2001年07月
・九つの殺人メルヘン(鯨統一郎) | ・インコは戻ってきたか(篠田節子) |
・スカイ・クロラ(森博嗣) | ・夏の滴(桐生祐狩) |
・超・殺人事件(東野圭吾) | ・娼年(石田衣良) |
・ルー=ガルー 忌避すべき狼(京極夏彦) | ・華胥の幽夢(小野不由美) |
・硝子細工のマトリョーシカ(黒田研二) | ・共犯マジック(北森鴻) |
・天帝妖狐(乙一) | ・なぎら☆ツイスター(戸梶圭太) |
・ラスト・レース−1986年冬物語−(柴田よしき) | |
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九つの殺人メルヘン
著者 | 鯨統一郎 |
出版(判型) | カッパノベルス |
出版年月 | 2001.6 |
ISBN(価格) | 4-334-07430-8(\838)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
9つのメルヘンに対応したアリバイ崩しのお話。メルヘンに対するとっぴな説もでるし、とんでもないアリバイ崩しもあったりして、なかなか楽しめます。連作でもあり、そして長編でもあり。このまま連作で行くのかなーと思いきや、ちゃんとオチがあったのでした。短いですから、さっと読めるのもおすすめ。
インコは戻ってきたか
著者 | 篠田節子 |
出版(判型) | 集英社 |
出版年月 | 2001.6 |
ISBN(価格) | 4-08-774539-2(\1800)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★☆ |
キプロスにカメラマンを伴って訪れた響子。「究極のハイクラスリゾート」という日本女性向けの旅行記事の取材をする予定だった。ところが、ギリシアとトルコの停戦交渉も安定し、治安も良いと言われていたキプロスが、国際的な記事にはならない暴動が頻発していることを知る。そして、取材をするうちに、その暴動に巻き込まれ・・・。
日本は陸の上に国境はありませんから、ついついその国境の壁の高さというものを忘れがちになるような気がします。日本のパスポートを持っていれば、行けない国などほとんど無いことも、一因のような気も。たまに海外旅行に行くと、税関や入国審査の厳しさに、国境という壁が高いことを思い出すのです。それに、日本は内戦もなく、戦争自体を50年以上していないのも、良くも悪くも平和ボケする原因なのでしょう。響子の考える「何故小さな差異で憎しみ続けることができるのか」という疑問は、私も思うことなのですが、それもまた、戦争もなく、過去を忘れるのが早い(ある意味水に流せる)日本人の気質なのかもしれません。そうした暴動の続く国で、観光取材をした響子とカメラマンの檜山。しかし暴動に巻き込まれた彼らは・・・。戦争と報道というテーマを、非常に身近なストーリーで描いた傑作。篠田節子の書く世界は、文字でありながら映像が浮かぶようで、とても読みやすいのもおすすめです。
スカイ・クロラ
著者 | 森博嗣 |
出版(判型) | 中央公論新社 |
出版年月 | 2001.6 |
ISBN(価格) | 4-12-003158-6(\1700)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
このあらすじ、捻ろうと思ったのですが、結局出てこず。何でしょうね、この本は。不思議な小説です。多分、森博嗣が書きたかった世界をそのまま書いたのでしょう。この小説の設定されている世界(近未来なのか、それとも過去なのかも不明)では、常に何かの攻撃にさらされていて、そこへ出撃していくのが主人公たちの役目。そんな基地のひとつへ新しく転属になった僕は、消えた前任者の謎、気のいい同室者、そして異世界を見ているような上司と共に生活する・・・といったお話。そう、どこの世界でもなく、いつでもない小説で(そんな説明は一切無い)、多分著者の頭の中がその舞台なのでしょう。表紙がとっても綺麗で、本を読んで、その表紙を見ていると、そのまま著者の頭の中へ吸い込まれそうな気分になる危険(笑)な小説です。。。
夏の滴
著者 | 桐生祐狩 |
出版(判型) | 角川書店 |
出版年月 | 2001.6 |
ISBN(価格) | 4-04-873309-5(\1500)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
田舎町に住む僕達は、夏休みにある計画を立てていた。突然学校に出てこなくなり、しかも家ごとどこかへ引っ越してしまった桃山君を訪ねて行こうというのだ。夜逃げ同然で行方をくらました桃山一家は、今は東京に住んでいるらしい。当然親に内緒で、電車に乗ろうとした僕達だったが・・・。
最初はよくある少年冒険小説だったのに、この不気味さは何なのでしょう。がけっぷちに立たされた人間たちは、いつもなら思いもつかないようなことを、思いつくものだなと感心?したのでした。別にこんな例を取り出さなくても、倫理感とか常識なんていうものは、非常に相対的で、簡単に反転(そう、ずれるのではなく、反転)できるものなのだと思うのです。そんな微妙な人間の感情の隙をついたような作品。全体的なストーリーには少々粗が目立つ気もしますが、ストーリーテラーとしての才能は認めます。何も残らなくても面白かったと思える1冊。
