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新エンドトキシンの話
New Story of Endotoxin


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カブトガニ



カブトガニ
-目 次-
◆生きた化石カブトガニ
◆東日本大震災で生き残ったカブトガニ
◆インドネシアのカブトガニ
◆リムルステストの開発;医学への応用
◆カブトガニの生きる術:巧まざる感染防御能

◆愛されるカブトガニ



カブトガニリンク


◆生きた化石カブトガニ

カブトガニの先祖は今から4億年前の古生代デボン紀に現れ、3億年前の石炭紀末には1枚の甲羅(後体)をもったユープルプス類があらわれる。2億年前の ジュラ紀の地層からは現在のカブトガニと殆ど見分けのつかない化石が発見されているカブトガニは、太古からその姿や特徴がほとんど変化せずに生き残っているもの、すなわち「生きた化石」と呼ばれる代表的生物である。

カブトガニは節足動物門→鋏角亜門→節口綱→剣尾亜綱→剣尾目のカブトガニ亜目に分類される。鋏角亜門には節口綱のほかクモ、ダニ、サソリなどの蛛形綱が 含まれように、カブトガニはカニ(甲殻亜門)の仲間ではなくむしろクモやサソリなどに近い。

現存するカブトガニには4種ある。アメリカ東海岸にLimulus polyphemus(アメリカカブトガニ、カブトガニに次ぐ大きさ)、日本、中国沿岸にTachypleus tridentatus(カブトガニ、最も大きい)、インド洋沿岸などにT.gigas(ミナミカブトガニ、やや小型)とCarcinoscorpius rotundicauda(マルオカブトガニ、最も小型で尾の断面が丸い)が生息している。

カブトガニは世界の絶滅危惧動物レッドリストのDD(情報不足)に分類され、T. tridentatusは環境省のレッドリストで絶滅危惧I類(CR+EN)【絶滅の危機に瀕している種】に指定されている。岡山県笠岡市、佐賀県伊万里市、愛媛県西条市のカブトガニ繁殖地では天然記念物に指定されている。

2008年秋、日本の海岸でアメリカカブトガニが漁師の網にかかった。アメリカカブトガニは日本でもペットショップやネットで購入できるが、飼育していた 人が捨てた可能性があるという。アメリカカブトガニの繁殖力は強く、こういうことでカブトガニの生態系が崩れることが危惧される。

カブトガニ研究の世界的権威関口晃一先生(筑波大学名誉教授)の書かれたカブトガニの不思議-「生きた化石」は警告する-(岩波新書)は、カブトガニの生物学的記載に加えて環境破壊への警鐘まで訴えている名著である。先生は2012年に92歳で亡くなった。
「日本カブトガニを守る会」の会長、名誉会長で、笠岡市立カブトガニ博物館の建設にも尽力された。20年ほど前東南アジアのカブトガニについてお話をお聞きするためご自宅に伺いしたが、先生は時間を惜しまずカブトガニへの情熱を話された。心からご冥福をお祈りいたします。


◆東日本大震災で生き残ったカブトガニ

2011年3月11日の東日本大震災の津波で岩手県久慈市にある久慈国家石油備蓄基地の地上施設はほぼ壊滅した。幸いなことに地下の備蓄タンクには被害はなく、従業員も全員無事だった。しかし、併設していた
地下水族館『もぐらんぴあ』は全滅し幼生のアメリカカブトガニと数種の魚だけが生き残ったという。さかな君の協力もあってその年の8月に久慈駅前にもぐらんぴあまちなか水族館としてオープンした。そこで生き残ったカブトガニも元気に泳いでいる。

カメラ目線のカブトガニ
2011年11月に訪れたが、カブトガニはでんぐり返しをしたりして子供達の歓声に答えているようだった。
  カメラを向けるとお腹にある眼でこちらをじっと見つめているようだった。


◆インドネシアのカブトガニ

著者らは1990年代、インドネシアのジャカルタ沿岸、スマトラ島、マドゥーラ島などでカブトガニの生息を確認した。

インドネシアのウダヤナ大学(バリ島デンパサール市)で講演した時に、雌を食すると食中毒を起こすことがあるが雄と同時に食すと食中毒を起こさないのは何故かと質問された。カブトガニを食して食中毒おこすことなど全く知らなかったので答えようもなかったが、後で関口晃一先生の本(前出)で、マルオカブトガ ニ(やや小型で尾の断面が丸い)の雌の1割に猛毒があることを日本の研究者が証明したこと知った。但し雌雄を混食すると食中毒が起こらないことの理由はわ からない。

なお、Ha Viet Daomは日本の研究者とともにベトナムのマルオカブトガ ニに高頻度にテトロドトキシンをもつものがいることを突き止めた(Frequent occurrence of the tetrodotoxin-bearing horseshoe crab Carcinoscorpius rotundicauda in Vietnam,, Fisheries Science 75,435-438,2009)。麻痺性貝毒も検出されたが量的にはわずかであった。

テトロドトキシンは海水中のビブリオ属細菌が産生し、ヒトデや貝類を経てフグぐ等がこの毒をもつようになるといわれている。マルオカブトガニもこのような食物連鎖によって時に有毒になると考えられる。

