和田 竜
(りょう)作品のページ


1969年大阪府生、早稲田大学政治経済学部卒。2003年映画脚本「忍ぶの城」にて第29回城戸賞を受賞。07年同作を小説化した「のぼうの城」にて作家デビュー。14年「村上海賊の娘」にて第35回吉川英治文学新人賞および2014年本屋大賞を受賞


1.
のぼうの城

2.忍びの国

3.村上海賊の娘

  


   

1.

●「のぼうの城」● ★★


のぼうの城画像

2007年12月
小学館刊
(1500円+税)

2010年10月
小学館文庫化
(上下)

   

2008/06/26

 

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北条攻めのため秀吉が発した大軍。
その中で武州・忍城攻めを命じられたのが、石田三成
しかし、結果的にその忍城が唯一北条側で落ちなかった支城として名を残し、それと同時に三成の軍才の欠如を裏付ける恰好例となった。
私自身今は埼玉県人ですけれど、知らなかったですねぇ。
武州・忍城というのは、現在の埼玉県行田市辺り。当時は城の周囲を湖で囲まれ「浮城」と呼ばれていたそうですが、とっくに埋め立てられ、そんな面影はまるでありません。

本書の面白さは、いわゆる既成の名将像とは全くの対極にある武将像が登場するところにあります。
身体は大きく醜男。武士のくせに百姓仕事が大好きだが不器用故に百姓からは手伝いを嫌がられる。その一方、城代の嫡男だというのに刀、槍等々あらゆる武将に必要な技量がおよそ苦手という困った人物。
それ故に「でくのぼう」を略して“のぼう様”と遠慮無しに面と向かって呼ばれるのですが、それと同時に領民から愛されることもこの上なし、という変わり者。
そんな成田長親が忍城の総大将となって三成軍と戦うという訳なのですが、総大将のそんな人物ぶりを反映し、さらに三成のヘンな凝り性もあって、常識を覆すような攻防戦が繰り広げられるという次第。

少数の篭城側と、大軍の攻撃側。凄惨な攻防ストーリィが繰り広げられて当然なのに、篭城側は何故か明るく楽しげ。
こんな総大将見たことない!、本書の面白さはそのひと言に尽きます。
でもこれ、本当かぁ・・・。
どこまで史実どおりかどうかは別として、皆が和気藹々としている、すこぶる面白い物語に間違いありません。
まずは読んでみよう、楽しもう、というべき一冊。戦国歴史小説好きな方には、是非お薦め!

※映画化 →「のぼうの城

     

2.

●「忍びの国」● ★★


忍びの国画像

2008年05月
新潮社刊
(1500円+税)

2011年03月
新潮文庫化

   

2008/06/18

 

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織田信長の次男である北畠信雄率いる伊勢衆と、伊賀忍び衆との激闘を題材にした戦国時代小説。

織田軍との戦いとなれば、一族の生死および領国の存亡をかけた決死の戦い、激戦というべき合戦譚となってよい筈なのですが、どこか滑稽味のあるところが、和田作品の個性と言うべきところか。
信雄配下の武将の間には不協和音が目立ち、伊賀側では、百地三太夫ら十二家評定衆は自分たちの策略に酔い痴れて喜んでいるばかり。その一方、下人の忍びたちは銭稼ぎできるか否かが最大の関心事。城作りが自分たちの首を絞めることになるのかどうか、伊賀の国がどうなるかなどは一顧だにせず、銭稼ぎができるかどうかで、どう行動するかを決めてしまうのですから、いやはや滑稽と言わずしてどう言ったらいいのか。
信雄軍対伊賀忍び軍、伊賀評定衆の食わせ者ぶりが発揮されたかと思えば、信雄軍武将の豪気ぶり、さらに下人の銭稼ぎ観念から激戦の優劣は手のひらを返すようにころころ変わっていくのですから。

ファザコンをさらけ出す信雄、思わぬ間抜けぶりを発揮する百地三太夫、土遁の術の披露だけに固執する老忍らの人物造形がすこぶる愉快なのですが、その中でも群を抜くのが、「その腕絶人の域」と評される三太夫秘蔵の忍び“無門”。
信じ難い体術を披露する一方で、西国から浚ってきた武将の娘・お国にすっかり頭を抑えられ、自分の家にも入れてもらえぬという意気地なさを発揮しているのですから、呆れ返る程可笑しい。

戦国時代小説には稀な、凄絶であると同時に滑稽味ある、エンターテイメント。
それでいて最後には、飄々としつつ剽げた顔も見せる無門の素顔にほろっとさせるところが憎い。
この無門を好きになれればこそ、本作品はさらに面白い。

※(補足)伊賀には戦国大名が不在で、66人の地侍たちの間で同盟が結ばれていた。その66人から選出されたのが「十二家評定衆」とのこと。

          

3.

「村上海賊の娘」 ★★☆        吉川英治文学新人賞・本屋大賞


村上海賊の娘画像

2013年10月
新潮社刊
上下
(各1600円+税)

新潮文庫化
2016年07月
(第1・2巻)
2016年08月
(第3・4巻)

 

2013/11/23

 

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石山本願寺織田信長の長年に亘る戦い、その中で双方の水軍同士が激突したことで有名な第一次木津川合戦(1578年)を描いた時代歴史もの大長編。著者の和田竜さんは本書を4年がかりで執筆したそうです。

織田信長はついに石山本願寺を干し上がらようと徹底した封鎖作戦に出ます。兵糧輸送の可能性が唯一残されたのは海側。そこで石山本願寺は毛利に救援を求めますが、信長と石山本願寺、どちらの側を選択するかは毛利にとっても重大事。
上巻は本物語における前哨戦、石山本願寺側についた
鈴木孫市率いる雑賀党泉州侍を主体とした織田方の地上戦での激闘が描かれます。
下巻はいよいよ瀬戸内の
村上海賊を主体とした毛利方と、泉州の眞鍋海賊を主体とした織田方という、海賊同士の海上における激戦が描かれます。とくに「第5章」 250頁余りを費やして村上海賊と眞鍋海賊の一転二転して勝敗の行方定かならぬ激戦を、延々と詳細かつリアルに描き出して圧巻。まさに映画のアクションシーンに引けを取らない興奮で、頁を繰る手が止まりません。

和田さんが創り出した本物語のヒロインが、能島村上家当主である
村上武吉の娘=景(きょう)。単に物語の主人公に留まらず、本物語を引き回す圧倒的な存在として大車輪の活躍です。
若い娘のくせに腕が立って海賊働きが大好き。しかし、本願寺へ向かう一向宗門徒を送り届けた折に戦いの現場を自分の目で見、戦さという現実の過酷さに自分の甘さを気づかされ挫折。しかし下巻に入ってその景が息を吹き返します。そこからが本物語の読み処。
眼前のストーリィだけを追えばそういう粗筋ですが、本物語において大勢を動かすのは次の選択。群雄割拠の時代から大勢力に帰属せざるを得ない時代の中にあって、“家”を守るためにチマチマ生きるか、自分らしさを貫き猛々しく生きるか。
そうした選択は現代社会の仕事にも通じることでしょう。
またそれは、戦さ人だけでなく石山本願寺側にも言えることだと思います。即ち信仰を守るのか、寺という場所を守るのか。

歴史事実より、合戦を主体にその興奮、凄絶、非情を克明に描いた大長編。アクション好きの方は見逃せない作品です。お薦め。

※海賊、水軍に興味が湧いたら次の作品もお薦め。海軍もの:
白石一郎「海狼伝、水軍もの:隆慶一郎「見知らぬ海へ

    


  

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