超・殺人事件
著者 | 東野圭吾 |
出版(判型) | 新潮社 |
出版年月 | 2001.6 |
ISBN(価格) | 4-10-602649-X(\1400)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
小説家たちを主人公にした、超おちょくり短編小説。「日本推理作家協会、除名覚悟!」と帯にあるように、ミステリ新刊読みなら笑えます。実際、推理小説作家って、トリックを考えてから作品を書くのでしょうか。それとも先に事件ありきなのでしょうか。連載作品とか、いくらラストを考えていても、筆が滑って(最近はキーが滑ってですか)、余計な事件を作ってしまったり、矛盾した記述を書いてしまったりしないのでしょうか。私も常々思ってました。そして、そう思う私は、やっぱり読む方専門で、書く方には回らないと思うんですよね。よく、「それだけ読んでいると、自分で書いてみたくなりませんか」という質問を受けますか、そういう時の答えはただひとつ。「書くことと読むことは全く別物です」。
昨今の弁当箱本をおちょくった「超長編殺人事件」は笑いました。このまま行くと、もしかしたら書店は、確かにこんな風な棚になってしまうかも。厚い本って読み応えはありますが、あらすじにしてしまうと、もっと短くできるんじゃないかなあと思える本も多々ありますよね。まあ、「芸術」を追求しないなら、面白けりゃいいかとも思うのですが。ミステリ読みの方にはおすすめ!
娼年
著者 | 石田衣良 |
出版(判型) | 集英社 |
出版年月 | 2001.7 |
ISBN(価格) | 4-08-775278-X(\1400)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
友人がバイト先のバーに連れてきた女性。その女性に「自分のところで働かないか」と持ちかけられた。そして僕は、娼夫となった。
短いこともありますが、さらーっと読めて、ああ面白かったかな、と思える本。女どころか、生きることにも投げやりな一人の青年の、ちょっと変わった成長物語です。
ルー=ガルー 忌避すべき狼
著者 | 京極夏彦 |
出版(判型) | 徳間書店 |
出版年月 | 2001.6 |
ISBN(価格) | 4-19-861364-8(\1800)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
舞台は近未来。人間は動物を殺さずに、代用品の動物らしきもの、植物らしきものを食べ、学校は無くなって、児童たちはほとんどの時間を、自分の家のパソコンからネットにつなぐことで、世界とコミュニケーションを取っている。人と人との接触が殆どない中で、突然起こった連続殺人事件。天才少女率いる子供たちが、その真相に迫ろうとするが。
こんな未来も、きっと夢?ではないんだろうなあと思う今日この頃。ほんの数年前までは、海外にいる人とやりとりするには、かなりのお金をかけるか、それとも時間をかけるかしかなかったわけですが、今ならメール1本で海外だろうが、隣の家だろうが、変わらずやりとりできますし、それもメールだけじゃなくて、写真でも動画でも送ることができるようになりました。回線速度も飛躍的に上がって、気づいたら10Mbpsも標準になろうかといったところ。インターネット回線を通して、ビデオの中身を買うのも非現実ではなくなっています。ただ、この本に描かれているような未来は、子供の頃に夢見た「未来」なのかなというと、そうでもないような。確かに夢のような技術と、今とは全く異なる生活形態といった環境(ハード)は、子供の頃に見た未来の図そのもののような気がしますが、その中で生きる「人間」というソフトは、便利で夢のような贅沢な生活のできる未来の夢とは全然違うかも。データだけが独り歩きする世の中にはなってほしくないかなと考えるのは、やはり野蛮な前世紀の人間だからなのでしょうか。癖のある京極文体で綴られる近未来。読んだ方はどう思いましたか?新人類を超えた、全く違う世界で生きる少女たちの冒険。なかなかおすすめです。
華胥の幽夢
著者 | 小野不由美 |
出版(判型) | 講談社文庫 |
出版年月 | 2001.7 |
ISBN(価格) | 4-06-273204-1(\648)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
十二国記シリーズ短編集。このいろいろな話が、次の長編へと生かされるのでしょうか。とりあえずこの作品(というか、小野作品がすべて?)、登場人物が多くて、人の名前を覚えられない私としては、それで苦労してるような。その辺りがきっと、惹きつける要因でもあると思うのですけれども・・・。この作品もそのうちPS2とかでゲームになったりして。
泰麒が漣へと旅にでる話は、前作『 黄昏の岸暁の天』でも出てきたエピソード。なので、この「冬栄」は表裏を成す作品ですが、初めて出てきた漣の王はいい感じでした。今度は漣の話がいいかな。
硝子細工のマトリョーシカ
著者 | 黒田研二 |
出版(判型) | 講談社ノベルス |
出版年月 | 2001.7 |