インドネシア、マドゥーラ島のカブトガニ


 マドゥーラ島(インドネシア第二の都市スラバヤの近くにある大きな島)で漁民から見せられたカブトガニ(1992年7月)。警戒して老人がマドゥーラ刀をチラつかせた(?)のには驚いた。日本の研究者達とわかるとやっと警戒を解いてくれた。

その後ジャカルタのレストランで飲んだソト・マドゥーラ(牛肉のスープ)はとてもうまかったが、この島が発祥でジャワ島東部でよく飲まれているスープであるという。

網にかかったカブトガニ
漁師はカブトガニに網を破られるのを嫌う(1994年8月、インドネシア、ジャワ島西部マウク海岸にて)。

中国、タイ、インドネシアなどではカブトガニを食料にすることがある。インドネシアでは卵は妊婦の貴重な栄養源と聞いた。

著者はインドネシア大学の研究室で卵入りのナシゴレンを食した経験があるが、おいしかったという記憶はない。

インドネシアの海洋研究所や岡山県笠岡市立カブトガニ博物館でのカブトガニ養殖
ジャカルタから少し離れたところにある海洋研究所ではボゴール大学水産学部のEidman教授が大学院生とカブトガニの養殖を試みていた(1994年)。その後インドネシアを襲った未曾有の経済危機によってこの研究も途絶えたと聞いている(写真左)。

1992年に笠岡市立カブトガニ博物館を訪問したところ、当時学芸員だった惣路紀通氏が種間のハイブリッド作成の研究をされていた(写真右)。

カブトガニからの採血に挑戦する(インドネシアにて)
カブトガニの心臓は甲羅の背中の部分にあり、このように折り曲げて心臓に針を尖刺する。血液は血色素としてヘモシアンが銅を含むため空気に触れると酸化して青色に変化する。

なお、カブトガニの循環系は解放系であり、毛細血管がなく動脈は組織で解放され、血液は組織にしみわたり再び静脈に集められる。血液は哺乳類の血液とリンパ液の二つの役割をもち血リンパと呼ばれる。

採血する器具にエンドトキシンの汚染があってはいけない(エンドトキシンの除去法の項参照)。

採血量を制限するとカブトガニは死ぬことはないので再び海に放流される。


リムルステストの開発;医学への応用

カブトガニの血液がエンドトキシンによって凝固する現象を応用したリムルステストは医学研究に大いに貢献している(リムルステストの項へ)

カブトガニ血球抽出液はエンドトキシンによって凝固する
カブトガニの血球抽出液にエンドトキシン溶液を加えて37℃で加温すると溶液が固まって、斜めにしても垂れなくなる。



◆カブトガニの生きる術:巧まざる感染防御能

数億年もの間種を保存しているからにはその感染防御能には精緻なものがあると想像される。

アメーボサイトの顆粒にはこのホームページの主題であるエンドトキシンと反応する凝固系(C因子系)やグルカンと反応する系(G因子系)があるが、これら の微生物の感染に対する対抗手段となっていると考えられる。そのほか、レクチン、抗菌蛋白などが含まれる。

レクチンとしてのタキレクチンはアメーボサイトや血漿に含まれ細菌の表面の糖鎖を認識し凝集させる。
抗菌蛋白としてはタキプレシンなどが見つかっている。

上述したようにグラム陰性菌がアメーボサイトに接触すると爆発現象によってアメーボサイト内の凝固系やレクチンや抗菌蛋白が放出され感染症の拡大を防止すると考えられる。


なお、アメーボサイトの表面にはリムルスゲル化反応において最初にエンドトキシンと反応するC因子が存在し、グラム陰性菌外膜のエンドトキシン(LPS)を認識する役割を担っているという。


◆愛されるカブトガニ

日本の北九州地域などでは「うんきう(うんきゅう)」、大分県では「はちがめ」と呼ばれて親しまれてきた。いつも雌雄つがいになっていることから中国やインドネシア、日本では「夫婦仲の良い動物」とされてきた。

カブトガニをモチーフにしたアイテムは多い。

カブトガニをモチーフにしたアイテム
カブトガニをモチーフにした土産物は多い。切手にもなっている(写真)。

この写真の木彫りは著者がプロの作家に依頼して作ってもらった(非売品)。

下の小さな金属製のものはネクタイピンで米国ウッズホールのもので友人の研究者からもらったもの。

土谷正和博士によるカブトガニの創作折り紙


土谷正和博士(米国チャールス・リバー)から頂いたものです。博士の創案で、工程数約50の力作です。


カブトガニ リンク

海洋生物学研究所 米国マサチューセッツ州ウッズホールに ある米国最古の海洋生物学の研究所、Frederick Bangはこの研究所でカブトガニの血液凝固反応がエンドキシンによって起こることを発見した。 このサイト内にその詳細な記述がある。なお、緑色蛍光タンパク質(GFP) の発見と開発でノーベル化学賞を受賞した下村 脩博士もこの研究所に2001年まで在籍した。
岡山県笠岡市カブトガニ博物館 カブトガニのすべてがここに
静岡大学伊藤富夫研究室 カブトガニの話・・・世界のカブトガニ
西条市のカブトガニ 西条市のサイト、カブトガニの生物学、方言等に詳しい
もぐらんぴあまちなか水族館 震災で生き残ったカブトガニが見れる






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