3.時局展望(掲示板投稿等)

  ◆過去の時局展望−3 (03/ 1/ 1〜05/ 2/28
  ◆過去の時局展望−2 (02/ 4/ 1〜02/12/31
  ◆過去の時局展望−1 (00/11/ 1〜02/ 3/31

 ※ なお、ここに掲載後、後日下記 ↓ に移している記事があります。
 (  2.提言 http://www.asahi-net.or.jp/~EW7K-STU/#提言    )

 

20100829

小沢氏に問う「日米中正三角形論」の具体像 −この国を何処へ向かわせたいのか?−

小沢氏の代表選出馬
民主党代表選(91日告示、14日投開票)に、小沢一郎氏が出馬を決めた。
菅総理と一騎打ちとなる模様だ。
今後の展望としては、長丁場の選挙戦の間、小沢氏の政治資金問題については連日の報道で国民世論の批判意識は麻痺して行く一方、菅政権の円高・景気対策が目に見える形で奏功することは難しく、小沢氏の勝算が高いかと思われる。

もし、小沢氏が代表に選出された場合、連立工作によって他党の幹部を総理大臣に担ぐことや、菅総理をそのまま続投させる可能性も語られているが、何れにせよ小沢氏が実質的な最高権力者となる。

代表選の争点として、内政問題に関しては、マニフェストで謳われた子供手当にせよ、農家の戸別所得補償にせよ、地方分権にせよ、その他の政策にせよ、それらを守るにせよ変えるにせよ、何れも既に諸外国で行われている政策であり、それとの比較においての得失とその財源としての特別会計への斬り込み、加えて成長戦略の具体化が徹底的に議論されるのが生産的だということに尽きる。

問題は外交問題であり、なかんずく日米関係、日中関係である。
小沢氏が勝利した場合、予てから唱えている「日米中正三角形論」が実行に移されると見られるため、代表選の争点とは成り難いものの、筆者はこれについて今一度の点検が最も必要であると考える。

米中の動きと日本の戦略
日米中関係に関連し、普天間基地移設問題では、前鳩山政権が吹き飛び、幹事長だった小沢氏が辞任した。
21
世紀前半に掛けて、相対的に米国が衰退し、中国が勃興することがほぼ確実に予見される。
米国の極東等への安全保障への関与は、ファイナンス要因から縮小して行かざるを得ないだろう。
この状況の中で、小沢氏は「日米中正三角形論」を唱え、米国はこれを阻止しようとしている。
これらを踏まえ、以下に今後の米中の動きを予測するとともに、対応する日本の戦略についての若干の私見を示したい。

中国は、経済成長に応じて規模に見合う覇権を求めて行く。
 米国は覇権を縮小して行くが、G2として出来るだけ有利な状況で中国と覇権を二分して行くことを求める。
米国と中国は、上記の覇権移行の条件を巡って鬩ぎ合っている。
 日本は好むと好まざると、何れ米国の庇護の下から離れざるを得ない。
 その際の日本のスタンスは簡略化すると、(1)中国の覇権に組み込まれる、(2)自ら覇権を取りに行く、(3)自主防衛を確立し米国寄りのスタンスを取る、(4) 自主防衛を確立し中国寄りのスタンスを取る、(5)自主防衛を確立し米中の間で等距離を取る、の5つの選択肢となる。
小沢氏の唱える「日米中正三角形論」は、上記の(5)自主・等距離に当たり、言わば太平洋を舞台とした三国志に於ける「天下三分の計の現代版」といえる。
しかし、民主化していない中国の行動は将来予測困難である上に、歴史的に国家間の三角関係は疑心暗鬼を生み安定したものではない。
日本としては、前述の(1)中国覇権は容認出来ず、(2)独自覇権は実現性が乏しく、(4)自主・中国寄り及び(5)自主・等距離はリスクが高いため、現下の現実的な選択肢としては(3)自主・米国寄りが最適解であると思われる。
 日本が明確に自主防衛化を進めつつも、なお当面は米国寄りのスタンスを維持するものである。
日本がしっかりした直角を構成した上で、日米を短辺、日中を長辺とした言わば「日米中直角不等辺三角形論」(三角定規を斜辺を下にして倒したイメージ)とも言えようか。

G2と「正三角形論」
2008
11月にCIA等で組織する米国国家情報会議が発表した「世界潮流2025・変化した世界」や、今年2月に米国防総省が発表した「4年ごとの国防計画見直し」(QDR)は、中国等の台頭への懸念を示すとともに、日本等の同盟国への安全保障の負担を求めている。
一方、例えば、実務レベルではあるがキャンベル国務次官補は、今春の朝日新聞のインタビュー記事の中で、米中日の関係は米国を中心とした二等辺三角形でなければならないと発言している。
即ち、米国内に、(A)同盟国の力を借りながら中国と対峙するというのと、(B)中国とより緊密になり同盟国を相対化する、というそれぞれを主張する2勢力があり、その間で米国が揺れている。

これに対し、小沢氏は、以前からの持論ではあるが、日本が扇の要となる「日米中正三角形論(もしくは二等辺三角形論)」を主張するばかりか、昨年12月の民主党大訪中団のように大胆な実践に打って出て、米国の神経を逆撫でした。
一連の小沢氏の政治資金問題での現下の苦境は、これらと無関係とは言えまい。

小沢氏の「日米中正三角形論」は、イメージが明確であり、米国を中心とした二等辺三角形論への牽制・アンチテーゼとしては意味があるが、前述したように非常にリスキーなものである。
(三国志では、蜀と呉は滅び、その後、魏を引き継いだ晋が天下を統一した。)

前述の「日米中直角不等辺三角形論」は、これに比べ切れ味が悪く、少なくとも言葉だけではシャープなイメージが湧き難いが、そうした上でインド・ロシア・アジア諸国・EUとも結び、如何なる状況の変化にも対応出来るようして置くのが現下に於いては取り得る唯一の現実的戦略であると筆者は考える。

以前、小沢氏は「日本に駐留するのは第七艦隊だけで十分」と発言し物議を醸したが、これは「オバマさん、安全保障のファイナンス大変でしょう、日本が自分の防衛はやりますから、その代わり日本の主体性を認めてくださいね、どうですか?」という 大リーグ・ボール級の曲球でありかつ直球であったが、そのプロセスとスケジュールが示されておらず内外に様々な疑心暗鬼を生んだ。

大義を四海に敷かん
「日米中正三角形論」にしても、「日米中直角不等辺三角形論」にしても、自主防衛を高める以上、具体的にどの程度の「自主防衛」を目指すのか、防衛費増加をどうするのか、武器輸出三原則を防御的兵器については緩和し防衛費負担を圧縮するのか、日米安保をどうするのか、日米の軍事情報リンクをどうするのか、安全保障基本法・憲法をどうするのか、核の傘をどうするのかという具体像とスケジュール化が必要とされる。
またその三角形は、安全保障とビジネスでは異なる形を用意する必要があるかもしれない。

「我が英国には永遠の同盟も永遠の敵も存在せず、ただ英国の国益あるのみ」という19世紀英国の首相パーマストン子爵の言葉がある。
けだし、覇権国家の2世紀前の名言ではある。

しかし、現代の国際情勢は「絶対的な敵も絶対的な味方も存在せず、相対的な敵と相対的な味方があるのみ」というような複雑な状況である上、元より日本に権謀術数を用いる能力などないし奏功しない。
日本の外交は、「国際的な大義を伴う長期的国益の追求」のコンセプトの下、国際世論を味方に付け、主体性をもって臨み、ただブレずに行く以外にない。

筆者の考えは、日本が自主防衛の度合いを強化し、より主体性を高めることについては、小沢氏の考えと同じであるが、米中を手玉に取り駆け引きを行うが如き「日米中正三角形論」は、危険なギャンブルのように映る。

近い将来のイラン攻撃や北朝鮮暴発、中国の不動産バブル崩壊に続く動乱等の可能性も噂されている。
小沢氏の「日米中正三角形論」はそれらに備えてのものかもしれない。
また、自主防衛を高める以上、中韓の反発は避けられず、それを緩和する狙いがあるのかも分からない。
しかし、策士策に溺れると言う言葉があるが、非常に危険なゲームに国民を巻き込む可能性がある。

小沢氏は、「日米中正三角形論」の具体像を、この国を何処に向かわせたいのかを国民に対してより明確に語る義務がある。

 

有馬さんのカイ始塾に2回目の参加をした。

10:17 PM Aug 24th twit SHから

有馬さんのカイ始塾に2回目の参加をした。ゲストは石破さん、さっき終わった。ルールで詳しくかけないが、石破さんは自分で言うように防衛屋。経済内政には弱い。また、残念ながら、お題お題で自分でエッセイ風に話を纏め上げて、話のスケール、おーぷん度、構想の発展性が狭い印象を受けた。



20100620

消費税増税外圧を鵜呑みする菅内閣の稚拙 −先ず3%成長の4年持続を達成せよ−

菅首相の「変節」
菅首相は、7日に「早期に結論を得ることをめざして、消費税を含む税制の抜本改革に関する協議を超党派で開始します。」とした参院選向けの民主党マニフェストを発表するとともに、記者会見で「税率については自民党が提案している10%という数字を一つの参考にさせていただきたい」と述べ消費税増税に向け舵を切った。

財務相に就任当初の正月には、「逆立ちしても鼻血も出ないというほど、完全に無駄をなくしたと言えるところまできた時に(増税の)議論を行って」と述べていたのと比べれば180度の変更、変節といえる。

事業仕分けで当初思っていたような無駄の削減が達成できていないことに加え、大馬鹿だと公言していた財務官僚に国会答弁で経済の基礎知識を知らず右往左往したのを助けられ屈服したこと等がこの変節の原因であろう。
また、8月期限で具体化させなければならない普天間米海兵隊基地の辺野古移設から世論の目を逸らさせるつもりであったり、小沢前幹事長の仕掛けるであろう政界再編の機先を制して自民党との大連立の芽を作っておくこと等の計算もあるのかもしれない。

だが、一番の原因はギリシャを発端とした各国財政危機問題と関連付けられ、日本の巨額財政赤字が26日からカナダ・トロントで開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議(金融サミット)で、槍玉に挙がることを恐れたようだ。
初の国際会議で、華々しいデビューが出来ないことに首相の高いプライドが許さなかったのだろう。

既に国際通貨基金(IMF)が5月、「日本政府は2011年度に財政再建を開始し、消費税を徐々に引き上げる必要がある」との声明を発表したほか、フィナンシャル・タイムス等の海外メディアからは、日本が消費税率を早急に上げるべしといった論調が目立ち始めている。
日本の巨額債務が、望ましいことではないのはその通りであるが、日本には日本の事情がある。

増税前にすべきこと
先ず、日本の経済構造は依然脆弱である。
名目3%の経済成長を達成し4年間は持続させて見せて、リーマンショックからの今年度の立ち直り効果等だけでない、しっかりした経済構造を確立しそれを証明する必要がある。
18日に閣議決定された『新成長戦略〜「元気な日本」復活のシナリオ〜』は、医療・介護分野に重点が置かれ過ぎるきらいはあり、時系列の優先順位が示されず戦略性が弱いが、アイデアのインデックスとしては悪くない。
これを戦略性に基づいた指導力で実行して行けば、3%成長の4年間継続は、決して不可能な数字ではない。

次に、事業仕分けは未だ本格的に総額200兆円といわれる特別会計に切り込んでいない。
また、国会議員定数削減と国家公務員賃金削減も手付かずである。
これらは、地方自治の原則はあるが、何らかの仕組みによって実質的に地方にも広げて実施すべきであろう。
例えば米国では、基礎自治体の議員は定員も少なくボランティアに近い報酬である。
日本の公務員賃金は地方を含め32兆円と言われる。
欧米と比べると、公務員の賃金水準は高く逆に公務員数は少ないと言われる。
例えば、公務員賃金を3割減とし逆に員数を1割増やすことも考えられる。
特別会計も年金会計を含んだり、公務員に自衛隊や警察官を含んだりとかの事情は当然考慮しなければならないが、「仕分け」をした上で削減を進める必要がある。

加えて、国と地方を合わせて1000兆円に届くといわれる債務の一方、少なくとも数百兆円の資産があるといわれている。
これを処分しての債務との相殺も進めるべきだ。

主体性なくば国滅ぶ
民主党マニフェストでは、「強い経済、強い財政、強い社会保障、好循環のニッポン」と謳われているが、その実行順序が明示されていない。
観察するに、菅首相は経済ブレーンと言われる大阪大学教授小野善康・内閣参与の理論に影響され、「増税しても適切な分野に財政支出すれば経済成長する」と繰り返し述べているように恐らくは増税から始めるつもりでいる。
小野理論は誤りとは言い切れないが、現実的にはお金に色が付いている訳ではないから、予算編成の過程で増税分の用途は財政赤字への補填と混じり合い結局はトータルで緊縮財政になってしまうだろう。

世界各国で、増税で経済成長した事例は少なくとも現代史の中にはない。
増税優先で進んだ場合、かつての「橋龍不況」を持ち出すまでもなく足腰の脆弱な日本経済はほぼ確実に大不況に陥る。

欧米からの増税圧力について、特に米国は自国の巨額赤字をファイナンスするために日本に増税させた分で米国債を買わせようとしているという見方もある。
多分これは当たっているのだろうが、日本経済を潰しては元も子もなくなるのだから、悪意を持っての増税圧力とまでとは言えない。
しかし、IMFも含め増税で日本経済が上手く行くと正確にシミュレートして忠告して来ている訳ではなく、その結果日本経済が破綻しても責任を取る立場にない。

要は、当然のことながら日本政府がこれらの「圧力」を咀嚼して、主体的な経済国家戦略を立てるべきである。

菅首相には、上述のように増税外圧や小野理論の鵜呑み、財務官僚への急接近や「10%税率」を借用し、当の自民党から「おんぶお化け」と言われたように少なくとも財政政策には主体性が全く感じられない。
主体性がなければ、如何なる国も滅びの淵にある。

筆者は、この紙面で菅首相および今回の消費税増税計画の実質的な責任者である玄葉光一郎特命相兼民主党政調会長に、3%成長の4年持続を、消費税増税のための最低条件として公約することを要求する。

20100607

普天間問題、先ず自主防衛の国論を立てよ −沖縄「抑止力」の3つの貌−

普天間基地移転問題で、米国と沖縄の板挟みとなって鳩山政権が潰れた。
思い付きでものを言う実務能力のない鳩山氏の自業自得といえばそれまでだが、菅政権となっても地元反対運動により海兵隊の辺野古移設への回帰を決めた日米同意通りには収まりそうにない。
極端に言えば、沖縄が独立運動を起こしかねない。

この問題への取り組みとしては、先ず鳩山氏が「今更ながらに重要性が分かった」という抑止力について、今一度整理する必要があるだろう。

沖縄海兵隊の抑止力には、以下の3つの貌がある。
(1)
オペレーション(実際の作戦)としてのもの、(2)プレゼンス(駐留効果)としてのもの、(3)日米同盟の紐帯の象徴としてのもの。

(1)
についてはグアム、テニアンから作戦行動を起こすことも可能であり、(2)については沖縄嘉手納基地の空軍を始め在日米軍の大部分が残り、いずれも相対的なものである。
しかしながら、(3)の日米同盟の紐帯は致命的なものであった。

米国が海兵隊(今回の辺野古移設の対象となる第三海兵遠征軍第31海兵遠征部隊:MEU)の沖縄駐留に拘る理由は、蟻の一穴で今後米軍が沖縄から排除される切っ掛けになりかねないとの懸念、色々な作戦上の自由度を高めるため沖縄に海兵隊遠征部隊の拠点があった方がよいと考えたこと、日本の思いやり予算を期待できること等であった。

特に思いやり予算については、身も蓋もない米国の懐事情によるが、米国も海兵隊員を喰わせなければならない以上、決して軽視できない事柄である。

そもそも、そうやって足下を見られるのは、日本が防衛を米国に大きく依存しているからである。
普天間問題は、こうした歪みの一つの症状にしか過ぎない。

歪みの解消には、日本に先ず自主防衛の覚悟が必要である。
核の傘は別枠として、通常兵器では基本的に自衛隊だけで国防を行なえる体制の今後10年目処での構築が必須であろう。

このための防衛コストについては、防衛的な兵器については武器輸出三原則を緩和する等の施策によって圧縮する等々も検討すべきだ。

また何より、アジア諸国の日本軍国主義復活への警戒感、および米国に米国離れ中国接近の疑心暗鬼を起こしかねない。
これらについて、鳩山氏等の「東アジア共同体」、小沢氏の「日米中正三角形論」が危ないシグナルを送っている。
イラク戦争のような侵略性の強い戦争を起こしたことは非難すべきだが、それがアジアから米国を遠ざけるべきとは理論的にも現実的にも直結しない。

日本の考える「国際的大義」を定義し、安全保障と国際貢献の範囲と基準を明確に示すとともに、自主防衛でしっかりとした「角」を占めながらも安全保障では米国側に立つ「日米中直角不等辺三角形論」が当面の日本の進路であろう。

普天間基地問題の解決は、そういった足場を固めた上での地道な日米交渉を通してしか有り得ない。

20100525

今晩、有馬晴海さんの隗始塾に初参加した。

今晩、有馬晴海さんの隗始塾に初参加した。ルールで内容は書けないが、有馬さんもゲストの谷川 秀善 自民参院幹事長もいい人だった。(政治的良心があった。)

20100418

郵貯マネーは「官民折半」でアジアへ流せ −「平成の満鉄」?巨大国策会社の行方−

全国郵便網、地域決済機能等のユニバーサル・サービスを維持するためには、税金を突っ込むか、郵政会社に経営の自由を与え収益を上げさせる以外にない。

小泉郵政民営化は上記のどちらも行わず、いずれかの時点で持続不可能となるスキームだった。
民主党連立政権は主に政治的理由から税金の投入を否定した。そうした以上、郵貯上限2000万円が適当かは別として経営の自由化を選ぶ以外に選択肢はない。

郵貯・簡保の巨額マネーは、民間金融機関と競合する分野へ流せば民業圧迫と成り、公共事業等の官の領域に流せば、財政投融資の焼き直しと非難される。
官民共同での新エネルギー開発、アジアのインフラ整備等の国策巨大プロジェクトに流す以外にない。

民主党の転向
郵政改革法案の国会提出は政局に押され4月末にずれ込む見込みだが、日本郵政に対する政府出資を3分の1超にする方針が盛り込まれる等、政府の関与を強く残すものとなる。
また、亀井郵政・金融担当相の力技で決った郵便貯金の預け入れ限度額を1000万円から2千万円に、簡易保険の保険金上限額を1300万円から2500万円にそれぞれ引き上げる政府方針も別途、政令で定めることになる。

郵政問題の本質は、全国郵便網、地域決済機能等のユニバーサル・サービスの維持にある。
冒頭で掲げたように、これを維持するためには、税金を突っ込むか、ある程度の経営の自由を与え収益を上げさせる以外にない。
小泉郵政民営化は上記のどちらも行わず、いずれ持続不可能となるスキームだった。
郵貯の預け入れ限度額を1000万円のままにする等、民間金融機関に比べて大きく経営の手足を縛るなら、ユニバーサル・サービスは愚か、郵政事業自体の縮小  解体  外資等への切り売り、売却は避けられない道であった。
事実、郵貯・簡保の残高は、併せて2009年末で約300兆円あるとはいえ、民営化前の約350兆円から減り続けてきた。

民主党は、2005年の岡田代表時代のマニフェストでは、郵貯の縮小・民営化、簡保の売却、ユニバーサル・サービス維持に必要な場合の税金投入を謳っていたが、今回そこに立ち返ることなくこれを捨てた。
この理由の一つに、現下の経済・財政情勢で税金の投入は国民世論を考えれば選択する余地がないことがあり、もう一つには連立を組む国民新党およびその背後にある郵政票の取り込みが挙げられよう。
何れにせよ「政治的判断」と言える。

これについての筆者の立場は、全国郵便網、地域決済機能等のユニバーサル・サービスはナショナル・ミニマムとして維持されるべきだが、保険は新聞広告を見て電話一本と書類郵送で加入出来る以上、簡保については純粋にナショナル・ミニマムとしては不要であるとの立場だ。
一方、税金を突っ込んでのユニバーサル・サービス維持は収支と便益の関係が明確であるが、郵政のネットワークを業として生かしながらその収益を振り向けた方がコストは少なくて済むと考える。

なお、仙石国家戦略担当相等の言っていた、税金も突っ込まないで郵政の手足も縛ったままというのは小泉路線の延長であり、温かいアイスのようなもので、氏の全共闘時代から引きずる空想的理想主義のなせる浅知恵に過ぎない。

巨額マネーは、「官民折半」でアジアへ流せ
しかし、日本郵政に対する政府の関与を強く残し、経営の自由を与える方法は、日本郵政を民であるのか官であるのかよく判らない鵺のようなものにしたという竹中平蔵氏等の指摘は、氏が外資の手先や売国奴であるかどうかの議論は別として正鵠を得ている。

郵貯・簡保の集める金は、暗黙の政府保証が残るため、官民「あいのこ」の金となる。
亀井大臣等からは、郵政には、投資・融資のノウハウがないため、地域の信金・信組へ貸付けそのノウハウを使い共存共栄を図ろうという案や、学校の耐震化や電柱の地中化等の公共事業に振り向けようとする案が出ている。

しかし、地方の民間の資金需要自体が少なく、資金は余っている状態だ。
また、学校の耐震化や電柱の地中化は決して無駄ではないばかりか前者は生徒の安全のために必須の事業ではあるが、工事自体は経済学でいう投入物効果として景気を押し上げる一方、完成後には安全・安心、街の美観等の効果はあるが少なくとも直接的にそれによって利潤をもたらすような経済学でいう稼働物効果はない。

この巨額マネーは、民間金融機関と競合する分野へ流せば民業圧迫と成り、公共事業等の官の領域に流せば、財政投融資の焼き直しと非難されるだろう。

さらに、金利高騰で下落リスクのある国債をもうこれ以上買い続ける訳にも行かず、中東諸国が行っているような政府ファンドは更にリスクが高く、郵貯・簡保の預金者や加入者が望むとも思えない。

繰り返すが、郵貯・簡保の集める金は、官民「あいのこ」の性質を帯びる。
このため、使い道も官民「あいのこ」の分野へ向けるべきであり、それが唯一しっくり行く。
例えば、官民共同の新エネルギー開発、アジアのインフラ整備、先進国を含めた諸外国への新幹線・原子炉建設等の国策巨大プロジェクトに流す以外にない。

その際の留意点としては、下記の点が挙げられよう。
出資・融資先を、実業を伴う国家プロジェクトに限定すること。(前出の「政府ファンド」との差別化をここで図る)
フランスや韓国の原子炉売り込みのように、海外への売り込みは政府が直接に相手政府等に働き掛けすること。
必ず、郵政+国家予算の出資・融資比率を50%以下とし、比率を「官民折半」とすること。
政府保証等はせず、民間と郵政+官でリスクを取りあうこと。(国債との差別化はここで図る)

もし上記を徹底して行えば、誤解を恐れず言うなら、即ち日本郵政が「国策会社」となることになる。
戦前の「満鉄」(南満州鉄道株式会社)は、国策の誤りとともに解体されたが、その轍を踏んではならないのは勿論である。
しかし、国家事業として新産業・新事業を興して行くこと自体は、日本の成長戦略そのものであり、日本の浮沈に繋がる。
海外で全く日本人であるバック・グラウンドなしに活躍できる一部の超エリートを除き、大概の日本人は日本の浮沈が多かれ少なかれ自分の人生に直結する同じ船に乗る運命共同体の中にある。
官民「あいのこ」の巨額マネーの使い道は、その存在を前提とするなら恐らくこの国家プロジェクト分野にしかあるまいと思われる。
諸氏の批判を待ちたい。

なお、郵貯・簡保マネーによる米国債購入を、亀井氏が年頭辺りから仄めかし始めている。
これについては、米中パワーシフトの中で日本がどう絡んで行くかという日米中三角形論の具体化の中で検討されるべき別次元の問題であり、別途改めて論じる必要がある。


 

20100417

Twitter 始めました。 Kozen_Sato5

Twitter 始めました。
今後は、下記で由なしごとをつぶやきます。

■Kozen_Sato
http://twitter.com/Kozen_Sato

 

20100131

小沢氏に問う、外国人参政権は国益か。 −危険な社会実験を急ぐ理由−

法案提出についての見通し
永住外国人への地方参政権付与法案は、民主党・小沢幹事長が昨年12月に訪問先の韓国ソウル市内の講演において政府提案で今国会に提出する考えを表明したように、小沢氏主導で進められてきた。

永住外国人への地方参政権付与については、懸念事項として都市部でのゲットーの発生や、特定国の外国人の集団移住により小規模な自治体がコントロール下に置かれ進んでは分離独立運動の発生も考えられること、現在40カ国が導入しているが欧米主要先進国ではほぼ英仏独伊がEU域内や英連邦加盟諸国民に限定的に付与するのみであること等が、既に多くの論者から指摘されている。

筆者も、これらの懸念を共有し、少なくとも今国会に法案を提出するべきではないと考える。
ここに来て、一連の政治資金問題で小沢氏が窮地に立たされているため、法案の具体化が進まず提出が見送られる可能性等も出てきたが未だ予断を許さない。
しかし、よくも悪くも民主党連立政権は、小沢氏のシナリオによって動いており、例え失脚してもその影響力が残るか、あるいは烏合の衆に戻り外側から小沢氏や自民党に揺さぶられるだけであり、各政策課題や構想について今一度小沢氏の考えを検証して置く必要があるだろう。

以下に小沢氏のホームページから、「小沢一郎のオピニオン・永住外国人の地方参政権について」(2005年自由党時代のものと思われる) http://www.ozawa-ichiro.jp/policy/05.htm という文章を抜粋しながら筆者の論評を加えたい。

帰化を阻む障害は消えた
<抜粋>
法案に反対する人達の多くの方の主張は「そんなに参政権が欲しければ帰化をして日本国籍を取得すればいい」という考え方があります。私もそれが一番いい方法だと思っておりますし、また在日のほとんど多くの人々の本心であると思います。

しかし、このことについては日本側・永住外国人側双方に大きな障害があります。日本側の問題点からいうと、国籍を取得する為の法律的要件が結構厳しいということと同時に、制度の運用が、(反対論の存在が念頭にあるせいなのかはわかりませんが)現実的に非常に帰化に消極的なやり方をしています。例えば、刑事事件とならない軽い交通違反(スピード違反・駐車違反等)を起こしただけで、余分に何年もかかっているのが現実です。これらの状況を日本の側として考えなければなりません。<以上抜粋>
 
小規模野党であった自由党党首当時はともかく、現在政権党にあるのだから国籍を取得する為の法律的要件や運用を緩めれば、この問題は即座に解消される。

特別永住者限定なのか?
<抜粋>
一方、永住外国人のほとんど多くの人は日本で生まれ育って、まったくの日本人そのものであり、その人達が日本人として生涯にわたって生きていきたいと願っていることは、紛れもない事実だと私は思います。ただ、過去の併合の歴史や、それに伴う差別や偏見に対して心にわだかまりがあるのも事実なのです。

我々日本人は、両国両国民の数千年の深い繋がりと友好関係を考えなければなりません。また、近い将来日韓両国は、EUや北米大陸の例にあるように、自由貿易を柱とする共同体構想が現実のものになると思います。今こそ、日韓両国民がお互いにわだかまりを捨て、将来に向けて信頼関係を構築していくことが、両国と両国民の繁栄のために必要不可欠なことであると考えます。<以上抜粋>

これは、サンフランシスコ講和まで日本国民であった韓国人やその子孫等の「特別永住者」のことを指してると思われ、それに限定した理由付けにしかならない。

英連邦やEUとの比較は無理筋
<抜粋>
しかし両国が主権国家として存在する以上、地方参政権の問題は、政治論の側面からだけではなく、法的・制度的にも許容されるべきものでなければなりません。

永住外国人に地方参政権を与えることについての国際社会の状況は、アメリカをはじめ未だ多くの国が、国籍の取得を要件としているのは事実であります。しかしながら、例えば日本の場合と状況が似ている英国では、かつて植民地支配した英連邦出身の永住権取得者に対して投票する選挙権だけでなく、立候補できる被選挙権まで与えています(地方選挙)。北欧の国々では一般的に永住権取得者には地方参政権を与えており、また、EU域内では、「お互いに永住権を取得した者には地方参政権を与えよう」という方向で制度の改正が行なわれつつあります。このようなことを考え合わせれば、地方参政権の付与が主権を侵害する、或いは主権国家としての日本の存在を脅かすものであるという主張は、必ずしも今日的な社会の中で、絶対的なものであるとは言えないと思います。したがって私は永住者に対する参政権の付与は、憲法上・制度上許容されるべき範囲のものであると考えます。<以上抜粋>

