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新エンドトキシンの話
New Story of Endotoxin


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エンドトキシンの除去法




エンドトキシンはこのサイトでも述べているように非常に多彩な生物活性を示すので、細胞を扱う実験では、培養・実験環境のエンドトキシン量を極力少なくする必要がある。エンドトキシンは培養器具や細胞培養液、動物血清、添加試薬中によく検出されることがある。自分の実験系にどのくらいエンドトキシンが混在 しているか、一度はエンドトキシン量をモニターし、汚染を最小限にするよう努力すべきである。

医薬品の製造工程や最終標品のエンドトキシン量も規制されている。また、再生医療推進法が昨年交付され、生体外で培養された細胞を生体に移植する場合に当然エンドトキシン量が規制されよう。

再生医療とエンドトキシン試験


-目 次-
◆エンドトキシン量の少ない細胞培養液の調整法
1.組織培養に用いる水について
2.細胞培養液用水の調整法

3.エンドトキシン量の少ない試薬類の調整法
4.物理的な方法による水のエンドトキシン除去法
5.ガラス器具のエンドトキシン除去法
6.プラスチック器具のエンドトキシン除去法
7.容器のエンドトキシン汚染を調べる方法

◆細胞培養系に及ぼすエンドトキシンの影響 
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具体例:結核診断法クオンティフェロンTB-ゴールド(QFT-G)採血管におけるエンドトキシン汚染

◆溶液中エンドトキシンの除去法


◆エンドトキシン量の少ない細胞培養液の調整法

1. 組織培養に用いる水について


細胞培養液の調整に用いる水は、エンドトキシン量を極力抑えるべきである。
化学・生物学実験に用いる水は以下に述べるよう方法が単独あるいはそれらを組み合わせて用いて作られる。

①蒸留法;精製水製造の一工程に用いる。かって組織培養には2回(再)蒸留水が用いられた。

②イオン交換樹脂;化学実験などに用いる水の製造に用いる。溶存イオンを除去できる。陽イオン陰イオン交換樹脂の混床と別床がある。精製水製造の一工程に用いる。

③逆浸透(Reverse osmosis;RO);ろ過法の一種であり、イオンや塩類など水以外の不純物は透過しない性質を持つ逆浸透膜を用いる。孔の大き さは概ね2 nm以下で、限外ろ過膜の孔よりも小さい。精製水製造の前処理に用いる。エンドトキシンは理論的にはこの膜を通過しないが実際は完全には除けない。

④活性炭;有機物除去;精製水製造の一工程に用いる。

⑤限外ろ過(Ultrafiltlation;UF):大きさが概ねエンドトキシン粒子の大きさに相当する2から200 nmのウルトラフィルターを用いた加圧ろ過法、エンドトキシンの除去率は低い。

⑥精密ろ過膜;孔の大きさがおおよそ0.2から0.5μmの膜(ミクロフィルター)を用いた濾過法で、微生物の除去などに用いる。精製水製造の最終工程に用いる。エンドトキシンは除けない。

⑦UVランプ;核酸の分解、殺菌に用いる。

上記の②以下の複数の方法を組み合わせた製造装置で作られた精製水を超純水という(ミリポア社のミリQ、Thermo Fisher Scientific社のNANOpure水、ザル トリウス社のアリウムシステムなど)。純水の理論的な比抵抗値は18.24MΩ(メグオーム)・cm、導電率では0.05482μS・cmであるが、それ に近い15MΩ・cm以上(導電率0.067μS・cm以下)の水を一般的に超純水という。エンドトキシンは電気抵抗には反映せず、比抵抗値とは無関係である。超純水製造装置が新しければ、エンドトキシン値は十分低いが、機器回路のグラム陰性菌の汚染で次第に高値を示すようになる。


2. 細胞培養液用水の調整法

まず、用いる超純水のエンドトキシン量が細胞培養に問題のない量であること。その基準はないが、リムルステストで測定して1 pg/ml以下に抑えたい。なぜなら、健常者の血漿中濃度は1 pg/ml以上を超えることがないから(我々の成績)。健常者末梢血(全血)にエンドトキシン(E.coli O111:B4由来LPS)を加えて一夜培養した場合、10 pg/mlでも炎症性サイトカインが有意に産生されることがある
下記◆細胞培養系に及ぼすエンドトキシンの影響を参照)