ISBN(価格) | 4-06-182193-8(\940)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
生放送でしかできない、劇中劇が放送されることになった。それは、アイドル歌手の死の真相を暴くものであったが。
なるほど、マトリョーシカなのですね。すんごくよく考えられてると思いましたし、手法としては面白いと思うのですが、途中その企みが透けてしまっているのと(ガラス細工だからいいのかな・・・)、私の読解力不足の所為で、いまいち驚けなかったのが残念。とはいえ、やっぱり「本」ならではの、こういうトリックってやっぱりいいですよね。くろけんさんには、これからもいろいろと試してもらいたいです。
共犯マジック
著者 | 北森鴻 |
出版(判型) | 徳間書店 |
出版年月 | 2001.7 |
ISBN(価格) | 4-19-861382-6(\1600)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
不幸のみを予言するという不吉な図書「フォーチュンブック」。相次いで自殺者が出たために、書店協会が販売自粛までした曰く付きの図書をめぐるお話。
途中で何をしたいのかは分かってしまうのですが、それでもこの著者のストーリーテリングの上手さで、一気読み。多少都合が良い部分もあるような気はするのですが、そんな細かいことは気にせずにがーっと読むと、嫌な気分、不安な気分にさせる、真夏にふさわしいホラー作品でした。この本自体が「フォーチュンブック」? ちょっと気味悪いので、しばらく封印しよ(笑)。
天帝妖狐
著者 | 乙一 |
出版(判型) | 集英社文庫 |
出版年月 | 2001.7 |
ISBN(価格) | 4-08-747342-2(\438)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
トイレの落書きを媒介にして起こるある事件を描いた『A Mased Ball』と、決して素顔を見せない男の秘密を描いた『天帝妖狐』の2編。著者は私よりも若い人だそうですが、面白いですね。あちこちで誉められているのも頷けます。私はトイレの落書き小説が好き。トイレの落書きって、実際掲示板みたいになっていることってよくあって、あれって読むの面白いですよね。それをこんなホラータッチの作品に仕上げた著者に拍手。最初の1編目だけだったら、自分の周りの世界をそのまま小説にした、といった意見もあるでしょうけれども、それとは全く異なる世界を描いた2編目を読むと、この作家の他の作品も読みたくなる気分にさせられます(実際、デビュー作を買ってしまった(^^))。この人、まだ長編は書いてないそうで、最初の長編がいつ出るか、とっても楽しみです。
なぎら☆ツイスター
著者 | 戸梶圭太 |
出版(判型) | 角川書店 |
出版年月 | 2001.6 |
ISBN(価格) | 4-04-873304-4(\1600)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
飛行場も新幹線も無い、しかも企業倒産で失業者溢れる田舎町・那木良。そこで一千万円とヤクザ二人が消えた。2人と金を探すべく、東京のやくざ桜井が乗り込んできた。
相変わらず無茶苦茶な話です。このシュールさというか、微妙に焦点をはずしたような話運びがこの人の特徴ですが、どんどんそのパワーが増しているような・・・。将棋狂いのインテリヤクザ桜井が、1千万と弟分を探しにきた田舎町は、死にかけ腐りかけ、しかもとんでもない敵まで現れちゃって・・・。というドタバタ劇。やくざといっても任侠小説なんかではありません。主義も主張もありません。戸梶ファンにはおすすめ?
ラスト・レース−1986年冬物語−
著者 | 柴田よしき |
出版(判型) | 文春文庫 |
出版年月 | 2001.5 |
ISBN(価格) | 4-16-720308-1(\600)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
1986年冬。世の中は景気に浮かれているのに、社内恋愛で痛手を負った秋穂は、次々ととんでもない目に・・・。
私は1986年のとき、まだ学校で授業を受けている身だったものですから、世の中はなんとなく景気が良いとは思っていても、まともにバブルの恩恵を全く受けてないし、その狂乱を知らない世代なのですね。それはよかったのか、悪かったのか。。。就職のときは氷河期で、社会人になってからのほうが、それ以前よりも数倍勉強したり努力したりしなかったら、まともに勤めることさえ危うい世の中になってしまってました。まだ20年前にもならないのに、この違いは一体何なのでしょう。やっぱりバブルの時代は日本自体が酔っぱらってたんだろうな〜という感じです。
そんな狂乱の時代に、なんとなく乗り遅れてしまった男女の物語。この著者がこういう人間臭い物語を書くと、本当に面白いですね。こういう強い女の子は、きっと今の時代のほうが堅実にやっていけるのかも。元気のあるときに読むと、さらに励まされる気分になる本です(なんじゃそりゃ)。
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