「かつて植民地支配した英連邦」は、現在も形式的ながら国家元首にエリザベス女王を頂く「連邦」であり、EUは実験的ながら言わば巨大な連邦主権国家であり、どの連邦にも属さない日本とは全く事情が違う。
「東アジア共同体」の是非については議論が分かれるところだが、将来において仮に「東アジア共同体」の創設が明確になった場合に初めてEU等と比較しての議論が成り立つものである。

危険な社会実験と政治的窮地
<抜粋>
以上のような政治的側面、制度的側面双方から考え合わせ、一定の要件のもとに地方参政権を与えるべきだと考えます。そして、そのことにより日本に対するわだかまりも解け、また、結果として帰化も促進され、永住外国人が本当によき日本国民として、共生への道が開かれることになるのではないでしょうか。<以上抜粋>

小沢氏が、永住外国人への地方参政権付与を急ぐ理由として、巷間語られるのは昨年の衆院総選挙で民団(在日本大韓民国民団)から応援を受ける代わりに手形を切っていることや今夏の参院選で公明党とその支援団体の創価学会を引き寄せるため等が語られている。
特定利益集団の要求と引き換えに支持を取り付けること自体は、民主主義に於いて否定されない。
しかし、事は地方参政権とはいえ民主主義の枠を決める問題であり、筆者は本来なら国民投票に付すべきレベルの問題と考える。
予見される範囲でのメリットに比べてリスクが余りにも高い「危険な社会実験」であり少なくとも時期尚早である。

百歩譲って仮に法案を提出するなら、対象を北朝鮮籍を除く「特別永住者」に限定し議員立法で行うべきだ。
更に将来の道州制導入の可能性もあるため、市町村レベルに留めるべきだろう。(ドイツは州政府への参政権を認めていない。)

<抜粋>
国政を預かる政治家として、ホームページ上で自分の考える全てのことを申し上げることはできませんが、この問題は主として、在日の朝鮮半島の方々の問題であることからあえて申し上げます。もし仮に朝鮮半島で動乱等何か起きた場合、日本の国内がどういう事態になるか、皆さんも良く考えてみてください。地方参政権付与につきましては、あらゆる状況を想定し考えた末での結論です。<以上抜粋>

小沢氏は、この意味深な表現で何を言いたいのだろうか。
上記のような場合、日本国内の韓国・朝鮮籍の外国人が呼応して内乱を始める。
それを防ぐために地方参政権付与を誘い水にして帰化の促進を図るべしという理論か。
 
米中が接近する等国際情勢が流動化する中で、大国に伍して渡り合って行ける政治家は見渡す限り現在の日本には小沢氏しかいない。
しかし、策士策に溺れるの例え通り、希望的観測やアクロバティックな奇策は、国を亡ぼすリスクを孕む。

外交問題絡みについては、「国際的大義を伴った長期的国益の追求」の基本に立ち返り亡国に至らぬ道を選ぶべきだ。

小沢氏の政治資金問題の帰結がどうなるかは判らないが、今の窮地はそんな小沢氏に対する国民の漠然とした不安が背景にある気がするのは筆者だけか。

 

20100104

鳩山政権「新成長戦略」の問題点 −勝つためのシナリオたり得るか−

「新成長戦略」の概要
鳩山内閣は、昨年末12月30日に経済成長戦略の基本方針として「新成長戦略〜輝きのある日本へ〜」を臨時閣議で決定した。

以下、民主党ホームページから関連記事を抜粋する。
<前略> 内容は、政治的リーダーシップにより、「環境・エネルギー」「健康(医療・介護)」など、日本の強みを生かし、更に「アジア」「観光・地域活性化」などのフロンティアを開拓することによって需要からの経済成長をめざすもの。

 閣議に先立ち鳩山由紀夫総理大臣(代表)は、政府の成長戦略策定会議の席で、「これまでは経済のために人間が動かされてきた。これからは人間のための経済だ」と理念を述べた。また、閣議後の記者会見では、(1)環境対策など日本の強みを生かし、ややもするとマイナスの評価をされがちな少子化や高齢化を、健康・長寿な社会をつくるチャンスととらえる、(2)アジア全体を成長させていくことで日本とのウィン・ウィンの関係をつくり、国内においても地域活性化をはかる、(3)科学・技術、雇用・人材など成長を支えるプラットフォームを強化する、ーーなどとする基本方針の内容にふれ、「政権の実行力が試される」と具体化に強い意欲を表明した。 <後略>

また、2020 年までに環境、健康、観光の三分野で100兆円超の「新たな需要の創造」により雇用を生み、GDP成長率を名目3%、実質2%を上回る成長(平均)、名目GDPを650兆円程度、失業率を3%台への低下(中期的)とするなどの数値目標を掲げた。

マニフェスト、予算との3者間の整合性
数値目標を掲げた点などは、率直に評価できる。
一方、問題点としては、次の点が挙げられよう。
(1)先のマニフェスト、2010年度予算との3者間の整合性
(2)戦略性・束ね感の弱さ
(3)医療や介護をGDP成長・雇用の主軸に組み込んでいる点等

先のマニフェスト、2010年度予算との3者間の整合性については、予算、マニフェスト間のずれに関し既に多く語られているが、今回の「新成長戦略」が加わりさらに不整合が拡がった感がある。
特に強調したいのは、「新成長戦略」に、環境・エネルギー分野で2020年までの目標として、新規市場50兆円超、新規雇用140万人としながら、2010年度予算では住宅用太陽光発電への補助金は09年度予算の約2倍の402億円、電気自動車などに対する購入補助金について同5倍の124億円、波力発電や地熱発電の実証研究などの先端技術の開発で同3割増の50億円などと、前年比大幅増しているものの規模が100億円単位に収まっている点である。
他に規制緩和の必要性など、予算の規模で全てが決る訳ではないが、米オバマ政権がグリーン・ニューディール政策として、雇用対策面が強く内容が雑多であるなど単純比較はできないものの10年間でクリーン・エネルギーへの投資1500億ドルで500万人の雇用創出を公約していることと比べても本気度に大きな疑問符が付く。

また、マニフェストで謳われた高速道路無料化などは、「新成長戦略」に少なくとも明確に触れられていないが、どう位置付くのだろうか。
高速道路無料化は、マニフェストでは段階的実施としているものの2年後に満額の1.3兆円分が無料化になると明記してある。
なお、高速道路無料化は、マニフェスト中で世論調査では環境問題とも絡み一番不人気の政策であるが、経済効果の複数の試算では一番費用対効果の高い政策であり、「新成長戦略」に明記されないのは違和感がある。
2010年度予算では、単年度ではあるが実験的支出として1000億円と1桁落ちとなっており、所管の前原国交相が元々無料化反対論者である点と併せても、高速道路無料化は主要政策としては放棄されたとしか見えない。
政府は、この点を早期に明らかにすべきだろう。

戦略性・束ね感の弱さ
ところで、そもそも戦略とは何であろうか。
筆者は次のように定義する。
戦略とは、勝つための、差別化され体系化された、実行への決然とした意志を伴なう、包括的シナリオ・概略作戦書である。
「新成長戦略」は、何かこれで勝てそうな気がしない。
それぞれのアイテムを並べることは勿論必要であるが、それを一言で束ねる言葉が必要である。
総責任者の鳩山総理の個性を抜きにしても、何かが足りない。
「人間のための経済社会」は、思想家、宗教家の言葉としてはよい。
思想も必要であり、筆者はそれを否定しない。
しかし、政治の言葉として、戦略を束ねる言葉としては不足している。

戦略には、優先順位と中心が必要であり、かつ実用的でなければ戦うためのツールに成り得ない。
筆者なら、成長戦略を束ねる言葉としては即物的かつシンプルにこうする。
「新エネルギー産業を中心として、名目GDPを2010年までに650兆円程度とし、失業率を中期的に3%台へ低下させる。」

医療や介護のGDP成長・雇用への主軸化
また、筆者に言わせれば、医療や介護をGDP成長の主軸に組み込んでいる点は危うい。
「新成長戦略」では、2020年までの目標として「医療・介護・健康関連サービスの需要に見合った産業育成と雇用の創出、新規市場約45兆円、新規雇用約280万人」と、環境・エネルギーの分野での新規市場50兆円超、新規雇用140万人と比べてGDPでほぼ同額、新規雇用では倍としてGDP成長・雇用の一方の主軸に組み込んでいる。
医療・介護の施設・人員不足、労働条件の向上については早急に対策すべきだが、「医者いらず介護いらず」こそ人間本来の姿であり、「健康関連サービス」と「需要に合った」という周到な官僚的キーワードは入っているものの成長産業として一方の主軸に位置付けるのは誤りであると思う。
理屈の上では、高コスト治療や病人、要介護者を多数生み出せば数値目標を達成することとなり、成長戦略の中心に位置付けることにより、そういう事態を招くこととなり兼ねない。

では、なぜ医療・介護が中心に位置付けられたのかを推し量ると、勿論これらの産業が成長を語る論者の間でポピュラーであることが背景にあるが、大袈裟に言えばそれは彼らが「内需中心の経済」という言葉に呪縛されているからである。
外需のデメリットとしては、今回のリーマン・ショックのように世界同時不況に極めて弱いという事が挙げられる。
しかし、究極的には外需の縮小により、エネルギー・食糧を輸入に頼る我が国がこれらの支払に窮することが一番の問題なのである。
エネルギー・食糧の自給率を高めることを進めれば、外需便りへの心配は全部とは言わないが半減しよう。
「新成長戦略」でもアジア市場をフロンティアにするとしているのだから、内需信仰を普通の信心程度へ変えて、戦略の優先順位を「外需・内需に拘わらない成長・雇用を第一とする。その上で内需のメリットを尊重する。」とし、数値を組み替えるべきだろう。
程度によるが、高コスト治療や病人、要介護者を多数生み出すことの方が、外需縮小の打撃より忍びがたいと筆者は考えるが如何だろうか。

その他の懸念と今後
前述したように、筆者は成長戦略の中心を「環境・エネルギー分野」ではなく、「新エネルギー分野」とする。
環境と太陽光等の新エネルギーは表裏一体であるが、両者には微妙なずれがある。
例えばCO2の地中閉じ込め技術は、環境対策には役立つが国のエネルギー安全保障には役立たない。
一方、メタンハイドレート(新エネルギーに位置付けるかどうかは別にして)は、国のエネルギー安全保障には役立つが環境対策には役立たない。
勿論、条件を単純化すれば両方を兼ねるものを追求するのが一番よい。
その上で、CO2等の温室化効果ガスによる地球温暖化説には異論が出されていることを考えれば、今後国際社会の中で梯子を外される恐れがあり、「環境側面」の価値下落のダメージは確率として織り込み、ポジションを「新エネルギー」寄りにシフトさせておく必要があろう。

その他、2020年までに食料自給率50%化を目指すのはいいとしても、一体100%化を何年に置いているのか?
そもそも、100%化については、民主党は昔には主張していたが、先のマニフェストにも書いてないから目指さないつもりなのか?
等々、ツッコミどころは未だ未だあるが、長くなったので今後の修正と6月目途という具体化作業に期待してこの辺で終わりとしたい。

自民党から建設的批判と願わくば対案が出て欲しいが、そもそも今回の「新成長戦略」もネタは経済産業省というから、もう出てこないか、あるいはそっくりなものが出てくるかも知れない。
しかし、少なくとも微妙なテーストは違うはずで、二大政党制である以上、早めの対案発表を願いたい。

 

20090923

小沢の描く政界再編シナリオ −来夏自民殲滅後に起こる事−

自民党の歴史的役割の終焉
8月30日の衆院総選挙で自民党が大敗したのは、何も麻生太郎の薄っぺらさのためだけではない。
自民党が小泉改革を否定するのか肯定するのかを総括出来なかった事が、敗北の主要因である。
総括出来なかったがために、打ち出す政策が規制緩和や小さな政府志向と、従来型の官僚依存体質や大きな政府志向を足して2で割る方向性曖昧なものになった。

先進諸国を見渡せば、今後内政に於いては極端な新自由主義も社会主義も選択する事は不可能であり、取り得る政策の範囲は「ナショナル・ミニマムを伴う自立社会」を構造的に組み上げて行く事に限られる。
今回の民主党の勝因は、曲がりなりにもそこに軸足を置いた事に基底がある。

今後の自民党の政策選択肢は、(1)一定の留保を付けての小泉改革の継承、(2)従来の官僚依存・大きな政府指向、(3)「ナショナル・ミニマムを伴う自立社会」の3つ若しくはこの混合である。

前二者は既に破綻したスキームであり、(3)を選択した場合に具体的に取り得る政策は民主党の政策をアレンジしたものにならざるを得ない。(例えば、高速道路料金無料化に対して、値下げの継続等)

このため自民党は既に歴史的役割を終えており、9月28日に投開票される自民党総裁選に誰が選出されても自律的に党勢が回復する事はなく、もし民主党が来夏7月の参院選の結果、参院単独過半数を得られないとしたら景気失速等の大きな失政か慢心による選挙戦術の失敗による自滅以外にあり得ない。

自由を目的とする小沢一郎の自己展開
民主党連立政権の成立を受けて、小沢一郎の当面の目標は来夏参院選での自民党殲滅に絞られた。
既に水面下で、自民党の中に手を入れて離反工作を開始したとも伝えられる。
仮に参院選(同日選の可能性もある)で民主党が大勝すれば、自民党は散り散りに分裂し、やがてその一部と公明党を加えた巨大連立与党若しくはパーシャル連合が出現する。

目下の経済情勢の不安定さを考えれば、暫くの間はその体制のまま民主党のものを中心とした諸政策の実現が図られる。

そして、一部で予想されている小沢の所謂「永久破壊活動」が再開されるのは、内政での一定の安定を見計らった上で次回(来夏7月に同日選が行われていれば次々回)衆院総選挙までの間だ。
即ち、敢えて内政、外交で連立与党の半数がついて行けない方針を打ち出して篩にかけ、民主党内および連立与党を分裂させて総選挙を打ち二大政党を作り上げる。

その場合、二大政党の対立軸となる理念は何か。
以下は、少し長いが自由党と民主党が合併した翌年2004年参院選後に行われた小沢へのインタビュー記事だ。

<前略> 一つは、旧来の伝統的社会の思想を受け継いだ政党だ。すなわち、自由か平等かという対立軸でいうと平等を旨とし、管理型で内向き、コンセンサスを重視する社会を目指す政党だ。もう一つは、私たちが主張しているような、できるだけ自立した社会を目指し、何事もオープンで公正で自由な競争ができる仕組みをつくり、外との関係をもっと重視する政党だ。その二つの政治思想が、日本の二大政党のあるべき姿だと思う。

それを実現するには、いったん既存の権力を壊すしかない。そして、改めて自民党的、伝統的思想を受け継いだ政党ができれば、それが本当の日本コンサバティブ(保守)になる。同時にこちらはこちらで、もっとリベラルな集団をつくり上げる。 <後略>
(「小泉歌舞伎の終焉 自民党は生き残れる 『徹底再編』まで妥協はしない」 中央公論20049月号89日(月)より抜粋)

(加藤)・亀井新党?
小沢が民主党と連立与党議員の篩分けをする場合、その踏み絵とする具体的な政策は何か。
個別の政策の左右は小沢にとって死活的には重要でなく篩分けが主目的であるため、それは状況に応じて決まってくる面があるが、例えば下記のようなものだろう。

・米国等とのFTA(自由貿易協定)締結による関税撤廃、EPA(経済連携協定)促進による外国人労働者受け入れの大幅緩和
・郵政のうち、郵貯会社(場合によっては地域決済機能を除く)、簡保会社の縮小・売却のスケジュール化
・国連決議による紛争地域への自衛隊実戦部隊の派遣枠組みの立法化

このうち、例えば郵政については郵貯・簡保の金を地域経済に活用したいと考えている連立与党の国民新党代表 亀井静香郵政・金融担当相と民主党の間で既にギャップが明確になって来ている。

小沢の思考パターンは、ある程度何らかの措置をした上で、オープンで大胆な政策をとるというものだ。
上記の例で言えば、農家の戸別補償をした上で関税を撤廃する。
あるいは、国連の錦の御旗を得た上でブルーヘルメットの軍隊を派兵する。
これらは、デメリットに対し何の実効的な対応措置も取らずに規制緩和等を推し進めた小泉・竹中構造改革の思考パターンとは異なる点ではあるが、現実的に小沢のパターンについて行ける者は限られるだろうし、もし仮に大半の議員がついてくるなら、篩に掛けるのが主目的であるから敢えてハードルを上げるだろう。

大雑把に言って、政策分野には経済・社会保障等の内政と外交・防衛の2軸があり、下手をすれば4つ若しくはそれ以上に分かれるため、上手く2つに割るためにはハードルの上げ下げ等の工夫が必要であるし、双方のキャスティングも必要になってくる。

例えば、分裂する自民党から流れて来る加藤紘一のグループ、国民新党、民主党の中道左側部分、社民党、公明党で、曰く「民主福祉連合」を形成する。(この場合、加藤紘一が谷垣禎一あるいは別の者に代わっても実質的な影響はない)
一方、小沢が誰かを立てて残りの部分で、曰く「民主自由党」を作る。

見果てぬ夢と歴史の終わり
こうした自作自演気味の分裂劇を遂行するに当たっては、織田信長が敵に対して行ったように、先ずは自民党を完膚なきまでに叩きのめすのが大前提となる。
そのために、同床異夢でも来夏の参院選までは、何としても社民党、国民新党との分裂を避ける。

「日本に二大政党制の礎を作り、両党の祖となって信長を凌駕する名を歴史に刻む。」
小沢の政治に於ける最終目標は凡そこのような事だろう。
ほぼ天下統一を果たした織田信長や明治政府の骨格を作った大久保利通等の小沢が好む歴史上の人物も、道半ばにして倒れたが礎は残して逝った。

二大政党は、自由と平等という対立軸はあれども、内政においては前述したように「ナショナル・ミニマムを伴う自立社会」の範囲を出られない。
また、外交・防衛についても今後の国際社会の中ではイケイケドンドンも完全な引き籠りも許されないため、二大政党の政策は自ずと「国際的大義を伴った長期的な国益」を中心に挟んで近付いて行き、その中で外向的と内向的な違いがあるという形になるだろう。
こうした政権交代の振幅可能性を伴う本格的な二大政党制の出現は、戦国の世が治まったように日本の政治に於ける一つの終着点となる。
それが、小沢の手により成就するかは判らないし、更なる曲折があるかもしれないが、方向性はほぼ見えてきたと思われる。
(敬称略)

 

20090830

民主党政権への3つの懸念 −景気、アフガン、米中急接近−

景気は中折れか?
本日の総選挙投開票結果によって、民主党勝利、民主中心連立政権樹立が決まった。
この機に、来るべき民主党政権への内政、外交軍事での懸念事項について検討することとする。

先ず内政としては、現政権与党だから当然ながら基本的に無駄遣いは無いとする自民公明より、現財政に無駄遣い有りとする新与党民主の方が、どこまで出来るか別にして増税に依らない財源を探し出し新しい政策を打つ余地はあるだろう。

ただ、景気動向への影響としては、民主党のマニフェスト等によれば、平成22年度からですらガソリン税等の暫定税率廃止(2・5兆円)等の他には完全実施されるものが少なく、子ども手当は半額支給(2.7兆円)、高速道路無料化や医師不足対策は段階的実施となっている。
最低保障年金(1人月7万円)を中心とする年金制度改革に至っては、4年間掛けて制度設計の上決定し、40年かけて完全実施するとのことだ。

一方、麻生内閣の今年度補正予算については、民主党は具体的には「基金」の創設中止等のみ謳っているものの、基本的に執行凍結を図っていく模様であるため、その間相当な総需給ギャップが生まれる。

加えて、民主党政権で財務大臣就任が噂されるのは、例えば旧大蔵官僚出身で財政均衡論者の藤井裕久氏であり、財政再建の道筋は具体的に示していないものの基本的に緊縮財政気味のマインドを持つ岡田克也幹事長はじめ、中堅若手には小泉改革初期にその緊縮財政に拍手喝采したものが多い。

財政均衡論は中期的には目指すべきものだが、経済危機の最中に行うものではない。

民主党の言ってることをそのまま行えば、現在残念ながら政府支出と輸出の改善に頼る日本経済の景気の中折れはほぼ必至である。

ハコモノ撤退を選挙演説で叫ぶ鳩山民主党にどんな具体的な手があるか、諸政策の前倒しを含め空白の期間を埋める対策を相当規模で行う必要が出てくる。

給油中止とアフガン地上部隊
外交防衛問題では、民主党は先ずアフガニスタンで試される。

民主党は、海上自衛隊のインド洋での給油活動について、新テロ対策特別措置法の期限が切れる来年1月で活動を終了、海自を撤退させる意向だ。

国際貢献と対米協力として、代わりに「国連原理主義者」の小沢一郎氏が党代表時代に考えていたのは、国連の「明確なお墨付き」があるアフガニスタン国際治安支援部隊(ISAF)に地上部隊を派遣する事だった。
一方で小沢氏は「武力ではアフガニスタンを治められない」とも発言しており、小沢氏の流れを汲む鳩山代表が考えているのは自衛官、警察官、医師、技術者、NGOボランティア等の混成部隊の派遣のようだ。

これらにより、小沢氏は米国への従属を排しながら、米国と国際社会へ貢献を行うことにより、理念の実行とプラグマティックな外交的実利の両立を図ろうとした。

米国のオバマ政権は、アフガニスタン安定のため、掃討部隊を増派している最中である。
最近の米国内の世論は、アフガンの「ベトナム化」を嫌い、むしろ撤退に傾いているが、オバマ大統領は更なる大規模な増派に前のめり気味だ。

オバマ氏がアフガンに拘る理由として、(1)昨年の大統領選挙でのイラクからの撤退主張で有権者から弱腰と見られないようにするため、(2)軍産複合体の要請、(3)政権の後見役で、外交政策の重鎮ズビグニュー・ブレジンスキー氏等の考える要衝の地であるアフガン確保の地政学的戦略、(4)正式に表明している通りテロとの戦いアフガンをテロリスト世界拡散の元凶と見ているため、等が考えられる。

恐らくは、真の理由はこれらが融合したものと見るのが妥当だろうが、オバマ氏の中での上記(1)(2)(3)(4)それぞれの割合、優先順位が分からない。(1)の理由が薄れてきた以上、オバマ氏はタイミングを見てアフガン漸次撤退に向かうのか?
しかし、その場合オバマ氏がケネディー元大統領のような運命を辿らないかは、誰にも分からない。

そのため米国自身の今後のアフガンへの関わり、アフガンの行く末が不明であり、日本が国連の錦の御旗の下とはいえ混成地上部隊を送ることは、隊員の生命は勿論のこと、アフガン国民からの敵意、国際世論の評価等、相当なリスクが伴う覚悟が必要だろう。

米中急接近への対処
外交防衛問題で長期的に大きな視点で取り組まなければならないのは、米中急接近への対処だ。
中国の軍幹部が米国側の海軍幹部に太平洋二分統治を申し出る等、中国のパワーが増大している。

昨秋のリーマンショックによる世界同時不況の後、潜在的内需と膨大な景気対策を背景に中国経済だけが元気な状況だ。
世界は大きく中国内需頼みになり、オバマ政権は中国と急接近している。
ヒラリー・クリントン国務長官は、景気対策を賄う米国債を買ってもらうために中国の人権問題に五月蝿く注文を付けなくなり、米中は急接近し「G2」と言われるようになった。

かつて自民党の加藤紘一氏や小沢氏が「日米中三角形論」を唱えた時は、「日米関係を蔑ろにするのか」と国内各界で批判を浴びたものだが、最近ではその三角形にも入れて貰えないほど米中蜜月化が進んでいる。

日本は存在意義を失わないために、何かしら三国間の中で役割を見付けなければならない。
いや、むしろ役割を作りださねばならない。
産業界を例にとるなら、富士フィルムがデジタルカメラの浸透で役割を失ないかけている中、現像技術を応用して化粧品ビジネスに活路を見出すような大胆な方向転換が必要だ。

大きな画としては、長期的には米国から中国へのパワーシフトが避けられない以上、軍事面でのその動きを出来るだけ遅らせること、中国が民主化なしに強大化することを避けること、米国がソフトランディングすることを助けること、新しい世界秩序の妥協点を見出しそこへ向けて世界を動かすこと、貿易・国際金融・通貨の新しいルール作りに積極的に関わること、米中間の調整をすること、環境・新エネルギー技術の供与等が考えられる。

これらのことを行うための基礎固めとして、先ず日本の主体性の確立が必要である。
核の傘は別として、それ以外の自主防衛の構築は避けられない。
米国も一枚岩ではないが、コスト削減のため極東から駐留軍を削減する大きな流れは変わらないだろう。

貿易立国として、先進的技術をより加速するとともに、国際的発言力を増すために、国際貢献、とりわけ現地の民衆に感謝され長く記憶に残るようなものの促進や、国際世論を味方につける戦略性等が必要だ。

民主党に改革は出来るのか
連立を組むであろう社民党の一国平和主義的志向や、党内の前原誠二氏を筆頭とする従属的親米論傾向、鳩山氏や岡田氏自身がかつて初期小泉改革を礼賛していたような市場経済市場主義や緊縮財政的傾向、逆に農政族等による保護主義的傾向やナショナルミニマムを超えた社会主義的傾向等々、政権内側の混乱がある。
これに、マスコミ、新野党の自民公明等外側から、「左派と右派」、「親米と反米」、「自由経済と社会主義」、「緊縮財政とバラマキ」、「保守と革新等」のレッテル貼りの単純化された二分論が襲いかかる。

これらに惑わされて右往左往するのが、これまでの民主党の姿だった。
しかし真実は二分論の中にはない。
また、足して2で割る日本流のなかにもない。

役割を終えた旧来の構造を壊し、その中の相矛盾する要素を分解し、それらの特徴を生かし組み合わせて、機能する新しい構造を作り上げること。
これが、改革の本質に他ならない。

具体的な対策を打って経済を中折れさせずに、諸政策を通し「ナショナルミニマムを伴う自立社会」への改革に繋げてゆくこと、米国の恣意性や混迷に巻き込まれないようにしつつ「日米間の対等な関係」に具体的目鼻を付けること、主体性を確立し日米中、国際社会の中で役割を確立し「国際的大義を伴った長期的な国益の追求」を目指すことが民主党への懸念を振り払う道である。

中途半端に旧来の社会構造を壊し、新しき構造の建設なく放置プレーをした事を持って「構造改革」と称した偽物の改革者の時代は去った。

民主党が真の改革者になれるかは、ひとえに各議員の情緒に惑わされない理念的思考の確立と責任感、そしてそれを評価する国民の姿勢に掛かっている。

 

20090511

■独眼竜 伊達政宗

梵天丸と生まれ出で  病に右目失いて
独眼竜の名をもらい  従う忠臣小十郎
馬上、野山を駆け抜けて 奥羽の国を平らげし
明王様の加護を得て いつか果たさん平天下

上洛時を得ずにして  小田原の地に参陣す
白帷子(かたびら)に身を包み 太閤殿と相対す
機転で首を繋げども  野望は失せぬ独眼竜
寄せては返す海原の  向こうに見果てぬ夢を見て

時は流れて太平の 世に伏龍もひねもす日
曇りなき心の月を先だてて 浮世の闇を照してぞ
この世の客と思うなら 何の不自由も在らねども
次も乱世に生まれ出で 四方に広げん仏国土

Copyright (C) 2009 Kozen Sato. All Rights Reserved.

