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2017.12.20mf
退職勧奨
相談:退職を求められている
私は、27 歳、大手の商社の大阪支社に勤務して 5 年になります。私は東京生まれのためか、当地の生活になじめず、帰宅時間が午後 11 時過ぎで勤務がきつく、過労から不眠、胃潰瘍になり、 3 週間ほど会社を休み静養しました。その後、ここ 6 か月ほどは調子はよいです。
私は、当初は、営業の仕事をしていましたが、上司とうまく行かず、病気をした後は配属が変わり、書類の整理の仕事をするようになりました。
現在、私のやっている仕事は高卒の女性でもできるもので、大卒の社員がする仕事ではありません。
現在の上司は私に対して、執拗に会社を辞めるように勧めるのです。どうしたら、よいでしょうか。
回答:退職を認めてはいけない
本人と会い、詳しく事情を聴きますと、丁度バブルの人手不足の時代に採用され、大会社に入社できて喜んだのですが、勤務が厳しく、ついていけなかったようです。勤務を放棄したこともありました。会社も本人の健康を考慮し、楽な仕事にまわしたようです。
弁護士は次のようにアドバイスしました:
執拗に退職勧奨をうけた場合は、内容、頻度、時間の長さによっては、退職強要(不法行為)となります。対抗措置としては次のように、対処します。- 絶対に退職の意思表示をしない。退職願は書かない
- 内容証明郵便にて退職の意思がないことを通知する
- 地位保全の仮処分の申立をする
- 労働組合に相談し交渉してもらう
- 万一会社から 解雇 の通知があった場合は、裁判で争う。解雇無効を主張する裁判では、相談者が勝つ蓋然性が高いです
いずれの場合でも、相談者は、会社内で厳しい状況に耐える必要がありますので、相談者にとって、このような法的対抗措置は不適当でした。
相談者が現在の会社にとどまる場合は、環境を改善し、病気を治さなければなりません。会社の中で厳しい競争に堪えなければなりません。しかし、厳しい環境では相談者が再び病気になる可能性は十分あります。
転職
人生は長いです。相談者は、楽な仕事に変わることが良いと感じられました。民間会社の場合、厳しい勤務状況はどこも同じです。
そこで、弁護士は、相談者に対して、公務員試験を受けるように勧めました。それも、競争が激しい東京を避け、地方都市の県庁、市役所勤務です。
相談者は、これを受入れ、その後、会社を退職し、県庁の試験を受け、地方公務員になりました。現在は元気に仕事をしています。
その他、楽な仕事としては、公益法人(社団法人、財団法人)に就職する道があります。
民間会社勤務に耐えられない場合は、公務員、特に地方公務員勤務を狙うとよいでしょう。
*解雇
会社が退職勧奨をするのは解雇が難しいと考えているからです。会社が解雇の意思表示をした場合は、労働者にとって絶好のチャンスです。解雇は無効ですから、労働者は、(会社は労働者の労務の提供の受領を拒否していますから)働かなくとも給料をもらえるからです。裁判が長引けば、労働者はその期間の合計賃金を手に入れることができます。通常、これは莫大な金額になります。
このような場合、会社は解雇の意思表示をすぐ撤回した方が得策です。
判決
- 神戸地方裁判所平成28年5月26日判決
(1) 業務命令について
上記2において検討したとおり,平成23年3月24日付けの教材研究命令も,平成24年12月17日付けの自宅待機命令も,業務上の必要性を欠くうえ,原告を
自主退職に追い込むという不当な動機・目的の下に行われたものであり,いずれも違法である。そしてこれらの業務命令は,被告Y1らの原告に対する退職勧奨の一環
として位置付けることができる。
使用者は労働者との労働契約を合意解約することができるから,労働者に対して退職を促すことは,合意解約の申入れ,その誘因,あるいは退職意思の形成に向けた
準備行為であり,一方,労働者には退職に応じない自由がある。したがって退職勧奨をすることは一般には違法とならないが,合意解約は双方の自由な意思により行わ
れなければならないから,退職勧奨をするにあたっての説得の手段や方法が社会通念上相当と認められる範囲を超え,労働者の自由な意思形成を不当に妨げるような態