もし、水のエンドトキシン量が多い場合は、121℃、15分のオートクレーブをおこなうと数pg/mlまで低下する。時間を延長するとエンドトキシン量もさらに減少する。しかし元のエンドトキシン量が多いと オートクレーブしても失括できないことがある。オートクレーブ可能な粉末培地は便利であるが、エンドトキシンの少ない水で溶解してからオートク レーブすべきである。なお、水のオートクレーブは、250℃、2時間乾熱滅菌したガラス容器に入れて、乾熱滅菌あるいはオートクレーブしたしたスクリュー栓を用いて密栓しておこな う。

一法として、市販の注射用蒸留水を用いるのもよい。大塚製薬製の注射用蒸留水は安心して使用できる。エンドトキシンは0.05 pg/ml以下(比濁法の検出限界以下)である。エンドトキシンは発熱素(pyrogen)の代表的なものであるから、注射用蒸留水がエンドトキシ ンフリーなのは頷けよう。

ちなみに市販の“精製水”にはエンドトキシンが驚くほど検出されることを経験している。


3. エンドトキシン量の少ない試薬類の調整法

アルミ箔に包んで乾熱滅菌かオートクレーブしたスパーテルを用い、ガンマ線滅菌したプラスチック容器等に秤量した試薬をエンドトキシンを含まないことを確認した水を用いて溶解する。ステアリリングバーを入れる場合は。あらかじめアルミ箔に包んでオートクレーブしておく。オートクレーブできる試薬の場合は オートクレーブ後、リムルステストでエンドトキシン量を確認する。

厄介なのがオートクレーブできない試薬中のエンドトキシンの除去で、現在数社から 販売されているエンドトキシン除去剤(次項参照)を使用するとある程度除去出来る場合がある。


4. 物理的な方法による水のエンドトキシン除去法

細渕、棚元らは、エンドトキシンをγ線で不活化できるかをリムルス試験によって調べた。その結果、水溶液中のエンドトキシンはγ線によって不活化され、そ の不活化効果はエンドトキシンの濃度に影響されず、D値(エンドトキシン量を1/10にする線量)は9.1~10.8 kGyの範囲であった。また、薬剤共存下におけるエンドトキシンのγ線による不活化は、次亜塩素酸ナトリウムの場合に効率よく起こることがわかった。

しかし、過酸化水素、エタノール、塩化ナ トリウム、強酸性電解水の共存下の場合は、γ線によるエンドトキシンの不活化は抑えられる傾向があるという(東京都立産業技術研究所研究報告第1号, 1998)。


5. ガラス器具のエンドトキシン除去法

ガラス器具は、250℃で2時間乾熱で加熱するとエンドトキシンは完全に失われる。細渕和成、棚元憲一はエンドトキシン溶液をバイアル瓶にいれて凍結乾燥 し、乾熱、γ線,電子線,酸化エチレンガス,高圧蒸気,過酸化水素ガスプラズマ,過酸化水素/過酢酸ガスプラズマなどで処理し、失活の程度を調べた(東京 都立産業技術研究所研究報告第2号,126-9,1999)。エンドトキシンの溶出(剥離)にはガラス製ビーズを加えて攪拌する方法を用いた。

その結果、γ線,電子線,酸化エチレンガス,高圧蒸気,過酸化水素ガスプラズマ,過酸化水素/過酢酸ガスプラズマなどでの処理よって7~9割近く不活化される が,残りの活性部分は過剰な条件で滅菌処理しても不活化することができなかった。しかし、直熱式マッフル炉を用いて,温度250℃の乾熱処理を行ったとこ ろ、数十分で不活化可能であった。


6.プラスチック器具のエンドトキシン除去法

現在細胞培養にはポリスチレンやポリプロピレンなどのプラスチック樹脂製品が非常に良く用いられている。これら器具に対して、かってはガス滅菌することが 多かったが、現在は殆どがγ線照射を行っている。ガス滅菌は当然のこと、γ線照射でもエンドトキシンが不活化されるかは疑問である(水中では上述のように 不活化されやすいが)。成形する時に使用するプラスチック原料から清浄な環境で扱うことが必要のようだ。

リムルステストの実験に用いるエンドトキシンフ リーチップ(和光純薬工業や生化学工業で販売)は十分に吟味した原材料と製造過程で作られているという。土谷正和によると、プラスチック製品に必要なのことは「エンドトキシン(LAL活性化 物質)の汚染がないこと」 、「エンドトキシンや試料を吸着しないこと」、「エンドトキシンの活性に影響を与えないこと」のほか「リムルス試薬の活性化に影響を与える物質が溶出しな いこと」である。