 

20090315

樋渡検事総長に問う。「かんぽの宿」事件を見逃す理由(わけ)

西松建設の違法献金事件が世間を騒がせている一方、先頃まで疑惑の中心だった「かんぽの宿」のオリックス不動産への一括譲渡問題がすっかり霞んでいる。

日本郵政が撤回した「かんぽの宿」の一括譲渡で、オリックス不動産への売却がいったん決まった社宅を含む79施設の固定資産税評価額が、売却の基準となった簿価の約7倍の856億円だったことや、売却先がオリックス不動産に決まった経緯が非常に不透明だったこと等が宙ぶらりんのまま残された。

当初、日本郵政の西川社長は公正な一般競争入札であったと主張していたが、鳩山総務大臣の一連の追求で様々な疑問が浮き上がってきた後は入札であったこと自体を取り消した。
このため、入札妨害罪等は成立しないかもしれないが、日本郵政側の背任罪が成立する可能性は十分にある。
また、オリックス側がもし不正に利得を享受したとするなら、一方的に巨額の利得を得ることは極めて不自然であることから、郵政民営化を実行し資産売却方針を決めた当時の政権も含め、売却側に複雑なルートを経て何らかの見返り等が渡ったと見る方が自然である。

鳩山総務大臣や野党は、引き続き「かんぽの宿」事件を調査・追及する構えだが、複雑な構図を持つと思われるこの事件を、専門の捜査機能と強制権限を持つ検察当局抜きで解明することは果たして可能なのか。
漏れ伝えられる所によると、検察当局は米国の年次改革要求を受けて進められた郵政民営化に連なるこの事件を立件することを早々と放棄したと聞く。

一方の西松建設の違法献金事件では連日、小沢氏側のダム建設等に関する談合への関与や役所への口利き疑惑、二階通産大臣や尾身元沖縄及び北方対策担当大臣の受託収賄疑惑等への発展可能性が報道されている。
検察当局が、たとえ事件がそこに至らなかったとしても、形式犯である政治資金規正法の虚偽記載についても政治資金が浄化に向かう中で指弾され、これまで以上に厳しく律されるべきものであるという相当の時代感覚・歴史観をもって今回の違法献金事件に取り組んでいるのなら、それは一つの見識であり、筆者はこれを「小悪」に対する非難されるべき国策捜査と言うつもりはない。

しかし、もし一方の国民の財産を大きく棄損した可能性が高い「かんぽの宿」事件については立件しないのなら、果たして国民の前に説明可能な合理的理由は存在するのか。
筆者は、様々に思いを巡らせてみても、その理由を想像できない。
樋渡検事総長および東京地検特捜部は、時機を逸せず「かんぽの宿」事件の「巨悪」にこそ正面から立ち向うべきだ。
さもなくば、検察の存在意義はあるまい。

 

20090223

オバマノミックスが招く「米中同盟」と日本の生き筋 −三国同盟による新世界秩序の可能性−

オバマノミックスと米国債引き受け
政府の対応遅れで日本経済はボロボロになり、大きく痛むであろう企業の3月決算を経て、失業者が路頭に溢れる事態に突き進んでいる。
今回の世界同時不況の元凶である米国は、共和党の反対の中、オバマノミックスといわれる70兆円規模の大型景気対策法案を2月中旬に成立させた。
しかし、金融機関や自動車ビッグスリーへの資本注入も合わせれば、200兆円とも言われる国債発行の引き受けを消化することはミラクルに近く、今後は如何にこれをやり遂げるかが焦点になる。

ヒラリー国務長官の2月16日からのアジア4カ国訪問は、本音ベースでいえば日本と中国に米国債を引き受けてもらうための交渉が最大の目的だろう。

金融工学商品の市場崩壊によって欧州が、そして石油下落によってロシア・中東が大きな痛手を負っている中、米国債引き受けを出来るのは、日本と中国しかない。

日本の景気対策財源
さて、能天気な麻生政権の下、日本経済は崩壊に一直線に進んでいるが、民主党の行財政改革を中心とした政策も、中長期的には必須ではあるが財政中立的な平時モードの政策であり、この未曽有の世界同時不況に対応し切れていない。
真水で20〜30兆円規模の対策が必要だと自民党内からも声が上がっているが、先ずその財源はどうするのか。
今議論に上がっているのが、(1)従来の赤字国債・建設国債に加え、(2)政府紙幣発行、(3)無利子・相続税非課税国債である。

従来の赤字国債・建設国債の発行について言えば、オーソドックスな手法だが700兆円を超える国債残高を考えれば世論の賛成を得るのは難しいだろう。

次に政府紙幣であるが、借金が増えないで財源が手に入るのであるから真に善い策であるが、円安誘導が起こり唯でさえ貿易保護主義がトピックになっている中、各国から袋叩きに会いかねない。
ハイパーインフレへの懸念は、デフレ下では当面ないとしても、スイッチオンで何時でも既存の国債残高をチャラに出来るという事なら円は通貨としての信用を失うだろう。
ここまでの飛び道具を行うのは、革命後や敗戦時の様な特別事態に限られ、未曾有の世界同時不況と雖も、もし本当に実行するためには客観的、自動的、自律的、普遍的且つ国際社会が認める発行制限額算出の仕組みが必要である。
筆者は少なくとも現時点ではその仕組みをイメージ出来ない。

無利子・相続税非課税国債は、借金の元本は残りスカッとしないが、その分発効に規律が保たれ政府紙幣に比べれば現実的である。
但し、日本では元々相続税を払うケースは僅かな富裕層に限られるから、この国債購入分については、たとえ出所がアングラマネーと思われても所得税調査を行わないというような仕組みが加わらないと購入が進まない恐れがある。

余談だが、上記の財源策に加え、筆者は分野別新型国債を提唱している。
分野別新型国債を発行してファイナンスし、成長が期待される新産業分野等に国家プロジェクトとして投資し、よってGDPが伸びた分を利息の代わりに国債購入者に配当する。
どうやって正確にGDP寄与度を測定するか、どのように投資資金を流し込むか等、本当に実現するためには突っ込み所満載であるが、投資家の目によって各々の国家プロジェクトが監視されるというメリットはあるだろう。

いずれにしても、財政中立政策では、日本経済と日本社会は崩壊してしまうと筆者は見ており、財源策については、よくよくメリット・デメリットを洗い出し具体化した上で比較検討し、程度の差はあれ何らかの飛び道具を使うべきと考える。

日本の景気対策の中身
さて、次にこうして得たとする財源をどのように使うかが問われる。
早急に総需要を喚起し雇用を作り出す必要がある。
ここで考えられるのは、(1)港湾、治水、道路等の従来型公共工事、(2)学校耐震化工事、電線地下埋設、羽田空港拡張整備等の「新型」公共工事、(3)環境・安全技術、新エネルギー・食糧水資源、福祉ビジネスへの投資等である。

先ず、特効薬と言われる従来型公共事業は土地収用費用に消える分も多く時間が掛り乗数効果も落ちており、第一、作り終わった後の稼働よる経済効果を生まないものが多い。

次に、取りあえず「新型」とカテゴライズした公共工事であるが、学校耐震化については、即効性があり規模が大きい。
電線地下埋設については、即効性は劣るが同じく規模が大きい。
しかし、これらは安全・利便を産むが、工事完成後の稼働による経済効果は従来型公共工事と同じく多くは期待出来ないだろう。
これに対し、羽田空港拡張整備は騒音対策等の調整に時間が掛かるが、確実に産業インフラに成り得る。

環境・安全技術、新エネルギー・食糧水資源、福祉ビジネスへの投資等については、これからの成長が期待出来、リターンが期待される分野である。
しかし、個別に見て行く必要がある。
環境・安全技術については、人が生きてゆくのに不可欠なものは将来も需要はあるだろう。
しかし、地球温暖化対策については、気候変動等を引き起こすと言われるが、まだ分っていない部分も多く、環境バブルを演出されている気味もあり、喫緊でないものは後回しと国際社会の中で梯子を外されるリスクが伴う事を計算する必要があるだろう。

新エネルギー・食糧水資源については、太陽光発電、バイオマス、燃料電池等は環境ビジネスと重なる部分である。
また、原油の値段が短期間に3分の1になるように国際社会に翻弄されるのは環境ビジネスと同じであるが、経済発展に伴った中国の「爆食」等を考慮すれば、いずれ世界的に不足することは確実であり長期的にはペイすると思われる。
なお、たとえペイ出来なくとも、エネルギー自給率ほぼゼロ、食料自給率の40%の日本が投資することは安全保障の面からも正しい選択である。

介護等の福祉ビジネスは内需の拡大に寄与し、またセイフティー・ネットの一部として、現在は政府の補助と制度の整備が必要な分野であるが、本来介護や医療を必要とせず健康長寿であるのが理想的な姿であるから、過度にビジネスの視点を強調し病人や介護認定者を作り出す事があれば本末転倒であり、注意が必要である。

以上見てきた事を踏まえ、景気対策には即効性、将来のリターン、安全保障、投資リスク、社会への副次的な作用を考慮し取捨選択の上、直接投資、補助金、税制での優遇等の手段と組み合わせトータルなプランを組み上げることが必要である。

「米中同盟」なのか?
さて、オバマノミックスにより発行される大量の米国債引き受けに戻ろう。
中国は成長率が落ち、これ以上失業者が増えると共産党政権が転覆しかねないため、地方政府分も含め50数兆円とも言われる大型景気対策を本気で実行中であり内需転換を図っているが、少なくともここ10年は依然として米国の巨大な市場なしには中国経済は立ち行かない。
また、既に巨額の米国債を保有している中国は米国と運命共同体的な気味もある。
中国が米国債下落で多大な損失覚悟で、米国債売りを仕掛け一気に覇権を取りに行くと見る過激な論者もいるが、駆け引きの最終的なオプションの一つに過ぎない。
中国は、元レート安値維持等と引き換えに、米国債を引き受けることとなるだろう。
実際に経常収支と財政が黒字であるためその余裕がある。

一方の日本も、巨額の米国債を持っている上、米国の消費に支えられている事は中国と同じであり、外為特会や郵貯、あるいは前述の財源策で得た金で、米国債を引き受ける事となるだろう。

ここでオバマノミックスに伴う日米中の利害関係から今後予見される事を整理すると、凡そ以下のようになろうか。

(1)
日本が、先端環境技術を米国に提供←→ 米国は、開発資金を日本企業に投資
(2)
日本が、環境技術を中国に提供  ←→ 中国は、市場を日本に提供
(3)
中国が新規米国債応札      ←→ 米国は、中国の元レート安値維持を容認
(4)
日本が新規米国債に応札     ←→ 米国は、現状以上の見返りを日本にせず
(5)
中国が更に新規米国債応札    ←→ 米国は、覇権の一部を中国に割譲

(1)(2)(3)
は日米中にとって、また日米中が中心とならなければ現下の世界同時不況は収められない以上即ち世界経済にとっても良いが、(4)(5)は日本の国益を損なう。
(4)
は、いつもの事ながら、たとえ日中が米国債を引き受けても米ドルの下落リスクが大きい以上割が合わない。
(5)
は、いま直ぐ起こる事ではないが、世界経済が今後大きく中国内需頼みになり、米国始め欧米が、ソマリア沖の海賊対策で艦隊派遣要請するのみでなく、将来の太平洋の覇権分割に繋がりかねない空母艦隊創出を容認している事を見れば、将来的には決して絵空事ではない。

巨龍を大海に放つ訳には行かないが、世界は、米国に代わる中国の巨大市場を必要としている。
オバマノミックスにより招かれた「米中同盟」のカギ括弧が外れる日は10年20年のスパンではやがて来る可能性が高い。
日本は今から、「日米中三国同盟」もオプションの一つとして、この新旧2超大国と渡り合い、新国際秩序の青写真を描きつつ、安全と繁栄を内容とする長期的国益を確保する戦略を立てるべきである。

20090101

分野別新型国債での新産業投資 −「平成恐慌」に対し飛び道具的政策を−

世界的危機の時代
米国のサブプライム問題に端を発した世界経済金融危機の着地点が見えない。
その環境下、英国の消費税率切り下げを皮切りに各国は続々と手を打ち始めた。
オバマの米国も、グリーン・ニューディールと銘打つ環境・新エネルギー投資、大規模公共投資、国民医療皆保険導入等で事態反転を狙う。
イラク撤退等で浮く資金を使う事になるが、金融機関やビッグ3救済もあり、それだけでは到底ファイナンス出来まい。
オバマ政権下での新ドル切り替え、既存米国債のデフォルト宣言等も決してあり得ない話ではない。
中国は成長率が落ち、これ以上失業者が増えると共産党政権が転覆しかねないため、地方政府分も含め60兆円とも言われる大型景気対策を必ず実行するだろう。
実際に経常収支と財政が黒字であるためその余裕があり、世界経済は大きく中国内需頼みになる。
米国始め欧米が、ソマリア沖の海賊対策で艦隊派遣要請するのみでなく、将来の太平洋の覇権分割に繋がりかねない空母艦隊創出を容認しているのもその反映である。

麻生政権後の経済有事体制
さて、転じて日本。
麻生政権の出足の遅い緊急対策、目的不明確な定額給付金が目玉の08年度補正予算、多少規模が大きくなったが方向性曖昧な従来型配分の09年度予算では対応出来ず、景気は落ち込み、失業者が更に路頭に溢れ自殺者、犯罪が蔓延し日本社会の崩壊に繋がる。
小沢民主が掲げる政策も、高速道路無料化、子供手当、ガソリン税暫定税率廃止、農業戸別保障等はあるものの、中核となる政策である行政の無駄排除と地方分権、社会保障によるセーフティーネット構築等は何れも中長期的課題であると共に、財政中立的で平時モードの政策であり、急進する事態の悪化に間に合わないだろう。

早急に総需要を喚起し雇用を作り出す必要があるが、特効薬と言われる公共事業は土地収用費用に消える分も多く時間が掛り乗数効果も落ちており、第一、作り終わった後に 経済効果を生まないものが多く、国債の発行も含め世論の支持を得るのは難しい。

投資は、将来への持続的な成長に繋がりリターンが期待される分野へ集中すべきだ。
現下は、百年に一度の危機である。
今後の産業構造は、世界的に需要が予想される分野へのシフトが必要だ。
例えば、分野別新型国債を発行してファイナンスし、成長が期待される新産業分野等に国家プロジェクトとして投資し、よってGDPが伸びた分を利息の代わりに国債購入者に配当する。
いわく、新エネルギー債、環境・安全技術債、羽田空港整備債、食糧水資源技術債。
あるいは、もっと細かく、メタンハイドレード債、カーボンナノチューブ債。
どうやって正確にGDP寄与度を測定するか、どのように投資資金を流し込むか等、本当に実現するためには問題ありありだが、例えばキモである投資の決定にはノーベル賞級の学者等で構成する投資決定委員会の仕組みが考えられる。

麻生政権がどのような形で何時終わり、その後の政権の枠組みがどうなるかは不明だが、新政権は経済有事体制を宣言し、これまでに無かったような思い切った飛び道具的な政策を打つ事が必要となろう。

 

20081029

オバマは米国をソフトランディング出来るか? −米覇権なき後の世界秩序の青写真−5

イラン攻撃か、覇権退位か
衰退の兆し著しい米国の選択肢は、単純化すれば以下の2つしかない。
@ 一か八かで、単独または有志同盟によりイラン攻撃を行い、中東の石油を完全支配し、石油ドル決済体制、米ドル基軸通貨体制による覇権維持を図ること。
A イラン攻撃を行わないで、石油ドル決済体制、米ドル基軸通貨体制維持を諦め、緩やかに覇権国家から栄光ある退位を図ること。

予断は禁物だが、11月4日の投票日まで10日を切ったこれを書いている時点で、自国発の世界的金融経済危機を受けて、民主党オバマが支持率で共和党マケインを大きく上回っており、このまま逃げ切るように思われる。

もし、マケインが逆転して来年1月に第44代大統領に就任することが決まった場合、成否を度外視してイラン攻撃を選択する可能性が残る。
マケイン自身はベトナム戦争の英雄でありながら共和党穏健派に属するが、これまで党指名を勝ち取るために、軍産複合体や石油産業、イスラエルロビー、キリスト教原理主義者達等に様々な手形を切っており、その中にイラン攻撃オプションが含まれていても不思議ではない。
イラン核開発の脅威を理由に、米国自らによる空爆やミサイル攻撃かイスラエルによるそれを支援し原子力施設を破壊する。ペルシャ湾に艦隊を入れホルムズ海峡を閉鎖し石油積み出しをコントロールする。
これらにより、イランに加え独自共通通貨導入により石油ドル決済体制からの離脱を画策する湾岸諸国を実質上の支配下に入れ覇権維持の実現を図る。

オバマの場合
これに対して、オバマが大統領になった場合、選挙戦を通して対話路線外交を公約して きておりイラン攻撃の可能性は殆どないだろう。
イラン攻撃をしないならば、早晩石油ドル決済体制は崩れ、米ドルは基軸通貨でなくなる。
米国債で財政赤字をファイナンスすることが困難になり、米国民は生活水準を落とし、軍事支出を削るため世界各地に展開していた基地や艦隊を撤退縮小し、米国は第二次世界大戦以降の覇権から退位することとなる。

これを世界的金融経済危機のさ中で、どうソフトランディングさせるかがオバマの肩に伸し掛かる。
金融機関への資本注入は、実質的に新大統領候補の仕事になる。
メディケア、メディケイドの改編による公的保険に近い国民皆健康保険制度の導入等でナショナル・ミニマムのセーフティーネットを張り、中間層以下の減税や日本の小渕政権的な公共工事の大盤振る舞い、中国・インド等への雇用の流出防止策で景気・雇用を下支え、新エネルギー分野への財政支出等により産業構造のシフトを図る。

これらをドル基軸通貨制度終焉へ向かう中でのドル安を逆手にとって、製造業の米本土回帰等を追い風に行うことになる。

しかし、中国・インド等への雇用の流出防止では、輸出国の劣悪な労働条件を人権問題に絡め責めるだろうが、相手のあることでどこまで奏効するか不明だ。
また、セーフティーネットを張るとはいえ、国民の生活水準は落ちざるを得ず、恨みを買うだろう。
ゴルバチョフは大きな流血なく冷戦を終わらせたが、その後生活の窮乏を強いられたロシア国民からいまだに恨みを買っている。

米ドル後の通貨体制
早くも、大統領選後の11月15日にワシントンで開かれる「金融サミット」に次期大統領の参加が見込まれている。
そこでは、新ブレトン・ウッズとも言われる米ドル基軸通貨に代わる通貨体制が話し合われる可能性が高い。
問題はその通貨体制をどうデザインして、どのタイミングで、どういうプロセスで移行するかだ。
米ドル、ユーロ、円、人民元等を一定比率で加えた概念上のバスケット通貨単位を幅を持った固定相場で設定し貿易決済の指標とする。IMF(国際通貨基金)を改組強化して各国から準備金として出資させレートの維持・変更の実務機能を持たせる。
しかし、この過程で基軸通貨でなくなったドルが暴落し、世界経済がクラッシュする可能性がある。

米覇権なき後の安全保障体制
また、米軍が縮小し世界各地から撤退するなら、それに代わる新しい軍事バランスと安全保障体制が必要となる。
昨年5月に米太平洋軍のキーティング司令官は、会談した中国海軍幹部からハワイを起点とした米中による太平洋の「東西分割管理構想」を提案され拒絶したとされている。

米軍の力が衰えるならば、太平洋に限らず、東西ヨーロッパで、中東で、中央・西アジアで、地域安全保障体制の創設・強化、日本のような米軍依存国にとってはミサイル防衛を含む自主防衛体制の確立が必要となる。
地球レベルでは、国連常設部隊の創設、米国の核の傘に代わり得る核削減廃絶への具体的道筋、核管理体制、もしくは新しい核の傘が必要となる。
さもなくば、太平洋においては或いは米中による「東西分割管理構想」が現実のものになり、各地では紛争が絶えないだろう。

パンドラの箱
通貨体制にしても、安全保障にしても米覇権なき後に単純な多極化が現れるならば、世界は第一次・第二次世界大戦前夜のように極端に不安定なものになる。

冷戦が終わり、その後の短い米国一人勝ちの時代が過ぎ、パンドラの箱が開いたまま残された。
世界の国家、民族、市民は、自身の安全と繁栄と優越性を求めて、またこの世界的金融経済危機の中での生き残りを掛けて互いに競い合う。
今までの世界構造が機能しなくなるのは避けられない。
歴史を紐解くと、時代の変わり目、覇権の移行期には必ず大きな戦争や災難が襲ってきた。
時代に適った新しい構造の構築、お互いに折り合う最適解に向けて、大きな争いなく合意を形成できるなら人類にとって幸いである。

もしオバマが次期米大統領に選ばれたら、米国のソフトランディングと共に世界構造のソフトランディングの中心人物の一人と成らざるを得ない。
だが、大統領選の巧みな弁舌で見せた合理的思考パターンと説得力が、米国と人類の未来を左右する現実の大舞台で通用するかは今のところ未知数だ。

 

20081004

民主に財源在りや、自民に政策在りや −小沢対麻生、総選挙の展開とその後−

小沢民主の内政諸政策を裏付ける財源は、果たしてどこまで明確になるのか?
10月1日の「所信表明演説のような」代表質問で小沢は財源の根拠を示したが、まだまだ十分とは言えない。

一方の麻生自民は、小沢民主との違いを出すためには、政策自体を曖昧にするか、もしくは政策の規模を小さくせざるを得ない。
政策を明確にすると、財源も明確にすることを迫られる。
来たる衆院総選挙の勝敗は、民主が財源をある程度明確にし国民に説得力を持てば即ち制し、出来なければ自民・公明が勝つだろう。

リーマンショックを神風とし、麻生は緊急経済対策を前面に打ち出す方針を決めたようだがそれだけでは総選挙は戦えない。
ここで麻生に献策するなら、いっそ民主の出す政策を全て2分の1の規模にしてマニフェスト化してはどうか。
内政の中長期の諸課題とその処方箋はすでに語り尽くされており、無理に違いを出したり政策を曖昧にすると自滅する恐れがある。
両党の総選挙マニフェストがどんどん似通って行って、そっくりさんショーのようになっても具体策を欠いた曖昧な政策を出されるより国民にとってもマシだ。
地方分権、農業補助、子育て支援、基礎年金税金化 ....。

政策の実効性は別として、財源明示の責務も2分の1になり、それを果たせば民主より誠実だ。
特に女性は、実生活では誠実なイメージに弱い。
かつて橋本龍太郎は、小沢の大盤振る舞いを「魔法使いのよう」と切り捨て、総選挙を勝利した。

話変わって、一代の風雲児小泉純一郎が代議士引退を表明した。
改革とは、旧来の構造を壊し、時代に合った新たな構造を建設することに他ならない。
日本を中途半端に破壊し、建設は儘ならなかったこの風雲児は、既に家業の政治業を次男の進次郎に引き継ぎ、三代目としての義務を果たした。
心残りは、改革者としての名を世に残すことだ。
このまま歴史のあだ花のような扱いで、消えて行きたくはないだろう。
総選挙の結果が与野党拮抗した場合、政界再編絡みで何らかの動きをすると見るのが自然だ。

さてともかくも、今後激動する内外情勢を乗り切るために日本の目指すべき進路は既に明らかである。
内政においては「ナショナル・ミニマムを伴った自立社会の建設」に向かわざるを得ず、外交防衛においては「国際的大義を伴った長期的な国益の追求」を目指すべきである。
解散総選挙に当たり、自・公、民主、諸政党におかれては、財源・政策をより明示して頂きたい。
国民、諸氏、マスコミにおかれては、それを受けてより思慮深い判断を望む。
(敬称略)

 

20080427

『錦糸町ブルース』 −故川内康範氏に捧ぐ−

4月上旬、「月光仮面」の生みの親、川内康範氏が享年88で亡くなった。
川内氏は、作詞家、脚本家、政治家ブレーン、首相秘書、評論家等々の経歴を持つ。
その仏教に由来するスケールの大きい思想と多彩な生涯を、残された我々が整理して咀嚼するには、今しばらくの時間が必要だろう。

晩年は、森進一氏との「おふくろさん騒動」でマスコミを騒がせたが、川内氏の来歴を見れば、この騒動での氏の余りに頑な態度は違和感があるところである。
かつて漫画家永井豪氏に月光仮面のパロディ「けっこう仮面」の創作を快諾する等、筋を通せば代表作のアレンジにも寛容であった姿勢を考えると、表沙汰になっていない事を含め森氏の側により大きな非があったのではないかと思われる。

ところで、筆者は川内氏の死を悼んで、次のような作詞を試みた。

◆錦糸町ブルース◆
水割り作る 白い指
シャンスの香りの ブルーのドレス
言葉の壁は 在るけれど
心通わす 歌がある
ハバロフスクを発って 赤いネオンの街で
2人を包む 深いソファーよ
恋の花咲く 錦糸町ブルース

何も告げずに この街から消えた
君を求めて 上海へ
大連行きの 汽車で偲ぶ
夜来香の 白い花
生まれ変わりは 信じてないが
すれ違いでは 終わりたくない
虚実皮膜の 錦糸町ブルース

下手な英語に 合わせてくれる
南国育ちの いじらしさ
諍い絶えぬ この世界
肌の色は 違えども
無駄な争い などはしない
共に生きてく 力をくれる
愛(いやし)の街よ 錦糸町ブルース
Copyright (C) 2008 Kozen Sato. All Rights Reserved.

川内氏の数々の偉大な業績を顧みれば、素人の筆者が見よう見まねをすること自体恐れ多いが、一服の色恋のテーマの中に氏の平和への思い、仏教思想を筆者なりに解釈して織り込んだつもりだ。
非才の筆者に代わり拙作に曲をつけ口ずさんでくれる好事家が現れてくれれば、と妄想してみる。
そして僅かでも、森進一氏とは和解することなく逝ってしまった川内氏への菩提の弔いになれば望外の幸いであるとも思う。

 

 

再起動?小泉元首相と「改革」の行方

◆元首相の胸中◆
小泉元首相が、福田首相の道路特定財源の一般財源化表明を受け、思わせぶりな発言で解散総選挙を示唆する等、動きを再開した。

小泉氏は、構造改革を掲げて5年半の間首相職を全うした一方、自民党、清和会、三代続く家業の政治業を守る守旧派の顔を持つ。
その矛盾が、今まで小泉氏を黙らせていた。
しかし、このまま単なる人寄せパンダのまま枯れてゆくと見る向きは少ないだろう。

守るべき前述の3つのうち、家族親族がぶら下がる家業は別にして自民党と清和会の2つについては首相就任当初の「自民党をぶっ壊す」のキャッチフレーズの通り、条件次第では壊れてもいいと考えている。

そして、恐らくは「改革者」として歴史に名を残すことこそが真に守りたいものであると思われる。
このまま、小沢民主党に政権を奪われ、自らが行ってきた郵政民営化、道路公団民営化、地方分権三位一体改革等の構造改革、強固な親米路線等が換骨奪胎オセロゲームのように悉くひっくり返されたら今までやってきたことが否定されるのだから、黙って静かに枯れてゆくという訳にもゆくまい。

◆小泉構造改革とは◆
ここで、小泉氏の行った改革を振り返れば、立ち行かなくなった旧来の仕組みを壊して来たのであるから、日本政治史に稀な改革者であるとは言える。
しかし、その「改革」を個別具体的に見れば、膨大な預かり資産を日米の国債等に流入させる仕組みを実質的に温存した郵政民営化や、無駄な道路が作られる一方真に地方のニーズに根ざした必要な道路が作られない道路公団民営化、地方の主体性が一向に見えない三位一体改革等、壊し方が不十分であった。

また、郵便局の激減による地方の生活インフラの破壊、地方の疲弊や世界的に見ても最上位の貧富の格差の出現、国民の老後の不安が急速に増大する年金制度とその運用等マイナス面の大きさは、今となっては取り繕いようがない。

これら不十分かつデメリットの目立つ「改革」に共通するものは何か?
その答えは、極々単純だ。

改革に、トータルな青写真が無いのだ。

いや、青写真としては、強いて言えば漠然とした米国社会への憧憬があったのかもしれない。
しかし、米国社会は、イラク戦争による石油資源確保、景気浮揚やサブプライム・ローンのような金融工学によってジリ貧を食い止めようとしたが失敗しドカ貧に陥った。
これらの無理が通れば道理が通らずの教材のような失政がなくとも、軍事覇権と市場経済原理主義に根ざした米国社会が何れ立ち行かなくなることは歴史観と未来に対して責任感を持つ者なら想像可能なことではあった。

歴史観と責任感が欠落しているから、理念とビジョンが生まれない。
理念とビジョンを持たないから、青写真が描けないか皮相な借り物になる。
青写真が無いから、「改革」は明確な方向性無き摘み食いものになり、言葉勇ましくとも不十分かつ派生するデメリットに対して為す術の無いものに終わった。

◆改革の本質◆
今日、小泉構造改革の揺り戻しとして、昨夏の参院選に民主党が大勝し、小泉改革の不肖の弟子の安倍政権が倒れ、癒し系守旧派の福田政権が生まれた。
しかし、福田政権では壊れゆく日本社会を治療することは不可能だ。

構造改革は、勿論悪ではない。特に今の日本に焦眉の急で必要なものである。
だが、前述したように小泉構造改革は、理念と青写真と方向性を欠いたものであった。
小泉「構造」改革と言いつつ、国民に一時の熱狂と夢を与えはしたが、中途半端な破壊だけで終わり、皮肉にも日本社会を新たに「構造化」することが出来なかった。

旧来の構造を壊し、新しい「構造」を作り上げることが真の改革である。
筆者の拙論を述べれば、「発展と調和の同時実現」を理念として、「ナショナル・ミニマムを伴う自立社会の建設」を統括的な青写真とする。
「発展」と「調和」また「ナショナル・ミニマム」と「自立」は、ともすれば矛盾するものである。
そこを足して2で割るのではなく、具体的に「構造化」して落とし込む必要がある。

即ち、例えば以下のようなものが挙げられる。
◆都道府県の廃止と基礎自治体の200〜500の大規模自治体への集約と、国・都道府県の権限および税財源の大幅移譲、および権限と財源の弱い地域調整機能としての道州制の導入。
なお、当該大規模基礎自治体は、自主税財源、人口・面積等に応じた自主財源不足分の地方交付税(恒久的な下駄)、および20年程度で漸減・消滅する地方交付税(地域自立までの調整措置としての下駄)の3財源により地方行政を賄う。

◆消費税の基礎的社会保障税化による基礎年金、介護・老人医療の基礎的部分の財源確保、および5年毎程度の国民投票による税率と保障レベルの見直し。
これにより、国民に将来への一定の安心感を与えるとともに、領域を明確化しそれ以上の部分は基本的に自己責任で賄う一種の覚悟を持たせ、経済・社会の流動化を図る。

◆地域の配送・郵送とマネーの決済機能インフラとしての一定レベルの郵便局網の公的資金を用いた維持と、膨大な金融部門の民間へのスケジュールを組んだ完全売却。

◆道路財源の一般財源化と高速道路の公的資金を用いた無料化、高速道路と重複する等無駄な一般道の即時建設中止。

◆前述の基礎的社会保障維持、公的教育の財源維持、外交・防衛および疫病等の危機管理、国家プロジェクト的な先端科学技術開発への国の役割の限定。
なお、外交・防衛については、自主防衛強化と米国覇権の終焉に備えた世界多極化下での国連および地域共同機構による集団安全保障体制と、ドル基軸通貨に代わる新たな通貨安定制度の構築を、主導的立場で実現させることが必要である。

◆政局流動化と改革の行方◆
以上は、日本社会の来歴と世界の趨勢を鑑みれば、自ずと導き出されるものであり、大方これまでも識者によって言い旧されて来たことではある。
しかし、国民は小泉構造改革に熱狂し、それが不首尾に終わると羹に懲りて癒し系の首相に期待をし、今度はそれで立ち行かないと思うと小泉再登板を漠然と希求する如きで、一向に国の方向が定まらない。

ロバート・フェルドマン氏のような金融系の評論家や海外マスコミは、改革か後退かの単純化された視点のみで改革の中身や構造まで関心がなく、尤もらしい論評で国民を惑わし、日本のマスコミもその受け売りが目立つ。
竹中平蔵氏のような学者も、市場経済原理主義に基づいた改革とともに、一応それにより派生する痛みの対策は口にするが、一つ一つの対策が規模・質ともに弱い上に構造化されておらず、巧みな口舌によって語られるそれは、単なるアリバイ作りの域を出るものではない。
国益の為の提言者を装いつつ、その実、国際金融筋の意を受け世論を誘導するのは止めて頂くか、若しくは日本を去っては如何か。

話が脱線した。
現在国会は、冒頭に述べた道路特定財源の一般財源化とガソリン税の暫定税率復活阻止で、民主党の小沢代表が福田首相に強気の揺さぶりを掛けている。

小泉氏は、政局の流動化とともに自前の傀儡を立てて必ず動く。
その上で民主党のトロイの木馬とも評される前原グループと結ぶのか、それとも逆に最終局面で昨日の敵で宿命的なライバル小沢氏と結ぶのか。
改革者としての名を歴史から消したくない小泉氏は、政界再編含みで何らかの選択をするだろう。

国民と識者は、日本の将来に責任がある以上、主体的な判断基準を培い虚心坦懐に国の行く末に思いを致し、これからの小泉氏の行動を注意深くWatchし、かつJudgeする必要があるだろう。

 

 

The Democrats should make The National Convention earlier !