様でされた場合には,その人格権を侵害するものとして不法行為になりうるというべきである。
すでに述べたとおり,被告Y1らは原告に対したびたび退職を求める発言をし,条件付きで退職を約束させるかのような文書を提出させ,平成23年4月以降は授業
の担当からはずして図書室で教材研究をさせ,同年7月には今退職しなければ退職金額を減らす,給与を半額にすると告げ,平成24年12月には合理的な理由のない
自宅待機を命じ,平成25年7月に自宅待機命令を取り消した後も特段の業務を与えなかった。このような一連の経緯からみれば,教材研究命令,自宅待機命令を含め
たこの間の被告Y1らの言動は,退職勧奨の手段として社会通念上相当と認められる範囲を超えるものであり,労働者である原告の自由な意思形成を不当に妨げるよう
な態様で行われたものといえるから,不法行為を構成する。
- 大阪地方裁判所平成18年7月27日判決
前記1(6)のとおり,被告は,平成16年5月24日,原告らに対し,デザイン室を閉鎖するとともに,同年6月25日付をもって退職するよう強く求めたことが
認められる(第2次退職勧奨)。
第2次退職勧奨は,上記のとおりのとおり(ママ),デザイン室の閉鎖を宣言し,しかも,その後,営業からデザイン室への発注を停止するというものであり,単に,
退職を勧奨を(ママ)したというものではなく,原告らの仕事を取り上げてしまうものである。解雇するというのであればともかく,勧奨といいながら,デザイン室を
閉鎖し,しかも,他への配転を検討することもなく,退職を勧奨することは,退職の強要ともいうべき行為であり,その手段自体が著しく不相当というべきである。
また,前記1(5),(6)の経緯,証拠(〈証拠略〉)によると,乙山次郎において,このような強硬な退職勧奨を行わせたのは,原告花子が,乙山次郎に対し,
治療費と謝罪を要求する内容の通知書(〈証拠略〉)を送付したことに,激高したことが理由であると推認される。
上記事情に加え,後記(3)のとおり,デザイン室の閉鎖の必要があったとまでは言えなかったことを総合すると,第2次退職勧奨の違法性は明らかである。第2次
退職勧奨により,原告らが精神的な苦痛を受けたことは容易に推認することができ,また,その程度は軽いものであったとはいえず,不法行為を構成するというべきで
ある。
- 大阪地方裁判所平成11年10月18日判決
(五) 以上の認定によれば、被告会社の金子、松田、小寺、村上、加治屋といった原告の上司にあたる者たちが、平成七年五月二二日以降、九月ころまで、約四か月
間にわたり、原告とその復職について、三十数回もの「面談」「話し合い」を行い、その中には約八時間もの長時間にわたるものもあったこと、右「面談」において、
金子らは、原告に対し、CAとしての能力がない、別の道があるだろうとか、寄生虫、他のCAの迷惑、とか述べ、原告がほとんど応答しなかったことから、大声を出
したり、机をたたいたりした。またこの一連の面談のなかには、原告が断っているにもかかわらず、原告の居住する寮にまで赴き行ったものが何回かあった。また原告
の兄や島根県に居住する原告の家族にも直接会つて、原告が退職するように説得をしてくれとも述べていた。
かかる原告に対する、被告会社の対応をみるに、その頻度、各面談の時間の長さ、原告に対する言動は、社会通念上許容しうる範囲をこえており、単なる退職勧奨と
はいえず、違法な退職強要として不法行為となると言わざるを得ない。
他方、解雇自体については、その効力の有無のほかに特にこれが不法行為として違法となるとまで認めるに足りる証拠はない。
3 争点2(三)について
本件において結局原告は退職をしていないこと、原告は都合の悪いことは沈黙し、煮え切らない態度をとったことが被告会社の担当者の言動を誘発したこと、退職強
要を受けていた間弁護士がついていたことなどを考慮すれば、被告会社の退職強要により原告が受けた精神的損害に対する慰謝料としては、五〇万円が相当である。ま
たその弁護士費用としては五万円が相当である。
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