも持っているじーさんです。また、そういうむちゃくちゃな時代に「銃後を守る」ことを徹底して叩き込まれていたばーちゃんたちもすごい。しかも、正に弱肉強食の世界で、本当に運が良くて強い人だけが生き残ったわけですから、寿命も延びるわけです。戦争が起こっては欲しくないですけれども、「生きること」に対してこれほど真剣に考えることって、今は無いですよね。よく「今の日本には生死を感じる場面が無いから、簡単に人を殺す」と言われますが、一理あると思うのです。そんな戦争世代の強さを笑いの中に見る「力づく小説」。少々場面転換が唐突で、最後の終わりももう少しがんばってほしかったかなぁとは思うのですが、元気が出ることは請け合いです。

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ふたりのシンデレラ

著者鯨統一郎
出版(判型)原書房
出版年月2002.9
ISBN(価格)4-562-03533-1(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★

メジャーデビューが決まり、今度の公演が最後になるであろう夕華。演技の上では夕華に勝り、どうしても主役をはりたい芽衣。「シンデレラ」の役はどちらになるのか。ピリピリした空気の中で、事件は起こった。

あらすじはよくある愛憎劇っぽいのですが、なかなかひねったミステリです。ただ、この本下半分スカスカ。もう少しちゃんとした長編にして欲しかった。。。伏線があまりに目立ちすぎるのも気になるし。そして作中作とも言える、劇「ふたりのシンデレラ」。これってギャグ?(笑)これだけなら逆におバカ本として評価できる気もしたりして。

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十八の夏

著者光原百合
出版(判型)双葉社
出版年月2002.8
ISBN(価格)4-575-23447-8(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

推理作家協会賞を受賞した「十八の夏」を含む花がモチーフの短編集。浪人が決まって、宙ぶらりんな気分の男の子が、ジョギング中に出会った女性とある願いと呪いをかけた朝顔の成長を見守る、受賞作でもある「十八の夏」。もう少し見せ方があるんじゃないかなあ・・・と私は思います。結論が少々唐突。ので、この4作品の中では妻に先立たれ、幼い子供と共に懸命に暮らす「ささやかな奇跡」が私は一押し。この作品があったから、★4.5にしました。「癒しの物語」、という帯の文句には、最後の作品があるから私は当てはまらないのでは、と思うのですが、いろんな色や形をもつ花があるように、いろんな雰囲気の作品が楽しめる短編集です。おすすめ。

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触身仏

著者北森鴻
出版(判型)新潮社
出版年月2002.8
ISBN(価格)4-10-602655-4(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★★

蓮杖那智フィールドファイルシリーズ第2弾。日本だけじゃなくて、伝承っていうのはどこにでもあって、それが似たような話が日本のあちこち、あるいは世界のあちこちにあったりして、不思議なものです。伝承はあくまで迷信と考えられる一方で、こうしてなんらかの意味を持たせるという民俗学という学問って面白いですね。ただ、この中でも言われているとおり、どんなに納得できる説でも、結局「考察」のひとつで、真実であるかどうかの証明は不可能に近いところが、むなしい学問でもあるとは思うのですが。

今回のこの連作短編では、三種の神器の謎に迫る「死満瓊」がお気に入り。子供のころに割りと好きだった「海幸彦山幸彦」のおとぎばなしが、こんな謎を持っていたとは。このシリーズ、お気に入りなのでまだまだ続いて欲しいですね。

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最後の記憶

著者綾辻行人
出版(判型)角川書店
出版年月2002.8
ISBN(価格)4-04-873399-0(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★☆

母が病に倒れた。しかも、まだそんな歳でもないのに、痴呆症的な症状を示していると言う。早発性アルツハイマー病と一旦診断された母だったが、息子である自分はそれを聞き、別の悩みに苛まれる。

なんだかこのところ、物忘れが激しいんですよ。大学入る前くらいまでは、記憶力だけで生きてたような気がしてたのですが、徐々に記憶できなくなってるような気がするのです。大丈夫でしょうか。そういう意味ではなんだか微妙な怖さを感じるのですが、ホラーというには、ちょっとなあ。本格ミステリとしてみても、少々不満が残る内容で、掛け合わせた所為で、ホラーとしてもミステリとしても中途半端な感じになってしまった印象があります。もちろん、この人の才能はストーリーテリングにもあると思うので、そういう意味では楽しんで読めましたが、評価は「まあまあ面白かった」の域を出ないです。7年ぶりの長編ということで、期待しすぎた、ということもあるかもしれないですし、最初に綾辻を読んだときに比べて、歳を重ね、時代も変わり、読んだ本も増えた分、見方も変わってしまっているのかもしれません。

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めぐりの蝶の宝珠姫

著者上領アヤ
出版(判型)角川ビーンズ文庫
出版年月2002.9
ISBN(価格)4-04-441306-1(\476)【amazon】【bk1
評価★★★☆

今日は、姉の持つブランドのブライダルショー。珠希もアルバイトとして無理矢理借り出されていたが、その支度最中に突然現れた青年に、不思議な世界に連れ去られてしまう。姫宮の杜と呼ばれる世界で目覚めた珠希は、宝珠の蝶を取り戻せと言われる。