Its important to fight to choose vest policy on each field between candidates.
But right now the fight between Obama and Hillary is becoming a swear words war with exhausting money, stamina and time.
It
s uselessness for Democrats, American and People of all over the world.
Therefore I propose the moved up holding of The Democrats National Convention as earlier as possible before waiting midsummer.
The swear words war will give worst influence to children, and amount problems that America and the world owe don
t have free time in vain to spend for meaningless dirty words war.

March 9, 2008
A Democratic Party supporter, Kozen Sato / Tokyo Japan

 

20080302

OBAMAS WORDS / WHO IS HE?5

Barack Obama may be those who embody the spirit of America.
There's not a liberal America and a conservative America. There's the United States of America. There's not a Black America and White America and Latino America and Asian America. There's the United States of America.
Keynote address at 2004 Democratic National Convention

Barack Obama is like a merciful father
Once after Obama
s Iraq war accusation speech, a mother of a soldier died in Iraq with tiers on her eyes ran to him and said Was my sons death vain?
Then Obama held her shoulder and whispered to her ear
Its not vain death, he fought for America and American.

Barack Obama is like a poet.
What began as a whisper in Springfield soon carried across the corn fields of Iowa,
“…..what began as a whisper in Springfield has swelled to a chorus of millions calling for change.
Speech at Chicago, IL | February 05, 2008

Barack Obama
s words are like prophets words in BIBLE.
But there is one thing on this February night that we do not need the final results to know - our time has come, our movement is real, and change is coming to America.
Same as above

Words with power move people and the states, and also can move history of the earth and future of human being.
At this point in time, Obama
s moment seems not to stop.

Whether the prophecies will be realized or not is a matter of American people
s determinations.
But we foreigners will watch more carefully about whether his words are true, who is he, and what he will bring to the world.

February 24, 2008

■http://www.222.co.jp/netnews/article.aspx?asn=11014

 

 

20080302

オバマの言葉/彼は何者なのか?5

バラク・オバマは、アメリカ精神の体現者かもしれない。
「リベラルのアメリカも保守のアメリカもなく、ただ“アメリカ合衆国”があるだけだ。黒人のアメリカも白人のアメリカもラテン人のアメリカもアジア人のアメリカもなく、ただ“アメリカ合衆国”があるだけだ」
20047月の民主党全国大会での演説にて)

バラク・オバマは慈父のようだ。
ある時オバマのイラク戦争非難の演説の後、イラクで戦死した兵士の母親が、「息子は無駄死にだったんだろうか」と目に涙を溜めて駆け寄ってきた時、彼女の肩を抱き寄せ「決して無駄な死ではありません。アメリカと国民のために戦ったのです」と耳元でささやいた。

バラク・オバマは詩人のようだ。
「ささやきが、風になってアイオワのトウモロコシ畑を横切った」。「変化を求める数百万の大合唱になった」。
200825日の地元シカゴ市内での演説にて)

バラク・オバマの言葉は、聖書の預言者のようである。
「最終結果を見るまでもなく分かったことがひとつある。われわれの時が来た」。
(同上)

力のある言葉は人を動かし、国を動かし、やがて地上の歴史と人類の未来を動かし得る。
現時点では、オバマの勢いは止まらないように見える。

預言が現実になるかどうかはアメリカ国民が決める事だが、われわれ他国民も、その言葉が本物か、彼は何者か、そして世界に何をもたらすかを今後一層注意深くWatchして行くことになるだろう。

■http://www.222.co.jp/netnews/article.aspx?asn=11014>

 

20080103

米国覇権の終焉と日本の戦略3

米国の衰退と国際情勢
米国の衰退が、予想以上の速さで加速している。イラク戦争の失敗に続き、サブプライムローン問題の顕在化、ロシア等のドル石油決済体制からの離脱と湾岸アラブ諸国のドルペッグ制停止検討等、ドルの基軸通貨からの退位が予見され米国覇権の終焉の足音が聞こえ始めた。
これを受けて、当然ながら日本も今後の国際情勢の潮流を読み取り、戦略を立てて臨まなければならない。
以下に今後の国際情勢についての私見を示す。

米国の衰退は、曲折を経て米国が普通の大国の1つに成るまで続くだろう。
米国の主な優位性は軍事力と軍事技術である。衰退を食い止めるため、資源確保、ドル石油決済体制維持を図りイラン攻撃等の軍事行動に出る可能性がある。
米国による一極体制が崩れ、世界の多極化が進む。
しかし、単なる多極化の下では極度に不安定な時代が続くだろう。
米国による覇権の代わりの体制が必要となる。
やがて世界政府による中央集権体制か、多極+強い調整機能を持つ機関(恐らくは国連の発展形等)の体制、もしくは他の国(恐らく中国)による一極体制が現われる。

サブプライムローン問題は、ブッシュ政権の手当て等により現時点では小康状態を得ており、このまま収束するかもしれない。
だが本質的な問題は、誰が見ても明らかに持続不可能な資産投機と「金融工学」の組合せが好況を支える原動力として社会に容認されていたことであり、米国経済の病理を示している。

冷戦の終結によりBRICS諸国、EU、東南アジア等が経済的に台頭してきた以上、米国が相対的に優位性を失って行くのはある意味自然なことである。
米国自身もそのことは分かっており、負担を減らすために長期的にはアジア、EU等から通常兵力を引き安全保障を地域に任せる方向にある。

その一方、短中期的には前述の理由で国益に適うと見た場合、国内世論の支持、一定の国際世論の黙認があれば、再び中東で自ら軍事行動を起こすかイスラエルのそれを支持する可能性は相当程度あるだろう。

日本の戦略
上記を受けての日本の戦略について、筆者は下記のようであるべきと考える。

@米国に侵略的軍事行動を起こさせず、緩やかな衰退、普通の大国化へソフトランディングさせる。そのため、同時に中東側の民主化も進める必要がある。
しかし、図らずも侵略的軍事行動が起きた場合に備え、出来るだけこれに巻き込まれない体制を確立する。
A自主防衛を充実させると共に、是々非々の日米同盟は維持し米国の核の傘は引き続き利用する。
核の傘を利用出来なくなった時に、画期的な非核化体制が進んでいない場合には核武装も視野に入れざるを得ない。
B中国の一極支配体制は受け入れられない。中国を民主化に誘導して牙を抜く。
ロシア、インド、EU、東南アジア等とも結び、地域の集団安全保障を伴う多極+強い調整機能を持つ機関(国連の発展形等)の体制を確立する。
また、これに裏打ちされたドル基軸通貨に代わる新しい通貨体制を確立する。
C上記これらの実現のためにも、国力と国際的発言力を充実させる。
具体的には、内政において消費税の福祉目的税化、地方分権、食料自給率100%化、基本的な貿易自由化、エネルギー供給の多角化等を進めて、ナショナル・ミニマムを伴う自立社会の確立を早急に進める。

上記
@に述べた、米国の侵略的軍事行動を抑制し、巻き込まれないようにするためには、自衛隊海外派遣について、現在の「槍の穂先論」に代わる、国連等による集団的安全保障が成り立つ場合か侵略的でない緊急的な集団的自衛権行使に限定して海外派遣する原則を確立する必要がある。
いずれは、憲法を改正してこの原則を条文に組み込むべきであるが、時機を計らず原則無く改憲を進めれば米国への従属をより強める事になるだろう。

Aの非核化体制には、東アジアの非核化地帯設定、国連等による核一元管理、相互確証破壊、MD迎撃ミサイル網充実等の画期的な進展も含む。
日本も相当の努力が必要であるが、いずれにせよ技術的、システム的、体制的、政治的に確固としたものにまで進んでいない場合には、次善の策として日本も核武装を視野に入れざるを得ない。
そのための核技術とミサイル技術は、IAEAの許す範囲で磨いておくべきである。

Bの中国の民主化については、日本は中国へのODA廃止の方向を打ち出したが、敢えて新たにODA枠等を設定して環境問題と絡めて民主化の梃子として使う等々、戦略を持って臨むべきだ。
なお、民主化によるナショナリズムの高まりが対外冒険主義を呼び、一時的には現在の一党独裁体制より危険になるリスクも孕むことへの対処が必要である。

Cの国力と国際的発言力を充実させるための、ナショナル・ミニマムを伴う自立社会の確立の必要性と具体策として何をすべきかは、冷戦終結後から答えの出ている問題である。
しかし、日本の政治は20年近くパーシャルな問題に右往左往し、トータルな画についてまともに議論されることは無かった。
政治家、マスコミ、識者の責任は重い。

以上拙文を連ねたが、米国覇権の終焉が現実的になってきた以上、国際的大義を伴う長期的な国益の追求に向けて、日本が覚醒し明確な戦略を確立し遂行する事なくば、荒波に呑まれて安全と繁栄を失うだろう。

 

 

 

地方分権の姿を示せ −問われる与野党の具体策−

◆内政の課題◆
現状の政局の焦点はテロ対策新法に集中した感があるが、内政にも課題を抱えている事は言うまでもない。
内政には特に大きな課題が2つある。
1つは、消費税の福祉目的税化であるが、十数年前に小沢一郎氏が当時の大蔵事務次官斉藤次郎氏と組んで導入を目論み失敗した国民福祉税構想より、増税議論を避けるため基礎年金に特化しスケールダウンしたものの、現在の民主党の中心政策に据えられている。
また、経団連等も同様の主張をしており、ここに来て自民党内からも消費税増税の下心含みであるが、福祉目的税化が避けられないと語られるように成って来ている。
今後数年曲折はあれども、概ね方向は定まったと見てよいだろう。

さて、もう1つの大きな課題は、地方分権である。
政府・自民党は、「ふるさと納税制度」や、地方交付税特別枠の新設と地方法人2税と消費税の一部の税源交換が目玉の「増田プラン」を打ち出しているが、何れも役人の発想を出ず小粒・対処療法的である。
地方分権への効果は期待できず、政府・自民党のアリバイ作りと、事務が煩雑になる分役所の焼け太りだけに終わるだろう。

一方の民主党も、マニフェストに於ける個別補助金の基本的全廃と地方への一括交付化を含む地方固有財源保障の主張はよいとしても、地方への配分計算方式と導入プロセスが語られておらず、地方分権が具体像を結ばない。

◆地方分権の具体像◆
小泉政権時代の三位一体改革は、国庫補助負担金と地方交付税の削減が行われる一方、税財源の移譲はこれに見合わず不十分である上に、国庫補助負担金はヒモ付き構造が温存された。
当初地方からも賛成の声が上がったが、蓋を開けて見れば地方分権に何一つ役立たず、地域格差の拡大をもたらしただけに終わった。

地方分権を考える前に、先ずどのような社会を実現したいのかが語られなければならない。
筆者は、「ナショナル・ミニマムを伴う自立社会」の実現が目指すべきものと考える。
消費税の福祉目的税化等によりナショナル・ミニマム(国民全員に保障されるべき最低限の公共サービスの水準)を確保し、国民各員が一定の安心感を得ると共に、それ以上の部分は基本的に自己責任で賄う一種の覚悟を持つ事によって、国家の発展と調和が実現されるものと思う。

地方分権、即ち国と地方の関係においてこれを当て嵌めれば、地方財源を@自主税財源、A恒久的一括地方交付税等(半永久的な下駄)、B当面の財政をAで賄えない自治体への20年程度で漸減させる一括地方交付税等(時限的な下駄)に、どう分けて組み合わせるかがキーポイントとなる。
これまで、政党、マスコミの議論では、@自主税財源、A及びB地方交付税等の2区分止まりであったため、具体的な配分計算方式と導入プロセスが見えず、地方分権が具体像を結ばなかった観がある。

この他、地方分権を進めるには、どの税源を国と地方に分けるかの問題と、道州制など国と地方自治体の構造をどうするかの問題等がある。
私見では、最も安定的な消費税は最も重要な基礎的社会保障に全額充当し、地方自治はその他の税財源で賄うべきと考える。
また、国と地方自治体の構造については、地方の主体性をより高めるためと共に下水道や公共交通施設建設等の際の何らかの広域調整機能の確保を考え、数百の権限の強い大規模基礎自治体への再編、財源・権限の弱い調整機関的な道州、国の3階建て構造が望ましいと考える。

自民、民主を含めた各党は、次期総選挙の最大争点として、これまでの個別散発的な案でなく1つのパッケージに組み上げた地方分権の具体像を示して頂きたい。

 

 

ナベツネ氏の「憂国の想い」について3

◆連立の根回し◆
今回失敗に終わった自民・民主連立の根回しをしたと伝えられる読売グループ会長のナベツネこと渡辺恒雄氏が、伝えられる通りなら連立は自分が仕組んだはずであるのに、小沢氏の方から持ちかけたと自社の読売新聞に報道させたのは、小沢氏が党内を纏められなかった事の腹癒せだろう。
米国からは時期を合わせたように政財界に強い影響力を持つデビット・ロックフェラー氏やゲーツ国防長官が来日する一方、福田首相のワシントン詣でが11月中旬に迫っている中で、ナベツネ氏本人にも相当な圧力が掛かっていたはずだ。

米国代理人筆頭としての宿命と斬って捨ててしまえばその通りだが、インド洋での海上自衛隊による多国籍艦船への給油継続を至上命題としてワシントンから通告されていると推察される。

ブッシュ政権は、給油継続に反対する小沢氏に対して本当に怒っている。
またそれを抑えられない自民党とナベツネ氏にも相当に苛立っている。
ブッシュ政権がそこまで給油継続に拘るのは、イラク戦争に加えアフガン戦争にまでが大義がないとの方向に幾分でも国際世論が傾いて行けば面目を潰され、また国内でも政権基盤がグラつくからだ。

加えてそれ以上に、今後の中東制圧の一環として、国連決議は取れないまでも諸外国の同意や黙認を背景にイラン攻撃等の軍事行動を行う際には障害となるからだ。
こういった軍事行動が必ず行われる訳ではないが、崖っぷちの覇権国家である米国がオプションとして、より多くのフリーハンドを持っていたいと思うのは想像に難くない。

◆小沢氏の思惑◆
小沢氏は給油反対でワシントンに一種の反旗を掲げ、給油の代わりに国連決議に基づくISAF(国際治安支援部隊)参加等で国際世論の非難をかわし、同時に米民主党系の人脈の後押しにより米国世論を押さえる戦略だった。

しかし、民主党内及び国民世論は依然ISAF参加に反対であるし、ワシントンからの圧力はいよいよ強まり、独自外交でワシントンの虎の尾を踏んだ政治上の父親、田中角栄の運命が自分に重なり、常識で考えれば連立等は解散総選挙後に検討すべきであるのに、今回のナベツネ氏の誘いに思わず応じてしまったと言うのが大体の真相だろう。
連立破綻後の辞任会見で小沢氏が「民主党には政権担当能力が無い」と言ったのは、党内若手や左派がこうした現実のパワーゲームを認識していない事を含んでのものだ。

◆ナベツネ氏の「憂国の想い」とは◆
連立失敗後のマッチポンプ振りは老醜と言わざるを得ないし、虚偽報道の疑いが強いが、ナベツネ氏も自身の保身だけで、今回の連立を仕組んだとまでは言い切れない。
良くも悪くもワシントンの意に沿って行くのが、結局は日本の国益であるという信条による「憂国の想い」から出た行動と言えるのかもしれない。

一方、小沢氏も従来からの米国追従に一矢報いて、日本の主体性を取り戻したい、このまま米国の世界戦略に巻き込まれて行くのはリスクが大き過ぎ、国際的大義も立たないという想いから敢えて国連の錦の御旗を拠り所としている。

衰退に向かいつつあるが、依然世界唯一の超大国である米国。
衰退しつつあるが故に、なり振り構わない行動に出る可能性のある米国。

その切っても切れない米国との関係をどうして行くかで、袂を分かってはいるが、この巨大なリバイアサンを相手に、ナベツネ氏も小沢氏も辛い。

今国会は、給油問題を通して、その一応の決着の場となる。
国民には、どういう選択をするにせよ、特にこの時期には表面的な現象に踊らされること無く思慮深い判断をして行く義務があるだろう。

 

 

 

20071110

「槍の穂先論」と「国連錦の御旗論」 −アフガンテロ対策を巡る国益と大義−3 2007/10/24執筆:外交フォーラム12月号掲載

◆テロ新法と国際貢献◆
11月のテロ対策特措法の期限切れに伴うインド洋沖給油活動中止・継続を巡り、与野党の攻防が激しくなっている。
政府与党は、新法を通しOEF(不朽の自由作戦)に参加する多国籍艦船への海上自衛隊による給油活動を、中断を挟みながらも継続したい考えだ。
一方、小沢民主党代表は、給油活動は集団自衛権の発動に該当し憲法違反のため中止とし、代わりにISAF(国際治安支援部隊)への参加を含む国際貢献を模索しているが、国連の要請決議があれば武力行使部隊の派遣も可能とする小沢理論については、民主党内からも躊躇する声が強く、具体的な対案としては民生支援中心の案に落ち着きそうである。

解散総選挙を睨みながら、与野党の世論の支持獲得競争と衆参両院を跨ぐ駆け引きが行われどのような決着になるか予断を許さないが、外交戦略としては、そういう生臭い政局を離れた国際貢献を巡る本質の議論が必要である。

先ず、外交とは「長期的な国益の追求」であるが、その実現のためには「国際的な大義」を背景に伴わなければならない。さもなくば短期的な国益は得られるかもしれないが継続的足り得ない。

国際貢献については、民生支援をその内容の中心とするも、国際情勢の一層の流動化と我が国の国力を考えれば、原則的態度として何らかの形での危険を伴う自衛隊等の出動を最初から全くの禁じ手にして拒否する事は国際社会の中で許されないだろう。

国際貢献を巡る本質的な論点は、自民党政権が従来から主張する後方支援は憲法の禁じる集団的自衛権の行使に当たらないとする「槍の穂先論」と、小沢氏の主張する国連の要請決議があれば憲法に抵触せずに理論的には武力行使も可能とする「国連錦の御旗論」の対立である。
「国際的な大義」とは、概ね地球全体の繁栄と調和の実現である事は異論のない所であろうが、その具体的な内容は当然ながら俄かには断じ難い。
また「長期的な国益」については、今後の国際情勢が大きく影響する。
今の我が国の議論に一番欠けている物は、国際情勢の分析とそのオプションに基づく戦略決定工程である。

◆今後の国際情勢をどう見るか◆
我が国の「長期的な国益」を左右する最大の要素は、@米国のパワーが今後どうなるのか、Aそれに伴い米国がどのような行動を取るかであろう。

筆者は、相対的に米国経済が衰退するのは避けられないと見る。
繁栄期を経て生活水準と賃金水準が上がり、EUや勃興する中国、アジア諸国との競争力を徐々に失って行くと見るのは自然な見方だろう。
米国が一時のITの様に革新的な技術を編み出し、世界経済をリードするという見方も成り立つが新規分野で一人勝ちを長期的に維持し、かつ連発させる事は難しい。

もちろん、米国が国民の生活水準を落としながら緩やかに覇権国家の地位を退位し、平和裏に多極化世界が実現するとの見方も成り立つ。
米国が世界経済を急激に縮小させないように緩やかにドルの為替レートを下げて行けば米国経済は軟着陸して行く。
しかしそれを続ければ、一旦世界最高に上がった生活水準を大きく切り下げ続ける事になり米国の有権者がすんなり納得する事は難しいだろう。
また、大幅な財政赤字を国債に依存しているため、ドルの為替レートを切り下げ続けて行けば何れ引き受け手が居なくなり、ドル暴落の恐れもある。

勢い、米国指導層が突出した軍事力を背景に石油等の資源利権を確保し、ドル石油決済体制の維持を図ろうとするのは自然な流れだ。
イラク戦争に引き続き、イラン核施設を自ら攻撃するかイスラエルによる攻撃を支持し中東全体の石油を確保、一方北朝鮮と融和し中国の押さえの一つとし、ロシアと中国の離反を計りながら中央アジアの石油を押さえ、ドル石油決済体制の維持を実現する。
例えばこんなシナリオを米国指導層のコアな部分が考えていたとしても不思議はないだろう。

現在、米国ではイラク厭戦の気分が強いが、多くは米兵の犠牲者が数千人になり未だ増加し続けている事と、莫大な戦費が使われた上に国際世論により石油利権獲得が制限された事によるものであり、例えばイラクの子供たちが空爆とテロの犠牲になったのを慮ってという要素は大きくはない。
この事は、例えば地上軍を派遣しないイラン空爆ならその開戦理由次第では米国世論は賛成する可能性が強い事を示す。
米国の国家戦略は、共和党政権から民主党政権に移ってもニュアンスの違いはあれど共通する部分が多い。
これは、ヒラリー・クリントンが、イランの核開発を止めさせるためには、あらゆる手段を除外しないと発言している事にも表れている。

◆日本の選択◆
以上の事を踏まえ、我が国はどういう選択をすべきか。
繰返すが、外交は国際的な大義を伴った長期的な国益の追求である。
「槍の穂先論」は、ガラス細工の様な部分はあるが、世界情勢が比較的安定していればコストパフォーマンスの点でメリットがあるだろう。
一方、「国連錦の御旗論」は、その硬直さ故に国際社会への説明と他の手段での貢献を欠くと孤立する危険があるが、国際情勢が荒れた時、特に米国が単独または少数の有志同盟だけで断続的に軍事行動を起こす場合には、他に軍事同盟を持たない我が国が従属せずに是々非々を持って対応するための一つの論拠に成り得る。
今回のアフガンテロ対策を機に、国際貢献の原則を打ち立てるべきである。
何れを選ぶにせよ、今後の国際情勢への展望を欠いては国家の進路を誤る。

 

 

 

20070819

「小沢外交の帰趨」 −テロ特措法と日米の今後−  ( 『週刊金曜日』 No.668 2007/8/31号掲載

◆シーファー大使との会談◆
参院選で民主党を大勝させ野党で過半数を得た小沢代表が、11月に期限が切れるテロ対策特別法延長に反対を明言している。
米国は、シーファー大使を民主党本部に送り小沢氏を説得したが、効果はなかった。

小沢氏は、アフガニスタン戦争は国連決議を得ずに米国が自衛権の行使として始めた戦争だとして、それに対するテロ特措法による協力は出来ないという立場だ。
一方、シーファー大使は、この戦争「不朽の自由作戦」(OEF)はドイツを始めとしたEU諸国の参加とロシア・中国を含む多くの国からの支持を得たもので、今年3月に採択された安保理決議1746には、「OEF参加国の支援を受け、アフガン政府がタリバンやアルカイダとの戦いを継続すること」を求めており、OEFが明記されている事をもって国連の活動であると主張した。

01年の9・11同時多発テロを受けて直後に開戦したこの戦争は、筆者の理解では当時実質的な報復戦争の要素が強いとして開戦の国連決議を得られなかったが、諸外国はテロへの怒りと、開戦しなければ米国社会が持たない事を慮って支持をし、集団的自衛権の行使として参加し、その後、後付けで国連が原状を追認したものである。

◆歴史の類例と「国連原理主義」◆
今回、米国にNOを突きつけた形になった小沢氏と「小沢外交」の行方はどうなるのか。
衰えつつあるとは言え、今後2、30年は依然唯一の超大国であり続けると思われる米国の意向に逆らう事は、小沢氏の政治上の父親である田中角栄元首相の独自外交とその後の失脚を連想せざるを得ない。直接的に言うなら米国に潰されないかということである。
歴史に類例を探るなら、古代に当時の国際情勢を読み切り超大国である隋の煬帝に「日出る処の天子」云々の国書を送り対等の外交を目指した聖徳太子が数少ない成功例としてある。
あるいは、小田原攻めに参陣を渋った末、最後には遅参し秀吉に許された伊達正宗の例等は、竜頭蛇尾に終わった例と言えようか。
日本が「小沢外交」を選択した場合、それは即ち日本の運命となる。

小沢氏の今回の行動に対し、自民党政権を早期に解散総選挙に追い込むための駆け引きであり、外交を国内政局に利用しているとの批判がある。
その面はあるが、政治は、勢力集結、駆け引きの組み合わせで、政策を実現させるものである以上、政策と理念の是非が先ず第一に論じられるべきであろう。

小沢氏は米国が開戦時に於ける直接的な国連決議を得なかった事を問題視し、その後の国連の追認を以てしても日本の参加は認めないという立場であり、その主張は現実の国連の有りようを超えて在るべき姿を想定し日本の行動の判断基準とするものだ。
一方で小沢氏は、01年12月の安保理決議1386に基づくISAF(国際治安支援部隊)をアフガニスタンへ派遣している点を指摘し、「国連に認められた活動に参加したい。これは米国にマイナスの話ではない」と述べた。
これ等を名付けるなら、いわば「国連原理主義」と言えようか。

◆「小沢外交」の帰趨と日本の選択◆
信憑性は不明だが、伝聞によると小沢氏は2年程前親しい人物に、東アジア情勢を分析して、中国大陸で起こるであろう分裂状況を前提に「国連待機軍として日本が中国大陸の混乱を収める時の首相で居たい」と語ったという。

小沢氏は本気だろうが、派遣地域によっては、より危険が大きいISAFに参加することで党内を纏めるのは非常に困難と予想される。
ましてや、どんな間接的な後方活動となってもアフガニスタンに陸上部隊を送るとなれば、現状で国民が付いて来ることはまずないと思われる。具体的には航空輸送に落ち着くのか。

小沢氏が「国連原理主義」を主張するのは、単に原理主義者であるからではない、兵力を出すのに国連の錦の御旗の下にだけで行うことは、長期的な日本の国益と国際秩序構築に役立つとの見立てがあるからだ。また国連決議に制限された形で米国に協力することで是々非々の日米関係を築くことが出来るとの考えもあるだろう。