7. 容器のエンドトキシン汚染を調べる方法

日本薬局方では、容器のエンドトキシン汚染量を調べるには水を加えて1時間ボルテックスミキサーで振とうさせて、その水のエンドトキシンを測定する。ガラ ス容器の場合はそれでも溶出されないことがあるので、水にガラス製ビーズ(5φ)を加えて試験管用ミキサーで1分間以上強く撹拌する方法がある。0.2% ヒト血清アルブミン水溶液(和光純薬)を容器に加えて振とうするとエンドトキシンが溶出されることもがある。この方法はガラスよりもプラスチックの場合に有効という。



◆細胞培養系に及ぼすエンドトキシンの影響
白血球系初代あるいは継代細胞の培養系におけるエンドトキシンの汚染はおそらくその研究結果に何らかの影響を与えると考えられる。単離されたサイトカイン等の生理活性物質や菌体由来物質のの活性をみる場合にその標品のエンドトキシン汚染には十分留意すべきである。それ以外の細胞に対してもエンドトキシンは何らかの影響を与える可能性を排除できない。

エンドトキシンの受容体が明確になったが、エンドトキシンは
TLR4 以外の機序でも細胞に結合出来ることを想定しておくべきである。エンドトキシンの活性であることを否定する常套手段としてポリミキシンB をエンドトキシン汚染の想定量の100倍以上加えてみる。ただしポリミキシンBの毒性にも留意し多くとも10μg/mlまでとする。但しポリミキシンBに耐性のエンドトキシンがあるので留意する。

具体例:結核診断法クオンティフェロンTB-ゴールド(QFT-G)におけるエンドトキシン汚染:QFT-Gはインターフェロンγ(IFN-γ)の遊離試験(IGRA)のひとつであり、ツベルクリン反応に代わる結核感染特異的な(BCG で陽性にならない)の診断法として保健適用されている。このキットは陰性、結核抗原、陽性の3採血管で構成されており、それぞれに血液を加えて一夜培養しIFN-γを定量する。2010年この検査が使用開始されたころ一度採血管のエンドトキシン汚染を関谷らによって指摘されリコールされた経緯がある。

これに関してAkitomiらの研究がある。その後販売されたキットの採血管のエンドトキシン量を比濁時間分析法を用いて測定したところそれぞれ採血管当たり0.1~4 pgであった。最近リコールされたロットで結核抗原採血管に約40 pgのエンドトキシンが検出され、回収後の新ロットでは4.5 pgに減少した。陽性採血管にはT細胞マイトジェンが含まれるが、5ロットともにエンドトキシン量は多く、購入順に12 ngまで増加した。採血管に予めポリミキシンBを加えてから被検血液を培養したが、16人中3人で陽性から陰性、陽性から判定保留、判定保留から陰性になった。

健常被験者7人の血液に0.1から10 ng/mlのLPSを加えて一夜培養したところ、3名で微量なLPS(0.1pg/ml)でもIFN-γが有意に産生され、ポリミキシンBはそれを阻害した。このように採血管のエンドトキシン汚染は抗原やマイトジェン由来と思われ、QFT の結果判定に影響する場合があることを示しており、採血管のエンドトキシン汚染量は1 pg(0.007EU/ml)以下とすべきと提案ししている(Akitomi S. Shibata S, Inada K et al, Influence of endotoxin in blood collection tubes on the results of the tuberculosis diagnosis test QuantiFERON-TB Gold. J Iwate Med Assoc 4,2014, in press)。

この研究で、非常に微量のエンドトキシンに反応してIFN-γを産生するヒトがいることがわかった。おそらくエンドトキシンは単球に作用してIFN-γを産生させているだろうが、T 細胞に直接作用している可能性もある。

このキットではこのような微量のエンドトキシンを考慮した汚染対策が求められる。


◆溶液中エンドトキシンの除去法

(この項未完)
溶液中のエンドトキシンを除去するには、上記の物理的な方法の他に、エンドトキシン吸着剤で降着除去することが出来る場合がある。市販のものが多くあるが、目的物質をも吸着してしまうことがあるので注意を要する。溶液中のエンドトキシン量が多いと一度で吸着除去出来るないことがあるので繰り返し行うこともある。すなわちその除去性能については除去率で記載されているが、例えば除去率99%とは100 ng/mlの汚染が1 ngに低下した場合であり実際にはそれをさらに3回繰り返えさないと例えば目的の1 pgまで減少しない。その場合、目的物質の活性低下には十分注意する。

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