彩さんがアヤさんになって初のファンタジー。ミステリ仕立てのシリーズよりも、こっちのほうが面白いかも(そこはかとなく失礼(^^;)>アヤさん。お姉さんのブライダルショーがどうなったか、働く女性としてはそっちのほうが気になってしまうのですが、それでもターゲットとしている年代にはウケそうな気がします。ちょっと思ったのは、ファンタジーにするなら、もう少し目的をはっきりさせて、それに向かって一直線のほうがわかりやすいかなーということ。世界を救うために、鬼退治をするのか、蝶探しをするのか、があいまいになっているところが少々残念。

しつこいですけど、「お姉さん」が自分のブランドを持って、ブライダルショーに行き着くまでのお話とか、書いてもらいたいなー(笑)。

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水の恋

著者池永陽
出版(判型)角川書店
出版年月2002.9
ISBN(価格)4-04-873409-1(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★☆

自分の妻と親友との過去の疑いをぬぐい切れない昭。しかしその親友は、昭の目の前で仙人イワナを釣り上げ、そして鉄砲水にのまれていった。そのときのことを自分の中で納得させたくて、仙人イワナを釣り上げようと、神駆淵に足繁く通う昭だったが。

細かいことにこだわる男って、私は大嫌いなのですが、そういう意味ではこの昭は、私の苦手なタイプかも(笑)。そのこだわりから離れることができず、イワナを釣り上げようとやっきになる昭は、いろいろと理由はつけてるけれども、単に何かに没頭することで、一種の逃避をしてただけじゃなんじゃないかと。ただ、それでもこの話、この昭を中心としたストーリーをとりまくサイドストーリーがとってもよくて、そこそこお気に入り。前に読んだ本は、そのサイドストーリーを繋げたような連作短編集だったから良かったのかな。そういえば、『コンビニララバイ』も、「亡くなった妻のことを忘れられない」男が主人公でした。こういう過去にこだわる(というのは男の人の習い性なのかもしれませんが)男の話は、主人公の動き方や配置によって、感動と興ざめが紙一重になっちゃうものなのですね。

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熱氷

著者五條瑛
出版(判型)講談社
出版年月2002.8
ISBN(価格)4-06-211441-0(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

カナダで氷山ハンターをしている石澤恒星の元に、姉の突然の訃報が届いた。急ぎ日本へ帰国した恒星を待っていたのは、最愛の姉が残した、たった一人の甥の誘拐事件だった。

ある一つの思惑をめぐって、さまざまな人が交錯し、そして事件は転がるように大きくなり・・・という典型的な面白本。構成もうまくて、徐々に明らかにされる人物配置に、今まではさまれて来た章間の文章が、何を意味しているのかを読者に気づかせるという、ミステリ的な味付けもなかなかでした。この人の本は、当たりはずれが無くてよいですね。今回のは単発モノということで、雰囲気も少々違った感じでした。次はまたガラリと違うハードボイルドを書いてほしいかな。

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好きよ

著者柴田よしき
出版(判型)双葉社
出版年月2002.8
ISBN(価格)4-575-23444-3(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★

「好きよ」という一言を残して自殺した元同僚。その同僚の仕業と思わせる方法で、嫌がらせを受けた薫子は、同僚のことを調べ始める。

こういうの、流行なのでしょうか。微妙にミステリーっぽい味付けながら、SFとも言えるし、ホラーっぽくもあるし。ただ、どれも中途半端なところが納得できない理由ですね。読みやすくはあるのですが、あまりに方向が突飛で、ちょっと笑えるSFでした。先入観なしに読むのが吉。今年の馬鹿ミスno.1かも。。。

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今ふたたびの海

著者ロバート・ゴダード
出版(判型)講談社文庫
出版年月2002.9
ISBN(価格)(上)4-06-273538-5(\838)【amazon】【bk1
(下)4-06-273576-8(\838)【amazon】【bk1
評価★★★☆

ロンドンの地図製作者スパンドレルは、借金を返済できずに悲惨な生活を余儀なくされていた。そこへ債務者より手が差し伸べられる。ある書物をオランダまで届ければ、すべての借金を棒引きにしてくれるというのだ。魅力的な申し出に飛びついたスパンドレルだったが、その書物は、王室をも揺るがす裏帳簿だった

読んでいて思ったのは、本当に「歴史は繰り返す」のだなあということ。バブル崩壊、霞を売って利益を得る会社、そして政治家の疑獄事件。18世紀のイギリスから、経済と政治というのは全く変わってないのです。結局現在私たちが慣れ親しんだ資本主義経済というのは、そうした負の面もたくさんもっていて、200年もの間、解決されずに何度も失敗を繰り返しているのだという思いを強くしたのでした。次の経済革命はいつ来るのか、非常に興味深いところです。

小説としては、お人よしスパンドレルが、権力者の策略に次々巻き込まれ、そしてなんとか逃れるという流れは面白いものの、ちょっと長いかなあ。こうした小説を読む気分じゃなかったのかも。ただ、ローマで鬼ごっこをする部分、ポポロ広場、スペイン広場、マルケルス劇場、サンタンジェロ城・・・知ってるところが次々でてきて面白かったですね。本当は題材として使われている南海事件や、18世紀イギリスについてもっと知識があれば、さらに楽しめたのかも。こういう小説っていうのは、やはりバックグラウンドがわかっているほうがいいのかも。

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