問題は、それが諸外国の国益がぶつかり合う現実の外交で、計算の歯車が狂うことなく上手く奏効するかどうかである。

外交は、国際的な大義を伴った長期的な国益の追求であるべきである。
「小沢外交」は日米関係と国際秩序に新しい展開をもたらす可能性がある。
その一方、ボタンの掛け違いがあれば、日米関係は本より国際社会の孤児になる危険を孕む。
その是非は、国会議論と世論を通して国民が判断し監視して行くしかない。

 

 

20060820

「直線思考」の人 安倍次期首相への懸念3

国民的人気を背景に、安倍晋三氏が9月の自民党総裁選を勝ち抜き次期首相に就任する事がほぼ確実な情勢である。
既に党内各派閥も雪崩を打って安倍氏支持へ回った。
さて、筆者は、安倍氏の政治手法の特徴はその「直線思考」に有ると見て懸念を感じる者である。

◆外交◆
まずは、外交面について何点か考えてみる。
7月の北朝鮮による日本海へのミサイル発射に対し、国連安保理で非難決議が可決された事は、一貫して強気の姿勢で日本の主張を主導した安倍氏の外交的勝利である。
安倍氏が制裁を含む決議に固執し、米国の采配により最終段階で妥協し、中国・ロシアが歩みより制裁抜きの非難決議が成り立った事は、結果としてあの情況下での最大の外交成果となった。
だが、もし中・ロが拒否権を行使して国際社会が北朝鮮に対し一致した対応を取れ無かったとしたらその外交的リスクは甚大であった。
安倍氏の中での今回の落とし所についての計算の有無がその評価を180度分けると考えられるが、その肝腎な所が不明なままである。

また、安倍氏は中国・韓国については「政経分離の原則」で関係構築を図るべきだとしているが、政経分離で行きたいのは日本の方であり、両者を絡めて歴史問題等で日本に政治的妥協を迫ったり逆に経済的利益を引き出そうとするのは専ら中・韓の方である現状を考えれば、その実現は難しい。
安倍氏の著書や発言において、そのための具体的方策が現時点では一切示されていない。

更に安倍氏は、近著「美しい国へ」において、イラク戦争支持と自衛隊派遣を「日本の大義」とした上で、()イラクの民主化・復興と、()中東の石油供給を確保する事は国益である事、をその大義の内容としている。
この理論で行くと、()では「石油は大義」となってしまう。
「大義」も「国益」も厳密な定義が定まっている言葉ではなく、その用い方は自由である。
しかし、筆者は国益と「民主化」や「アジアの解放」等の大義との混同がイラク戦争の泥沼化や先の無謀な大戦等を引き起こしたと考える。
これらの歴史の失敗例に学ぶなら、外交戦略は両者を用語としても概念としても一旦峻別し、他国の国益と力関係を考慮しながら、これらを立体的に組み立てて立案すべきであろう。
筆者には、安倍氏の「日本の大義」論は、構造的思考力と戦略的発想を欠いているように映る。

◆内政◆
最後に内政面について一点だけ取り上げたい。
安倍氏は前出の「美しい国へ」において1章30数ページを割き社会保障制度について言及しているが、ほぼ全文に渡って現行の年金制度、社会保障制度の肯定とそれを前提とした修正案についての文章が続き、筆者は厚労省のパンフレットを読んでいる錯覚に襲われた。
現官房長官である事からスタンスの取り方は限られるのだろうが、一般の眼にも制度の破綻が明らかになっている以上、役人のレクチャーの請け売りを脱しない発想では国民に安心と希望を指し示す事は出来ないのではないか。

来夏の参院選は、実質的には小沢一郎氏と1年間休養を取った小泉純一郎氏との対決になるとの観測もあるが、少なくともそれまでは総裁選の勝者が国政を担う事となる。

総裁選告示に向け、安倍氏を含む各候補の政策提言が出揃って行く事となろうが、論戦を経て具体策の無さは補われ、直線思考は戦略的思考に変る余地はある。
激しい論戦を期待したい。

 

 

20060626

ジーコは任せ過ぎた −単純思考が日本を亡ぼす− (『SAPIO』 2006726日号掲載

W杯で日本は1次リーグで敗退し、決勝トーナメントに進めず帰国した。
ジーコジャパンは、緒戦のオーストラリアで逆転負け、次のクロアチア戦で引き分け、第3戦のブラジル戦で逆転負けし、1勝も出来ずにF組最下位に終わった。

この敗退原因について、個人の技術が劣っていた、小兵ゆえ体力的に及ばなかった、気力が中盤まで続かなかった、直前の親善試合でドイツに善戦し士気が緩んでいた等、色々に評されている。

それぞれに当たっているが、筆者は最大の原因はジーコの采配と選手の育成に有ったと思う。
ジーコは、オーストラリア戦で、終盤攻めに行くのか守りに行くのかを明示せず選手が混乱していたと伝えられる。

これを象徴として、あまりにも選手の自主性に任せ過ぎた。
これは、前任のトルシエ監督と対象的である。
トルシエは、体育教師と揶揄された様に選手を型に嵌め、隅々まで管理、コントロールした。
フラット3と言われるディフェンスラインを、宮本等がトルシエの指示に反して上げて、それが効を奏するという事すらあった。

日本のレベルが上がり、諸外国から研究され始めた以上、トルシエのパターン化されたサッカーは通用し無くなっていた事は明らかであった。

しかしジーコは急ぎ過ぎた。
ジーコのやり方は、天才的なプレーヤーばかりで構成されているブラジルチームに対しては通用したのかも知れない。
名選手即ち名監督ならずの例に漏れず、天才ならざる日本選手達を育成、指導、采配出来ずに終わった。

「任せて任さず」という言葉がある。
部下の主体性に任せるも、常に目立たぬようにウォッチし、肝腎な所で方向性が違えば軌道修正してやると言う、職場では当たり前に行われている方法だ。
天才故に、この基本的な感覚がなかったのか。

さて、今日、我が国の教育現場では、ゆとり教育の弊害が語られている。
また、金融、証券業界での規制緩和の行過ぎが、ホリエモンや村上ファンドの違法行為を生んだとも言われる。
あるいは、経済での自由化の行き過ぎが、格差社会を産んだとの批判もある。

筆者は、これらの現象に共通するのは、単純思考に有ると思う。
即ち、旧来の弊害を打ち破る事は良いが、それらの逆を行けば全て上手く行くという単純化された信仰だ。
そこには、旧来の方法の弊害と、それを否定して行く事に内在するメリットとデメリットに対する考察が欠落している。

徹底的に教え込むべき基本的な知識技能とは何なのか、先行する世界の金融、証券の規制緩和に伴ない強化している規制とは何か、経済の自由化の中で守るべきセーフティーネットをどう構築し、社会をどうデザインするのかに知恵が回らない。

旧来の弊害は破らなければならない。
しかし、その逆を行くだけの単純思考は日本を亡ぼす。
ジーコジャパンの失敗から、日本社会が学ぶものは少なくない。

 

 

20060416

小沢「靖国発言」とアジア外交4

民主党の小沢一郎代表が行った靖国神社からA級戦犯「分祀」を求める発言が、波紋を呼んでいる。
以下、産経新聞のインターネット記事を引用する。

◆靖国参拝 小沢氏批判、首相は反論
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060411-00000006-san-pol
 小泉純一郎首相は十日、民主党の小沢一郎代表が、首相の靖国神社参拝を批判したことについて「中国がいけないと言うからいけないのか、戦没者に哀悼の念を表するのがいけないのか、よく分かりませんね」と反論した。首相官邸で記者団に答えた。
 小沢氏は九日のNHK番組で、「戦争を主導した大きな責任がある人たちは、靖国神社に本来祭られるべきではない。戦争で亡くなった人のみを祭る本来の形に戻し、天皇陛下も堂々と行ける靖国神社にすればいい」と述べ、A級戦犯が合祀(ごうし)されている現状を改め、戦没者慰霊の場にすべきだとの考えを示した。ただ、小沢氏は記者団に「分祀(ぶんし)ではない。政権をとったらすぐにやる」と語り、具体的な解決策には触れなかった。
 これに関連し、安倍晋三官房長官は十日の記者会見で「政府が合祀の取り消しを申し入れれば、憲法に定める信教の自由と政教分離の原則に反する」と指摘した。
 小沢氏は靖国参拝に関し、昨年十月二十一日付の夕刊フジのコラムで、「中国や韓国の批判には同調できないが、小泉首相の『終戦記念日以外』『記帳しない』などという姑息(こそく)さだけは看過できない」と批判。「霊璽簿に名前を記載するだけで祭神とされるのだから、単に(A級戦犯を)抹消すればいい」としている。
(産経新聞) - 411311分更新◆

上記がこの件に関する現在最も詳しい記事だが、小沢氏はどのような方法で霊璽簿からA級戦犯を抹消するつもりなのかは依然不明である。
A級戦犯を抹消しなければ国立追悼施設の建設に取り掛る事を梃子に、靖国神社側の譲歩を図ると言った所だろうか。
だが、小沢氏の過去の剛腕手法から類推すれば、靖国神社の接収による再国営化や宗教法人認可の取り消しのような常人の発想の域を超える手法も有り得るかもしれない。

◆靖国問題の本質
さて、霊璽簿抹消の具体的方法は現時点では本人しか分からないので、首相の靖国参拝問題自体について考察してみたい。
靖国神社参拝問題は現在完全に外交問題化しており、小泉首相の「個人としての参拝である」との主張は意味を成さない。
首相は参拝を続けるなら、むしろ宗教的側面は別にした公的追悼行為である事を主張すべきである。
その場合、村山談話の借用を繰り返すだけで無く、明治維新以降についての自身の一貫した歴史観を整理して示す必要がある。

筆者は、それを行った上で、A級戦犯合祀のままでも時の首相は参拝を行うのが本来ではあるが、国際問題は他国との関係で成り立つ事を考慮すれば参拝をしないか小沢氏や中曽根元首相の主張のようにA級戦犯「分祀」を図った上で参拝するのが現実的な首相の態度であると考える。

国際問題は、国益と国際的大義に立脚した外交戦略を基に判断されるべきである。
筆者は、今後10ないし30年の外交戦略として、以下の事をそのグランドデザインとすべきであると考える。
◆日本は、米国と共同してその力を利用すると共に、国際社会なかんずくアジア諸国を味方に付け、中国等を囲い込みその牙を抜き普通の国にする事を図るべきである。
◆日本は、再びアジアの盟主を目指すべきである。
ただし、今回は武力に拠らず、周囲から推される形でなければならない。
◆日本は、やがて来る米国の相対的衰退と世界の多極化に向けて、新世界秩序建設を模索すべきである。

中国韓国を除いたアジア諸国では、政府は靖国神社参拝を公式には問題とはしないが、一方国民は問題視すると言うのが平均的な所だ。
従って、国際社会なかんずくアジア諸国を味方に付けるためには、A級戦犯合祀の下では首相の靖国神社参拝は避けるのが適当だろう。

◆歴史問題の整理
歴史認識問題を整理する必要がある。
明治の開国から太平洋戦争敗戦に到る時代を総括をした確固たる歴史観の確立と、それに対して国際社会なかんずくアジア諸国の理解を得る事が不可欠である。
先の戦争は、弱肉強食の植民地争奪戦の中で欧米に対しては覇権を掛けた普通の戦争、アジアに対しては侵略戦争の要素が強かったとした中曽根元首相等の歴史観は概ね妥当なものである。

加えて、筆者は以下のように考える。
新興工業国としての生存のため資源と市場を獲得するために始められた満州事変以降の戦争は、「八紘一宇」やアジア諸国を欧米の植民地状態から解放すると言う大義が掲げられ、これらが表裏一体となっていた。
日本は、太平洋戦争で緒戦の勝利に引き続き敗戦し、その結果、欧米列強のアジアからの一掃 → 日本の敗北と撤退 → 欧米列強のアジア復帰に抗した独立戦争 → アジアの独立という弁証法的展開が起こった。

東京裁判とサンフランシスコ講和条約については、歴史的経緯から見て不当な面があり、何れは国際社会に対し正式に見直しを求めるべきだが、少なくとも当時の記憶のある世代が存命する今後20年間は声高に行う時期ではない。
さもなくば、国際社会から孤立する恐れがある。

◆今後の展開−小泉実質続投
東条英機元首相等、A級戦犯を政治的死者であり戦没者ではないとした小沢氏の考えは、これを切り離して先の大戦と共に、その評価を今後の歴史的審判に委ねるという側面もあり、ある意味上手い手である。

従来からの中国・韓国に加えて、アジア諸国、最近ではブッシュ政権も小泉首相の靖国神社参拝に懸念を示唆し始めている。
米国の態度は、現在は中東制圧に注力したく、アジアで揉めたくないという現実的な戦略から出ている面もあることは確かであるが。

首相が靖国神社参拝をしないのなら別だが、参拝する以上外交上の具体的な解決策はA級戦犯「分祀」以外には有り得ないだろう。
次期首相には安倍晋三氏が有力視されてきたが、商売上日中関係の悪化を懸念する奥田経団連会長初め財界からも参拝への懸念が表明されている事に加え、今回小沢氏によって保守の中からのA級戦犯「分祀」論が声高に語られた事も影響し、恐らく本命温存策として首相への登板は1回間を置く事になるだろう。

小泉首相は、影響力を残せてかつ変節を意に介さず世論に打たれ強いような人物を事実上の指名によって後継首相に立て、自身が実質的首相として小沢氏と対決する事を考えていると推測される。
一方の小沢氏のA級戦犯「分祀」論は、従来からのものではあるが政局まで見据えて相当に練られたものと考えて良い。
政策と政局のダイナミズムが政治の本質なら、靖国問題は今後その大きな一郭を占めるだろう。

 

 

20060415

小沢民主党への三つの懸念2

小沢氏が7日、選挙を経て民主党代表に就いた。
筆者は、小沢氏の本音は幹事長狙いと予想していたが当たらなかった。
もっとも、来夏の参院選の候補者発掘や選挙活動指導のような普通なら幹事長のやる仕事に最重点を置く等、千葉7区衆院補選で初日に現地入りした菅代表代行と合わせて、半分幹事長のような代表と、代表のような代行のコンビを考えれば、当たらずと言えども遠からずと言えなくもない。
蛇足ながら、幹事長代理のような幹事長もこのトロイカ体制に加わるが。

さて、小沢氏の代表就任については、期待の半面、マスコミでも様々な懸念が喧伝されているが、筆者も少なからずそれを抱くものである。
以下に整理した。

◆政策面
先ず、外交防衛政策である。
旧社会党の横路氏と民由合併後いち早く国連待機部隊構想で合意する等、小沢氏は得意の囲碁のように布石を打ってきたが、例えば菅氏の海外武力行使否定や集団的自衛権の行使の是非では党内で大きな隔たりがある。

内政では、国のかたちに関わる、格差社会の問題をどう考えるかについて朝日新聞(11日朝刊)のインタビューに以下のように答えている。
 「終身雇用と年功序列は、日本社会が考えたセーフティーネットの最たるものだ。非正規社員ばかり採用すると、忠誠心がなくなる。自分の会社に骨を埋める層を確保する方が、会社にとっても良い。一方で、総合職やキャリアをめざす人は身分保障をなくす。日本社会はキャリア層まで年功序列や終身雇用になっているのが問題で、そこに自由競争の原理を採り入れればいい。」

中央官庁のキャリアは官僚の中で極く少数であるが、民間企業では現在男性社員の大部分が総合職以上であり、そこをキャリア官僚と同列に解雇自由としてしまうとかなり激しい競争社会となる。
総合職を限られたエリートに絞り込んで行くのか、またこういった雇用のデザインを法律や優遇措置を使って行うのか等を含め、小沢氏の考える国のかたちは俄かには明確な像を結ばない。
更なる具体化、説明が必要である。

また、これらを含んだ政策全般について、小沢氏が持論に固執すれば党内が割れ、譲歩し過ぎれば実効性の無いものか曖昧なものになるというジレンマがある。

◆体制・意志決定システム
小沢氏は代表選の演説の中で「先ず私から変らなければならない」として、ニュー小沢をアピールした。
小沢氏も政権から遠ざかり苦労を重ね、再び天下取りに向かって強引、独善、壊し屋、裏からの二重支配等々との批判について自重する所があるのだろう。

だが、次の発言はどうだろう。
同じ朝日新聞のインタビューで、小泉首相が郵政民営化法案の反対者を公認しない手法を取った事に対して、
「その一点では正しかった。郵政民営化を公約して自民党総裁に当選しており、反対する方が自己矛盾だという論理は正しい。私だってそうやる」と答えている。

しかし、これは小泉首相という女性を含む圧倒的な国民的人気と卓越したマスコミ操作によって初めて可能になった特殊事例である。
女性に不人気という弱点は菅氏を表の顔に据える事である程度カバー出来るにしても、マスコミ操作は権力を握らなければやり様が無く、野党でこの類の手法を行う事を考えているなら、少なくともこの日本では上手くはいかない。

小沢氏は、一旦リーダーとして選んだ以上、その期間は全権委任をしなければリーダーシップを発揮しようが無いではないかと予てから主張している。
また、執行部権限や多数決による決定を絶対的なものだと考える。
しかし、ここはイギリスでなく、日本である。
小沢氏には当然に映る事も、政界を含む日本人社会にはそう見えない。
善し悪しはともかく、縄文から数えて1万年、弥生から数えても数千年間、全員一致で波風を立てないコンセンサス社会である日本の風土と、小沢氏の考えは180度食い違う。
小沢氏も「変らなければならない」と、この事を自覚した上での対処を考えているが、切羽詰った時や重大局面では、「三つ子の魂百までも」というような事は往々にして起りやすい。

トップダウンと構成員の同意を常に得る「民主的手法」、更に民主的手法の中でも多数決により左右を決める手法と全員一致の手法は本来矛盾対立する。

党内意思決定システム、代表・執行部権限、執行部を牽制・解任する機能等の定めは、当然ながら公党である民主党の中にもあるが、特に書かれていない部分の運用手続整備や、例えば重要事項は事前に全議員多数決や執行部一任の一札を取る等々の木目細かい対応も必要だろう。

◆内憂
民主党は、党内に「外交・安全保障の基本政策は、与党自民党と完全一致でもよい、いや一致しなければならない」と繰り返し公言して憚らない前原前代表を中心とした若手グループを抱える。
前原氏は、昨年の郵政総選挙後の小泉組閣に対しても、翌日には撤回したものの「実力者が揃っていて、本気度が出ている。頑張ってもらいたい」とエールを送るなど、外交・安全保障以外でも自民党に親近感を持っている事は明らかだろう。

前原氏としては、自民党に近い外交・安全保障政策、即ち改正した憲法典に集団的自衛権の制限を明記せず、別途の法律で定める等とした対米協力へ大きく道を開くようなものの取り纏めを図りたかった所だが、堀江にせメール問題の責任による代表辞任で果たせなかった。

前原氏は、日米同盟を基軸とするも国連やアジアにも軸足を置いた路線を念頭に置いて自民党への対抗を考える小沢氏と必然的に対立するだろう。

外交・安全保障政策の確立は、前原氏の政治家としてのライフワークであり、その情熱が本物であるなら、あらゆる手法でその実現を図るのは間違いない。
その意味では、小沢氏に取ってはトロイの木馬なのだが、前原氏は本来の主張を曲げて海外武力行使の封印等を誘い水に菅氏の離間や党内左派の取り込みを図るべきでは無く、堂々と9月の代表選に独自の候補者を立てて戦うべきだろう。

前原氏のグループについては、小泉政権からのバックアップで、手勢を連れての離党と自民党入りもしくは公明党に替わっての友党化も噂されるが、小沢氏の方も旧経世会を足掛かりに自民公明に手を突っ込む事も考えているだろうからお互い様ではある。

筆者は、権某術数的な手段について必ずしも非とするものではないが、その裏側には政治理念と政策が張り付いている必要があると考える。

ともあれ、本格的な与野党対決が期待できる情況になった。
加速する国際情勢の動き、内政面の様々な行き詰まりを考えれば、この情況は必然であると言える。
国民、マスコミ、指導者には、より一層の責任ある判断と言動が求められる。

 

 

北が動き出しそうだ。2

北が動き出しそうだ。
アメリカの金融制裁でヒーヒー言っている。
めぐみさん解放近しか。
小泉も3回目の訪朝しそうだ。

核問題との絡みでどういう曲折を経るか分からないけれど、数年の内に南北は統合へ向かうだろう。
ただ、情に引きずられたものだから、ドイツ統合と同じ失敗をする可能性が高い。
南北連邦制にして、通貨価値を別々にすれば北の経済発展もあるのだが、そうはせず、ドイツの何倍も南北経済はガタガタになる。

その不満の矛先は、日本に向かう事になる。残念ながら。
日本は、南北連邦制をアドバイスすると共に、今の内から身を清め国際世論、なかんずくアジア諸国を味方に付けて置く必要がある。
対中戦略としても、それは重要だ。

 

 

・生ける屍、民主党と憲法改正の行方 (2006/ 3/12『月刊 世相』 20064月号掲載

◆にせメール騒動◆
堀江にせメール問題で、民主党がガタガタである。
送金指示メールによる追及と関係のなかった参院は衆院とは別だとは言え、少なくと
も今期国会は気勢を削がれ消化試合となってしまった。

それにしても元々脇の甘すぎる永田議員や野田国対委員長は論外として、若き軍学者
といった風情もあった前原代表の組織掌握、危機対応の余りの不手際振りは自民党と
の内通すら噂される始末だ。
曰く、「4点セットで追い込まれる小泉政権を見かねたホワイトハウスからのブッ
シュホンにより、前原は自爆テロを決行した」等々。
如何に忠米若衆組の松下政経塾出身者であっても流石にそこまでの大仕掛けはないと
は思うが、国会終了後も前原体制では党勢の切り返しは無理だろう。

◆憲法改正への道◆
さて、今期国会が終わったら、前原氏は本来会期中に行うはずだった安全保障政策の
取り纏めにいずれ取り掛る事になるが、前原氏が自己の主張を大幅に後退させない限
り纏る事はない。
前原氏は、先頃決まった自民党の憲法改正案に謳われた安全保障政策部分に全面的に
賛成であると繰り返し発言している。
自民党の憲法改正案は、国防と国際貢献を同じ条文に書き込むと共に、集団的自衛権
と集団安全保障が明記されず両概念が曖昧である上に、解釈により集団的自衛権の行
使を制限を付けず可能とし、別途定める安全保障基本法等で具体的に規定するとした
ものである。

筆者はこれでは、国際貢献イコール米国貢献になり、自在の法律改正、解釈変更で米
国の戦略に地球の果てまで付いて行く事になると考える。
中東や東アジアその他での無条件で徹底した対米協力に道を開き、自動参戦装置化し
てしまう可能性が極めて高い。

筆者は日米同盟維持と憲法改正は必要であるとの立場だが、同じ改正でも日本の米国
属国化を高めるものと主体性を取り戻すものの2つの方向があると思う。
憲法改正は、国益に加え国際世論の要請、国際的大義に適う場合には国連軍や多国籍
軍として海外に軍隊を出す事も辞さず、そうでない場合には出さない日本の主体的な
行動を保障し規定するものでなければならない。
即ち、筆者は自民党案の真逆を行くべきだと考える。

◆前原辞任とその後◆
さて、恐らく前原氏はこれまでの主張を大きく変えず、安全保障政策の取り纏めは失
敗に終わる。
前原氏は予てからの公約の通り、取り纏め失敗の責任を取る形で代表を辞任するだろ
う。
こうすれば、にせメール問題の責任での辞任とならず、向こう傷として政治家として
の履歴へのダメージを軽減できる。

民主党の次期代表は誰になるのか。
小沢氏との声もあるが、チルドレンはともかく本人は日本がガタガタになった時に満
を侍して登板をする事を考えており、民主党がガタガタになったぐらいでは動かない
だろう。
のこのこ出て行けばまた世論の集中砲火で潰される事は分かっており、平時に合わぬ
乱世の政治家との自覚がある。
自民が9月で任期が切れる小泉首相の後継に安倍氏を出してくるなら、対抗軸として
(四国行脚で禊を果した?)菅元代表の再登板に落ち着くのではないか。
舌鋒鋭い切りこみ隊長の菅氏は、答弁でアドリブの利かない安倍氏の敵役としては適
任である。
小沢氏は菅氏を表に立てて、幹事長として来夏の参院選を采配する狙いだろう。

前原氏の方は、手勢を連れての離党と自民党入りもしくは公明党に替わっての友党化
をカードとしてちらつかせ、反体制派として党内親自民勢力の結集を図るのではない
か。
民主党内がガタガタになればなるほど、遠心力で党内親自民勢力が増える事となる。

◆「トロイの木馬」として◆
米国に無条件で従って行くのも、一つの現実的な考え方である。
筆者も、少なくとも特に対中戦略として、米国の力も借りると共にアジア諸国を味方
に付け中国を囲い込みその牙を抜き安全な国になって貰うまでは、米国との同盟は強
化して行くべきだと考える。
しかし、米国の長期的に見た相対的な衰退を予想すると共に、世界民主化の大義は認
めるとしても、その裏の顔としての石油確保の為の恣意的な行動を考えれば、同時に
ある程度の距離を置く仕組みも用意して付き合うべきだと考える。
筆者は、この観点から主体性という面で前原氏や中曽根氏の対米観とは袂を分かつ。

前原氏は、己の信念に従って行動すれば良い。
安全保障政策について、民主党内を時間を掛けて親自民党化して行くのも政治目的実
現の手段としては有りだろう。
筆者は逆の考えに立つが、前原氏の「トロイの木馬」としての手腕が注目される。
憲法改正について、「護憲」対「改憲」の時代は過ぎた。
マスコミ、識者、政治家は、今後「従米的改憲」と「主体的改憲」を対立軸として国
民の前に明示する必要がある。

 

 

・行政責任と更なるもの −ライブドア事件の闇− (2006/ 2/ 5『Will』 20064月号掲載

◆首相の反省
一連のライブドア事件に関し、小泉首相は当初、昨年9月の衆院選で自民党がライブ
ドア前社長の堀江貴文容疑者を実質支援したことについて「事件と選挙応援は別問
題」と発言していた。
しかし、先月末になり、世論の非難に押されて「私も党本部で会って写真を撮った。
幹部も応援した。総裁・小泉の責任と批判されるなら甘んじて受ける」と責任を認め
た。
その上で「メディアが(衆院選の際に堀江前社長を)持ち上げ、他の候補者に比べて
はるかにテレビに出させた。逮捕されると、手のひらを返すのもどうか」とメディア
批判も改めて展開した。

この嫌々ながらの反省の弁は政治家以前に社会人としての常識も疑わせるが、首相に
道義的責任感を求めるのは、元々八百屋に行って魚を求めるようなもので無い物ねだ
りであった。
世間も、小泉首相のこの「憎めないキャラ」から発せられた反省の弁によって早くも
免罪したようで、事件によって50%を大きく割り込んでいた内閣支持率は再び回復
し、ホリエモンと新生ライブドアの運命はともかく政治的には事件は幕引きへ向かう
気配が濃厚になっている。

◆行政責任と更なるもの
さてしかし、ここで忘れてはならないのは、小泉政権はホリエモンを選挙に利用した
だけで無く、一連の事件および疑惑の持たれている期間についてライブドアを監督す
べき立場に立っていた事だ。
投資事業組合を使った偽計取引、マネーロンダリング、粉飾決算等々。
これらについて、見抜けなかった証券取引等監視委員会、金融庁、ライブドアの宮内
氏が取引に関しお墨付きを貰っていたとする国税当局等の行政責任は免れない。

これらについて、証券取引等監視委員会を始めとする行政機関はどのような情報収
拾、検討、意志決定を行ったのかそのプロセスを白日の下に晒すべきであろう。
それが、事件の再発を防ぐための法令、組織体制の見直しには不可欠である。

更に、時間外取引を使ったニッポン放送株取得では、村上ファンドの村上世章氏や外
資系証券会社が「たまたま売りに出していた」株を数十分の内にライブドアが取得
し、累計約35%を取得、同社筆頭株主になった。
これについて証券取引等監視委員会と金融庁はお咎め無しとしたが、筆者は当時「政
権に近いとはこういう事か」と素朴に思ったものである。
同じような感想を持った国民は多かったはずだ。

一説では、検察は既に官邸と手打ちが済み、事件をこれ以上拡大させない方針を決め
たとも聞く。
しかし、正すべきものがあるとするならば、国民の信頼と正義感を裏切らぬよう信念
に従って行動して頂きたい。

また、立法府においては、野党はたとえ行政責任の面からだけでも当時の担当大臣等
を喚問する必要がある。
ホリエモン一人が消えて丸く収まる子供騙しで済ませるなら、野党に存在意義は無く
直ちに解党すべきだろう。

 

 

・「石油は大義」か。安倍晋三氏に問う (2006/ 1/ 9『週刊金曜日』 No.590 2006/1/20号掲載

◆安倍後継
 「日本にとって石油の確保は死活問題であり大義である。それ故イラク戦争を支持
する事は正しい選択である。」(安倍晋三氏、イラク戦争当時)

小泉首相の9月退陣を前提に、次期総理総裁予想が喧しい。
各社のアンケート調査では次期総裁に相応しい人として安倍氏がダントツのトップと
なっている。
首相の意中の人も安倍晋三氏である模様だが、来年の参院選では先の衆院選大勝の揺
り戻しで自民党の苦戦が予想されるため、森前総理の目論み通り安倍氏を温存し繋ぎ
の総裁で乗り切る事になるかもしれない。

さて、いずれにしても国民的人気が無い者が2、3年先の次期衆院選の顔として党内
から支持される事は無く、安倍氏が次代を担うリーダーと目されている事は間違いな
い。
それ故、今、安倍氏の総理総裁としての資質について検討してみるのは必要な事と思
われる。

◆大義と国益
冒頭に上げたのは、イラク戦争当時に官房副長官としてのテレビの討論番組での安倍
晋三氏の発言(主旨)である。
イラク戦争とそれへの日本の支持の是非自体については大きく議論の分かれる問題で
あり、ここでは敢えて問わない。
日本にとって石油の確保は死活問題である事は議論を待たない。
筆者がここで問題としたいのは、石油の確保を「大義」とした安倍氏の言語感覚と思
考パターンである。
安倍氏は一体、「大義」という言葉をどう定義しているのだろうか。
筆者は石油の確保は、死活問題であると共に「国益」の領域に属するものだと考え
る。
石油の確保が大義であるのなら、その目的のため先の大戦で日本が仏印に進駐した事
やサダムフセインが湾岸戦争でクエートに侵攻した事やヒトラーが生存権を主張して
周辺諸国を併合した事も大義となりかねない。
これらは、国益に属しこそすれ、大義ではない。
安倍氏の言葉からは、外交戦略についてギリギリの考察をして苦渋の発言をする形跡
は一切なく、単純な米国追従しか感じ取れなかった。
国際関係において「大義」とは、国益を越えたもの、個々の国の利害を超えて広い地
域の秩序を構築、維持するための理念でなければならない。

例えば、米国の唱える民主主義は大義たり得る。
その歴史的評価は別として、先の大戦で日本が唱えた「アジア解放の大義」もその理
念だけ取り出せば大義たり得るだろう。
ただそれが、例えば石油の確保といった国益と渾然一体となり、軍事的侵攻(多くの
場合言い掛かり的な開戦理由を伴う)に繋がり勝ちであるのは歴史の例に事欠かな
い。

イラク戦争に端的に現れている様に、米国も国益と大義を渾然一体として考えてい
る。
その結果、現在多くの兵士を死なせ、莫大な戦費を使い泥沼にはまり込んでいる。

◆外交戦略として
政治家としては国民の支持を取り付けるために「国益」と「大義」を一体として考え
る誘惑が常に働くのはある意味自然な事である。
しかし、近代の歴史の失敗例に学ぶなら両者は用語としても概念としても峻別すべき
である。
でないと外交戦略の目的が不明確となり、事態について適切な判断が出来難くなる。

外交戦略は、国益と大義を峻別した上で関係各国の国益と力関係を考慮しながら、そ
れらを立体的に組み立てて立案すべきである。
それが、周囲の支持を得ながらリーダーシップを確立する事に繋がり現実的な外交戦
略となり得る。

日本は今、隣国中国の経済的勃興と軍事的拡張、長期的に見た米国のアジアからの軍
事的撤退等々により難しい外交を迫られている。
次期総理総裁に名前を出される各氏も、外交戦略的なものを持っている様子は希薄で
あるが、安倍氏は日朝ピョンヤン宣言の際、北朝鮮の不誠実を理由に調印を拒否し帰
国するよう小泉首相に諫言する等、気骨のある数少ない政治家である。

安倍氏には、ブレーンと共に外交戦略を練り上げて、次代を担うリーダーとして是非
ともそれを国民の前に堂々示して頂きたいものである。

 

 

・小泉政治の残した破壊と夢 (2006/ 1/ 9

小泉首相の退陣が9月に迫った。
この政権が行った事を一言で表現すれば、旧来の日本社会、戦後体制の破壊にあった
といえる。
道路公団民営化、公共事業縮小と不良債権処理、特殊法人改革、年金改革、地方分権
三位一体改革、郵政民営化等、また外交面では、北朝鮮拉致問題の打開、中国韓国へ
の弱腰外交の是正、日米同盟の強化、憲法改正への道筋等によって閉塞感を破り国民
に「夢」を与え、それが高支持率に繋がっている。

しかし、破壊後の建設の確固とした見取り図は無かった。また、そのために破壊もあ
る分野では中途半端に終わった。
この結果、国民の将来不安は解消されず、改革の具体的なメリットが不明確であると
共に、天下りポストが増え官僚が焼け太りする等の逆行が見られ、都市と地方や個人
間の格差が拡大し凶悪犯罪が増加した。
一連の改革の流れから憶測すれば、今取り組んでいる公務員改革も表面的な数合わせ
と妥協に終わる可能性大と見るのは穿ち過ぎだろうか。
外交面では、拉致被害者の一部帰国だげでの終結懸念、アジアにおける外交的孤立、
主体的な対米関係模索の放棄を招いた。

一方、「抵抗勢力」の首謀格とされたK議員を例に取れば、公共事業を通した積極財
政によって景気快復を図り地方の疲弊を解消する事等を持論としていたが、先の解散
総選挙で自身の選挙でも死にもの狂いのドブ板選挙で辛うじて当選する等、その主張
は国民に受け入れられなかった。
民主党は、選挙戦略の拙さと主張の曖昧さもあり大敗を喫した。

より根本的には、何故彼等は負けたのか。
夢を与えられなかったからだ。
苦境からの脱出に対して差し延べられる「救済」の手と、「夢」とは違う。
弱者もある意味贅沢なもので、弱者対策だけでは満足しない。
小泉自民党が地方やいわゆる「負け組」の若者からも支持を受けて先の総選挙で大勝
したのは、曲がりなりにも夢や希望を語ったからである。
郵政民営化、小さな政府論で全てが良くなると。
その夢や希望が本物であるか、幻影であるかはまた別の問題である。
人は夢や希望なくば生きて行けない。

しかし、その裏に貼り付く具体的な国家社会像、ビジョンが無ければ夢は何時かは醒
め、やがて過酷な現実に直面する事になる。

今後日本にとって、国民生活における自己責任の範囲と国家社会が保障する範囲の明
確化、これを背骨とした年金・介護・医療の社会保障全般、公的規制、行政機構、特
殊法人、道路等のインフラ整備、郵政、教育、地方分権等を含む諸分野の中身を大胆
に切り分けて行く事が不可欠である。

外交においては、米国や中国等各国を相手にあるいは結びあるいは牽制して国益を確
保しつつ、新しい国際秩序を構築する戦略性とその中で責任を果して行く覚悟が必要
とされる。

国民の意識転換と真のリーダーの出現が待たれる。
小泉政治が残した破壊と夢に酔っていられるほど、内外を取り巻く日本の情況は実に
甘くはない。

 

 

・我が国の外交戦略の今後 −緊張する東アジアと多極化する世界− (2005/10/11

「日本は、米国の力を利用すると共にアジア諸国を味方に付けて中国の牙を抜き、ア
ジアの盟主としてやがて来る米国の没落と多極化世界に備える事を外交戦略のグラン
ドデザインとすべきである。」

世界は現在、冷戦終結から米国の一極支配を経て、多極化・流動化に向いその流れが
加速している。
日本もそれに応じて、統合的な中長期的外交戦略を持つ事が不可欠である。
しかし、個別的、対処療法的な外交政策は在れど戦略は不在といえるのが現状だろ
う。

戦略とは、勝つための、差別化された、決然とした覚悟を伴なう包括的シナリオであ
り概略作戦書でなければならない。
この観点から、以下に外交を中心とした国家戦略についての筆者の考えを述べる。

◆情況と趨勢および基本戦略◆
先ず、我が国と世界を取り巻く情況と趨勢を整理する必要がある。
筆者は、以下のように整理している。
−情況と趨勢−
◆北朝鮮の暴発可能性、中国の軍事力増強等の東アジアの不安定要素の増大
◆EU、中国、インド、ロシア、ブラジル等の勃興による中長期的な米国の相対的衰
退と一国支配の終焉、それに伴う世界の多極化と世界各地の地域紛争の増加
◆上記に歯止めを掛けるべく行われる、イラク戦争のような米国の単独行動傾向の増


これを受けて、我が国が採るべき基本戦略は次のようなものでなければならない。
−基本戦略−
◆日本は、米国と共同してその力を利用すると共に、国際社会なかんずくアジア諸国
を味方に付け、中国等を囲い込みその牙を抜くべきである。
◆日本は、再びアジアの盟主を目指すべきである。
ただし、今回は武力に拠らず、周囲から推される形でなければならない。
◆日本は、やがて来る多極化世界に向けて、新世界秩序建設を模索すべきである。

◆中国の囲い込み◆
中国は、領土領海については、台湾独立問題、チベット等の辺境民族の独立問題、南
沙諸島、尖閣列島等の周辺諸国との領有権問題等を抱え、明らかな領土拡張傾向を示
している。
また、バブル崩壊の危険、沿海部と内陸部の経済格差、エネルギー・食糧・水不足、
環境汚染、一党独裁体制の矛盾、人権問題、元切り上げの必要、知的所有権の遵守、
劣悪な労働条件の改善等々の様々な問題が指摘されている。
しかし、今後曲折を経ながらも、経済的、軍事的に強大な国家となって行く事はほぼ
間違いないだろう。

我が国にとって、中国の経済発展自体は、隣接する生産工場及び巨大マーケットの拡
大としてメリットをもたらすものである。
しかし、一党独裁体制の中国が経済力と軍事力によって我が国とアジア諸国を支配す
る事は大きな脅威でありデメリットである。

従って、日本の採るべき戦略としては、中国の経済発展を許容しつつ一党独裁体制を
終わらせ民主化させ、軍事的に突出させない事、即ち中国の牙を抜く事である。
民主化しても侵略戦争をしたり、反日である国は幾らでもあるが、民主体制では行き
過ぎた動きに対しては、やがて時間の経過と共にバランスが働き揺り戻しが起こる傾
向がある。

中国は現在発展途上にあり、貧富の格差についての不満が鬱積し各地で爆発している
が、政府が適切に対策を打つなら国民は経済発展を優先させ開発独裁体制を甘受し、
民主化要求が具体的なパワーとなるのは暫く先になるだろう。

従って当面は中国の軍事力の突出を押さえる事が主眼となる。
このためには、米国の軍事的プレゼンスが不可欠であるが、米軍は石油の出る中東と
西アジア世界以外から兵を引き始めており、その穴埋めは日本が中心になってやらざ
るを得ないし、そうすべきである。

また国際社会なかんずくアジア諸国を味方に付け、国際世論として、あるいは経済
的、軍事的に中国を囲い込み牽制する事が必要である。

なお、喫緊の課題として北朝鮮が核実験・核兵器保有へ向けて動いている。
米国による体制保障と引き換えにした北朝鮮の核兵器保有放棄が、現時点で我が国に
とって最善のオプションであり、これに向け各国を主体的に誘導すべきである。
また、拉致問題は、北朝鮮が核抜きに向かう中でないと実際の解決は難しい。

◆アジアの盟主◆
世界の各地域にとって、その全体の利益と安全保障について主体的・中心的に責任を
負う盟主(リーダー)は不可欠である。
日本がアジアの盟主とならない場合、中国が盟主の地位につく事になるが、少なくと
も一党独裁体制のままの中国にそれを許すわけには行かない。
従って、日本はアジアの盟主を目指すべきだし、目指さざるを得ない。
ただし、今回は武力に拠らず、周囲から推される形でなければならない。

そのためには、先ず歴史認識問題を整理する必要がある。
明治の開国から太平洋戦争敗戦に到る時代を総括をした確固たる歴史観の確立と、そ
れに対して国際社会なかんずくアジア諸国の理解を得る事が不可欠である。
先の戦争は、弱肉強食の植民地争奪戦の中で欧米に対しては覇権を掛けた普通の戦
争、アジアに対しては侵略戦争の要素が強かったとした中曽根元首相等の歴史観は概
ね妥当なものである。
東京裁判とサンフランシスコ講和条約については、歴史的経緯から見て不当な面があ
り、何れは国際社会に対し正式に見直しを求めるべきだが、少なくとも当時の記憶の
ある世代が存命する今後20年間は声高に行う時期ではない。
さもなくば、国際社会から孤立する恐れがある。

次に、安全保障面であるが米国の軍事的プレゼンスが減る中で、日本がその穴を埋め
アジアの安全保障に責任を持つためには、集団的自衛権の行使を可能にすべく憲法改
正をする必要があるだろう。

◆米国の衰退と多極化◆
9・11同時多発テロを契機に米国は、アフガン攻撃とイラク戦争を起こした。
アフガン攻撃については、タリバン政権とアルカイダの関係があったが、イラク戦争
については、フセイン政権とアルカイダとの関係、大量破壊兵器の保有は何れも無
かった事が現在実証されており、大量破壊兵器開発の危険性もほぼ否定されている。
国民を戦争に導くためには、どの国、どの時代でも危機感を煽る必要があり、大量破
壊兵器の危険性はそのための方便として使われた。

イラク戦争は、米国が石油ドル決済体制を揺るがすサダムフセイン退治と石油資源と
石油、軍事、復興利権獲得のために始めた戦争である。
大きく観れば、EU等の勃興により米国が相対的に衰退する事に歯止めを掛ける必要
に迫られたのが戦争目的だった。
これに多分に後付けながら、開戦直前に唱えられ始めた中東民主化の大義が加わる。

イラク戦争と今後予想されるイラン攻撃等、これらを含む中東強制民主化とも言うべ
き「拡大中東構想」は、かつての大日本帝国による大東亜共栄圏に似ている。
新興工業国としての生存のため資源と市場を獲得するために始められた満州事変以降
の戦争は、「八紘一宇」やアジア諸国を欧米の植民地状態から解放すると言う大義が
掲げられ、これらが表裏一体となっていた。
日本は、太平洋戦争で緒戦の勝利に引き続き敗戦し、その結果、欧米列強のアジアか
らの撤退 → 日本の撤退 → 欧米列強のアジア復帰に抗した独立戦争 → アジ
アの独立という弁証法的展開が起こった。

米国は、「拡大中東構想」により軍事力の行使やそれを背景にした米国スタンダード
・ルールの押し付けにより、自国の衰退に歯止めを掛ける事を図っている。
また、中東の石油を押さえれば、石油を輸入に頼る中国の増長を戦わずして制する事
が出来、一石二鳥であるとも考えている。
しかし、拡大中東構想は軍事費の面やテロ等の安全保障面で持続的なシステムとは成
り難く、冷戦後続いた米国の一極支配に代って世界は次第に多極化して行くと見るの
が自然である。

◆新しい世界秩序と日本◆
さて、このような中で新しい世界秩序の仕組みが打ち立てられなければならない。
世界が多極化して行く中では、国連等の超国家機構の機能強化が求められるようにな
るだろう。
中長期的な課題としては、国際紛争への予防的介入や国連常備軍の設置等の権限・実
力強化の面と、安保理常任理事国の増席や総会での圧倒的多数が反対する場合の拒否
権の制限等の加盟国の納得性の向上の2つが大きな柱になる。

こうした中で、日本は常任理事国に加わる事を本気で成就させ、安保理が決議した場
合の集団的安全保障では武力行使、部隊の供出等に積極的に協力すべきである。

一方それと並行して、防衛力を強化し米国への過度の依存から脱却し、主体性を持っ
た自主防衛をすると共に、安保理が決議するまでの間、アジアで集団的自衛権の行使
も可能とすべく法整備をしておくべきである。
さもなくば、中国等の増長を許し、アジアの盟主足り得ない。
ただし、イラク戦争のような米国の戦争に自動参戦させられないように、憲法改正に
於いては国際貢献と集団的自衛権の行使を条文を変えて書き分けて置くと共に、集団
的自衛権の適用条件を明記して置くべきである。

核兵器に関しては、現状のNPT(核不拡散条約)体制は心許ないが、日本はこれを
遵守して核保有を放棄し、核への防御としては米国の核の傘とミサイル防衛の充実に
よるのが適当である。
さもなくば、世界の核拡散は更に進む事になり日本は倫理的に非難され、唯一の被爆
国という使い方によっては強力な切り札となり得る外交プロパティを失う。
一方同時に、 NPT体制の許す範囲で比較的短期間で核兵器に転用可能な原子力技
術とミサイルに転用可能なロケット技術を確保して置き、場合によっては核武装出来
るが敢えてそれをしないというスタンスを取るのが、現状最も国際的発言力を高め国
益に適うだろう。

米国が何時までも、またどんな条件でも日本に核の傘を提供する保障は無い。
また、スーツケースで持ち運べるような「使える核」は世界に拡散する方向にある。
国際機関による核管理の強化、核を無力化する監視・破壊システムの開発、核廃絶へ
の具体的道筋作りが今後の国際社会の課題である。

前述したように、日本はアジアの盟主を目指すべきだが、国連の強化に加えて、横の
連携、即ち東南アジア諸国に加えてイギリス、米国、オーストラリア等の海洋国家群
と結んで、中国、ロシア、大陸ヨーロッパ等の大陸国家を牽制する事も必要である。
古来、大陸国家は、海洋への出口を確保しようとして海洋国家と利益が対立する傾向
がある。
明から様な対立構造は、双方にとってマイナスだが、暗黙の牽制によって住み分けを
図るべきである。
日本の安全保障は、このようにアジアの連携、国連、海洋国家連合の3つによって担
保されるべきであろう。

以上縷縷述べてきたが、国際情勢は予測し難くまた理屈通りには進まないものであ
る。
特にたとえ大まかな傾向が予想できたとしても、事態の起こる時期や規模、前後関係
を予測する事はほぼ不可能である。
しかし、仮定を立てて基本戦略を練って置く事は国家にとって不可欠である。
事態が変われば、戦略を修正すればよい。
戦略無く行く事は、海図無き航海に等しく、流れに身を任せる主体制の欠如した態度
に他ならない。
戦後60年は米国依存でこれでも通用したが、歴史的に観れば異常な情況である。
日本は、経済規模、人口及び総合的な国力で大国であり、自立して戦略を携えて自国
の生存と繁栄を確保すると共に、周辺諸国や国際社会に対して応分の責任を果たす義
務がより一層高まろう。

 

 

・小説「日本売却計画」 (2005/ 9/19

◆第1章 総選挙
バンザーイ!、バンザーイ!、バンザーイ!
平成17年×月×日の今夜、全国の自民党候補の選挙事務所で万歳三唱が響き渡っ
た。
保泉駿一郎首相が「郵政民営化法案のためなら、殺されてもいい」と言い放って、そ
の是非を問うために仕掛けた衆院総選挙で与党、政民党が勝利した。
連立を組む公民党と合わせると、300議席を優に超える地滑り的圧勝となった。

それにしても激しい選挙だった。
郵政民営化法案が参議院で否決されると、事前の予告通りすぐさま保泉首相は衆議院
を解散したが、政民党内の造反議員は公認せず、逆にその選挙区には法案賛成のいわ
ゆる刺客と呼ばれる落下傘候補を立てた。

民営化法案反対の急先鋒で派閥の領袖でもある鴨井鈴馬の選挙区には、IT業界の若
き覇者トリエモンことパイプモア社長の鳥餌堅文が立候補した。
将来の初の女性首相候補と呼ばれ政民党のマドンナ的存在だった織田景子の選挙区に
は、外資系証券会社アナリストの加藤さゆりが「くノ一」として放たれた。

マスコミは、最初、鴨井VSトリエモンの戦いに注目したが、鴨井が死に物狂いで行
うドブ板選挙の前に意外とトリエモンに勝目が薄い事に気付き、中盤から後半に掛け
ては景子VSさゆりのマドンナ対決に注目した。
美人同士の切った張ったの方が、カモと豚の対決よりもビジュアル的に視聴率競争で
優っていたとも思われる。

◆第2章 特別国会にて
総選挙の一週間後に開かれた特別国会で、保泉駿一郎は首班指名を受けた。
続いて、衆院で短期間の内に与党の圧倒的多数で郵政民営化法案は殆ど原案通りに呆
気なく可決された。
元々、衆院で与党が2/3の議席を占めているため、参院で仮に否決されても再度衆
院に回されればあらゆる与党提出法案が成立する体制となっていた。
参院の造反議員も総選挙での与党圧勝の前に数人が欠席しただけで、大半が戦意を失
い賛成に回り、郵政民営化法案は成立した。

駿一郎は、その夜、郵政民営化担当大臣松中米助を首相公邸に呼び入れ、姉の作る手
料理で労った。 
「今回は、ご苦労だった。」
「総理こそ、参院否決から抜く手も見せず衆院を解散し、刺客を放ち流れを作り圧勝
した手腕は芸術的でした。まるで、一幅の戦記絵巻を見ているようでした。正に平成
の世の中に出現した信長です。」
「ほう。してこの俺と信長公、もし較べ得るなら米助はどちらが上と考えるか。」
「それは、もちろん総理でございます。」
「その訳を述べて見よ。いい加減な事を申すと許さんぞ。」
「この現代日本は、信長公の時代とは比較にならない程複雑で、民度も高い社会でご
ざいます。特に情報通信が発達しており、それを即座に処理して流れを作る技術たる
や当時の何倍もの判断の速さが求められます。それ故、総理が上と申し上げたので
す。その事は、この平成の蘭丸めが保証致します。」
「相変わらず弁が立つ奴め。しかし、そのような世辞で図に乗るような俺ではな
い。」
駿一郎はわざと怒った口調で言ったが、その顔には満面の笑みが浮かんでいた。

公邸の窓からは、鉄の桟越しに秋の半月が覗いていた。
「しかし、流石のこの俺も時々不安になる時がある。郵政民営化は俺のライフワーク
だ。だが、俺は細かい事は解らん。果たして、あの法案で本当に日本は良い方向に
変って行くのだろうか。」

「もちろんです。改革は進んでおります。」

◆第3章 憲法改正案
その年の初冬、政民党の憲法改正草案が策定され公表された。
ここで、この小説は少しフィクションを離れ、実在の元首相である中曽根康弘氏の率
いる世界平和研究所が平成17年1月に発表した憲法改正試案の「安全保障」「国際
協力」に関する個所を見て行く事にする。
架空の政党である政民党の憲法改正草案も、これらの項目に関しては中曽根試案に近
いものと考えて良い。

◇中曽根改憲試案
「 第三章 安全保障及び国際協力
(戦争放棄、安全保障、防衛軍、国際平和等の活動への参加、文民統制)
第十一条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発
動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段として
は、永久に認めない。
2 日本国は、自らの平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つため、防衛軍をも
つ。
3 日本国は、国際の平和及び安全の維持、並びに人道上の支援のため、国際機関及
び国際協調の枠組みの下での活動に、防衛軍を参加させることができる。
4 防衛軍の指揮監督権は、内閣総理大臣に属する。防衛軍に武力の行使を伴う活動
を命ずる場合には、事前に、時宜によっては事後に、国会の承認を得なければならな
い。」

このように中曽根試案では、集団的自衛権が明記されておらず別の法律(安全保障基
本法:仮称)で定める事とされている。また、安全保障と国際協力が同一の条文に書
かれている。
この2点に最大の特徴がある。

平成17年9月現在、日本は、イラク戦争への支持をいち早く表明し、戦後は復興支
援のため自衛隊を派遣している。
イラク戦争支持は、現政権が政権維持の後ろ盾としてブッシュ政権と密着し、歴代政
権中最も親米路線を取っている特殊事情を差っ引いても、日本が防衛を米国に大きく
依存している事が背景にある事は否めない。

現在、辛うじて内閣法制局による集団的自衛権を行使出来ないとする現憲法の解釈に
よって、自衛隊は戦闘行為を行わない事になっている。
しかし、この日本の現状を考えれば、中曽根試案では「国際協調」の名の下と、条文
に書かれていない集団的自衛権の自在の解釈によって、今後中東や東アジアでの無条
件で徹底した対米協力に道を開きかねない。
即ち、自動参戦装置化してしまう可能性が極めて高い。

さて、小説に戻ろう。
先の総選挙で大敗を喫した民友党は、保守系の防衛外交の若手論客、中原忠三を新党
首に選出した。
民友党は、中原のリードの下、集団的自衛権と集団安全保障の概念の整理を行い、集
団的自衛権の制限付き明記と国際協力の独立記述を謳った試案を取りまとめ、与党案
との差別化を図った。

しかし、多勢に無勢。やがて民友党の保守系議員の中からも与党案で良いのではない
かという意見が出始め、情勢は与党案成立に大きく傾いていった。

◆第4章 郵貯資金の行方
平成19年10月より、法案に従って郵政公社は分割民営化され、巨大民間会社が出
現した。26万人の郵便局員は、様々な措置により公務員の尾っぽを付けていたが、
名目上は一応民間人となった。
しかし、当初は政府が株式を保有する事となっているため、各新会社は政府の強力な
コントロール下にあった。このため、分割、業務拡大による肥大化により逆にポスト
が数倍増し、総務省、財務省の高級官僚が大量に天下った。
少なくとも、今回の郵政民営化が、彼等官僚にとって痛みを伴う改革でない何よりの
証拠であった。
もし、保泉が郵貯簡保の大幅縮小・廃止のアイデアを持っていたとしたらどうなって
いただろう。
そもそも、官僚の反対で法案化は絶対に不可能だっただろう。官僚機構は、形を変え
ても必ず増殖しようとする。これがパーキンソンの法則と言われるものである。

郵貯簡保の340兆円弱の巨額資金は、法案に依れば新旧勘定に分けられていたが、
運用は一体で新会社が行う事になっている。
といっても、役人上がりの社員達に運用出来るノウハウがあるはずもなく、外部の運
用会社に任された。
邦銀メガバンク系の投資顧問会社に混じり、ペリル・ミンチ、ボールドマン・ソック
ス等の外資系証券会社が目に付いた。
運用には高いリターンと安全性が求められ、以前にも増して主に外資系証券会社を通
し外債特に米国債に向かった。
米国の国債は、最長でも30年債である。それも、そのような長期国債は2001年
に発行されたのが最後である。
郵貯簡保の資金が主に向かったのが、米国財務省が年金資金を捻出するために新たに
発行した60年債だった。
米国は公的年金制度が破綻しかけており、これを民間ベースのものにシフトさせる改
革の為に、移行措置として1兆ドルすなわち110兆円の資金が必要になると言われ
ていた。
その他、通常の米国債の消化のためにも、郵貯簡保資金が向かう事となる。
これらは、高いリターンと安全性を両立させるための運用会社の独自の判断とされた
が、実質的には日米両政権の合意に基づくものだった。

◆第5章 保泉後継政権
さて、話は前後するが、保泉は予てから宣言していた様に、党則に従い平成18年秋
に政民党の総裁職を辞し、首相の座を降りた。
郵政民営化法案可決後の内閣改造・党役員人事で、保泉は次期首相の有力候補達を重
要閣僚・党三役に起用し、「保泉改革を引き継いでくれる人」を見極めるとして後継
を争わせた。

しかし、結局、一年前の総選挙で関西地区から東京の選挙区に鞍替えして、造反議員
の斬り込み隊長格を破ったマドンナ的存在の外務大臣尾池るり子が、後継指名され
た。

野党民友党の中原党首が40代前半という若さのため、それに対抗するためには女し
かないという発想の前に、ベテランの浅井次郎、若手タカ派の加辺金蔵等も従わざる
を得なかった。
もっともこの頃には、あらゆる事について、保泉に意見しようとする者は皆無になっ
ていたが。
保泉は、総選挙で初当選したいわゆる保泉チルドレン、出身派閥の堀派、連立を組む
公民党を権力基盤として実質上の院政を敷いた。

ここで、保泉・尾池政権で、郵政、憲法以外のテーマがどうなっているか見てみよ
う。
年金については、連立を組む公民党の主導で、負担と給付を再度見直した「200年
安心プラン」が成立した。
前回の「100年安心プラン」に、既に決まっていた基礎年金への国費支出割合1/
2化、厚生年金と共済年金の5年後の統一化の他、出生率調査に基づき給付を下げ、
保険料を上げた以外は前回のものと変わらないものだった。

消費税については、保泉退陣後の平成19年から、年2%づつ増税し当面10%まで
上げる事が決まった。
当初は、年金資金に全額使う目的税にしようという案があったが、政民等の案との差
別化を図るためと、財務省の強力な抵抗により一般財源として財政赤字の穴埋めに使
われる事となった。
所得税の定額減税と諸控除は廃止され、一般のサラリーマンの手取額は大幅に減っ
た。

個人情報保護法の強化により、公人に対する報道が実質的に規制されるようになり、
また人権擁護法の成立により、隣人が相互に監視する体制が出来あがりつつあった。
国民は、日常生活でも口を噤み勝ちになり、社会の空気は淀んだものとなった。

◆第6章 200×年、イラン攻撃
200×年、米国とイスラエルは、イランの頑なな核の「平和利用」研究続行の態度
に核兵器開発の危険があるとして、電撃的にイランの核施設を攻撃し破壊した。
イランは、米国に戦線布告したが、米空軍の精密爆撃により首都テヘランの主要施設
が破壊され、政府は機能停止に追い込まれた。

国連安保理は、全会一致で米国への非難決議を採択。
米国とイギリス、加えて非常任理事国の日本は欠席し、「国連はイランの核開発の脅
威について全く機能していない。我々は真に責任感のある有志によって新たな国際組
織を構築する準備がある。」と共同声明を発表した。

この頃、日本国憲法は、与党案の通り改正されており、集団的自衛権は安全保障基本
法に定められた解釈によって実質的には制限なく行使可能であるとされていた。
日本は、イージス艦2隻を始め、海上警戒と兵站のためにペルシャ湾沖に艦隊を派遣
した。

今回のイラン攻撃は、2003年のイラク戦争の続編と言える。
イラク戦争を定義付ければ、9・11同時多発テロを機に、米国が大量破壊兵器拡散
への恐怖心を煽り米国民の支持を取り付け、中東民主化を旗印に、石油ドル決済体制
を揺るがすサダムフセイン退治と軍事、復興利権獲得、EU・中国・ロシア・インド
等の勃興に対し石油資源を押さえる事による覇権の維持のために始めた戦争である。

このように、イラク戦争の性格は中東民主化の大義と米国の恣意性が表裏一体で綯い
交ぜになったものであり、今回のイラン攻撃も米国の唱える「拡大中東構想」と呼ば
れる中東強制民主化の一環の中にあると言えた。

9・11を基にした大量破壊兵器への恐怖心、イラク戦争、石油利権等、中東民主化
の大義、そして拡大中東構想は、昭和初頭から20年までの日本の行動と似ている。
即ち、それぞれは、満鉄爆破、満州事変、市場と石油の確保、アジア解放の大義、そ
して大東亜共栄圏に該当する。

大東亜戦争は、大きな傷跡を残しながら、結果的にアジアの欧米植民地からの解放を
もたらして、当事者の日本は敗退した。
今回の米国の戦争も、中東に結果的に反米ナショナリズムを伴う民主化をもたらし
て、米国の衰退の序曲となるのか。

果して、歴史は繰り返すようだった。
国連安保理の非難決議に続き、国連総会、アラブ諸国、イスラム諸国から続々と非難
声明が発せられた。
これに触発され、米国内、イギリスでも反戦デモが行われた。
反戦デモは、米国の保守層中でも草の根保守と言われる古くからの保守層にも広がっ
た。
決定的だったのは、在郷軍人会の全国組織が「大義なき戦争で兵士達を殺すな。」と
声明を発表した事だ。ここに至って、米政府は戦争継続が不可能になった。
米軍は、地上部隊を投入する前にイランと停戦協定を結び撤収を開始した。
米国の威信は地に落ちた。

◆第7章 米国の失墜と日本の政変
米国の威信失墜は、経済、財政に波及した。
長期金利が上昇し、米国債の価額は大幅に下落した。
とうとう、イラク戦争、イラン攻撃の戦費を含む巨大な財政赤字をファイナンス出来
なくなり、米政府は国債償還のリスケジュールを発表した。
30年国債は40年後の返済となり、日本の郵貯・簡保資金が購入した60年債は9
0年後の返済となった。
また、その間の利息は低く押さえられたため、国債の時価は大幅に下落した。
日本だけでなく、諸外国政府と投資機関、米国民も富を減価させた事は確かである
が、60年債を買っていた郵貯・簡保資金は事更損失が大きく、資産は半減する事と
なった。

ここに来て、大人しい日本人も流石に怒りを露にし始めた。
全国の郵貯・簡保新会社の窓口には、預金者と加入者が殺到した。
国会と財務省、総務省は、デモ隊で囲まれた。

尾池るり子首相は、退陣と共に国会議員を辞職する事を表明。
内閣総辞職の後、暫定内閣が組織され、その半年後に痛烈な反省と一からの出直し、
危機に当たって国民の結束を呼びかけ、解散総選挙を行った。

結果は、米国との全面的な関係見直しと対等な同盟関係を目指す「戦略的親米路線」
と「ナショナルミニマムを伴う自立社会」の構築を謳った、野党第1党の民友党が勝
利した。

◆終章 嵐の後
経済誌の若手記者の才田年男は、米国のハーバード大学に松中米助を尋ねた。

松中はここで、経済学部で教授となり、公共経済学と国際金融論を教えていた。
キャンパスの広い芝生の周辺に所々菩提樹が植えてある。そのベンチの一つに松中が
一人で座っていた。
背中が少し丸くなり、白髪はかなり増えていた。
もっとも、米国では黒髪の日本人社会とは違いグレーの髪はエルダーの象徴ではなく
別段染める習慣はない。

「松中さんですか。」
「あなたは、どなたです。取材なら全て大学事務局を通してもらう事になっています
が。」
「申し遅れました。大道経済の才田と言うものです。事務局の方に聞いて来たので
す。お話を聞かせてください。」
才田は、名刺を差出した。
「今更、私に話を聞いて何をしようと言うんですか。ああいう事になって当初は私も
日本のメディアの集中放火を浴びました。しかし、もうそれから2年が経ってい
る。」
「確かにあなたが大臣を辞任し、この地に逃れて来て、、、失礼。」
「いや、その通りだよ。」
「マスコミはあなたの事を売国奴とまで言って叩いた。」

「だが、私はよりリターンが多く、株式や途上国の債務よりは安全な米国年金債に投
資した事は今でも当時の判断としては間違っていなかったと思ってる。」
「あなたには、米国がイラク戦争を始めとして、強引な政策を続ける中で早晩行き詰
まるという感覚は全く無かったのですか。」
「それは、当時の日本人の中に分かっていた人間が果たして何人いたかという問題だ
よ。」
「でも、あなたは少なくとも政治家であり指導者だったでしょう。」
「政治家も結局は、民衆の支持を受けられなければ発言の機会が無く何も出来ない。
それはエコノミストの世界も同じだよ。」

「私は、日本の大学を出て政府系銀行に入り、そこでは決して成功者ではなかった。
こちらに来て初めてチャンスを掴んだ人間だよ。そういった人間に米国が破綻するな
んて発想が出来る訳が無いじゃないか。それは自己否定につながる。」

沈黙が続いた。松中がそれを破った。
「ところで、最近、保泉さんのニュースを聞かないが、どうしているか教えて欲し
い。」
「保泉さんは、しばらく議員をしていましたが、今では政界を完全に引退し自ら風狂
老人と称し歌舞伎とオペラ三昧に更けています。実は一度引退した保泉さんを訪ねた
事があるんです。」
「・・・・・」
「リタイア後の趣味と生活という他愛ない特集の取材でしたが、是非聞かなければと
思い、機を見てオフレコで郵政民営化で結果として多くの国民が財産を減らした事に
ついて聞いて見たんです。」
「それで、」
「暫く下を向いて沈黙が続きましたが、やがて土気色に変色した顔を上げると今まで
聞いた事のない低いドスの効いた声で、『それがどうした!』と一喝されました。」
「はっはは。」
「あの時程、人と話していて恐いと感じた事はありません。」
「我々は神では無い。時代時代で国民が求める指導者が出るものだとしか言い様がな
い。さあ、もう次の授業が始まる。」
「そうですか。どうもお時間を取らせました。」

才田は、ハーバードの正門に向かって歩きながら考えていた。
確かに、指導者を選ぶ民衆の限界、指導者自身の資質、バックボーンから来る限界と
いうものはあるだろう。
しかし、保泉や松中には指導者として決定的に欠落したものがある。
それは端的に言えば、指導者としての自己犠牲の精神ではないか。
「先憂後楽」という言葉がある。天下の事について民に先んじて憂え、民の誰よりも
後に楽しむのが国を治める者の在り方だという中国の古典に出てくる言葉である。

才田は、ハーバードの白い建物を振り返った。
国際社会は、国益と国益のぶつかり合いである。
しかし、国を超えた大義に沿わない国益は、やがて現実の壁の前に屈する事になる。
それは、卑近な言葉で言えば、無理が通れば道理が通らないという事だ。
日本は、敗戦で何もかも失い、国の誇りと国家の背骨も失った。
そして、今回の米国債下落によって再び財産を減らし、漸く国益に目覚めた所だ。
日本は、今後健全に発展して行けるだろうか。試行錯誤の長い道のりが待っているの
だろう。
強い風の中、掲揚台には星条旗がはためいていた。
才田は、再び正門に向かって歩き出した。(了)


※この小説はフィクションであり、登場する人物、団体、またその行為、言動につい
ては断りの無い限り全て架空のものであり、実在するものとは一切関係ありません。

 

 

□■ 民主大敗の原因 ■□

各位
                             2005 911
                                 佐藤鴻全

民主党が大敗したのは、結局、岡田代表に政権を担う覚悟と自信が無かったからだろ
う。

上目遣いでカメラに向かい、覇気の無い声で唸る「日本を諦めない。」と言う消極的
で意味不明なコピー。

中盤、年金と子育てに絞って、せっかく郵政とのシングルーイッシュー対決の機運が
出てきたのに、終盤少なくともマスコミでのコメントではまた抽象論に戻ってしま
う。

岡田氏は、深層心理で首相になる事を恐れているとしか思えない。
失敗できない環境を歩んで来た、御曹司で秀才でエリートの限界だろう。
同時に、執行部内に客観的な全体の戦略を立案し実行出来る者が不在であったと言え
る。

政治とは、詰まる所、政策と理念の実現である。
そのためには、勝たなければ意味がない。

                                   以上



●今こそ、信長を気取る今川義元を討ち取れ!● (2005/ 9/11

各地で雨が降ってきた。
絶対に勝ち目のない戦いと見られているが、勝機は敵の油断にこそ隠れている。
勝敗は、天の時、地の利、人の和。
万に一つの勝機に掛けるべし。

真に国を憂う心ある現代の武士(もののふ)達よ、
雨と闇に紛れ、今こそ信長を気取る今川義元を討ち取れ!

http://society3.2ch.net/test/read.cgi/giin/1126426020/l50

佐藤総研



■あの人が いいねと君が言ったから 9・11は独裁記念日 (2005/ 9/11

本文なし



□■そして「改革」は進む。アメリカと官僚のための■□

各位
                             2005 911
                                 佐藤鴻全

かくて、
アメリカと官僚の、アメリカと官僚による、アメリカと官僚のための改革が加速して
行く。

Of the America and bureaucrats, By the America and bureaucrats, For the
America and bureaucrats!

                                   以上



□■ 圧勝の勢い 独裁が近付いている ■□

各位
                             2005 910
                                 佐藤鴻全

趨勢は、ほぼ固まりつつある。

権力の座につくと、ヒトラーは、すぐさま独裁者としての地位をかためた。
1933
年の国会選挙でナチス党は圧勝した。
そして、事実上国会は無力化する。
      ・
      ・

ヒトラーは強烈なカリスマ性をもち、憎悪と暴力によって多くのドイツ人の支持をえ
て権力の座に到達した。彼の行動は破壊的であり、彼が制定し建設したもので、後世
にのこすべきものはなにもない。しかし、彼が権力を掌握した過程を分析すること
は、全体主義国家がどのような条件のもとで、またどのようにして生まれるのかにつ
いて、有益な情報をあたえている。

                                   以上



□■ 先ず官僚政治をぶっ壊せ 改革の本質とは何か ■□

各位
                             2005 9 9
                                 佐藤鴻全

先ず、ぶっ壊すのは、現在の官僚支配体制でなければならない。
官僚に支配され、官僚の書いたシナリオ・作文・法案通りの改革であれば、いかなる
改革であろうとも実質的に官が肥大化し、省益、天下りが増えるだけである。

官僚従属政治をぶっ壊さなければ、他の何をぶっ壊してもまやかしにすぎない。

改革には、基礎となる確固たる将来的な国家像、国のかたち、つまり改革の背骨が必
要である。

筆者は、「ナショナルミニマムを伴った自立社会」が目指すべき日本の国のかたちと
して相応しいと考える。
この実現が、国民に一定の安心を提供すると共にある種の覚悟を促し、日本を調和あ
る発展に導くと考える。

即ち、国民生活全般について、ナショナルミニマムとして最低限保障される範囲と、
市場原理、自己責任に従うべき範囲に分け、その基準を先ず明確化すべきである。
これを背骨として、年金・介護・医療の社会保障全般、公的規制、行政機構、特殊法
人、道路等のインフラ整備、郵政、教育、地方分権等を含む諸分野の中身を大胆に切
り分けて行く事が、改革の本質に他ならない。

先ず、官僚従属体制を破壊せよ。
真の改革は、そこからしか始まらない。

                                   以上



□■ 郵政新会社は、官僚天下り天国となる ■□: 『週刊金曜日』 No.575 2005/9/30号掲載)

各位
                             2005 9 7
                                 佐藤鴻全



先の国会に提出された郵政民営化法案を、総務省、財務省の官僚の大半が表面だけで
なく内心でも歓迎しているという。

これは、今回の法案が民営化しても政府の強力なコントロール下にある中途半端なも
のであり、分割、業務拡大による肥大化により逆に天下りポストが数倍増するからで
ある。

その是非は別として、将来への不安を抱く郵便局員が民営化に反対するのはある意味
自然で分からなくもない。

しかし、中央省庁の高級官僚が反対せずむしろ歓迎しているのは、いかにも不自然で
ある。
彼等は、本来そうあって欲しいものの、省益や私益を犠牲にしても国益を目指す、そ
んな崇高な理念の持ち主だっただろうか。
大変残念ながら、現在の多くの官僚はそうではないだろう。

彼らが歓迎するのは、今回の郵政民営化法案が、彼等にとって痛みを伴う改革でない
何よりの証拠である。
そこに大胆にメスを入れた、縮小、廃止、民営化を含む真の郵政改革こそが待たれ
る。

                                   以上

 

 

・年金VS郵政 民主党は焦点を絞り込め

各位
                             2005 831
                                 佐藤鴻全

総選挙戦で民主党が、自民党に大きく引き離され苦戦している。
善し悪しは別にして「郵政民営化のためなら殺されてもいい。」と言って解散に踏み
切った小泉首相の迫力には、到底敵わない。

民主党は、郵政だけじゃないと幅広い政策論争に持ち込もうとしているが、間に合わ
ないだろう。
国民は、個別の政策を吟味している程、閑ではない。敢えて言えば思う以上に単純で
ある。
そして、その傾向は経済情況、生活の厳しさと共に加速している。

シングル・イッシューには、シングル・イッシュー。
民主党は焦点を絞り込み、年金VS郵政の対決を演出し、「年金・郵政選挙」に持ち
込まなければ勝ち目は無い。
広範な政策、国のかたちを語るには、全て年金を糸口にする必要がある。
「郵政民営化をすれば、全てが改善される。」とする自民・公明党との対比もそこで
生まれよう。

また、岡田代表が出演している民主党のCMが酷い。
「日本を諦めない。」
岡田代表がCMの最後に覇気の無い表情で吐くこのキャッチコピーは、誰が考えたの
か。
この消極的な言葉は、国政を担う覚悟を疑わせる。
少なくとも街頭演説では、「日本を変えて行く。」「日本を造る。」のような積極的
な言葉に直ちに切換えるべきだろう。

                                   以上
∞∽∽∽∽∽∽∞∽∽∽∽∽∽∞∽∽∽∽∽∽∞

佐藤 鴻全(会社員)
TEL
佐藤総研 http://www.mag2.com/m/0000102968.htm

 

 

・小沢VS小泉 総選挙の行方 (2005/8/27)

◆小沢の始動
民主党は、副代表小沢一郎の発案で、25日首相小泉純一郎に両党の党首討論の申し
入れを行った。
同夜、小泉は「政党は民主党だけではないから。他の党に失礼でしょう」と記者団に
語り、翌日自民党は文書で正式拒否を回答した。

8日の郵政民営化法案の参院否決を受けた小泉の衆院解散により始まった事実上の選
挙戦は、自民党が造反組へ刺客として著名女性候補の「くノ一」やホリエモンを送り
込み、亀井静香や田中康夫が新党を立ち上げる等一連のワイドショーの好餌となる騒
動がここに来て一段落した。

この騒動の中で、民主党は埋没し、郵政民営化のためなら「殺されてもいい」と言い
切ったと伝えられる小泉率いる自民党は、支持率で民主党を大きく引き離した。
これに危機感を持った小沢は、TV、新聞、雑誌等複数のマスコミに連日登場し、形
勢逆転を図ろうとしている。

両党の党首討論申し入れに対して、小泉の「選挙戦術の一環でしょう。野党は自分た
ちだけだと際立たせたいんでしょう」とのコメントに対し、主要マスコミには同調す
る所が多い。
それを受けながらも、小沢はアメリカ大統領選も泡沫候補抜きに共和・民主両党で何
度も公開討論を行う。それが2大政党制の常識と繰り返し強調し、小泉の逃げの姿勢
を国民に印象付けようとしている。

実際には、郵政民営化で一点突破しようとしている上、年金問題を含め広範で深い政
策論争が得意でない小泉が今後もこの挑発に乗る事はない。
それを百も承知ながら、恐らく小沢は投票日前日までしつこくこれを押して行くつも
りだ。

◆郵政民営化論争
また小沢は、郵政についての自ら属する民主党がマニフェストに書いた政策である公
社制維持、郵貯簡保の規模縮小半減化についても、もっと明確に郵政の将来像・最終
形を示すべきとの指摘を表明している。

郵政改革については、小泉・竹中の3事業分離民営化、亀井等の現公社制維持・財投
資金の使い方側からの見直し、そして民主党の公社制維持、郵貯簡保の規模縮小半減
化と各々の政策がある。

小泉・竹中案は、郵便事業を2兆円の基金を創設して支えたり、郵貯・簡保を新旧勘
定に分ける等の安全装置がついている。
しかし曖昧さが残り、郵便ネットワークが本当にこんな仕組みで維持されるのか、何
の運用ノウハウもない役人上がりや国益意識の希薄な外部コンサルタント企業等に3
40兆円を任せてしまって外資等に騙し取られかねない不安が常に付き纏う。
また、騙し取られないながらも事業で収益を上げて行く事は至難の技であろう。
しかしながら、一番分かり易く、特殊法人の無駄遣いで業を煮やしている国民の溜飲
を下げ現在もっとも支持される案となっている。

亀井案は、過疎地域の郵便局や低所得者への郵貯・簡保サービスを残すには現状最も
有効である。
しかし、将来市場金利が上昇し国債価額が下落した場合のリスクと、国が補償してい
る財投債を残し使い方側からの見直しだけで本当に特殊法人が健全化するのか、市場
からの自力の資金調達をさせる必要があるのではないかとの疑問への有効な回答が無
い。
地方では一定の支持をされているが、守旧的イメージにより全国的な大きな支持は得
られないだろう。

民主党案は、郵貯・簡保の資金を預入れ限度額引き下げと名寄せによる規模縮小で半
減させる事により、最もスムーズに民間に資金が流出するだろう。
しかし、そのタイミングと進行速度を常に見張ってコントロールして行かないと、こ
の事自体が原因で国債の暴落を招きかねない。
また、資金規模が縮小し収益が減れば公社職員の人員削減、給与水準引き下げは避け
て通れない。これが連合に支援される民主党に本当に行えるのかの疑問が残る。
天下り先の縮小という意味で総務省の官僚が最も嫌う案ともなっているが、小沢が指
摘する様に公社の最終的な姿が示されず、小泉・竹中案に較べて各段に切れが悪く、
国民の支持では大きく引き離されている。

小沢は、私案と断りながらも郵便事業の公営維持、郵貯・簡保の段階的廃止もしくは
大幅に規模縮小した上での民営化を掲げる。
恐らく、これが小泉・竹中案に唯一対抗できる切れ味を持っているだろう。

なお、筆者は、小沢案に加え郵貯・簡保の廃止と同時に、低所得者や過疎対策として
極く限定された同様のサービスを別途立ち上げ民間に委託し公費で補助する等の仕組
みが必要だと考えるが、これは余談である。

◆9・11の対決
小沢は、投票日までの短い期間にも小泉を追い詰めるために二の矢、三の矢を次々に
繰り出してくるだろう。
小泉には、歌舞伎やオペラで培った外連味と華がある。
一言居士的に一途な姿勢を演出し、一刀両断的な短い言葉で国民とマスコミを惹き付
け流れを作り出す力は永田町で頭抜けており、一種政局の天才である。
また、一言で政敵に打撃を与え葬り去る技術は、政界の狙撃手と言うのに相応しい。
敢えて言えば、同様の能力を持った政治家に野中広務がいたが、対立する小泉の前に
敗れ去り既に政界を去った。
小泉は、言わば孤高の剣術家や芸術家タイプと言える。

これに対して、小沢の行動パターンは、得意とする趣味の囲碁のように方々から手を
回し、敵の外堀を埋めて行くような地道な手を打つ事を基本とする一方、一転閃きに
より軍配一つで戦術を切り替え、あるいは敵を欺くに先ず味方を欺き少数側近にだけ
作戦を知らせ鬼面人を驚かす奇襲を掛けたり、敵を籠絡分断して一方と結んだりする
所にある。
恐らく本人は、良くも悪くも戦国武将のようなノリで政局を作ろうとしている。
と同時に、「国連至上主義者」と揶揄されるような理想主義者的な面と上述の超現実
主義者の面が同居している所に小沢の最大の特徴がある。

亀井静香の新党と田中康夫の新党立ち上げにも、小沢が深く関わっていると一般から
見られている。
筆者は、先日TVで亀井が「政治の要諦は理念と政策」と言っているのを聞いた。何
の変哲の無い言葉だが、これは小沢が最も敏感に反応する言葉の一つだ。
新党立ち上げについてはともかく、選挙後の政局について二人は完全に平仄を合わせ
ていると見て良いだろう。

小沢は、ここ2、3年のうちに国際情勢とそれを受けた内政で大きな変化があると見
ている。
ある筋によると、少し前に小沢は東アジア情勢を分析して、中国大陸で起こるであろ
う分裂状況を前提に「国連待機軍として日本が中国大陸の混乱を収める時の首相で居
たい」と言ったという。
信憑性は不明だが、この発言はその是非を含め注目に値する。

9・11の総選挙投票日は目前に迫った。
ワイドショー的な視点を離れ、明日の日本の国益と世界の行方に関して、小泉率いる
自民・公明党連合が相応しいのか、小沢が結集を目論む民主党始めとする勢力が相応
しいのか国民、マスコミ、識者は重い選択を迫られる。
(敬称略)

 

 

・総選挙は「国のかたち」を問え (2005/8/14『月刊 世相』 2005 9月号掲載)

衆議院が解散され、9・11の投票日に向け事実上の選挙戦に突入した。

小泉首相は、郵政民営化に争点を搾り込む戦略に出ている。
郵政民営化について、筆者は必ずしも反対ではない。
しかし、国民のナショナルミニマムのレベルについてコンセンサスが出来ておらず、
かつ国民の資産340兆円が何の投資ノウハウもない元役人や国益に無関心な素性の
怪しいコンサルタントの手に任せられ、気が付けば外国籍になり兼ねない今回の性急
な民営化法案には、筆者は反対の立場を取る者である。

また、流動化する国際情勢と山積する内外の諸問題を考えれば、総選挙では郵政に矮
小化する事無く、将来的な国のかたち、社会の姿が大きく問われ無ければならない。

◆内政における国のかたち
一連の小泉改革を振り返ってみると、曖昧な独立行政法人を作り逆に天下りポストが
増え焼け太りした特殊法人改革、採算の合う道路は有料で合わない道路は無料となる
倒錯した道路公団改革、百年持つとの官僚の作文が冠されているが誰が見ても数字合
わせの応急措置に過ぎない年金改革、教員の人件費を国の負担から外し教育の致命的
な地域間格差を招く三位一体改革、異常な米国債買支えを伴う円安効果により辛うじ
て凌ぐ経済金融政策、そして今回の郵政民営化等、中身を見れば逆行したり、或は単
純な切り捨てに徹したものばかりである。

小泉構造改革には、改革という看板はある。
しかし、漠然と米国型の市場原理社会を目指しているようではあるが、改革の基礎と
なる確固たる将来的な国家像、国のかたち、つまり改革の背骨が無い。

筆者は、「ナショナルミニマムを伴った自立社会」が目指すべき日本の国のかたちと
して相応しいと考える。
即ち、国民生活全般について、ナショナルミニマムとして最低限保障される範囲と、
市場原理、自己責任に従うべき範囲に分け、その基準を先ず明確化すべきである。
これを背骨として、年金・介護・医療の社会保障全般、公的規制、行政機構、特殊法
人、道路等のインフラ整備、郵政、教育、地方分権等を含む諸分野の中身を大胆に切
り分けて行く事が、改革の本質であろう。
この実行が、国民に一定の安心を提供すると共にある種の覚悟を促し、日本を調和あ
る発展に導くと考える。

◆外交・防衛の基本戦略
外交・防衛については、小泉政権になってから特に顕著となったが、日本は完全に米
国追従で主体性を持っていない。
先ず、我が国と世界を取り巻く情況と趨勢を認識する必要があるが、筆者は以下のよ
うに整理している。
(1)
北朝鮮の暴発可能性、中国の軍事力増強等の東アジアの不安定要素の増大
(2)
EU、中国、インド、ロシア、ブラジル等の勃興による中長期的な米国の相対的
衰退と一国支配の終焉、それに伴う世界の多極化と世界各地の地域紛争やテロの増加
(3)
上記に歯止めを掛けるべく行われる、イラク戦争のような米国の単独行動傾向の
増大

これを受けて、日本が採るべき基本戦略は次のようなものでなければならない。
(1)
日本は、米国と共同してその力を使うと共に、国際社会なかんずくアジア諸国を
味方に付け、中国等を囲い込み民主化等によりその牙を抜くべきである。
(2)
日本は、再びアジアのリーダーを目指すべきである。
ただし、今回は武力に拠らず、周囲から推される形でなければならない。
(3)
日本は、やがて来る米国の衰退と多極化世界に向けて、新しい世界秩序建設を模
索しなければならない。

具体的には、先ず、日本は防衛力を強化し米国への過度の依存から脱却し、自主防衛
を進める共に、常任理事国に加わり、安保理が決議した場合の集団安全保障では武力
行使、部隊の供出等に積極的に協力する事は不可欠となる。
このためには、憲法改正も視野に入れるべきだが、イラク戦争のような米国の戦争に
自動参戦させられないように、集団安全保障と集団的自衛権を書き分けた上で、集団
的自衛権の適用条件を明記して置くべきであろう。

以上、大掴みに摘まみ食い的ながら筆者の考えを述べてきた。
総選挙は、自民・公明党、自民党郵政造反組、民主党の三つ巴の戦いの様相を帯びて
きたが、明確な国のかたちを示せた勢力が勝利を得るだろうし、またそうでなければ
ならない。
言論人、マスコミ、国民もその資質と責任を問われている。

 

 

・再修正で参院通過へ 郵政茶番のシナリオ (2005/7/9『SAPIO』 2005810日号掲載)

郵政民営化法案は、7月5日に僅差で衆院本会議を通過して参院に送られた。
参院は自民党から18人が反対に回れば否決となり、衆院以上に熾烈な戦いが行われ
る。
政治闘争は言わば、政治生命を掛けた戦(いくさ)である。
小泉首相は、懲罰や衆院解散や公認取り消し等のムチや、ポスト約束の釣り等のアメ
をちらつかせて反対派の切り崩しを図っている。
恐らく、スキャンダルネタを掴み脅しを掛ける等の「裏技」も使うのだろう。

今後の展開を予想してみたい。
公明党とその巨大支援団体は、都議選直後で身動きが取れず、小泉首相の衆院解散を
許可する事はない。
万が一、それを振切って解散した場合も、参院の法案否決で衆院を解散する事は誰が
考えても倒錯した世界であり、首相の狂気を演出する分には良いかもしれないが自民
党は選挙を戦えない。
従って、実際には首相に解散の選択肢はない。

反対派切り崩しが上手く行かない場合、残された可能性として継続審議があるが、事
実上の政治的敗北となり今後求心力を失うため首相は選択しないだろう。
すると、残るのは会期末直前の法案再修正での参院可決となる。
現在、執行部は再修正はしない方針だが、首相のこれまでの行動パターンから言っ
て、これで落ち着くと観られる。

旧くは、消費税導入が焦点となった衆院選で、消費税は良い税で反対する国民が間
違っていると言わんばかりの態度だった当時の小泉議員は、投票日の前々日辺りから
ガラリと態度を変えお願い口調で政見放送をおこなった。因みにこの時最後まで態度
を変えなかった山中貞則は落選した。
また、8月15日を直前の13日に代えて行った就任後最初の靖国神社参拝等、直前
回避は首相の行動の特徴の一つである。

恐らくは、道路公団民営化のように反対派の顔を立てると共に、一方で法案成立の成
果を強調できるような微妙な再修正を行い、首相は内側と外側の2つの顔を使い分け
る事になるだろう。
これら自体は妥協の芸術と言われる政治のテクニックの一つであり、筆者は非を唱え
る者ではない。

しかし、将来的な国のかたち、社会の姿が論じられず、国民のナショナルミニマムの
レベルについてコンセンサスが出来ておらず、かつ国民の資産340兆円が何の投資
ノウハウもない元役人や国益に無関心な素性の怪しいコンサルタントの手に任せら
れ、気が付けば外国籍になり兼ねない今回の性急な民営化法案には、筆者は反対の立
場を取る者である。

国民、言論人、マスコミの冷静公平なジャッジの下に、議員諸氏が法案賛否に関わら
ず、国民の長期的利益を念頭に信念に基づく責任ある行動を取る事を期したい。

 

 

■公明の許可なく解散はないだろう。本日の郵政本会議採決

各位
                             2005 7 5
                                 佐藤鴻全

都議選直後で選挙準備が全く出来ていない公明党が衆院解散に諾と言うはずはなく、
従って本日の衆院本会議で郵政民営化法案が仮に否決されても小泉首相が解散を打つ
事は有り得ないだろう。

有権者が注視している。
各議員におかれては、雑音を恐れず信念に基づいた投票行動を取られたい。

                                   以上

 

 

・公明推薦拒否発言で反対派総崩れへ 郵政民営化法案採決 (2005/7/2)

郵政民営化法案採決へ向け、「小泉首相VS反対派」の多数派工作が最終局面に入っ
た。

首相の「否決されたら解散」発言とリンクして、公明党幹部から6月上旬の神崎代表
に続き「次期衆院選、参院選で推薦は難しくなる」との発言がこの時期に改めてなさ
れた。

公明党の従来からのスタンスからすると、弱者切り捨てに繋がりかねない郵政民営化
には少なくとも積極的に賛成する類のものではないはずである。
しかし、既に連立維持のために首相に協力して賛成する事で意見を纏め巨大支援組織
への説明もしており、今更自民党内の造反によって否決となることは組織維持および
面子の上でも到底受け入れられないという事情があるのだろう。
ましてや、万が一この時期に法案不成立→解散ともなれば、準備の面で全く間に合わ
ない。

さて、公明党内の事情はさて置き、郵政民営化反対派議員の選挙区事情を観れば、自
公連立を組んで以来、小選挙区制の下で公明党と支援組織の協力なしに勝てる自民党
議員は少ない。
特に自前の後援会組織が弱い若手においてこの傾向が強く、今回の公明推薦拒否発言
で大きく切り崩されるだろう。
一方で、特定郵便局長らの支援も失いたくないという板挟みに遭いながら、反対派議
員は両方の顔を立てて採決に欠席という事でお茶を濁す者が大半になると予想され
る。

郵政民営化の是非はともかく、賛成反対に関わらず己が政治信条に沿った行動を貫い
て欲しいものだが、議員も人の子、背に腹は代えられぬ。
その功罪是非の判は、各選挙区の有権者が下す以外にはない。

‐参考‐
■<郵政法案>自民造反議員「推薦難しい」 公明国対委員長
 公明党の東国対委員長は1日、郵政民営化関連6法案の採決で自民党議員が造反し
た場合の対応について「次期衆院選、参院選で推薦は難しくなる」と述べ、反対派を
強くけん制した。国会内で記者団に語った。自民党は先月30日夜、中川国対委員長
が公明党の冬柴幹事長に、反対派の説得協力を要請。冬柴氏は協力を約束した。
(毎日新聞) - 712056分更新

 

 

・歴史認識問題は、アジア諸国を味方に付けよ (2005/5/30)

中国の呉儀副首相が23日、小泉純一郎首相との会談を土壇場でキャンセルして帰国
した。
暴力デモ等の中国政府・民間の反日行動は、国際的非難を受けて一先ず収まったと思
われたが、これを受けて日中関係は再び緊張度を高めた。

今回の中国の行動は、外交常識からいって礼を失した行動であり、どんな理由を付け
ようとも、非難されて然るべきである。
この背景には、領土領海問題等々でのこれまでの日本の弱腰に付け込まれている面が
あり、それに対し一貫した毅然とした態度が不可欠である。

しかし、直接的には中国政府は直前の小泉首相等の靖国参拝問題についての発言が原
因としている。

◆歴史認識と外交的勝利
この靖国参拝問題については、国益を考えれば外交的に勝利をもたらす形で決着を付
けなければならない。

その要件は、次の3点である。
(1)
日本が、威信を傷つけられる事のないようにする事。
(2)
国際社会、なかんずくアジア諸国を納得させ、味方に付ける事。
(3)
可能ならば中国・韓国の理解を得て、日本非難の材料を与えない事。

歴史問題について、「とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与え」
た事に対して、「痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたしま
す。」とした村山談話は、妥当なものである。

だが、日本が関わった一連の戦争が、帝国主義列強による植民地争奪戦の弱肉強食の
ルールに加わって行われた側面が述べられておらず、歴史的な背景の中での位置付け
を欠いている。
それが、日本人の中に少なからぬ違和感を抱かせると共に、何回謝罪してもアジア諸
国に表面的な反省としか受けとめられない背景となっている。
なお、敢えて対外的に述べる必要はないが、日本の侵攻と敗退が結果として欧米のア
ジア植民地支配を終わらせた側面は、日本人が歴史認識として持って置くべきであろ
う。

◆具体的方策
具体的には、ともすれば自虐と無反省の両極に引き裂かれ、双方の間を彷徨い寄る辺
なき日本人の歴史認識を整理し、健全妥当なものに方向付ける事が必要である。
このためには、道は遠くとも良識ある言論人からの多くの発言が待たれる。

また、その歴史観に基づき、帝国主義列強による弱肉強食のルールに加わった事を含
めた反省の表明により、アジア諸国のより深い理解を得るとともに、欧米諸国を牽制
し外野席的な無責任な発言を封じ、中国・韓国の囲い込みを図るべきである。

併せて、靖国参拝問題については、戦争犠牲者に対する慰霊であって、A級戦犯の行
為と先の戦争の開戦を正統化するものでない事を真摯に繰り返し説明し、中韓を含む
アジア諸国の理解を得るべく努めるべきである。

これらにより、(1)日本が、威信を傷つけられる事のないようにする事、(2)国際社
会、なかんずくアジア諸国を納得させ、味方に付ける事、を達成する事は外交的勝利
のための必須条件である。

その上で、中韓両国の完全な理解を得られなくとも、実際に総理大臣が参拝するべき
かどうかは、両国との関係、両国内の情況、国際世論の動向を見極めて、国益を賭し
て総理自身が判断すべき問題である。

小泉首相には、国際社会の笑いものにならぬよう、これまでのように参拝日をずらす
等、姑息な対応をせずに、行くにせよ行かぬにせよ歴史観と戦略性を伴った行動が必
要である。

■追記 (2005/6/1)
上記の拙文に対し、ある人から2点質問された。

◆中韓は歴史カードとして靖国問題を使っているのであり、理解や説得の問題ではな
 い、という考え方もある事についてどう考えるか。

◆「囲い込み」とは、具体的に何をどうする事なのか。
 自由民主主義と健全な市場経済を持たない中韓よりも、それらを共有する欧米や他
 のアジア諸国との連帯を重視する考えに対しては、どう主張するのか。

まず一点目については、歴史カードとして使っている要素も勿論あるが、感情から出
ている部分もある。
また、自ら種を蒔いたにせよ、国民を押さえるために言わざるを得なくなっている面
もある。
山拓議員が示した「知恵を出し合った解決」では、例えば参拝後に小泉首相がA級戦
犯に礼拝したものではない旨のコメントを出す妥協案も模索された模様。
納得させられないまでも、形式的な非難声明を出すに止めさせる等、ある程度の説得
は可能性ありと筆者には思われる。
国益を考えれば、敢えて決定的な亀裂を生じさせる必要はない。

二点目については、ここで使った「囲い込み」とは歴史問題で国際世論、なかんずく
アジアの世論を日本の味方に付け、二国を孤立化させる事。
孤立化させれば、ある程度折れて来る。
折れて来なければ、その異質性からやがて経済関係でも周囲から疎遠にされて来る
し、日本がそう仕向けるべき。

韓国は、民主主義がこなれていない為に、現在衆愚政治に陥っている。
中国は、やがて自由民主主義と健全な市場経済に向かわざるを得ない。
ハードランディングかソフトランディングかは別として。
しかし、それまで今しばらくは、開発独裁で行く。
欧米や他のアジア諸国との連帯を重視するべきなのは、当然の事。

更に言えば、欧米とアジアの力を使って中国の牙を抜き、歓迎される形でアジアの盟
主となって米国の衰退と多極化世界に備えるのが、我が国の国際戦略のグランドデザ
インであるべきと筆者は考える。

 

 

・北朝鮮 核抜き体制保障は、三方一両得 (2005/5/15)

北朝鮮の核兵器保有への動きが慌しい。
米国政府筋によると、来月にも北朝鮮は核実験を行う可能性が高いという。
北朝鮮は、中国を交え、米国と体制維持を掛けてギリギリの駆け引きを始めた。
今後の可能性として、次のオプションが考えられる。

(1)
米国による先制攻撃
(2)
金正日暗殺・革命等による体制崩壊
(3)
金正日亡命
(4)
制裁に向けた核問題の安保理付託
(5)
米国による体制保障・非核化
(6)
現状のまま核保有

この中で、我が国にとって一番危険なのは、(6)の現状のまま核保有だろう。(1)の米
国による先制攻撃、(2)の金正日暗殺・革命等による体制崩壊は、連鎖して予期せぬ
事態を引き起こし兼ねなく、我が国にとってもリスクが高い。
(3)
の金正日亡命が一番望ましいが、たとえ米国と中国が共同して圧力を掛けたとし
ても金正日が飲む可能性が低い。

(5)
の米国による体制保障・非核化が、我が国の外、米国、中国、北朝鮮にとって一
番現実的な落とし所だろう。

体制維持のままでは、可能性から言えば最大200人から400人とも言われる日本
人拉致被害者の帰国は難しいとも考えられるが、北朝鮮に過度に譲歩した平壌宣言を
基にした小泉政権とその後継政権の対応では、元々これだけの数の拉致被害の可能性
のある行方不明者の調査すら期待できないので、実質この面での体制維持のデメリッ
トは無いだろう。

金正日にとって、リビアのカダフィー政権のように体制維持の上、国際社会に入場す
る事は、それによる経済的なメリットを有効に利用するなら軍事的緊張による国内引
き締めを代替するものになり得る。

米国にとっては、イラクと違い石油の出ない北朝鮮で先制攻撃を行う事はメリットに
乏しく、少なくとも手一杯の中東を制し余裕が出るまではやりたくないというのが本
音だろう。

中国にとっても、米軍の先制攻撃や体制崩壊による国内への難民雪崩れ込み等のデメ
リットを考えれば、このまま北朝鮮を安定させ、少なくとも将来米国と軍事的に張り
合える国力を付けるまでは、米国との緩衝地帯にして置く事が恐らく最もメリットが
高いと考えているのではないか。

実際には、恐らくは(4)の制裁に向けた核問題の安保理付託を経て、更なるギリギリ
の駆け引きを伴った条件闘争となると思われるが、北朝鮮の十分な査察体制受け入れ
により核兵器保有・核輸出の危険が完全に取り除かれるなら、その方向に我が国が各
国を積極的に誘導して行くべきである。
手を拱いている内に、北朝鮮が核実験・核兵器保有をする事は特に我が国にとって最
悪の事態である。

その上で、北朝鮮の米国による体制保障は、拉致問題のウヤムヤ化を意味しないし、
させてはならない。
核兵器の危険の無い北朝鮮には、経済制裁も発動しやすい。
人権問題で国際世論を喚起し北朝鮮を囲い込んで行く事も含め、拉致問題完全解決へ
向け政府の性根を入れ替えた対応が併せて必要となろう。

 

 

・人間の本質と歴史の行方 (2005/4/11)

今後の歴史は何処へ向かうのか。
歴史を動かす主体である人間の性質から演繹し、考察してみたい。

◆ 人間の本質
人間を動かすのは、欲望である。
また、筆者は、人間の心には発展原理と調和原理が内在し、それが人間存在の中核で
あると考える。
その観点から、次の各説は概ね的を得たものと考えられる。
以降、これらを基に考察を進める。

◇人間は、優越願望と対等願望を持ち、他人からの承認を求める。(G...ヘー
ゲル/F.フクヤマ)
人間は、自分が他人より優れていると他人から認められたい、そのためには命を掛け
ても惜しくないという願望を持つ。
一方、人間は他人と対等であると認められたいという願望も持つ。

◇人間の欲望は、段階的である。(A..マズロー)
人間の欲求はピラミッドのようになっていて、欲求は底辺から始まり、1段階目の欲
求が満たされると、1つ上の欲求を目指す。その内容は、次のようなものである。

1.生理的欲求:生理的体系としての自己を維持しようとする欲求
2.安全・安定性欲求:安全な状況を希求したり、不確実な状況を回避する欲求
3.所属・愛情欲求:集団への所属を希求したり、友情や愛情を希求する欲求
4.尊敬欲求:他人からの尊敬や責任ある地位の希求や、自律に対する欲求
5.自己実現欲求:自己の成長や発展の機会の希求や、独自能力の利用の欲求
6.共同体発展欲求:地域社会や国家、地球全体等、所属共同体の発展を望む欲求

なお、マズローの言う欲求の段階説は個々の人間の成長過程について述べられたもの
だが、筆者はこれらは鳥瞰的に見た人類の歴史の発展過程にもある程度当てはまると
見る。
もちろん、歴史は人間の集団が織り成すものであり、社会の内部は複雑に分かれてお
り、各欲求は各層に分有され、かつ混在する。
また、全体で見ても各欲求は前の時代に先祖帰りする事も頻繁で、個々の人間の成長
過程と重ねるのはかなりの無理な部分もある。

これらの事を踏まえながら、以下に先ず原始から現代に到るまでの人類の歴史を考察
する。

◆ 産業と国家の変遷
狩猟採集社会の段階においては、国家は必要とされず集落の中での役割分担があるだ
けであった。
その社会では、前掲したマズローのいう各段階の欲求はそれぞれに起こりある程度満
たされたが、主なものは「1.生理的欲求」であった。
「2.安全・安定性欲求」は収穫が不安定と意味で、「3.所属・愛情欲求」は共同
体が小規模で限られているという意味で、「4.尊敬欲求」は平等原理が強いと言う
意味で、「5.自己実現欲求」は多様性に乏しいと言う意味で、「6.共同体発展欲
求」は生産に縛られ限定的であるという意味で、中核的なものではなかった。

次の農耕社会の段階で、国家が初めて必要とされるようになる。
即ち軍隊を含む官僚機構を持った政府、領土、国民が、農地の保全、農耕の継続、灌
漑等の土木施設の構築・維持管理、それらの費用を賄うための徴税のために必要とさ
れた。
その社会では収穫の安定と政府の出現により、「2.安全・安定性欲求」が主に満た
されるようになった。

更に工業化社会の段階で、社会の中に高度の技術力、管理能力、言語等の統一性が必
要となる。西ヨーロッパでは、強大な権力を持つ中央政府を頂き、確固たる国境、ア
イデンティティを持った国民を有する近代国家が出現する。
この近代国家が市民革命を経て、ネーション(民族)を基本的単位にしたネーション・
ステート(国民国家)に再編成される。
その社会では、国民としてのアイデンティティにより、主に「3.所属・愛情欲求」
の範囲が拡大した。

◆民主化と自由経済
西ヨーロッパでは、近代国家が市民革命を経て国民国家になる過程で、政治体制は絶
対王制から民主制へ移行した。
また、経済活動は、封建的拘束から解放され自由経済へ向かって行った。
なお、西ヨーロッパ諸国は、帝国主義としてアジア、アフリカなどの非ヨーロッパ世
界に対して植民地化を進めた。
これに対する防衛から日本を代表とする諸国は防衛的な近代化に向かい、上からの急
速な近代国家の形成が図られた。
一旦、植民地化された諸国では、主に第2次世界大戦後の独立戦争により、近代化に
向かった。

急激な自由経済・資本主義による経済格差に伴う失業や貧困等の社会問題が発生し、
これらを解決するものとして、資本主義に対抗する形でマルクスとエンゲルスによっ
て共産主義思想が体系化された。
20世紀初頭にロシアに共産主義革命が起こり、第2次世界大戦後には東ヨーロッ
パ、アジア、アフリカ諸国に社会主義体制が広まった。

資本主義陣営は、福祉政策に社会主義的要素を取り入れる事により、自国に社会主義
政権が生まれる事を防ぎ、開発途上国に経済的・軍事的援助をする事により、社会主
義陣営が広がる事を防いだ。

政治体制においては、民主主義は人々にヘーゲル=フクヤマの言う「対等願望」を満
たすものであった。
経済体制においては、自由経済は人々に「優越願望」を満たす機会を与え、共産主義
・社会主義は人々に「対等願望」を満たす事を目指すものであった。

1990年代に、経済的・軍事的に西側陣営が圧倒的な優位を実現させて勝利し、共
産主義が敗北した事により、冷戦は終了した。
この原因は、根源的には、民主主義と自由経済体制が共産主義・社会主義よりもシス
テムとして優れていた事を意味する。
また、発展原理・競争原理を社会に内在させていた陣営が、社会に調和原理・平等原
理のみを内包していた陣営より生存に適していたと言える。

東西ドイツは統一され、米国は軍事力で一人勝ちとなり、東西対立の終了によって今
まで押さえられてきた米国とイスラムの対立が表舞台に浮上し、湾岸戦争、9・11
米国同時多発テロ、イラク戦争が起きた。
産業では、より高次の欲求を満たすべく、サービス産業、情報産業の比率が一層進ん
だ。
ロシア、東欧、中国等が市場経済を導入し、インド、ブラジル、アジア諸国を含め、
今日その経済成長は著しい。
経済統合と政治統合を進めるEUの台頭により、ユーロは現実的なレベルでドル基軸
通貨体制を脅かすまでになった。

◆ 歴史の行方
最後に、今後の歴史の方向性を、冒頭に掲げここまでの歴史の考察に用いた人間の本
質の観点から予想して見たい。

◇世界で民主化は進むが、ロシア、中国等は開発独裁により経済発展を優先する。
人間の持つ自然の性である「対等願望」「所属・愛情欲求」により、民主化要求はど
の国民間にも必ず噴出する。
しかし、同時に生活レベルを先進国並に引き上げたいという「対等願望」が満たされ
るまでは、ロシア、中国等の非経済先進国政府は、民主制を犠牲にして開発独裁的体
制を続けようとし、国民もある程度はそれを甘受する。

◇先進国では、国内に「優越願望」「対等願望」両立させる国が持続的に繁栄する。
「優越願望」「対等願望」は人間の根源的な願望である以上、この両者を満たさなけ
れば社会の持続的な繁栄は無い。
経済の更なる自由化等により「優越願望」の機会を増やすと同時に、「対等願望」
「安全・安定性欲求」を満たす社会保障等のナショナルミニマムを両立するシステム
を適切かつ構造的に組み上げる国が持続的に繁栄する。
言い換えれば、社会を存立せしめる競争原理と調和原理を同時実現させる国が繁栄す
る。

◇経済での国際競争が激しくなる。また米国等の戦略的な大国は軍事力に頼る。
経済・通商の自由化により、優勝劣敗による生存を掛けた「生理的欲求」「安全・安
定性欲求」、他国と同等の生活レベルを求める「対等願望」、他国より豊かで優れて
いると認められたいという「優越願望」や「尊敬欲求」により、各国間の経済での国
際競争は当然に激しくなる。

また同時に、軍事力において他国に勝る米国・ロシア・中国等の大国意識が強い戦略
的国家には、上記の経済での競争の基礎条件を高めるため、軍事的圧力または軍事力
の行使により資源の確保、自国に有利な通貨体制や貿易圏の維持・実現・拡大を図る
誘惑が強く働く。
即ち、勝てる戦争をする能力があり、勝てる情況が生まれ、例えば民主化の錦の御旗
により国際的非難による倫理的な「尊敬欲求」の毀損も致命的でない程度に押さえら
れるなら、軍事力で優位な戦略的大国はその行使を選択肢に入れる可能性が高い。

◇世界は多極化する。新たなる秩序が必要である。
経済での国際競争が激しくなると、米国が経済面で普通の国になり、即ち相対的に衰
退する事は避けられない。
米国は軍事力の中東等での行使や軍事力を背景にした米国スタンダードルールの押し
付けによりこれに歯止めを掛ける事を図る可能性が高いが、経費面・テロ等の安全保
障面で持続的なシステムとは成り難く、冷戦後続いた米国の一極支配に代って世界は
次第に多極化して行くと見るのが自然である。
筆者は、15年ないし25年の間に米国のヘゲモニーは大きく損なわれていると見
る。

多極化後の世界は、通貨体制・核を含む軍事バランス・安全保障体制等について、新
秩序を必要とする。

各国間の国益についての調整は一層難しくなり、民族・宗教間の対立は激しさを増
し、人間の本質に由来する諸々の願望と欲求が交錯し、新秩序の構築までには曲折が
予想され、場合によれば大量の流血を伴う可能性も高い。
多極化後、新秩序が国家を超えた共同体発展のインフラとして形を得るまで、これら
は産みの苦しみとして不可避であり、世界にとっては諸問題に対しての統合的・思想
的な整理位置付けと地球規模の大義に報いる志が不可欠となると思われる。

 

 

・中曽根憲法改正試案の問題点 −対米追従の回避− (2005/3/13)

自民党の新憲法起草委員会は、4月の取りまとめに向け新憲法草案試案作りの作業を
進めている。
一方、前文に関する小委員会の委員長でもある中曽根元首相の率いる世界平和研究所
は、1月に憲法改正試案を発表した。
中曽根試案は、我が国と国際社会の在り方について全般的な関心を深く持ち続けてき
た政治家のものとして、特に「前文」「天皇」「国民主権」等については傾聴に値す
るものである。

まだ流動的ではあるが、報道された自民党草案の「骨格」を見ると、「安全保障」
「国際協力」等に関しては中曽根試案に近い物になっている。
筆者は、我が国を取り巻く国際情勢の変化に合わせる意味でも、憲法改正を積極的に
進めて行くべきとの立場だが、この項目に関しては少なからぬ異論がある。
以下に中曽根試案の該当項目を見て行く。

◆中曽根改憲試案
「 第三章 安全保障及び国際協力
(戦争放棄、安全保障、防衛軍、国際平和等の活動への参加、文民統制)
第十一条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発
動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段として
は、永久に認めない。
2 日本国は、自らの平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つため、防衛軍をも
つ。
3 日本国は、国際の平和及び安全の維持、並びに人道上の支援のため、国際機関及
び国際協調の枠組みの下での活動に、防衛軍を参加させることができる。
4 防衛軍の指揮監督権は、内閣総理大臣に属する。防衛軍に武力の行使を伴う活動
を命ずる場合には、事前に、時宜によっては事後に、国会の承認を得なければならな
い。」

このように中曽根試案では、集団的自衛権が明記されておらず、安全保障と国際協力
が同一の条文に書かれている所に最大の特徴がある。

現在、日本は、イラク戦争への支持をいち早く表明し、戦後は復興支援のため自衛隊
を派遣している。
イラク戦争支持は、小泉政権が政権維持の後ろ盾としてブッシュ政権と密着し、歴代
政権中最も親米路線を取っている特殊事情を差っ引いても、日本が防衛を米国に大き
く依存している事が背景にある事は否めない。

この日本の現状を考えれば、現在辛うじて内閣法制局による集団的自衛権を行使出来
ないとする現憲法の解釈によって戦闘行為を行わない事になっているが、中曽根試案
では「国際協調」の名の下と、条文に書かれていない集団的自衛権の自在の解釈に
よって、今後中東や東アジアでの無条件で徹底した対米協力に道を開きかねない。

イラク戦争を定義付ければ、米国が大量破壊兵器拡散への恐怖心を煽り米国民の支持
を取り付け、中東民主化を旗印に、石油ドル決済体制を揺るがすサダムフセイン退治
と石油、軍事、復興利権獲得のために始めた戦争である。
このように、イラク戦争の性格は中東民主化の大義と米国の恣意性が表裏一体で綯い
交ぜになったものであり、現時点では第2期ブッシュ政権が国際協調へ進むのか単独
行動へ進むのか明確で無く、その帰趨と歴史的功罪が定まっていない。

◆集団的自衛権の明記
集団的自衛権の行使は、端的に言えば我が国が国際的大義と国益に適うと判断すれば
行い、そうでないなら行わなければよい問題である。
しかし、前述した日米関係の現状を考えれば、筆者は新憲法の中に明記し、その条件
を定義付けて置く必要があると考える。

具体的には、条文の中に集団的自衛権について次の項目を書き加える。
「日本国は、個別的自衛権と並んで集団的自衛権を保持する。
集団的自衛権は、日本国の同盟国に武力攻撃が発生した場合、安全保障理事会が国際
の平和及び安全の維持に必要な措置を取るまでの間、かつ喫緊の必要性がある場合に
限り行使する事を妨げない。具体的には、別途法律で定める。」

中曾根改憲案と自民党案では、集団的自衛権について憲法に織り込まず、憲法解釈に
よって行使可能とし、新たに定める「安全保障基本法(仮称)」によって具体的な適
用の要件や範囲、内容を定める考えのようであるが、憲法の条文にその大枠を示さな
いと、自在の解釈、恣意的な運用に道を開きかねない。
拙案では、国連憲章第51条の条文を基にして、それに「喫緊の必要性がある場合に
限り」という条件を加えた。
米国はイラク戦争を自衛戦争としているが、このような条件を加えて集団的自衛権行
使を制限しないと、同じような情況が起きた場合、日本が武力行使を伴う参戦を拒む
事は難しくなる。

◆国際協力の独立記述
また、国際協力は、安全保障とは別の条文で記述すべきである。
実際の各国の行動では、国際協力による武力行使と集団的自衛権の行使は、必ずしも
明確に区分されているとは言えないが、国連憲章を見ても元々別概念であり、筆者は
今後の複雑化する国際情勢を考えれば明確に区分して置く必要があると考える。

具体的には、第十二条として独立させ、
「第十二条 日本国は、国際の平和及び安全の維持、並びに人道上の支援のため、国
際機関及び国際協調の枠組みの下での活動に積極的に協力する。
2 国際社会の全般的な合意が得られる場合に限り、前項の活動に防衛軍を参加させ
ることを妨げない。
3  防衛軍の指揮監督権等については、前条の定める所に準ずる。」

拙案では、「国際社会の全般的な合意が得られる場合に限り」という制限を加えた上
で、「防衛軍を参加させることを妨げない。」と抑制的表現を使った。

以上述べてきたように、筆者は改憲を機に日本がより米国に従属し、新憲法が米国の
戦争に無条件で付き合う「自動参戦装置」となる事についての強い懸念から、歯止め
策を憲法に織り込む事を主張する。

筆者は、自由経済と民主主義という価値観を共有し、これと異なる中国等を牽制する
米国とは同盟関係を維持強化して行くべきとの基本的立場を取る。
しかし、同時に自主防衛を進め、過度の米国依存から脱却し、外交に主体性を持つべ
きと考える。

筆者は、次の理由から第2次ブッシュ政権は、今後国際協調路線をとらず、なりふり
構わない単独行動で中東制圧に向かう可能性が相当程度あると思える。
1.米国経済は、EU、中国、ロシア、インド、ブラジル等が勃興することにより、
  相対的に衰退する事は避け難い。
2.米国民には、現在の生活水準を落とす事は受け入れ難い。
  これを維持するためには、財政赤字と経常赤字をファイナンスするドル基軸通
  貨体制維持が不可欠である。
3.ドル基軸通貨体制維持のためには、石油ドル決済体制維持が必要であり、圧倒
  的優位を保つ軍事力を利用し中東制圧を図る誘惑が米国に強く働く。
4.中東の石油を押さえれば、石油を輸入に頼る中国の増長を戦わずして制する事
  が出来、一石二鳥である。

中曽根氏は、米国にバランス感覚が働き、行き過ぎた単独行動から国際協調へ回帰す
る事を想定しているようであるが、上記のような理由から筆者にはそれは楽観的過ぎ
る様に思える。

いずれにしても、我が国がより主体性を持ち、正気堂々と真に国際的な大義を体現し
て行動する事こそが、長期的な国益に適う事である。
憲法改正には、この視点が不可欠だろう。

 

 

http://www.asahi-net.or.jp/~EW7K-STU/